音の四人衆最強の男   作:北山 真

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疾風伝編
天地橋の戦い その壱


 

 サスケが音隠れの里に入ってから二年半が経過した。

 つい最近、砂隠れの里の風影であり一尾の人柱力でもあった我愛羅が暁のデイダラに襲われて誘拐される大事件が起きた。

 我愛羅を助け出すために、砂隠れの里は同盟里である木ノ葉隠れの里に援軍を依頼し、木ノ葉隠れの里からカカシ班とガイ班が救援に行った。

 砂と木ノ葉の合同部隊と暁との戦闘の結果、チヨバアという尊い犠牲を払い、さらに一尾を奪われたものの、彼らは我愛羅を取り戻すことに成功した。

 さらに、サクラはサソリとの戦闘後、サソリから大蛇丸の部下の情報を聞き出すことに成功していた。

 サスケ奪還の手掛かりとなる大蛇丸の部下の情報を手に入れた木ノ葉の忍はその情報を頼りに、ナルト、サクラ、ヤマト、サイで四人一組の小隊を組み、慣れないメンバーでの意思疎通に苦しみながら大蛇丸の部下が現れるという場所、草隠れの里にある天地橋という森の中にある深い渓谷へ架けられた橋へと到達した。

 

 小隊長であるヤマトはこれから現れるはずの大蛇丸の部下に対して、あらかじめ作戦を考えていた。

 作戦ではまずヤマトがサソリに変化して相手に警戒させないようにして出来る限りの情報を聞き出し、残りの三人は天地橋の近くにある森の中に潜み、万が一の場合に備えるという簡潔なものだった。

 この作戦は小隊のチームワークが悪いことを前提に立てられていた。もともと相手の出方次第で状況がころころ変わり、その都度対応しなくてはいけないのだ。そんな状況で、かつ、いびつで不細工なチームワークで綿密な計画など立てても上手くいくことなどない。それなら、細かい作戦は抜きにして個人の能力に重きを置いた方がはるかにマシであった。

 

 隊長であるヤマトはそう判断し、作戦を立てて実行していた。

 天地橋の上にサソリに変化した状態で立ち、相手を待つこと数十分、ようやく相手が姿を現した。

 

 相手はフード付きの外套を着ており、顔はフードで見えず、体格も外套を羽織っていることで分かりづらいので性別の判断もつかない。

 その者がサソリの姿に扮したヤマトに近づき、そのフードから顔を覗かせた。

 

 大蛇丸の部下に紛れ込んだサソリのスパイ、その正体は薬師カブトであった。

 

「あいつか……!?」

「まさか……暁のスパイがカブトだったなんて……」

 

 森の中から様子を窺っていたナルト、サクラが見知った顔であるカブトの登場に小声で驚くという器用な真似をしていた。

 サイとヤマトも声には出さないもののナルトとサクラと同様に驚いていた。カブトと言えば三代目火影が亡くなった中忍試験の時にも、五代目火影が就任直前に起きた短冊街での三忍が一同に会した戦いの時にも大蛇丸のすぐ側に立っていた存在であり、木ノ葉隠れの里の中でも右近左近と並んで大蛇丸の側近として名前が知られている人物であった。

 それほどの人物がまさかサソリが大蛇丸の下へと送り込んだスパイだとは夢にも思っていなかったのだ。その驚きは一際だろう。

 

 驚きも冷めやらぬ中、ヤマトとサイはこの機をチャンスだと捉えていた。

 

(大蛇丸に近い存在であるこいつから情報を聞き出すことができたなら大蛇丸に大きく近づける……これは願ってもみないチャンスだ)

(この人に近づければ大蛇丸の下へと行くチャンスが得られる。そうすればサスケに近づき、ダンゾウ様からの任務であるサスケ抹殺も果たせるだろうけど……)

 

 両者ともに大蛇丸に近づくチャンスだと捉えたのは同じである。しかし、両者の考えには決定的な差があった。それは、今はただの暗部であるヤマトと今もダンゾウ直属の暗部である根所属のサイの差でもあった。

 ヤマトは純粋に危険人物である大蛇丸の動向を調べる絶好の機会だと捉えて、カブトから情報を聞き出そうと考えていた。だが、サイはダンゾウからの極秘任務であるサスケ抹殺を遂行するためにカブトに接触し、大蛇丸のアジトへと案内してもらう算段を考えていた。

 

 そう、ダンゾウはサスケの存在が目障りになっており、秘密裏に処理するために自分の手駒であるサイにサスケ抹殺の任務を与えていた。

 ダンゾウから見てサスケという存在はイタチへの人質であると同時に、木ノ葉隠れの里を破壊しかねない爆弾であった。

 ダンゾウとイタチの間には協定があり、その内容を要約すれば『イタチがうちは一族を抹殺する代わりにサスケは見逃す。もしもサスケを守らなければイタチが知る限りの木ノ葉隠れの里の情報を周辺国に渡す』というものだった。

 イタチは幼い頃より暗部にて活躍した天才忍者であり、里の情報を知りすぎていた。その情報が他里へ漏れたなら、木ノ葉隠れの里の未来は真っ暗になることは間違いない。

 この協定があったとしても、ダンゾウは本来ならイタチへの人質として洗脳教育を施して里へ恭順させるべきだと考えていたのだが、三代目火影が健在だったこともあり、里にいる間はサスケに手を出せなかった。

 だからこそ、サスケが里抜けする時には、自主的に里を抜けて大蛇丸の下に行ってくれるならイタチとの協定を破らなくても良く、大蛇丸に殺されてイタチの怒りが大蛇丸に向けることができるとほくそ笑んでいた。

 

 だが、そんな甘い算段が上手くいくはずはなく、サスケは死なずに大蛇丸の次の肉体として成長しているという情報がダンゾウの耳に届いていた。ダンゾウと大蛇丸は密かに繋がっていたため、里の上層部にも知られずに情報を手に入れることができたのだ。

 大蛇丸がサスケという肉体を得て次もまた木ノ葉潰しをしようとした場合、甘い考えを捨てられない綱手では止められず、木ノ葉は前回以上に厳しい状態に陥るとダンゾウは考えていた。

 それはダンゾウにとって非常に困る事態である。火影の座を狙うダンゾウにとって綱手の失脚は大変ありがたいが、ダンゾウが火影として木ノ葉隠れの里を導くためには里は必要不可欠であり、潰されるわけにはいかない。

 ゆえに、ダンゾウはサスケを抹殺することを決めた。サイにはただの抜け忍の抹殺としてサスケ抹殺の任務を与え、イタチには後から下手人であるサイを人身御供として差し出すことで怒りを鎮火させられると考えていた。

 

 ダンゾウはこれでもイタチにほんの少しだけ罪悪感を抱いていた。イタチが大切にしているサスケを殺さなければいけないからだ。ダンゾウは、イタチを極めて優秀な忍であると、自己犠牲という忍として一番大切なことを全うできる忍であると認めていた。

 だからこそ、イタチが真に里のために自己を犠牲にすることができる忍だからこそ、里に害を与える可能性の高いサスケの死は里のためであると説明すれば、必ず納得してもらえると考えていた。うちは一族にとって愛する者がどれだけ大切なのかを理解していない甘い考えであったが、ダンゾウにとってはそれが真実であった。

 

 サスケ奪還とサスケ抹殺という相反する二つの任務が一つの小隊の中である今の状況だが、当事者であるサイ本人はサスケを殺すべきか悩んでいた。

 サイは幼い頃よりダンゾウに才を見出され、根という冷たく暗い忍の闇の世界で生きてきた。だからこそ、短い時間とは言えナルトという暖かく優しい強い光との会話に強く影響を受けており、ナルトが大切にしているサスケとの繋がりを自分が断ち切るべきではないと考えるようになっていた。

 サイがダンゾウから命じられた任務はただの抜け忍であるサスケの抹殺であった。抜け忍を殺すのは里の情報を他国に知られると困るから、という理由が大きい。ならば、殺さずに里に連れ帰ることでも達成できるとサイは考えていたのだ。

 

 カブトの登場という降って沸いた特大のチャンスに浮き足立つ木ノ葉の忍たち。カブトを捕らえようと虎視眈々と狙う中、予想外の事態に見舞われることになる。

 ヤマトがカブトに対して大蛇丸のアジトとサスケの情報を聞き出そうと質問をした時に、それは起きた。

 

「よう、木ノ葉の忍たち」

「「「!!??」」」

 

 森の中に隠れていた三人が急に後ろから声をかけられたのだ。三人は確かにカブトに集中していたが警戒は怠っておらず、背後に誰かがいる気配などしていなかった。それどころか、声をかけられても人の気配などしないことに驚きを隠さずにバッと後ろを振り向く三人。

 

 そこにいたのは二年半前よりも大きく成長した右近だった。服装は変わっており、腰まで伸ばした白い長髪を後ろで一括りにしているなどの変化はあったが、ナルトは何度か見かけた強敵の姿を忘れていなかった。

 

 突如として背後に現れた右近に対して即座に警戒する三人。しかし、わざわざ背後を取っていたのに声をかけるほどの余裕が右近にはあったのだ。三人の動きは素早かったが、この時点で右近に時間を与えすぎていた。

 

 右近はすぐ近くにいたサクラに無造作に近づき、サクラに抵抗する隙を与えないままにその首を片手で掴んで宙に持ち上げた。右近とサクラとの間には頭一つ分程度の身長差があり、持ち上げられたサクラは必死にもがくものの、その足は地面に着かずにバタバタと宙を掻くだけであった。

 

「うぅっ……」

「サクラちゃんを離せってばよ!!」

 

 首を絞められたサクラが苦悶の表情でうめく。想い人の苦しむ姿を見たナルトは叫びながら右近へと殴りかかるが、ひらりと躱した右近がサクラを持ったまま森の外へと出た。

 

「サクラ……!?」

「なんだ……茶番はもう終わりですか?」

 

 部下の異変に気付き、慌てた声で名を呼ぶサソリに扮したヤマトとは対照的に、余裕な表情で丸眼鏡の中心を人差し指で押し上げながら呟くカブト。

 

 原作では大蛇丸と来ていたカブトだったが、今は右近左近と、さらにもう一人と来ていた。

 

「右近、左近……いつまで遊んでいるつもりだ。さっさと終わらせて大蛇丸様の下へ帰るぞ」

 

 カブトの背後にあった森の中から新たな男性の声がした。木ノ葉の面々が声の方を向くと、そこにいたのは君麻呂だった。君麻呂は背後を取ったにも関わらず誰一人として殺してもいない右近左近への苛立ちを隠さずに特徴的な眉を歪めており、直接的に苦言を呈していた。

 

 サクラという人質を取られて、さらには君麻呂という木ノ葉隠れの里からすれば今まで知らなかった新たな敵の登場に、暗部に長年所属して経験豊富なヤマトと言えども動揺を隠せない。

 

「また新手か……どうやら完全に罠だったようだ……」

 

 ヤマトはサソリへの変化を解き、唐突に窮地に追い込まれたことに対して努めて冷静を装いながらも、隠しきれない苦い声を漏らした。

 ヤマトたちにとって奇襲されることは完全に想定外だった。ヤマトたちの任務は大蛇丸の部下にいる暁のスパイから情報を聞き出すことであり、戦闘行為はスパイから情報を得られず、やむを得ない場合のみと考えていた。右近左近という特大の戦力が控えているかもしれない音隠れの里を相手に、たった四人で戦闘を挑むなど自殺行為でしかないからだ。

 だからこそ、スパイ以外の人員が控えていたのも想定外であったし、あまつさえ特大の戦力である右近から奇襲を受けるなど埒外の事態であった。

 

「そう、残念ながら貴方たちは罠に掛かりました。袋の鼠というやつですよ」

 

 そんなヤマトを煽るようにカブトが口撃を重ねるが、カブトたちにとってもこの状況は予想外だった。もともとは大蛇丸の手によってサソリの呪縛から解き放たれたカブトを餌にしてサソリを誘い出し、罠にかけて仕留めるつもりであったというのに、実際に現れたのは木ノ葉隠れの里の忍たちであったからだ。

 なお、原作では大蛇丸がこの場にいたが今はいない。原作ではサソリを相手にして大蛇丸以外にまともに動ける人員がいなかったので大蛇丸本人が出ていたが、今は右近左近と君麻呂という動かしやすく強い駒がいるため、大蛇丸本人は動かずにサスケの肉体を乗っ取るために体調を整えていた。

 

 そんなこともありこの場に現れた右近左近だったが、彼らは原作知識からナルトたちがいることに気付いたのではなく、仙人の感知能力によりナルトたちが潜伏していることに気付き、その情報を基にして対処方法を決定した。

 

 対処方法は至極単純だけど効果的な方法、背後からの奇襲である。本来なら、ヤマト小隊に感知タイプの忍がいないことを差し引いても、この場で背後からの奇襲を成功させるのは難しいが、右近左近は見事に成功させてみせた。

 

(いったい……どうやってサクラの背後に……)

 

 状況を静観しながらヤマトは右近がどうやってサクラの背後を取ったのか疑問に思っていた。

 深い渓谷に架けられた天地橋の上にはヤマトが立っていた。ヤマトは常に周囲を警戒していたし、そのヤマトが見ていた限り渓谷を飛び越えた生物も無機物も存在していない。深い渓谷であるがゆえに見晴らしがよく、歴戦の忍であるヤマトが見逃していたというわけではない。さらに言えば今の空は雲一つない快晴であり、なんらかの手段で上空を飛んだものもヤマトは見ていなかった。

 

(となると……残るは地下だけ。土遁を使えるのは報告にあったから、それで地中から進んできたわけだ)

 

 ヤマトは消去法で、右近たちが土遁の術で地下に潜り、谷底のさらに下を進んでサクラの背後を取ったと推測した。

 その推測は半分あたりであった。ヤマトたちの下を通って背後を取ったのは当たっていたが、谷底の下を通ったという推測は間違えていた。

 右近左近が通ったのは文字通りヤマトの足下、天地橋そのものであった。柱間細胞と融合して自然エネルギーとの親和性が飛躍的に高まった右近左近の『双魔の攻』は土石や草木などの固形物に限るが自然との融合すら可能となっていた。原作では暁の白ゼツが『蜻蛉』という術で同じ自然と融合する術を使っていたが、右近左近は『双魔の攻』の応用により再現したのだ。

 そうやって地面から橋へ、橋から地面へと融合して移動した右近は見事にサクラたちの背後を取って奇襲することに成功したのだ。

 

「うっ……ううっ……」

「サクラちゃんを離せってばよ!!」

 

 ヤマトが推測している間にもサクラは右近に首を絞められており、血の気の引いた顔で意識が朦朧としているサクラを見たナルトは右近に向けて大声で叫んだ。

 ヤマトとサイはナルトの叫びを聞いて冷静にナルトの行為を無駄と断じた。仲間が人質に取られた状態で相手を刺激する発言は仲間を危険に晒す行動であり、ましてや今の状況で人質を離せと言われて離す馬鹿はいない。叫んだだけで事態が好転することなどないのだ。

 

 まさに負け犬の遠吠えという言葉が似合うナルトの叫びに対して、右近はというと–––

 

「ほらよ」

「えっ……?」

 

 至極あっさりとサクラをナルトに向けて放り投げてしまった。

 あまりに現実離れした行動にナルトは唖然としたものの、飛んでくるサクラを慌てて両手でキャッチした。

 

「ごほっ……ごほっごほっ!?」

「サクラちゃん!」

 

 新鮮な空気を取り込めたことで咽せるサクラの背中を心配そうに優しく撫でるナルト。その二人を視界の先に収めながら右近たちへの警戒を緩めないヤマトとサイ。

 右近の行動は常識的に考えてありえない行動であり、それゆえにヤマトたちには右近の考えが理解できない。

 

(コイツはいったい何を考えているんだ?)

 

 ヤマトたちが右近の考えを理解できないように、カブトと君麻呂も右近の考えを理解できなかった。

 

「右近、どういうつもりだ?」

 

 君麻呂が怒りを滲ませながら右近に疑問を呈した。

 そもそも、君麻呂からすれば右近の行動は最初から不自然であったのだ。右近の実力を考えれば、奇襲に成功した段階でナルトたち三人の死は決定的だったのに、一人も殺さずにただ女を一人人質に取っただけで、さらにはその人質すらも投げ捨てる始末である。

 この一連の行動に君麻呂は苛立っていた。君麻呂の体から殺気が漏れ出し始める。自分へ向けられたわけではないはずなのに、おもわずナルトたちは背中に嫌な汗をかいた。それほどに君麻呂の殺気は鋭く、重かった。

 

「そう怒るなよ君麻呂、俺たちの狙いは赤砂のサソリであってコイツらじゃないだろう?」

「だがコイツらは木ノ葉の忍で、木ノ葉は大蛇丸様の敵……ここで始末しておくべきだ」

「いや、俺はそうは思わないな。木ノ葉は仲間意識の強い里だし、ここで殺せば次から次へと報復に来るはずだ」

「来た敵は皆殺しにすればいい。僕と君たち、そしてサスケの体を得た大蛇丸様となら可能だろう」

 

 君麻呂の殺気に萎縮しつつも、大蛇丸の部下たちが仲間割れの様子を見せているので、話の流れを静観していたヤマトたちだったが、ナルトにとっては無視できない発言があった。

 

「サスケの体がなんだってばよっ……!?」

「ナルトっ……!?」

 

 こめかみに青筋を浮かべたナルトが君麻呂にくってかかる。サクラは冷静に対処しなければいけないこの状況で、怒りで判断能力が落ちてそうなナルトを諌めるために声をかけたが、ナルトにはあまり効果がない。

 

「お前には関係のない話だ」

「関係なくなんてねえってばよ!俺はあいつの友達だ!」

 

 君麻呂に冷徹な視線と言葉を浴びせられたナルトだったが、むしろ火に油を注いだ結果となってしまった。そしてそれは、ナルトに限った話ではない。

 真っ直ぐに睨み合うナルトと君麻呂。

 ただでさえ右近の言動の意図が読めなくて苛立っていた君麻呂は、会話に割って入ってきたナルトに叫ばれてさらに苛立っていた。ナルトの怒りに呼応するように、右近へと向いていた怒りがナルトに向かう。

 

「うるさいな……君から殺すよ」

「やってみろってばよ!お前をボコボコにしてサスケの居場所を吐かせてやる!!」

 

 売り言葉に買い言葉で互いに熱くなっていく二人。その熱を冷ますかのように、右近が言葉を挟む。

 

「まあ、ちょっと落ち着いてくれよ君麻呂……俺は木ノ葉の忍に聞きたいことがあっただけなんだ」

 

 右近がいつの間にか君麻呂の背後に回り、君麻呂の右肩に手を添えながら落ち着かせようとする。

 その光景にヤマトたちは驚きに満ちた表情をした。

 

「え?」

「いつの間に……!」

 

 サイとサクラが呆然とした様子で呟いた。

 

 今の一瞬、木ノ葉隠れの里の忍たちは君麻呂とナルトの言動に注目していたため、一瞬だけ右近への警戒心が薄れていた。そのために右近がいつ動いたのかを誰も把握できていなかったのは確かだ。

 しかし、逆に言えば君麻呂の動きには注目していたにも関わらず、木ノ葉隠れの里の忍たちには、君麻呂の隣に右近が突如として現れたようにしか見えなかった。

 

 木ノ葉隠れの里の忍たちには何も見えなかった。それは確かであったが、見えはしなかったが右近が何をしたのかを感じた者はいた。そして、その者、ヤマトは右近が何をしたのかを自身の豊富な経験により導き出していた。

 

(右近と呼ばれていた男は今……土遁で下を潜ったわけでも、ましてや時空間忍術で瞬間移動したわけでもない。到底信じられないことだが、ヤツは目にも止まらぬ速さで僕の横を通り抜けただけだ……ボクは確かにヤツが真横を通った時に起きたであろう風とほんの微かな橋の揺れを感じた……!)

 

 ヤマトの推察通り、右近が君麻呂の背後に回り込んだ方法とは、『土遁・軽重岩の術』により肉体を軽くして『瞬身の術』で天地橋の上を高速で走り抜けていただけだった。

 その時、ヤマトは天地橋の上にいたので、右近が走り抜けた時に起きた風と天地橋の揺れを感じていたのだ。右近は『軽重岩』により体重が軽くなっていたので橋の揺れは少なかったが、それでも、横を通られたという真実に気づかないほどヤマトは鈍感ではなかった。

 

(だがっ……真横を通られたはずなのに、確かに通られたはずなのにっ!?ボクの目でも影しか捉えられないなんてあり得るのか!?)

 

 ヤマトが右近の実力のほんの一端を知って驚愕し、現状が右近の手に支配されていることを理解させられた。右近が人質としたサクラを簡単に手放した理由がいつでもヤマトたちを皆殺しにできるほど圧倒的な実力差があるからこそだと誤解させられたのだ。

 

 そう、ヤマトの誤解である。右近左近とヤマトたちの間に圧倒的な実力差があることは確かであり、それゆえに、この戦場で死ぬはずがないという慢心があることも確かである。だが、それを差し引いたとしても右近がサクラを手放したのは、その方がヤマトたちと落ち着いて会話ができると考えたからだった。

 

 ヤマトが右近の動きを誤認して彼我の戦力差に戦慄している中で、右近と君麻呂が視線だけで意思を通し合い、やがて君麻呂が折れる形で決着がついた。

 

「はぁ……好きにしろ。だが、この件は大蛇丸様に報告させてもらうぞ」

「ああ、それでいいよ。助かる。カブトさんもそれでいいかな?」

「僕はもともとどちらでも構わないよ。君のお好きにどうぞ」

「ありがとう二人とも」

 

 カブトが右近と君麻呂との会話のために二人に近づいて橋の片側に歩み寄った。それを見てヤマトは反対の方向、自分の部下三人が待つ方に向かって敵に背を見せないように警戒しながらジリジリと後ずさることで合流できた。

 

 橋を挟んで音隠れの里と木ノ葉隠れの里の忍たちが向かい合う。

 

「さて、じゃあ木ノ葉隠れの皆さんに質問したいが、構わないか?そっちの隊長さん」

「ああ……」

 

 いつでも動けるように身構えながら右近の質問に頷くヤマト。ヤマトの背後にいるナルトたちもヤマトと同じように構えていた。

 そうやって警戒を続ける木ノ葉隠れの里の忍たちに向けて、右近がいよいよ本命の質問をぶつける。

 

「二年半前……俺がサスケを木ノ葉から連れ出した時、俺には三人の仲間がいたが……木ノ葉の忍たちと戦った時、気を失った俺が目覚めるとその三人は行方不明になっていた。

 俺は木ノ葉の忍たちが情報を得るために生きているあいつらか、その死体を持ち帰ったと思っている……そこで、だ……」

 

 右近が一瞬だけ言葉を区切り、意を決して言葉を口に出した。

 

「あいつらは今、どこにいる?」

「…………」

 

 ヤマトは右近の質問にどう答えるべきか思案していた。今、この場で一番強いであろう右近の機嫌を左右する質問である。真実を話すべきか、虚偽を話すべきか、非常に難しい問題であった。

 ちなみに真実は、カカシが三人を殺した後、負傷した仲間たちを木ノ葉へと連れ帰る時に三人の死体を持ち帰り、死体から情報を取り出す術を使った後に木ノ葉隠れの里の外れに埋められていた。死体を放置するわけにもいかず、敵なので共同墓地などに入れるわけにもいかなかったので、こういう処置になっていた。

 

(ダメだ……相手の考えが読めない。こいつは大蛇丸の忠実な部下で、二度も自来也様と戦い、サスケ奪還任務の時にはガイさんやアスマさんとも戦い、その時に窮地に追い込んだ男のはずだ。戦力差を考えれば、こいつはボクたち全員を半殺しにして大蛇丸のアジトに連れ帰り、アジトで拷問でもして情報を聞き出せばいいはずなのに……こいつ、さっき君麻呂とやらに言った言葉どおり、本当に木ノ葉と敵対する気がないのか?大蛇丸とともに木ノ葉へ攻め入り、三代目火影の死に関与しているのに?本当に……何を考えているんだ?)

「じっくり考えて話してくれ。俺は待つ」

 

 右近の考え方が理解できずに悩むヤマトに対して、右近がどっしりと腕を組んで動かないまま言葉を告げた。

 それからまだしばらく悩んだ末に、腹を括ったヤマトが出した答えは真実を話すことであった。

 

 真実を伝えて右近がどういう反応をするのか、結局ヤマトには予想できなかった。だが、普通の人間は虚偽の内容を教えられて、後からそれが嘘だったと知れば怒りが湧いてくる。その怒りは大抵の場合、不都合な真実を知らされた時よりも大きいことが多い。

 ゆえにヤマトは、右近に真実を話すことを決めたのだ。仮に真実を知った右近が怒りを覚えたとしても、嘘をついたことがバレた時よりもマシなはずだと信じて。

 

「君の言う三人は木ノ葉の外れにある森の中に埋められている」

「……だろうな……そうではなかったら良かったんだがな……」

 

 ヤマトの口から語られた真実に、右近は空を見上げた。右近は二年半前から仲間の死は察していたので驚きは無かった。だが、確実に死んだと聞けば、その心中に感じるものがないはずがなかった。

 ほんの数秒だけ空を見上げていた右近がヤマトたちに視線を戻した時には、その表情は普段と何も変わらないものになっていた。

 そんな右近は、真実を伝えてくれたヤマトに礼をしたいと考えていた。

 

「さて、俺が聞きたいことを聞けた、その礼だ。貴方たちの質問になんでも一つだけ答えよう……ついでに、この場では俺から手出ししないことを誓おう。俺も貴方たちも聞きたいことが聞けて、無事に帰ることもできる……良いことずくめだと思うが、どうだろうか?」

「それは……」

「とは言え……真面目な木ノ葉の忍とは違って、大蛇丸様の部下の俺の言葉に信用はないとは思うが、嘘はつかないとは言っておく」

 

 ヤマトから見て、右近が嘘をついているようには見えない。事実、右近の今の言葉に嘘は一つも無く、伝えた言葉の全てが真実だった。

 だが、右近が大蛇丸にかなり重宝されている部下であるという事実だけで、右近の言葉の信頼性は地の底にまで落ちてしまう。それだけ大蛇丸の部下だという事実は重い。

 

 ただ、右近の言葉の真偽は置いておいて、大蛇丸の部下に質問に答えてもらえる機会は貴重なものである。その機会を逃せるわけがない。特に、サスケを探し求め、どんな情報でも逃したくないナルトとサクラにとっては絶好の機会であった。

 

「なら!サスケのことを教えろってばよ!」

「ナルト……」

 

 隊長であるヤマトを差し置いて、ナルトが吠えるように右近にサスケのことを聞いた。ナルトの必死な表情を横目で見たサクラが今にも泣き出しそうな顔をしていた。

 サクラはナルトに対して負い目があった。二年半前にサクラがナルトに対してサスケを助けてくれと願ったからこそ、ナルトはこんなにも必死にサスケを助け出そうとしていると、サクラは考えていた。サクラが願っていなくとも、ナルトはサスケを親友だと感じているので必死に助けようとしただろう。そのことはサクラは理解している。

 だが、ナルトがサクラに恋愛感情を抱いていることはサクラも知っていて、そのうえでサスケを助けることを願ったことで、サクラはナルトの恋心を利用してしまったと罪悪感を抱くようになっていた。

 

「サスケについて、か……アバウトな質問だな。何を知りたいんだ?」

「全部だ!さっさと答えろってばよ!!」

 

 ナルトはもはや我慢の限界が近かった。先ほどまでは緊張感を持ち、なんとか自制して右近たちの対応をヤマトに任せていたが、右近が『なんでも答える』と言ったことで止まれなくなっていた。

 ナルトからすれば、この二年半でようやく訪れたサスケに近づくチャンスであり、大蛇丸がサスケの肉体を奪うという自来也からの情報もあり、この機会を逃せばもうサスケに会えないかもしれないという焦燥感に襲われていた。

 

 溜まりに溜まったマグマを全て吐き出そうとしている火山のように感情を爆発させているナルトは、もう誰の制止だろうと止まらないし、止まれない。

 

「全部か……強欲だな、うずまきナルト」

「うるせぇってばよ!答えろ!」

「ナルト!少し落ち着け!相手を刺激してどうする!?」

「ヤマト隊長も邪魔しないでくれってばよ!サスケに近づくチャンスなんだってばよ!」

 

 今のナルトは冷静さの欠片もない、何にでも噛み付く狂犬のようであった。すぐにサスケの情報を教えない右近にも、自分を思って止めようとするヤマトにも吠える。上手くいかない現実に対して、ただ周りに吠えるだけの痛々しい姿であった。

 

 今にも仲間割れしそうなほどに悪化した雰囲気を変えるべく、右近はパンパンッと大きな拍手の音を鳴らして、ヤマトの方へ向かっていたナルトの気を自分に戻した。

 

「お前には悪いが、教えるのは一つだ。サスケが今いる場所、音隠れでの立場、二年半で得た術の詳細、大蛇丸様がいつ頃サスケの体を手に入れるのか、何を聞いても良いが俺が答えるのは一つだけだ。質問は具体的にしてくれよ?でないと答えられないからな」

「テメー……!」

「ナルト!落ち着きなさい!」

 

 右近はナルトのサスケについて全部話すという要望を拒否し、より具体的な質問にするようにナルトを正した。

 その右近のまるで無知な子供を叱る教師のような物言いに、ナルトは煽られていると感じて、さらに怒りを募らせた。

 それを落ち着かせようとサクラが声をかけ、ナルトの肩に手を置いたが、ナルトは肩を回すような仕草で肩に置かれた手を振り払った。

 

(ナルト……アンタにはもう……私の言葉も届かないの?)

 

 普段のおちゃらけた明るい雰囲気とはまるで違う態度を取るナルトに対して、サクラは恐怖を抱くとともに、それほどまでに追い詰めてしまった自分を恥じた。

 

 そんなサクラの悲しげな表情を見ることもなく、ナルトは右近だけを見つめて問い直した。

 

「サスケの居場所を教えろってばよ!」

「サスケの居場所ね、分かった教えよう」

「右近、お前は–––「君麻呂、お前がさっき言ったんだぞ『来た敵は皆殺しにすればいい』とな。それとも、前言を撤回するか?」

「はぁ……勝手にしろ」

 

 ナルトの質問に答える右近を君麻呂が止めようとしたが、右近が君麻呂の発言を掘り返したことで、君麻呂は溜め息を吐いてそれ以上の言葉を飲み込んだ。君麻呂が自身の発言、『僕と君たち、そして大蛇丸様とで皆殺しにする』という言葉を撤回するということは、大蛇丸の力を疑うことにも繋がりかねないからだ。

 

「サスケは今、ここから北西の方向にあるアジトにいる。だが、うずまきナルト……それを知ってどうするつもりだ?」

「決まってんだろ!サスケをぶん殴って!そんで、木ノ葉に連れ帰るんだってばよ!!」

 

 サスケの居場所を教えながらも決まりきったことを聞いてくる右近に、こめかみに青筋を浮かべながらも返したナルト。

 ナルトの怒りに呼応して、ナルトの頬にある狐の髭のようなものが色濃くなっているのが何を意味するのか、右近はそれを知りつつもさらに言葉を重ねた。

 

「……言っては悪いが、それは不可能だろう」

「ああぁ!?」

 

 右近に目的を否定されたナルトが声を荒げた。だが、今の言葉はナルトへの悪意がある発言ではなく、その逆で、ナルトへの善意からの忠告のつもりであった。

 

「今のサスケは強い。今のお前では指一本触れられない。そして、サスケの決意は固い。サスケはイタチを殺すまで木ノ葉へは帰らない。つまり、お前の言葉どおりのことが起きることは無い」

「なんでテメーにそんなこと言われなくちゃならねぇんだってばよ!!お前はサスケのなんなんだ!?」

「俺はこの二年、サスケの隣にいた。友とまではいかないが、仲間だとは思ってる」

 

 右近から告げられた決定的な言葉にナルトはついに我慢の限界を超えた。怒りのままに体から九尾特有の赤いチャクラがブクブクと泡立ち、全身から噴き出す。

 

「サスケはお前らの仲間じゃねえ!!俺たち木ノ葉の仲間だ!!」

「認められないか?あえて言うが、それを決めるのはサスケであってお前ではないはずだ」

「うるせえ!うるせえ!!うるせえってばよ!!!!!」

 

 右近の言葉一つ一つにナルトは神経が苛立ち、頭が沸騰するような感覚を覚えていた。無尽蔵に腹の底から怒りが湧き立ち、それと同じぐらい九尾のチャクラが噴き出し、ナルトの全身を覆い尽くして、さらには臀部からはゆらゆらと揺れる一本の尾が生えていた。

 

 だが、まだ足りない。こんな程度ではナルトの怒りは収まらない。怒り足りない。静まることのない赫怒。憤怒の怒りがナルトの心を支配していた。

 ナルトが頭を掻きむしり、髪を引きちぎり、皮膚から出た血で爪を赤く染める。そして–––

 

「アアアアアアァァァァァァッッ!!!!!!」

 

 ナルトの喉から人のものとは思えない絶叫が迸り、その音圧だけで周囲の木々と橋を大きく揺らした。

 そして、ブクブクと泡立つ九尾のチャクラが増え続け、臀部から二本目のチャクラの尾が生える。

 

「っ……!?」

「ナルト!」

「ナルトッ!?くっ……二本目だって!?」

 

 ナルトの怪物のような姿を見たサイ、サクラ、ヤマトの三人はナルトの咆哮が起こした衝撃波から顔を腕で守りながら三者三様な反応を見せた。

 

 怒りで理性をなくした怪物は牙を剥き出しにして吠える。

 

「オマエを殺すっ!!!!」

 

 小さな身で莫大なチャクラを溜め込んだ赤い狐の怪物が、右近に向けて襲いかかった。

 

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