第四次忍界大戦のアイデアとして一度は考えていたものの、BORUTOの設定や内容が多く含まれるためにボツにした案があったのですが、せっかくなのでエイプリルフール企画という形で投稿してみました。間に合わずにエイプリルフールの次の日の投稿になりましたが、それでも読んでもらえると幸いです。
ただ、この話を読んでいただくにあたり三つの注意事項があります。
一つ目はネタバレに注意してください。この話は【IFエンド】という立ち位置なので『NARUTO』の最終話付近のネタバレを多く含みます。また、『BORUTO』の設定に関するネタバレも含まれております。それらのネタバレを見たくない方は注意してください。
二つ目は特定のキャラに対するアンチヘイトに注意してください。アンチヘイトの表現が嫌い、苦手な方は注意して読んでください。無理だと思った際はそっとブラウザバックをお願いします。
三つ目は、今話はかなり駆け足気味で話を書きましたが、結局馬鹿みたいに長くなってしまい、二万字を超えてしまいました。時間に余裕のある時に読んだり、何回かに分けてお読みください。
それでは本文をどうぞ。
【IFエンド】もしも◼️◼️が◼️◼️◼️だったなら
第四次忍界大戦も終盤に差し掛かっていた。
うちはオビトは十尾の人柱力になるも、うずまきナルトを中心とした忍連合に敗れ、十尾の元となった尾獣たちも解放された。原作ではネジを含めて大いに死者を出したこの戦いだが、右近と左近というイレギュラーな存在の活躍により、その多くが命を繋ぐ結果になっていた。
オビトはナルトとの対話を経て、この結果に満足していた。
だが、その直後に黒ゼツが十尾を引き抜かれて弱っていたオビトを操り『穢土転生』でこの世に口寄せされていたうちはマダラが生身の肉体で復活した。
マダラは復活して生身の肉体を得ただけでなく、柱間から仙術チャクラまで吸収してパワーアップを果たした。
十尾から解放されて喜んでいた尾獣たちも、マダラの輪廻眼固有の瞳術である『輪墓』によりあっという間に再封印されてしまった。これにより九尾を引き抜かれたナルトは瀕死になり、さらにはマダラに挑んだサスケも返り討ちにあって瀕死の重傷を負ってしまった。
そうして、尾獣を全て捕獲して十尾の人柱力になったマダラ。
マダラを止めるべくマイト・ガイが『八門遁甲』の最後の門である死門を解放して戦う。
激しい戦いの結果、ガイはマダラの半身を吹き飛ばすほどの傷を負わせるものの、死門を開いた反動により戦闘不能に。
それに対して、マダラは肉体を徐々に再生させて万全の状態に戻ろうとしていた。
「ははは!死ぬところだったぞこやつめ!」
久しぶりの死闘に心躍ったマダラが楽しそうに笑う。
「楽しませてくれた礼だ……俺の手で殺してやる」
そして、もはや死を待つばかりとなったガイにトドメを刺すべく『求道玉』を放つ。マダラにしてみればせめてもの慈悲のつもりだったのだろう。ガイほどの強者の死が自滅では可哀想だと、自分という更なる強者に負けて死ぬのが強者の死に様に相応しい、と。
だが、そんな一撃は唐突に現れたナルトによって防がれ、逆に『求道玉』を蹴り返されてしまった。
間一髪、咄嗟に首を動かすことで蹴り返された『求道玉』を避けたマダラだったが、その胸中は驚きでいっぱいであった。
(求道玉を蹴っただと……!?)
だが、その驚きこそが最大の隙であった。マダラの一生に一度の不覚。マダラにとっては生前、最後に柱間と戦った決着の時に起きた『木遁分身』を見破れなかったことと同じか、あるいはそれ以上の出来事だった。
ナルトがガイから受けた傷を癒そうとしているマダラを追撃するために接近しようとした瞬間、マダラの肉体に変化が起き始めた。
「な、なんだ……これは……!?」
「なんだってばよ……このチャクラは……!?」
マダラの狼狽ぶりに驚くナルト。
マダラの肉体の修復が突如として止まった。そして、失った半身の代わりと言わんばかりに、そこから右近が上半身を生み出していた。
「この瞬間を待っていたんだ。マダラ、お前が一番弱る、この瞬間をな!」
「馬鹿な……いったい、いつ俺の体の中に潜んだ!?」
「さあねぇ……自分で考えてみたらどうだ?」
右近はマダラがガイに瀕死の重傷を負わされるタイミング、すなわち、原作でマダラが一番弱っていたこの瞬間を狙っていた。
右近はマダラとガイが戦い始めるより前にガイの肉体に融合しており、ガイが放った最後の技である『夜ガイ』に合わせてマダラの体内に侵入していたのだ。
「クソ……!俺の体から出ていけ!」
「いやぁ、そんなことはしないねぇ……だってそうだろう?せっかくここまでお膳立てしてくれたんだ!据え膳食わねば男の恥ってぇ、言葉もあるぐれぇだからなぁ!」
「何を……!?貴様は何を言っているんだ!!?」
右近とマダラのやり取りが続く中、ナルトが会話に割り込んだ。
「テメー……誰だってばよ……?」
「……?俺のことか?」
「そうだってばよ!右近みてえな顔してるが今の俺は誤魔化せねえってばよ!お前は誰だ!?」
顔は間違いなく右近だ。それはナルトにも分かっている。
しかし、仙人モードによる感知能力が右近のチャクラではないと教えている。何度か会って会話したナルトからしても違和感があるほどに話し方が違う。
だが、何よりも──九尾の人柱力としての悪意を感じ取る能力が反応している。この右近の顔をした何者かは途轍もない悪意を持った存在だと。まるで人間の負の感情を凝縮したような悪意の塊のような存在だと、ナルトと九尾は感じ取っていた。
「ク、ククク──アーハッハッハッ!!!!」
ナルトの指摘を受けた右近の顔をした何者かが、その化けの皮を自ら脱いで笑いだす。底意地の悪さを感じる笑い方。やはり、明らかに右近とは違う存在だとナルトは確信する。
「ク、クク──そうさ!俺は右近じゃあない!とは言っても?俺は左近としてずっと右近と一緒にいたからなぁ……ある意味では俺も右近だとは言えるんだがなぁ!」
「ごちゃごちゃ言ってんじゃねえってばよ!お前は誰だって聞いてんだ!」
ナルトの問いに対してはぐらかすような言動をする左近。ナルトは相手の言動に苛立ちを感じ、再び問いただした。
その問いに、ついに左近が答える。
「そこまで聞くなら俺の本当の名を名乗ってやるぜぇ!俺の名は大筒木サルシキ!!」
「大筒木っ……だと?」
左近の正体は大筒木一族が一人、大筒木サルシキだった。
その名乗りにナルトは目を見開いて驚愕した。なぜなら、ナルトはつい先ほど、大筒木一族のことを少しばかり六道仙人から聞いたばかりだったにも関わらず、サルシキなどという存在のことを何も聞かされていなかったからだ。
六道仙人が知らないのも無理はない。なぜなら、大筒木サルシキという人物は太古の存在である。それこそ、六道仙人の実母である大筒木カグヤがこの星に来るよりも前に生きていた存在なのだから。
大筒木サルシキとは大筒木一族の中でも邪悪な存在だった。
大筒木一族は二人一組で宇宙を旅して星から星へと渡り、行く先々の星の生命を神樹によって回収し、それを吸収して成長していく星の侵略者たちである。
神樹を育てるためには最終的に大筒木一族が生贄になる必要がある。ただし、生贄と言っても本当に死ぬわけではない。生贄になる直前に『
だが、サルシキは力を手に入れるために二人一組で旅する相方であるはずの大筒木すらも神樹の生贄にして同族喰いをしてしまう邪悪な男だった。
そんなおり、当時すでに大筒木一族の中でも特に力を持っていた大筒木シバイがサルシキの危険性を把握し、サルシキの肉体を遺伝子情報の一欠片すらも残さないように神術で消し飛ばした。
だが、同族喰いにより力を付けていたサルシキは肉体を滅ぼされても魂だけでこの世にしつこくしがみついていた。そのまま放置すれば、いずれ再びサルシキが力を持つことが分かったシバイは、サルシキの魂を異空間へと厳重に封印した。
異空間に封じられたサルシキはそれでも諦めなかった。永遠に持続する封印などあり得ないと、こつこつ封印を解こうともがき続けた。何十年、何百年とかけて封印を解こうとしていたサルシキは、ついに封印にか細い穴を空けることに成功した。
その穴はサルシキが脱出できるほどではなかったが、それでも外界へと干渉できる唯一の穴だった。
サルシキはその穴から手を伸ばし続けた。その様子は釣りによく似ていた。細い細い穴から糸を垂らし、何かが引っ掛かるのを永遠にも等しい時間待ち続けた。
そしてついに、一つの魂が引っかかった。そう、それこそが右近の魂である。
サルシキは右近に対して悪魔と名乗り、感情を与えると嘘をついて自身の魂の欠片を与えた。その魂の欠片こそが左近である。
そうしてついに、サルシキは右近から肉体の主導権を奪い取った。全てはこの時、弱ったマダラから十尾を抜き取り、再び力を手にすることで本体の魂を解放し、いずれ自身を封印したシバイへと復讐を果たすために。
疑問に思ったことはなかっただろうか。転生した右近と左近という特大のイレギュラーがありながら特に大きな原作改変が起きなかったのは何故か。
答えは左近として活動していたサルシキが、右近に気づかれないように誘導することで、できるだけ原作どおりの展開になるように調整していたからだ。
この瞬間を生み出すためだけに。
そうやって、左近という隠れ蓑から抜け出し、ついに悪意の塊のような本性を剥き出しにしたサルシキに戸惑うナルト。
その存在がどういったものなのか、なんのために現れたのか、右近の体を奪ったとはなんなのか。聞きたいことは山ほどあるナルトだったが、それよりも先にマダラが動いた。
「この!耳元でべらべらと……!いい加減に俺の体から出ていけ!」
マダラは半身から生えるサルシキを押しのけようと残っている片腕を伸ばしたが、暖簾に腕押しとばかりに手応えはなく、サルシキを退かすことはできない。
「いいぜぇ!出て行ってやるよ!お前から貰うもん貰ったらなぁ!」
「何を……!?」
困惑するマダラを差し置いて、サルシキはマダラの体から這い出てくる。だが、当然ながら悪意の塊のようなこの男がタダで体から出て行ってくれるわけもない。
「貰うぜぇ!お前の中にある十尾をなぁ!」
「お、おおおォォォォッ───!!!?」
「なんだってばよ、いったい!?」
サルシキがマダラの体から這い出ようとすればするほど、マダラは体から何かがごっそりと抜け落ちていくような感覚を覚えて、その恐怖から悲鳴混じりの叫び声をあげた。
それを黙って見届けているナルト。彼はこの第四次忍界大戦を決着させるにあたって最大の敵と目されていたマダラが叫び声をあげて抵抗するという、少し前まではとてもではないが考えられない光景を目にして、思考が止まってしまっていた。
本来ならば止めに入ったほうがいいのだろう。サルシキと名乗った存在から感じられる悪意を考えれば、サルシキが行おうとしていることを止めるべきなのは明らかである。だが、先ほどまで戦っていたマダラを助けるべきだとは思えず、結果的に見ていることしかできなかった。
ナルトが見届ける中、ついにサルシキがマダラの肉体から完全に抜け出した。
「ククク……貰ったぜぇ、十尾をな」
マダラから十尾を奪ったサルシキ。十尾の人柱力となったことで、その姿は大きな変化を遂げていた。
両目ともに輪廻眼へと変化しており、額の両サイドからは鬼のような鋭い角が生え、全身の肌は薄いライトグリーンになっている。
それとは対照的に、十尾を抜かれたことでマダラは元の姿へと戻ったうえで、著しく弱っていた。ガイに付けられた傷も再生できておらず、もはやその命は風前の灯に見えた。
だが、それでも──
「返せっ……!それはっ……はぁっ……俺の計画にっ……必要なものだっ……!」
息を絶え絶えになりながらも、マダラは『無限月詠』を諦めきれず、サルシキの足に縋り付くように腕を伸ばした。
「マダラ……」
その様子を見てナルトは何を思ったのか。最大の敵であったはずのマダラの情けない姿を見たことに対する喜悦か、あるいは、この土壇場で計画を邪魔されたことに対する憐憫か、はたまた、無惨な姿になっても計画を達成しようとする姿勢への敬意か。マダラへ複雑な感情を抱いたナルト。
そんなマダラの懇願にも似た要望も、サルシキには通用しない。
「くはっ!笑わせんなよ!テメーみたいな人の手の平の上で踊ることしかできない馬鹿に十尾はもったいねぇ!」
「なんだと……?」
「そもそも十尾ってのは俺みたいな大筒木一族のもんだ。それをテメーらみたいな一介の忍風情が好きに弄ってんのがおかしいのさ。それに……ク、ククク……」
話している最中に何かを考えて笑いだすサルシキ。そんなふざけた態度にマダラは怒りが込み上げてきた。
「何がおかしい……!」
「お前は知らないだろうがなぁ!お前の行動は全部誘導されてたのさぁ……あのゼツとかいうヤツになぁ!あいつも大筒木一族の仲間さ……くふっ……残念だったなぁ……ゲッゲッゲッ!!!」
「そんな…………」
サルシキから衝撃の真実を聞かされたマダラの目から光が消える。計画を邪魔された挙句、これまでの全てを馬鹿にされた絶望は計り知れない。
「まぁ、なんだぁ……お前みたいな夢見がちな阿呆にはお似合いの最期だぜ」
そう言いながらサルシキは掴まれている足を持ち上げてマダラの手を振り解く。絶望したマダラの手には力がこもっておらず、簡単に振り解かれた。
そして──
「あばよ」
「あっ──」
サルシキが持ち上げた足をそのままマダラの頭蓋に落とした。
グチャリッ──鈍く、そして生々しい音を立ててマダラの頭蓋骨が踏み潰され、マダラは最後の言葉を吐くこともなく、呆気なく死亡した。
「十尾のついでにこいつもいただいておくか……」
「テメー……なにやってんだってばよ……」
自分で踏み潰した無惨な遺骸を弄るサルシキ。悍ましいその光景にナルトは吐き気が込み上げてくる。
「何って……もったいねえからなこいつの輪廻眼が。だから再利用してやるのさ、こんな風にな」
「っ……!?」
ナルトの問いに対して答えたサルシキ。その言葉だけでは何を再利用したかったのかナルトには理解できてなかったが、サルシキが右の手の平を見せてきたことで、その意味が理解できた。
「その……手にあるのはっ……」
「そうさ、こいつの輪廻眼だよ」
サルシキの右の手の平、その中央にマダラのものだったと思われる輪廻眼が埋め込まれていた。ただ埋め込んだだけでなく、神経までもが繋がってるのか、手の平で輪廻眼がぎょろぎょろと動く。
あまりの冒涜的な光景にナルトは絶句した。だが、その直後、激しい怒りが湧いてきた。
ナルトにとってマダラは敵だった。マダラは忍界全てに喧嘩を売り、多くの忍を傷つけ、殺してきた。許すべきではない敵だ。
だが、だからと言って言葉巧みに絶望させて殺した挙句、死体まで弄ばれるほどのことをしたとはナルトには思えなかった。あの最後を見る限り、マダラはマダラなりに考えがあって動いていたはずだ。それがナルトの考えと相容れなかったとはいえ、無惨に殺されていい理由にはならない。
そして、何よりも、サルシキと名乗るこの男にはマダラに対する憎悪がなく、ただ純粋な悪意によってマダラを貶め、殺したことがナルトには理解できた。
(こいつを止めなくっちゃならねえってばよ……!なんとしても!)
ナルトの中で静かに覚悟が決まる。
ちょうどその時、ナルトが待ち侘びていた人物もその場に現れた。
「ッ──!これは……どういう状況だ……?」
六道仙人より力を与えられて輪廻写輪眼を開眼したサスケが、『穢土転生』で復活していた二代目火影の『飛雷神の術』で瞬間移動して現れたのだ。
サスケは現れた瞬間に困惑した。
当然である。今のこの場には最大の敵だったはずのマダラの無惨な死体があり、代わりに十尾の人柱力らしき顔立ちが右近に似てはいるが邪悪そうな人物がいるのだ。いくら状況判断能力に優れたサスケと言えど、一目で状況が理解できる状況ではない。
ナルトがサスケに状況を、サルシキと名乗る何者かが敵だと告げる前に、機先を制するようにサルシキが話しだす。
「役者は揃ったみてぇだが、悪りぃな……こっちにはまだやるべきことがあるんでねぇ」
言うが早いか、サルシキのすぐそばに黒い渦のようなものができた。黒い渦は大筒木一族ならほとんどの者が使える時空間移動の技だ。
それを見たナルトとサスケの動きは早かった。ナルトはこれ以上サルシキに何かをさせると碌なことにならないと直感し、サスケは黒い渦が時空間に関するものだと輪廻写輪眼により見抜き、二人ともがサルシキを止めようと動く。
ナルトは九尾のチャクラを使った超高速移動により殴り掛かり、サスケは輪廻写輪眼の固有瞳術である『天手力』によりサルシキの背後に瞬間移動して殴り掛かった。
だが、二人の拳がサルシキに当たるよりも早く、サルシキは空間転移して移動した。
「クソッ……!」
「チッ!」
攻撃が空振りに終わったことに二人が悔しがる中、サルシキは空間転移によりオビトの『神威』により作られた異空間へと移動していた。
そこにはオビトとサクラの姿があった。オビトとサクラは、九尾を抜かれたことで死にそうになっていたナルトを治すために、オビトの『神威』でその三名を異空間に飛ばして安全に治した後だった。
ナルトは治療後すぐに現実空間へと戻りマダラを倒しに行き、オビトとサクラはこの空間に残り、オビトが持つ輪廻眼を潰そうとしていた。
潰されそうになっていたのは元々はマダラの輪廻眼である。サルシキはマダラから奪った輪廻眼とのチャクラの繋がりを使って『神威』の異空間を探し出して移動してきたのだ。
「えっ!誰!?」
「誰だっ!?いや、それよりも……!いったいどうやってこの空間に侵入して来たっ!?」
突然サルシキが侵入してきたことに驚きを隠せないオビトとサクラ。
特にオビトは『神威』でしか出入りできないはずという先入観があるからこそ、サルシキがこの空間に侵入して来たという事実に大きく動揺していた。
「いったいどうやって?──だってぇ?クックッ……そんなこと考えてる暇はねえだろ!」
サルシキはオビトの声真似をしながら嘲るように笑いを漏らしたと思えば、突如として凶悪な言葉遣いに変わり、オビトへと襲いかかる。
(速いっ──!)
「えっ──」
オビトは咄嗟に近くにいたサクラに手を伸ばし『神威』によりサクラを現実空間へと移動させた。
その間、サクラは一切の反応を見せることができなかった。写輪眼により高い洞察力を持つオビトが、その力を最大限に使って未来予知かのような反応速度を見せたからこそサルシキの速い動きに反応できたのだ。
だが、オビトでさえも反応できたのはそこまでだった。サルシキの魔の手がオビトに迫る。
その頃にはオビトにもサルシキの狙いが読めていた。狙いは自身の持つ輪廻眼だと。輪廻眼を狙われるということは、眼球を抉られるということ。これから来る痛みにオビトは身構える。
「いただくぞ……その輪廻眼!」
「っ……!」
サルシキの宣言によりオビトは諦めるように両目を閉じた。
だが、刹那の後に来るはずの痛みは来ず、それどころか触られた感覚すら無かった。
オビトは恐る恐る両目を開けた。しかし──
「な、なんだ……これは……!?」
オビトの感覚としては両目を開けている。だが、視界は片方しかない。
サルシキが輪廻眼を取らなかったわけではない。その証拠に、オビトの視界にしっかりと映るようにサルシキは左の手の平を見せつけるように突き出した。
「確かにいただいぜぇ」
「馬鹿な……いったいどうやって……!?」
オビトはその光景を目にして『神威』空間に侵入されたことよりも驚き、そして恐怖していた。痛みもなく、触られた感触もないままに肉体の一部を奪われる。それは、見ていた映画が急にホラー映画に変わったような、平穏な日常が侵されたような感覚だった。
サルシキは悪戯が成功したかのように舌を出してオビトを嘲笑う。
「どうやって?ねぇ、どうやって?……子どもかよ。そんなんだからマダラにも利用されたんじゃねぇの?」
「チィッ……」
サルシキの幼稚な煽りにオビトは舌打ちをする。まともな返答など期待していなかったオビトだが、ここまで苛立つ返しをされるとは予想していなかった。
サルシキはオビトにわざわざ解説するつもりはなかったが、先ほどサルシキはオビトに触れる瞬間に『双魔の攻』を発動してオビトと融合した。そして、オビトの持つ輪廻眼を他の細胞と切り離してからサルシキの左手の細胞と再接合し、その後でオビトとの融合を解除したのである。
融合、細胞単位で眼球の切り離しからの再接合、融合解除。この三つの動作をオビトにも気付かれないように痛みを与えないほどに繊細に、それでいて瞬く間に終わらせるほど超高速で行われていた。
神業だと言わざるを得ない。それほどの高等技術だった。
だが、なぜ痛みを与えないようにしたのか疑問が残る。眼球を抉り出してから『双魔の攻』で融合してもよかった。マダラの遺骸から引き抜いたように殺して死体から奪ってもよかった。
それをしなかった論理的な理由はない。逆に言えば、論理的ではない理由ならあったのだ。
「どうだ?驚いたか?ゲッゲッゲッ!そういう驚いた顔を見たかったのさぁ……お前らみてぇな真面目ちゃんどもを揶揄うのは気分が良いぜぇ!ゲッゲッゲッ!!」
「お前っ……!」
ゲラゲラと笑うサルシキ。その意図は人を揶揄い、嘲笑うためだけにあった。
「そんでよぉ……次はお前だぜぇゼツさんよぉ」
「オレニナンノヨウダ……!」
「分からねぇのかよ……ホントに使えねぇヤツだなぁテメーはよぉ」
「ナンダトッ!?」
オビトの半身に取り憑いている黒ゼツに語りかけ、無能と揶揄するサルシキ。訳もわからずに馬鹿にされた黒ゼツは憤りを感じて声を荒げた。
「マダラとオビトを言葉巧みに操って十尾を復活させる……その手腕は褒めてやるがよぉ……馬ッ鹿じゃねぇの?たかがその程度の仕事にいったい何年かかったんだよ、お前の母ちゃん泣いてんぞ?」
「キサマッ!イッタイナニヲシッテイルッ!?」
「何もかもさ親不孝もん!大筒木カグヤの腰巾着!一人じゃあなんもできねぇ寄生虫もどきがよぉ!ゲッゲッゲッ!!」
オビトだけでなく黒ゼツも笑うサルシキ。
黒ゼツは大筒木カグヤが六道仙人に封印される前に生み出された存在である。
黒ゼツの目的は封印されたカグヤを復活させること。そのために百年以上も前からずっと暗躍を続けてきた。マダラもオビトも、黒ゼツに操られただけの存在にすぎない。
だが、本当に暗躍し続けることが正解だったのか。サルシキは原作を知っているからこそ、それは馬鹿のすることだと断言したのだ。
サルシキがもしも黒ゼツの立場にいたのなら、まず間違いなく力を付けることを選ぶ。マダラやオビトを言葉で操って尾獣を狩るなんて回りくどい方法を使わず、自らの手で事をなそうとしただろう。そのための時間ならば、それこそ百年単位であったのだから。
例えば、力をつけながら隙を見てアシュラ、またはインドラの転生者の肉体を奪い取ることもできたはずだ。
特に、先代の転生者であるマダラと柱間は死闘を演じたこともあったほどだ。そのタイミングであれば、どちらか、あるいは両方の肉体を得るチャンスもあっただろうに、それもせずに暗躍ばかりをして来たからこそ、サルシキは思い切り馬鹿にしたのだ。
「ゲッゲッゲッ!無駄な時間をご苦労さん!無能なお前も俺が有効活用してやるよぉ!」
「ナニヲスルツモリダッ!?」
「まだ分かんねぇかぁ……お前を喰ってやるって言ってんだよぉ!」
「ナ、ナッ──!?」
黒ゼツの正体をサルシキは知らない。だが、おおよその当たりをつけていた。
サルシキの予想では、黒ゼツは『
だとするならば、黒ゼツは多少なりとも大筒木の遺伝子情報を持つ存在だということになる。
そして、黒ゼツが大筒木の遺伝子情報を含んだ存在だと言うならば、殺してから『双魔の攻』で遺伝子情報を吸収することが可能だった。
もしも黒ゼツが大筒木の遺伝子情報を持っていなかったとしても、カグヤ復活を目論んでいる黒ゼツはサルシキにとって邪魔な存在であり、殺しておいて損はなかった。
カグヤは現在十尾と一体化して封印されているがゆえに、外部から封印を解かれない限りは復活しない。そして、その十尾はサルシキがその身に取り込んでいる。
つまり、封印を解ける黒ゼツさえ殺しておいたら、カグヤ復活の目は完全になくなるのだ。
黒ゼツとサルシキのやり取りをオビトは口を挟むことはなかった。正確に言うならば、オビトは口を挟んでも何もできないという諦観と、「口を挟んだら殺す」というサルシキの視線によって、何もすることができなかったのだ。
「じゃあとっとと死ねマザコン」
「ヤメローーーーッ!!」
黒ゼツの必死の叫びを無視したサルシキは黒ゼツの頭に触り、マダラから奪った輪廻眼の力の一つである『人間道』を発動して黒ゼツの魂を抜き取って殺した。
魂の無い抜け殻となった黒ゼツは、そのまま『双魔の攻』によりサルシキの肉体へと取り込まれていった。
「チッ──しけてやがる。作られてから年数が経ちすぎなんだよ、熟成されとけよカスが。最後まで使えねぇヤツだぜ」
取り込んだ黒ゼツから有益な能力を獲得できず、呆気なく黒ゼツを殺しておきながら罵倒したサルシキ。
「──おっと、このまま揶揄ってても良いんだが、生憎俺にはまだやることがあるんでなぁ……じゃあなぁ負け犬。自分のしでかしたことを後悔しながら無様な姿を晒しておけ」
最後にオビトに侮蔑の言葉を投げ捨て、サルシキは再び黒い渦を作り出して現実世界に戻って行く。
そうして、黒い渦にてサルシキが現れたのは神樹の頂上、蕾の部分だった。
「ゲッゲッゲッ──こっからだぜぇ、お楽しみはよぉ」
サルシキは神樹の頂上から下の世界を見下ろして舌なめずりをする。
神樹とは大筒木が星の命を吸い取るために使う木だ。その木をいかに育てるか、その方法は──
「さぁ……たらふく喰えよ神樹!餌の時間だぞ!!」
サルシキが宣言しながら足元の神樹を蹴飛ばすと、その言葉を待っていたかのように、神樹は嬉々として根や枝の先を木龍へと変えて、辺りに散らばっている忍たちに襲いかかった。
大人しくしていたはずの神樹が突如として牙を剥いてきたことに忍たちは戸惑う。さらに、忍たちはここまで連戦続きである。心身ともに疲弊しきっている状態ではろくに抵抗することすらできず、続々と木龍に捕まってはチャクラを根こそぎ吸い取られてミイラのように干からびて死んでいく。
「ク、ククク───アーハッハッハッハッ!!!そら!喰えよ喰え!もっと喰らってぶくぶく育て!!」
ギャアギャアと、地上から聞こえてくる悲鳴を聞きながら悦に浸るサルシキ。
このまま神樹の頂上に座して悲鳴を肴にワインでも飲みたいほど上機嫌なサルシキだったが、その喜びを汚すように一筋の不快さが混じる。
「あん?神樹に抵抗してる奴らがいるなぁ…………あぁ、穢土転生の火影どもが中心になって抵抗してやがんのか」
地上を見下ろして眺めてみると何人かの忍たちの抵抗により、神樹がチャクラを奪えていない箇所があった。そこには大蛇丸に『穢土転生』された火影や、今代の五影といった忍界でも屈指の実力者たちや、ナルトとサスケという六道の力を得た強者たちが、必死に忍連合を木龍たちから守り抜いていた。
特に、『穢土転生』された者たちは使えるチャクラに制限がなく、また、神樹から生きていると判定されてないからか神樹から積極的に狙われていないので、木龍に効果的に対処できていた。
また、『穢土転生』の柱間と扉間はマダラの攻撃で身動きを封じられていたが、サルシキがマダラを殺害したために自由を取り戻していた。
「あいつらがいない箇所は順調にチャクラを吸えてるからほっといても良いんだが……」
サルシキの言葉どおり、神樹によるチャクラの吸収は順調そのもの。一部の者たちの抵抗を放置しても今のところは支障はない。強者のいない場所でのチャクラの吸収が一段楽すれば、その分の木龍を他の場所に回せるので、いずれは倒せるだろう。
ただし、現状で苦しんでいる忍連合に対して、サルシキがさらに追加して攻撃を加えるのは非常に有効な手段である。
とは言え、今までの行動で分かるとおり、サルシキが論理的な思考で行動することはない。
「まぁ、せっかくだしちょっかいかけてみるかぁ!その方が面白そうだしなぁ!」
戦略上の有利を取るためではなく、地上で足掻く忍たちに嫌がらせをする方が面白いという理由で攻撃することを決めたサルシキ。
だが、隕石降らせたり尾獣玉落としたりといった広範囲を巻き込む攻撃は神樹を傷つける可能性が高いためにしにくい。やるならばピンポイントでの狙撃。
サルシキは土遁で拳大の石を生み出し、右手で強く握って振りかぶった。
そして──
「ピッチャー第一球……投げました!」
自分自身で野球実況の真似をしながら投げた。まことに今の戦場には似つかわしくないふざけた言動だが、地上へと投げ下ろされた石は音の速さを超え、大気摩擦により赤熱化しながら地上に向かう。
狙われたのは木龍へ一番抵抗できていた『穢土転生』の柱間だった。狙われた柱間よりも早く、常にチャクラ感知を続けていた扉間が反応した。
「兄者、上だ!」
「っ……!?」
扉間が柱間に注意を促した瞬間には柱間は体を動かしていた。それにより致命傷は避けたものの、石が右腕に直撃したことで二の腕から先の部分が千切れて吹き飛ぶ。
『穢土転生』の体ゆえに石が当たった程度ではすぐに直る。だが、直るまでは戦闘力が落ちるのは間違いない。特に、神樹から忍連合の者たちを守るために奮戦している今のタイミングならば、負傷とはすなわち守るべき者たちの命に直結してしまう。
たかが石を投げられただけだが、嫌がらせとしては十二分な効果があった。
「チッ……この状況を引き起こしている者も動き出したか」
扉間が舌打ちをして状況を分析する。
扉間は戦闘能力や術の開発力も優れた忍だが、同時にチャクラ感知能力にも優れている。その能力を用いてこの戦場全体の状況を把握することで、邪悪なチャクラを持つ何者かがマダラを殺したことや、その者が神樹の上に陣取っていることから、今の敵がその者─サルシキであることまでを理解していた。
扉間はそこまでを理解していたうえで、動くに動けなかった。
扉間はこの状況を収めるために、忍連合の多くを見捨てでも、まだ余裕のある『穢土転生』の歴代火影、今代の五影、ナルトやサスケなどの一部の強者などの多くをサルシキへと送り込み、神樹を止めさせるべきだと考えていた。多少の犠牲を被ってでも元凶を止める。その考えは冷徹ながらも現実を見た客観的なものであった。
だが、柱間がそれを否定した。
柱間も現実的に全てを守るのは難しいとは思っていた。だが、この戦いを乗り越えたところで、忍連合が壊滅していたのでは意味がないと考えていた。
ゆえに、疲れを知らない『穢土転生』の自分たちができる限り神樹からの攻撃を防ぎ続けるべきだと、そう主張したのである。
扉間は柱間の意見に理解を示して尊重した。だからこそ、先ほどのようにサルシキに攻撃を続けられると、いずれ神樹への対処が覚束なくなる可能性が高いことが扉間には分かった。
「一球目は腕か……なら次は足を狙うかねぇ」
扉間がサルシキの脅威度を測っている間にも、サルシキは石飛礫の二球目を用意していた。次の狙いは柱間の足。
「サル!」
「分かりました!」
扉間が三代目火影─猿飛ヒルゼンを愛称で呼び、それにヒルゼンも応えた。
次の瞬間、再び柱間に向けて音速を超える速度で投げられた石飛礫。
それを──
「フンッ!」
ヒルゼンが口寄せした猿魔が変化した金剛如意で打ち払った。石飛礫は金剛如意とぶつかった衝撃で砕け散った。
「面白えじゃねぇか……何球目まで打てるか遊んでやるよ」
サルシキからすれば、この攻撃は所詮嫌がらせ目的のお遊びである。遊びが的当てから野球になったと思えば、楽しみが増えたとも言えた。
サルシキはニヤリと笑い、狙いを柱間からヒルゼンへと変えて石飛礫をどんどん投げ落としていく。
音を超える速度で雨あられの如く降り注ぐ石。だが、いくら速く投げられたとはいえ、ただの石では火影にまで登り詰めた男には当てられない。
サルシキは時折、風遁を使って変化球を投げたり、『超加重岩の術』を使って重い球にしたりと工夫を凝らしたが、全て打ち落とされた。
「チッ……流石に当たんねえなぁ」
サルシキはこの程度の攻撃ではヒルゼンに当てられないと悟る。それと同時に、遊びで始めた攻撃だったからこそ、上手くいかないことに苛立ちを感じていた。
「はぁ……面白くねぇ、飽きた」
溜め息を吐いてぼそりと呟き、手に持っていた石を放り投げた。
まるで子どものような態度だが、なまじ力があるからこそ質が悪い。
「遊んでた間に神樹のほうは忍連合の半分ぐらいは喰えたみてぇだが、やっぱり歴代火影やら今の五影やらが邪魔になってるか……」
サルシキが遊びに夢中になっていた間の神樹の進捗を確認すると、忍連合の半分ぐらいからチャクラを回収していたが、歴代の火影や今代の五影の奮戦と、それを見て奮い立った一般の忍たちの頑張りにより、それ以上の回収はできなくなっていた。
「チッ、しゃあねぇなぁ……俺が直接行くしかねぇか」
サルシキがぼやき、仕方がないと言わんばかりの態度のまま、神樹の上から飛び降りた。普通ならばそのまま地面へと落下して赤黒い染みになるところだが、残念ながら大筒木一族は空を飛べる。
サルシキは重力に従ってしばらく落下した後、地面に激突する寸前にふわりと浮き上がることで、無傷のまま簡単に着地した。
着地した場所は柱間、扉間、ヒルゼンの目の前。初代から三代目までの火影が勢揃いしており、その背後には彼らが守っていた忍たちがいた。
四代目火影である波風ミナトは『飛雷神の術』で戦場全体を飛び回って忍たちを助けていたのでこの場にはいない。
「こやつ……強いぞ」
「分かっておる……」
「ぬぅ……」
一眼でサルシキの脅威度を見抜いた柱間は、扉間とヒルゼンに警戒を促すために呟いた。扉間も同意しており、ヒルゼンもまたサルシキが纏う強者のオーラを前にして唸っていた。
心の底から警戒している三人。しかし、それと対峙しているサルシキは至って余裕そうな態度を崩さない。
「そういうお前らは実に弱そうだなぁ……まぁ、生身ならともかく、そんな低レベルな肉体じゃあしかたねぇか」
「貴様ッ……!」
サルシキが火影たちを馬鹿にし、特に『穢土転生』の体を弱いとハッキリと断言した。
それに対して、『穢土転生』の開発者でもある扉間の口から怒気が込もった低い声が漏れた。
「だってしょうがねぇだろう?穢土転生の体なんざ、輪廻眼の力を使えば簡単に対処できるんだからなぁ──」
肩をすくめながら語るサルシキだったが、語りの途中に飛行能力を使って地面を滑るように高速で移動し、ヒルゼンの前へと躍り出た。
「なっ!?」
「サル!」
「もう遅えよ!」
狙われたヒルゼンは驚き、柱間が発した警戒の声よりも早く咄嗟に避けようとするが、逃げきれずにサルシキに腕を掴まれてしまった。
「終わりだ」
「が、がっ──」
サルシキは宣言とともに『人間道』を発動し、ヒルゼンの魂を肉体から呆気なく、瞬く間に引き抜いた。
「サル!?」
「馬鹿なっ!?」
ヒルゼンの魂が引き抜かれたことで、『穢土転生』のヒルゼンの肉体がぼろぼろと崩れて塵になり、そこには死体となった白ゼツが残された。
『穢土転生』は死者の魂を生者の肉体に口寄せする忍術である。その魂を引き抜かれたなら、術は解けるのが道理である。
本来なら魂を抜き出すのは難しい術だ。特に、ヒルゼンほどの強者から引き抜くとすれば、いくらサルシキが大筒木一族とはいえ、分単位で時間がかかるのが普通である。
だが、それは魂と肉体が一致している場合の話であり、抜かれる魂が『穢土転生』の場合は話が変わる。『穢土転生』により無理矢理に肉体に口寄せされた魂は、肉体との結びつきが薄いのだ。
ゆえに、こうして簡単に魂を引き抜かれてしまう。
あっさりとヒルゼンを殺したサルシキに度肝を抜かれた柱間と扉間。
二人の驚いた顔を笑いながらサルシキが語る。
「クックッ、呆気ねぇなぁ!オビトとマダラも馬鹿な連中だ……こんな簡単に無力化できるのによぉ!やっぱり輪廻眼の力を引き出せるのは俺みたいな大筒木しかいねぇってことだ」
火影だけでなく、オビトとマダラも馬鹿にするサルシキ。
扉間はサルシキの語った大筒木という単語に疑問を持ちながらも、兄である柱間に警戒するよう呼びかける。
「兄者、見て分かったとは思うが、体に触れられるなよ!魂を抜かれてしまうぞ!」
「分かっておる!」
「警戒しても無駄だぜぇ!!」
サルシキは限界まで集中して警戒している柱間と扉間に向けて両腕を伸ばした。
その動作だけで危険を察知して後ろに飛び下がった柱間と扉間だが、サルシキの言うとおり、その行動は無駄に終わる。
「万象天引!」
「何っ!?」
「なんだこの術は!?」
サルシキは輪廻眼の瞳術の一つである『天道』の『万象天引』を発動させ、柱間と扉間の肉体を己に引き寄せる。
柱間と扉間は見たこともないような術に驚きながらも、柱間は体から出した木を地面に食い込ませて根を張ることで抵抗し、扉間はそんな柱間が出した木の一部に捕まることで抵抗した。
だが、それでもサルシキの放った『万象天引』の引き寄せる力は凄まじく、体が徐々にサルシキに近づいていく。
「くっ……ならば!」
このままではサルシキの手に掴まれると判断した扉間は『飛雷神の術』を発動して瞬間移動で逃げようとする。
確かに、その方法ならば『万象天引』の引力から逃れることはできる。しかし、それを目の前で許すサルシキではない。
「おっと、お前がこの場所から逃げたら忍連合を攻撃するぜぇ……助けられる自信が無いならおすすめはしねぇなぁ!」
「チッ!」
サルシキは扉間を脅迫し、それが口先だけではないと見せるかのように、輪廻眼の瞳術の一つである『修羅道』を用いて肩の部分から人を詰められるほどの大砲を口寄せし、その砲門を扉間たちが守っていた忍たちの方へと向けた。
その様子を見せられて、引き寄せに抵抗しながら舌打ちする扉間。すでに大砲には『尾獣玉』に匹敵しそうなほどにチャクラが貯められており、それが発射されればどうなるかなど、聡明な扉間には簡単に理解できた。
「くそっ……」
「さぁ、どうするよ?ええ?火影様よぉ……」
有効な手立てをすぐに思いつかず、引力に抵抗する柱間と扉間を煽るサルシキ。自らの勝ちを確信したサルシキは、舌なめずりをしながら余裕のある態度で『万象天引』を維持する。
そして、抵抗も虚しく、扉間が掴んでいた木が折れたことで、扉間の体が勢いよくサルシキに引き寄せられた。
「しまっ──!?」
「扉間!」
「はい、お一人様ご案な〜い!」
ふざけた小芝居をしながら扉間の首を左手で掴んだサルシキ。すぐさま『人間道』により扉間の魂を借り物の肉体から引き摺りだそうとする──が、ヒルゼンの時とは違い、すぐには引き摺り出せなかった。
扉間は『穢土転生』の開発者である。それゆえに魂の扱いにも精通している。つまり、扉間は『人間道』による吸魂にある程度は抵抗できるのだ。
先ほど、危なそうな発言をしたのはサルシキの隙を生み出すためのフェイクだった。
「あん?」
(隙ありだ!)
『人間道』の手応えに小首を傾げるような動作をしたサルシキ。その隙を見逃さず、扉間は超至近距離で『天泣』という術を発動させ、口内に溜めていた水分を勢いよく吐き出した。
まるで唾を吐きかけるかのような術だが、ノーモーションかつチャクラを貯めることもなく発動されたことでサルシキは反応できず、さらにはその勢いはマダラの『須佐能乎』にすら弾かれずに突き刺さるほどの威力がある。
扉間の狙いはサルシキの眉間。一撃の下に脳天を貫いて即死させようとする。
狙いを過たずにサルシキの眉間に向かって放たれた『天泣』がサルシキの眉間を貫く寸前、サルシキの額に当たる前にパンッという音を立てて弾かれた。
「何ッ!?ぐ、あっ──」
「悪いな。それは知ってる」
サルシキは扉間の『天泣』を原作知識から知っていた。ゆえに、扉間が近づいた瞬間にはもうすでに備えていた。
使った術は『天道』の『神羅天征』。『万象天引』の逆で、あらゆるものを弾き飛ばす斥力を発生させる。
『神羅天征』を発動させるために『万象天引』の発動を止めたので柱間は自由になってしまったが、それと引き換えに『天泣』は当たる直前に弾かれたのだ。
『天泣』による不意打ちが失敗したことに対して扉間が驚愕する暇もなく、『人間道』により魂を引き抜かれて扉間の肉体が塵になる。
「さて、残るはお前だけになったな」
「くっ……扉間まで」
サルシキの強さを目の当たりにして怯む柱間。
生前の時ならば柱間にも勝ち目はあったかもしれない。だが、大蛇丸が使用した『穢土転生』の肉体では生前の全力を引き出すことができず、また、『人間道』のせいで体に触れられれば魂を引き抜かれて即死する。
いくら“忍の神”とまで謳われた柱間と言えど、この状況に苦い顔を隠せないでいた。
「そら、もう一回だ」
「ぐっ……!」
サルシキが再び『万象天引』を発動したことでサルシキに引き寄せられる柱間。
先ほどよりも『万象天引』の引力はかなり強くなっており、柱間はさらに太い根を地面に張り巡らすことで、その引力から逃れていた。
「それはもう飽きたぜ!」
サルシキは右手で『万象天引』を発動して柱間を引き寄せながら左手に『求道玉』を形態変化させて巨大な黒い手裏剣を作り出し、勢いよく柱間に向かって投げた。
「くそっ……!」
『万象天引』で常に引き寄せられている柱間には回避という選択肢はない。回避しようと地に張り巡らせた根を動かそうとすれば、あっという間にサルシキに捕まってしまうことは目に見えていた。
柱間は仕方なく『求道玉』で作られた手裏剣に対抗しようと木遁により多数の極太の大樹を生み出したが、『求道玉』はその尽くを切り裂いて柱間の肉体まで真っ二つにした。
「ぐっ……」
「これでお前も終わりだ」
柱間は致命傷を受け、さらには根から切り離された結果『万象天引』の引力から逃れられなくなり、サルシキへと高速で引き寄せられて掴まってしまった。
柱間を掴まえたサルシキは再び『人間道』を発動させ、柱間の魂を完全に引き抜いた。
その瞬間、一筋の黄色い閃光と青い閃光が戦場を駆け抜けてサルシキの目の前に現れた。
黄色い閃光と青い閃光の正体──それは六道の力を得たナルトとサスケだった。
ナルトは九尾のチャクラを用いて、サスケは『千鳥纏い』を用いて高速移動することで戦場を横断したのだ。
二人ともサルシキに逃げられた後、襲いかかってきた神樹から忍たちを守っていたのだが、ナルトが仙人モードの感知能力と九尾の悪意を感じ取る能力によりサルシキの動きを感知したことで急いで駆けつけていた。
だが、僅かに間に合わず、歴代の火影たちはサルシキに敗れてしまった後だった。
「遅かったってばよ……!火影のおっちゃんたちが……!」
「……」
ナルトは苦しそうな顔で初代から三代目までの歴代の火影が消えてしまったことに悲しみと後悔を感じており、対してサスケは鋭い目で冷静に状況を確認していた。
(穢土転生とはいえ歴代の影たちをこうも簡単に倒すか……なんらかの術によるものと見て間違いないだろう。だが、それよりも……)
サスケが心中でサルシキの力に警戒度を上げつつも、サルシキを一眼見た時から気になっていたことを質問する。
「お前、右近はどうした?」
「右近ねぇ。さぁ、どうしたと思う?」
「俺の予想では、大蛇丸の不屍転生と同様、お前が体を乗っ取っても右近の魂はまだ体の中にあると考えているが……どうだ?」
サスケの予想にサルシキはパンパンッと柏手をする。
「正解だぜぇ……お前の読みどおり、右近はまだこの体の中にいる。正解のご褒美だ、今から返してやるよ」
「何……?」
サスケがサルシキの言葉に怪訝そうな顔をする。普通ならば右近のことを返す必要性はないが、サルシキにも考えがあってのことであった。
「いやぁ……今も右近は俺の中でうるさくてよぉ……もう面倒臭えからいらねぇよ」
サルシキは右近から肉体の主導権を奪った。それにより今まで暴れ回っていたわけだが、その最中、右近はサルシキの体の中で常に声を上げていた。
「止めろ」「それ以上俺の体で好き勝手するな」と。
それをサルシキは鬱陶しく感じていた。気分としては極悪な犯罪者が仮釈放された感じだろうか。せっかく牢の外に出れたのに、常に保護観察官に口うるさく声をかけられているような感覚だった。
ゆえに、サルシキは右近を追い出すことにしたのだ。
サルシキが心底怠いとでも言いたげな様子を隠さずに宣言すると、サルシキの胸の辺りから右近の足が伸びていき、足から胴、胴から頭の順番に右近の肉体が引き摺り出されていき、最終的には完全に追い出されてしまった。
「よう右近、元気そうじゃあねぇか……気分はどうだ?」
「ぐっ……最悪な気分だよ……」
解放された右近に笑いながら煽るように声をかけたサルシキ。それに対して苦虫を噛み潰したような顔で応えた右近。
二人の関係は完全に破綻していた。そして、その力関係も。
「お前……俺を追い出す時に柱間細胞を全部奪ったな……!」
「あぁ、もらったぜぇ……お前にはもったいねぇもんだからなぁ!ゲッゲッゲッ!」
そう、右近の肉体にはすでにかつての力はない。そのことに愉悦を感じて下衆な笑い声をあげるサルシキ。
「まぁ、知らねぇ仲じゃあねぇしなぁ……ここでは見逃してやるよ、神樹から逃げられれば良いなぁ……んん?今の状態じゃあそれも厳しいかねぇ!ゲッゲッゲッ!!!」
「サスケ……すまん」
「力のないお前は足手纏いだ、早く失せろ」
サルシキに嘲笑われて鎮痛な面持ちの右近はサスケに一言謝り、サスケはそれに対して辛辣な言葉を返した。右近は暗い表情のまま急いでこの場を去っていった。
右近にも分かっていたからだ。柱間細胞が完全に奪われた今のままでは足手纏いだという現実が。
「ギャッギャッ!味方のはずのサスケにまで足手纏いって言われてやがる!面白れえなぁ!ギャッギャッ!!」
サルシキはサスケにまで罵倒された右近のことが相当ツボに入ったのか、腹を抱えて大爆笑していた。
一方で、味方を否定したサスケの言い方にナルトは憤りを感じていた。
「おいサスケ!お前っそんな言い方はねぇだろうがっ!」
「黙って目の前に集中しておけ!気を抜いて勝てる相手じゃあないぞ!」
サスケの言うことにも一理あると思ったのか、ナルトはサスケからサルシキへと向き直る。
「ゲッゲッゲッ!勝てると思われているのは癪だが、まぁ……その希望に満ちた顔が絶望に歪む瞬間を見れると思うと楽しみではあるなぁ……」
「……!来るぞナルト!」
「分かってるってばよ!サスケ!」
大筒木サルシキ対ナルトとサスケ。
原作とは大きく変わったものの、第四次忍界大戦における大筒木の名を持つ者との決戦が今、始まった。
背後からナルトとサスケがサルシキと戦っている派手な衝撃と破壊音を感じながら、右近は必死に走っていた。
それは神樹から逃れようという動き──ではない。
むしろ、その逆、サルシキを止めるための一手を打つための動きである。
右近が戦場を一直線に走る。目的の場所は分かっていた。
なにしろ、サルシキは右近から柱間細胞を奪ったが、右近の技術は奪えていない。
右近はサルシキから離れた後に体の一部が蛇化するのも厭わない気持ちで急いで仙人状態になり、戦場を隅から隅まで感知していた。
全てはある人物の下へと向かうために。
その人物とは──
「大蛇丸様!無事でよかった!」
「そう、ありがとう。あなたも無事だったようね」
右近が今の状況で会いたかった人物、それは大蛇丸だった。
大蛇丸を発見した右近は大蛇丸からの言葉も返さず、すぐに要件から話しだす。
「大蛇丸様、屍鬼封尽の死神を呼び出すための面を今すぐに渡していただけませんか?今は大蛇丸様がお持ちですよね?」
右近の口から出た単語に、大蛇丸がギョッとした表情をして、右近の覚悟を問うように話しかける。
『屍鬼封尽』。それはかつて大蛇丸を大いに苦しめた術者の命と引き換えに魂を封印する術。
『屍鬼封尽』を発動するためには専用の面をかぶる必要があり、大蛇丸は歴代火影を『穢土転生』で口寄せするために一度被り、とても貴重な面だったので、そのまま今現在まで所有していた。
「……本気なのね?」
「本気です」
「分かったわ、何に使うか──いえ、さようなら右近。あなたは、まぁ良くできた部下だったわ」
「ええ、ありがとうございました」
右近の覚悟を汲み取り、大蛇丸は別れの挨拶を交わしながら懐から取り出した鬼の面を取り出した。
「ええ、ありがとうございました。それでは」
大蛇丸は面を受け取った瞬間に面を被って足早に去っていく右近の背中を無言で見送った。
自分よりも遥かに年下の部下のその背中がとても大きなものにも見えて誇らしい気持ちもあり、同時に、その背中が二度と見れないと思うと胸に熱いものが込み上げてきた。
そんな複雑な感情のまま大蛇丸は右近の背中をただじっと見ていた。
右近が鬼の面を大蛇丸から受け取った頃、ナルトとサスケはサルシキと激しい戦闘を繰り広げていた。
すでにナルトは九喇嘛と協力して尾獣化を果たし、サスケは『完成体須佐能乎』を使用してサルシキを打ち倒そうと猛攻をしかけていた。
その猛攻を前にしてしかし、サルシキは輪廻眼の瞳術をフルに使って攻撃し、さらには木遁を使用して山のように巨大な『木人』を作り出してナルトやサスケと互角以上に戦っていた。
時折ナルトが『お色気の術』などを試したせいで一時的には緊張感の無い場面はあったものの、基本的にはその戦いは神話の如き様子であり、周囲にはこの世の終わりかのような破壊の痕跡が広がっていた。
それに巻き込まれた忍もいたが、大半は巻き込まれないように遠くへと逃げ出していた。
そんな激しい戦闘の中、サスケはある違和感を覚えていた。それは、サルシキが木遁と六道の力しか戦闘で使わないことだ。
(どういうことだ?木遁や六道の力は確かに強いが……それだけか?)
木遁はその物量が恐ろしく、六道の力も有益な術が揃っている。だが、それだけだ。
確かに、ナルトとサスケが二人がかりでもかなりの苦戦は強いられているが、逆に言えば戦闘は成り立っていた。
だからこそサスケはサルシキを非常に警戒していた。サスケ自身、六道仙人より力を与えられて六道の力を使えるようになっているし、そのお陰で万華鏡写輪眼は輪廻写輪眼に変化しており、それによって新たな瞳術の『天手力』を得た。
だが、サルシキにはそういった特別な力が見えないのだ。使っているのは輪廻眼を持っていれば使える六道の力か、柱間細胞に適合すれば使えるようになる木遁だけ。
そのせいで、サスケは余計にサルシキを警戒していた。
(間違いなく奴は手を抜いている。必ず何かの奥の手があると仮定して動くべきだ)
サスケのサルシキに対する警戒心は高い。
だが、あえてはっきり言っておこう。今のサルシキに固有の瞳術や神術は使えない。使わないのではなく使えないのだ。
何故なら、今のサルシキはシバイに肉体を完全消滅させられ、辛うじて残った魂も異空間に封印されている状態だからだ。
今、ナルトとサスケが戦っているのはあくまでもサルシキの魂の一欠片。その一欠片でさえ今のナルトとサスケを相手にできる実力はあるので驚異ではあるのだが。
そんなサルシキの事情を一切知らないサスケからすれば警戒してしまうのは無理のない話であった。
尾獣化したナルト、サスケの『完成体須佐能乎』、そしてサルシキの作り出した巨大『木人』。
三人の怪物が拮抗して暴れ回っている中、一介の忍が立ち入る隙の一切ない戦場に木遁を失った右近が現れた。
「今さら何をしに来たんだぁ!ゲッゲッゲッ!!」
のこのこと戦場に現れた右近をサルシキが嘲笑う。
「あぶねえってばよ!!早くこっから離れろってばよ!巻き込まれちまうぞ!」
力を失った右近を心配したナルトが危険から遠ざけようとする。
右近がなんのために戦場に現れたのか分からない二人だが、サスケだけが違った。
「来たか!」
サスケだけが右近の到来を喜んだ。
サスケは右近に言った「力のないお前は足手纏いだ」と。
その右近が一度は戦場から消え、再び現れたというのなら、必ず何かの秘策があるのだと。そうサスケは確信していた。
「待たせてすまないサスケ……だが、あいつの始末は俺がつける。サスケは援護してくれ」
「分かった」
固い信頼関係で結ばれた二人はそれだけで意思疎通を済ませた。
そして、印を素早く結んだ右近がサルシキを倒すための人生最後の術を発動させる。
「屍鬼封尽!」
右近が術を発動させると、その背後に半透明の死神が現れた。
その姿をナルトとサスケは見ることがない。死神は術を発動した本人と死神に魂を掴まれた人間にしか見えないからだ。
術の名を聞いた瞬間にサスケは少し悲しみ、サルシキは大きく笑った。
「屍鬼封尽だぁ?俺にそんなもんが効くと思ってんのかよ、馬鹿だなぁ!俺を相手にしてたかだか死神が魂取れると本気で思ってんのか?人間道や地獄道の存在すらも覚えてないのかよお前!木遁と一緒に記憶まで奪っちまったかぁ?ゲッゲッゲッ!!!」
「よく喋るなお前は……俺とあれだけ一緒にいて、俺の狙い一つ理解できないとは、よほど俺のことに興味がなかったようだな」
サルシキの馬鹿にした発言を余裕で聞き流す右近。
「ありがとう。お前が俺に興味がなかったからこそ、俺はお前を止められる」
「あん……?」
余裕そうな態度を崩さない右近を訝しむサルシキ。
サルシキは今ごろになって右近が何を考えてこの場に現れたのかを疑問に思うが、もはや手遅れだ。
会話してサルシキの意識を逸らしながらハンドジェスチャーでサスケに指示を送っていた右近。
その指示に従ってサスケは『天手力』を発動し、右近のすぐ側にサルシキを瞬間移動させた。
「じゃあな」
「あっ?」
右近は短い別れの言葉を吐き、死神にその手に持ったドスを振るわせた。
ドスは誰の肉体にも当たらず、しかし、確かにそこにあった魂を切り裂いた。
左近という肉体に紐づいた、サルシキの魂の糸を。
その瞬間、文字どおりに糸が切れた傀儡のようにサルシキの肉体が倒れ込んだ。
サルシキの本体はずっと魂の糸を今の肉体へと伸ばしていた。本当に左近の肉体はサルシキにとっての傀儡だったのだ。
サルシキの目的は、今もまだどことも分からぬ異空間に閉じ込められたままのサルシキ本体の魂を解放することである。そのためには本体がどこに捕えられているのかを知る必要があった。
糸ではなくて携帯電話の通信のように電波のようなものを飛ばす手段は取れなかった。万が一にでも途中で圏外になることを恐れたからだ。
また、魂を完全に切り分けて自律して動く分身を送り込むこともしなかった。それをしたとしても分身が思いどおりに動かないかもしれないからだ。悪意の塊であるサルシキの分身である。本体のことなど放っておいて好き勝手に動く可能性は高かった。
だからこそ、魂を細長く糸のように伸ばして操作していたのだ。だが、それが断ち切られれば肉体を動かせなくなるのは道理であった。
そして、サルシキと一緒の肉体で転生した右近は、魂で繋がっていたからこそサルシキの伸ばした魂の糸に気づくことができたのだ。
逆に、サルシキは所詮人間だと侮り、自分の道具としてしか右近のことを考えていなかったからこそ、右近の考えを最後まで理解できなかった。
「ざまぁみろ、人間舐めんじゃねえ」
右近はサルシキが捕えられた異空間で今ごろ地団駄を踏んでいるだろうと想像し、その無様な姿を嘲笑った。
そしてその直後、右近は死神に魂を引き抜かれ、唐突に力が抜けたように崩れ落ちた。
それが右近の最後の言葉だった。
第四次忍界大戦は終わった。
魂の無い抜け殻となった左近の肉体は、中にいた尾獣たちを解放した後に、サスケが『天照』で右近の死体と、そして残ってしまった神樹もろともに火葬した。
それらが残っていたら、またサルシキが現れるかもしれないと考えたからだった。
その後、原作どおりにナルトはサスケと決闘し、ナルトが勝利して仲直りをして決着となった。
サスケはナルトに敗れた後、原作どおりに里を出て旅をした。原作のように『無限月詠』解除の功績はなかったので、五影会談襲撃などの罪により死刑を望む者もいたのだが、ナルトの嘆願と大筒木サルシキという天災のごとき存在を止めたことを代わりの功績として、もろもろの罪と相殺した。
だが、生き残ってしまったオビトは戦犯として処刑された。
改心してナルトを助けるために尽力したこともあったが、忍界大戦を引き起こした罪は流石に重く、五影の会議により正式に死刑となった。
最後にナルトへ「火影になれ」とだけ言い残して、彼は己の罪から逃れることなく自らの意思で死刑台に登った。
こういうのを歴史の修正力と呼ぶのだろうか。
結局のところ、大筒木サルシキという存在は、原作を変える力など持たない──ただの小物にすぎなかったのだ。
右近はそんなサルシキに生涯のほぼ全てを翻弄された。
操り人形として生まれ、捨てられて終わった。
だが、そんな彼の人生に意味は無かったのか。
そんなことはない。
忍の人生とはどうやって生きたのかではなく、死ぬまでに何を成したかで決まる。
最悪の大筒木を相手に一矢報いた右近はきっと──世界を救った忍として語り継がれるだろう。
永遠に。
読了ありがとうございました。
お読みいただいたとおり、この【IFエンド】ではオリジナルのボスとしてサルシキを出す予定でした。
サルシキの名前の由来ですが、大筒木一族の名前は昔話から取られているので、『サルカニ合戦』から取ってサルシキと名付けました。
サルシキは『サルカニ合戦』の意地悪な猿のように、なんでも奪い取る悪党と設定して書いたため、関わったキャラを嘲笑うことが多くなりました。
そのため、サルシキを不快に思う人が多いだろうと思い、事前にアンチヘイトの注意をさせていただきました。
その最後は小物らしくすぐ近くにいたはずの右近に足元を掬われて終わりました。爽快感のあまりない終わり方になってしまいましたが、小物らしい呆気ない最後だったのではないでしょうか。
次回更新は今度こそ本編のつもりです。お楽しみにしておいてください。