いつか帰る場所   作:シャケナベイベー

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八日目の旅立ち編スタートです……が、実際には本編とは乖離した物語となるので悪しからず


もう一人の自分

「あ、二人ともやっと来た!」

 

 ラウンジに向かったアクトとヴェルトに気付いたなのかが声を掛ける。そこにはなのかを含めたいつもの列車組の他に孤族の女性が佇んでいた。

 

「姫子の言ったとおりだったとは」

「これで揃ったわね」

 

 その女性を見て目を丸くするヴェルトを見て、姫子はメンバーも揃ったし話し合いを始めようと口を開く。

 

「皆に集まってもらったのは、ルアン・メェイからの依頼で彼女──『停雲』を彼女の故郷の仙舟『羅浮』まで送り届ける為よ」

「皆様。お久しぶり……いえ、正確には初めまして、でしょうか。何せ『私』がこうして皆様とお会いするのはこれが初めてですから」

 

 姫子の隣に立つ孤族の女性──停雲がペコリと頭を下げて微笑む。その姿に星となのかはまた『幻朧』の成り代わった偽物ではないかと警戒するが、

 

「安心してちょうだい二人とも。彼女は正真正銘、本物の停雲よ。ルアン・メェイからのお墨付きだし、何より絶滅大君が一度失敗した手を二度使う理由は無いでしょう」

「……その通りだな」

「よ、良かった〜……うちら、幻朧に大変な目に遭わされたから気が気じゃなかったよ〜」

「どうやら私の偽物が皆様にご迷惑をお掛けしてしまったようで……本当に申し訳ございません」

 

 またも申し訳なさそうに頭を下げる停雲に「いや別に怒ってるわけじゃ……!」となのかがアタフタしながら宥める。

 そして事の成り行きを見守っていたアクトは姫子に近寄って話し掛けた。

 

「姫子さん。この後はどうするんだ?停雲さんを羅浮まで送るか?」

「いえ。一度ピノコニーに寄りたいって停雲が言っていたからそうしようと思うの。ピノコニーまで羅浮の迎えが来てくれるそうだから」

「ピノコニーに?土産か何かを?」

「多分そうでしょうね」

 

 姫子から話を聞いたアクトは腕を組んで何かを考える。すると、彼らの足元に居たパムがピョンピョンと跳ねて自身の存在をアピールした。

 

「幸い、この宙域からピノコニーに向かうなら跳躍せずとも向かえるから燃料の心配をする必要はないが、出来れば早く帰ってくるんじゃぞ!」

「勿論よパム。でも、『オンパロス』の情報を集めるためにも少し滞在しておかなきゃね」

 

 その時、アクトは姫子の口から飛び出した見知らぬ単語に首を傾げた。

 

「オンパロスというのは?」

「ブラックスワンから提示された列車の次の目的地よ。列車の燃料が跳躍二回分しか残っていなくて……その改善をするために「あのアキヴィリですら到達したことのない世界を開拓するのはどうか」って提案されたのよ」

「へぇ……」

 

 となると今の列車組にとっては完全に未知の冒険となる。アクトはその未知なる旅が少し楽しみに感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここがピノコニーか……」

 

 目が痛くなりそうだな、と街に降り立ったアクトは目を瞬かせた。

 あの後、ピノコニーに到着した星穹列車から留守番のため残った丹恒を残して、さて停雲の望みでもあるピノコニーのお土産探しをしようとなったのだが、姫子はとある人と話し合いがあるからと別れ、その後とある気配を感じたアクトもまた、星やなのか達と別れて一人別行動を取っていた。

 

「……で。これか、違和感の正体は」

 

 彼の目の前にあるのは何の変哲もないただの鉄柵だ。だがアクトは明確にそこに存在()()()()違和感を感じ取っていた。

 

「『調和』に……『秩序』か?星たちの話じゃ、この前話題になってたピノコニーの騒動で秩序が絡んでたらしいしそれ関連かもな」

 

 運命の残滓の残り方からして誰かが『調和』の力で『秩序』の痕跡を消し去ったのだろうとアクトは察していた。それがどのような意図の下で行われたかは知らないがピノコニーにはまだ不穏な箇所があるようだ、と警戒を一段階上げた。

 

「ねーねー、お兄さんお兄さん」

「ん?」

 

 ふと足元で声が聞こえてそちらに顔を向ける。そこに立っていたのは子供ほどの背丈しか無い、頭にポンポンのような物を付けたピピシ人の少年だった。

 

「君は……ピピシ人か?どうしたんだ?」

「お兄さんピノコニーは初めて?ならはい、これをあげるよ!」

 

 そう言って少年が差し出してきたのは何の変哲もなさそうなキャンディーだった。それを受け取り、怪訝な顔をしたアクトがもう一度ピピシ人の方を向くと彼は既に背を向けて走っていた。

 

「あ、おいちょっと!?」

「それはサービス!お兄さん、宴の星へようこそ〜!!」

 

 あっという間に見えなくなったピピシ人に、伸ばした腕を下ろしたアクトはマジマジとキャンディーを見てから一口食べた。

 

「ん、特に何もおかしなところのない普通のキャンディーだ……」

「んな訳ねぇだろ」

「は?」

 

 隣からそんな声が聞こえてアクトは思わず隣を見る。そこには一人の少年が立っていた。自分より少し背が小さく、黒髪と金色の目が特徴的な彼のことをアクトはよく知っていた。

 

「あー……あー、このキャンディーで分裂した俺か」

「なんですぐ見抜けんだよ怖っ!?」

「いやだってその姿の俺がここにいるとかあり得ないし」

 

 向き直り、マジマジともう一人の自分を見つめる。この頃は大体18歳辺りだったか……詰まる所あちらの世界でお陀仏した時期だ。

 

「ここは夢境……つまるところ夢の世界だから、それとこのキャンディーの成分だか何だかが作用して記憶の一部が実体化したってとこか」

「合ってる……合ってるけどお前ほんとにオレ?そんなすぐ見抜ける地頭をオレがしてるとか疑うんだが……!?」

「いずれ成長したらこうなるぞ」

 

 目の前の大元の自分を見て記憶の一部が実体化した方のアクトは引き気味に話す。

 そんな過去の自分を冷めた目で見ながらアクトはケッ!と吐き捨てんばかりに呟く。

 

「はぁ……しゃーない、一度ヴェルトさん達と合流するか……」

「どこにいるかって見当ついてんのか?」

「ついてなきゃこんなこと言うわけないだろ馬鹿が」

 

 「ほら行くぞ」とさっさと歩くアクトに過去のアクトが慌ててついて行く。

 

「お、おい!お前なんかオレに当たり強くない!?」

「そりゃ一番キライな顔が目の前にあればこんな態度にもなるってもんだ」

「自分の顔だろ!?」

「だからだ」

 

 よりにもよってキアナの前で死んだときの自分だと言うのが気に食わない。あのピピシ人今度会ったらシバいてやると怨嗟の声を胸の内で呟きながらピノコニーの街中を歩いていく。

 そして歩くこと約二十分。探していたヴェルト達を見つけたアクトは声を掛ける。

 

「あぁ皆、ここにいたか」

「あ、アクト!もう、どこ行ってたの?連絡したのに返信がないから何かあったんじゃないかって……えっと、どうしたの?」

「わ、アクトがもう一人。いつの間に分身の術を会得したの?」

「悪いな星。これは分身の術じゃ……いや、ある意味では当たってるか」

 

 星となのかはアクトの後ろにいるもう一人のアクトを見て目を丸くしている。さてどうやって説明したものかと思っていると一人のオムニックが口を開いた。

 

「もしかしたら彼も停雲さんのようにキャンディーを食べたのかもしれませんね」

「うん?貴方は?」

「失礼しました。ワタシは……」

「オムニック……?あ、違うな。『調和』の力で認識を誤魔化してるのか」

 

 一目でそのオムニックの正体を看破したアクトになのかとヴェルトが目を見開く。さらにそのオムニックの隣にいたピピシ人の少年もまた軽く戦慄していた。

 

「初見で見破るとかマジかよ……アンタ、使令じゃないよな?」

「生憎とな。運命の行人ではあるが俺はその域に居ないよ」

「変装はもういいんじゃないか?サンデーさん」

「……そうですね。ワーヴィック」

「はいはい、分かったよ」

 

 ピピシ人の少年──ワーヴィックが『調律』を使い、そのオムニックの擬態を解く。

 擬態が解け、そこに立っていたのは頭に翼を生やした天環族の青年だった。

 

「申し訳ありません。ハウンド家の者が来たのかと警戒してしまいまして……」

「なんか訳ありなんだな。詳しくは聞かないさ」

「ご配慮、感謝いたします」

 

 感謝する天環族の青年──サンデーに気にするなと手を振ったアクトは停雲の方を見る。

 

「停雲。お土産は買えたか?」

「それが、少しトラブルがあってまだ買えていないのです」

「……トラブル?」

「そうだよ!ホント大変だったんだから!」

 

 そしてなのかから一連の説明を受けたアクトはこめかみを抑えてため息を吐いた。

 

「──それで、停雲が戻ってきたところにアクトがやってきたの」

「キャンディーの性質は違うだろうが、多分それを渡してきたピピシ人は同じ奴だろうな……あの野郎今度会ったらボコボコにしてやる……」

 

 悪戯で済まされない。ピピシ人処すべし慈悲はない。

 

「そういえばもう一人のアクトさんも、そのキャンディーによって現れたのですよね?ならばワタシかワーヴィックによる『調律』で元に戻すことも出来ますが……」

「いや、大丈夫だ。あの面は非っっっ常に気に食わないが少し試したいことがあるからな。それが終わったら元に戻してもらうよ」

「アクト。試したいことって?」

「秘密だ」

 

 そうして過去の自分を見るアクトの目には悪戯を思いついた悪ガキのような色が宿っていた。




自分同士の戦いほど醜いものはないぞ by何処ぞの赤い弓兵
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