いつか帰る場所   作:シャケナベイベー

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もしもあの時、自爆なんてしなかったらというIF。
書きたくなったので書いた


空の星を仰ぎ見るなら

「……輩。起きてください、アクト先輩!」

「んあ……?」

 

 眠っていたところを叩き起こされるようにしてアクトは目を覚ます。目を開ければ、飛び込んできたのはこちらの顔を覗き込む教え子の姿があった。

 

「あー……ヘリアか。何してるんだこんな時間に」

「こんな時間に、じゃありませんよ!先輩がこの時間に来てくれと言ったんじゃないですか」

「……そうだった気もする」

 

 すまんすまんと謝りながら体を起こしたアクトはソファに座り直し、ヘリアに対面のソファに座るよう促す。

 

「いやいや悪いな。呼びつけたのは何も叱るとかそんなんじゃないんだ」

「……聖フレイヤにいた頃、とても良く叱られたと記憶していますが」

「それはお前が無茶ばかりしたからだ。教え子を危険に晒したい先生なんていないんだよ」

 

 何を当たり前の事を、と言わんばかりにヘリアを小突けば誰よりも努力家な少女は額を抑えて蹲った。そんな教え子には目もくれず、アクトは立て続けに話を進める。

 

「さて。今回お前を呼んだ理由だが、この度改めて月でキアナと訓練をするようにと主教から言伝があった。出発は三日後。それまでに準備を整えておくようにと」

「……わ、分かりました」

「なに、そう肩を張る必要はないさ。アイツはスパルタじゃないからな」

 

 なんならスパルタ度合いは芽衣やブローニャの方が上だろうと問えば、ヘリアはおずおずと頷く。

 そんなヘリアはジッとアクトの顔を見つめた後「そういえば……」と疑問に思っていた事を聞くことにした。

 

「ん?」

「気になっていたのですが、アクト先輩とキアナさんってどんな関係なんですか?」

「恋人だが?」

「ああ、なるほど恋人………………え?」

 

 ピシリと石になったかのように固まるヘリア。何かおかしなことを言っただろうかと首を傾げ──

 

「ええぇぇぇぇええええ!!!!?!?!??」

「そんな驚く!?」

 

 ヘリアの絶叫に耳を塞いだ。ヘリアは唇をワナワナと震わせて人差し指をこちらに向けていた。人を指差しちゃいけません。

 

「え、だって()()()()()()()だっているのに……!結婚してないんですか!?」

「あの子は養子だからな」

 

 唖然とするヘリアにクツクツと笑う。確かにシーリンはキアナそっくりだし姓がアステルだから勘繰るのも仕方ないか。

 

「失礼します。いますかアクト」

 

 その時扉が開いて一人の女性が顔を覗かせる。アクトの親友にして英雄、ブローニャ・ザイチクだ。そして彼女に手を引かれて白いワンピースを着た幼い少女もやってきた。

 少女はアクトを見つけるとパァと顔を輝かせてトテトテと駆け寄る。

 

「ブローニャとシーリン?どうしたんだ」

「パパ〜!」

「はいはい。よいしょっと……で?何かあったか?」

「主教が呼んでいます。キアナとヘリアたちの訓練に関することだそうです」

「りょーかい。じゃ、ヘリアは任せた……ああヘリア。とりあえず伝えた通り三日後だ。それまで無茶な訓練はしないように」

「う……き、気を付けます……」

 

 再度ヘリアに釘を差し、教え子のことをブローニャに任せてシーリンを連れて部屋を出たアクトは真っ直ぐ伯母のいる部屋に歩いていく。

 

「シーリン、退屈はしなかったか?」

「うん!芽衣お姉ちゃんやゼーレお姉ちゃんに遊んでもらったよ!」

「それは良かった。後で二人にお礼を言いに行こうか」

「はーい!」

 

 元気よく返事をするシーリンに頬が緩む。

 この子を引き取ると決めた時は大変になるだろうと覚悟していたが、もうすっかり慣れたものだ。

 そうこうしている内に目的地に着いたアクトは扉をノックする。「入っていいわよ」とのお許しが出たので扉を開いて中に踏み入った。

 

「お待たせしました大主教」

「しました〜!」

「わざわざごめんなさいアクト。シーリンもいらっしゃい」

 

 現・天命組織の大主教、テレサ・アポカリプスはやってきたアクト達に笑みを見せると椅子から立ち上がりこちらに歩いてくる。

 

「実は三日後のキアナとヘリアたちとの訓練について話しておきたい事があって」

「何かトラブルが?」

「いいえ。そういうわけではないのだけれど……」

 

 困ったように首を傾げるテレサにアクトとシーリンは顔を見合わせる。

 しばらく唸っていたテレサはやがて顔を上げると二人に頭を下げた。

 

「その、当日貴方たちも同伴してくれないかしら!?」

「……これまた突然ですね」

「キアナと話し合って決めたのだけど、あの子がどうしても直にシーリンに会いたいって言うから……」

「シーリニウム不足ってことか」

 

 まぁ分からんでもない。シーリン可愛いし。とはいえ月に同行するとなると色々予定を変える必要がありそうだ。

 

「行くこと自体は構いませんよ。な、シーリン?」

「うん!私もママに会いたい!」

「そう言ってもらえて助かるわ……あ、それならキアナにも伝えておかなきゃ」

 

 そう言ってテレサは素早く空中にディスプレイを投影する。そしてしばらく呼び出し音が鳴った後、見慣れた少女の姿が現れた。

 

「キアナ、今いいかしら?」

『テ、テレサ!?べ、勉強はちゃんとやってるからね!?』

「そうじゃなくて……三日後の訓練で貴女が頼んできたことの結果報告よ」

 

 その言葉にキアナが勢いよく身を乗り出す。余程楽しみにしていたのだろう。ひょっこり二人で顔を覗かせればそれに気付いたキアナの顔が輝いた。

 

「よっ、キアナ」

「よ〜!」

『アクト〜!シーリン〜!』

 

 凄まじい喜び様だ。まるで推しのアイドルに会ったかと思うほどのはしゃぎぶりである。顔が綻び、アホ毛がヒョコヒョコ動いている。

 

「ママ会いたかったよ!」

『私も会いたかったよシーリン!』

「俺についてはコメント無しか?」

『見慣れてるもん』

「仮にも恋人相手にこの仕打ち。泣いていいか?」

 

 おいおいと泣き真似をすればシーリンが頭を撫でてくる。一方のキアナはズルいだのなんだのと喚いていた。

 

『ズルい!私だってシーリンのこと撫でたいのに!』

「三日後まで我慢するんだな」

『むぅ〜!』

 

 地団駄を踏むキアナをニヤニヤしながら眺める。やがて落ち着いたキアナはアクトの顔をジッと見つめる。

 

『……なるべく早く来てね』

「善処するよ」

 

 寂しがりになったものだ。まぁ月にほとんど一人なのだから仕方ないのかもしれないが。シーリンを抱き上げてキアナにバイバイと手を振る。

 そしてテレサがキアナと二、三言話して通話を切った。

 

「こんなところかしら。呼び出してごめんなさいね」

「いえいえお構いなく」

 

 にこりと微笑むテレサにアクトも笑みを浮かべる。そうしてしばらくテレサとの談笑を楽しんでいると、扉がノックされて声が聞こえた。

 

「大主教。私です、シーリンちゃんがここに来ていませんか──って、アクト君?」

「芽衣?シーリンに用事か?」

「……あっ」

 

 現れた来客──アクトの親友その二でありブローニャやキアナと同じく英雄と称えられる女性、雷電芽衣にアクトが首を傾げる横でシーリンはそーっと目を逸らす。

 

「ええ。実はシーリンちゃんが定期検診に来ないってゼーレちゃんが探していたから手伝っていたの。ブローニャちゃんと一緒に出掛けてから姿を見てなかったから」

「め、芽衣お姉ちゃんそれは……!」

「……ほーう?」

 

 芽衣の話を遮ろうとするシーリンをアクトがジト目で見下ろし、可愛い可愛い養い子の頬をムニムニと弄くり回す。

 

「うにゃあっ!?パ、パパやめて〜!!」

「嫌かもしれないけど定期検診は受けようってこの前約束したよな〜?嘘つきは泥棒の始まりなんだぞ」

「それは迷信?だって識ちゃんが言ってたもん!」

「あらあら。シーリンちゃん、嘘はダメよ?君のお父さんは怒ると怖いんだから」

 

 わーわー騒ぐシーリンを芽衣がニコニコしながら眺め、アクトも楽しみながらシーリンの頬を揉む。

 

「ちゃんとゼーレお姉ちゃんのところに行くか?」

「行く……」

「はい良し」

 

 渋々頷いたシーリンの頭を撫でて抱き上げる。落ちないようにギュッとしがみついてくる姿に笑いそうになるのをなんとか堪えてテレサに一言言おうと振り向いた。

 

「それじゃあ大主教。また後で」

「もうおば様とは呼んでくれないの?」

「昔は嫌がっていたでしょう?それにプライベートでは呼んでるでしょうに」

「堅苦しいわね」

「これでも天命の教官ですから。公私は分けますとも」

 

 むくれるテレサに笑いながらアクトは芽衣に目配せして室を出る。そしてゼーレのいるだろう医務室へと向かったのだが──

 

 

 

 

 

「どこに行こうとしてるのかなアクトお・兄・ちゃん?貴方も診るから」

「えっ」

 

 恙無くシーリンの検診を終え(軽く怒られていたが)、さぁ帰ろうとなったところの一言にアクトは固まった。

 

「この前の大規模な突入作戦で無茶したよね?あれだけ無理はしないでって私言わなかったかなぁ?」

「……言ってました」

「そうだよね?私何か間違ったこと言った?」

「言ってないです……」

「シーリンちゃん、あっちでアイス買いましょうか」

「はーい!」

 

 あまりのゼーレの気迫にアクトは直ぐ様正座して懇懇とお説教を受ける。その横で芽衣がシーリンを連れて退出していた。

 

「聞いてるのアクトお兄ちゃん?」

「聞いてるよ……」

「良い?アクトお兄ちゃんはもう天命の教官で、生徒が沢山いるんだから模範となるような行動を心がけなきゃいけない立場なの。自己犠牲なんて以ての外!!」

「はい、仰る通り……」

 

 ホントにゼーレに頭が上がらなくなる。昔はあんなに無邪気だったのに今じゃこんなに立派になって…と内心涙ぐんでいるとそれを察せられたのかさらに説教された。

 

「もう、ブローニャお姉ちゃんもアクトお兄ちゃんもどうしてこう、自分のことを大事にしないのかな?」

「まぁ母さんがシャニアテだしなぁ……そこら辺の血じゃないか?」

「そんなわけ無いでしょ!」

 

 はぁ…とため息を吐くゼーレに肩を竦めるアクト。

 だって仕方ないだろう母さんだって自分より息子、みたいな人だったし…と内心であれこれと述べる。この親にしてこの子ありだ。

 

「はぁ……とりあえず立って。検査するから」

「お手柔らかに頼むよ」

「それはあなた次第」

 

 きっぱりと言い切ってゼーレはアクトの身体を検査していく。時間にして三十分ほどの検査が終わり、異常無しと診断された。

 

「異常無し。健康そのものだね」

「それは良かった。何かしら異常があったらゼーレにどやされるところだったからな」

「それならこれからは無茶は控えてほしいな……はい。もう行っていいよ」

「はいよ。じゃあまたな」

 

 ゼーレの見送りに手を振って芽衣に連絡を入れてシーリンを迎えに行く。

 

「シーリン、帰るぞ」

「うん!芽衣お姉ちゃん、またね!」

「ええ。またいつでも来てねシーリンちゃん。アクト君も」

「俺とは毎日顔を合わせてるだろうが」

「あら。一人勝手にいなくなろうとしたのはどこの誰だったかしら」

「ははは、思いっ切りブーメラン刺さってるぞ」

 

 お互い、かつては仲間の元を去った身なのでこのあたりの話はお互いにノーガードで殴り合えるのだ。実に嬉しくない。

 そうして芽衣とも別れて帰路につく。

 

「パパ、私ハンバーグが食べたい!」

「この前も食べただろ?」

「今日も食べたいの!」

 

 手を繋いで満面の笑みを見せる娘に仕方ないなと小さく笑ってその身体を抱き上げる。

 

「帰ったら手洗いうがいをしっかりすること。良いね?」

「うん!」

 

 

 

 これは数ある枝葉の一枚。

 この後、キアナ・カスラナは眠りから覚めず、それに端を発する火星での冒険が幕を開けることになるのは完全な余談である。




アクト・アステル
終焉キアナにボコられて自爆も食い止められた結果生き延びた男。その後、色々あってキアナ(K-423)のクローンを養子にして育てることになった。聖フレイヤで教官をすると共に天命の遊撃部隊の隊長も務めている。
後に火星での事件(崩壊3rd第二部)とセント・フォンテーヌでの一件を経てヴェルトや虚空万象と共にスタレ宇宙に旅立つことになる。養い子は泣いた。

シーリン・アステル
アクトの養子。その姿はかつてのキアナと瓜二つだがシーリンの場合は髪を流している。
その正体はカカリア傘下の天命の過激派がかつてのオットーがかつて主導していた実験を下に作り上げられたキアナのクローン(K-423)のさらにクローン。その実験を叩き潰したアクトが見つけ出して保護し、テレサの協力を得て身分を偽装。キアナによって『シーリン』と名付けられた。
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