いつか帰る場所   作:シャケナベイベー

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お前が嫌いだ

「このあたりで良いだろう」

 

 星達と再び別れたアクト達は人気の無い広場に場所を変え、そこで向かい合って立っていた。

 

「こんなとこに連れてきて意味なんかあるのかよ?」

「あるとも。とびっきりの理由がな」

 

 訝しげにする過去の自分にアクトは不敵な笑みを浮かべる。

 アクトはこの過去の自分をコピー体のようなものだと考えていた。自分の記憶の一部が実体化し肉を得た存在だと。ならば当然、()()()()()()()()()()も使えるわけだ。

 

「お前が昔の俺の再現なら、持ってるんだろ?虚空万象をさ」

「……あー、そういうこと」

 

 「はいはい完全に理解した」と過去のアクトは呆れたように肩を竦めて未来()の自分を見つめた。

 

「虚空万象には外部と完全に隔離される特殊空間を作り出すことが出来る……つまりそれを展開しろって事か」

「そうだ。そうすれば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「神の鍵の無駄遣いもいいとこだぜ全くよぉ……」

 

 これが未来の自分だと思うと何とも言えない気持ちになるが、同時に自分らしいとも思えて複雑な気分だ。

 とにかく、過去のアクトは己の掌に意識を集中させる。そこから徐々に金色の光の粒子が集まっていき、やがて一つの立方体が掌に収まった。

 

「んじゃ、早速やるぞー」

 

 そんな、気の抜けるような声と共に立方体──『虚空万象』が光を放つ。

 視界全てを光に染め上げたそれが収まると、辺りは金色の光が流れる不思議な空間に様変わりしていた。

 

「ホントに出来て草」

「馬鹿にしてんのか?」

「だってあの頃の俺なんて虚空万象の使い方禄に知らなかったじゃん」

「それ自分で言うのかよ……」

 

 自信満々に『過去の自分は禄に使い方も知らない武器を親友との戦いに使いました』と話すアクトに過去のアクトは呆れてものも言えなくなる。なんでコイツ今も生きてんだよ……

 

「さてと……準備もできたことだし、とっとと始めようぜ」

「あー、うん……お前やっぱ未来の俺だわ……」

 

 アクトは大剣を出現させ、それに業火を纏わせて軽く振るう。つまり、今から始まるのは戦闘だ。自分同士の戦い程醜いものはないだろうが仕方あるまい。

 

「あのバカアホピピシ人のキャンディーのせいでもう一人の俺が生えてきた時はどうしたもんかと頭を抱えたが、結果としては好都合だ」

「そりゃそうだろう。こんな機会滅多にねぇしな……つまり」

 

 

 

 

「「一発ぶん殴りたかった自分の顔を合法的に殴れるってことだもんな!」」

 

 

 声を揃えて二人はそう口にした。

 キアナを泣かせ、芽衣を泣かせ、ブローニャを泣かせ、その他多くの人を泣かせて蔑ろにした過去の自分をボッコボコに出来るチャンスが来た。

 

「まぁ当然タダで殴られてやる義理もないけどな」

「だろうさ。寧ろタダで殴られてくれるとかお前ホントに俺なのかって疑問に思ってたところだ」

 

 過去のアクトは目を瞑り、そして意識を集中する。

 瞬間、凄まじい覇気が彼の身体から放たれ現在のアクトを襲う。

 

 

 

 

 やがて過去のアクトの身体に変化が訪れた。頭には捻れた悪魔のような角が二本生え、背中には龍の翼と尻尾を思わせる突起物。さらに手もまるで龍のように爪先が鋭く尖る。

 そんな彼の手に握られているのは金色の大剣──虚空万象によって再現された第七の神の鍵『天火聖裁』、その大剣状態である。

 本来ならこの大剣状態の天火聖裁を扱うことは所有者の身体も焼け焦げて死亡するため決死の技のようなものなのだが、腐っても擬似的な業魔なのか、崩壊エネルギーと共に膨大な崩獣のデータも取り込んだからか融合戦士よろしくその手の冷却機能のある崩壊獣の力を使って無理矢理に相殺しているのだ。

 

『来い、未来のオレ。この身は業魔のなり損ない。『救世』と比べるべくも無いが今のお前にとってはこれ以上無い相手だろう』

「……だろうな」

 

 業魔のなり損ない、いわば失敗作。それがかつての自分が得ることの出来た力の限界だった。

 それでもアクトにとっては十分と言えた。その力は『崩壊』をあの世界から消し去る過程として得た力だからだ……まぁそれもキアナによってボッコボコにされたわけだが。本物の終焉の律者には敵わなかった、悲しい。

 

 では今のアクトが終焉の律者に届くのかと言われたら答えは絶対にNOだ。

 恐らく終焉の律者はこちらの世界で言う『使令』に等しい存在だろう。ならば星神の一瞥を受けたとはいえ使令に届かない今の自分が勝てる道理など無い。

 

 だがかつての自分ならどうだろうか。業魔のなり損ないと言えど纏うエネルギーは現在の自分より数段は上……だが、それでも超えなくてはならない。

 ベロブルグで虚妄の母と対峙した時には『あの業魔の力があれば』と惜しんだものだが、それでは駄目だ。過去と決別し、乗り越える。

 そうしなければ胸を張って彼奴等に顔向けできない──!!

 

「すぅ……はぁ……よし、いけるな」

『準備が出来たようだな』

「まぁな。てか、なんだよその口調。業魔になったからって心まで上位側に寄せなくて良いんだぞ」

『オレは過去のお前だ。つまりこの姿のお前はこんな口調だったということで──』

「黙れミンチにするぞ」

『こっわ』

 

 あまりに殺意に溢れすぎている一言に『愚なる業魔』アクトは素で引いた。やだ、未来の自分怖すぎ……

 アクトは思わず反射的に殺意を口にしてしまったことを自省しつつ大剣の切っ先を過去の自分へと向ける。それに対し『愚なる業魔』も『疑似・天火大剣』をアクトへと向け──

 

 

 二人は同時にその間合いを詰めた。

 

「ハァッ!」

『フンッ!』

 

 横薙ぎに振るわれた大剣と叩きつけるように振り下ろされた『疑似・天火大剣』がぶつかり火花を散らす。

 力では向こうが上のようで押し込まれるがアクトは敢えて身体ごと後ろに引くことで押し込もうとした『愚なる業魔』の体勢が崩れる。そしてアクトはそのまま顔面に蹴りを叩き込もうとして──

 

『この程度予測出来ないとでも思っているのか』

 

 あっさりとその足を掴まれ、勢い良く投げ飛ばされる。仮にも成人男性の身体をまるでフリスビーのように軽々と投げ飛ばすのは如何なものかと考えながら空中で体勢を整え着地したアクトの眼前に剣の大群が迫る。

 

「虚空万象か!芸のない奴め!」

 

 それを自身に迫るものだけを的確に弾きながらアクトは飛びかかるようにして『愚なる業魔』の懐へと飛び込む。そのまま大剣を振りかぶり、

 

『その言葉、そっくりそのまま返してやる』

 

 挟むように差し込まれた『疑似・天火大剣』に防がれた。そのまま弾かれ、二人の距離が再度開く。

 互いに追撃はせず、相手の出方を伺うように構える。

 

『慎重だな』

「単純な戦闘能力じゃあその姿のお前()に勝てないんでな」

『やり様があると?』

「当然。こちとらその姿の時より十年近く経ってるんだ。戦闘技術に関してはこっちに利があるさ」

 

 肩を竦めて笑うアクトに『愚なる業魔』もまた呆れたように笑う。確かに戦闘技術は向上もしたのだろうが、そもそもそういう相手には力で押し潰すべしと言うのがアクトの心情だ。

 流石自分だ。怖いものなんてキアナの手作り料理くらいのもの。

 

『さぁ、オレを殴るんだろう?まだ一撃も与えられていないぞ』

「んなことくらい言われなくても分かってんだよ」

 

 あからさまな挑発にアクトは獰猛な笑みを浮かべて返し、再び距離を詰め激突した。




・『愚なる業魔』
見た目はほぼ業魔ケビンと一緒と思ってくれて良いです。名前に関しては普通の人間のくせして崩壊エネルギーを根絶しようとする傲慢な浅はかさからこんな感じに。
口調がなんか偉そーになってるのはアクトなりのキャラ付けのつもりです。「これからキアナたちにとっての悪人になるんだから口調もそれっぽくしないとなー」とかいうキアナからすれば「ふざけんなお前」って言われること間違いなしの理由です。馬鹿なんですよコイツ
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