いつか帰る場所   作:シャケナベイベー

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遅れて大変申し訳ありませんでした!!

仕事だったり仕事だったり仕事だったりfgoの終章だったりでちょっと執筆の時間が取れませんでした!!

結論、年末はクソ忙しい


時を燃やす烈火

 坊や、声を聞かせて

 

 産婆がそう言う声がどこか遠くのことのように聞こえる。母の黄金月の目と父の黒髪を継いで産まれた小さな命は、ピタリとも泣かなかった。

 

(ああ、まるで……)

 

 生きることに疲れたかのように。

 何かしてあげられないかと出産直後で思うようにいかない身体を動かす。従者たちが押し止めようとするが、それを制して何とか産婆の腕に抱かれている我が子へ手を伸ばす。

 

「……大丈夫、よ…辛いことばかりかもしれない、こんなはずじゃなかったって嘆くこともあるかもしれない…それでも、この世界は美しいんだって、信じてほしいの……」

 

 弱々しく声にして、産まれたばかりの我が子の柔肌を撫でる。請うように、勇気づけるように。

 

「お父さんもお母さんも…皆、貴方の事を愛してあげたいの…精一杯、笑っていて欲しいから…──」

 

 

 

 だから声を聞かせて。私たちのアストラス(クロノス)

 

 その祈りが届いたのかそうでないのか…それは神のみぞ知るところだろう。だが結果として、その小さな命はわんわんと泣いた。まるで世界に己の存在を刻みつけるかのように。

 

 無償の愛という、祝福(呪い)と共に。

 

 

 

 

 どうして今、そんなことを思い出したのだろうとぼんやり思う。火の手が上がっていてひどい有様だ。国王直属の護衛は無惨な死を遂げ、己と夫もまたあらゆる傷を負っている。丸焦げにされ、声も老婆のようにしわくちゃで。傷のないところなどないというのに。

 いや、夫はより酷いか。片手片足をもがれ、残っている手足は杭で縫い付けられている。

 

「黄金の血などという穢れたものを持つ化け物を子に持ったのが貴様らの死因だったな」

 

 そう言ってこちらに歩み寄ってきたのは隣国の騎士団の長だ。その顔にはありありと嘲りが浮かんでいて、無様な姿となった国王夫妻を見下ろしている。

 だがそれは強がりからくるものと彼女は知っている。国王を襲撃して護衛たちを殺したまでは良いものの、肝心要の国王夫妻に部隊を九割殲滅させられた挙げ句、自身も決して浅くない傷を負ったのだから。

 

「穢れた、ね…ならば、何の罪も犯していない、子供一人を殺すために…赴いた…お前たち…は、さながら……暗黒の潮と同程度の汚物と…ゲホッ…いったところか……?」

 

 王がぜぇぜぇと荒い息を吐きながら敵を嗤い飛ばす。

 何たる人でなし、何たる醜悪さかと。

 騎士がピキリと青筋を浮かべ、王を縫い付ける杭をさらに深く押し込む。

 

「黙れ化け物を育てた畜生共が…!!」

「ぐふ…!ク、はは…!!ああ畜生で結構だ…少なくともお前たち蛆虫よりはよほど人間味があるつもりなのでね」

 

 どこまでもどこまでも王は嗤う。隣国の愚かさを、その怪物性を嗤う。

 

「お前たち、には…何一つとして…くれてやらない──精々喚けばいいさ」

 

 いつまでもいつまでも。お前たちに善い未来は無い。

 王妃は星と時間とを詠む巫女であった。かのヤヌサポリスの大司祭と同じようにオロニクスの祈言を賜りし者、星詠みの姫。

 だからこそ今、空に輝く星々から彼女はこの愚か者たちの未来を読み解いた。

 

「貴方たちに…未来は、ない…遠くない内に、怒れる刃の下に…裁かれる……」

 

 今も愛息がこちらに駆けつけようと走っているだろう。そして息子は愛故に一つの国を滅ぼし、暗黒の潮を駆逐する機構になる。

 それに目を怒らせた騎士が夫をその下衆にも劣る足で蹴りつけ、こちらに刃を振り下ろそうとする。

 

 その後どうなるのかは星々は答えてくれなかった。生まれた時に祈った言葉は無意味になってしまったけれど。平穏な幸せを、あの子に与えてあげられない駄目な母親だったけど。

 

「どうか…どうか…」

 

 これは命乞いではない。

 ただの母親の祈りに過ぎない。

 

 

 ──どうか、あの子が笑っていられますように。

 

 

 刃が振り下ろされる。貫かれ、弱々しい鼓動を奏でていたそれが冷えていく。その最期の刹那に──

 

 

 

 

 カチカチという秒針を刻む音と、にゃーお、という何かの鳴き声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

「……ん?」

「どうしたのアストラス?」

「声が聞こえたような気がしたんだが…気のせいだろう」

 

 樹庭の中を進み、暗黒の潮の造物を蹴散らし、カリュプソーもとい『理性』のサーシスの導きを以て『啓蒙の玉座』に向かっていたアストラスたち。

 目的地までもうすぐというところで突如としてアストラスは後方を振り返り、首を傾げる。それを星が問うが彼はさっさと歩いていってしまったので慌ててその後を追う。

 

「……サーシスの言った通りでした。彼はここにいたのですね」

 

 辿り着いた啓蒙の玉座で、キャストリスがそう零す。視線の先には、椅子に腰掛け、深く項垂れている男……神悟の樹庭の七賢人の一人にして黄金裔、アナイクス(アナクサゴラス)がいる。そしてその前に立つ──

 

「あの黒いマントのアイツは何者だ……?」

 

 こちらに背を向けて立つ一つの影。黒いマントに三日月の形の剣。仮面を被っているのか。

 

『あの人こそさっきの香り、記憶の源……いえ、記憶そのものだわ!』

 

 謎の剣士から何かを感じ取ったのか、ミュリオンが警告を口にする、

 

『燃える楽園、砕けた太陽、それから……殺戮、死、滅亡……』

 

 何かの記憶を読み取ったのか顔を暗くするミュリオンに気遣わしげに目線を投げたキャストリスは全員よりさらに一歩前に進み出る。

「皆さん、準備は良いですか……あれこそサーシスの言っていた暗黒の潮より生まれたハンターかと」

「あれが……」

 

 キャストリスと言葉に全員がその後ろ姿に警戒心を顕にする。離れているというのにその威圧感は背中越しであっても肌を焼くようだ。

 

「黒い剣とマント……あの布の持ち主であり、タナトスの死の霧を運ぶ北風」

 

その声に反応したのか、謎の剣士は肩越しにこちらに振り返った。

 

『……半神──ではないな。退け、さもなくば死あるのみ』

『みんな、早く逃げて…!今のあたし達じゃ、勝てっこないわ……!』

 

 剣士の言葉にミュリオンが慌てるが、その頭を星は一撫ですると、バットを取り出して剣士に向けた。

 

「安心して。私がみんなを守る!」

「ぼ、ボクも戦うぞ!ボクは勇敢なんだ!」

 

 トリアンもまた、己を鼓舞するかのように声を上げる。キャストリスとアストラスもまた頷き合い、剣士と相対する。

 

「今までの暗黒の潮の造物共とは毛色が違うようだが…やることに変わりはない」

「今回ばかりは…「死」が私たちを守ってくれるよう願います」

 

 

 

 

 

 

 剣士が完全にこちらに向き直ると同時、アストラスが勢い良く地を踏みしめて弾丸のような速度で剣士に迫る。

 初撃で終わらせようと首目掛けて剣を滑らせたが、それは三日月の形をした剣に受け止められる。

 

「ちっ…」

『……』

 

 舌打ちを鳴らすアストラスとは反対に剣士は一言も発さない。

 いつの間にか剣士の逆手には歪な形の剣が握られており、それがアストラスの胴体を真っ二つにしようと振るわれる──

 

「させないよ!」

 

 そこに星が割り込み、バットで一撃を防いだ。そして剣士の背後を取ったキャストリスが鎌の刃先を突きつける。

 

『一……』

「キャス!!」

 

 その呟きを拾ったアストラスが声を上げた時には、キャストリスは剣士が作り出した幻影に斬り裂かれ吹き飛ばされていた。何とか地面に叩きつけられる前に星が抱えることで事なきを得たようだ。

 

『二』

 

 続いて二体目の幻影はトリアンに向かう。トリアンは千年を生きた黄金裔でこそあるが戦闘に秀でているというわけではない為に迫りくる凶刃から目を逸らすことしかできない。

 

「やすやすと通すと思うか」

『ちっ…』

 

 それを実体の剣士を蹴り飛ばした勢いのままに幻影とトリアンの間に割り込んだアストラスが防ぐ。そのまま幻影を斬り伏せ、再度実体の方に肉薄する。

 

(ドライグ)

 

 掌を翳せばそこから業火が溢れ、その焔は龍を象って剣士へと襲いかかる。剣士は煩わしそうに龍と距離を取るが、龍は焔で出来た身体をぐるりと回転させて剣士を追う。

 

「鬼ごっこがしたいなら適任がいるぞ──神狼(フェンリル)

 

 次に象ったのは炎を毛並みのように揺らめかせながら咆哮を上げる巨大な狼。

 とある星の神話において神殺しの名を授かる獣は脚に力を込め、一気に剣士へと爪をギラつかせながら飛びかかった。

 

 ほんの僅か神狼に気を取られた剣士に龍の牙が喰らいつく。このまま噛み殺してやると言わんばかりに牙が喰い込み、さらに追い打ちで神狼の爪が剣士の横腹に突き刺さる。

 本来ならばこれだけで敵は獄炎に包まれ灰となるはず。しかし……

 

 

 

 

『この程度、我が身の内を焼く炎と比べれば造作もない』

 

 それらは、いとも容易く剣士の身体から発せられた黒炎により打ち消された。さしものアストラスも驚愕を表に出さざるを得ない程に。

 

 仕切り直しとばかりに剣士は三日月の剣を構える。その先は……キャストリス。

 

「っ……!」

 

 警戒を顔に浮かべる。得体のしれない剣士。技量も常人の域に無く、能力も多彩とくれば、警戒して当然だろう。

 

 そうして剣士が一歩踏み出る。その刹那に、

 

『ガッ…!?』

 

 その胸を貫手が貫いていた。ガラスが砕けるような音と共に剣士が膝をつく。何事かと目を向ければ、素敵な笑い声が煙の向こうから響いた。

 

「ふふふ……一撃では無理か」

 

 それは先程まで玉座に力なく項垂れていたアナイクスが不敵な笑みをその端正な顔に貼り付けている。しかしその口から流れる声は別のもの。それがどういう意味なのか、アストラスたちは即座に理解した。

 

「サーシスか……!」

 

『理性』のタイタン、サーシスがアナイクスの身体を借りて戦場に降り立った。

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