音の四人衆最強の男   作:北山 真

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密談

 

 木ノ葉隠れの里には特別な会議室がある。その部屋は地下にあるがゆえに窓は一つもなく、さらには分厚い壁に覆われていて、まるで牢獄のようなその部屋は、盗み聞きされてはいけないような密談のために使われる会議室である。

 会議室の中には椅子や机すらなく、あるのは四角い部屋の四隅にある蝋燭立てぐらいのものであり、それ以外には観葉植物が二つ置いてあるだけの質素な部屋だった。

 

 つまり、里の上層部にすら秘密にする必要がある会議をするのにもってこいの会議室なのであった。

 

 右近左近と綱手の間で情報交換の協定がなされた数日後。その会議室には錚々たる面々が集められていた。

 

 集まった木ノ葉隠れの里の忍たちは全員で六人。

 火影である綱手と、その綱手からの信頼が最も厚く、同じ“三忍”の一人でもある自来也。

 そして、はたけカカシ、マイト・ガイ、猿飛アスマ、奈良シカクという上忍の中でも有力な人物たち。

 

 そこに集まった六人だけで他里を滅ぼせるほどの戦力と頭脳の持ち主が集まっていた。

 

 綱手はもっと早く密談したいと思っていたが、多忙な八人を同じ時間、同じ場所に集まるために数日もかかってしまった。

 

「皆んな、忙しい中よく集まってくれた」

「前置きはいいのぉ……こんな部屋にこれだけの面子を集めておいて、世間話をするつもりじゃないだろうに」

 

 綱手が会議を始まる前に挨拶をしようとしたが、それは自来也に遮られた。

 自来也が早く本題に入れと促したが、他の者も同じ気持ちであった。

 里の中でも特に色々な意味で目立つ者ばかりがこの密談用の会議室に集められた時点で、何か里にとって極めて重要な議題があることは、ここに集められた面々からすれば分かりきったことであった。

 

「それもそうだな。じゃあ早速会議を始めるが、その前に一つだけ注意しておくことがある。今から会わせる奴らを見て敵対行動をとるな。いいな?」

(火影様がここまで言う人物。それも複数か……)

 

 綱手の言動を冷静に分析するシカク。木ノ葉隠れの里でも随一の頭脳を誇るシカクが様々な予想を立てるが、綱手が今から紹介する二人組は流石に予想できなかった。

 

「それじゃあ、姿を見せていいぞ」

 

 綱手の合図を出すや否や、部屋の中に置かれていた二つの観葉植物がにょきにょきと勢いよく伸び始めて人型に変形していく。

 

 アスマとガイはその通常の『変化の術』とは異なる特異な変身シーンに驚く暇もなく、すぐに臨戦体勢をとった。

 なにせ、臨戦体勢をとった二人は、その変身した人に見覚えがあったからだ。

 

 観葉植物に変化していたのが、かつて敵対した二人組──右近と左近だったからだ。

 

「テメーらは!」

「貴様らは……!?」

 

 かつて右近と左近に追い詰められた経験を持つアスマ、ガイが大声を出しながら驚愕した。危うく部下諸共に死ぬところだった二人が危機感を持つのは当然のことだ。

 むしろ、綱手の注意を守って腕を組んだまま睨みつけるだけで済ましている自来也は肝が据わりすぎていると言えるだろう。

 自来也もまたガイとアスマと同じく右近左近と戦った経験があったが、自来也は持ち前の豪胆さと長く生きて得た経験により動じずに済んでいた。

 

「ガイ、アスマ、お前たちの気持ちは理解できるが、一先ずは矛を納めろ」

「しかし……」

「まあまあ、綱手様がこうまで仰っているんだ。少し落ち着け」

「……分かった」

 

 ガイとアスマは綱手とカカシの説得を受けて臨戦体勢を解いた。

 その光景を横目に自来也が右近と左近へ話しかける。

 

「ほぉ……お主ら、随分と鍛え上げたようだのぉ」

「お久しぶりですね自来也様」

 

 一見、久しぶりに親戚にあったかのような呑気な挨拶をしているように見えるが、自来也はしっかりと右近と左近の変化を見抜いていた。

 自来也が会ってない間に右近と左近は背丈が大きく伸びているが、それ以上に体にしなやかな筋肉が十分に付いており、この二年半で肉体改造に勤しんだことが見て取れた。

 

 そして、それ以外にも──

 

(この部屋全体に分かりづらいように遮音結界が貼られておるのぉ……綱手のやつはこんなまどろっこしい術を使わんだろうと思っておったが、こいつらの仕業か。綱手のやつ、余程この場での話をよそに漏らされたくないらしいのぉ)

 

 自来也はこの部屋に入った瞬間に、部屋の壁にピッタリと沿うように『遮音結界』が貼られているのを確認していた。

 『遮音結界』は読んで字の如く音を遮る結界である。割と簡単な結界忍術だが、だからこそ、そこに術者の技量が出る。

 

 その術の冴えがかつてとは比にならないほど成長しているのを自来也は確かに感じ取っていた。

 

 とは言え、綱手が話を聞く程度には信用しているので、自来也もとりあえず話だけでも聞いてみるかと考えていた。

 

「して、なぜお主らがここに?大蛇丸はどうした?」

「俺たちはあんたら木ノ葉と取り引きするためにここに来た」

「大蛇丸様は今現在サスケの体を乗っ取ろうとして失敗し、逆にサスケに乗っ取られた状態になっております」

「なんと!そうであったか……」

 

 なぜここにいるのか?という疑問には左近が答えて、大蛇丸の動向については右近が答えた。

 

 自来也は大蛇丸の悲報を聞いて驚いたが、同時に納得していた。

 大蛇丸が他者の肉体を乗っ取る時に使う術──『不屍転生』には長いインターバルが存在する。前回使ったのはサスケが木ノ葉隠れの里を出た直後なので、今は使用できるようになっていた。

 大蛇丸が『不屍転生』を使用してサスケの肉体を手に入れていたなら、必ずなんらかの動きがあるはずだと自来也は睨んでいた。

 だが、暁の情報を探るために各地を転々としていた自来也の耳にすら大蛇丸が大きく動いたという話は聞こえていなかった。

 

 その理由を右近から教えられたので納得していたのだ。まさか孫ほど年齢の離れたサスケにやられたのは予想外だったので驚いてはいたが。

 

 そして、左近が発した取引という単語にもっとも反応を示したのはアスマだった。

 

「取引だぁ……?お前らが俺たちにだと……?」

 

 眉間に皺を寄せた怪訝そうな顔をするアスマ。

 その顔を見た綱手がすかさず今回これほどの忍たちを集めた理由を語り出す。

 

「それは私から話そう。実は────」

 

 綱手が先日にあった右近左近との交渉の内容を簡潔に語った。

 まず、右近左近が仲間の墓参りに来た件。

 次に、大蛇丸の手から抜け出してイタチを殺そうとしているサスケに対して、一時的に追手を出すのを止める件。

 最後に、うちは一族滅亡に木ノ葉隠れの里の上層部が関わっていた可能性が示唆された件。特に、大蛇丸と手を組んでいたダンゾウが怪しいということ。

 

 その後、右近左近から取引が持ちかけられ、木ノ葉側はうちは一族滅亡の真実を右近左近に教える代わりに、右近左近からサスケと暁に関する情報を受け取ることになった、と。

 

 綱手が語り終えた後、真っ先に口を開いたのはシカクだった。

 

「確かにうちは一族が皆殺しにされた事件は色々と怪しいところが多かった。今回の話は筋が通っている気がしますね」

「本当か?」

 

 綱手に確認するように問いかけられたシカクは、当時のことを思い出しながら奈良一族としてではない客観的な意見を述べていく。

 

「ええ。あの当時、本来なら里をあげてイタチを追うべきだったはずが、それにしては追手の数が多くなかったと記憶してます。当時は里が混乱してたことやイタチの危険度を考えて追手を少数精鋭に絞ったのかと考えていましたが、先ほどの話を考えると、そもそも追わせる気がなかったという可能性もありますね」

「なるほどな。ありがとうシカク」

 

 シカクの意見に感謝する綱手。

 うちは一族が滅んだ時、綱手は里を出ていたので当時の里の状況に詳しくなく、シカクの意見はとても貴重なものだった。

 

「俺も暗部の時にイタチとは何度か話してますが、とても一族皆殺しにするようなやつではなかったので、当時は驚いてましたが……」

「そうか。カカシからはそう見えたか」

 

 シカクに続いてカカシもイタチについて語った。

 その内容はシカクのように客観的ではなかったが、イタチと直に会話したことのある者の意見として十分な内容だと綱手は感じていた。

 

「そう言えば──」

「確かに──」

 

 シカクとカカシの言葉を聞いた他の者たちもイタチが一族を皆殺しにしたことに違和感を抱き、当時を振り返って口々に話し出そうとする。

 

 パンパンッ──と、そのざわめきを落ち着けるように綱手が二回拍手をしたことで、過去に思いを馳せていた意識が綱手に集まった。

 

「それで、だ。わざわざ皆に集まってもらったのは、それぞれにやってもらいたいことがあるからだ」

 

 そこまで言い切った綱手は一つ間を挟み、続けて各員の役割について話し出す。

 

「まずカカシと自来也。お前たちは右近たちから暁の情報を受け取り、早急にナルトを守るための方針を固めろ。いつナルトが暁に狙われるのか分からない現状、それは急務だ。暁に負けない実力を持ち、ナルトに近いお前たちが適任だ」

「はい」

「うむ。任せておけ」

 

 カカシと自来也に任された役目は暁と対峙するための準備だった。

 暁という脅威からナルトを守るためには備えは万全にしておくべきであり、その点、カカシと自来也は上司と師匠という立場上ナルトの側にいることも多く、暁と対峙する可能性が高いので、より詳細な暁の情報を知っておく必要があった。

 

 綱手の指示にカカシは生真面目に返し、自来也は自信たっぷりに頷いた。

 カカシと自来也から特に質問などがないのを確認した綱手の目線が次の人物に移る。

 

「次にアスマ。お前には三代目の家からうちは一族滅亡のことが分かるものがないか探して欲しい」

「そりゃあ構いませんが、家にそんな重要書類は置いておかないと思いますよ」

「もちろんだ。重要な内容のものは無いだろうが、当時のうちは一族に関するものならなんでもいい。三代目から見たうちは一族の情報が少しでも欲しい」

「了解です」

 

 アスマに任された役目は三代目火影とうちは一族の繋がりを探ることだった。

 うちは一族滅亡に木ノ葉隠れの里の上層部が関与している場合、もっとも疑われる人物は当時の火影であった三代目火影だ。

 そんな三代目火影の自宅を探るには、息子である猿飛アスマが適任であった。

 

 アスマは頭を掻いて少し面倒くさそうにしながらも、綱手からの要請を受け入れた。

 

「シカクには資料室から当時のうちは一族の情報を洗い出してもらった後、アスマから得られた情報と合わせて、うちは一族滅亡の真相を探って欲しい」

「分かりました。全力を尽くします」

 

 シカクに任された役目はうちは一族滅亡の真相究明だった。

 木ノ葉隠れの里の資料室には膨大な数の資料が眠っている。その資料から事件当時のうちは一族の情報を探し出し、情報同士を繋げ合わせて真相に近づくには、里でも随一の頭脳を誇るシカクが適任であった。

 

 シカクは自分に任された重責を果たす覚悟を決めて綱手へと了承の返事をした。

 

「最後にガイ。お前と、お前の部下であるネジの力を借りてダンゾウの秘密を暴きたい」

「白眼ですね。それにしても、秘密ですか……?」

「察しが良くて助かる。右近たち曰く、ダンゾウの右腕は大蛇丸が手がけた悍ましい代物らしくてな。ダンゾウはその右腕を普段は隠しているが、白眼でなら中の物が確認できると考えていてな」

 

 ガイに任された役目はネジと協力してダンゾウの右腕の秘密を明らかにすることだった。

 ダンゾウは猜疑心と警戒心が強く、人前では右腕を決して晒さない。それは火影の前であってもそうだ。

 だが、そんな隠された右腕を見抜く力が白眼にはあった。そのためにネジを必要としているのだが──

 

「それならばネジに直接話をしても良かったのでは?」

 

 ガイの口から素朴な疑問が漏れた。

 いくらガイがネジの担当上忍とは言え、ダンゾウの秘密を探るという重要な役目であれば、ガイにも秘密にしておいても良かったはずだった。

 

 そんなガイの疑問を受けて、綱手が毅然とした態度で答えを返す。

 

「それも考えたが、やはり担当上忍であるお前に話を通しておくのが筋だと思ったのと、万が一ダンゾウの秘密を探っているのがバレた場合、ネジが襲われる可能性もあるからだ」

 

 綱手はサイからダンゾウの情報を少なからず引き出すことに成功していた。

 その情報の中には、“血霧の里”と呼ばれた時代の霧隠れの里を彷彿とさせるような悪辣なものもあった。

 綱手からすれば、ダンゾウが自らの秘密を探る者に容赦するとは全く思っていなかった。だからこそ、ネジ一人だけではなくガイもともに秘密を共有するべきだと考えたのだ。

 

 だが、ダンゾウのことを詳しく知らないガイからすれば、ダンゾウが里の仲間を口封じのためだけに簡単に殺そうとすると言われても、なかなか理解しづらい。

 

「同じ里の仲間ですよ?そんなまさか──」

「いや、あり得るのぉ」

 

 ガイの言葉を遮ったのは自来也だった。

 自来也もそこまでダンゾウについて詳しくないものの、三代目に反発しているダンゾウの姿を見たことがあった。

 その時のことを思い出しながら自来也はガイへ語りかける。

 

「ワシの知る限りダンゾウは過激な思想の持ち主だ。それこそ、うちは一族を危険だとして独断で処理しててもワシは驚かんのぉ」

「そう……なのですか……」

 

 自来也の発言にガイが悲しそうに納得した。

 ガイにとって同じ里の仲間を疑うという行為は好ましいものではない。

 だが、綱手と自来也の意見が一致している以上、ダンゾウが怪しい人物だということに異論はない。

 

 ガイは覚悟を決めて任務に取り組むことを決めた。

 

「了解しました。ネジとともに全力で任務にあたります」

「うむ、頼む。詳しいことはネジも含めて話す」

 

 綱手があらかじめ考えていた役目の割り振りが終わった。

 役目が割り当てられたのならば、すぐにでも行動に移してもいいように思えるが、綱手はまだ解散の合図を出さない。

 

「さて、これから右近と左近にサスケと暁の情報を知る限り話してもらう。カカシと自来也は当然として、他の者も聞くだけは聞いておいてくれ」

「分かりました」

 

 暁からナルトを守る役目はカカシと自来也が担う。だが、暁という強敵を相手にして、全く知らずに戦う場合と、多少は知っている状態で戦う場合、どちらがより優位に戦えるなど、考えるまでもないことだ。

 

 ゆえに、暁の情報を語るためだけに右近と左近はこの場にいたのだ。そうでなければ、綱手が役目を割り当てるだけの会議ならば、この場にいる必要はなかった。

 

 先ほどまで綱手に集まっていた注目が右近と左近へ注がれる。

 猜疑心や敵対心、好奇心などが入り混じった視線を前にして、右近と左近は少しも怯まずに堂々としていた。

 

 右近と左近が今から語る暁についての情報源は三つもある。右近たちはこれらの情報源から得たものを選別しながら木ノ葉隠れの里に情報を与えるつもりだった。

 

 一つ目は、大蛇丸が暁にいたころに得た情報、および、大蛇丸が暁脱退後に部下を使って集めた情報。

 これに関してはどこまで話しても問題はないが、集められた情報は断片的なものが多く、詳しい情報はない人物も多かった。

 

 二つ目は、サスケの手伝いとして今現在集めている情報だ。

 サスケはすでに水月と香燐を仲間に引き入れてイタチ殺害へ向けて行動を開始していた。

 サスケは右近左近と万が一に戦闘になった時に備えて味方となる戦力を欲して二人を勧誘していた。また、右近左近は戦闘、治療、感知、潜入と様々なことをこなせる万能な忍だが、一人に役割が集中している小隊はその一人が倒れたら脆いという考えもサスケの中にはあった。

 

 そして、そんなサスケの命を受けて、右近と左近はそれぞれが『木分身』を様々な国に送り込み、イタチに関する情報収集を重ねていた。

 イタチを探そうと思えば、暁の特徴的な外套を纏った人物の目撃情報を探すのが簡単だが、そうなると必然的に他の暁の居場所に関する情報も集まってきていた。

 

 相手の居場所が分かるという情報の優位性は大きいが、基本的にはこの情報も教えても問題ない情報だった。

 

 一つ目と二つ目は問題ない。だが、三つ目が問題であった。それは右近と左近の頭の中だけにある原作知識のことである。

 

 話そうと思うなら原作知識を持っている二人は全てを話せる。

 暁の戦闘能力もそうだが、何よりも暁の表向きのリーダーであるペインと名乗る長門のことも、その裏にいるトビやマダラと名乗っているオビトのこともそうだった。

 だが、右近と左近がそこまで知っていれば不自然になる。情報源が大蛇丸ということにしたとしても、いくらなんでも知りすぎである。

 また、長門やオビトの情報はカカシや自来也の地雷を踏み抜く可能性が高く、右近たちは今の関係が崩れることを危惧していた。

 

 ゆえに、右近たちは全てを語らない。三つの情報源から得られた情報の中で不都合だと判断した物を語らず、必要だと思えるものだけを選別して教えるつもりであった。

 だがそれでも、十分に貴重なものであることに変わりはなかったし、その程度のことは綱手たちも織り込み済みであった。

 

 そもそも、右近たちはまだ完全に信頼されたわけではないし、むしろ敵視されているぐらいである。

 そんな相手から与えられる情報を全て頭から信じるほど、この場にいる忍たちは馬鹿ではない。

 

 それを踏まえたうえで、右近たちが満を持して語り出す。

 

「じゃあ早速、基本的なことから話しましょう。まず、暁という組織は総勢十人で構成された組織で、基本的には二人一組(ツーマンセル)で行動しますが、入れ替わりも激しいので今現在の正確な人数は不明です。基本的には凄腕の抜け忍ばかりが集められていますが、大蛇丸様が調べても経歴が分からない人物もいました」

「そういう奴らは使う術も詳しく分かってねぇ。十分注意するんだなぁ」

「また、組織の目的については不明です。大蛇丸様がいた頃には最終目的などは語られておらず、目標として大金と戦力を集めていたことしか分かってません」

「暁が今、尾獣を集めてるのも、戦力目当てなのか他に狙いがあるのかは分からねぇなぁ……」

 

 右近が基礎的な情報を並べ、左近が補足するように話した。

 ここまでは基礎的な内容であり、ここに集められた人物たちには既知の内容だった。

 

「次は構成員を挙げていきましょうか」

 

 そう言った右近は懐から紙束を取り出した。紙束はビンゴブックに載っていた暁のメンバーの写真、あるいは右近たちが手に入れた情報から作成した似顔絵を束ねたものである。それを木ノ葉隠れの里の忍たちに見せながら右近は話を続ける。

 

「ひとまず、木ノ葉出身のイタチと最近接触したはずのサソリ、デイダラは置いておきましょうか。下手したらそちらの方が詳しいでしょうし」

「ふむ、そうしてくれ」

 

 右近が挙げた三人についての情報は綱手も所持している。右近たちから聞く必要性をあまり感じていなかった。

 右近と左近もまた、綱手たちが握っている情報以上のものを教えるのは不自然であると考えていたので、三人のことは話さずに次の人物について話し出す。

 

「では、まずは霧隠れの里出身の干柿鬼鮫。忍刀七人衆の一人で、鮫肌という名の大剣を扱います。鮫肌はチャクラを吸収する能力もあるようなので、接近戦には注意しなくてはいけません」

「術は水遁を主に使うことが分かってるなぁ。まぁ、霧隠れ出身だから予想はつくだろうがなぁ」

「あいつかっ……!」

 

 鬼鮫のことを右近が語ると、鬼鮫との交戦経験があるアスマが悔しそうに鮫肌で傷をつけられたことのある肩を抑える仕草をした。

 鬼鮫に関しては特徴的な風貌と大刀を背負っていて目立つこともあり、ある程度の目撃情報が集まると思っていた右近たちだったが、鬼鮫もその程度のことは熟知していて人目に付かないようにしているのか、なかなか思うように目撃情報は集まっていなかった。

 

「次は角都という男ですが、額当てから滝隠れ出身の忍であることが分かってますが詳細は不明です。大蛇丸様は部下を使って滝隠れの里を調べていたようですが、正確な情報は消されたのか、残っていなかったようです」

「術は基本性質変化の全てを使うことは分かってるみたいだから、ある程度の対応力がある忍じゃねぇと危ねぇだろうなぁ」

「待て、基本性質変化の全てだと……?まるで──」

 

 角都が基本性質変化を全て使えるという情報に右近と左近以外の忍たちが驚いた。自来也と綱手は特にだった。綱手に関しては話を止めて聞き直すほどである。

 それほどまで驚いたのには理由があった。なぜなら、基本性質変化の全てを使いこなした人物が身近にいたからである。それは──

 

「まるで、三代目火影のようですよね。大蛇丸様もそこは気にしていたようです」

 

 自来也、綱手、大蛇丸の三人の師匠でもあった三代目火影こそが、基本性質変化を全て使いこなし、“プロフェッサー”と呼ばれたほどの忍だった。

 基本性質変化を全て使える人間は極めて稀である。ゆえに、それができる実力者ということで、角都への警戒度が木ノ葉隠れの里の中で上がった。

 

「次に、その角都と組んでいる人物なのですが、大蛇丸様がいた頃とは変わっているようです。大蛇丸様が新たに調べていた情報によると、今現在は飛段と名乗る人物なようです。出身は湯隠れの里で、飛段はジャシン教なるカルト宗教の熱心な教徒であったらしく、湯隠れの里で複数の殺人事件を起こして里抜けしてるようです」

「ぬるま湯隠れ、なんて揶揄されるぐらい忍の緩い里だからなぁ。情報を抜くのは簡単だったぜぇ」

「ジャシン教のシンボルマークは円の中に三角がある図形なのですが、飛段は殺害現場に血で描いたマークを残していたようですので、殺害現場にマークがあれば危険と覚えておくべきです」

 

 飛段については簡単に調べられたようだった。

 湯の国は温泉を観光資源にした平和政策を進めており、里の忍の力量は低いからだ。

 また、原作にて角都が暁の財布役を自称して賞金首を換金していたことから分かる通り、裏の世界では角都はある程度の目撃情報があった。なので、角都の相方である飛段もある程度の目撃情報が集まりやすかった。

 

「また、角都と飛段の二人組らしき人物は最近、雷の国で目撃されたようです。地理的に近い木ノ葉にも来る可能性はあるかもしれません」

「角都と飛段は賞金首を換金する姿が裏で目撃されることもあるからなぁ……その辺を見張れば見つかるかもなぁ」

「なるほど。この話し合いが終われば、すぐに木ノ葉の賞金首と裏の換金所をリストアップしよう」

 

 右近と左近が綱手の方を見て語ると、綱手は一つ頷いて方針を決定した。

 

 そんな綱手の様子には気を留めず、右近はちらりとアスマを盗み見ていた。

 

 原作ではこの時期に角都と飛段が木ノ葉隠れの里周辺で暴れ回り、その結果、アスマが死ぬことになった。

 それを防げるかはまだ分からないが、ある程度の忠告はできたと右近は考えていた。

 

「さて、次はゼツと呼ばれている怪人についてです」

 

 「怪人?」と綱手たちは一瞬だけ疑問に思ったが、右近が見せる似顔絵を見ると、その疑問は一瞬にして氷解した。

 なにせ、そこに描かれていたのは左半身が白、右半身は黒色の体色をしており、さらには体から巨大なアロエを生やしたような奇怪な見た目をしていたからだ。

 

「この者に関する情報はほとんど分かっていません。分かっているのはこの奇妙な見た目と、地面や建物から急に現れるという神出鬼没な能力を持つということのみです」

「地面や建物からだと?感知は可能なのか?」

「時空間忍術の類ではないことは確かなので、感知は可能だと思います」

「そうか……だが、注意は必要だな」

 

 ゼツの能力を知った時は不安を覚えていた綱手だったが、感知ができると聞いてほっと一安心したように胸を撫で下ろした。その後すぐに気を持ち直して警戒心を持ち直し、暁が壊滅するまでは里の感知結界の警戒度を最大にまで上げておくことを決めた。

 

 ゼツは暁の諜報戦を担っている重要な存在だが、現段階では知っていれば防げる程度の危険度でしかない。その存在を早めに知れたのは木ノ葉隠れの里としては幸運であっただろう。

 

「次は小南と呼ばれる女性についてです」

「小南だと……?」

 

 右近が小南の名を出すと自来也は口の中だけで小さく呟くようにその名を確かめた。

 自来也はかつての弟子と同じ名前だと考えていたが、この時点ではかつての弟子本人だとは気がついていなかった。

 

「この女性について分かっていることは少ないです。額当てなどもしていないので、所属していた里も判明しておりません。ただし、現在は暁のリーダーともども雨隠れの里で目撃情報がありまして、そこでは天使などと呼ばれているようです」

「他には紙を操る術を使うことしか分かってねぇ」

「紙だと?それは本当か?」

「ええ、事実のようです。天使という名前も背中に紙でできた翼を生やした姿が目撃されているからのようです」

「ぬぅ……」

 

 自来也が低く唸る。右近が語る特徴の全てが自来也の知るかつての弟子に当てはまってしまう。さらには、右近が見せている似顔絵から心なしかかつての面影があるように感じてしまっていた。

 自来也の知る小南は優しい少女であった。それが暁に入っているとは考えにくい。

 だが、どれだけ否定しようと思っても、これだけ特徴が一致していたら単なる偶然では片付けられない。

 

(一度、雨隠れの里に赴いて確認するべきだのぉ。いざとなれば、ワシの手で……)

 

 自来也が心中で覚悟を決めている間にも話は進み、右近はついに最後の人物──暁のリーダーであるペインについて語る。

 

「最後は暁のリーダーですね。偽名でしょうが、ペインと名乗っている男です。この人物も小南と一緒に雨隠れの里で目撃されております」

「どんな術を使うのかは全く不明だが、どうやら輪廻眼を持っているらしい」

 

 輪廻眼という言葉を聞いた皆が非常に驚いた。輪廻眼とは六道仙人が持っていたという伝説的な瞳であり、神話の中にしか存在が確認できていない御伽話のような代物というのが一般的な認識だ。

 それが実在して、それも暁のリーダーが持っていると聞き、皆は非常に驚いたのだ。

 

 だが、自来也だけは違う意味で驚いていた。

 なぜなら──

 

(似顔絵は弥彦の面影があるように感じる……だが、輪廻眼を持つということは長門なのか……?)

 

 先に紹介された小南と同じく、自来也のかつての弟子の中には輪廻眼を持っていた者もいたからだ。

 だが、似顔絵から感じる印象は長門、小南とともにいた弥彦の面影を感じさせるものだった。輪廻眼を持つから長門なのか、それとも、弥彦がなんらかの理由で輪廻眼を受け継いだのか。

 ともかく、ここまでくればもはや自来也も確信していた。暁の中に自身のかつての弟子が二人もいることを。

 

「綱手、悪いがワシは雨隠れの里に行かなくてはならんようだ」

「何……?どういうことだ?」

「小南とペイン、ワシの予想通りなら、この二人はワシのかつての弟子だ」

「!?」

 

 自来也の発言に綱手たちは声が出ないほど驚いた。それほど衝撃的な発言であった。

 その衝撃からいち早く立ち直ったのは自来也と付き合いの長い綱手であった。

 

「……そうか!雨隠れで弟子を取っていたなお前は。その時の弟子か?」

「ああ、おそらくはそうだ。そして、弟子が道を誤っているならそれを正してやるのが師であるワシの務め」

 

 自来也はかつて長門たちを鍛えていた時のことを思い出し、さらにそれよりも昔に大ガマ仙人から授けられた予知のことを思い出していた。

 大ガマ仙人から自来也に与えられた予言は自来也の弟子が忍界に大きな変革をもたらすというもの。それをかつての自来也は輪廻眼を持っていた長門のことだと捉えて、今はナルトのことだと期待している。

 実際に、どちらが予言の弟子なのかは不明だが、どちらにせよ、自来也の中で放置しておくという選択肢はなかった。

 

「待て!危険すぎる!」

「止めてくれるな綱手。これはワシがやらねばならんことだ」

 

 綱手は暁という強大な組織を束ねる存在の危険度は計り知れないと考え、自来也が行こうとするのを止めるが、自来也はそれを承知のうえで覚悟は決まっていた。

 

 二人のやり取りに、木ノ葉隠れの里に所属している忍たちは口を挟むことができなかった。

 だが、あえて右近が口を挟んだ。

 

「一人で行くつもりですか?死にますよ?」

「ふん!そんな脅しで止まるワシではないのぉ」

 

 右近の直球の忠告も自来也の意見を曲げる効果はない。

 もはや雨隠れの里に行って真実を確かめるまでは自来也は止まらないだろう。行き着く先がたとえ己の死であってもだ。

 

 自来也は原作通りに雨隠れの里に行き、かつての弟子に殺される。

 小南とペインの情報を話した右近と左近にとって、そんなことは予想できて当たり前のことだった。

 

 だからこそ、そこに一つの提案ができるのだ。

 

「では、私たちも行きましょう。私たちは所詮は分身ですが、戦闘と潜入の手伝いぐらいはできます。いざとなれば脱出のための囮にぐらいはなれるでしょう」

「まぁ、大概の場所には侵入できるとは思うぜぇ。戦闘の方も、正面からならともかく、補助だったらやれることも多いしなぁ」

 

 右近と左近の発言に異を唱えられる者はいない。現に火影のすぐ近くにまでバレずに潜入できたうえで、本体は尾獣になりかけたナルトを止めているのだ。諜報能力も戦闘能力も、味方であるならばこれほど頼もしい人物はそうはいない。

 

「……私もそれに賛成だ。お前一人で行く許可は絶対に出さんぞ」

 

 綱手が右近の提案に賛成し、そのまま両手を組んで指をポキポキと鳴らす。

 その行動の真意は「断ったら全身の骨を折って物理的に行かないようにしてやる」という無言の脅しだった。

 

「はぁ〜……分かった降参だ」

 

 自来也は付き合いの長さから綱手が本気だということを理解し、両手を上げて降参のポーズをとった。断じて綱手の風呂を覗いて生死の境を彷徨った経験を思い出したわけではない。

 

 こうして、右近と左近を交えた木ノ葉隠れの里での密談は終わった。

 

 自来也の雨隠れの里への出発はナルトの修行を見届けてからとなる。

 これは綱手とカカシの進言であった。これで最後かもしれないから、と。

 

 それが本当のことになるかはまだ少し先の話。

 

 その前に、角都と飛段が元守護忍十二士の地陸を求めて火ノ寺を襲ったという情報が木ノ葉隠れの里に入ってきたからだ。

 

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