音の四人衆最強の男   作:北山 真

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交渉

 

 ヤマト率いる小隊は右近たち音隠れの里の忍に大敗を喫し、傷ついた体をサクラの医療忍術で癒した後、木ノ葉隠れの里へと帰還していた。

 任務は失敗だ。大蛇丸やサスケに繋がるような情報は、右近が語った天地橋から北西の方向にアジトがあるという情報だけだ。

 だがそれも、ヤマトたちが傷ついて撤退したことによりアジトの場所すら確認できていない始末であり、さらに言えば、情報の知られたアジトなどすぐに引き払うだろう。今ごろはもう別のアジトへと移っているはずだった。

 

 つまり、今回の任務において、ナルトたちはなんの成果も得られなかったということだ。

 

「────以上が、今回の任務の報告になります」

「そうか……」

 

 そのことを隊長であるヤマトから報告された綱手は深く考えこむ。

 サソリから聞いた情報では大蛇丸のスパイ一人と会う予定だったが、蓋を開けてみればサソリへの大蛇丸の刺客が勢揃いしている状態と聞いて、綱手は肝を冷やした。

 

 綱手はこの時、自分の中で三つの反省点があったことを自覚し、猛省していた。

 

 まず一つ目、よく考えてみれば、サソリという情報源が素直に信用できるかということから怪しかった。サソリは暁の一員であり、暁は大蛇丸と敵対している。ゆえに、サソリが大蛇丸を助けるために嘘の情報をサクラに伝える意味はない。

 そういう考えの下、綱手はナルトたちを行かせたが、情報を伝えられた時にサソリとサクラは敵対状態にあった。死ぬ間際に意趣返しのために嘘を吐いた可能性もあった。

 

 さらに二つ目、尾獣の力を引き出したナルトまで退けられたのは計算外だった。二年半前、あの自来也と戦えるほどの力を持っていた大蛇丸の部下が相手だったとはいえ、たったの二年半で相手がそこまでの力をつけているのは綱手にとっては完全な計算外であった。

 特に、報告で右近が木遁の力を使いこなしてナルトを止めたと聞いて、綱手は危険度の見積りが甘すぎたと反省していた。元から自来也を手こずらせる実力を持っていた右近が木遁まで身につけたとなっては、ヤマトたちだけでは荷が重すぎる。

 本気で右近を倒すつもりで戦うならば、綱手と自来也に加えてカカシとガイを呼ぶぐらいしなければいけないと綱手は考えを改めていた。

 

 最後に三つ目、綱手がよく知る大蛇丸という男が、サソリからのスパイを部下においた状態のままにしていると思い込んだのがいけなかった。サソリほどの強者のスパイといえど、綱手の知る限り蛇のように執拗で陰湿な大蛇丸がスパイを放置しておくわけがない。

 大蛇丸のことを真に警戒しているのならば、スパイの存在そのものが暁を釣り出すための餌、あるいは暁から情報を手に入れるための二重スパイだと考えるべきだった。

 

「すまなかったな、今回の任務の失敗は私の見立てが甘かったのが原因だ。大蛇丸を相手にする時は慎重すぎるほど用心するべきだった」

 

 綱手は四人に対して謝った。今回の任務失敗の責任は自分にあると、失敗の責任を取らせることはしないという表明でもあった。

 

 この謝罪はナルトにとって屈辱的だった。

 綱手の言葉を少しだけ曲解して言い換えると、「ナルトたちの実力を過信していた。お前たちに任せた私が悪かった」になるからだ。ナルトは今すぐにでも否定したかった。綱手の信頼は正しいと。

 だが、ナルトには今回の任務で明確な負い目があった。大蛇丸に通ずる情報を得るという大切な任務だったにも関わらず、敵の言葉に感情を爆発させて九尾のチャクラにより暴走し、仲間をも危険にさらした。

 

 そんなナルトが綱手の言葉を否定できるわけがない。

 もしも否定したとして、それならば任務失敗の責任は誰にあるのか。ナルト以外にあると言うのならば、それは自己の責任を棚上げしての他責になる。そんなみっともないうえに仲間を裏切るような真似、ナルトにはできない。

 

「とりあえず、今はゆっくり休んでくれ。傷はサクラが癒してくれただろうが、疲れているだろうからな」

「っ……!」

 

 綱手がナルトたちに優しく帰宅を促す。

 叱責すらされず、逆に気を遣われたことで、ナルトの中で大きな後悔の念が膨れ上がり、拳から血が出るまで強く握りしめていた。

 

(あいつを倒せるぐらい強くなるってばよ!もっともっと!強くならなきゃいけないってばよ!)

 

 その後悔を噛み締め、次に会った時には右近を倒せるように強くなることを決意したナルト。

 火影室を出たらカカシか自来也を探して修行をつけてもらおうと、いなくても一人で修行しようとナルトが考えていた時、ある違和感に気づく。

 

(あれ、なんでヤマト隊長とか喋らないんだってばよ?)

 

 綱手への報告は先ほど終わった。綱手から「ゆっくり休め」と言われた以上、火影室から出ていこうとしてもおかしくない。

 出ていかないならまだ話すことがあるということだが、一向に口を開く気配はない。

 

「おい、どうした?もう帰っていいんだぞ。任務で疲れているだろう?」

「……」

 

 流石に不審に思ったのか、綱手がヤマトたちに声をかけるが、それにも反応しない。

 

「どうしちまったんだよヤマト隊長、サクラちゃん、それにサイまで……」

 

 ナルトも声をかけてみるが、それにも反応がない。

 明らかな異常事態。綱手が様子を確かめようと近づくために椅子から立ち上がろうとする。

 

 だが、綱手が彼らの様子を確かめるよりも早く事態は動く。

 全く動きを見せないヤマト、サクラ、サイの服を通り抜けるように男──右近の上半身が生えてきた。

 

「テ、テメーはッ!?」

「お前はっ!!」

 

 その姿を見たナルトと綱手が同時に叫んだ。

 ナルトはいったいどうやって現れたのか分からない右近に混乱していたが、歴戦の忍である綱手は剣呑な目つきで右近を睨みながらも、冷静に右近の術を分析していた。

 

(やつは今、サクラたちの体から生えているように見える。他の生物の体に寄生する術か?仮にそうなら直接ぶん殴るのは危険だな。三人いるのは分身か……だとするとここにいるのは全員分身の可能性が高いな。サクラたちが動けないのは肉体を完全に支配されているか、それとも術で身動きを封じられているのか、どちらにせよ人質を取られた状態では下手に動けないな……。ただ、やつがその気なら私に奇襲をかけるチャンスは十分にあったはずだ。だとすると、やつの狙いは暗殺ではなく交渉か)

 

 右近がヤマト、サクラ、サイの体からそれぞれ生えた方法は『双魔の攻』と『木分身』の併用である。『木分身』を『双魔の攻』により体の中に潜り込ませ、木ノ葉隠れの里の結界を超えて火影室に入ったのを確認した後、体内から呪印を刻み込んで三人を動けなくさせたのだ。

 右近がいつ『木分身』を三人の体内に忍び込ませたのか。それは右近がサクラたちの背後から姿を現す前である。右近はあの時、すでに三人の体の中に『木分身』を仕込み終えていた。

 右近がサクラを人質にとった後に解放したのは、いざとなればすぐにでも無力化できるためであり、同時に、すぐに解放して安堵させることで「何かを仕掛けられたかも」と疑わせずに『木分身』を木ノ葉隠れの里の中枢──今いる火影室にまで連れてきてもらうためでもあった。

 

 また、ナルトの体に『木分身』を仕掛けていない理由は、そんなことをすれば一瞬で九尾に勘づかれてしまうことが分かりきっていたからである。

 

 綱手が高速で巡らせた思考は、右近の能力をある程度暴いていた。そして、右近の狙いもまた、綱手が予想した通りのものであった。

 

 ヤマトの体から生えている右近が三体の『木分身』を代表して綱手に向けて丁寧に挨拶をする。

 

「お久しぶりですね綱手様。このような形での挨拶になって申し訳ないです」

「御託はいい。要求はなんだ?」

 

 綱手が早く本題に入れと言外に語った。それを聞いた右近は、綱手が交渉の席に座るつもりがあるのを察して、ここに現れた理由を語りだす。

 

 それをナルトは邪魔できない。ナルトの本心では今すぐにでも右近をぶちのめしたいと思っていたが、三人が人質になっている現状をナルトも分かっていた。なので、ナルトは口を挟まずに黙って右近を睨みつけていた。

 あまりにナルトらしくない行動である。

 だが、先の戦いでは右近を相手にして冷静にはいられず、その結果、ナルトは大切な仲間を危険に晒してしまった。

 その後悔をナルトは引きずっていたがゆえに、この場での会話は綱手に任せようとしていた。もちろん、戦いになれば自分も参戦するつもりではあったが。

 

「話が早くて助かります。ここに来た要件は三つ」

「三つか……その要求を呑まないとその分、人質を殺すとでも言うつもりか?」

 

 人質の数と同じ要求の数。それを綱手は人質の命が惜しければ要求を呑め、ということだと誤った解釈した。

 

 右近は要求ではなく要件と言ったのだ。その二つはよく似ているようで全くの別物である。

 要件は大切な用事のことであり、要求とは相手に何かを求めることである。

 右近は綱手に何かを求めに来たのではなく、話をしたいことが三つあっただけである。人質を取ったのは綱手との対話の場を作るためであり、要件が終わったら何もせずに解放するつもりであった。

 

「いいえ、私がする話を三つ聞いてもらえたら無条件で解放させてもらいますよ。それを信じるかは貴方次第ではありますが」

「ふんっ……!さっさと話せ」

 

 綱手は荒い息を吐いて右近の話の続きを促した。

 右近の言うとおり、右近がいくら取り繕うとも人質を取っている現状は変わらず、綱手は右近を信頼できない。ゆえに、綱手には初めから右近の話を聞く以外の選択肢などないのだ。

 

 それを受けて、ヤマトの体から生えている右近が指を一本づつ立てながら三つの要件を語る。

 

「まず一つ目から。二年半前、私が仲間たちとサスケを勧誘した際に亡くなった仲間たちの遺体がこの木ノ葉に埋められたと聞いてます。その遺体に挨拶だけでもしたい」

「分かった」

 

 一つ目の要件は仲間──右近と左近がサスケ勧誘の際に失った次郎坊、鬼童丸、多由也の三名の埋められた墓への挨拶だった。

 墓に案内するだけなら簡単なので、綱手もまた即決で要求をのんだ。

 

 これに関しては綱手の反応は右近が予想していたとおりのものだった。

 だから、ここからが本当の対話の始まりである。

 

 二つ目の要件は綱手をしてどう対応するのが正解かを測りきれないものだからだ。

 

「次に二つ目。サスケにこれ以上の追手を放つのを止めてもらいたい」

「それは──」

「まあとりあえず話を最後まで聞いていただきたい。サスケの現状も話しますから」

 

 右近の二つ目の要件、それは木ノ葉隠れの里の抜け忍であるサスケに追手を放つのを止めてほしいというものだった。

 これはどこの里でもありえない対応である。里からすれば、抜け忍の情報が他国に渡るのも恐ろしく、また、サスケのような貴重な血筋が他国に混ざるのも恐ろしい。

 

 その無理難題な要件に対して綱手が思わず口を挟もうとしたが、それを右近が遮った。

 サスケの現状という言葉を聞き、綱手とナルトは目を見開いて驚き固まった。

 サスケに対して興味津々な二人の反応を見てとった右近は、サスケの話題を続けていく。

 

「まず、サスケは現状無事です。大蛇丸様に体を乗っ取られてもいません。それどころか、その危機は当面の間ないと思ってもらって構いません」

「何……?情報では大蛇丸のやつはそろそろ体を奪えるはずだが?」

「ええ、その情報は正しい」

 

 綱手の言葉を右近が肯定したことで、余計に綱手は混乱していた。情報が正しいのならば、もうとっくにサスケの体は乗っ取られているはずなのに、その危険性はないと右近は発言した。

 

「いったいどういうことだ?」

「結論から言いましょう。大蛇丸様はサスケの体を乗っ取ろうとして失敗しました」

「何だと……!?」

「ええ、つい先日の話です───」

 

 

 


 

 

 

 右近と左近、君麻呂、カブトの四名がアジトへと帰って来た時、違和感に気づいた。

 いや、君麻呂に関してはアジトへと到着する前から嫌な予感がしていた。

 

 君麻呂の胸部に刻まれた呪印が疼いていた。掻い摘んで説明すると、呪印とは大蛇丸の仙人チャクラを刻んだものだ。チャクラは遠く離れようとも繋がっている。それが疼くということは大蛇丸に何かが起きたということだ。

 

 君麻呂に急かされてアジトへと帰還した四名の前に、誰も現れなかったのだ。

 

「おかしい。人の気配がしない──いや、少ない?右近どうなっている?」

「アジトの中から感じるチャクラは少ないな……」

 

 アジトの中には大勢とまではいかないものの、少なくない数の大蛇丸の部下がいたはずだが、そのほとんどがいなくなっていた。

 君麻呂が何かの勘違いかと右近へ聞くと、右近は仙人状態の感知能力で得た答えを簡潔に答えた。

 

 この時点で、右近はアジト内にいる全員のチャクラを感じ取っていた。感じ取れたチャクラは極めて少ない。

 そして、その感じ取れた少ない人間から、右近はアジトで何が起きたのかをなんとなく察しがついていた。

 

「大蛇丸様はどこにいる……?」

「……」

 

 君麻呂も分かっていたのだろう。右近に否定してほしいと、懇願するように尋ねたが、右近は無言で首を横に振った。

 

 その行動の意味は、大蛇丸はこのアジトにはいないということだ。

 君麻呂たちがアジトから天地橋へと赴く前、大蛇丸の肉体はすでに限界だった。ゆえに、一人でアジトの外へと行く可能性は限りなく低い。

 そんな状態だった大蛇丸のチャクラがアジトから感じられないということは、つまり、大蛇丸はもうこの世にいないということになる。

 

「そうかっ…………右近。アジト内にまだ残っている者のところへと案内してくれ」

「了解」

 

 歯を食いしばって大蛇丸の現状を必死になって否定したい君麻呂は、自身がいなかった間にアジトで何が起きたのか問いただすために、アジトの中に残っている者のところへと右近に案内させることにした。

 

 君麻呂の要請を聞いた右近が先頭に立ってアジトの中を歩き出す。

 

 一行は人と一度もすれ違わないままに、蝋燭の光がぽつぽつとあるだけの薄暗い通路を歩き続ける。

 

 一行がたどり着いたのは大蛇丸の自室だった。

 その部屋の扉は閉め切られていたが、その状態でも通路にうっすらと鉄臭く、生臭い血の匂いが漂ってきていた。

 

「アジト内でチャクラを感じるのはここだけだ」

「ああ……」

 

 部屋の中の惨状を察したのか、君麻呂は呆然としていた。

 右近が語る言葉も、君麻呂の耳には音としては認識していたが、意味のある言葉として頭で理解できていないままに生返事だけを返していた。

 

「一応言っておくが、中にいるやつを殺すな。殺したらお前は後悔するぞ」

「ああ……」

 

 君麻呂がまたもや生返事をして、大蛇丸の自室のドアに手をかけた。

 

 ゆっくりとドアが開くと、部屋の惨状が目に入り込んできた。

 

 まず目につくのはドス黒い赤。

 部屋の中央にある大きなベッドも、備え付けられた家具も血で真っ赤に染まっており、床どころか壁や天井にも血は飛び散っていた。

 次に目線が行くのが部屋のあちこちに散乱している巨大な人面白蛇の姿をした大蛇丸のバラバラ死体。肉どころか硬い鱗も骨も分け隔てなく切断されており、切断面が異常に滑らかなことから、切った者の技量が見て取れた。

 

 そして最後に、そんなグロテスクな殺害現場に立ち尽くす青年──血が滴る鍔のない刀を握ったうちはサスケの姿がそこにはあった。

 

「キサマアアアアァァァァァァッッ!!!!」

 

 その光景に理解が及んだ瞬間、君麻呂の理性は焼き切れた。

 大蛇丸を殺した仇敵であるサスケを殺そうと、絶叫をあげて君麻呂がサスケに迫る。

 その極大の怒りに呼応して君麻呂の肌は一瞬にして黒く染まり、呪印状態2になった君麻呂は右腕から硬質化した骨の剣を作り出してサスケに切りかかる。

 

「シネエェッ!!」

「クッ──」

 

 振り下ろされる骨剣の軌道上に、サスケは逆手で握った刀を割り込ませた。

 刀にはいわゆる『チャクラ刀』と呼ばれる技術によって雷遁のチャクラが流れており、バチバチと音を鳴らす青白い雷光を纏っていた。

 雷遁チャクラにより切れ味が増している刀は岩ですらも豆腐を切るように切断してみせる。近接戦闘において必殺となりうる武器となっていた。

 

 しかし、君麻呂の骨剣はサスケのそんな刀と打ち合ってなお、かすり傷しかつかないほどの強度を誇る。

 君麻呂の骨剣は超硬質、超高密度の骨を形成して作られたもの。その硬さはダイヤモンドに匹敵する。

 そのうえで、君麻呂もまた骨剣を『チャクラ刀』によって強化することにより、その頑丈さはもはや尾獣が踏んでも壊せないほどにまでなっていた。

 

 限界まで切断力を高めた刀による防御と、限界まで硬度を高めた骨による攻撃は、両者の技量が極めて高いこともあり拮抗する。

 雷を纏って青白く稲光する刀と呪印特有の黒いチャクラを纏わせた悍ましい骨の剣の刀身同士が押し合い、ギャリギャリッと硬いもの同士を擦り合わせた音が部屋に響く。

 

「お前が大蛇丸様をっ……!よくもっ!よくもっ!!!」

「チッ……!」

 

 憎悪の言葉を吐きながら骨剣を押し込もうと躍起になっている君麻呂。

 君麻呂の勢いを止められないと悟ったサスケは舌打ちをして、刀を斜めにずらして君麻呂の剣を受け流し、押し合いによる格好から状態がほんの少し緩んだ瞬間に君麻呂の腹を蹴って後ろに飛ぶことで距離をとった。

 

「ぐっ……貴様ッ!」

 

 憎悪のこもった目でサスケを睨みつける君麻呂。その憎悪と憤怒が入り混じった凶悪な表情が、言葉以上に雄弁に「お前を殺す」と語りかけていた。

 

 その激情を受け止める気があるのか、サスケが無言で刀を構えながら呪印状態2へと変貌する。

 それを見た君麻呂が左腕からもう一振りの骨剣を作り上げた。

 

 もはや言葉すらいらないと君麻呂が双剣で切り刻むべくサスケに迫り、サスケが一振りの雷刀を両手で握って待ち構える。

 

 両者が激突する瞬間──

 

「はい、そこまで」「もう終わりだぜ」

「っ……!?」

「ぐっ……!?」

 

 二人の間に割り込んだ右近と左近が二人とも拘束した。

 右近の両腕が君麻呂の両腕を、左近の両腕がサスケの両腕をそれぞれ掴み取り、両者が武器を振るえないようにした。ただ掴んだだけではない。掴んで接触した瞬間に左近が『加重岩の術』を発動して、君麻呂とサスケの体重が立っているだけでも精一杯なほど重くなっていた。

 

 一瞬にして二人を無力化してみせた右近と左近。

 大蛇丸の敵討ちをしようとしていた君麻呂は、その激情を二人にも向ける。

 

「右近、左近!!なぜ邪魔をする!?」

「少し冷静になれ君麻呂。俺は殺すなと確かに言ったはずだぞ」

 

 君麻呂に対して冷静になれと右近は諭すが、それは無理な相談である。

 敬愛する大蛇丸を惨殺されたと思い、怒りに囚われた今の君麻呂の耳には届かない。それどころか、大蛇丸の敵討ちを邪魔する右近すらも敵に見えるだけである。

 

「邪魔をするならお前から殺すぞ……!」

 

 君麻呂は殺意を右近にも向けて、拘束から抜け出すために全身からヤマアラシのように骨の棘を生やし、さらには君麻呂に対応するようにサスケも全身に雷を纏った。

 

 そのチャクラの変化を敏感に感じ取った右近と左近は、それぞれが骨と雷から逃れるために掴んでいた手を離したことで、両者の肉体にかかっていた『加重岩の術』が解かれる。

 

 もはや言葉では止まらない、いや、止まれない君麻呂。無論、サスケも黙ってやられるつもりはない。二人の激突は火を見るよりも明らかだった。

 

 二人が二度目の激突を行おうとした、その時だった。

 

「おい──」

「!?」「?!」

 

 右近の口からドスの効いた低音が発せられた。

 それと同時に右近の肉体から迸ったチャクラが物理的な圧力すら発生させ、部屋の地面に亀裂を生じさせる。

 その圧倒的なチャクラから感じられるほんの薄らと殺意の混ざった怒気に、君麻呂とサスケの背中に冷たいものが走る。

 

 右近と左近は任務中ですら敵に対して戦意は抱いても怒りや殺意は抱かない。それが平時ならなおのことだ。

 だが、今の右近からは確かに怒りと殺意が感じられた。

 それは、右近からすれば子どもが怒った時に言う「殺してやる」と同じような、本気にするのが馬鹿らしいような安っぽい殺意だったが、君麻呂とサスケに危機感から死を意識させるには十分な殺意だった。

 

「いい加減にしろ君麻呂。冷静になってサスケのチャクラをよく感じてみろ」

「チッ……」

 

 右近に冷や水をかけられた形になった君麻呂は舌打ちをして、仕方なくサスケのチャクラに意識を向けてみた。

 すると、君麻呂は何かの違和感を感じる。サスケのチャクラのはずなのに、どこか感じたことのあるようなチャクラ。感知タイプではない君麻呂だが、それでも、確かに感じ取れた。

 

「大蛇丸、様……?」

「ようやく分かったのか」

 

 信じられないようなものを見る顔でサスケのことを見る君麻呂。呆然としている君麻呂の様子に右近はようやくチャクラを納めて安堵した。

 

「おおかた、大蛇丸様がサスケの肉体を乗っ取ろうとしたが、肉体の支配権をサスケから奪えずにそのままってところだろう……それであってるか?」

「ああ」

 

 右近が自説──と見せかけた原作知識の状況をサスケに確認すると、サスケは無愛想に返事をした。

 しかし、大蛇丸がサスケの肉体を乗っ取ろうとして失敗したのは原作通りだが、一点だけ違う点があった。

 その点にも右近は気づいており、再びサスケに確認する。

 

「サスケ、一つ確認しておきたいが、お前から大蛇丸様に仕掛けたわけではないな?」

「ああ……イタチを殺せるだけの力は手に入れた。だから、この里にはもう用がない。そう言って、この里を抜けると大蛇丸に宣言したら襲われたから返り討ちにしただけだ」

「なるほどな……」

 

 サスケの簡潔な説明に右近が頷く。

 原作との相違点、それはサスケから大蛇丸を襲わなかったことだ。

 

 原作でサスケは大蛇丸が自室で休んでいるところを扉の外から奇襲している。

 これにはいくつかの理由が考えられるが、一つにはサスケが大蛇丸を警戒していたことが挙げられるだろう。いくら弱っているとは言え大蛇丸という存在を相手にして、奇襲という戦法を使う必要があると判断したのだ。

 実際に、奇襲して大蛇丸に傷を負わせてなお、麻痺毒により体の自由を奪われて『不屍転生』の術を発動されていた。

 サスケの警戒は正しかった。それどころか、『不屍転生』を使う余力もないほどに追い込んでおくべきだったとも言えるだろう。

 

 一方で、今のサスケは奇襲を一切しなかった。大蛇丸の自室の扉が傷跡一つなく締め切られていたのがその証拠でもある。

 ではなぜ、サスケは奇襲しなかったのか。それは原作とは違い、『千鳥纏い』が使えるからだ。

 

 今のサスケが『千鳥纏い』を使った時の速度は雷影に匹敵する。その速度をもってすれば、今いる部屋のような四方を囲まれた密閉空間で大蛇丸が何かをする隙を見せた瞬間に殺せるという確信がサスケにはあった。

 ゆえに、奇襲もせずに堂々と大蛇丸の前に現れたサスケはこれまた堂々と里抜けを宣言した。

 

 それ以外は概ね原作通りであった。

 里抜けするサスケの体を奪えるのは今しかないと考えた大蛇丸はサスケを襲い、サスケは圧倒的な力を以て大蛇丸の真の姿である大白蛇を切り刻み、その血に含まれていた麻痺毒が気化したものを吸って隙を晒した時に『不屍転生』を使われたが、サスケの強固すぎる精神を大蛇丸が侵せず、ついには大蛇丸はサスケに取り込まれることになってしまったのだ。

 

 そのことを右近は原作知識で知っていたうえで、チャクラ感知によりサスケのチャクラに少しばかり大蛇丸のチャクラが混ざっていることを扉越しに感知していた。だからこそ君麻呂に「殺すな」と何度も言っていたのだ。

 

「さて、こうなると下手にサスケを殺すのも正解かは考え物になる。サスケを殺した場合、大蛇丸様がどうなるかなんて誰にも分からないが、カブトさんはどう考える?」

「……正直言って僕にも断言はできないね。大蛇丸様の不屍転生は僕も詳細を知らない術だしね。医学的に見てもサスケ君の体への影響が大蛇丸様にも及ぼす影響があるのは否定できないね」

 

 右近はこれまで黙って事の推移を見守っていたカブトに話を振ってみるが、忍界でも一、二を争うほどに医学に精通した医療忍者であるカブトですら、予想は不可能という答えしかでなかった。

 その答えを踏まえて、右近は再び君麻呂に話を振ってみる。

 

「だ、そうだが、どうする君麻呂?」

「くっ……!」

 

 右近は君麻呂に対して冷静に状況を語り、サスケを殺させないように牽制していた。

 原作知識を持っている右近からすれば大蛇丸を復活させる方法はいくつか思いつく。サスケを限界ギリギリまで追い詰めれば大蛇丸は肉体の主導権を奪えるかもしれないし、原作通りにみたらしアンコの呪印を応用する方法もあるし、サスケか君麻呂の呪印を利用する方法もある。

 

 だが、右近はそのことを君麻呂やカブトに教えるつもりはなかった。

 原作通りに話を進めたいから──ではない。むしろ、その逆で積極的に原作改変を進めたいと今の右近と左近は考えていた。そのために大蛇丸がいては不都合なのだ。

 

(今すぐに大蛇丸が復活すれば、再びサスケの肉体を狙うのは確実。一度失敗しているから、二度目は大蛇丸も本気でいくだろう。俺を除いたとしても、君麻呂やカブトが協力して用意周到に準備されれば、サスケでも防げないだろう……そうすれば、サスケの人生は他人に左右され続けて終わることになる。それは俺が嫌だ)

(悪魔に追加の人生を与えられた俺たちと、他人から人生のレールを敷かれ続けるサスケ。ちょっとは境遇が似てるかもなぁ……)

 

 右近と左近はサスケの人生に同情していた。全く違う人生を歩んでいるが、誰かが明確な意図を持って人生に干渉しているのは同じ。

 ゆえに、せめてサスケが自分で選んだ道を歩けるようにサポートしたいと考えていた。

 

「サスケ、お前はイタチを探して殺しに行くつもりだな?」

「ああ、そうだ」

 

 右近がサスケの今後の予定を確認すると、サスケは決意に満ち溢れた表情で頷いた。

 その答えに君麻呂が待ったをかける。

 

「待てっ……!大蛇丸様をそのままにして行かせるわけには行かない!」

 

 君麻呂からすればサスケは大蛇丸へ繋がる唯一の手掛かりである。そんなサスケが遠くへ行くことを君麻呂が簡単に了承するわけがない。

 

「だがなあ君麻呂、大蛇丸様にどういう影響が出るか分からない以上、下手に干渉するわけにもいかないだろう?」

「それはそうだがっ……!」

 

 サスケに何をすれば大蛇丸に影響が出るか分からない以上、サスケを止める術を君麻呂もカブトも持たない。

 サスケへ与えた影響が大蛇丸にも影響を及ぼす可能性がある以上、サスケを殺すどころか、傷つける、監禁するといった行為すらも早計に試すわけにはいかない。そういった自由を縛る行動にはサスケは全力で反抗するだろうし、そうなればサスケの中にいる大蛇丸の安全が保証できないからだ。

 ある意味では今のサスケは大蛇丸を人質にとって自由を得た状態とも言えた。

 

 だが、右近たちは大蛇丸や君麻呂たちに対して情がないわけではない。

 右近は君麻呂にしっかりと目を合わせた状態で語りかける。

 

「君麻呂、カブトさんは、各地のアジトを回って大蛇丸様を復活させる方法を探せばいい。その間、俺がサスケに着いて行って護衛と監視を行おう。それでいいか?」

「……分かった。お前に任せる」

「僕も異論はないよ」

 

 右近の目と言葉に嘘はないと判断した君麻呂が渋々といった様子で力なく頷いた。右近がサスケに着いていくならば、サスケの中にいるだろう大蛇丸はこれ以上の目には合わないだろうと君麻呂は右近と左近のことを信頼していた。

 カブトもまた大蛇丸を救う方法は大蛇丸の研究の中にしかないと結論づけて、右近の意見に同意した。

 

 次に右近はサスケへと目を合わせて語りかける。

 

「サスケ、お前の中の大蛇丸様が解放されるまではお前に着いていく。だが、お前の目的を邪魔するつもりはない。むしろ、イタチを探すのも手伝うし、本命以外に対する露払いとして扱ってくれてもいい。だが、それが受け入れられないなら、ここで拘束するしかなくなる」

「……ああ、それでいい」

 

 サスケもまた右近の最後通牒とも取れる提案に頷いた。

 サスケにとってもこの提案は無視できないものである。

 この二年半の修行期間でサスケの実力は高くなった。それこそ、イタチにも十分に勝算があるとサスケが自信を持つほどである。

 だが同時に、サスケは右近と左近よりも強くなったとは微塵も思えてなかった。

 

 この二年間でサスケが右近と左近に勝てたのは片手で数えられる程度でしかない。そして、その数回ですらも、右近と左近は『木分身』であって本体ではなく、右近と左近の実力の底は見えていなかった。

 

 そんな二人が監禁を目的にして生け捕り前提とはいえ襲ってくるとなれば、サスケも本気で迎撃するしかない。今のサスケであれば逃げ続けることも可能かもしれないが、逃亡生活をしながらイタチを探しだして殺すほどの余裕ができるわけがない。

 

 それよりも、右近が語ったように護衛につけてイタチを探しだし、イタチ殺害の邪魔をするだろう暁の相手をさせるほうがサスケにとって遥かに有益であった。

 

(イタチを殺すために利用してやる右近、左近)

 

 サスケは心の中で覚悟を決めていた。何をどれだけ使ってでもイタチを殺すという覚悟を。

 

 その覚悟を汲み取って、右近もまた裏で行動するつもりだった。

 

 サスケの人生はイタチによって仕組まれたものだ。

 木ノ葉上層部によってうちは一族抹殺の罪を背負ったイタチを、唯一の生き残りであるサスケが殺すことで英雄となり、木ノ葉から大切にされる忍となることを望まれている。

 

 それがサスケの本心からの選択であれば右近と左近は否定しないだろう。だが、仕組まれた運命の存在を知り、それとは違う道をサスケが歩むなら──

 

(サスケ。お前の選択、見届けさせてもらうぞ)

 

 ゆえに、右近と左近は木ノ葉へと赴くのだ。サスケの選択肢を増やすために。

 

 

 


 

 

 

「──だから、サスケの邪魔をしないで欲しいんですよ。イタチは木ノ葉にとっても重罪人。止める必要もないでしょう?」

 

 大蛇丸のアジトで起きたことを綱手に話し終えた右近。

 サスケはイタチを殺そうとする。そして、イタチもそれを望んでいる。

 

 木ノ葉隠れの里からすればサスケもイタチも抜け忍である。その抜け忍同士が殺し合ってくれるなら、木ノ葉隠れの里からすれば止める理由はない。

 

 ついでに言えば、サスケには直筆の手紙がある。今のサスケが犯した罪は里抜けのみなので、手紙の存在を明かせば里への復帰は比較的簡単だろう。

 サスケがイタチを殺せれば、その名声により復帰はより確実になる。

 

「……分かった。一時的にだがサスケ捜索を断念しよう」

「綱手のばあちゃん!!」

 

 綱手が決断した瞬間、ナルトからの怒声が飛んだ。

 サスケに執着しているナルトからすれば、サスケ捜索を諦める選択など認めるわけにはいかなかったのだ。

 

 その気持ちも綱手には理解できているつもりだった。

 だが、今の状況では右近の提案を呑むしかない、

 

「ナルト!……分かっているだろう?」

「チッ……!」

 

 綱手がナルトに諭すように優しく語りかけると、ナルトは舌打ちをしながら右近を睨みつけた。

 ナルトの殺気すらもこもった視線に晒されても、右近はどこ吹く風だ。

 

 綱手からすれば、今もまだ右近には人質が三人もいるのだ。三人の安全を考えれば、サスケ捜索を諦めるという口約束をするぐらいは、別になんてこともない選択だった。

 

 それを一時の激情により忘れかけていたナルトも、恋慕の情を抱いているサクラが捕らわれているのを見たことで少しだけ冷静さを取り戻し、綱手にそれ以上言い募ることはなかった。

 

 一先ずサスケに追手が来ないことを口約束だが約束させた右近は、ついに最後の要件を話しだす。

 

「最後に三つ目。うちはイタチの真実について内密に調べ直してもらいたい」

「何?イタチの真実だと……?どういうことだ?」

「サスケにはまだ言ってませんが、私はイタチがうちは一族を皆殺しにしたわけではない、もしくはイタチが殺したにせよ、何か裏があったのではないかと考えています」

 

 原作知識によりイタチの真実を知っていたからこそ、イタチがうちは一族を皆殺しにした事件について、右近はある疑問を提示できる。

 

「疑問に思ったことはありませんか?なぜサスケを除いて生き残りがいないのか」

「それは弟だったからじゃないのか?」

「それはサスケを殺さなかった理由にはなっても、サスケ以外に生き残りがいない理由にはなりません」

「む……?」

 

 右近の婉曲な表現に、綱手は右近が何を言いたいのか理解できず眉間に皺を寄せた。

 それに気づいた右近が遠回しにヒントを出すように例え話をしだす。

 

「例えば、うちは一族の誰かが任務で外に出ていたなら、その人も生き残ったはずです。うちは一族は優秀な忍が多かった。いくら木ノ葉警務部隊という役職をうちは一族が担っていたとしても、里の外に一人も出てないなんてことはないでしょう。あのイタチだって、その当時は暗部所属だったのですから」

「…………まさか……!」

 

 右近の話を聞きながら考えていた綱手の脳裏に恐ろしい想像がよぎった。

 それが真実に近いということを右近は教えていく。

 

「分かったようですね。うちは一族の、それも全員分の任務を管理できる人間など里にはごく僅かしかいない」

「火影……か?」

 

 イタチがたった一夜にしてうちは一族全てを殺せたのは、里にうちは一族が集められていたことに他ならない。

 ついに綱手が真実の一端に手をかけた。うちは一族を全員里に集められる人間は、里に所属している忍の任務を管理している火影以外にはいないということに。

 

「ど、どういうことだってばよ……?」

 

 難しい話についていけないナルトを置いて、綱手と右近の会話は続く。

 

「……三代目がそんなことをするとは思えんな」

「でしたら三代目本人ではなくて相談役の二人か。あるいはそれに近しい者か……まぁ、三代目は故人。本人に聞けないとなると、それ以外を調べるしかないですがね」

 

 綱手は師である三代目火影がうちは一族滅亡に関与したことを否定するが、それが苦しい発言であることは現職の火影である綱手自身が分かっていた。

 右近は相談役などの名前も挙げたが、うちは一族を里に集めた容疑者として一番怪しいのは三代目火影であった。

 

「そうなると、です。イタチは任務でうちは一族を殺したことになる。なぜそうなったのかは分かりませんが、知りたいとは思いませんか?」

「……やはり、ありえんな。そんな任務を三代目が許すわけがない」

 

 イタチの真相を予想という形で話した右近だが、綱手はそれを否定した。

 里の者を家族と呼び、常に優しかった三代目火影の印象しかない綱手からすれば、そんな任務を許可するはずがないと信じていたからだ。

 

 綱手の言い分に右近も左近も頷いて同意したい気持ちはあった。

 だが、それはうちは一族がクーデターを企てていたという裏を知らないならばの話だ。

 イタチがうちは一族を皆殺しにしなければ、うちは一族はクーデターを実行していただろう。そして、クーデターが失敗しても、仮にどんなに上手にクーデターを成功させたとしても、少なくない血が流れただろう。

 うちは一族のそんな横暴を前にして、他の有力一族が「はいそうですか」と従うわけがないからだ。

 むしろ、三代目火影に人望があったからこそ、うちは一族への反発はより強くなっただろう。

 

 そう考えれば三代目火影が下した非情な判断にも理解はできた。

 

 ゆえに、右近は綱手の言葉を無理に否定せず、その容疑を他の者になすりつけるように誘導していく。

 

「確かに人格者として有名だった三代目火影が下した命令だとは思えません。ですが、他の者だったらどうでしょう?」

「相談役か……」

「あるいはこの場にいるサイの上司であるダンゾウとか」

 

 実際に、ダンゾウはイタチの真実も知っており、イタチに対して「うちは一族について全滅するか」と「里について一族を殺してサスケだけは生き残らせるか」の二択を迫っている。

 

 そして、右近からすれば大蛇丸と繋がりの深い人物でもあり、うちは一族抹殺の任務を出した容疑者にしたてあげやすい人物でもあった。

 

「綱手様は知っているか分かりませんが、ダンゾウは大蛇丸様とも関わりの深い人物です」

「なんだと……!?」

「ダンゾウの普段は見せない右腕。あれは大蛇丸様からの贈り物です。あなたの祖父である柱間様の細胞を埋め込み、大量の写輪眼のクローンを備え付けた……まあ下衆な代物です」

 

 ダンゾウが大蛇丸と繋がっていたこと。さらにはダンゾウの右腕の悍ましさを暴露した右近。

 その驚愕の事実に綱手が思わず立ち上がった。

 

「ダンゾウのヤツ……!昔から何を考えているか分からないヤツだとは思っていたがっ……!」

「それこそ、二年半前に起きた大蛇丸様がこの里を襲った時、ダンゾウは何もしませんでした。なぜなら、大蛇丸様と裏で繋がっていたからです」

「まさかそんなことまで……!?」

「誰なんだってばよ!?そのダンゾウってヤツ!?」

 

 ダンゾウのことを知ったナルトが堪らず口を挟んだ。それを受けて綱手が簡潔に答える。

 

「ダンゾウは若い頃に三代目火影の座を争っていたヤツだ」

「えっ!?」

「だが、結局は三代目火影にはなれず、根という暗部を作ったりして危険視されていた……火影の座を今も狙っていてもおかしくはない」

「ある程度ダンゾウの内情を知っているだろうサイとヤマトさんにも証言してもらいましょうか」

 

 そう言うと右近はサイとヤマトの体の中に潜り込んでいた『木分身』を消し、身動きを封じていた呪印を解いた。

 ようやく動けるようになったサイとヤマトは体を揺らすように少しずつ動かして体の調子を確かめている。

 そんな二人に向けて綱手が右近が語ったダンゾウについて問いかける。

 

「サイ、ヤマト。どうなんだ?ダンゾウについて教えてくれ」

「……ダンゾウ様については呪印があるので答えられません」

 

 そう答えたサイは口を大きく広げて舌を綱手に見せた。そこにはサイの言う通りに呪印が刻まれており、ダンゾウについて直接聞くことはできなかった。

 だが、直接でなければ語れることはある。

 

「ですが、かつて大蛇丸が木ノ葉へ襲撃してきた時に、僕も含めて根の忍が対応に出なかったのは事実です」

「……そうか。ヤマトはどうだ?」

「僕が根に所属していたのはかなり昔なので最近のことはなんとも……ただ、危険人物なことには間違いないかと」

「…………そうか」

 

 サイとヤマトの証言から少ないながらも情報が聞けた綱手が眉間の皺を濃くしながら考えこむ。

 

 実際のところ、右近と左近は大蛇丸とダンゾウの関係についてそこまで詳しくない。協力関係にあったのは確かだろうが、木ノ葉崩しの時になんらかの密約があったのかは知らなかった。

 しかし、原作においてのダンゾウはペインという強敵が木ノ葉隠れの里を襲撃した時にさえ、表舞台に姿を見せずに里の地下で隠れ潜んでいた。

 それを考えれば、大蛇丸が襲撃した時にも同じ選択をしたことは想像に難くない。むしろ、複雑な感情を抱いていた三代目火影が死ぬならばと、大蛇丸に積極的に協力していてもおかしくはなかった。

 

 もっとも、それでもダンゾウの目的──火影になることは相談役の二人が自来也や綱手を推したことで叶わなかったが。

 

 右近から言わせれば、ダンゾウが本当に火影になりたいのならば、襲撃された時にこそリーダーシップを発揮するべきだった。

 大蛇丸が襲撃して三代目火影と一騎打ちを演じていた時、火影という司令塔を隔離されて木ノ葉隠れの忍たちは多少は浮き足立っていたはずだ。

 その危機に満を持してダンゾウが登場し、火影の代わりに忍の指揮をとって音隠れの里と砂隠れの里の忍たちを撃退したとなれば、事件解決の立役者となって火影に推す声も少しは出ただろう。

 

 だが、実際はそうはなっていない。

 ダンゾウは忍者として見れば常に冷静で非情な判断もでき、卑劣な手段を使ってでも里の利益を取れる優秀な存在なのかもしれないが、人として見ればただの人でなしだ。お人好しすぎる三代目火影以上に人の上に立つ資格のない人物であった。

 

「話を聞いてもらってありがとうございます。約束通り、話は終わったので人質は解放させてもらいましょう」

 

 話したかった要件は終わり、右近は初めの約束通りにサイとヤマトに続いてサクラまでも解放する。

 ただし、今度はサクラの肉体から出るだけで『木分身』を消すことまではしなかった。

 

「サクラちゃん!大丈夫か!?」

「大丈夫よナルト……」

 

 解放されたサクラに駆け寄って心配するナルト。それを受けてサクラは気丈に振る舞おうとしていたが、その声は平時に比べて少しだけ弱々しかった。

 無理もない。体の身動きを封じられた挙句に里の闇を聞かせられたのだ。暗部として活動していたサイやヤマトとは違い、サクラは普通の忍である。肉体的には問題なくとも、精神的には疲弊していた。

 

 その二人を横目に、右近は綱手に向けて話しかける。

 

「さて、私の要件は以上なのですが……ここからは交渉といきませんか?」

「お前の言葉に説得力があるのは分かった。だが、交渉だと?」

 

 常に冷静な態度で話し続けて、約束通りに人質を解放した右近をほんの少しだけ信用した綱手が、話の続きを促した。この場にいる右近は『木分身』だと先ほど見せられているので、この場で右近を攻撃するだけ無駄だというのも分かっていたからこその判断だった。

 

「ええ、私が先ほど語った内容が真実かどうか、あなたは見極めようとするはず。それを私にも教えてもらう代わりに、私はサスケのことや大蛇丸様が知っていた暁についての情報を渡しましょう」

「それでお前になんの得がある?」

「得ならありますよ。サスケはイタチの真実を知ることができて、あなたは里の闇を暴きながら暁の情報を知ることができる。そして私はあなたに恩を売れる。良いことずくめだと思いますが?」

「ふむ……」

 

 右近が語った内容を吟味するように考えこむ綱手。

 そうやって悩み、右近との交渉に応じている段階で右近の目的は達成されていた。

 

 現段階でもサスケにイタチの真実を教えることは簡単だ。右近が原作知識で得た情報を大蛇丸が調べた内容と嘘を言って語ればよい。情報源が大蛇丸でも綱手でも、どちらにしてもサスケは簡単には信じず、イタチへと迫るだろう。

 

 右近の本命は木ノ葉隠れの里と繋がりを作ることだ。

 原作『NARUTO』の主人公であるナルトが所属する木ノ葉隠れの里に、右近が繋がりを持ち、影響を与えられるという点で、木ノ葉隠れの里との繋がりを作ることは非常に重要な意味を持っていた。

 右近と左近がこの先、木ノ葉隠れの里と協力するのか敵対するのか、それはまだ分からない。だが、この交渉には必ず意味があった。この世界の行く末を左右するほどの意味が。

 

「さぁ、どうしますか綱手様?」

「ふぅ…………」

 

 呼びかけられた綱手はすぐには応じず、目を閉じて深呼吸して考え込んでいた。その様子を固唾を飲んで見守るナルトたち。

 

 綱手は悩んでいた。

 右近の話を全て鵜呑みにはできない。だが、その情報の信憑性が高そうなことと、サスケや暁に関する情報が少なからず手に入る貴重な機会でもある。特に、暁に関しては少しでも情報が欲しいのも確かだった。

 暁はつい先日に風影である我愛羅を襲撃し、その体に封印されていた一尾が抜き取られていた。九尾の人柱力であるナルトも狙われており、綱手からしても他人事ではない。

 だが同時に、右近は大蛇丸の部下であり、どこまでいっても信頼はできない。

 

 ゆえに悩む。綱手は悩んで悩んで悩み抜き、やがて一つの結論を出した。

 

「……分かった。お前との交渉に応じよう」

 

 綱手は大いに怪しい右近と情報の取り引きに応じることを決心した。

 その狙いは右近と同じ。尾獣化したナルトを止めるほどの戦闘力を持ちながら交渉を持ちかけてきた右近との繋がりを作り、その思考を見極め、影響を与えられることの意味は大きい。

 

「交渉成立ですね」

「ああ」

 

 右近と綱手の交渉はここに成立した。この関係がいつまで続き、その結果がどうなるのか。それはまだ先の話だが、決して遠い未来ではなかった。

 

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