音の四人衆最強の男   作:北山 真

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サスケ勧誘編 その肆

 

 右近の殺害宣言とも取れる言葉を受けて、木ノ葉と砂の忍の多くは死を強く意識した。それは圧倒的な格上を前にした時に起きる人間として備わった本能的なものであった。

 

 だがしかし、それで身がすくんで動けなくなるような者はこの場にはいなかった。

 仲間を、友を、先生を助けるため。死なせないために死ぬ気で戦う決意はできていた。

 

 その覚悟を、決意を、右近は確かに見てとった。

 

「認めるよお前らは強い」

 

 ゆえに、その力を右近は認める。木ノ葉と砂の忍たちはほとんど下忍であり、右近は我愛羅以外の者のことを戦力的な意味では脅威とは思っていなかった。しかし、その精神力から生み出される力は時に想像の遥か上を超える。

 

 この瞬間、右近の認識が切り替わる。優秀な忍のひよっこ程度から、強敵へと認識を改めた。

 右近が音の四人衆達に出す指示は簡潔であった。全力の解禁、すなわち状態2への変身である。

 

「お前ら、状態2になれ」

「おう」

「楽しくなってきたぜよ」

「チッ……面倒クセー雑魚どもが……」

 

 次郎坊は素直に指示に従い、鬼童丸は面白がっており、多由也は面倒がっていたが、それぞれが右近の指示に従い、状態2に変身した。

 三人の肌が褐色に染まり、次郎坊の髪の毛が伸び、鬼童丸の額に第三の目が生み出され、多由也の頭部からは禍々しい角が生えた。

 

 音忍たちの異形への変貌に、木ノ葉と砂の忍の多くが息を飲み、その脅威を測ろうと注視していた。

 

 お互いが動きを止めて様子を見る中で、まず動いたのは多由也であった。

 

「口寄せの術!」

 

 ボンッという音と共に白い煙が巻き上がり、多由也の側に体長が五メートルほどもある三体の巨大な異形が呼び出された。三体の巨大な異形は、その全てが多由也の笛の音で操られる人形である。それぞれ名もあり、両腕が無く上半身を包帯で包まれているのが“縛”、両手に爪を装備しているのが“爪”、鬼が持つような棍棒を持っているのが“棍”と、分かりやすいネーミングである。

 分かりやすいのは名前だけではない。巨体ゆえに動きはそこまで速くないものの、体格を活かした攻撃は強力無比である。

 

 そして同時に、音隠れ側に三体増えたことにより、彼我の人数差も少なくなっていた。

 

「魔幻・幻武操曲」

 

 多由也の笛の演奏が始まり、三体の異形が動き出す。その狙いは動けていない上忍の二人、ガイとアスマである。

 雄叫びをあげて迫る巨体を前に、動いたのはチョウジ、シカマル、我愛羅の三人であった。

 

「影真似の術!」

 

 シカマルの『影真似の術』によりシカマルの影が三体の影と接続された。その瞬間、四者の影の動きはリンクしたことで、それぞれの動きを封じ込めた。

 だが、いまだ未熟なシカマルでは、三体同時に動きを止めていられる時間は短い。しかし、一人ならいざ知らず、今この場にはシカマルの味方が多くいた。ごく僅かな時間でも味方が次の一手を打つには十分すぎるものである。

 

「今だっ!!」

「分かった……砂縛柩!」

 

 シカマルの要請を受けた我愛羅が即座に動く。我愛羅の『砂縛柩』により、大量の砂が三体の異形に纏わりついて身動きをとれなくした。

 

「チッ!」

「いや、十分だ」

 

 一瞬にして動きを止められた三体の異形の姿を見て、苛立ちから舌打ちをした多由也であったが、その動きを右近は褒めてから自身も動き出した。

 

 右近が狙うのは我愛羅である。木ノ葉と砂の下忍の力を認めた右近だが、木ノ葉の上忍二人が動けていない現状では、この場における一番の脅威であることに変わりはない。そして、『流砂漠流』のような広範囲に影響を及ばす術を使える我愛羅に隙を与えてしまうと、音の四人衆全員が一網打尽にされてしまう危険性もあった。

 

 右近が我愛羅に仕掛けるのは接近戦。“絶対防御”の異名がある我愛羅を相手に接近戦を挑むのは無謀に思えるが、その無謀を叶える手段を右近は持ち合わせていた。

 

(仙法・土遁・軽重岩の術)

 

 左近が発声せずに『軽重岩の術』を発動させ、右近の肉体が羽のように軽くなった。

 その瞬間、身軽さを活かした『瞬身の術』にて右近が我愛羅に急接近する。

 

「っ!?」

 

 右近のあまりの速さに我愛羅が驚愕して目を見開いた。中忍試験にてリーと戦った時同様、速さだけならそれ以上の速度で動いた右近を、我愛羅は目で追えなかった。だが、我愛羅を守る『砂の盾』は彼の母の愛により自動で動く。

 右近が我愛羅を攻撃するよりも前に、辛うじて二人の間に砂が割り込んだ。

 

 だが、ギリギリで割り込んだ砂の量が少ない盾を気にすることなく右近は拳を握り、振りかぶって殴りかかった。『軽重岩の術』で体重が軽い右近の拳では、いくら『砂の盾』が薄いとはいえ貫通して我愛羅にダメージを与えることなどできはしない。

 しかし、それは今のままならであり、その程度の事は右近も左近も織り込み済みであった。

 

(仙法・土遁・加重岩の術)

 

 右近の拳と砂が触れ合う直前に左近が『加重岩の術』を発動し、右近の肉体に重さを与えた。十分に速度が乗っていたところに急激に加算された重量は、拳のスピードを落とすことなく、その威力だけを跳ね上げた。

 

 猛毒クナイや『螺旋丸』という選択肢を差し置いて『加重岩の術』を使っているのには理由があった。

 我愛羅は『砂の盾』以外にも『砂の鎧』という術を持っている。『砂の鎧』はその名のとおり、全身に砂を鎧のように纏う術である。そのため、猛毒クナイは傷を与えられれば強い武器だが、『砂の鎧』を使用中の我愛羅に『軽重岩の術』で重さをなくしたクナイでは傷を付けられない。

 そして『螺旋丸』を使わなかった理由はもっと簡単で、単純にチャクラを温存したかったからだ。先ほどから『水龍弾』や『水陣壁』といった術を幾度も使っていたので、少しでもチャクラを節約するつもりでいたのだ。

 そういった理由で右近は接近戦の選択肢に『加重岩の術』を選んでいた。

 

 パンッと軽い音を立てて、『砂の盾』をほとんど抵抗も無く右近の拳が貫通した。

 そのまま我愛羅に迫る右近の拳。直撃すれば我愛羅が身に纏う『砂の鎧』を砕き、その内にある肉体に重大な損傷を与えるのに十分な威力を持つそれに対して、我愛羅はなんの反応もできなかった。

 

 しかし、我愛羅の危機に割って入る一つの影があった。その影の正体はネジであった。『回天』というテンテン曰く我愛羅の絶対防御に並ぶ防御技を持つネジは、シカマルの近くで上忍二人の防御に回っていた。

 そういう理由で近くにいたネジは、白眼で我愛羅の危機に気づいてすぐに動き、右近の攻撃が我愛羅に当たる直前、間一髪間に合ったのだ。

 

「シイッ!!」

 

 ネジはチャクラを限界まで込めた右の掌底を右近の腹部目がけて放った。そのタイミングは完璧と言えた。そして、『加重岩の術』で重量が増している今の右近では、このタイミングからの回避も防御も不可能だった。

 右近の右拳が我愛羅に当たるよりも早く、カウンターの形でネジの掌底が右近に突き刺さる。

 

「ぐあっ!」

「ぐっ……」

 

 二人が激突し、二人が同時に苦悶の声をあげて、ネジだけが大きく叫びをあげて蹲った。

 当然だが、右近の体は『加重岩の術』の効果で大きく重量が増している状態である。その体重はだいたい五百キログラムほどもあった。それが『瞬身の術』による高速移動の勢いに乗った状態で攻撃していたのだ。右近は殴っている途中だったのでその体重は拳に集中していたが、それでもネジの体に伝わった衝撃は計り知れない。

 ゆえに、この結果は当然であった。

 

「ネジ!!」

「ああぁぁ!!」

 

 吹き飛んだネジを心配したリーが大声で呼びかけたが、ネジは叫びながら蹲り、右腕を抑えていた。そのネジの右腕は大きく折れ曲がっていた。たった一度、たった一瞬の激突で、ネジの右腕は完全に破壊されていた。

 だが、右腕から発せられる激痛に苛まれる中、ネジは心中で安堵していた。

 

(俺の右腕は粉砕されたが……奴も無傷ではすまないはず!)

 

 日向一族の秘伝体術である柔拳は、チャクラを相手の体内に浸透させ破壊することを極意とする人体破壊の体術だ。ネジの先ほどの掌底に込められたチャクラもその例に漏れず、右近の体内へと打ち込まれていた。そのチャクラは右近の経絡系を損傷させ、内臓を傷つけるのに十分な量が込められていた。

 

 だが、右近は微動だにせず、すでに平気そうな顔をしていた。

 右近は激突の瞬間に回避も防御も不可能だと悟り、咄嗟に『双魔の攻』により経絡系と内臓の位置をずらした。その結果、ネジのチャクラは筋肉などを損傷させることには成功したものの、重要な器官には傷をつけられなかったのだ。

 

「バカな!?ぐあっ……!」

「ネジ!」

 

 右近に対して柔拳がなんの効果も発揮していないことにネジが驚愕した。その隙を見逃さずに左近は『加重岩の術』を解除し、動けるようになった右近はすかさずネジを蹴り飛ばした。

 右近に蹴られたネジはゴロゴロと地面を転がり、それを見たリーが心配して大声で呼びかけた。

 

「よそ見をするなぜよ!」

「くっ!」

 

 リーの行動を隙を晒したと見た鬼童丸が、リーに向けて蜘蛛の巣状の糸を複数飛ばした。右近の『水龍弾』と我愛羅の『流砂漠流』のぶつかり合いの時には、糸の性質をネジが見抜いており、リーもそれを聞いていた。ゆえに、決して捕まらないように必死に避ける。

 リーの体術は下忍のレベルを超えているがゆえに、辛うじて鬼童丸の糸から逃げ切った。

 

「ほう、なかなか素早い奴ぜよ。面白い」

 

 その動きを鬼童丸は三つの目で観察しながら攻略法を考えていく。鬼童丸の脳裏に浮かぶのは音隠れの里随一の体術の技量を誇る君麻呂の動きであった。鬼童丸が自分の知る限り最もレベルの高い体術使いの君麻呂とリーの動きを比較する。

 

(動きは速い、キレもある……だが、直線的すぎるぜよ)

「見切った……そこぜよ!!」

 

 鬼童丸が口から縄状に編まれた糸を吐き出した。その糸を紙一重で避けたリーだったが、その動きを読んでいた鬼童丸が首を振るったことで糸の軌道が変わり、リーの足に、正確には緑のジャージに付着した。

 

「しまった……!」

「ふんっ!」

 

 リーが自身の判断ミスを悔いるも、もう遅い。糸の縄は鬼童丸の口とリーの足で結ばれており、それを鬼童丸は思いっきり引っ張った。急速に縮まる二人の距離。

 鬼童丸に引っ張られながらも、リーは糸の付いた部分のジャージをクナイで切り裂くことで逃げることに成功した。

 

「危なかったです……」

「ほう、やっぱりなかなかやるぜよ……それでこそ遊びがいがある」

 

 咄嗟に機転が効いたことでなんとか逃げられたリーは冷や汗を垂らし、それとは対照的に鬼童丸は余裕そうな表情を見せており、脳内でリーの戦闘力を上方修正した。

 

 そんなやり取りがあったのと同時に、他の者ももちろん戦っていた。

 

 多由也が口寄せした三体の巨体を笛の音で操っていることを察したキバは演奏を止めさせるために動いていた。

 

「牙通牙!」

「ふん!」

 

 キバは赤丸と共に再び『牙通牙』による突撃を試みるが、その前に再び次郎坊が立ち塞がった。そして、二回目の両者の激突の軍配は再び次郎坊へとあがることになる。

 

「チィッ……!」

(こいつ、さっきからなんて硬さだ!突っ込んでるこっちの骨が軋みやがる!)

「ウゥー……」

 

 キバが次郎坊の硬さについて内心で悪態をつき、赤丸が同意するように唸り声をあげた。

 『土矛』を使っている次郎坊はクナイで傷一つつかないほどに硬い。その次郎坊に何度も高速で激突しているキバの体には大きな負荷がかかっていた。

 

 だが、次郎坊もキバと赤丸の速度に少しばかり困っていた。

 

(こいつら二人の速度はなかなかのもんだ。これ以上多由也から離れると庇うのが間に合わないかもな)

 

 多由也は戦闘中に笛の演奏が必要であり、今のような複数の敵味方が入り乱れる乱戦状態では無防備な状態を晒しやすいうえに、狙われやすい。そのため、多由也を守るために次郎坊が護衛をしているのだが、次郎坊の動きはキバに比べたら鈍い。

 ゆえに、次郎坊は多由也から離れられず、『牙通牙』の後すぐに距離を取るキバと赤丸を追うことができていなかった。

 

(だが、追えないなら追えないなりにやりようはあるんだぜ)

 

 次郎坊がニヤリと笑い、腰をかがめて地面に両腕を突き刺した。

 

「ぬおおぉぉぉ!」

「な、なんだ!?」「クゥン……?」

 

 雄叫びをあげた次郎坊に反応したように、キバと赤丸の立つ大地がグラグラと揺れる。その揺れを不審に思うキバと赤丸。ここにいたらマズイとキバと赤丸の直感が訴えており、それに素直に従いたかったが、揺れのせいでうまく動けずにいた。

 そして、次の瞬間–––

 

「ぬおおぉうりゃああぁぁぁ!!!」

「な、なにぃ!!?」「キャンッ!?」

 

 次郎坊はさらなる雄叫びをあげ、まるで卓袱台をひっくり返すようにキバと赤丸の立っていた大地を投げ飛ばした。これこそが次郎坊の大技の一つ、『土遁・土陸団子』である。ただの馬鹿力だけで大地を持ち上げてもこうはならない。自らのチャクラを大地に浸透させ、ある程度の大きさに固定することで、これほどの大きな土塊を投げ飛ばすことが可能になるのだ。

 

 巨大な土の塊と一緒に放り投げられたキバと赤丸は驚愕し、絶叫をあげた。

 

「まずい!まずい!まずいって!!」「キャン!キャン!?」

 

 投げられた巨大な土塊は重力に従い落下を始める。それにより、このままでは土と一緒に地面に激突すると思い焦るキバと赤丸。激突すればどうなるかは分からないが、まず間違いなく大怪我を負うと思われた。

 

「こうなりゃ一か八かで飛ぶしかねぇ!」

 

 キバがヤケクソ気味に叫んだ。

 落下の衝撃から逃れるには土塊から離れるしかないが、それでも不安は残る。落下の瞬間に土の上から逃げていたとしても、土塊は地面に激突したと同時に粉砕され、バラバラに飛び散ることが予想される。それから完全に逃げ切れるかはキバと赤丸の運動能力からしても未知数だが、土の上にいても安全とは言いずらい。

 だからキバは、運任せで土の上から飛び降り、できるだけ遠くへ逃げようとした。

 

 だが、キバと赤丸が行動を起こすよりも先に、救いの手が現れた。

 

「超倍加の術!」

 

 右近に吹き飛ばされていたチョウジが元の戦場へ戻ろうとしていたところに、たまたまキバと赤丸が飛ばされて来ていたのだ。キバと赤丸の絶叫を聞き、仲間の危機を察したチョウジはすぐさまカレー丸を服用してチャクラを増幅し、『超倍化の術』を使用して巨大化して、見事に土塊を受け止めることに成功した。

 

「助かったぜチョウジ!」

「うん、良かったよ。怪我が無くて」

 

 助けられたキバがチョウジに感謝を伝えて、チョウジがそれを受け入れた。そのチョウジが土塊をゆっくりと下ろしたことで、キバは無事に窮地を脱することができた。

 

「受け止められたか……まぁいい」

 

 『土陸団子』を受け止められてしまった次郎坊だったが、その顔には怒りが見えない。

 そもそも、先ほどの攻撃は本来の『土陸団子』の使い方ではないので、次郎坊は倒せるとは考えていなかった。もちろん最善は倒せることだったが、そうでなくても怪我をさせられたら御の字であり、それが足であれば機動力が削がれるのでなおよしと考えての攻撃であった。

 キバを倒せることを期待していなかったがゆえに、次郎坊の心には落胆が無く、粛々と引き続き多由也の護衛を務めていた。

 

 その多由也は『砂縛柩』に捕えられた三体を動かそうとするのを諦めていた。いくら曲を吹いて動かそうとしても、我愛羅が相当なチャクラを込めた『砂縛柩』はびくともしなかったからだ。

 動かすのは諦めた。だが、攻撃するのまで諦めたわけではない。

 

 多由也の演奏がより激しく、より難しくなるのと同時に、三体の異形たちは『砂縛柩』の中で今まで閉じていた口を開いた。そして、開けられた口から半透明の怪物が生み出された。怪物の姿は少しだけ蛇に似ていたが、一つも目がなく、代わりに体中に多数の口がついた異様な姿をしていた。

 半透明な怪物の正体は精神エネルギーだけで練られた物質化霊である。この霊は精神エネルギーのみの存在であるがゆえに、物体をすり抜けられる。

 

 『砂縛柩』の砂をすり抜け、物質化霊が近くにいたカンクロウとテマリを狙い動き始めた。

 

「なんだ!この化け物は!?」

「こいつ!我愛羅の砂をすり抜けてやがるじゃん!?」

 

 突如として現れた異様な怪物に困惑するテマリとカンクロウ。

 霊が砂をすり抜けて現れていることにカンクロウが目ざとく気づき、その指摘を受けて物理攻撃で倒せないと考えたテマリは、自身の得意な風遁で素早く攻撃した。

 

「風遁・大鎌いたちの術!」

 

 テマリが巨大扇子を開いて大きく振りきり、風の刃が乱れ飛ぶ。風の刃は狙いを違わず、物質化霊の半透明な体に命中してズタズタに切り裂いた。

 

「やったじゃん!テマリ!」

「……まだだよ!」

 

 その光景を見てカンクロウが喜んだのも束の間、テマリの鋭い警告が飛んだ。カンクロウが霊を再び見ると、物質化霊の切断面はボコボコと膨れ上がり、そこに新たな口が生まれた。

 そして、再生を果たした物質化霊は再びカンクロウとテマリに襲いかかった。

 

「くそっ……烏!」

 

 物質化霊に直接触れるのは危険だと判断したカンクロウとテマリは素早く回避し、さらにカンクロウは回避しながら『烏』を操作して毒付きの千本を物質化霊に飛ばした。

 だが、その千本による攻撃は霊には通じず、虚しくすり抜けるだけに終わった。

 

「だあぁ!ちくしょう!やっぱり物理攻撃は効かねぇじゃん!」

 

 我愛羅の『砂縛柩』から抜け出している時点で理解していたことだったが、霊には物理攻撃が効かないことを改めて確認したカンクロウがヤケクソ気味に叫んだ。

 物理も効かず、術による攻撃からも再生する化け物に対して、有効な手立てが無い二人。

 

 一見無敵に見える物質化霊だが、この霊を止める方法は二つあった。

 一つ目は術者である多由也を攻撃して演奏を中止すること。二つ目は霊を生み出している巨体の人形を破壊すること。

 

 テマリはその二つの選択肢の前者を選び、霊による攻撃を避けながら再び『大鎌いたちの術』で多由也を狙った。

 

「ハアァ!!」

「土遁・土陸返し!」

 

 テマリの気合いの入った声と共に巨大扇子が振られて無数の風の刃が多由也を襲うが、次郎坊が多由也と風の刃の間に立ち、目の前の地面をめくりあげて土壁を作り出したことで、風の刃は防がれてしまった。

 

「チイッ!」

「……我愛羅!」

 

 攻撃が防がれたことにテマリが舌打ちをして、その光景を見ていたカンクロウは多由也を狙うのは難しいと考えて、『砂縛柩』に捕えられた人形を我愛羅に破壊してもらおうと声をかけた。『砂縛柩』で捕らえて『砂漠葬送』で砂に圧力をかけて圧殺するのが我愛羅の十八番である。

 それをよく知るカンクロウだからこそ、我愛羅なら人形を破壊できると考えたのだが、我愛羅のことを見たカンクロウの視界に入ったのは信じられない光景であった。

 

「くっ……!」

 

 冷や汗をかきながら必死の表情を浮かべて砂を操っている我愛羅と、その背後を守るように折れた右腕をぶら下げながら左手一本で構えるネジ。そして、各々の里で天才と称される二人を相手に堂々と立ち回っている右近がいた。

 

 背中合わせに立つ我愛羅とネジの周りをグルグルと走り回る右近。その動きを捉えようと我愛羅の砂が追い縋るが、『軽重岩の術』を使っていない状態でさえも右近の動きの速さは尋常ではなく、砂はまったく追いついていなかった。

 

 普通の砂の速度では追いつけないならばと、我愛羅が広範囲の砂を操ろうとするが、そのチャクラの動きを感知した右近がすぐさま邪魔をする。

 

「仙法・水遁・水断波!」

 

 右近が素早く印を結んで『水断波』を発動し、右近の口から細い線状に水が勢いよく吐き出された。

 『水断波』が我愛羅に向けて高速で迫り、それを防ぐために『砂の盾』が『水断波』の射線上に割って入った。しかし、仙術チャクラにより強化されている『水断波』の貫通力は凄まじく、『砂の盾』を一秒と経たずに貫通した。

 

 『砂の盾』を余裕を持って貫通した『水断波』は、そのまま我愛羅をも貫こうとしたが、ネジが我愛羅の体を左手で引っ張って『水断波』の射線上からずらしたことで間一髪回避に成功した。

 

(まだだ)

 

 回避されたのを見て右近は『水断波』に追加でチャクラを込めて、首を振ることで『水断波』の向きをかえて二人を追撃しようとしたが、我愛羅が砂を操って盾を分厚くして対処されたことで、追撃は不発に終わった。

 しかし、我愛羅とネジに手傷は負わせられなかったが、我愛羅が大技を使うのは妨害できたため、右近としては及第点であった。

 

(こいつ……俺が戦った者の中で一番の強者だな)

 

 我愛羅が心中で右近の強さを賞賛していた。中忍試験までの我愛羅なら、嬉々として殺そうとしていただろう。一尾である守鶴の人柱力として里に疎まれ、死を望まれていた我愛羅にとっては、強者との戦いだけが生き甲斐だったのだから。

 だが、ナルトとの戦いにより他者を思いやる心を取り戻した今の我愛羅は違う。右近という強敵との殺し合いよりも、木ノ葉の忍と自身の兄弟を助けるために戦っていた。

 

 その我愛羅の守りを重視した姿勢により、一見有利に戦闘を進めているように見える音の忍達だが、実は密かに、確実に危機が迫っていた。

 

 その危機とはマイト・ガイの復活である。ガイは次郎坊にチャクラを吸われすぎて疲労困憊で倒れていたが、チョウジの持っていたホウレン丸を食べたことにより、皆に守られながらも急速にチャクラを回復させていた。

 

 そのことを唯一感知していた右近は焦っていた。確かに相手の実力は認めたし、人数差はあれども、自分たちと状態2になった三人がいれば十分に倒せると考えていた。なのに、それができない。時間さえかければ勝てるとは思うが、それまでにガイが復活してしまうのは確実であった。

 

 だからこそ、右近はここで大きな勝負に出る覚悟を決めた。

 

(チャクラは溜まったか?)

(十分だぜ……)

(なら、やるぞ!)

 

 先ほどの攻防で術を使用していたのは右近だけであり、その間に左近はできるだけ自然エネルギーを体内に取り込んでいた。そして、その自然エネルギーを練り上げた仙術チャクラを盛大に使い、広範囲攻撃でガイを守る者たちごと打ち倒そうとしていた。

 

 右近と左近の両者が大技を発動させようと同時に印を結び始めた。印を高速で結ぶ二人だが、大技だけあって印の数は膨大である。そして、それを白眼で確認したネジの警告が飛んだ。

 

「大技が来るぞ!!全員気を付けろっ!!」

 

 ネジの警告を受けて我愛羅が砂を、カンクロウが『烏』の仕込みクナイを、テマリが風の刃を右近に向けて飛ばしたが、右近は印を結びながらも軽やかにそれを避けた。そしてその数秒後、右近と左近が印を結び終わった。

 

「仙法・水遁・水龍連弾!!」

(仙法・土遁・土龍連弾!!)

 

 右近が水遁を発動し、左近が土遁を発動した。

 その場に現れたのは水と土で作られた龍たち。それぞれの性質で四頭ずつ、計八頭がその場に並び立った。八頭の龍が並び立ち、鎌首をもたげて木ノ葉と砂の忍たちを見下ろす姿はまるで八岐大蛇のようであり、事実としてこの二つの術の合わせ技は大蛇丸の『八岐の術』を参考にして生み出した術であった。

 

 ネジの警告により身構えていた木ノ葉と砂の忍たちは、八頭の龍の脅威を十分に感じていた。

 

「先生達を守れっ!!」

 

 右近と左近、二人が作り出した二頭の龍がガイを狙って動き出す僅かな時間に、シカマルの檄が飛んだ。その直後、二頭の龍が唸りをあげて動き出した。

 木ノ葉と砂の忍たちは龍たちを破壊するために、ネジの警告から準備をしていた各々の大技を繰り出した。

 

「第五杜門、解!!木ノ葉剛力旋風!!」「超倍加の術!」

 

 リーが『八門遁甲』を五門まで解放しての強力な回し蹴りを土の龍の一頭に向けて放ち、土の龍の頭を打ち砕いた。

 チョウジもまた『超倍加の術』で巨大化して右拳で土の龍の一頭を殴りつけ、粉砕することに成功した。

 

「獣人混合変化・双頭狼!牙狼牙!!」

 

 キバと赤丸は同時に変化の術を使用して巨大な双頭の狼に変化して、その場で高速回転を始めて、その高速回転に巻き込まれた土の龍の一頭が粉微塵にされた。

 『牙狼牙』は自身の目も回るほどの速度で超高速回転する技であり、敵を攻撃する時にはマーキングをしないといけなかったが、敵を迎え打つためにその場で回転する分にはマーキングは必要なかった。

 

「影真似の術!!……チョウジ!」

「うん、分かった!」

 

 そして、最後の一頭の土の龍はシカマルが『影真似の術』で動きを止めて、その隙にチョウジが左拳で殴りつけて破壊した。

 

 これにより、土の龍たちは全て破壊されてしまったが、まだ水の龍が残っている。

 そして、それを阻止するために動く者たちもまだ残っていた。

 

「砂漠大槍!!」

 

 我愛羅が周囲の砂を押し固めて五メートルを超えるほどの巨大な槍を作り出して突き出し、槍は狙いを違わずに水龍の頭部を刺し貫いて水龍の動きを止めた。

 

「口寄せ・斬り斬り舞!!」

「烏!ありったけを出すじゃん!!」

 

 テマリが口寄せでカマイタチを呼び出し、カマイタチとともに風の刃を無数に生み出した。無数の風の刃に晒された水の龍の一頭をバラバラに切り裂き、余波で横にいた二頭のことも傷つけた。

 その傷ついた一頭に向けて、カンクロウは『烏』の仕込み武器の中でも大きな破壊力を持つ起爆札付きのクナイを十数本も射出した。クナイは水の龍の全身に入り込み、水龍の中で起爆札が爆発したことで水龍は粉々に吹き飛んだ。

 

 そして、傷付いたもう一頭の水龍がガイ目掛けて襲いかかるのをネジが止めに入った。

 

「八卦掌・回天!!」

 

 ネジが全身からチャクラを放出して高速回転したことで、高速回転するチャクラの渦ができあがった。水龍は勢いのままに『回天』に突撃するが、『回天』の高速回転に弾かれてしまった。

 

 しかし、水龍は弾かれただけでいまだ健在である。一度弾かれた程度では攻撃を止めるはずもなく、もう一度突撃をしかけた。

 だが、水龍の再度の突撃は、文字どおりの意味での横槍によって止められてしまった。我愛羅が再び『砂漠大槍』を使用して水龍を再び串刺しにして破壊してしまったからだ。

 

 助けられたネジだが、その心中は穏やかではなかった。

 

(くそっ……!!)

 

 水龍を弾くことしかできなかったのをネジは悔やんでいた。右腕が折れているので仕方ないと、ネジは微塵も思っていなかった。ナルトに天才と称されたことを誇りに思っているいまのネジからすれば、怪我を言い訳にして自身の不甲斐ない結果を受け入れたくなかったのだ。

 

 そして、『水龍連弾』と『土龍連弾』の合わせ技を全て相殺されたことに対して、右近と左近は心中で驚きを隠せなかった。

 

(今のは本当に驚いたぞ……この合わせ技を防ぐのか……)

(あぁ、俺たちはまだ木ノ葉と砂を舐めてたらしいなぁ)

 

 木ノ葉と砂の忍たちの実力を一段上に設定し直した右近と左近だが、それと同時に、その戦力が大きく低下したことも正しく認識していた。

 

 リー、ネジ、チョウジ、キバと赤丸の四人と一匹は、龍たちを壊すために自身の肉体を武器にしたが、それにより肉体に大きなダメージを負ってしまっていた。

 

 リーはそもそも『八門遁甲』自体が体に大きな負担がかかる術であり、大きな手術を受けた後であるリーの体には厳しく、身体中が悲鳴をあげていた。

 ネジもまた右腕が折れた状態で無理矢理に高速回転する『回天』を発動したことで、遠心力により右腕に大きな負担がかかり、その激痛に膝をついていた。

 チョウジはカレー丸の副作用で体に痛みが走っており、また、土の龍を破壊する時に使った両手も深く傷ついていた。

 キバと赤丸は『牙狼牙』によって体力とチャクラを消耗しており、他の者ほどではないものの、全身を使って土の龍にぶつかったので体中に傷を負っていた。

 

 そして、残りの者たちは体に傷こそないが、その消耗は激しかった。

 

 カンクロウはチャクラ量には余裕があるが、『黒蟻』が破壊されて『烏』の仕込み武器の消耗も激しく、戦闘を継続できるほどの余裕は無い。

 テマリは『大鎌いたちの術』を何度も使用した状態で『口寄せ・斬り斬り舞』まで使用したことでチャクラが底をついていた。

 シカマルもまた同様で、『影真似の術』を短期間に複数回使用し、特に巨体の口寄せや土の龍などの大質量のものを止めようとしたことで、チャクラを大きく消耗していた。

 そして、人柱力である我愛羅すらも『流砂漠流』や『砂縛柩』を三回使ったのに加えて『砂漠大槍』を二度も使用したことによりチャクラを大きく削られており、残すチャクラでは大技を一度使えるかどうかであった。

 

 全員が全員、満身創痍といった有様だった。もはや木ノ葉と砂の忍たちの中に余力のある者はおらず、十分に戦える者はいないと思われた。

 それに対して音の四人衆には十分な余力があった。右近と左近こそ先ほどの合わせ技でチャクラを使っていたが、それでもすぐに動けなくなるほどではなかった。

 

(万事休すか……ちくしょうっ……俺の判断ミスだ)

 

 状況を冷静に見極めたシカマルが悔しさで顔を歪めた。シカマルの中で、もしもサスケを追うナルトを止められていたら今ごろ撤退できていたのか、という考えが浮かぶ。他にももっと良い判断ができていたならと後悔ばかりが募る。

 

 たらればでは逆境は覆らない。

 逆境を覆すのはいつだって諦めない者だけだ。

 

「みんなすまないな、不甲斐ない姿を見せてしまって。あとは俺に任せろ」

 

 だからこそ、ここで立つのがマイト・ガイという男だった。

 

「ガイ先生!」

「リーよ、よく見ておけ、今から俺がする技を。カカシに勝つために編み出したとっておきの必殺技だ」

 

 リーの呼びかけに応えたガイは右近へと向き前進していく。

 チャクラは回復したが、枯渇していた時の疲労や倦怠感は消えていない。右のふくらはぎの骨折も治っていない。

 だが、今のガイから漂う雰囲気はそんな事を微塵も感じさせず、ただただ力強さだけが感じられた。

 

「全員俺の後ろへ回って防御を固めろ!」

 

 何かを起こす雰囲気を醸し出しているガイを警戒して、右近は仲間に防御の指示を出した。次郎坊、鬼童丸、多由也の三人はガイの尋常ではない雰囲気を察して右近の指示にすぐに従い、集まって防御の準備に入る。

 

「全員集まってくれ!ついでに我愛羅君は今から俺がやる技の余波からみんなを守ってくれ」

 

 対してガイも全員に集合の指示を出し、集まって来た仲間を守るように我愛羅に言い渡した。

 我愛羅もガイから漂うただならぬ雰囲気を察しており、残りのチャクラを振り絞って全員を守れるような分厚い砂のドームを作り出したことで、ガイの言葉に応えた。

 

 それを目にしたガイは防御を我愛羅に任せて、技の準備に取りかかる。

 

「第五杜門、解……第六景門……解……」

 

 右近たちが防御を固める前で、ガイが『八門遁甲』を第六門まで解放した。全身の皮膚が褐色に染まって、身体中の血管が浮き上がり、全身から緑色のチャクラが勢いよく吹き出した。

 

 だが、それだけでは終わらない。

 

「第七……驚門、解!!!!」

 

 ガイは続けて『八門遁甲』の第七門が開かれ、ガイの全身から青い汗が吹き出し、それが蒸発することで青い蒸気となっていた。

 開いたら必ず死ぬ第八死門、その一つ手前の門まで開いたガイのチャクラは圧倒的だった。この場にいる全員がガイから迸る驚異的な力の発露を見て、本能的に恐怖を感じていた。

 

 ただし、ガイだけは今の状態に納得がいっていなかった。

 

(やはり、チャクラは万全ではないか……)

 

 『八門遁甲』は脳のリミッターを解放してチャクラを潜在能力限界まで無理矢理に引き出す技である。しかし、先ほどまでガイはチャクラを枯渇寸前まで吸われた状態であり、チョウジのホウレン丸で回復したにしても、万全の状態とまではいかなかった。

 

(だが、やるしかない!もはや一撃しか打てないだろう……次の一撃でこの戦いを終わらせる!!)

 

 自身の調子を確認したガイが音忍たちを一撃で仕留める覚悟を決めた時、右近と左近もまた覚悟を決めていた。

 

(ガイのチャクラも万全じゃない!次の一撃を防げたらまだ勝ち目はある!!)

(あぁ!こっちも大技を使ったばかりだが、ありったけのチャクラで防御するぜ!)

 

 右近と左近はガイのチャクラを感知しており、それが万全の状態ではないと悟っていた。

 だが、後ろを向いて逃げようとすれば追撃されて死ぬだろうことは確実である。

 

 ゆえに、二人が選ぶのは全力での防御。自身のチャクラも自然エネルギーも全て使用しての防御だけが、この場を生き残る唯一の可能性であった。

 

 ガイが必殺の一撃を放つべく右近の正面に立って正拳突きの構えを取り、右近は防御のために指の腹を歯で噛み血を流して『口寄せの術』の準備を終えた。

 

 両者の準備が終わり、そしてついに–––激突の瞬間が訪れる。

 

「昼虎!!!!」

 

 ガイが正拳突きを放つ。速すぎるだけのただの正拳突きにより空気が押し出され、虎の形となって右近たちに襲いかかる。

 

「口寄せ・三重羅生門!!!!」

 

 対する右近と左近は残された『口寄せの術』により鬼の顔が描かれた巨大な鉄の門を正面に三つも呼び出した。

 

「うおおぉぉぉ!!!!」

「ああぁぁぁぁ!!!!」

 

 ガイの矛と右近と左近の盾がぶつかり合い、ガアァンッ!!と轟音が森に響いた。

 『昼虎』が一つ目の『羅生門』を食い破りにかかる。ビシィッと亀裂が入る音がして、一瞬の拮抗の後に一つ目の『羅生門』を『昼虎』はこじ開けて、続く二枚目の『羅生門』へと虎が突き進む。

 再びの衝突により轟音が響いた。一枚目の『羅生門』を破るのに力を使ったのか、二枚目はすぐには破れない。だが、二枚目の『羅生門』からもベコリ、パキリと鉄が軋み、ヒビが入る音がしてくる。

 

 しかし、二枚目の『羅生門』を貫通する前に『昼虎』にも限界が来た。『昼虎』は超高圧縮された空気弾であり、一点に集中した空気は限界まで圧縮された後、一気に解放される。その時が来たのだ。

 

「吼えろ!!熱血!!!」

 

 ガイの咆哮と『昼虎』の解放が重なる。

 圧縮されていた空気が解放され、暴風という言葉ですら生温い衝撃波となって周囲を蹂躙していく。我愛羅により砂漠になっていた地面が吹き飛び、近くにあった木々は風に煽られてへし折れて倒れていく。

 

 頑丈ではない自然物が次々と吹き飛ばされ、破壊されていく中、二枚目の『羅生門』は密着状態で暴風に叩かれて勢いよく扉が開いた。そして、至近距離にいた一枚目の『羅生門』と合わせて、合計二つの『羅生門』が『昼虎』の暴風を受けて宙を舞った。

 

 そして、残る三枚目の『羅生門』にも衝撃は襲いかかった。

 その衝撃は凄まじく、今すぐにでも『羅生門』はこじ開けられようとしていた。

 

 しかし、開かない。それを必死で支える者たちがいたからだ。

 

 左近が『仙法・加重岩の術』で『羅生門』の重量を増やすことで吹き飛ばされないようにして、鬼童丸が糸で強引に門の戸が開かないように接着していたが、それでもなお『昼虎』の勢いで押されて倒れそうになるところを全員で支えていた。

 

「あああぁぁぁぁ!!!」

「うおぉぉぉぉ!!」

「うらあぁぁぁ!!!」

「はあぁぁぁ!!!」

 

 全員が必死であり、余力など一つもない。

 押し切られるか、守り切るのか。生きるか死ぬかの瀬戸際の中、全員がただ一つ、門を守ることに全力を尽くしていた。

 

 ガイが限界を振り絞った『昼虎』と音の四人衆全員で支える『羅生門』。

 

 今回の矛と盾の勝負の行方は–––

 

「はぁ……はぁ……くっ……」

 

 今にも崩れ落ちそうなほどボロボロな門を正面から見て悔しげに荒い息を吐き続けるガイ。

 

「ぜぇ……はぁ……ふぅ……」

 

 限界ギリギリまで破壊された門の裏で安堵しながら荒い息を吐き続ける右近。

 

 今回の勝者は盾であった。

 

 勝因も、敗因も、あえて語るべきではないだろう。どちらにも転ぶ可能性はあった。今回は最終的に盾が勝った。結果はそれだけだった。

 

 だが、『水龍連弾』と『土龍連弾』に加えての『三重羅生門』からの『加重岩の術』の連続発動は、いくらチャクラ量の多い右近と左近といえども限界を超えていた。

 チャクラを使い果たした二人は『羅生門』が守り切ったのを確認して、スイッチを切ったかのように気絶した。

 

「おい!右近!」

「チャクラ切れだろう……無理もない。あれほどの大技を連続して発動してはな」

 

 突然気絶した事に鬼童丸が心配して声をかけるが右近は反応を返さない。それを見た次郎坊は、今まで色々な人間からチャクラを吸収してきた経験則からの予測を話した。

 それを証明するように右近の呼吸は安定しており、命の危機にはなってなさそうだった。

 

「それじゃあ……ここまでやってくれたクソヤローどもに落とし前をつけさせねぇとな」

「そうしとくぜよ」

「そうだな……」

 

 右近の無事を確認した三人が木ノ葉と砂の忍たちの下へと歩み寄る。その中で、鬼童丸が四本の腕で右近を背負っていた。

 

「くっ……子供たちは殺させない!」

「ぜぇ……ぜぇ……そうだなガイ……っ」

 

 そうはさせないとガイとアスマが立ちあがろうとするが、その体はガクガクと震えて今にも崩れ落ちそうになっていた。

 ガイは驚門を開いた影響で、アスマは猛毒の影響で、それぞれが戦える状態ではない。その他の者たちにも抵抗する力は残されていなかった。

 

 ガイが最後の手段として死門を開こうとした、その時、ガイの耳にチチチチ、とまるで千の鳥が鳴くような音が聞こえた。

 

(まさか!)

 

 ガイと音の忍たちが音のした方向を向いた。そこにいたのはガイの予想どおりの人物、はたけカカシがいた。

 カカシがなぜこの場にいるのか、里の防衛のために残ったのではなかったのか、という考えがガイの頭によぎった。

 

 カカシは木ノ葉の上層部からの要望で里の防衛戦力として残されていたが、綱手が自来也を急遽呼び戻して里の防衛戦力を整えたことで、サスケ奪還の追加戦力として送り込まれたのだ。

 そんなカカシはキバを心配した担当上忍の紅と共に、戦闘で負傷した者たちのために医療忍者を連れてきたのだが、ガイの『昼虎』を見て戦闘が激しくなっていることを察して、単身で現場に急行したことによりガイたちのピンチに間に合ったのだ。

 

 音の忍たちの死角から近づいたカカシの手にはすでに代名詞とも言える『雷切』が発動していた。

 

「マズ–––」

「遅いっ!!」

 

 カカシが『雷切』で狙ったのは鬼童丸だった。鬼童丸は右近を背負っているために機動力が下がっていて狙いやすく、当たれば同時に二人、左近を合わせれば三人を一回で殺せるので、カカシとしては狙い目であった。

 

 『雷切』は身体能力を活性化させて行う超高速の貫手だ。その速度は今の鬼童丸が避けられるものではない。せめて右近と左近だけでも助けようと身を捻った。

 

「雷切!!」

 

 カカシの『雷切』が放たれて、ブチュリと肉を貫き、血が滴ったグロテスクな音がした。

 だが、鬼童丸の体に痛みはない。不思議に思い鬼童丸が顔を上げると–––

 

「ガハッ」

「次郎坊っ!!?」

 

 次郎坊が鬼童丸を庇って『雷切』に左胸を貫かれていた。明らかな致命傷を受けて次郎坊が血反吐を吐いた。

 

 次郎坊は『土遁・土矛』を発動する暇すらなく受けていた。もしも発動できたとしても雷遁である『雷切』との相性の悪さから結果は変わっていなかっただろう。

 

「はぁはぁ……右近と左近を頼んだ……」

 

 致命傷を受けて途絶えそうな意識の中で、次郎坊は今際の際の言葉で右近と左近を思っての言葉を吐いた。そして、最後の力を振り絞って自身の胸を貫いているカカシの腕を力の限り掴んだ。

 

「なにっ!?」

 

 確実に致命傷となる一撃を与えたはずなのに次郎坊が動いたことにカカシが驚いた。

 

(まさか……俺がここまでするとはな……だが、悪くない気分だ)

 

 次郎坊の頭の中で走馬灯がよぎった。大蛇丸の部下として散々に悪事の片棒を担いだ自身が、最後は味方を守って死ぬことになったことに、自嘲するような儚い笑みを浮かべて、次郎坊が最後の行動をとる。

 

 次郎坊が掴んだカカシの腕からチャクラを吸収していく。

 次郎坊は自身が死ぬギリギリまでカカシからチャクラを吸うことで、最後まで味方に貢献しようとした。やがて意識もなくなり、心臓が止まる。だが、それでもなお次郎坊の体はチャクラの吸収をやめなかった。

 

「ぐっ……!」

 

 チャクラを吸われていることが分かったカカシは、次郎坊の腹部を思い切り蹴り飛ばすことで距離をとった。

 蹴り飛ばされた次郎坊の死体がゴロゴロと転がっていく。

 

 その無惨な姿に思うところがある鬼童丸だが、次郎坊の遺言を叶えるために動いた。

 

「口寄せの術!」

 

 鬼童丸が大蜘蛛を呼び出し、その背中に右近を寝かせて糸で接着した。

 

「行け!!」

 

 鬼童丸の号令に従い、蜘蛛はカサカサと森の方へと逃げようとする。

 それを阻止するべくカカシは足を踏み出そうとしたが、その足に向けて鬼童丸が蜘蛛の巣状の糸を吐いたことで退くしかなかった。

 

「ここを通りたければ、俺を倒していくぜよ」

「ふんっ!ウチ達だろーが馬鹿やろー!」

 

 そして、カカシの前に鬼童丸と多由也の二人が立ち塞がった。

 

「へぇ……こういう場面だとお前は逃げると思ってたぜよ」

「テメーだけじゃあ足止めにならねぇだろうが……そういうテメーこそクソゲーだとか言って逃げると思ったぜ」

「仲間を守って一人残るなんてゲームじゃよくある話ぜよ。まぁ……この俺のラストゲームにはちょうど良いぜよ」

 

 悪態を吐きながら二人とも一切逃げようとしない。二人とも次郎坊の最後と同じ気分だった。どうせ死ぬなら右近と左近を守って死ぬ。それが二人の思いだった。

 

 覚悟の決まった二人の顔を見たカカシは、無言で印を結び再び右手に『雷切』を発動した。

 それを見た鬼童丸は糸を金属のように硬くした生体金属『蜘蛛粘金』で六本の腕に鎧のように纏い、多由也は幻術をかけるために笛の音を奏で始めた。

 

 そして、カカシと鬼童丸、多由也は激突した。

 

 木ノ葉の上忍の中でも“コピー忍者のはたけカカシ”として他国に名が知れ渡っているカカシと、連戦で消耗している鬼童丸と多由也の二人。結果は火を見るよりも明らかだった。

 

 鬼童丸と多由也は悪人の部下として生き、生きるため任務のために人を殺し、仲間のために死んだ。

 

 戦闘が終わったのは僅か五分後。稼いだのはたったの五分だったが、この五分が運命を分けた。

 

 戦闘が終わった後、カカシは右近を追えなかった。ガイたち負傷者を紅と医療忍者に預けて、一人でサスケを追ったナルトを追いかけたからだ。

 だが、カカシがナルトを見つけた時にはサスケはどこにもおらず、血塗れで倒れるナルトがいただけだった。横槍が入らなかった二人の決着は、結局は原作どおりの結末に終わり、サスケは一人で大蛇丸のアジトにたどり着いた。

 

 カカシは口寄せできる忍犬の鼻を使ってサスケと右近を追おうとしたが、雨が降り出したことでそれもできず、木ノ葉隠れと砂隠れの里が合同でおこなったサスケ奪還任務は失敗に終わった。

 

 

 


 

 

 

「–––い––––おい、–––しっかりしろ!右近!左近!」

 

 激しく肩を揺らされて、名前を呼ぶ声がして右近の意識は覚醒した。目が覚めたばかりでぼんやりとする意識が徐々にはっきりしていき、目の前で自身の名前を呼んでいた人物、君麻呂の顔を見たことで意識がはっきりとした。

 

「–––君麻呂!?なんでここに?」

「なんではこちらの台詞だ。なぜお前一人でこんなところに倒れていた?他の三人はどうした?」

「は?–––」

 

 君麻呂の言葉を聞き、辺りを見渡す右近。右近が意識を失う前に見た最後の景色は、我愛羅の術の影響で砂漠化して、ガイの『昼虎』により木々が薙ぎ倒されたものだった。だが、今の景色は全く違い、鬱蒼とした森の中だった。

 

 そして、近くにいたはずの三人の姿はない。

 

「うちはサスケはすでにアジトに着いたのに、いつまで経ってもお前たちが戻ってこないから探しに来たが……何があった?」

 

 君麻呂はアジトで音の四人衆とサスケの帰りを待っていた。君麻呂は大蛇丸の『不屍転生』による肉体の乗っ取りの候補であり、本人もそのつもりだったが、大蛇丸が一度重い病気になった君麻呂の肉体に興味を示さなかったことにより、候補から外れていた。

 結局、サスケが『不屍転生』による副作用の時間制限までに辿り着かなかったことにより、大蛇丸は別の者の肉体を乗っ取った。

 

 そして、音の四人衆、ひいては右近と左近の実力を信頼して帰りを待っていた君麻呂だったが、いくらなんでも帰りが遅すぎると香燐を連れ出して探しに出て、アジトから少し離れた森の中で倒れていた右近を発見したのだった。

 

「…………」

 

 君麻呂の問いに右近は何も答えられない。気絶して何も記憶が無いのだ。答えられるはずがない。

 

 やがて、君麻呂の隣で感知に集中するために目を閉じていた香燐が目を開いて言葉を発した。

 

「……ここから感知できる範囲にあの三人のチャクラはねえな」

 

 香燐の語る言葉に嘘はない。それが何を意味するのかが分かった右近と君麻呂は黙った。

 

 全員が沈黙し、その場が静寂に包まれる中、いつまでも右近が倒れたままだと良くないと考えた君麻呂が右近に手を差し伸べた時、右近の服に鬼童丸の糸が付いていることに気が付いた。

 

「それは–––」

「……これは……っ」

 

 君麻呂に指をさされて右近も気が付き、それにより今の状況に察しがついた。

 再び沈黙が場を支配する。いち早く口を開いたのは君麻呂だった。

 

「僕が–––」

「あいつらが任務中に死んだなら、それは隊長だった俺の責任だ。それに、お前が来ていたらもっと結果が悪くなっていたかも知れない」

 

 「ぼくが助けに行っていたら」と話そうとした君麻呂に被せるように右近が語る。

 

「はぁ……もっと強くならないとな……」

(あぁ……そうだなぁ……)

 

 大きな溜め息と共に溢した言葉に、心中で左近が同意した。

 溜め息と共に溢れた雫に、君麻呂と香燐は何も応えず、アジトへと帰還するまでの間、誰一人として言葉が出なかった。

 

 音の四人衆のうち三人が欠けながらも、サスケ勧誘任務は成功となった。

 

 右近と左近、君麻呂は死の運命を乗り換えたがその表情は暗く、次郎坊、鬼童丸、多由也は死んだが、その最後の表情には笑みがあった。

 

 右近と左近はどこかで悪魔が笑っているような気がした。

 





 決着の仕方にすっっっっっっごく悩みましたが、これにてサスケ勧誘編は終わりです。
 次回は疾風伝に入るまでの修行編の予定です。

以下が候補になります。

  • 至高の細胞!全身柱間細胞兄弟爆誕!
  • 偉大なる六道仙人の力!輪廻眼開眼!
  • 当たれば最強!二代目土影の塵遁!
  • 霧で翻弄せよ!二代目水影の幻術と水化!
  • 電光石火!三代目雷影の圧倒的な雷!
  • 汎用性の塊!三代目風影の磁遁!
  • 時空間忍術こそ最速最強!四代目火影の力!
  • 最強の盾にも矛にもなる!君麻呂の屍骨脈!
  • 高速移動と絶対零度の両立!白の氷遁!
  • 眩い力が敵を照らす!嵐遁の力で輝け!
  • 地球の力!熔遁の力で大噴火!
  • 思いと力を受け継げ!音の四人衆推参!
  • 青春!熱血!最強!体術を極めろ!
  • 一切の死角無し!武器術と忍術!
  • 四代目火影を超えろ!螺旋丸を完成させろ!
  • 不殺こそ究極の勝利!封印術で完封しろ!
  • 戦いは数だよ!仙術と影分身で数の暴力!
  • 大怪獣進撃!三尾の人柱力!
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