聖王女の妹は信仰者【本編完結】   作:お稲荷猫

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救済①

 アインズは供のアウラやマーレ達と共に案内された領主館の一室で今後の打ち合わせを行った後、特にすることもなく、形ばかりの休養を取っていた。

 

 

「アインズ様、一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」

 

 

「あぁ、構わないぞ。言ってみるがいい」

 

 

「ありがとうございます。あの時、なんであの女を止めに入ったのですか?別にアインズ様が関わらなくてもよかったじゃないですか」

 

 

 あの時と言うのは、リリアが亜人を殺そうとした場面の事を指しているのだろう。確かに、アウラの言う通りあそこで関与する必要はなかった。寧ろ、本来の目的を考慮すれば、あのまま亜人を殺させることでさらなる孤立を招き、魔導国へ招待するという流れにした方が良かっただろう。だが、これまでの対談を通して、リリアが簡単に魔導国へ来ることは無いことも十分に理解している。

 

 

「アウラよ、お前の言うことは正しい。だが、彼女の本質を見ればあの場で止めておいた方が今後のナザリックにとっても利益が多い」

 

 

「馬鹿な私では理解できません。教えていただいてもよろしいでしょうか?」

 

 

「ゴホン、そうだな……。例えばの話だぞ?私がアウラを冷たい態度で接するようになったとしよう。その時、外部の組織や国家から勧誘されたとして、お前は私を見捨てるか?」

 

 

「そんなことありえません!アインズ様が私にそのような態度をとるときは、私が何か失態を犯した時です!悪いのは私なのにアインズ様を裏切るなんて!」

 

 

「落ち着け、例えばの話だ。だが、私の言いたいことはそう言うことだ。彼女の持つ忠誠心ともいうべき物は、お前達と同等……、いやそれ以上の物だろう。例え同じ国の者から心底憎まれたとしても、彼女がこの国を見捨てることは無い。ならば恩を売り、良い関係を構築していった方が良いと思わないか?」

 

 

 興奮しながら涙目で答えたアウラをなだめると、アウラは顔を赤くして頭を下げた。流石に例え話であったとしても、守護者であるアウラにとっては刺激が強い話だったと、他の守護者達に対してもこういった話をすることは今後は避けようと心に誓う。

 

 

「なんとなく分かりました。だから、アインズ様はあの場で止めにはいったんですね」

 

 

「で、でも、それだったら別にあの場で殺させてもいいんじゃないですか?同族に恨まれてもよいのなら、そのままにしておいても問題ないと思うんです。それに、アインズ様は既に多くの恩を与えていると思います」

 

 

「ふむ、それでも問題はない。だが、彼女が死んでしまっては元も子もないだろう。守るべき者を恨まず、剣を向けることもしない彼女の事だからな。もし剣を向けられれば彼女は死を選び、蘇生を試みても拒むだろう。彼女に対し嫌悪感を持つ者が増えれば、それだけ命を狙われる機会も増える」

 

 

「そこまでお考えの上で行動を……。でもそれだったら武器を向けそうな人間を殺していった方が安心できると思います」

 

 

「ちょっとマーレ!流石に質問が多すぎると思うんだけど!アインズ様の計画にケチをつけるつもり!?」

 

 

 アインズの話すことに質問を繰り返したマーレを、アウラが睨みつけながら厳しい声で叱りつける。マーレも自身の行いを省みて、不味いと思いすぐに頭を下げた。

 

 

「よい、分からないことをそのままにしている方が後に更なる問題を起こすこともある。こうして疑問に思ったことを聞くのが悪いことではない。マーレの言うことも正しい、我々の力であれば彼女にバレる事なく暗殺することも容易だ。だが、殺害の事実は隠せない。彼女の目に触れずに暗殺を行える者は我々を除けばほとんどいないだろう」

 

 

「私達がやったとバレれば、関係が悪くなるということですか?」

 

 

「そうだ。だから私はいらぬ誤解を招くような事態を避けるためにも、聖王国に対する介入を極力避けているのだ」

 

 

 アウラやマーレ、ペスト―ニャは感嘆の声を漏らし、熱い視線をアインズへと送る。

 これまでの話には本心と嘘が混じっている。リリアの聖王国に対する熱い想いと守るためなら身を挺し手でも戦い続ける姿勢は、自身のナザリックに対する想いや姿勢と重なる部分も多く、他人事のようには思えなかった。また、他の人間達に比べ魔導国に対する考えも柔軟であり、それ故に、リリアを魔導国へ招待したいと考えていたのだ。

 そんな中、リリアが自分の考えや想いを否定するような場面に出くわし、それが本心であるかないかに関わらず、止めに入らなければならないと思った。それで本当にいいのかと。

 アインズは、自分にもまだ人間の様な思考が残っていたことに驚きながらも、どこか可笑しく感じ微笑する。

 

 アインズ達が話をしていると、扉に近づいてくる何者かの気配に気づき、アウラとマーレはアインズの前へと立つ。扉がノックされると、ペスト―ニャが対応のために扉を開ける。

 

 

「アインズ様、聖王国の女王様が面会を求めておられます……わん」

 

 

「聖王女が?構わん、通せ」

 

 

「かしこまりましたわん」

 

 

 

 リリアに自身の想いを告げたカルカはしばらくリリアの頭をなでていたが、安心して力が抜けたリリアが寝息をかき始めたのを見ると、静かにその場を離れた。部屋の前で待機していたネイアに誰も部屋に通さず静かに休ませるように指示を出すと、一人必要な話をするために魔導王の滞在している部屋へ向かう決意を固める。

 これ以上、リリアを前で戦わせ続けることを避けるためには、全面的に魔導王の力を借り受ける必要があると判断した。レメディオスやケラルト、それに他の聖王国の者がついてくれば、今から話そうとする話題を絶対に認めないのは分かりきったことだ。だから、こうして一人で向かっている。

 

 部屋の前へ着くと、本当にそれでいいのかと心の声が頭に語り掛けてくる。誘惑に近い声を否定するように顔を横に振ると、揺らぎかけていた意思を固め直し、部屋の扉をノックした。

 開かれた扉からは魔導王のお付きであるペスト―ニャが姿を現す。

 

 

「陛下はおられますか?」

 

 

「はい、今はちょうどお話をしていたところでしたわん」

 

 

「陛下にお話ししたいことがあるのですが、よろしいでしょうか」

 

 

「少々お待ちくださいわん」

 

 

 ペスト―ニャが一旦扉を閉めたが、中で魔導王へ確認を取り終えたのかすぐに扉を開く。

 

 

「アインズ様の許可が下りました、どうぞ中へ……わん」

 

 

 今までこうして一人で会談に臨んだことは無い。いつもケラルトや大臣が必ず側にいて、何らかの助言や仲裁を行ってくれていたが、今は一人だ。緊張でわずかに震える足に力を入れ、部屋の中に足を踏み入れた。

 部屋の中では、備え付けられた椅子に魔導王が座ってこちらを見ている。後ろには護衛のダークエルフの双子が怪しむような視線を向けており、いつもとは違う雰囲気に息をのむ。

 

 

「聖王女陛下が一人で来られるとは珍しいな。どうぞこちらへ」

 

 

「お忙しい所、お邪魔してしまい申し訳ありません」

 

 

「忙しくなどない。ちょうど暇をしていた所だ。それで話と言うのは?」

 

 

 椅子に座ったのを確認すると同時に魔導王は本題を訪ねてくる。

 今から話そうとすることは本当に間違いではないのか、もしこの提案が魔導王の怒りを買いでもしたらどうするのか、と再び心の中で葛藤が起きるが、固唾を呑みこみゆっくりと口を開く。

 

 

「魔導国の……、いえ、魔導王陛下の庇護下に置いていただけないでしょうか」

 

 

「我が国の庇護下に?それはつまり、帝国と同じようにこの国を従属させたいということか?」

 

 

 魔導王から放たれるオーラが先程までとは違い、明らかに怒りに満ちているのが空気から感じられる。

 

 

「従属は考えていません。しかし、陛下が望まれる物全て差し出す覚悟があります」

 

 

 カルカの言葉を聞くと、魔導王が放っていたオーラが徐々に収まっていくのが分かった。何かしらの誤解を解いたのは間違いないのだろう。

 

 

「ゴホン、すまなかったな。少し思うことがあって気が高ぶってしまった。それで、どうしてそのような提案をしたのか理由を聞かせてもらおう」

 

 

「は、はい。聖王国はもはやヤルダバオトやその手勢を正面から相手できるほどの戦力はありません。そのため、陛下のお力を全面的にお借りし、この戦いに決着をつけたいと考えています。厚かましい願いであることは十分に承知しています。ですが、聖王国の者の命をこれ以上失う訳にはいきません」

 

 

「だから庇護下に入りたいということだな。リリア殿から大体の話は聞いていたのだろうが……。聖王女陛下に聞こう。今のが本心か?」

 

 

「陛下に嘘をつくことはありません。今の発言は紛れもなく私の思う――」

 

 

「本当に良いんだな、次はないぞ?」

 

 

 魔導王の言う本心とはなにか。いや、言葉通りの意味であることは間違いない。問題は何故ここまで尋ね直してくるかということだ。決して、嘘を言っているわけではなく、これは聖王女として自分が思っていることだ。

 

 

(陛下が聞きたいことは違う……?)

 

 

 今は公的な会談の場ではなく、あくまで非公式な場だ。であれば、聖王女としてではなくカルカ・ベサーレスという一人の人間としての意見を、本心を聞いているのではないか。本当の私が思っていることは――。

 

 

「リリアの姉として……、もうこれ以上苦しんでほしくないのです。ヤルダバオトに勝てないことは分かっているのに、戦うことを求めてきた私自身が憎くてたまりません。陛下であればヤルダバオトを必ず倒せると、リリアがこれ以上傷つく前に戦いを終わらせられると信じているのです」

 

 

 もし公的な場でこの発言をすれば、身内びいきだと批判され、聖王女としての地位は軽んじられてしまう。その思いから顔を上げることができず、俯きながら思いを告げた。

 

 すると、魔導王はしばらくの無言の後に、静かに笑い声を上げた。

 

 

「リリア殿はうらやましいな。守るべき、帰るべき場所にもこうして待っている者がいるというのだから……」

 

 

 アインズはカルカにも聞こえないほどの小さな声で呟くと、咳払いをして姿勢を直す。

 

 

「聖王女陛下の考えはよく分かった。だが、庇護下に入らずとも、私は全面的な支援を約束したつもりだった。それに、元よりヤルダバオトとの戦いには私一人で臨むつもりだ。聖王国の兵達に加え、リリア殿もあの体では足手まといだからな。貴国の事情を考慮しこれまでは協力して戦っていたのだが、このような提案を受けた以上、気にする必要はないな」

 

 

「え、アインズ様。いいんですか?」

 

 

「構わん。しかし、聖王女陛下には一つ聞きたいことがある」

 

 

 俯いていたカルカはゆっくりと顔を上げた。

 

 

「何でしょうか」

 

 

「リリア殿の事をそこまで想っているのであれば、ヤルダバオトを除いた後に、彼女の心が再び傷つくような事態はもう起こさないと誓えるか?」

 

 

「魔導王陛下と約束をせずとも、元よりそのつもりです。これまでの様な姿を見せることはありません」

 

 

 覚悟を固めたカルカが、その信念を示す様に揺らがない視線を魔導王へ送る。

 この視線を以前にも感じたことがあるアインズは、もはや問題はないだろうと思い静かに頷いた。

 

 

「今回の件はここだけの話として、私の心の中にしまっておくとしよう。後の事は任せるがいい。この国に平和を取り戻して見せよう」

 

 

「ありがとうございます。魔導王陛下」

 

 

「魔導王陛下と言うのは少し固いな。貴殿もリリア殿も、私の事をアインズ……、いやゴウンと呼んでも構わないのだぞ」

 

 

「陛下、ご冗談を……」

 

 

 アインズは冗談ではないのだが、と返そうとするもこれ以上野暮な話をする必要もないと思い、カルカに礼をして部屋から出るのを見送った。

 

 

「アインズ様、まさか、あの姉妹揃ってお気に入りにするつもりですか?」

 

 

「アウラ……、まだそのような事を言っているのか?」

 

 

「今回の事と言い、アインズ様はあの人間に肩入れしすぎです!私達からすれば羨ましさ以上に嫉妬していますよ!」

 

 

「だが、街でも聞いたようにアウラも今の彼女のことは以前ほど気にはならないのだろう?」

 

 

「人間ではないですから、多少はマシですけど。偉大なる至高の御方から創造された者ではありませんから」

 

 

「私としては彼女を通じて、お前達も現地の者と仲良くなる術を手に入れてほしいのだが……、まぁ、それは置いておくとしよう。マーレ、デミウルゴスに連絡を取り、明日の戦いを派手に締めるよう伝えるのだ。私は非常に機嫌が良いとな」

 

 

 この世界に来てから嫌な人間を多く見てきた。そんな中で、揺るがぬ信念を持ち、自分の姿に偏見を持たず、対等に渡り合えた存在は数少ない。ガゼフ・ストロノーフに関しても、あのような状況に陥って居なければ、今後も良い関係を築こうと思っていた。あの時の反省を生かすというのであれば、今こそこの関係を保つ良い機会になるだろうと。

  リリアのあの態度や姿勢は姉であるカルカ譲りの物であったのか、それともリリアの影響を受けたのかなどと考えもしたが、今となっては些細な事だ。

 

 

(守護者達も上司と部下みたいな関係で、対等に話し合える存在とは言えないし……。ありのままの姿で話せる時が来ればいいんだけど……)

 

 

 リリアの存在は魔導国にとってNPC達の意識に大きな変化をもたらすかもしれないと淡い希望を抱いたが、すぐにアルベドやシャルティアが牙をむいている姿が呼び起こされ、どう対処すべきだろうかとため息をついた。

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