聖王女の妹は信仰者【本編完結】   作:お稲荷猫

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最後の聖戦②

 アインズはアウラやマーレを連れて打ち合わせの通りに北門へと到着した。話に聞いていた通り、他の門に比べて大きく、修繕が間に合っていない箇所も多いことから大勢の亜人が防衛のために塔や城壁へと押し寄せている。

 

 

「アインズ様。私が先に片付けてきましょうか?アインズ様が手をかけるほどのことでもありませんし」

 

 

「いや、私の魔法を合図に聖王国の軍も攻める事になっている。魔法ではない手段で倒してはいらぬ誤解や不都合が生じるかもしれない。アウラの気持ちだけは受け取っておこう」

 

 

「アインズ様がそうおっしゃるのであれば、分かりました!」

 

 

 アウラは若干嬉しそうな表情を浮かべると、マーレと共にアインズの後ろへと下がる。

 アウラに後ろへ下がった方が良いと言われたネイアも二人に続くように後ろへと下がった。城門まではそれなりに距離があるというのに気を付けるよう言われたため、どれほど強力な魔法を使うつもりなのだろうと興味が湧く。

 

 

「さて、始めるとしよう。魔法三重最大化(トリプレイトマキシマイズマジック)獄炎(ヘルフレイム)!」

 

 

 アインズの魔法陣から放たれた三つの小さな黒炎は城門まで飛んでいき、その場にいた亜人が触れると巨大な黒炎となって周囲にいた亜人をも巻き込んだ。亜人達は苦しむ間もなく瞬時に灰となり、城門で蠢いていた亜人達の姿は一つもない。

 

 

「よし、それでは我々も中へ行くとしよう。……ん?ネイア殿、大丈夫か?」

 

 

「は、はい!大丈夫です陛下!陛下の魔法の威力に驚いてしまい……」

 

 

「そうか。だが、私の魔法はこの程度ではないぞ。あの亜人達を倒しつつ目立つような魔法を放つにはこれがちょうどよいと思っただけだ」

 

 

 先ほどの魔法がどのような効果やどの程度の位階に該当する魔法かは分からないが、その威力を目にしたネイアは瞬時に魔導王の底なしの力を理解した。死の支配者を自負しているが、その名声はもはや支配者に留まる存在ではないことも。

 

 

 

 北門から大きな黒い炎が燃え上がった様子はリリア達の目でも確認することができた。それと同時に、西門を守るために動いていた亜人達も慌てて北門の方へ移動を始めているのが見える。

 

 

「敵が動き始めました!早速攻めましょう!」

 

 

「まだ落ち着け。移動を始めたばかりだというのに今攻めては戻ってきてしまう。こちらが動かないのを見れば、更に移動するかもしれない」

 

 

 レメディオスは剣を抜いてすぐにでも今にも突撃しそうな勢いだが、リリアは落ち着いて戦局を見据えていた。無謀な攻撃は大勢の被害を出すだけだとこれまでの戦いの経験から分かっている。さらに、今回はカルカも前線へと赴いているため、決して無茶な作戦を行う訳にはいかないからだ。

 最後の亜人達が移動を始めたのを見ると、リリアはカルカの下へ馬を走らせる。

 

 

「姉上、敵の部隊の移動が完了しました。予定通り攻撃を始めましょう」

 

 

 カルカはケラルトから拡声の魔法が込められた水晶を受け取る。

 

 

「皆の者。今回の作戦は私達の反撃の第一歩となります。このプラートを奪還することは、今絶望に打ちひしがれている大勢の者に希望をもたらすでしょう。決して負けるわけにはいきません!聖王国の未来のためにも!神の御旗の下に加護があらんことを!」

 

 

 カルカの演説が終わると同時に、角笛が鳴り響き攻撃開始が宣言される。

 それと同時に、リリアも馬を走らせ部隊の先頭へと向かうと聖剣フラガラッハを抜き空に掲げた。

 

 

「聖王女様のご下命だ!亜人を打ち払い、プラートを!聖王国を我らの手に取り戻すのだ!攻撃開始!」

 

 

 盾や梯子、弓をもった兵士達が雄たけびを上げながら一斉に城門へと攻撃を始める。

 亜人達もすぐに応戦を始め、向かってくる兵士達に矢を射始めた。だが、それらの矢は兵士達に届くことなく、リリアが事前に展開していた防御魔法によって地面へと落ちていく。

 

 

「恐れるな!こちらの防御魔法が抜かれることは無い!逆に亜人達を射抜いてやれ!」

 

 

 弓兵を率いる部隊長の合図と共に弓兵が一斉に矢を放つと、城門に待機していた亜人達に次々と命中する。負けじと亜人達も身を乗り出して攻撃しようとすると、神官達が召喚した天使が襲い掛かり、梯子を上り始めた兵士を掩護し始めた。

 

 

「この調子なら城門は直ぐに開けられるだろう。レメディオス、聖騎士達に突撃の用意をさせろ。城門に入ったらすぐに広間にいる亜人を殲滅するんだ」

 

 

「心得ております!皆、強化魔法をかけ始めるのだ!」

 

 

 レメディオスの指示の下、聖騎士達は強化魔法をかけ始めると、各々の体が使用した魔法によって光を宿す。レメディオスも兜を被り、何時でも突撃できる準備を整えた。ほぼそれと同時に、侵入に成功した兵士が制圧に成功し、城門近くの塔で旗が振られ、城門が上がり始める。

 

 

「行くぞ!全員、私に続け!」

 

 

 レメディオスと共に聖騎士達が開かれた城門へと突撃を始める。亜人達も迎え撃とうと準備をするも、それらが整う前にレメディオスの一撃によって亜人達は真っ二つにされ、続いて馬で突撃してきた聖騎士達によって次々と討ち取られる。

 防衛に当たっている亜人はほとんどが混乱状態へと陥っているため、まともな団体行動ができておらず、更に数も少ないとなれば訓練を積んできた軍士や聖騎士にとって恐れる相手ではない。

 

 レメディオスが突撃してしばらくすると、塔の上で状況を知らせる者が内部を確保したことを知らせる旗を上げた。

 作戦を次の段階へ進める事を伝えるために、リリアはカルカの下へと戻る。

 

 

「姉上、城門及び城内の必要区域の確保が完了しました。プラートに入りましょう」

 

 

「分かったわ。ケラルト、皆にも移動を始めるように指示を」

 

 

「かしこまりました」

 

 

 カルカ達や後衛の兵士達と共に城門をくぐると、倒された亜人達の死体が道路沿いから片付けられ始めている姿が目に入った。少なくとも、周囲に一切の亜人の姿はなく、ほとんどが北門に集まっているのだろう。

 だが、それ以上に気になったのは、異様なほど蔦や植物によって通りの道路や建物が覆われていることだった。奥に見える領主館はそのような姿がなかったため、何かの策略であることは間違いない。

 

 

「団長、この植物は燃やした方がよいのではないでしょうか?火ならすぐに用意できますが」

 

 

「馬鹿者!建物に燃え移ったらどうする!捕虜がどこに捉われているかすら分からないんだぞ!」

 

 

 レメディオスが言うことにも一理ある。下手に火が燃え移っていけば都市全体が火の海に包まれ、プラートは戦いの跡まともに住めるようになるには時間がかかってしまう。しかし、この植物はどことなく不気味な気配を漂わせていることは間違いなかった。聖騎士の言うように燃やすことができるなら、燃やしてしまった方が良いに違いない。

 

 

「レメディオス、聖騎士と兵士の一部を使ってこの辺りの植物だけは全て処理させよう。私はその間に塔へ上って状況を確認する」

 

 

「承知しました。グスターボ、手が空いている聖騎士を何人か連れてこい!」

 

 

 レメディオスはグスターボに声をかけると、そのまま他の兵士達を集めるためにいったんその場を離れる。リリアはその間に城門近くの塔へと昇ると、街全体の状況を確かめようとする。北門のあたりからは依然として亜人達の喚き声が聞こえており、魔導王が戦闘を繰り広げていることが分かるが、それ以外の区域からは気配すら感じ取れない。

 

 リリアの指示を伝え終えたレメディオスも塔へと上がってくると、その直感からか街の異変へと気づき、顔をしかめる。

 

 

「レメディオス、分かるか?街が静かすぎる。プラートを守っている亜人はこれだけだったのか?」

 

 

「この程度の数なら守備隊でも守れたはずです。他の都市に移動したのでは?」

 

 

「それか北門にほとんどの戦力を張り付けていたかだな。しかし、都市を守らせるのに指揮官の姿すら見えないとは……」

 

 

「ずる賢い亜人共です。何かたくらんでいるかもしれません。ここはケラルトに意見を求めましょう」

 

 

 このまま二人で話していても良い案がすぐに出そうにもないと判断し塔を降りると、カルカの側で待機しているケラルトの下へ行く。そして、二人が感じたことや街の状況を細かく伝えた。

 

 

「この街の状況と言い、亜人達の数が少ないことと言い、何らかの策を練っているのは間違いありません。指揮官が不在というのも、不自然です。王都で倒した亜人の長の数は三体ですから、少なくともあと七体は生きているはずです」

 

 

「ではどうするんだ?正面から建物を一件ずつ制圧していくか?」

 

 

「それでは時間がかかってしまいますし、戦力を分散させてしまいます。奴らの狙いがそれだった場合、姉様やリリア様を孤立させて倒すことが目的かもしれません」

 

 

「それかここを狙ってくるかだな。簡単に城内へと招き入れたのはそういう意図があってかもしれない」

 

 

 敵がどこに潜んでいるのか、それとも本当に都市を放棄したのか分からない以上、現在の戦力では思うように動くことができない。魔導王は別に作戦を進めており、あの調子であれば領主館までは問題なくたどり着くだろう。

 

 

「こうなれば全員でまとまって動いていた方が安全だ。戦力を分散させずに領主館に至るまでの建物を制圧し、プラートを確保する。弓兵や城門を守る兵士を念のために残し、それ以外は移動しよう」

 

 

「……そうですね。リリア様の言う通り、固まっていた方が良いかもしれません。万が一の場合でも、こちらの戦力を十分に当てることができますから。カルカ様、よろしいでしょうか?」

 

 

「えぇ、構いません。私も元より戦うつもりでいるから」

 

 

 リリアはレメディオスに全体へ指示を流す様に伝えると、自分自身も外していた兜を改めて被り直し装備を整える。

 

 

「リリア様、いつものように強化魔法はかけないのですか?」

 

 

「ん、あぁ。そうだな、後でかけておく」

 

 

 気の入らない答えにケラルトは不自然さを感じ、その場から離れようとしたリリアの腕を掴む。頭で考えている事態になっていないだろうと信じながらも、その口から答えを聞かなければ安心できないからだ。

 

 

「リリア様。まさか、魔法が使えないわけではないですよね」

 

 

「ケラルト、それはどういうこと?」

 

 

「何を言う。先ほども兵士達に防御魔法をかけていただろう。使えないことは……」

 

 

「では、今ここで強化魔法を使用してください。できるんですよね」

 

 

 ケラルトの言葉に少しの間をおいて、リリアは答えを返さずに黙って手を振り払う。

 

 

「強化魔法をかけなくとも、私は亜人に後れは取らない。それは知っているだろう」

 

 

「リリア、貴方まさか……。ネイアにも黙って……」

 

 

「ネイアは知っていました。しかし、私が報告しないように命じたのです。でなければ、姉上は連れてこなかったでしょう?」

 

 

「当然です!」

 

 

「しかし勘違いしないでください、魔法が使えないという訳ではありません。回復まで少し時間がかかるだけです。先ほどの防御魔法でかなりの魔力を使いましたから」

 

 

「リリア様。それでもやはり危険です。私達と共に後ろへ下がっていた方がよい……、いや、すべきです」

 

 

 ケラルトの鬼気迫る表情に一度は狼狽えかけるも、黙って首を横に振る。

 

 

「私が後ろに下がっていては兵達も不安に思うだろう。指揮官でもあり、英雄としてこの戦いに参加している以上、後ろで待っているなど恥でしかない」

 

 

「恥など気にしている場合ではありません!命にかかわるかもしれないのです!」

 

 

「私自身はどう思われてもいい、だが私の恥は姉上の名声に傷をつける。それだけは御免だ。例え、姉上やケラルトに何を言われても私の意思は変わらない」

 

 

 リリアはそう言い放つと止めようとする二人を背にその場を後にした。これ以上話を続けていても何も良いことは無い。今は作戦の成功に全てを注ぐ時だと。

 

 

「リリア様。どうかなされましたか?ケラルトと言い争っていたようでしたが」

 

 

「何でもない。ケラルトは世話好きだなと改めて感じさせられたところだ」

 

 

「そうでしょうね。ああ見えて、意外と細かい所まで気にしているのです」

 

 

「そうだな……。話はこの辺にしよう。気を引き締め直しておけ」

 

 

 リリアは剣を抜くと、前進の合図をし、護衛の軍士や聖騎士と共に草が生い茂る通りへと足を踏み入れた。

 最初は建物の扉を壊し、一件一件中を確認していたが、どの家にも生活感はなく既に避難した後であるのが分かると、その後は簡単な確認のみで終えていく。

 所々で家の扉がこじ開けられており、残っていた人々も強制的に連れ出されたと見える。

 

 

「連れ出された人々はどこに連れていかれたのでしょう」

 

 

「占領されてから月日も経っている。外へ連れ出されていてもおかしくはないが……」

 

 

 その時、通りにある家から薪が燃えているような音に気付く。二人は顔を見合わせ、数人の護衛と共に近づいていくと一度嗅いだことのある異臭が鼻を衝いた。この臭いは以前、アベリオン丘陵で嗅いだことのある忘れられない臭いだ。覚悟を決めて、扉を開けると木の机の上に人であったと思われる物が解体され、調理場の鍋で何かが煮込まれているのが目に入った。

 その光景を始めて目にした兵士や聖騎士は思わずその場で胃の中の物を吐き出してしまう。

 

 

「亜人共め……!」

 

 

 レメディオスは怒りのあまり、握りしめた拳の爪が皮膚に食い込む。リリアは黙って近くにあった布をかぶせると静かに祈りを捧げた。

 蘇生することはできる。だが、この者はこの状況から蘇生させられたとしてもこの経験を忘れることはできない。であれば、このまま見送ってやるのが最善だと、そう思い込んだ。

 

 確認を終えて外へ出ると、通りの雰囲気が先程までとは違うのに一瞬で気が付いた。

 後に続いて外に出てきたレメディオスもリリアの異変に気付き、剣を握り直す。

 

 

「レメディオス。どうやら敵の罠のようだ。至る所から殺気を感じる」

 

 

「どうしますか。このような隠れるところのない場所では……」

 

 

「このままゆっくりと後退……は無理だろう。この場で戦うしかない」

 

 

 レメディオスは直ぐに通りで待機している聖騎士に目配せすると、それに気づいた聖騎士達も剣を構え始め、兵士達も促されるように戦闘の用意を始める。

 

 

 

「どうやら人間共が気づいたようじゃぞ。不可視化の魔法をかけているというのに」

 

 

「流石にこれだけの殺気を流せば気づかないほうがおかしいだろう。ナスレネ殿、それでは手筈通りに私が前を」

 

 

 屋根の上で二体の亜人が罠へと入り込んだ人間達を見下ろしていた。

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