音の四人衆最強の男   作:北山 真

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 今回の話には忍術に関する作者の独自解釈が多分に含まれており、説明文が多くなっております。なので、「作者はこういう解釈してるのか〜」程度に考えてもらえるとありがたいです。


模擬戦 

 

「チッ……」

 

 大蛇丸が所有するアジトの訓練場にサスケの舌打ちの音が響く。

 サスケが木ノ葉隠れの里を抜けて大蛇丸の下へと来てはや一年半。サスケは焦っていた。

 

 サスケの実力は木ノ葉にいた頃よりも大きく伸びている。それは自他ともに認める事実であり、大蛇丸の部下の中でも五本の指に数えられる実力者であることに間違いはない。だが、三本の指に数えられるにはまだ遠い。

 

 大蛇丸の部下の中での戦闘能力上位三名にサスケは入っておらず、サスケよりも明確に強いとされる四名の忍がいた。

 そんな大蛇丸の部下の中での戦闘能力の高い忍のランキングでは、右近左近が不動のトップとして一位の座に並んでおり、その下に君麻呂、重吾が続く形になっており、サスケはその下にいて、さらにその下に水月やカブトが位置している状態になっている。常に一緒にいる右近左近を二人で一組とみなしたとしてもサスケは上位三名にも入っていない。

 

「クソがっ……」

 

 自分よりも明確に強い人物がいること、さらにそれが同年代の人物たちであることがサスケの焦りを加速させていた。特に、右近左近との間には大きな力の差を感じていた。

 

 サスケは音隠れの里に来て半年ほどが経過してから、右近左近と頻繁に模擬戦を行っていた。そんなサスケから見た右近左近の強さはいくつもある。

 忍術では水遁、土遁、木遁の性質を使い熟し、それら全てが仙術により強化されることで、呪印状態二のサスケの忍術ですら歯が立たないことが多い。

 体術では左近の手足が右近の体のどこからでも生やすことで行われる予測不可能かつ多彩なコンビネーション攻撃は写輪眼でも見切りきれず、むしろギリギリを見極めて避けようとすると痛い目にあうことも多かった。

 それ以外にも仙術により感知能力に秀でていたり、封印術や結界術にも精通していたり、各性質変化の主要な忍術を把握していたりと、知識面でもサスケより優秀であった。

 

 自身よりも全てにおいて優れているように感じられる右近左近を相手に、サスケは強い焦燥感に襲われた。しかし、それと同時に木ノ葉隠れの里にいた時には感じられなかった充実感も得ていた。

 自身よりも格上の右近左近を相手に模擬戦を繰り返す日常を送るサスケは、模擬戦を始めたばかりの頃よりも、自身が格段に成長していることを実感できていたのだ。

 

 模擬戦を始めたばかりのころでは、サスケは得意な火遁の術を右近の初歩的な水遁の術に簡単に完封されていたが、今では右近が十分なチャクラを練って術を使わなければ完封できないような威力の火遁も使えるようになった。

 かつて手も足も出なかった体術では、写輪眼の使用ありで互いに忍術の使用なしの条件でなら一対二の状況でも互角に戦えるようになった。

 

 いまだに力の差はあるし、右近左近は『影分身の術』や『木遁・木分身の術』を応用した効率的な修行をしているために差は徐々に開いていく一方である。それに関してサスケは焦りを感じるし、同年代に負け続けることに苛立ちも感じる。

 しかし、イタチを殺すという目的を叶えるために力を欲するサスケにとって、常に自身よりも強い者と戦闘できる今の環境はありがたいものでもあった。

 

(だが、それでも……負けっぱなしは我慢できねえ)

 

 そんな負けず嫌いなことをサスケが考えている時に、訓練場に新たな人影が現れてサスケに声をかけた。

 

「よう、待たせたみたいだなサスケ」

 

 サスケに声をかけたのは右近だった。サスケは今日もまた右近と模擬戦の約束をしていたのだ。

 

「別に良い。早速始めよう」

 

 右近の謝罪を軽く流したサスケが早く模擬戦を始めようと促した。

 サスケの催促に対して右近も一つ頷くことで了承し、両足を肩幅に開き両手を軽く前に出して、自然体でありながらも隙のない構えをとった。

 

「じゃあ始めようか」

「ああ」

 

 右近の模擬戦の始まりの確認にサスケはそっけなく返事をして、サスケもまた右近と同じような自然体なスタンスを取りながら少しだけ前傾姿勢をとった。

 

 構えをとった両者が睨み合う。両者の姿は一年半前とは随分と変わっていた。

 

 まずは両者ともに服装が大きく変わっていた。

 サスケは木ノ葉隠れにいた頃には薄手の半袖と短パンを好んで着ていたが、今は上半身は前が大きく開いた白い着物を着ており、下半身は足首まである長いズボンを履いて、腰に青味の強い灰色の布を巻き、その上から音の忍がよく巻いている紫の太い縄を巻き、縄の背中側に刀を差していた。

 右近も以前まで着ていた外套を脱ぎ、代わりに君麻呂も着ていたチャック付きの濃い紫色の着物のようなゆったりとした服を着て、腰には太めのベルトを巻いて背中側に忍具を入れられるようにポーチを取り付けていた。

 

 次に変わっているのは二人の容姿であった。

 成長期の二人は当然ながら身長が伸びている。サスケの身長が160センチメートル程度と一年半前に比べて5センチメートルほど伸びているのに対して、右近の身長は180センチメートルを少し超えた程度になっていた。サスケが音隠れの里に来た頃は10センチ程度の身長差だったが、柱間細胞を取り入れた右近の身長がグングンと伸びたことにより、身長差は20センチにまで広がっていた。

 そして、顔つきにも変化があり、少年から青年へと成長するちょうど中間程度の大人びた顔つきに変化してきていた。また、右近はこの一年半で一度も髪を切ったことがなく、前髪は左右に分けて視界を確保し、後ろ髪は肩あたりまで届く長髪を背中で一本にくくって纏めるようになったのも大きな変化だろう。

 

 さらに、身長差だけでなく体格にも差が出始めている。

 サスケは身長が伸びても線は細いままではあるが、いわゆる細マッチョな体型になっており、右近は筋肉量が増えて全体的に一回り太くなっており、洗練されたアスリートのような肉体になっていた。

 

 二人を見比べてみると身体能力の違いは一目瞭然であった。

 身長差はそのままリーチの長さの差になり、体格差はそのままパワーの差になる。

 それを良く理解しているからこそ、合図も無しにサスケが駆け出し、急速に右近との距離を詰める。

 

 20メートルはあった距離は瞬く間にゼロになり、サスケは右近の顔面に向けて右拳を突き出す。

 力はさほどこもってないからこそ驚異的な速さのサスケの拳を、仙人状態でない右近は軽く首を左に傾けることで避け、右拳を突き出したことでサスケの右脇腹の防御が甘くなっていると見て、そこに向けて左手の掌底を繰り出した。

 その掌底をサスケは細かくステップを刻んで左に一歩だけズレることで回避し、素早く引き戻した右拳を再び右近の顔面に向けて突き出す。

 サスケによる二度目の顔面への攻撃に、右近は少し額を突き出して硬い頭蓋骨で受けることでサスケの右拳を砕こうとするが、それを瞬時に見極めたサスケが拳を開いて右近の髪を掴もうとする。しかし、サスケの右手が開こうとした瞬間には右近は右手を動かしており、頭に迫ったサスケの右手を払いのけた。

 さらに右近は右手を動かした勢いのまま右足も動かし、サスケの左脇腹に向けて空気を切り裂くような横薙ぎの蹴りを放ったが、サスケは素早く後ろに下がることで蹴りを避けた。

 サスケが後ろに下がったことで二人の間には2メートルほどの距離が開き、自然と二人の視線が交差する。

 

 ここまでの攻防でかかった時間は約四秒。瞬きほどの時間で起きた出来事であったが、二人にとっては準備運動にもならない遊戯に等しい行動であった。

 

「今度はこっちから行くぞ」

 

 右近の宣言を受けて、サスケは右手を前に出してクイクイっと挑発するように曲げて返答の代わりにした。それを見た右近は遠慮なくサスケに仕掛けた。

 

 右近は左手を右から左に振り切るような軌道でサスケの側頭部に向けて手刀を放ち、サスケはそれを素早く膝を曲げてしゃがむことで回避した。

 サスケは膝を曲げた反動を使って右近の顎目掛けて勢いよく左拳を突き出そうとしたが、それよりも先に右近は左手の手刀の勢いそのままに右足でしゃがんだ体勢のままのサスケの頭部に向けて回し蹴りを放った。

 

 今のままではサスケの反撃と右近の蹴りが同時に当たるが、体格差もあるうえに拳と蹴りでは蹴りの方が威力が大きいので、このままだとサスケの方が被害が大きい。

 

「チッ……」

 

 瞬時に状況を判断したサスケは舌打ちをしながら反撃を中断し、さらに深く姿勢を下げ、地に伏せるような体勢になる。それにより、空気を掻き分けて唸るような音を立てていた右近の回し蹴りは空を切る。

 

 右近の蹴りを最小限の動きで回避したサスケは両手を地面に着いて体幹を安定させ、右近が回し蹴りを放ったことで無防備になった左足の脛に向けて右足で勢いよく伸ばした。

 右近は回し蹴りの勢いでサスケに背中を見せており、さらには右近の左足は蹴りの軸足となっていたことですぐに動かせない状態になっていた。そこにサスケの鋭い蹴りが迫る。

 

(その体勢なら躱わせないだろ!もらった!)

 

 サスケの心中で攻撃が当たる予感が強まる。

 しかし、ガガガッという訓練場の床が砕ける音が二人より少し離れたところから連続してしたかと思えば、動かせないはずの右近の左足は持ち上げられて、避けられないタイミングだったはずのサスケの蹴りは至極あっさりと避けられた。

 

(あの体勢から避けただと……?あれは……!?)

 

 疑問に思ったサスケが咄嗟に先ほど音がしたほうに目線を向けると、右近の右足の膝裏からもう一本足が生えており、その足が床を踏み砕いているのが見えた。

 サスケに回し蹴りを避けられた右近たちは、反撃をもらわないために膝裏から左近の足を生やすことにより、文字どおり一足先に着地に成功して、それによりサスケの反撃の蹴りを避けられたのだ。

 先ほどのガガガッという破壊音は、右近の蹴りの勢いのままに左近の足が地面に触れて、床を踏み砕きながら蹴りの勢いを殺した音だったのだ。

 

 サスケの反撃を予想外の方法で回避してみせた右近。だが、右近はただ避けただけではない。

 

「フンッ」

 

 右近は上げた左足を伏せた体勢のままのサスケに向けて勢いよく落とし、サスケの伸ばしたままの右足を踏み砕こうとする。

 迫り来る攻撃に対して、サスケは右足を伸ばしたまま左足を軸にして左回りに回転することで攻撃を避ける。間一髪のところで右近の左足はサスケの足を捉えることなく、床を踏み砕いて止まった。

 

「シィッ!」

 

 サスケは鋭く息を吐き出しながら回転の勢いを殺さずに一回転し、さらに曲げていた左足を勢いよく伸ばすことで、縮んだバネが勢いよく跳ねるように、しゃがんだ状態から飛び上がった。

 さらにサスケは回転の延伸力と飛び上がった屈伸運動、その両方の力を完璧に融合させて、右近の背後から頭部を狙ったハイキックを試みる。

 

 その直前、サスケと右近の視線が交わる。

 

「ッ–––!」

 

 右近の背中と顔が同時に見えている異様な光景に、さらにはその光景が意味するところを理解したサスケが思わず息を呑んだ。

 

 サスケが回転して右近に背を向けたちょうどその時、右近は『軟の改造』によって首を柔軟にし、まるで梟のように首を後方に向けて180度回転させていたのだ。それにより後方の視界を獲得した右近にとって、サスケのハイキックの軌道は丸見えだった。

 

 サスケの勢いが乗ったハイキックを右近は余裕を持って掴み取った。さらに、サスケの足を掴んだ状態のまま首から下の体だけを半回転させてサスケを勢いよく振り回し、そのまま訓練場の壁に向けて投げ飛ばした。

 

 右近は片手でサスケを投げ飛ばしたはずなのに、サスケの体はまるで小石でも投げたかのようにもの凄い速さで壁に飛んでいく。

 

「くっ–––!?」

 

 あまりの勢いに肉体に強い横Gがかかったサスケの口から苦悶の声が漏れる。

 サスケの視界には急激に迫る壁。対応できなければ壁に激突するのは明白であり、潰れたカエルのような無様な死に様を晒すことも確実であった。

 

 壁と激突するまでの極めて少ない時間の中で、サスケの瞳は赤く染まり、瞳孔の周りに黒い巴模様が三つ浮かび上がる。

 『写輪眼』を発動したサスケの動体視力は忍界でも上位である。その驚異的な動体視力を遺憾無く発揮したサスケは、激突の寸前、空中でくるりと体を回転させて勢いを殺し、見事に壁へと着地した。

 

「お見事」

 

 右近がサスケの鮮やかな身体操作を褒めて、パンパンと拍手を送った。

 

「世辞はいい。それよりも続きだ」

 

 サスケは右近の挑発にしか聞こえない賛辞を切り捨て、模擬戦の続きを望んだ。

 右近は首をすくめて褒め言葉は本心からだと、世辞と思われるのは心外だとアピールしながら、サスケの求めに応じるために構えた。

 

 右近の構えは先ほどまでとは少しだけ、しかし明らかに変わっていた。自然体で隙のない構えなのは変わらず、少し伸ばした両腕だけをゆらりゆらりと揺らしている。

 子供がオバケのふりをして遊んでいるかのような構えだが、当然、右近は遊んでいるわけではない。

 

 右近は両腕を『軟の改造』によって柔らかくすることにより、打撃を行うさいに鞭のようにしならせることで、少しでも軌道を読ませづらくさせる時の構えであった。右近の前世の知識にあったボクシングにおけるフリッカージャブを参考にして生まれた構えだった。

 

 サスケは壁を蹴って急加速し、独特な構えをした右近に向かって一直線に駆ける。

 

 迫り来るサスケに対して、右近は両腕を素早く動かして迎撃する。

 『軟の改造』により柔軟性と伸縮性が高まった右近の右腕が鞭のようにしなり、腕の先にある拳は加速し、その勢いによって腕がゴムのように伸びてサスケに迫る。

 いまだ3メートルは先にいたサスケにまで右近の拳が届くが、しかし、サスケは『写輪眼』により右近の打撃を見切り、走りながら横にスライドするように素早くステップを刻むことで余裕を持って回避に成功する。

 右腕に続いて、右近の左腕も同じようにサスケに迫るが、それもまた余裕を持って回避された。

 

 右近の両腕はゴムのように伸びた状態であり、両腕が戻るまでの間は胴体の守りはひどく薄くなっている。そこを見逃すサスケではない。

 サスケは走りながら右腕を大きく振りかぶり、走る勢いと全体重を乗せ、固く握った拳を右近の鳩尾に叩きつけた。

 

 ドンッと大きな音を立てて右近が吹き飛んでいく。その途中で右近が空中で体を捻り、ひらりと地面に着地した。

 

 サスケの攻撃を受けて少しはだけた右近の着物の隙間には、右近のものではない別の両腕がのぞいていた。サスケの攻撃は模擬戦の勝敗が決まってもおかしくない一撃だったが、受ける直前に左近が両腕を挟み込んだことで防御に成功していたのだ。

 

「どうりで手応えが変だと思ったぜ」

 

 サスケは右拳に感じた感触から右近たちが防御していたことを察しており、左近の腕が見えたことで攻撃が決まらなかった原因を理解した。

 

 二人の距離が再び開き、サスケが三度目の接近を試みる。

 

 『軟の改造』により手足をしならせ、『双魔の攻』により出どころが分かりづらい変則的な体術を繰り出す右近と左近に対して、『写輪眼』で右近の動きを見切り、細かくステップを刻みながら鋭く直線的でコンパクトな体術を繰り出すサスケ。

 対照的な二人の動きではあるが、両者ともに動きに無駄はなく、高い技量を見せつけ合うように、競い合うように体術をぶつけ合っていく。

 

 激しくぶつかり合う二人と一人。

 攻撃しては防御され、攻撃されては回避して反撃され、反撃を回避して再度攻撃に移る。

 目まぐるしく攻防が入れ替わり、立ち位置も入れ替えながら手足を無数に組み交わす。

 

 一分、二分と経っても両者のペースは落ちず、三分が経過したところでぶつかり合った衝撃で距離が離れて仕切り直しになった。

 

「よし……そろそろ良いか?」

 

 じっくりと見合いながら右近が呟いた。

 

「ああ……準備運動はここまでだ」

 

 右近の発言にサスケが同意するように今までの準備運動の終わりを宣言した。

 

 そう、今までの一歩間違えれば致命傷になりかねないほど激しい戦いも、この二人にとってはただの準備運動、模擬戦前の肩慣らしでしかなかった。

 そもそも先ほどまでの戦いは、右近左近は『双魔の攻』と『軟の改造』だけ、サスケも『写輪眼』以外は使っていない模擬戦を、本気の模擬戦だとこの場にいる誰も認めないだろう。

 

 ゆえにこそ、ここからさらに戦いは白熱していく。

 

 右近とサスケの二人は本気を出す前の準備として、着ていた着物の袖から腕を抜き、同時に上半身をはだけさせた。着物は重力に沿ってひらりと下に落ちていこうとするが、両者のベルトと縄が裾の上から巻かれていたことにより、そこを基点に逆さに吊られたような状態となった。

 

 そして、双方ともに実力を発揮するために仙術チャクラを使うことを決めた。

 右近と左近は仙術チャクラを練り始める。柱間細胞と融合した右近左近の自然エネルギーとの親和性は以前とは比にならないほど高くなっており、ほんの数秒で仙人状態になり、目の下に隈取りが浮かび上がった。

 サスケは大蛇丸に刻まれた呪印の力を解放させて、サスケの白い肌を蹂躙するように呪印が広がって全身を覆いつくして呪印状態2に変身を遂げた。状態2になったサスケは、その全身の肌が褐色に染まり、鼻の部分には十字の手裏剣のような黒い痣が浮かび上がり、白目は黒く染まって唇も紫になるなど、異様な配色の姿になった。

 

 双方ともに扱うのは同じ仙術チャクラだが、より洗練されているのは当然ながら右近たちである。先ほどまでの戦いが互角だったことを考慮すれば、そのまま戦えば勝敗は見えている。

 

 ならばと、サスケは次なる手を打つ。

 

「はぁぁ!」

 

 状態2になったサスケはさらにチャクラを練り上げ、それを雷の性質に変化させて全身に纏わせる。体の周囲に呪印によって黒く染まった雷が迸り、パチパチと静電気の弾ける音が鳴ってサスケの髪の毛が逆立つ。

 

 これこそが右近左近に一矢報いるためにサスケが『千鳥』を発展させて新たに生み出した技。その名を–––

 

「千鳥纏い」

 

 サスケのもともとの身体能力は高い。特に、速度という点に関してはかなりのものだ。だが、その程度の速さでは右近左近にも君麻呂にも通用しなかった。

 そんな時にサスケが目をつけたのは『千鳥』であった。

 

 『千鳥』はもともと雷遁チャクラで肉体を活性化させて身体能力を高め、片手から雷を放電させながら放つ超高速の突きである。その速度は非常に高く、右近たちにも十分に通用するものだったが、いかんせんチャクラの消耗が激しすぎた。年齢を重ね、修行を積んで成長したサスケですら使えるのは四回から五回ほど、呪印のチャクラを使ってもその倍程度が限度である。

 そこでサスケは『千鳥』を発動させながらあえて放電せず、攻撃性能を落とす代わりにチャクラ消耗を抑えて、肉体の活性化状態を長く維持できるように工夫したのだ。

 

「すごいな……」

 

 右近は呆然とした様子で、思わず口から称賛の声が漏れた。

 右近はサスケの『千鳥纏い』を見た瞬間、原作で四代目雷影の使っていた『雷遁チャクラモード』を想起していた。雷影クラスの人物が使うほどの術に独力でたどり着いたサスケの努力を認めたからこその称賛だった。

 

 『千鳥纏い』と『雷遁チャクラモード』の共通点は勿論、雷のチャクラをその身に纏うことにより肉体を活性化させることにより、身体能力、反射神経を高める点である。だが、術の成り立ちが違うために、纏うチャクラの量が全然違った。

 『千鳥纏い』は『千鳥』よりも燃費をよくするために生み出されており、肉体を十分に活性化させるために必要な最低限のチャクラを使用しているので、体の表面に漏れ出ている雷遁チャクラの量はパチパチと静電気が弾ける程度である。

 逆に、『雷遁チャクラモード』は雷影本人の有り余る膨大なチャクラを体外に放出し続け、その大量の雷遁チャクラを鎧のように形成する技である。

 

 当然ながら二つの術のチャクラ消耗量を比較すると『雷遁チャクラモード』の方が断然上であり、ゆえに、肉体を強化する性能は『雷遁チャクラモード』の方が遥かに高い。

 また、『雷遁チャクラモード』は雷遁チャクラを鎧のように身に纏う性質上、本人の防御力も強化する。その防御力の高さは、原作で三代目雷影が使用していた時に『穢土転生』による不死の肉体ありきと言えど、ナルトの『風遁・螺旋手裏剣』すらも大した痛手にならなかったほどだ。

 対して、サスケの『千鳥纏い』には防御力を上げる効果はない。だが、サスケにはそれを補うための相手の動きを見切る『写輪眼』があり、さらに雷遁チャクラで肉体を活性化させている副産物として『写輪眼』の動体視力すらも向上していた。

 

 どちらの方が優れた術なのかは分からない。どちらにも長所があり、使用者もまた違うので単純比較はできない。

 

 だが、はっきりと言えることが一つ。今のサスケの敏捷性は、全忍の中でも最上位に位置していた。

 

「行くぞ」

 

 右近の目では、サスケが宣言とともに消えたようにしか見えなかった。かろうじてサスケが身に纏う黒雷の残光だけが見えただけだった。

 

 強化されたサスケの肉体は容易に右近の背後を取った。

 仙人状態による危険察知能力によりサスケが背後から仕掛けてくると分かった右近は、背後に振り返りながら裏拳を放つ。

 だが、その動きは今のサスケからすれば呆れるほどに遅い動きだった。

 

「遅い!」 

「づっ……!?」

 

 右近が振り返るよりも先にサスケの掌底が右近の腰に叩きつけられ、右近は前につんのめるように弾かれた。さらに、『千鳥纏い』により微弱ながら雷に触れた右近の体がほんの少し痺れて動きが鈍る。

 その無防備な背中をサスケは見逃さずに追撃の前蹴りが右近の背中に炸裂した。

 

「ぐぅっ!」

 

 苦悶の声をあげて蹴り飛ばされた右近は、咄嗟に地面に手をついて受け身を取って、素早く体勢を整えた。

 

(左近!)

(おう!)

 

 心中で阿吽の呼吸で意思疎通してみせた右近と左近。右近の背中から左近の両腕が飛び出し、構えを取る。

 あまりにも速すぎるサスケに対して、『双魔の攻』による咄嗟の防御が間に合わないと判断した二人は、左近の腕を常に背中から出すことにより、背後の防御を固めることにしたのだ。

 

 その異形の姿を見たサスケも右近たちの狙いを瞬時に把握し、今度はあえて右近を正面から攻めたてる。

 

 右近の鳩尾に向けてサスケの貫手が放たれるが、右近は貫手の側面を捉えるように右手の掌底を放ち、貫手を弾こうとする。原作で仙人モードのナルトが三代目雷影の『地獄貫手』を避けたように、仙人の危険察知能力をもってすれば忍界最速クラスの攻撃ですら反応できる。

 

 しかし、仙人の反応速度すらもサスケは置き去りにする。

 

 『千鳥纏い』中の『写輪眼』の動体視力は忍界でも最高峰である。右近の掌底をサスケの『写輪眼』が見切り、貫手の軌道をずらすことで掌底を躱した。

 

 右近の掌底が空を切り、咄嗟に左手でサスケの腕を抑えようとするが、それよりも一瞬早くサスケの貫手が右近の心臓を貫いた。

 

「ぐっ……!?」

「俺の勝ちだ」

 

 右近の苦悶の表情を前にして、サスケが勝ち名乗りをあげた。

 

「見事だサスケ……まさかここまで強くなるとは」

「ここ一年、お前を殺すことだけを考えてきたからな」

 

 右近に致命傷を与えたサスケの表情は冷静そのものである。右近という強敵を殺したにも関わらず、喜びの感情は浮かんでいない。

 なぜならば–––

 

「次こそは木遁を使わせるからな」

「ふふっ……そうだな……次はそうしようか」

 

 死にゆくはずの右近に次の機会について発言するサスケの言葉を否定しない右近。

 

 その時、パキパキと音を立てて右近の肉体が木に変化していく。いや、もともとが木だったのだ。サスケに殺された右近は『木遁・木分身の術』により作り出された分身だった。

 

 完全に木に変わり、反応がなくなった分身だった物に対して、サスケは困惑した表情で呟く。

 

「それにしても……相変わらず気持ち悪い分身だぜ。写輪眼でも分身と見抜けないとは……」

 

 サスケは模擬戦を始める前から右近が分身であることは知っていた。だが、事前知識がありながら『写輪眼』で見ても模擬戦に現れた右近が『木遁・木分身の術』で作られた分身であるとは見抜けなかった。

 

 なぜサスケの『写輪眼』ですらも『木分身』を見抜けないのか。柱間の『木遁・木分身の術』はマダラ以外に見抜けなかったが、右近の『木分身』はそこまで高性能ではない。だが、サスケの洞察力が未熟だからではなかった。

 右近は『木分身』の擬態能力を極限まで高めるため、大蛇丸の使う脱皮する『変わり身の術』を『双魔の攻』と併用することによって『木分身』の表面に本体の細胞を薄く張り付け、サスケの『写輪眼』ですらも見抜けないほど高性能な分身を作り出していたのだ。

 

「チィッ……」

 

 サスケは右近との模擬戦で初勝利をあげたにも関わらず、気分は晴れない。

 うちはイタチを殺すことを目標にしているサスケからすれば、いくら強いとはいえたかだか分身に苦戦している現状には不満しかない。

 サスケの目指す強さには、まだまだ程遠かった。

 

 ここからさらに一年、サスケは右近の『木分身』との模擬戦に励んでいく。原作とは違い、何度殺してもいい模擬戦相手を手に入れたサスケはどこまでも貪欲に成長していく。

 

 

 


 

 

 

 大蛇丸の持つアジトより少し離れた森の中に右近左近の本体はいた。

 支えなく逆立ちしながら腕立て伏せをしていた右近は、アジト内部の訓練場で殺された『木分身』に対して溜め息を吐く。

 

「はぁ……サスケと模擬戦してた分身が死んだか……どうにも戦闘中の同期はうまくいかないな」

 

 右近が『木遁・木分身の術』に不満の声を漏らした。本来の『木分身』ならば常に情報共有が可能なはずなのだが、右近の『木分身』は柱間の『木分身』に比べてまだまだ未熟であり、本体か分身が激しい戦闘中では情報伝達が不可能になる欠点があった。

 ただ、『木分身』が解けた時に『影分身の術』のように本体に情報を送ることはできており、それにより本日のサスケとの模擬戦の結果を知ったのだ。

 

 そもそも、なぜ『影分身の術』と『木遁・木分身の術』は分身と本体とで情報伝達が可能なのか、なぜ『影分身の術』は術が解けた時にしか情報を送れなくて、『木遁・木分身の術』は常に情報共有が可能なのか。その原理を右近はおおよそ解明していた。

 

 まず、大前提として二つの術により分身と本体との間で情報伝達が可能なのは、原作にて六道仙人が説いたチャクラの基本的な性質である“繋がる力”が強く影響している。『影分身の術』も『木遁・木分身の術』もチャクラを分割して分身を生み出すのは同じであり、本体と分身が同じチャクラを持ち、それが空間を超えて繋がっているから情報伝達ができるのだ。

 

 では、なぜ同じようにチャクラを分割しているはずの二つの術に違いが生まれるのか。ここからは右近の考察になってしまうが、『影分身』には核が無くて『木分身』には木という核があるからだと右近は考えた。『影分身の術』はチャクラのみで無から分身を生み出しており、それに比べて『木分身』は木遁で生木の体を作り出し、それを核に分身を生み出している。つまり、核の有無によりチャクラの繋がる力に差が出ていると考えられた。

 また、水遁や土遁の性質変化の分身などにも核が有るように思われるが、木が有機物なのに対して、水や土などはただの無機物であり、その差が繋がる力に表れていると考えられる。そして、ヤマトの『木分身』が情報共有ができないのも同じ理由であり、ヤマトの木遁は陽のチャクラが足りてないのか、生木ではなく角材であり、有機物ではなく無機物となっているから情報共有ができないというのが右近の推測であった。

 まとめると、『影分身』は繋がる力が弱いために、常に情報伝達することができず、『影分身の術』が解けた時にしか情報を送れない。『木分身』は『影分身』に比べて繋がる力が強いために常に情報共有が可能なのだ。

 

 しかし、常に情報を送ることが可能だからと言って、常に情報を送れるわけでは無い。それは、携帯電話がいつでもどこでも通話が可能な機械であっても、持ち手が常に通話が可能なわけではないようにだ。車の運転中や仕事中、運動中など、本人が忙しくて通話どころではない状況もありえる。

 それを今の右近に当てはめて考えると、『木分身』で常に情報共有ができないのは作業しながら通話ができていないだけであった。

 つまるところ、右近たちと『木分身』で情報共有が滞るのは並行処理能力が足りてないからであり、だからこそ筋トレをしながら『木分身』と情報共有をして処理能力の向上を目指しているのだが、今のところ上手くはいってなかった。

 

「戦闘中の情報のやり取りはもう少し練習が必要だな……っと」

 

 1000回の腕立て伏せを終えた右近が両腕の力だけで飛び上がり、空中でくるりと回転して地面に足から着地する。

 足が地面に接した瞬間、ボコンッと大きな音を立てて地面が陥没した。

 

 右近はただ筋トレをしてたわけではなく、『加重岩の術』により自らの体重を極端に増やしていたのだ。『加重岩の術』により右近の体に加わっていた重量は100キログラム近く、さらには全身に均一に加重を加えられるので、変に体の一部にだけ筋肉がつくということもない。かなり効率的に肉体を鍛えられるトレーニングとなっていた。ただし、軽くジャンプした程度で地面を陥没させたように、床への負担が大きすぎるためにアジト内部では軽々しくできないトレーニングでもあった。

 

 右近は『加重岩の術』を解除して、ぐぐぐっと背伸びして筋トレにより固まった筋肉をほぐす。

 

「くぅ……っと、術の修行も順調そうだな」

 

 他の場所にいる『木分身』たちからの様子から、忍術の修行も順調であることを知った右近。特に、木遁の修行は順調そのものであり、原作で使われた術以外にも右近の持つ術と組み合わせて新たな術を生み出していた。

 

 しかし、修行は順調であるにも関わらず、右近と左近も新たな悩みを抱えていた。

 

「サスケはやっぱり天才だな……才能の差ってやつを感じるよ」

(こればっかりはしゃあねぇなぁ……) 

 

 もともと『影分身の術』による修行の効率化に関して、そのリスクを考慮して禁止していた右近だったが、柱間細胞と融合したことでチャクラが大きく増えたことにより、安全マージンを確保しながら『木分身』を利用した修行を行うようになっていた。今までと比べて修行の効率は数倍化しているだろう。

 だが、今日の模擬戦では『木分身』がサスケに殺された。もちろん、今日の模擬戦ではほとんど体術しか使ってないし、忍術、仙術も使えば今のサスケに負けることはないだろう。だが、それでも模擬戦で負けた事実は変わらない。

 

 明らかに右近左近の方が修行効率が良いのにサスケに負けた事実に、右近はサスケとの才能の差を感じていた。

 

 はっきり言って、右近たちとサスケの間には大きな才能の差がある。仮に、双方が一つの術を新たに覚えようとした時に、右近たちが習得に十日かかるとしたなら、サスケは三日で習得するだろう。それぐらいには才能の差があった。

 その差を、右近たちは『木分身』により修行効率を高めることで覆しているが、それでもサスケの才能に何も感じないわけではない。

 

「負けられないな」

(そうだなぁ……)

 

 右近たちはサスケに負けられないと、より修行に励んでいく。右近たちとサスケの模擬戦は、双方に良い刺激を与えていたのだ。

 

 格上との戦闘で急激に成長するサスケと、それに負けないように効率良く成長していく右近と左近。貪欲に成長し続ける彼らがどこまで成長していくのか、それはまだ誰も知らない。

 

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