終わりから始まりへ
「ゴボッ……!!」
口から血の塊が吐き出る、間違いなく致命傷だ。助かる道は万の一つも無いだろう。
「ダメッ…!駄目だよアクト、死んじゃやだ!」
だと言うのに、俺という『悪人』を討ち取った筈の少女はその目から大粒の涙を溢して俺に駆け寄ってくる。
先程まで互いの信念を掛けて戦っていたはずなのに、少女はそんなことを気にせず地面に倒れようとする俺を支えたのだ。
「アクト、血が…血がぁ…!!」
「泣く、なよ『キアナ』……お前は、正しいことを、したんだぞ……」
泣きじゃくる親友をなんとか慰めようとする……『終焉の律者』になってさらに強くなったかと思ったけど、どうにも死に別れってのはキツイみたい……当然か。
「なぁ、キアナ……最期の頼み、聞いてくれよ……」
「やだ、やだ!最期なんて言わないでよぉ…!!姫子先生みたいに……私の前からいなくならないで……」
キアナは俺の身体から溢れる血を止めようと躍起になっていて俺の言葉が届いていない。仕方無いなとため息を吐いて、その顔を無理矢理俺に向けさせた。
「よく聞けキアナ……お前にはまだやることがあるだろう……ケビンを止めなきゃ、世界は終わるんだ……お前がやるんだ。お前と、芽衣と、ブローニャで……ゴホッ、ゴホッ…!!」
咳き込み、血反吐を吐いた。本格的に不味いかもしれない……だが、まだやるべきことが残っている。
そもそも、『終焉の律者』へと覚醒したキアナとこれだけの戦闘を行えたのが奇跡に近い。俺は律者でも戦乙女でもなければ、神の鍵だって持っちゃいない、ちょっと崩壊エネルギーへの膨大な耐性があるだけの人間なのだ。
「俺は今から、体内に取り込んだ崩壊エネルギーを暴発させて空間爆発を起こす。少なくとも俺の体内にあるエネルギーが消え去れば、今後人類が崩壊の危機に瀕する可能性は限りなく零になる……俺の命一つで今と未来の人類が救われるのなら、俺は迷わない」
「でも!でも、それでも私はやだよ!!アクトには生きてほしい!!私、私は…だって、アクトの事が──!!」
「……ありがとうキアナ。お前に…お前達に出会えて幸せだった」
キアナの言葉を遮って数歩後ろに下がる……もう、限界か。
アクトの身体から凄まじいほどの崩壊エネルギーが溢れ、大地を、空間を揺らす。もはやキアナ・カスラナに選択肢はない。今の彼女にはこれを止める術が無い。
アクトは頭上の月を見上げる。あそこにいるだろう一人の男は、結局自分を止めに来ることはなかった。計画に支障をきたす存在であれば排除しに来るものと思っていたが。
(芽衣、ブローニャ、姫子先生、テレサ学園長、フカ委員長、ヴェルトさん、アイン博士、テスラ博士……他にも沢山の人に世話になった……そして何より、キアナ)
これまで関わってきた人達の顔を思い浮かべながら、アクトは最後に目の前で泣きじゃくりながらこちらに向けて手を伸ばす親友の姿を見る。
何だかんだ三年近くの付き合いになった。初めて会った時はこんな関係になるなんて思っても居なかったが、悪くない時間だったと言える。少なくともアクトはそう感じていた。
「……ほら、前を向けよキアナ。お前は一人じゃないんだからさ」
「待っ、て……待ってアクト!!」
次の瞬間、膨大な崩壊エネルギーが彼の身体から溢れ全てを消し去らんとする。それによって空間が軋み、凄まじい光が放たれた後、そこに彼の姿は無く、そこにはかつてキアナが彼に贈った古びたペンダントが落ちているだけだった。
こうして彼の……アクトの物語は一旦の終結を見た。その後は物語の通り。『救世』を為さんとした
──そしてこれはその後の物語。己を犠牲にして道を切り拓いた彼へのささやかな報酬だ。
「………うっ………」
薄っすらと目を開く。だが襲い来る体の痛みから僅かに声を上げた。
起き上がれない事を悟った俺は何とか顔だけを動かして辺りを見回す。どこかの部屋……だろうか。見る限り誰かの自室のようで、そこに敷かれた布団の上に俺は寝かされているようだ。
「………俺は、生きてるのか………」
まさかまさかだ。あれだけの崩壊エネルギーを溜め込んで解き放ったのだから死んでいなければおかしいのだが……。
そもそもここはどこだろう。何故俺はここにいるのかが全く分からない。状況を見るに誰かに助けられたのだろうが。
とりあえず何とかして体を起こそうとするが上手く行かない。どうやらダメージが抜け切っていないようだ。
「おや。起きたのかい?良かった、かなり重症だったから一時はどうなることかと思ったよ」
「……ん?」
部屋の入口の方から声が聞こえ、そちらに目線を向ける。そこに立っていたのは一人の男だった。長い金髪と若草色の目に白い服を着た男の顔は、俺にとってはとても見覚えのある顔だった。
「ッ!
「うん?誰かと勘違いしてるのかな?」
驚きのあまり体を起こして後退ったが、男の反応を見て彼ではないと思い直した。いや、顔があまりにもそっくりなので警戒はしておこう。
「僕は……そうだな。羅刹とでも呼んでくれ。突然空から降ってきた君を治療したんだ。かなり重症だったからね」
男──羅刹と名乗った彼は俺の傍に膝を突くと俺の身体のあちこちを触り出した。
「うん。もう殆ど治っているね。いやぁ、一先ず安心かな」
「助けてくれたのか……ありがとう」
「構わないよ。僕は一介の行商人だけど医療も齧っていてね。もし不安ならちゃんとしたところで診てもらうことを勧めるよ」
立ち上がり、羅刹は微笑みを浮かべる。そんな彼に俺は疑問をぶつけてみることにした。
「ごめん、ここってどこなんだ?」
それを聞いた羅刹が少し目を見開いた。何かおかしいことを言っただろうかと考えていると、顎に手を当てた羅刹が神妙な面持ちで俺に話しかけてきた。
「すまない、君は……」
「アクトだ。そう呼んでくれ」
「分かった。アクト、君がいるここは仙舟『羅浮』。仙舟同盟が所有する旗艦の一隻にして超大型コロニーなんだ」
「………は?」
・アクト
崩壊3rd世界出身の少年。キアナや芽衣、ブローニャの親友にして男性でありながら崩壊エネルギーへの強い耐性を持つ逸般人。
実力もS級戦乙女に届きうるほどで、本人なりに頑張ってた。最後は世界に渦巻く崩壊エネルギーを自分諸共消滅させることでケビンとの戦いが終われば全てが平和に収まるようにしようとしたが、駆けつけたキアナとの戦闘で致命傷を負う。
結果的に崩壊エネルギーの殆どを使った自爆を敢行して3rd世界から崩壊エネルギーの大部分を消滅させることに成功した。
そして目が覚めたら死んでないどころか全く身に覚えのない場所にいた。
・キアナ・カスラナ
3rd世界の主人公。アクトとは聖フレイヤ学園に入学した当初からの親友。姫子を失った傷を乗り越えて、世界を守るために『終焉の律者』の力に覚醒したらアクトがやらかそうとしているのを知って全力で止めようとした……ら、結果的にアクトに死なれてしまい心に一生残りかねない傷を負った。
ケビンとの戦いの後、アクトの犠牲を無駄にしないよう残りの崩壊エネルギーを月に封印して自分も月に残った。偶にアクトの事を思い出しては泣いてる。