これは誰も知ることのない小さな物語。
万能の願望機『聖杯』。何でも願いを叶えるとされるそれを求めて、夢の地ピノコニーで聖杯戦争の幕が上がる───
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「……で、俺にもその『令呪』とやらが宿ったと」
ピノコニーの夢境にてアクトは自身の手の甲を見つめてため息を吐く。星に令呪が宿り、聖杯戦争に赴くということでピノコニーに滞在していたがまさか自分に宿るとは思いもしていなかった。
「ていうか主催者オーディの話じゃ参加者はとっくに決まってるはずだよな?なんで俺に令呪が宿るんだよ例外すぎるって」
例外枠、つまり八人目の参加者だ。だが当のオーディ氏は『ホッホッホッ、これもまた醍醐味というもの』とすんなり許可したらしい。狂ってやがる。
「はあ……やるしかないのか」
仕方無しに手を掲げる。そして地に刻まれた魔法陣を見つめ、詠唱を始めた。
「──告げる。汝の身は我がもとに、我が命運は何時の剣に。この意、この理に従うならば答えよ。汝、文明に彩を灯す十四の律動──抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!」
詠唱を終えると同時に魔法陣から眩い光が溢れる。やがて召喚された人物はアクトの目を見つめ、微笑みかけた。
「サーヴァント
「すみませんチェンジで」
心から嬉しそうにそう告げた友人にアクトは反射的にそう返した。
◆
「ん〜〜!おいひい〜〜!!」
「そりゃ良かったな」
テーブルに並べられた食事を平らげていくキアナにアクトは白い目を向ける。ああ、さらば俺の貯金の半分……
「……で。なんでお前がサーヴァントとして出てくるんだよ。ピノコニーに関わりがあるわけじゃないだろ」
「そんなこと言われても分かんないよ。分かるのなんてこの世界の知識と『聖杯戦争』?についてのことくらいだし」
「……少なくとも『今』は死んでないんだな?」
「うん。生きてるよ。今も月にいるけど」
「帰れてないのか?」
「それはこっちの台詞」
キアナがジトッとした目で睨んでくる。そこには目の前の親友を責める色が宿っており、アクトは顔を逸らした。
「とりあえず今はその『バージョン』じゃないってことで……」
「屁理屈ばっかり。勝手に無茶ばっかりして私たちの前から消えて、私たちがどれだけ悲しんだか分かる?もうホントに凄かったんだからね!!」
「うぐっ……!」
まずい反論できない。
キアナに言葉で言い負かされるなんて初めてである。まあこれに関しては全面的に自分が悪いとアクトは分かっている、分かっているので反論できないのだ。
「ったく……いい加減星と合流しないとな。あの子もサーヴァントを召喚してるだろうし、わざわざ戦う理由もないし」
「……女の子?」
「ああ。バッド振り回してゴミ箱漁りが趣味の女の子」
「ええ……」
何故か不機嫌になったキアナは星の印象を聞いてドン引きした顔になっていた。感情の忙しい奴だ。
「仲良いの?いや良いよねアクトが親しげにしてるんだもん」
「とんでもない決めつけだなぁ!?まあ仲間だし信頼してるけども」
「……女たらし」
「おい待て不名誉だ!!」
とんでもないことを宣うキアナに弁解しようと口を開く。
星とは単なる友達で変にやましいこととかは何も無くてどうこう、いやまあ顔は良いけど行動がぶっ飛んでるというか破天荒とかいうかどうこう……だが話を続ける度にキアナの機嫌は急降下していく。なんでだよ。
「ふ〜ん、そんなに仲良いんだね……これから会うんだよね?私の方が上だって分からせるから」
「何の上!?いや待て待て、星だってサーヴァントを召喚してるだろうし無闇な戦闘はするべきじゃないって」
「大丈夫、私は終焉の律者だよ?ぽっと出の女の子になんか負けないから」
「勝ち負けの問題じゃ……ああくそ、なんでこんな時にテレサおばさまやら芽衣やらがいないかなー!もうこの際ビアンカでも良いからキアナを止めてほしい……」
「あれ、アクトじゃん。こんなところで何してるの?」
バッと声のした方に振り返ればそこにいたのは星の他に銀河一の歌姫ロビン、そして見知らぬ金髪の少女とどこか鬱々しい雰囲気の女性……恐らくサーヴァントだろう。
「うわあ火に油だーーー!!!」
ああもはや神は死んだのだ。なぜこうも試練しか与えてくれないのだろう。救いの一つや二つありはしないのか。
「アンタが星?」
「そうだけど、そういうアンタは?」
「下がって下さいマスター、彼女はサーヴァントです」
星に近付くキアナがサーヴァントだと悟った少女は風を纏う剣をキアナに向ける。その後ろの鬱々しい女性もロビンを後ろに下がらせてキアナとアクトを睨んでいる。
「え、待って待って!アクトってマスターなの!?」
「例外枠なんだよなぁ……」
驚愕の目でこちらを見てくる星にアクトは項垂れながら返す。それを見たキアナがさらに不機嫌になり、そんなキアナを見てサーヴァント二人も警戒を強める。完全な負のスパイラルだ。
だからこそ、この場でそんな空気に臆さない彼女が声を掛けた。
「その、皆落ち着いて?星さんの雰囲気からしてアクトさんは敵対する意思はないように思うの……どうかしら?」
「はい、俺はこれっぽっちも貴方方と敵対する意思はありません」
「ありがとう。そういうわけだからノーツガールさんもセイバーさんも、アクトさんと一緒にいるあなたも戦意を収めてくれないかしら」
そのロビンの一声でセイバーと呼ばれた金髪の少女とノーツガールと呼ばれた女性は敵意を収め、キアナもまた流石に不誠実な対応だったと思い直したのかバツが悪そうな顔になった。
とりあえず無駄な戦闘は避けられたらしいとアクトは肩の荷を下ろし、ロビンに敬意を込めた視線を向ける。
「ありがとうロビンさん。流石は銀河一の歌姫だな」
「私は銀河一の美少女だけど?」
「お黙り」
さも平然と宣う星にデコピンを喰らわせたアクトはキアナに向き直り、彼女の肩を押した。
「ほらキアナ。皆に謝らないと」
「む……こういう時はクラス名で呼ぶものなんだよ」
「別に構うまい。俺が呼びたいから呼ぶんだ。それに名前を知られたくらいでお前が負けるわけないだろ?」
「もう……えっと、さっきはごめん。キアナ・カスラナだよ。クラスはフォーリナー。地球……えっと、故郷の星の神様みたいな事をやってたんだ」
「神霊……!それに、聞いたことのないクラスです」
セイバーが驚愕した顔でキアナを見る。そうだろう俺の親友は凄いのだとアクトは得意げに胸を張り、そんなアクトをキアナはジト目で見つめた。
そんな二人の様子を見て何かを感じ取ったのか星はアクトに近寄って小声で話しかけた。
「やったじゃんアクト。我が世の春だよ」
「今は時期的に夏だろう」
「はあ〜……」
「なんでため息!?」
「キアナ、アンタも苦労してるんだね」
「仕方ないよ。それがアクトだもん」
「とんでもない風評被害だ」
慰めるように肩をポンポンと叩く星にキアナが苦笑する。
なんだか知らないが仲良くなれたらしいと理解したアクトは二人の後ろで腕組みしウンウンと頷く事にした。
そしてこれから先、波乱万丈な聖杯戦争が幕を開けるのだ。
・キアナ・カスラナ
CLASS:フォーリナー
ログイン名:キアナ
宝具:終焉超越の対決
所属:戦乙女
アクトの親友。現在は終焉の律者として月で崩壊エネルギーを根絶させている。この度、何の因果かこちらの世界に顕現し聖杯戦争に臨むこととなった。本人としてはアクトと肩を並べて戦えるし、またその顔を見れたので上機嫌。
ちなみに今回サーヴァントとして呼ばれた彼女は───の時間軸の彼女であるためアクトがよく知っている天真爛漫な面はかなり抑えめ。
キアナの聖杯への願い:また皆で楽しく過ごせますように
アクトの聖杯への願い:もう一度だけかつての友人達の顔を見たい
続かない