いつもこの小説をお読みいただき本当にありがとうございます。
おかげさまで、この小説のUAは五十万を突破し、お気に入りも八千人以上、総合評価ももうすぐ一万五千を超え、平均評価も常に高評価を維持できているなど、これほどまでに評価していただき本当にありがたい限りです。
これからも皆様のご期待に応えて、より良い作品にできるよう精一杯書いていきたいと思いますので、これからもよろしくお願いします。
それでは本編をどうぞ。
暴走していたナルトの『尾獣玉』によって森の中にできた大きなクレーターだけの地にて、右近と左近、そして理性を取り戻して正気に戻ったナルトはいた。
ナルトが理性を取り戻して正気に戻ったことを一眼見てすぐに理解した右近は、一切の油断なく真剣な表情でナルトを見つめていた。
一挙手一投足どころか指一本の動きまで見逃さないつもりでナルトを観察する右近。それは鈍感なナルトですらも気付くほどに露骨で不躾な視線である。
(体の隅々まで見通すみてえな、そんな目だってばよ……)
ジッと観察され、心の奥底まで見透かされそうな視線に晒されて怯むナルトだったが、九尾のチャクラに身を包まれていることから来る全能感と右近の発言への怒りを糧にして動き出す。
単体での肉弾戦では勝ち目は見えない。ナルトが暴走していたとはいえ、九尾の力で右近には傷一つ付けられなかったからだ。
ゆえにまず、ナルトは己が最も得意とする術を発動する。
「多重・影分身の術!」
ボボボッと、白い煙が連続して広範囲に立ち昇り、千人の『影分身』が現れた。チャクラを等分したとはいえ元は九尾のチャクラ。千人に『影分身』したとはいえ、それぞれが十分な量のチャクラを保持していた。
「まずは影分身か……なら、仙法・木遁・多重・木分身の術」
右近と左近もナルトに負けじと『木分身の術』により百組、合計二百人の『木分身』を生み出した。
恐ろしいことに『木分身』たちは全てが仙人状態になっている。『木分身』も『影分身』と同じようにチャクラを分割してしまうので、必然的に仙術チャクラの量も少なくなっているために、規模の大きな術を使用できるほどのチャクラは持っていないが、それでも十分なチャクラ量に加えて、肉体の強化や危険察知能力の向上などの恩恵はあった。
九尾の力を持つ『影分身』たちと仙人状態の『木分身』たちが睨み合う。
両陣営が立ち並ぶ中、やはりと言うべきか、先に動き出したのはナルト陣営だった。
「行くってばよ!」
「「「「おうっ!!」」」」
オリジナルのナルトの威勢のいい号令に合わせて、千人の九尾化したナルトが一斉に右近へ襲いかかる。
「迎撃しろ」
「「「「了解」」」」
オリジナルの右近の冷静な命令に従い、『影分身』のナルトたちが突撃して来るのを待ち構える『木分身』の右近と左近たち。
『木分身』と『影分身』の単純な見た目の頭数の比は一対十、実際の数の比は一対五の軍勢同士が激突する。
「らぁっ!」「おっしゃぁ!」「うりゃぁ!」
『影分身』のナルトたちは各々が好き勝手に右近たちへと攻撃をする。ある『影分身』は拳を握って殴りつけ、ある『影分身』は勢いそのままに体当たりし、またある『影分身』は飛び上がった勢いのまま飛び蹴りを放った。
その姿は暴徒の群れとでも呼ぶべき無秩序さと騒々しさだったが、人数比で五倍もの差があり、それだけの数の利があれば立派な攻撃として成立してしまう。
「……」
そんな軍勢を、『木分身』の右近たちは無言で黙々と対処する。殴りかかってきた者を手足のリーチ差を活かしてクロスカウンターで仕留め、体当たりしてきた者の足を引っ掛けて転がし、飛び蹴りをしてきた者の足を掴んで振り回してから投げ飛ばす。
『影分身』たちを相手に、ちぎっては投げちぎっては投げの大立ち回りを披露する『木分身』たち。『影分身』たちは突撃した端から散々に痛めつけられ、弾き返されていた。いかに九尾の力を借りているとはいえ、完全に九尾と協力関係にあるわけでもなく、そもそも今の九尾の力は半分に分けられて封印されたうえで尾の数を九本中五本分しか表に出していないのだ。
それでも、腐っても尾獣の力。今のナルトと右近左近との間に身体能力の差はある。だが、『加重岩』によって高い負荷をかけて二年もの月日をかけて肉体改造し続けてきた右近左近だ。差は軽微であると言えた。
力に大きな差が無いのであれば、仙人状態の危険察知能力がある右近左近が体術では有利だった。
ただし、それはあくまで少数を相手取る場合の話だ。いくら『木分身』たちが仙人状態であろうとも、単純な頭数で大きな差をつけられている以上、あっという間に多勢に無勢で囲まれて苦戦を強いられるのは自明の理。
だが、素手だけでも負けるつもりは微塵もない右近と左近だったが、そもそも彼らには体術だけで戦うなどという拘りなどない。使えるものは使うのが忍の戦いだと心得ている右近と左近は、『影分身』のナルトたちに対抗するための新たな手段を具現させる。
「素手だと少々面倒そうなんでな、色々と使わせてもらうぞ」
オリジナルも『木分身』も区別なく、その身から木が生えていき、一秒程度で関節部以外を覆い尽くして木製の全身鎧となった。
『木製の術』と右近は呼んでいる術だが、単に『木遁の術』の応用で木製の装備品を形成する術だった。簡単な形状の物なら一瞬にして作り出せる点が非常に優秀であり、これにより手裏剣やクナイなどの消耗品の類や、刀や槍などの武器を作り出すこともできたのでそれらを携帯する必要も口寄せする必要もなくなっていた。そのため、右近と左近は非常に重宝していた。
また、『木製の術』で作られた装備にも仙術チャクラは宿っており、その強度は鉄にも等しいものとなっていた。
そんな全身鎧を身に纏った『木分身』を前にして『影分身』たちは一瞬だけその場でたじろぐが、数の有利があるのはこちら側だと思い直し、意を決して前に出る。
「うおおっ!」「おりゃあ!」「だらぁ!」
雄叫びをあげて再度襲いかかる『影分身』たち。殴りかかり、突進し、蹴りかかり、引っ掻き、噛みつこうとする。
九尾のチャクラのこもった攻撃は太い樹木をへし折り、巨大な岩を砕き、硬い鋼鉄を切り裂くことは間違いない。
だがしかし、それらの攻撃は鎧を着た『木分身』たちに痛手を与えられなかった。殴打も突進も蹴撃も爪牙も、その全てが籠手や脛当てで受け流し、弾き返し、受け止められた。
さらに–––
「ふっ!」「ぬっ!」「はっ!」
『影分身』たちの攻撃を鎧で防御した『木分身』たちは、お返しとばかりに打撃を放った。その打撃のほとんどが力を抜き、速さを求めた軽い打撃だったが、それらは正確に急所を射抜いた。
反射的に急所を守ろうとする『影分身』たちは間に合わずに打撃をその身に受けたが、そのあまりにも軽い衝撃に『この程度なら耐えられる』と、『影分身』たちの誰もが思った。
だが、次の瞬間–––
「うっ……」
軽い打撃を打ちこまれた『影分身』たちが次々に呻き声をあげ、白い煙を吹き出して消滅していく。『影分身』たちが出した煙も消えて、『木分身』たちが打撃に用いた手足が他の『影分身』たちにも見えるようになった。
「あれは……!」
ナルトが驚きの声をあげた。ナルトが見たもの、それは『木分身』たちの手足を覆っていた鎧から細く鋭い棘がいくつも伸びている光景だった。
『木分身』たちは打撃の瞬間に手足を覆う木の鎧から瞬間的に棘を伸ばして『影分身』たちを刺し貫いていたのだ。『影分身』たちが軽い打撃だったと思っていたものは、実際には急所狙いの刺突攻撃だったのだ。
『木製の術』により生み出された鎧は防御だけが取り柄ではなかった。全身から突如として棘枝を生み出せる、変幻自在で攻防に優れた鎧であった。
実際には生身でも同じことができるのだが、咄嗟の攻防で鎧があった方が利便性や安定感が高い場面も多く、また今回の場面のように『木分身』たちに纏わせることで『木分身』の耐久度の向上にも一役買っていた。
この鎧のもとになったのは君麻呂の『屍骨脈』である。攻防自在の骨を操る術を木遁で再現しようとしていたおりに生み出されたのがこの鎧だった。
ナルトは鎧の性質を見抜いたがゆえに、攻防一体の鎧を前にして迂闊に攻められなくなった。
「今度はこっちの番みたいだな」
ナルトの動きに迷いが生じたのを右近は見逃さず、『木分身』たちを守りから攻撃へと転じさせた。
オリジナルの指示を声ではなくチャクラを通じて伝えられた『木分身』たちは、あえて『影分身』の群れに飛び込み、乱戦を仕掛けていく。少数のはずの『木分身』たちは普通なら陣形を整えて戦うのが定石であり、陣形が乱れれば各個撃破されるはずだった。
しかし、そうはならない。
ある『木分身』の一人は籠手から鉤爪のように木の刃を三本生やして『影分身』の一人を切り裂いた直後、別の『影分身』に背後から攻撃をしかけられたが、狙われた『木分身』は背後を振り向くこともなく鉤爪が付いた腕で裏拳を放って撃退した。
それを見た『影分身』たちが、また別の『木分身』を四方八方から囲んで一斉に襲いかかったが、『木分身』は体を丸めた状態になり、そこからハリネズミのように全身から一気に棘を生やしたことで、襲いかかってきた多数の『影分身』たちを一網打尽にした。
『木分身』たちは右近と左近の二人一組であるので、常に背後をカバーできるうえに仙人状態の危険察知能力が非常に高いので、四方八方から襲いかかられても容易に捌き、打破することができていた。
攻勢に出た『木分身』たちが次々に『影分身』たちを撃破していくことに焦りを覚えながらも、『影分身』たちの死に際の情報を無意識に整理して、考えを巡らせていく。
(やっぱりコイツ……めちゃくちゃ強えぇってばよ。でも、それは初めから分かってたことだってばよっ……!)
予想以上に強い右近と左近を相手にして、得意な『多重・影分身の術』による人海戦術すら通じず、厳しい戦いを強いられるナルト。だが、右近と左近が強いことなど初めから分かり切っていたことだとナルトは思い直した。
敵が強い程度で諦めるほど、ナルトのサスケへの想いは小さくない。
「みんな!九尾のチャクラをコントロールするんだってばよ!」
「おう!」「了解!」「任せろ!」
考えが纏まったオリジナルのナルトは、攻防に応用の効く鎧の差を埋めるべく、その身に纏うドス黒い赤のチャクラを制御して攻撃を仕掛けるように『影分身』たちに指示を出した。
ナルトは『螺旋丸』で攻撃していく案も考えていたが、もしも敵が鎧を簡単に作り出せたなら、破壊するために『螺旋丸』を使用するのはコストパフォーマンスが悪いとも考えていたし、実際にその考えは当たっていた。
『木製の術』は血継限界である木遁の中ではかなり初歩的な術であり、それにかけるチャクラは多くない。それを破壊するために一々『螺旋丸』を使用すれば、今ある九尾チャクラを大きく消耗していくのは間違いなかった。
オリジナルの指示に従い、『影分身』たちが各々が試行錯誤しながら攻撃を仕掛けていく。
「うりゃあ!」「どりゃあ!」「ぜりゃあ!」
ある『影分身』はチャクラの腕を伸ばして殴りかかり、またある『影分身』はチャクラで鋭い鉤爪を作り出して掻きむしろうとし、またある『影分身』は尻尾を一軒家ほどの大きさにまで巨大化させてハンマーのように叩きつけていく。
先ほどまでのただの喧嘩殺法から一転して、慣れないながらも九尾のチャクラを操り、工夫した攻撃を繰り出していく『影分身』たち。
九尾のチャクラを扱うのに慣れていない『影分身』たちだったが、もともとナルトは『螺旋丸』というチャクラの形態変化を極めた忍術を使える忍だ。初めての試みとはいえ、原作でキラービーと行っていたような物を掴んでも壊さないようにするような精密な操作の修行ならともかく、伸ばしたり鋭くしたり巨大化させたりして攻撃する程度なら今のナルトでもできた。
『影分身』たちが拙いながらも九尾のチャクラをコントロールしだしてから、戦況は一転して右近と左近が不利になった。
伸ばしたチャクラの腕は長大なリーチを持ち、鋭いチャクラの爪牙は鎧を切り裂き、巨大化した尻尾は受け止めることができない。
「チッ!」「クソがっ!」
悪態を吐きながら壊されていく『木分身』たち。『木分身』たちも簡単にやられているわけではなく、『影分身』を倒す『木分身』もいるのだが、そのペースは先ほどよりもかなり遅くなっていた。
『影分身』が『木分身』を倒す頻度が増え、『木分身』が『影分身』を倒す頻度が落ちていき、その頻度はほぼ互角となった。
「やるな……なら次の手でいこうか」
オリジナルの右近左近は『影分身』たちとの戦闘を全面的に『木分身』に任せて後方でチャクラを回復させていたために、すでに大きな術を使うだけのチャクラが溜まっていた。
悪化した戦況を打開するために、右近は戦場を撹乱し、混乱の渦に陥れることにした。
「仙法・木遁・巨大樹の術」
(続けて、仙法・木遁・木ノ葉隠れの術)
オリジナルの右近が『巨大樹の術』を発動すると、足元から樹齢千年を超えてそうな巨大樹が生まれて、それを確認した左近が『木ノ葉隠れの術』を発動したことにより、巨大樹から大量の緑の葉が一斉に抜け落ち、広範囲に舞い散っていく。
「なんだこれ!」「前が見えねぇってばよ!」「いったい、どうなってんだってばよ!」
『木ノ葉隠れの術』は『霧隠れの術』を参考にして右近と左近が新たに編み出した撹乱忍術である。舞い踊る木の葉により視覚を塗り潰すと同時に、木の葉の匂いにより嗅覚を誤魔化し、地面に降り積もった木の葉同士の擦れ合う音で聴覚を乱し、体に付着する木の葉は触覚を妨げてしまう。
さらに、舞い散る木の葉の一枚一枚には微弱ながら仙術チャクラが流れているせいで、チャクラの感知も妨害してしまう効果まであった。
人間の五感のうち四つも潰し、なおかつチャクラの感知すらも阻害してしまう。戦闘に必要な感覚のほぼ全てを妨害してしまう極めて悪辣な忍術、それが右近左近が開発した『木ノ葉隠れの術』の概要である。
非常に強力な術に思える『木ノ葉隠れの術』だが、この術には大きな欠点が存在していた。それは、あまりにも強力な妨害効果のせいで、術者である右近たちも五感で敵の居場所を把握できないことだ。
この術単体では紛うことなく欠陥品である。敵味方どころか自分自身ですらも周囲の状況が把握できなくなる術など、使い物にならない。
しかし、五感で把握できないならばそれ以外の方法で把握すればいいのである。
右近と左近は、この欠点を仙人状態の感知能力でカバーしていた。
仙人状態の感知能力は自然エネルギーを特に強く感知することができる。あたり一面全てを覆い尽くす木の葉の雨には微量ながら自然エネルギーが含まれているので、その中に囚われている人間のことはさながら海にぽっかりと穴が空いているかのように自然の中にある不自然なモノとしてハッキリと感知することができていた。
当然ながら今のナルトは優れた感知能力など持っていない。
あたり一面全てを緑一色に彩られたことで、オリジナルも含めたナルトたちは完全に敵を見失って大混乱していた。
さらに、『木分身』たちは木の鎧の表面に葉を生やすことで本格的なカモフラージュを施しており、もし1メートル先にいたとしても気づかれないようにまでなっていた。
「どこだ!どこにいるっ!?」
降りしきる葉の豪雨を手で必死に掻き分けながら敵を探して叫ぶ『影分身』たち。腕を振るい、足を振るい、尻尾までも振り回して必死に葉を退けようとするが、降り注ぐ葉には限度がないのか。一向に止む気配がない。
そうやって闇雲に動く『影分身』たちを『木分身』たちは冷静に、黙々と暗殺していく。
木の葉に紛れて前から、気配を消して背後から。あらゆる方角から襲いかかった。
「ぐわぁ!」「いたっ!?」
『影分身』は舞い散る木の葉から突如として現れた『木分身』たちに一方的に木で刺し貫かれ、次々と数を減らしていく。
一瞬にして一方的な殺戮の狩り場と化した戦場に対して、普段は馬鹿だが戦闘中の思考速度は速いナルトは早速一つの解決手段を見出した。
「お前ら!尻尾で傘を作れ!」
当たり前だが、舞い散る木の葉は重力に従って上から下に落ちてくる。その動きを遮る物さえあれば、木の葉が邪魔することはなくなる。これもこの術の欠点の一つであった。
相手の視界を塞ぐ術には霧や砂埃、灰など、いくつかの種類があるが、それらは基本的に気体に沿って動く流動性の高い物質であるために、壁などを建てて防ごうとしても結局は回り込まれてしまう。だが、木の葉は流動性の低い物質なので、傘などで簡単に受け止められるのだ。
それに気付いたナルトが指示を出し、『影分身』たちは各々の尻尾の一纏めにして上空へ向けて伸ばし、ある程度の高さまで伸ばしたあとに五本の尾を適当な角度に分けて横に伸ばし、それを骨組みとして間にチャクラを幕のように薄く伸ばすことで即席の傘を作り出した。
傘同士は押し合い、重なり合うことで、上空全てを覆うような天井となった。
『影分身』たちが天井を作り出したことにより、多くの木の葉は受け止められ、九尾のチャクラに触れたことにより大部分は焼け落ちた。
こうして『影分身』たちの五感は取り戻されたが、ナルトが対処したならば、右近と左近もまた新たな手を打つのが必然である。
(雨が降っているなら傘を作ればいい……単純だが効果的な手だ)
ナルトが『木ノ葉隠れの術』への対策を素早く導き出したことを手放しに褒める右近だったが、そこに左近の言葉が続く。
(あぁ、効果的だなぁ……上からの木の葉を防ぐだけならなぁ)
右近に対して含みのある言葉で返した左近。
左近の言葉に無言で同意したオリジナルの右近は『木製の術』により木製の巨大な団扇を作り出した。
そして作り出した巨大団扇を両腕でしっかりと掴み、右から左へと豪快に振り切った。
ゴオオォッ!!と、空気を薙ぎ払った巨大団扇の動きに合わせて突風が吹き荒れ、地面に降り積もっていた木の葉が巻き上げられる。
「なっ!?」
一瞬にして『影分身』たちの視界は再び緑一色に染めあげられた。
さらに、突風に合わせて『木分身』たちは『軽重岩の術』で体重を紙一枚分ぐらいにまで軽くしており、突風を追い風として背中に受けたことで、まさしく風のような勢いで『影分身』たちに襲いかかった。
「ぐわぁ!」「おわぁ!」
『影分身』は視界を塞がれたと思った次の瞬間には『木分身』たちの奇襲を受けて次々と消え去っていく。
特に、尻尾で傘を作っていた『影分身』のことを『木分身』たちは集中的に狙って襲った。
傘を消すために狙ったのもそうだが、傘を作っている『影分身』たちは特段に動きが悪かったのも理由の一つだった。
天井を形作っている『影分身』たちは柱の如き尻尾を上に向けて伸ばし、さらには傘のように開いている。それだけでも相当に動きづらい状態のわけだが、それが折り重なって天井となっているために、少しでも動けば他の傘に当たってしまうので、余計に動きづらくなっていた。
次々と傘を形成していた『影分身』たちを消していく『木分身』たち。その度に天井は欠け、穴が空いた箇所から木の葉が降ってくる。
降り注ぐ木の葉が『影分身』たちの動きをさらに鈍くしたことで、余計に『木分身』たちは勢い付いて『影分身』たちを撃破していく。
「やっぱり……あのデカい木をどうにかしないとだってばよ……!」
状況が振り出しに戻ったことを受けて、ナルトが緊迫した声で状況を打破するために必要なことを口に出した。
『木の葉隠れの術』は樹木を操作して木の葉を舞い散らせる術であり、無から木の葉を生み出す術ではなかった。ゆえに、木の葉自体は木遁により無限に生やせるが、大元の樹木を破壊されれば『木の葉隠れの術』は使えなくなる。
一応、落ち葉を対象にして『木の葉隠れの術』を発動することは可能だったが、その場合は木の葉を一枚一枚把握し、操作して空へ向けて飛ばす必要があり、樹木から狙った方向へ落とすだけの通常の使い方よりも非常に手間暇がかかって疲れるので、右近左近は基本的にはしない。
ナルトは先ほどの天井があった時に、『木の葉隠れの術』の発生源と思われる『巨大樹の術』で生み出された大樹の位置を把握していた。
『木の葉隠れの術』の中に長時間いると方向感覚も鈍り、大樹の元へと辿り着けない可能性もあることを考えると、今が千載一遇の好機と捉えられた。
「全員!あのデカい木に向かって全速力で突っ込むってばよ!!」
ナルトの号令に従い『影分身』たちは一斉に行進を開始する。
先ほどまでの攻防により、『木分身』たちの手によって半分程度にまで減った『影分身』たちだったが、それでもまだ人数比では倍以上の差がある。その人数差を活かして遮二無二に突撃していく『影分身』たち。
ナルトは意識していなかったが、この突撃は理にかなったものであった。今までは五感を封じられて『木分身』たちがどこから襲いかかってくるか分からず、常に周囲に気を配らなければいけなかった。
しかし、突撃する『影分身』たちは常に一方向へと移動している状態であり、進行方向からの妨害が予想できるようになったことで、その分対応しやすくなっていた。
さらに、木の葉を生み出している大樹を倒すという目的を定めて守勢から攻勢へと切り替わったことによって、『影分身』の扱いも変わった。これまで『影分身』たちはひとまず自身の身を守っていたが、攻勢に出たことによって『影分身』たちを犠牲にして目的を達成するという『影分身』本来の使い方に変わったのだ。
『木分身』たちは『影分身』たちの進行を阻もうと様々な妨害工作をしかけるが、その尽くが軽微な損害しか与えられずに終わった。
『木分身』たちが『影分身』たちの進行方向の前面、または側面から攻撃をしかけて進行の勢いを遅らせようとしても、それらは『影分身』たちの何人かを止められても全体を止められるほどではなかった。
土遁や木遁で足元を崩すことで進行の勢いを削ごうとしたが、先頭を走る一人二人は引っかかっても、続く『影分身』たちは止められた者を無視して前進を続けた。
(さすがに小手先の技では止められないな)
(まぁ、影分身がどれだけやられようとも目的さえ果たせればいいわけだからなぁ)
(もっとも、それはこっちも同じことだが……もう間に合わないか……)
『影分身』たちが自己の犠牲を厭わずに動くから止められないのならば、『木分身』たちも自己の犠牲を厭わずに止めにいくまで、と言いたい右近と左近だったが、『影分身』たちの大行進を止めようと思えば、今いる『木分身』たちを全て集結させなければいけない。だが、『木分身』たちは『影分身』たちと『大樹木』との間に立ち並び、一つの壁となって立ちはだかるための時間はもうない。
それよりも早く『影分身』たちが巨大樹に到達する。
「よーし!みんな!この木をぶっ倒すってばよ!!」
「「「「「おう!!!」」」」」
数百人はいる『影分身』たちが一斉に巨大樹に向けて拳や足を振るい、巨大樹は瞬く間に粉々に壊された。
木の葉を無尽蔵に降らせていた巨大樹が壊されたことで『木の葉隠れの術』を維持することもできなくなった。
視界を遮るものがなくなったことで、『木分身』たちと『影分身』たちが睨み合う。それだけなら振り出しに戻ったようだが、両陣営の人数は大きく変化していた。
『木分身』たちの数は百組二百人から多少は減っていたが、それでもまだ八十組百六十人ぐらいは存在しているのに対して、『影分身』たちはその数を大きく減らして残りは三百人ぐらいになってしまっていた。
このまま真正面からぶつかれば勝つのは『木分身』たちだが、ナルトは『影分身』たちをそのままにしておくつもりはなかった。
「まだまだぁ!多重・影分身の術!!」
『木分身』たちとの競い合いにより数が減った『影分身』をさらに追加し、総勢二千人からなる軍勢をナルトは作り上げた。
単純な話、減ったならば足せばいいのである。それが常人にできるかはともかく。
「今度こそ負けねぇってばよ!!」
さらに頭数を増やしたことで、もはや地を埋め尽くすほどの人波となった『影分身』たち。
それに対して、右近は逆に『木分身の術』を解いた。
「なんのつもりだってばよ……?」
ナルトが当然の疑問を口に出した。
「慌てるなよ……分身したままじゃあ使えない術を使うだけだ」
「マズッ……!」
「もう遅い」
右近の発言の意味に気付いたナルトが慌てて右近を止めようとするが、すでに術の印は組み終わっていた。
地を埋め尽くすほどの軍勢が相手なら、地を埋め尽くすほどの広範囲攻撃で対処すれば良い。
目には目を、歯には歯を、物量には物量を。普通の忍が聞けばドン引きするか戯言だと切り捨てられることを考えながら、右近は『影分身』たちを殲滅させられるだけの術を発動させた。
「仙法・木遁秘術・樹界降誕!」
右近の周囲の地面から直径1メートルは超えそうな大樹がニョキニョキと無数に生えていく。荒れ果てた地に瞬く間に新たな森が生まれていく。それも、元の森よりもはるかに樹木が太く、密集して生えている大森林である。
『多重・影分身の術』で生み出されたナルトたちが人波だとするならば、『樹界降誕』で生み出された無数の大樹はもはや大樹の大津波である。
大樹たちの津波は無数の『影分身』を貫き、縛り上げ、押し潰そうと猛烈な勢いでナルトたちの下へ向かっていく。
「なんだってばよ……これ……!?」
まるで森そのものが襲いかかってくるような無茶苦茶な光景に、ナルトたちは目を見開きながら対処を迫られた。
「クソッ……螺旋超多連丸!!」
『影分身』がそれぞれ『螺旋丸』を一つずつ作り出し、総計二千を超える『螺旋丸』の群れを襲い来る森に連続して叩きつけていく。
九尾のチャクラを練り込んで作られた大量の赤い『螺旋丸』は、迫り来る大樹を抉り、へし折り、破壊していく。大樹に『螺旋丸』が炸裂し、破壊する音が連続して広範囲から響き渡り、音同士が重なり合って轟音の大合唱を作り上げた。
双方ともに初めから大技の応酬となり、大樹と人の波がぶつかり合っている膠着状態に陥ってしまう。だが、この術の撃ち合いは右近左近にかなり有利な条件で行われていた。
『樹界降誕』を発動するにあたり、右近と左近は役割を分けていた。右近が術を発動して制御する役割を担い、左近は術を維持するためのチャクラを練る役割を担っていた。流石に『樹界降誕』ほど大規模の術になれば、生み出すチャクラよりも消費していくチャクラの量の方が多いので、永遠に維持するのは不可能だったが、それでも数分維持する程度なら支障は出ない。
さらに、仙術チャクラを使用した『樹界降誕』で生み出された大樹には、当然ながら仙術エネルギーが含まれていた。その大樹は『螺旋丸』に破壊されても木片としてその場に残り、当然の如く仙術エネルギーは含まれたままである。ゆえに、左近はチャクラを練り上げると同時に破壊された木片から仙術エネルギーを回収して再利用していた。『螺旋丸』により木っ端微塵にされた分は回収できないので、永久機関とはいかないが、それでも術の維持に一役買っていることは確かだった。
それに比べて、ナルトと九尾の間には協力関係などない。九尾は右近左近にいいようにやられていたナルトに苛立ちはしていたが、ナルトに今以上のチャクラを貸すのも嫌だったし、ナルトも九尾からの協力が得られるとは思ってもいなかった。
協力し合いながらチャクラを循環させ術を維持している右近左近と、暴走していた時に無理やり与えられたチャクラを消費し続けるナルト。当然ながらこのまま続けば先に力尽きるのはナルトの方である。
「ちくっ……しょうが!」
『影分身』たちは『樹界降誕』の樹木を『螺旋丸』で破壊していくが、次の瞬間には新たな樹木が生えてきて『影分身』たちを貫き、押し潰していく。
破壊しても破壊しても新たな樹木が生み出されていく状況にオリジナルのナルトは歯軋りして悔しがる。
次々と生み出される樹木により『影分身』たちは破壊され、どんどん消えていく。
だが、有利な状況になっていても、右近と左近はそれでも手を緩めることなく次々と樹木を生み出しナルトに向けて攻撃し続ける。
なぜならナルトが諦めていなかったからだ。
『樹界降誕』により生み出された森に襲われながらも退くことなく、むしろ徐々に徐々に前へ、右近と左近の方へと向かっていた。
確かに『影分身』たちは減っている。だが、『影分身』たちは破壊され、消失しながらも『螺旋丸』で森を破壊してオリジナルのための道を作り出していた。
「「「うおおおぉぉぉ!!!!」」」
雄叫びをあげて勇猛果敢に決死の活路を切り開く『影分身』たち。
一人また一人と消えていく『影分身』たちを見送りながら、ついにオリジナルのナルトはその視界にかろうじて右近を捉えた。
『影分身』たちはもう残り数十人しかいないが、その全てを総動員して右近までの道を切り開いた。
「ここだぁ!!」
大森林の中に出来た空白の道をナルトが全速力で駆け抜ける。そして–––
「超大玉螺旋丸!!!」
ナルトの掲げた右手の上に『螺旋丸』が形成される。その『螺旋丸』は急速に大きさを増していき、ナルトの身長を超えても大きくなり、やがてナルトの身長の五倍ほどの大きさにまで膨れ上がった。
九尾のチャクラという超高質、超密度のチャクラをさらに乱回転させ、圧縮し、それでもなお巨大に膨れ上がった今のナルトにできる最高の『螺旋丸』。
「いっけぇ!!」
その『螺旋丸』を右近へ目掛けて叩きつけようとするナルト。
並の上忍どころか例え影クラスの忍でも直撃すれば細胞一つ残さずに消し飛ばされるであろう一撃に対して、右近と左近が選んだ行動は–––迎撃。
「仙法・木遁・木蛇の術!」
右近が術を発動すると右近の背後から巨大な木の蛇が生まれた。
蛇は大口を開けて身をくねらせながら『超大玉螺旋丸』へ向けて突撃し、噛みつく。
「何だってばよ!?」
『超大玉螺旋丸』に『木蛇』が噛みついた瞬間に感じた違和感にナルトが一瞬だけ戸惑い、すぐにその違和感の正体に気づいた。
「チャクラが……!吸われてる!?」
『木蛇』に噛みつかれた『超大玉螺旋丸』はそのチャクラに触れられたことで、徐々にその大きさを縮めていた。ナルトが気づいた違和感の正体とは、『超大玉螺旋丸』の乱回転しているチャクラが吸収されたことで起きたチャクラの流れの変化だった。
『木蛇』はただの樹木の大蛇にあらず。この『木蛇の術』は、柱間の『木龍の術』を劣化させながらも再現した術だった。その姿も変化しており、『木龍』の鼻は長く伸びているが『木蛇』は伸びてなかったり、『木龍』の後頭部は棘が生えているが『木蛇』の後頭部はつるりとしていたり、その大きさも一回りほど小さくなっていた。
だが、姿や大きさは違えど『木蛇』に『木龍』のチャクラを吸収する性質は健在である。『木蛇』は『木龍』から劣化した存在だが、大きさを犠牲にしてチャクラを吸収する性質の再現に力を入れたことにより、チャクラを吸収する速度や量という点だけを見れば、その力は本家にも劣らない。
ナルトの『超大玉螺旋丸』と右近の『木蛇』が拮抗する。
『超大玉螺旋丸』のチャクラを全て喰らい尽くし、そのままナルトも噛み砕かせようとする右近。
負けじと『木蛇』に吸収される分よりもさらに大量のチャクラを放出し、『超大玉螺旋丸』を押し込まんとするナルト
「はあぁぁ!!」
「うおおぉぉぉ!!!」
両者が互いに全霊の気迫を術に込める。
一進一退の攻防の末、決着は両者ともの意にそぐわないものになった。
『木蛇』は『超大玉螺旋丸』のチャクラを吸収しきれずに破壊されたが、『超大玉螺旋丸』に込められたチャクラも『木蛇』を破壊するのに使い果たしてしまった。
つまり、決着は引き分けであった。
「まだだぁ!」
だが、その決着は一つの術同士のぶつけ合いの結果であり、この戦いの決着ではない。
ナルトが続けて左手を掲げて再び『超大玉螺旋丸』を作ろうとする。
しかし、ナルトの動きよりも早く動き出していた者がいた。
(仙法・木遁・木蛇の術!)
先ほどまで『木蛇』を生み出していたのは右近であり、左近は『木蛇の術』に関与していなかった。
ゆえに、ナルトよりも先んじて動けるのは当然である。
左近が発動した『木蛇の術』により再び大木の大蛇が生み出された。大蛇は地面から生え出た瞬間に分裂し、まるでギリシャ神話に描かれるヒュドラのような九つの頭を持つ蛇となり、ナルトに襲いかかった。
「何!?」
樹木のヒュドラにナルトは驚き、反応できずにそのまま噛みつかれた。
九つの頭はそれぞれナルトの手足と尻尾にがっぷりと噛みつき、チャクラを吸収しながらナルトの動きを封じ込めた。
「なんだ!?チャクラが……!?」
ナルトは抵抗して蛇を振り解こうとしたが、チャクラを吸収される虚脱感により思ったように抵抗できずにいた。その瞬間を見逃さずに、右近が地を蹴ってナルトへと急速に接近する。
「そろそろ決着をつけよう」
「クソッ!離せってばよ!!」
ナルトがジタバタと動くが蛇は食い付いたまま離れず、ナルトは右近の接近を許してしまう。
そして、右近は自身の右手をナルトの額に押し当てて術を発動した。
「火影式耳順術・廓庵入鄽垂手!」
「ぐぅ……!?」
(この術は……ヤツの!?)
術が発動した瞬間、ナルトは九尾のチャクラが急速に抑え込まれていくのを感じ取って呻き声をあげて、ナルトの中にいた九尾もまた、自身の力を抑えるその術に覚えがあって驚愕した。
『廓庵入鄽垂手』は右近の当初の想定通りの力を発揮し、『木蛇』のチャクラ吸収能力と合わせて、急速に九尾の力を抑えていく。
だが、その瞬間、右近の想定外のことが起きた。
『廓庵入鄽垂手』によって九尾のチャクラと接触したせいで、チャクラの繋がりができており、ナルトと九尾の精神世界に入り込んでしまったのだ。
「テメーッ!こんなところにまで!」
巨大な檻のある精神世界に入り込んでしまった右近と左近に対して、ナルトが敵意を剥き出しにして叫んだ。
それに続いて九尾もまた、剥き出しの敵意と初代柱間からの恨みをぶつけるように口に出した。
「ムカつくガキだ!あの男と同じようにこのワシを封じ込めたつもりかァ!!本来のワシならキサマらなんぞに負けるはずがない!!」
「まさか……それは誤解だ。俺は貴方に勝ったとは思ってない」
九尾の恨み言に対して、右近は素直な感想を口にした。
「今の貴方は封印され、さらには今回は尾を五本までしか表に出していない。ついでに言えば実際に戦ったのはそこのナルトだ。貴方と直接戦ってない以上、貴方に勝てたなんて言えるはずがない」
「ぬぅ……!?」
随分と素直に認めるものだと九尾は思い、唸った。最強の尾獣である九尾に勝ったとなれば、例えその力の一端しか出してないといえども、勝ち誇りたいと思うのが人間だと言うのに、右近にはまるでその気配がなかった。
九尾は不思議な人間を見たと思い、少しだけ毒気が抜かれてしまった。
「本来ならここにも来る気はなかったが……せっかくだし少しだけ話をしようか、うずまきナルト」
「俺になんのようだってばよ……」
暗に『九尾が負けたのはお前のせいだ』と言われたナルトは少しだけ威勢を削がれながらも、右近の提案に対して疑念を持ちながら返事をした。
「お前も興味もあるだろうサスケの話だ」
「……!」
「はっきりと言っておこう。今のお前の力だと、サスケを止めるには九尾の力を借りたうえで、殺す以外には止められないだろう」
「俺は殺したりなんかしねぇ!」
ナルトが怖い顔をして右近をキッと睨むが、右近はその視線を柳のように受け流した。
「お前が殺したくなくても、九尾の力を借りて暴走すれば同じことだ。言っておくが、九尾の力なしだと今のお前ではサスケの足元にも及ばないぞ」
「なんだと……!?」
「事実だ。あいつは、サスケはこの二年で随分と力をつけた。それこそ、各里の影には及ばないかもしれないが、その側近には勝つことも珍しくないぐらいにはな。木ノ葉で言えばカカシぐらいの実力はある」
(あいつがカカシ先生ぐらいに……!?)
右近の言葉を聞いたナルトは目を見開いて驚く。しかし、すぐに思い直して言い返す。
「そんなはずないってばよ!サスケがカカシ先生に勝つなんて!?」
「あいつの標的、うちはイタチの実力を少しは知ってるだろう?あのうちはイタチを殺そうと思えば、最低限それぐらいの力は必要になる。むしろ、それでも足りないぐらいだ」
右近の言葉を聞いたナルトは最近も接触したイタチの実力を思い出す。ナルトはイタチの実力の全てを知っているわけではないが、それでも、感じられた力はその全てが一級品であり、一瞬の油断もならない強者であることは確かだった。
「だから、うずまきナルト……今のお前ではサスケは止められない」
「そんなの認めねぇってばよ!」
右近の指摘に、ナルトが当然の如く言い返した。サスケを止めることはナルトの火影になるという夢に並ぶ目標だ。そのことは当然、右近も承知していた。
「ああ、お前が諦める気がないのは知っている。お前は『友達一人助けられない者が火影になれるはずがない』とでも思っているのだろう」
「……!?」
原作におけるナルトの台詞を語った右近だったが、心の中を見抜かれたように感じたナルトの驚きは凄まじかった。言い返す言葉も出ないナルトに対して、右近が言葉を続ける。
「確かにそれは一つの真理だろう。だがな……友達一人助けるために仲間全員を危険に晒す人間が火影として正しいのか?」
「テメーッ!」
「現にお前が俺に突っかかったせいで、俺の仲間とお前の仲間は戦っていたみたいだぞ。お前と戦いながらでもあいつらが戦うチャクラは感じ取れていたからな」
「っ……!?サクラちゃんやヤマト隊長、それにサイは無事なんだろうな!?」
右近への反論を飲み込んで仲間の無事を確認しようとするナルト。その必死な姿を見て右近もまた真剣な表情を改めてとりながら言葉を紡ぐ。
「全員生きてはいる。ただし、感じ取れるチャクラからしてお前の仲間たちは浅くない傷を負っているだろう」
「くっ……!?」
その報告を聞いてナルトの顔が青ざめる。
ここで嘘だと右近の言葉を否定するのは簡単だ。だがしかし、右近の真剣な表情がその簡単なことすらできなくした。
「俺が煽った部分が多分にあるからな……お前のせい、とは俺の口からは言いがたいがそれでも……この結果はお前の招いたものだと意識しろ」
仲間を巻き込んだ後悔と敵である右近に説教されたことによる羞恥心により、ナルトは言葉も出なかった。
「そのうえで、だ。うずまきナルト、お前はもっと強くならなければいけない。仲間を守り、九尾を狙う暁たちを退けて、サスケを連れ戻すためにはな」
「なんで敵のお前にそんなこと言われなきゃいけないんだってばよ……?」
ナルトは気味の悪いものを見たような表情で右近に問いかけた。ナルトは右近の語る言葉はなんとなく真実なのだと思っていたが、それでも、敵であるにも関わらずわざわざ忠告してくる理由が理解できずにいた。
そんなナルトの問いかけに対して、右近は言葉を選びながら語る。
「そうだな……俺にも将来的に利益のある話だということもあるが、強いて言うなら……俺は木ノ葉の敵であっても、木ノ葉は俺の敵ではないからかな」
「???」
まるで禅問答のような回答に疑問符を浮かべて首を捻るナルト。
ナルトがどういう意味の発言なのかを問いただそうとした瞬間、急速な眠気に襲われる。『廓庵入鄽垂手』による抑制効果により、ナルトの体と精神は強制的に沈静化させられようとしていた。
「なん……だってばよ……俺は……サスケを……」
最後に何かを言いかけたまま気絶するように倒れ込んだナルトに向けて、右近は最後にアドバイスを送る。
「サスケを助けたいなら九尾との対話を続けていくことだ。それは必ずお前の役に立つ」
「それをワシが聞くと思うか……?」
眠たげに目を細めながら右近へ語りかける九尾。ナルトよりも遥かに強大なチャクラを持つ九尾を沈静化させるには時間がかかるようで、ナルトが寝ても九尾はまだ起きていた。
そんな眠たげな九尾に対して言葉を返す右近。
「聞く必要はないさ。だが、檻の中に閉じ込められたままの貴方はどちらにせよ聞くしかないだろう」
「チィッ……!」
精神世界で寝息を立てて眠るナルトを無視して会話する右近と九尾。
「覚えていろ小僧……!次に会った時は必ず八つ裂きにして喰らってやるからな……!」
「……ああ、覚えておこう」
九尾は最後に恨み言を吐き捨てて眠りついた。
完全に眠りについたのを見届けた右近は九尾の最後の言葉に返答してから精神世界を後にした。
右近、左近とナルトとの戦いが終わった時、君麻呂とヤマト、サイ、サクラとの戦いも終了していた。
いや、途中からは戦いと呼べるものではなかった。まさに蹂躙と呼ぶに相応しい結果がこの場にはあった。
「はぁ……はぁ……ぐっ……!」
もはや立つ力もなく無様に地面に寝転がりながら荒い息を吐き続けるヤマト。彼以外の二人はもはや意識すらない。三人ともが全身に傷を負い、そこから流れ出た血が服を真っ赤に染め上げていた。三人には四肢を欠損するような酷い怪我は一つもなく、浅い傷を無数につけられて無惨に嬲られたことが見てとれた。
そう、サイは結局のところ、ダンゾウのことを君麻呂に告げなかった。
告げる暇がなかったわけではない。両手をあげて降参すれば話をする時間ぐらいは作れたであろうし、ヤマトやサクラに対して不意打ちで攻撃でもすれば、もっと話はしやすかったであろう。
実際に、サイはその案も考えていた。ヤマトやサクラをわざと攻撃して戦闘不能に追い込み、それ以上攻撃されないようにしつつ君麻呂やカブトと交渉するという案である。
しかし、サイはその案を考えたものの実行に移しはしなかった。君麻呂には殺意がなかったが確実に殺されないという保証がなかったからだ。
君麻呂という強敵を前にして、ナルトに感化されたサイはダンゾウからの任務よりも仲間の身を守ることを選んだのだ。それが正しいのかどうか、それを分からないままにサイは動いていた。
その選択の結果、三人仲良く地面に転がることになった。君麻呂の宣言どおりに、その身に君麻呂の力を刻み込まれて。
「あちらも、もう終わったようだな」
森の奥から届いていた地響きがしばらく前から止んだのを感じ取っていた君麻呂は、右近と左近の戦いも決着がついたことを理解して口に出した。
ちょうどその時、森の奥からナルトを肩に担いだ右近が現れた。
「ナルト……!?」
それを掠れた視界で見たヤマトもまた、九尾の力ですらも勝てなかったことを理解させられた。心配そうにナルトの名を呼んだヤマトに対して、右近がナルトの代わりに返事をした。
「心配するな気絶しているだけだ、そら……返すぞ」
右近は地に倒れたままのヤマトの近くに寝ているナルトを適当に下ろした。ドカッと音がなるほどに適当に下ろされたナルトだったが、起きる素振りは見られなかった。
「さて、帰るとするか」
「今回のことは大蛇丸様に報告させてもらうからな」
「ああ、好きにしてくれ」
ナルトを返し、この場でやることを全て終えた右近たちはこの場を立ち去った。
その場に残されたのは身も心も傷ついたヤマトたちだけ。
こうして、右近たち大蛇丸の部下とヤマト率いる木ノ葉隠れの里の小隊の戦いは、右近たちの完全勝利で終わった。
傷ついた彼らはサクラによる治療を受け、原作のように大蛇丸のアジトに向かうことなく、任務失敗の報告をするために木ノ葉隠れの里へと帰還することを余儀なくされた。
あるいは、それでよかったのかもしれない。
もしも彼らが大蛇丸のアジトに向かう決断をしていたならば、その場で起きていた途方もない大混乱に巻き込まれて、今度こそ命を落としていたかもしれないのだから。