スタレ2周年おめでとう!!
アナイクス先生、マダム・ヘルタの為に引いてやるから覚悟しとけよ
永遠の地
「どうやら、次の目的地は決まったみたいだな」
パーティー車両にやってきた星を見てアクトはそう口にする。
「次の目的地は江戸星だよ!」
「そうかそうか江戸星かぁ〜……ってなると思うか。オンパロスだって聞いたぞまったく……お前は何かと冗談を言うのが好きだな」
「それが私だからね!」
ふふん、と得意げに胸を張る星を軽く小突いてアクトは辺りを見回す。
「そろそろ跳躍が始まる頃だろう」
「そうだね。どこかに座って待ってよう」
星の言葉に頷き、アクトはソファに腰掛ける。
その時、タイミング良く車内アナウンスでパムの声が響いた。
『各乗客は注意せよ──間もなく跳躍が始まる。大人しく座っとくように!』
それは全員と言うより特定の誰かに向けられた注意のようにアクトには聞こえた。
そして列車が光に包まれ、星系を跳躍した。
やがて窓の外から見えたのは果てない宇宙の闇。少なくともアクトにはそう見える。そして視界の端でブラックスワンが星の元へ歩み寄るのが見えたのでアクトも立ち上がりそちらに向かう。
「ふふ、何も見えないわね……変だと思う?」
ブラックスワンのどこか夢見るような声が鼓膜を叩く。
そして彼女の身体が浮かび、窓を撫でるように手を動かした。
「答えは星空の中にある」
やがて現れたのは∞の形をした不思議な天体だった。
「見て。あれが外部と隔絶され、ガーデンの鏡でしか映し出せない世界──「永遠の地、オンパロス」よ」
「うわ、『8』だ!」
「出てくる感想がそれで良いのかお前は……」
目を瞬かせてトンチンカンな事を宣う星に嘆息するアクト……と、そこに丹恒、ヴェルト、姫子も合流してきた。
「見ての通り、オンパロスは混沌とした物質に包まれているから外部からの観測は難しい。普通の星間旅行ではその存在に気付けず、目的地にすることはもちろん、通過することすら出来ないわ」
ブラックスワンのゆったりとした声が彼らの耳にすんなりと入り込む。そしてブラックスワンは開拓者たちを見回し、改めて説明を始めた。
「でもガーデンだけはオンパロスを見つけた。そしてその中に、絶え間なく変化する運命の軌跡を発見した……」
「「三つの運命が絡み合い、ともにオンパロスの運命を紡いでいる」──普通の運命の行人がガーデンの鏡に痕跡を残すことはない。つまりオンパロスには『使令』に匹敵する存在が少なくとも三人は存在するということよね」
「もしかしたらオンパロス自体が星神に一瞥されたのかもしれないわ」
「それほどの能力を持つ者がいるのに宇宙でその名を知られていないのは、確かに不思議だ」
ブラックスワン、姫子、ヴェルトの三人が何やら話し始めた事で眠気を感じ始めた星を丹恒が軽く揺すり眠気を覚まさせる。それを微笑ましく眺めながらアクトは三人の会話を静かに眺めた。
「オンパロスを覆う三つの運命のうち、一つは「知恵」だって知ってるけど……」
「もうここまで来たら隠す必要もないわ。二つ目はさっきあなた達が目にした「記憶」よ」
「道理でガーデンの使者が俺達にオンパロスの姿を見せることが出来たわけだ。最後の一つは?」
「残念ながら最後の一つは「知恵」と「記憶」に隠れていて分からないの。その三つ目の運命は二つの影に隠れていながら、それらに匹敵する力を持っている……「均衡」?「神秘」?それとも「不朽」?はたまた「終焉」?見当もつかないわ」
「「終焉」は無いだろうな。それなら俺にもある程度感じ取れるはずだ」
ブラックスワンの疑問にアクトが口を挟む。それにブラックスワンは微笑み、頷く。
「だが、情報があまりに少なすぎる。更に問題なのは着陸地点を予測できない事だ。俺たちを待ち受けているのは海、真空帯、火山の溶岩かもしれない……」
「私は「開拓」の申し子だからどんな場所でも飛び込んでいくよ!!」
「はあ……お前のその開拓精神には敬意を表するがあまり無茶な考えをするな。皆、お前を大事に思っているんだ、俺も含めてな」
「……ところで、なのかはどうした?」
丹恒が星を宥める横でアクトがその疑問を口にする。そう言えば……と姫子とヴェルトは辺りを見回して首を傾げた。
「変ね、いつもの三月ちゃんならこういう事にはワクワクしてたのに……何かあったのかもしれないわ。部屋に行ってみましょう」
姫子の提案に全員が頷き、近くのカウンターでシャラップから提供されたスラーダを飲みながら状況を見守っていたサンデーも伴ってなのかの部屋へと向かった。
………ちなみに余談だが、アクトがシャラップから提供されたスラーダを飲んだ時にそのあまりに形容し難い味に吐いてシャラップの機能をいくつか改善して作り替えたのは完全な蛇足である。
◆
「三月ちゃん、いる?」
「い……る……」
ドアをノックし、姫子が呼び掛けるとかなり気怠げそうななのかの返事が返ってくる。そしてドアを開くと、そこにはベッドに座り込んで苦しそうにしているなのかの姿があった。
「ごめん……跳躍が終わってから、急に力が出なくなっちゃって……」
「なの、乗り物酔いしたの?」
「そんなことないよ……ウチ、アンタより跳躍を経験した回数多いんだからね……」
星の冗談に言い返す声もやはり元気がない。付き合いの短いアクトでさえこう感じるのだから姫子やヴェルト、丹恒と星の内心はかなり不安に晒されている筈だ。
「ブラックスワン、アンタの力で三月ちゃんの「記憶」を調べてもらえる?」
「任せて」
姫子の提案に頷き、ブラックスワンは自身の額をなのかの額と合わせ、その記憶を探る。少しして額を離したブラックスワンが結果を口にした。
「調べた限り、三月さんは急に何かに身体を押さえつけられたように感じたみたいね。そして力が出なくなった……病気では無さそうだけど」
「外部環境の影響によるものでしょうか」
ブラックスワンの見解にサンデーが口を挟み、全員の目がそちらに向く。そしてサンデーは一言断りを入れてから「調和」の力を使ってなのかの状態を調べると改めて口を開いた。
「皆さんは一度ピノコニーを訪れたことがあるので、アスデナに跳躍する際、一部の人が共感覚夢境に入ることはご存知でしょう。今回も恐らく同じ原理だと思われます。影響を与えているのは、運命、星神……もしくはオンパロスそのものかもしれませんね」
その言葉に難しそうな顔になる姫子を見てなのかは弱々しくも笑みを浮かべて励ましの言葉を口にする。
「そんなに心配しないで……元気になったらすぐ皆に追いつくから。星には、ウチのカメラを託すよ。オンパロスに着いたら写真を撮ろうって約束してたけど守れそうにないし……お願いね」
「任せて、なの」
なのかからカメラを受け取った星は力強く頷く。そしてなのかを除いた面々は部屋の外に出て、再度話し合いを再開した。
「オンパロスはなのかの過去と関係あると思うか?」
「そんな偶然はないと思うわ……むしろ三月ちゃんが最初にその何らかの影響を受けたと考えるほうが自然でしょうね」
そして姫子の目が星と丹恒、そしてアクトに向けられる。
「今回の旅は星と丹恒、それからアクトに先陣を切ってもらいたいの」
「任せて。私たち息ピッタリだから」
「ふふ。ピノコニーでの旅を経て星も一人前のナナシビトになったわね」
「すまない姫子さん。今回の旅、俺も同行して良いのか?」
「勿論。アクトには二人に何かあった時の為の護衛役をお願いしたいの。二人とも護衛なんて必要ないほど強いかもしれないけどオンパロスは未知の世界だから……『備えあれば憂いなし』って言うでしょ?」
「そういうことなら」
疑問を挟んだアクトは姫子の言葉に納得したのか、頷いて身を引く。
その後、ラウンジに集まった星、丹恒、アクトの三人は姫子とパムからとある贈り物を渡された。
「車両を貰うことになるとは思わなかったな……」
「姫子さんも言っていたようにオンパロスは未知の天体でスターピース通信は当然のように圏外……何かあった時の通信手段としても使えるかもしれない」
切り離された車両の椅子に座り、アクトと丹恒は言葉を交わす。そして同時に
「どうしたの?」
「「頼むから変な事をしないでくれ」」
「……二人して言わなくて良くない?」
星が頬を膨らませる。それに丹恒は呆れた目を、アクトは昔の親友を思い起こさせる破天荒さに苦笑しつつ妹のように思っている子に軽いジト目を向けた。
丁度その時、パムのアナウンスが響く。三人は椅子に座り直し、ベルトをしっかり固定する。
『車両切り離し用意!3……2……1!』
そして列車本体から切り離された一つのエンジンが火を吹き、オンパロスへ突入した。
『────』
聞こえた。耳元で、運命を紡ぐ声。
未来を手繰り、必ず実現する預言を音とする其の囁きが愛し子へ落とされる。
───汝は己が意志の下、災禍をその身に宿し、やがて我が懐へ至るだろう
目を開く。既にオンパロス内に突入したようで窓の外には不思議な球体のような何かを背負う影が見えた。暗闇で良く見えないが。
その時、空の果てで何かが煌めいた。瞬間、悪寒が駆け巡りアクトに警鐘を鳴らした。
「まずい……っ!星、丹恒!気をつけろ!!」
言い終わると同時、車両を凄まじい衝撃が襲った。車両が激しく揺れ、三人の身体もまたベルトで固定されているにも関わらず激しく揺れる。
そして車両が激しい音を立てて地面に激突した。