いつか帰る場所   作:シャケナベイベー

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徒労はみなここに実るって言ったな!?信じて良いんだな?オンパロスは明るいんだな!?

で、スクリューガムさんの実装まだですか?


終焉は次の物語の始まり

「二人ともおはよう」

 

 ニカドリーとの激戦から一夜明け、今日はファイノンが『紛争』の火種を返す日だ。

 一足先に目覚めてせっせと紅茶の用意──切り離された列車に積んでいた茶葉やらを取り出してきた──をしていたアクトは二人に紅茶を差し出しつつ、星の横にフワフワ浮かぶ桃色の珍獣をしげしげと眺めていた。

 

『あら?そんなに見つめられると照れちゃうわ……』

「やっぱり何言ってるのかさっぱりだな。仕草でなんとなく照れてるんだろうってのは分かるんだが」

「私は分かるんだけどなぁ……」

「浮黎からそういう恩恵でも貰ったのかもな」

 

 其が本当にそんな事をしたなら愉快なことこの上無いが。なにはともあれこの珍獣ことミュリオンはアクト達がニカドリーとの戦いで有利になれるよう助力してくれたのだ。味方と考えていいだろう。

 

「あ、ファイノンからメールが来たよ。『創世の禍心』に来てほしいって」

「なら準備して出よう。あまり待たせるのも悪いからな」

 

 丹恒の言葉に頷き、三人で手早く準備を終えて水盆に顔を浸けた。

 

 

 

 

 

 

「貴方が望んでいた立会人が来訪したようですねファイノン。では儀式を始めましょう」

 

 揃って禍心に行けば、そこには既にアグライア、キャストリス、ファイノン、アストラス、そしてトリノンが待っていた。

 

「モーディス様がいらっしゃっていないようですが……」

「彼なら事前に挨拶してくれたよ。それに、僕が言ったんだ……『傷の回復が最優先、戦友の一生に一度の儀式なんて気にしなくていい』ってね」

 

 モーディスがこの場に不在であることに疑問を呈するキャストリスにファイノンが胸に手を当てて答える。そして前を向き、一歩ずつ火種を返すための水盆へ近付いていく。

 

「準備は出来た。儀式を始めよう」

「ええ……我が師よ、どうか彼に道を示してください」

 

 アグライアの言にトリノンが頷く。

 

「果てしない暗闇の中で幾万の夜を重ねようと、神託の導きは曙光のように明るく、はっきりとしています──」

 

 トリノンの言葉が続く中、アクトは不意にアストラスの横顔が目に留まる。

 彼は前に立つファイノンの背を眺めているだけに見えるが、その目つきにはどこか別の感情が籠もっているようにも感じられた。

 

(……なんだ?不安?いや、慈悲…か……?)

 

「──黄金裔、火種を献上しなさい」

 

 と、そんな事を考えているうちにトリノンの言葉が終わりを迎えた。そしてファイノンが前に出て、『紛争』の火種を捧げる。

 それによって星座が周り、『天罰の矛』の紋章が光を放つ。

 しかし特に大きな変化が現れることはなく、ファイノンが動揺したように辺りを見回した。

 

「どうして禍心は黙りこくっているんだ?君たちの時も似たような感じだった!?」

「冷静になるのですファイノン。貴方を選んだことを後悔させないでください」

「それに今すぐ神権を担える訳じゃない……ほら」

 

 アストラスの視線の先……星座の方から一つの影が歩いてくる。その姿を見た星とキャストリスが目を見開く。

 

「ゴーナウス……さん……?」

 

 キャストリスの茫然とした囁きにトリノンが首を振った。

 

「恐らくキャストリスの知っている人ではありません──あれは神託の化身であり、タイタンの神性の反響。神権を注ぐ黄金裔を見定めるために来たのです」

 

 その言葉通り、神性の反響がファイノンに何かを語りかける。常人であれば理解できないが、トリノン(運命の三つ子)であればその言葉を聞き、解読することができる。

 

「神性はこう言っています──”神の権能を受け継がんとする人間よ……汝の力と品格は既に認められている。然るに汝の意志はなおも揺れ動いている。ニカドリーの戦いを受け継ぎ、名状しがたい暗黒の潮に抗うのであれば、汝は神性の試練を受けねばならん……そこで不屈の意志を示せ。そして心の奥底に根を張る恐怖を打ち砕くのだ”」

「僕の心の奥にある恐怖を打ち砕く……?」

 

 神性の反響の言葉を反芻しながらファイノンは一歩前に出る。その瞳には強い決意が宿っていた。

 

「望むところだ。どうやって僕を阻もうとしているのかは分からないけど、とっくに覚悟は出来てる……預言にある明日のため、僕はオンパロスが求める神になるんだ」

「”ついてくるがいい、エリュシオンのファイノン──”」

 

 

 

『──汝は恐怖の中で人の身体を捨て、苦痛の中から神として生まれ変わるだろう』

 

 

 

 ファイノンが後ろにいる仲間たちへ視線を向ける。

 

「みんな、帰りを待っていてくれ」

 

 その言葉が終わった次の瞬間には、ファイノンと神性の反響は姿を消していた。

 

「ファイノン様が……消えた?」

「戦いに行ったのです。彼一人で勝たねばならない戦いへ」

「……アストラス、すみませんが、後は……」

「お任せをトリノン先輩。ゆっくり休んでください」

 

 疲労からかふらつくトリノンの身体を抱き上げたアストラスはこの禍心にやってくる新しい足音を拾っていた。

 

「……一足遅かったか」

「モーディス?ファイノンから来ないって聞いてたけど……」

「『天罰の矛』の星が輝いているということは……」

「火種の返還は完了しましたが、ファイノン様への試練はまだ終わっていません。神託は化身を送り込んできました。ファイノン様の力と品格は認めたものの、その意志には懸念があったようで……」

「はぁ……心配していた通りになったか」

 

 キャストリスの言葉にモーディスは腕を組んでため息を吐く。そんな彼の姿に星、丹恒、アクトは目を合わせる。

 

「改めて礼を言う。異邦人。お前たちの助力が無ければ、ニカドリーとの戦いは何百倍も苦しいものになっていただろう」

「じゃあなんかくれる?」

「謝礼か?構わんぞ。クレムノス人は力を尊び武を重んじるが、礼儀を知らないわけではない」

 

 冗談半分で言った言葉に割とマジな反応が返ってきて困惑する星の頭をアクトが軽くはたき、モーディスに「冗談だから。気にしなくていいから」と言い聞かせていた。

 そんな二人と裏腹に丹恒はモーディスの言葉が引っ掛かっていた。

 

「モーディス、先ほど言っていた『心配』と言うのは……」

「……こいつらは知らないのか?」

 

 モーディスの目がキャストリスに向けられる。そのキャストリスが頷いた事でモーディスはどこか重々しくその口を開いた。

 

「あいつはずっと……自分の過去に苦しんでいるんだ。俺から伝えるのは良くないかもしれないが、お前たちが今後も奴と共に戦うのなら知っておいたほうが良いだろう──」

「モーディス様、その先は私がご説明しましょう」

「……ああ、それもそうだな」

 

 モーディスから説明を受け継いだキャストリスが三人に向き直る。

 

「ファイノン様は神託に選ばれる前、全てを奪われてしまったのです。故郷、家族、親友……彼が守ると誓ったもの全てを。まだ幼かった彼は抜け殻のようになり、胸に燃える復讐の炎に突き動かされ大地を彷徨っていました……神託に道を示され、アストラス様に引き取られるまでずっと。ですが神託によって示された新たな道と復讐の悲願を比べた時、果たして一体どちらの方が大事なのでしょうか?」

 

 キャストリスの口から語られた真実に星と丹恒は目を見開き、アクトは苦々しい顔になる。

 傍でその会話が聞こえていたアストラスとアグライアは『天罰の矛』の星と、未だ灯されていない『世負い』の星を見上げた。

 

「その答えを知っているのはファイノン様だけでしょう……もしかしたら彼自身でさえ、まだ迷っているのかもしれません」

「あいつの力は認めているが──どんなに研ぎ澄まされた剣だろうと、恐怖を断ち切ることはできない。どうか決意を固めてくれ、救世主……」

 

 モーディスの獅子の如き金の瞳が『天罰の矛』の星に向く。

 

「心の奥底にある悪夢を打ち砕けるのは、強固な意志だけなのだから」

 

 

 

 

 

 

「ゴホッ……!!」

「ここまでのようですね」

 

 一人の男が口から血を吐き出し膝を付く。その傍らに立つのは一人のオムニック。

 

「まさか『鉄墓』本体への攻撃を仕掛けるとは予想外でした。しかしそれは徒労に終わった……腐り落ちた『枝』から『セプター』内部に時間逆行してきた時点で貴方の運命エネルギーはほぼ底をついていた。そのような状態で『鉄墓』に攻撃を仕掛ければどうなるかなど分かっていたのではありませんか?」

 

 腕を組み、オムニック──否、『一人目の天才』は徒労を為した男を見下ろす。存在は消えかけ、もはや風前の灯。

 だと言うのに、男の目は一切死んでいない。

 

「徒労……?ハ、ハハ……いくら『一人目の天才』と言えど、人間の底力を真に見抜くことまでは出来ないみたいだな……」

「ほう?」

「”眼”が良いというのも考え物でね……視えなくていいものも視えたりするが、こと今回に至っては幸運だったと言っておくべきか」

「何を──」

 

 困惑するオムニックを他所に男は視線を外へ……この世界の外へと向ける。

 

「いい加減視てばかりいないで降りてこい戯け。業腹だが使わせてもらうぞ」

「ふ、変わらずの減らず口。いい加減、古傷に障る声だ」

 

 男の背後で第三者の声がする。オムニックがそこに目を向ければ、そこにはフードを被ったローブ姿の男が立っていた。

 

「貴方は……」

「『終焉の司祭』……と言って納得すまい。久しいな『ザンダー・ワン・クワバラ』。君が『静寂の主(ロード・オブ・サイレンス)』に殺される前夜以来だったかな?」

「全知の悪魔……『ラプラス』ですか。ええ。まったく懐かしいものです」

 

 意外な旧友の来訪にオムニックは両手を広げる。だが警戒は怠らない。この男のことを知っている身として断言できるのだ。

 

 彼は決して誰かに善意で手を差し伸べることはない。むしろ人の破滅する様を視て、子供が蟻の巣穴に水を流し込むような加虐心しか沸かないような男が彼であるのだから。

 

 頭脳はかつての自分に匹敵するだろう。だがそれで彼は何をするでもなく、『末王(『終焉』のテルミヌス)』が一瞥と共に彼に祝福として与えた未来を視る『千里眼』で彼は視えた未来を嗤っていた。

 

 彼の住んでいた星が滅び、民達が死ぬ未来を視て『慈悲として殺してやる方が良かったか』と嗤った。宇宙の終末を何度も視て悦に浸っていた。

 根本的に人と違うのだ、この男は。

 

「どういう風の吹き回しでしょうか。あの『全知の悪魔』が人助けなどと」

「私としてもよりにもよってこの若造を助けることなどしたくなかったのだがね」

 

 ラプラスの目が倒れ伏す男を──逆行してきた『未来のアクト・アステル』を見下ろす。そんなアクトはなんとか立ち上がり、ザンダーとラプラスを交互に見る。

 

「言っただろう?アンタの理念に共感はしても手段は認められないってさ。だからこうしてコイツを利用してやるのさ。なんならお前ら二人とも仲良く潰し合ってくたばってくれるんなら万々歳だが」

「断る/お断りします」

 

 二人同時に否定の言葉を返され、未来のアクトは舌打ちしつつ消えかけている自身の掌を見つめる。

 

「ちっ、そろそろ限界か」

「言った筈です。徒労だったと」

 

 ザンダーの言葉を無視し、未来のアクトはラプラスに目を向ける。

 己が倒すべき悪。鉄墓を利用してあれこれ画策しようとしているのだろう男。とはいえそのためには鉄墓自身が邪魔である、という一時的な目的の一致からこうしててを組んではいるが、アクト自身ラプラスと手を組むなど本来なら嫌で嫌で仕方ないのだ。

 

「マジでくたばれ」

「その言葉、そっくりそのまま貴様に返してやろう」

「大体なんだ、初対面の時のあの気安い口調は。あー気持ち悪っ」

「ふ、貴様の脳に合わせて話し方を合わせたまでだが」

 

 本当に殺したい。

 溢れそうになる殺意をなんとか断腸の思いで抑え、ザンダーへ視線を移す。

 

「お前は彼らの戦いを徒労だと断じたが、しっかりと見ておくといい。彼らは決してお前の駒で納まる人々ではないと」

「ならば私は『知恵』の殞落で以て、貴方のその言葉を否定することにしましょう」

 

 

 

 

 全知の悪魔、一人目の天才、終焉の使令。

 神話の裏側でもう一つの戦いが幕を開けようとしていた。




ログが更新されました


アクト・アステル

終焉の行人であり、神々の視線の外側にある世界からの来訪者。オンパロスに侵入した変数。特に大きな行動を起こした訳では無いものの、彼の来訪により終焉のテルミヌスがオンパロスを一瞥。管理人がその対処に追われる事となった


ラプラス

終焉の使令。アクト・アステルに何らかの干渉を行った形跡あり。現在■■の行人達の大半を沈黙させている傍ら、管理人と会話をしている。
特に危険な高リスク変数と認定
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