いつか帰る場所   作:シャケナベイベー

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アストラスについて
黄金裔の一人。
かつての彼は今は亡き都市国家の王子であったが、暗黒の潮と黄金の血を持つアストラスを許さなかった周辺都市国家の同時侵攻に遭って滅亡した。
その後単独で己の国と守るべきであった民を滅ぼした都市国家を半壊させた後、幽鬼のように世界を彷徨っていたところをケリュドラと出会い、紆余曲折あって彼女に絶対の忠誠を誓う。
そしてケリュドラやセイレンスと共に三つの都市国家の侵略を受けるオクヘイマに助力し、セイレンスに及ばないまでも一万の軍勢を滅ぼした。なおその過程で同胞であった黄金裔たちを幾人か手に掛けた事で「黄金殺し」と悪名が轟くようになった

彼は予言の黄金裔にあらず。■■の端■であり、いずれ訪れる終末を見届けるものである。
……月の瞳が降り立った時、汝の運命は終わりを迎えるのだ


黎明を照らす剣は

 剣を振るう。迫る矢を弾き落とし、そのまま懐に飛び込んで横一閃。

 

「ふう…こんなところか」

 

 剣を振るい、辺りを見回す。どうやら星と丹恒も敵を片付け終えたらしい。

 

「そっちも片付いたみたいだな」

「この程度なら雲吟の術で対処できるからな」

 

 辺りに倒れる眷属たちを見やりながら丹恒が呟く。と、その時、物陰から一人の男性がこちらにやってきた。

 

「お強い……!もしかして、異邦からいらっしゃった黄金裔の方ですか?」

 

 その言葉にどう返したものかと三人は顔を見合わせる。すると男性は懇願するように手を組み合わせて話を続けた。

 

「お願いです、オクヘイマを助けてください!狂王ニカドリーが戻ってきたんです。どこもかしこも混乱し、紛争が始まってしまいました……!」

「落ち着け。ここは俺達に任せてお前はとりあえず避難するんだ」

「!ありがとうございます!あなた方の仲間はポリス内で戦っています。きっと運命が再会へと導くでしょう」

 

 それだけ言い残すと男性は他の住民と共に急いでその場から走り去った。

 そして彼らの姿が見えなくなるのを見届けた丹恒は星とアクトに向けて声を掛ける。

 

「唯一の避難場所と言うからには守りが堅いものと思っていたが……状況は想像以上に緊迫しているな」

「ディストピアもいいところだな……とりあえずファイノン達との合流が先決だろう」

 

 アクトの言葉で三人は大通りを進む。

 やがてファイノンとトリビーが崩れた柱の前で何かを話し合っているのを見つけた。

 

「大通りが塞がれた……トリビー先生」

「慌てない慌てない!「あたちたち」に任せて──「我が呼びかけに応えよ、オロニクス!」」

 

 その祈言が聞こえた刹那、真ん中に立っていた星もまた胸に手を当てて同じ言葉を繰り返す。

 

「「記憶の幕を取り払い、過去のさざ波を呼び起こせ!」」

 

 そしてヤヌサポリスで見た巻き戻しが起こり、崩れていた柱が元に戻る。これ幸いと三人はファイノン達に駆け寄った。

 

「状況はどうだ?」

「三人共……すまない。巻き込むつもりはなかったのに……まさかこのタイミングでニカドリーが軍を率いて聖都に攻め込んでくるなんて予想外だ。奴はずっとケファレの宿敵だったが、今や狂った猛獣だ」

「そのニカドリーとやらが聖都襲撃の元凶か」

「ああ」

 

 アクトは脳内でそのニカドリーとやらが一体どれほどの強さなのか、この場にいる面々だけで倒せるのか否かと判断するべきかをもう少し情報を集めようと結論する。

 

「私たちも敵を何体か倒してきたよ」

「心から感謝するよ。幸い、オクヘイマもこういう時のために準備はしてきたんだ。「神託」がとっくに警告してくれていたからね。天災ではオクヘイマは滅びない」

「ノーデスさんたちはもう避難所に行ったよ。後は「あたちたち」に任せてあなた達も他の皆と一緒に避難してね」

「ううん、力になるよ」

「何も君たちの実力を疑った訳じゃないさ。君たちならここにいる残党如きに遅れは取らないだろうけど他の黄金裔たちなら……話は別だ」

 

 そこで話を切り上げ、一行は先へ進む。そこで祈りを捧げている住民たちを目にした。

 

「何をしている?ここは危険だ、早く避難するんだ」

「いいえ、ここはとても安全よ!見ていなさい、ケファレの威光がすべてを照らすの──」

「好きにさせよう。ノーデスさんがヤーヌスを信仰するのと同じだよ。エスカトンに向かう日々の中では、信仰が全てだという人もいるだけの話さ──そしてそんな彼らを守ることも僕たち「黄金裔」の使命だ」

 

 ファイノンの鋭い眼差しが現れた紛争の眷属たちへ向けられる。アクト達は各々武器を構え、眷属たちをあっという間に蹴散らす。

 

「ファイちゃん──」

「うん?」

 

 眷属たちを撃破し、住民たちに言葉から離れるよう誘導していると遠くの方から声が聞こえ、そこからトリビーに良く似た二人の少女がやってきた。

 

「ただいま戻りました……」

「トリビーが三人!?」

「ボクたち、トリアン!」

「あたしたちはトリノンです」

「あたちたちはトリビー──って違う!自己紹介してる場合じゃないでしょ!」

「……オンパロスは驚きの連続だな」

「世界には同じ顔の人が三人いるとか何とか言うが、早々にそれを達成するのを見たのは初めてだ」

 

 やってきたトリアン、トリノンとトリビーのそっくり具合に目を剥く三人と裏腹にトリアンはファイノンに声を掛ける。

 

「ファイちゃん、モスちゃんは本隊と何十回もドンパチしながら空からポリスの中まで来たんだぞ!早く助けに行け!」

「やっぱりな……アイツは血の気が多くなると手がつけられなくなるんだまったく……」

 

 ファイノンは戦友の男を思い浮かべ、頭が痛そうにこめかみを押さえるが、もしアストラスがこの場にいれば「類は友を呼ぶんだぞファイノン」とでも言いそうである。

 

「ファイノン様、トリビー様!」

「君たちは……「黎明騎士団」?どうしてここに?」

 

 その時、新たに数名の白に金の糸のような装飾が施された鎧を纏った者達が数名駆け寄ってきた。

 

「ファイノン、彼らは?」

「彼らは「黎明騎士団」と言って、アストラスが三百年前に設立した、ホプリテスの中でも特に優秀な者達を集めた聖都の守護部隊さ。それで、どうして君たちがここに?」

「はっ。我々は聖都中心部を防衛していたのですが、アストラス騎士長が辺りのニカドリーの眷属を掃討してくれたお陰で手が空き、あまり防衛の手が回せなかったこちらへと向かった次第です……それから騎士長からの言伝を預かっております」

「アストラスが?何かあったのか?」

「「ファイノン。俺は辺りの眷属を倒しながら黎明の崖へ向かう。詳しい状況はトリノン先輩達から聞くように。それとメデイモスと変な意地を張り合わないように。慎重に動きニカドリーを討伐せよ」……とのことです」

 

 内容を聞いたファイノンは顔を引き攣らせる。いくらなんでもこんな非常事態で張り合ったりしない……と言いたかったがこれまでのモーディスとのあれこれを思い出して口を閉ざす。

 流石師匠、僕のことをよく見てるなぁ……

 

「仕方ないか……それじゃあ三人共、僕に付いてきてくれ……先生たちと騎士団達は住民の避難を」

「分かった、気を付けてねファイちゃん」

「お任せを。それとそちらの異邦人の方々も──おや騎士長?」

「あ、人違いです」

 

 騎士団の男がそう言うとアクトは即座に手を振った。

 

 

 

 

 

 

 場所は変わって雲石の天宮。普段なら多くの人で賑わう筈のこの場所も、今は一つの戦場となっていた。

 

「ふっ!」

「よっ、と!」

 

 突き出された槍を剣の腹を押し当てるように逸らした女性──アグライアの隙を縫うようにアストラスが大きく踏み込んで剣を横薙ぎに振り抜き、ニカドリーの体勢を崩す。

 

「黎明の崖から戻ってみればこれかぁ……」

「ですがこうして助力してくれた事には感謝します。変わらぬ献身ぶりですねアストラス」

「お前には負けるよライア──っと」

 

 会話の途中で天から降り注ぐ光の槍を弾いたアストラスはアグライアが張り巡らせている金糸を足場として跳躍し、上段から叩きつけるように長剣を振り下ろす。

 

「かった……! これで本体じゃないとか流石は紛争のタイタンだな!」

「まだまだ余力がありそうですね」

「精一杯なんだが???」

 

 なんて鬼畜な物言いだろうとアストラスはさめざめと泣く。昔の彼女ならもっと慰めの言葉が出てきたのだろうに……およよ。

 

「今、妙な事を考えませんでしたか?」

「お前時々察しの良さが陛下に似てきてるよな」

「あら。昔の貴方のように心優しくあるつもりなのですが」

「時たま見せる冷酷さは陛下やヘリィにそっくりだぞ。それ以外はほぼ人間性が喪われているとはいえ昔のお前のままだ」

 

 二人してニカドリーの攻撃を捌き、体勢を崩しながら会話する。まぁそんなアグライアにカイニスなどの過激派は恐れ慄き除こうと躍起になっているのだが。

 ざまあみろドブネズミ共め。

 

「貴方から侮蔑の感情を感じます。カイニスと何かありましたか?」

「黎明の崖から避難もせずあれこれと黄金裔たちに文句言ってたから煽ってやっただけだ。「二十七代目にもなるのにアグライアを追い落とせないとかお前の人生無駄に浪費してばっかりだな。そろそろ介護の歳か?」とな」

「貴方も私のことを言えない程に冷酷ですね」

「弁が立つと言ってほしいな」

 

 どこか呆れを含んだ顔になるアグライアにヒラヒラと手を振りながら叩きつけられた槍の一撃を受け止める。床が陥没し僅かにピュエロスのお湯が流れる。そしてニカドリーの身体をアグライアの金糸が雁字搦めにして拘束する。

 生まれた大きな隙、そこを半神と黄金裔は見逃さない。

 

「身を捧げよ、ラフトラ」

「そろそろ終わらせるか!」

 

 アグライアが傍に控えていた首の無い人形──ラフトラから剣を引き抜き、共に突進する。アストラスもコンマ五秒遅れて後に続く。

 アグライアとラフトラ。二振りの黄金の剣閃が二カドリーの身体を縦横無尽に駆け回り、無防備となった紛争の神体をアストラスの紫焔の刃が貫いた。

 

「こんなところか。もう一体は……」

「恐らくファイノン達が倒すでしょう……そうでなくてはこれから先のニカドリーの本体との戦いを切り抜けることはできませんが」

「助力は?」

「最後の最後であれば。彼以外にも三人の新たな盟友達がいるのです。師匠たちの共有した情報が真であるなら二カドリーの分体に後れを取ることはないでしょう?」

「そこは断言するさ。彼ら三人は俺たちにとって新たな光の道になると」

 

 アグライアはそう語るアストラスを見て、ほんの僅かに微笑む。なんとまぁ昔から変わらない善性なこと。

 いくら黄金の血を授かった黄金裔と言えど半神でないにも関わらず千の時を生き抜いたことには驚嘆するほか無いが、それもまた「カイザーとの約定」故なのだろう。

 再創生が果たされるその日まで、この剣は人々の導であり続けると。

 

 

 

 

 

 

 もう一体のニカドリーの分体がファイノン達に倒されたのは、それから数十分後の事であった。




アストラスから他の黄金裔への印象
ケリュドラ:絶対の忠誠を誓う陛下。身長が低いことを気にしているらしいと聞いて彼女の座る椅子を高くしたり彼女より姿勢を低くしたら頭を踏みつけられた。酷い……

セイレンス:セイレーンの姫。剣の腕で言えば多分あっちが上だけど認めたくない。彼女の為にメーレを用意したら大変喜ばれたので彼女と会うたびにメーレを渡すようになった。ちなみにアストラスは酒に弱い。

アグライア:盟友。彼女の仕立てのセンスに脱帽した。紆余曲折あり深い仲のようなそうでないような関係になる。徐々に人間性を失っていく彼女を見てあれこれと周囲との仲介役を担うようになった

トリビー、トリアン、トリノン:尊敬する先達達。かつて黄金裔へと迎えようと誘われた際、かなり酷い言葉を言ってしまった事を後悔し、事あるごとに謝っていたがそれぞれから気にしないでいいと言われたことで釈然としないながらも過度に謝ることはなくなった。子供同然の姿となった彼女たちを肩車したことがあるが、事情を知らないホプリテスに事情聴取されたことがある

サフェル:盟友。オクヘイマで盗みを働いていた彼女を捕まえてアグライアの仕立て屋に送り込んだ。何かと魚を援助したり奢ったりしたことでアストラス兄さんと呼ばれるようになった。オクヘイマを出た理由については、アグライアを嫌ったわけではないと察しつつ本当の理由までは分からない

ファイノン:剣の弟子。いずれオンパロスのすべてを背負う救世主。彷徨っていたファイノンがオクヘイマに来て初めて会った人物がアストラス。今は立派な青年に育ったことを嬉しく思いつつモーディスと子供じみた小競り合いをする姿には呆れつつ楽しんでいる。

特別出演
カイニス:馬鹿、阿呆、無能なドブネズミ。なんで元老院の長をやれているのか分からない等アストラスはボロクソに貶す。まだ粛清者だった頃のほうが有能さはあった。ほんの少しだけ、塵並には。
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