音の四人衆最強の男   作:北山 真

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【番外編】三尾ルートの天地橋の戦い

 

 右近がナルトを挑発した結果、ナルトは怒り狂った。その怒りに呼応した九尾のチャクラをその身に纏ったナルトは右近へと殴りかかったが、右近はさらりと受け流し、ナルトはその勢いのまま森の奥へと投げ飛ばされた。

 投げ飛ばしたナルトを追って森の中へと入った右近は、仙人状態の感知能力でナルトの居場所へ向けて最短距離を駆け抜ける。

 

 そうして、右近は森の奥で赤いチャクラを纏ったナルトと対峙する。

 右近が視線を送る先にいるナルトは背中から三本の赤いチャクラの尾を生やして臨戦態勢をとっていた。

 

 ナルトは右近を視界に入れると瞬時に動いた。怒りに支配されて攻撃的になったナルトに待ちや様子見といった選択肢は無い。

 

「ガァァァッ!」

 

 獣のような雄叫びをあげて右近へ飛びかかるナルト。

 その飛び込みは鋭く速い。一瞬にして数十メートルの距離をゼロにして、右近の肉体を抉ろうと爪を立てた右腕を振り下ろした。

 武術の武の字もないただの引っ掻きだが、尾獣のチャクラにより強化されれば、人体を容易く切り裂く必殺の武器になる。

 

 目前にまで迫ったナルトに対して、右近は自身の肉体を抉ろうと迫るナルトの右手の軌道上に自身の左腕を無造作に挟み込んだ。

 

 その行動を見て、もらった──と、理性のないナルトは思った。腕を掲げただけの防御とも言えぬ行動ごと右近に致命的なダメージを与えられると確信したからだ。

 

 両者の手と腕が激突する。だが──

 

「……!?」

 

 ナルトの攻撃は完全に受け止められた。ナルトを受け止めた腕はその場から微動だにせず、怪我もない万全の状態で変わらずそこにあった。

 

 ナルトの怒りに満ちた表情が驚愕で固まる。

 だが、それは攻撃を受け止められたからではない。いや、それも十分に驚くべきことなのだが、それ以上に驚くことがあったのだ。

 

 ナルトが驚愕に固まった理由を察した右近が口を開く。

 

「どうした?止められたことに驚いたか?それとも……俺がチャクラの衣を纏ったからか?」

 

 右近が言うとおり、右近の全身はいまやナルトと同じように赤い半透明のチャクラで覆われていた。ただチャクラを身に纏っただけではない。それは間違いなく尾獣のチャクラを身に纏った時特有のチャクラの衣であった。

 それを証明するように右近の背後にもチャクラにより尾が形成されている。その数は三本。右近が対話により身に宿ってもらった三尾の磯撫が持つ尾の本数と同数である。

 

 そう、右近は三尾の人柱力になっていたのだ。

 

 

 


 

 

 

 二年半前、右近はさらなる力を求めた結果、柱間細胞による強化ではなく人柱力になることを選んだ。唯一封印されていない磯撫の下を訪れ、磯撫にかけられた幻術を解除した。

 そう、右近は驚愕したが、磯撫は幻術にかけられていたのだ。幻術をかけたのはうちはオビトであると右近は予想していた。それは磯撫の『面を付けた男の写輪眼で幻術をかけられた』という証言に裏付けられた予想ではあるが、原作での知識からしても十中八九間違いのないものだった。

 

 右近は原作では磯撫の話が少なかったので、いったいどうして湖のど真ん中で佇んでいたのか問うた。

 その質問に対して、磯撫は幻術を解いてくれたお礼として快く自らの来歴を教えた。

 

 磯撫の話を要約すると、元々は四代目水影のやぐらに封印されていたが、その時からすでにやぐら共々、仮面の男に幻術にかけられていた。

 やぐらは青という忍によって幻術を解除され、やぐらによって磯撫の幻術も解除された。その後、やぐらは自ら部隊を率いて暁を追って戦闘となった。

 敵対した暁のメンバーはうちはイタチと枇杷(びわ)十蔵(じゅうぞう)の二名。枇杷十蔵のことを知らない右近がその人となりを聞くと、磯撫も詳しくはないものの、彼は霧隠れの抜け忍であり、忍刀七人衆の一人で首切り包丁の使い手だったらしい。

 やぐらと磯撫は尾獣化までも使って暁の二人を追い詰め、ついには十蔵に致命傷を与えたが、そこでイタチの『天照』をくらって気を失った。

 そして、気がつけば磯撫はやぐらから引き剥がされ、『何も考えずに湖で漂え』と幻術にかけられた状態でぽつんと一匹、孤独に湖を漂わされていた。

 

 磯撫は知らないことであったが、この時、オビトは十蔵の遺体から暁の所属であることを示す指輪を回収すると同時に、気を失ったやぐらから三尾を引き剥がしてやぐらを殺した。

 しかし、三尾を捕獲したものの、外道魔像には一尾から順番に捕らえる必要があり、当然ながら彼は三尾を持て余した。

 そこで、オビトは三尾に『何も考えずに湖で漂え』という内容の幻術を定期的にかけることで、三尾を保持し続けていた。

 これが磯撫が湖に放置されていた真相であった。

 

 この話を聞いた時、右近はある疑問を持った。

 

 すなわち、どうやって人柱力に幻術をかけたのか、だ。

 やぐらは磯撫の力を完全に制御できる極めて高い実力を持った忍である。それは操られていたとは言え若くして四代目水影に就任できたことからも断言できたし、磯撫の証言によると、やぐらは磯撫の力を完全に制御できたらしいので、やはり相当な実力者だったことが分かる。

 それがなぜ、一方的に幻術にかけられてしまったのか。それに、原作でキラービーが披露したように、人柱力には幻術が通用しないはずなのになぜ通用していたのかも気になった。

 

 その疑問の答えを磯撫は説明した。

 まず、仮面の男は不意打ちでやぐらに写輪眼で幻術をかけた。当然、磯撫は幻術を解除しようとするが、それよりも早くやぐらの肉体に刻まれた封印術に接触することによって、仮面の男はやぐらと磯撫の精神世界に侵入した。そして、精神世界でやぐら共々幻術にかけられてしまった。

 

 右近はその説明に納得した。そのうえで、磯撫に一つの提案をした。

 

「もしも幻術を解除したことを恩に思ってくれるなら、一緒に協力して暁に、仮面の男に一泡吹かせないか?」

 

 そうして磯撫は右近の手を取った。右近が磯撫のことを自身の体に封印したことで、右近は三尾の人柱力となったのだった。

 

 

 


 

 

 

 右近に話しかけられたことで、ナルトは驚愕から解放され動きだす。

 

「……ウラァッ!」

 

 ナルトは受け止められた右手で右近の左腕を掴み、残った左手を握りしめて右近の顔面を打ち抜こうとする。

 しかし、そうやって殴りかかったナルトの左手を右近は残った右手でなんなく掴み取った。

 

 互いに片腕を掴み合った状態で、至近距離で睨み合う両者。

 

 ナルトは両腕が使えないならと、頭を大きく後ろに振りかぶって頭突きをしかけようとするが、そんな大きな隙を至近距離で見逃す右近と左近ではない。

 右近は右手を操って掴んでいたナルトの左手を手放し、素早くナルトの顔面を打ち抜いた。

 

「グフッ……!」

 

 ナルトは頭を後ろに下げていた状態だった。右近の攻撃は手打ちであり、全く体重の乗っていない打撃だったが、ナルトは体勢ゆえに衝撃を逃せず、口から空気を吐き出しながら体が後ろに流れる。

 

 ナルトの体勢をさらに崩した右近は、掴まれていた左腕を素早く動かして拘束を振り解く。そして、そのまま左腕を振りかぶり、ナルトの無防備な腹部に掌底を叩き込んだ。

 

「ガハアッー!」

 

 先ほどの軽い一撃とは違い、体重を乗せた重い一撃を無防備に受けたナルトの体がくの字に折れ曲がり、次の瞬間には弾かれるように吹き飛ばされていく。

 

 痛烈な一撃を叩き込まれたナルトだが、吹き飛びながらも空中でクルリと体を回転させて体勢を整えたのちに、四肢を地面に突き刺すようにしてブレーキをかけて勢いを殺そうとする。

 ナルトの目論見通り、ズザザザ──と地面に四つの轍を刻みながら数メートルほど進み、ようやく止まった。

 

「グルルッ──」

 

 牙を剥き出しにして低い唸り声をあげて右近を睨むナルト。四肢を地面につけている姿勢と合わせて、まるで本当に獣になったかのようである。

 

「ガアァッ!」

 

 ナルトが雄叫びをあげて再び右近へと襲いかかる。先ほどの一撃は大したダメージになっていなかったのか、その動きに翳りはない。

 それどころか徐々に力を増しているようで、一度目の攻撃よりも動きが速い。

 

 だが、その直線的な動きは右近には通用しない。

 

 ナルトは右腕を大きく振りかぶりながら右近に突進し、右近の顔面に向けて固く握った右拳を叩き込もうとした。だが、右近はナルトの動きに合わせて素早く左にステップを刻み、それによりナルトの右拳は無念にも空を切った。

 見事にナルトの攻撃を躱した右近は、さらにステップを刻んでナルトの右脇腹を左拳で殴った。

 

「グフッ──ガアァッ!」

 

 腹部を殴られたことで息を漏らして一瞬だけ動きが止まったナルトだったが、すぐに反撃に転じる。

 ナルトは自身の右側にいる右近目掛けて左腕を伸ばしながら半回転し、遠心力を乗せた一撃を叩き込もうとする。

 

 その一撃を右近はしゃがむことで難なく回避し、そのまま右足を伸ばして反時計回りに半回転しながらナルトの足首付近を勢いよく蹴った。

 足首を蹴られたナルトの足がほんの少し地面から浮かび上がり、そうやって踏ん張れなくなったナルトに向けて、右近はさらに半回転して遠心力を十分に乗せたハイキックをナルトの顔面目掛けて叩き込もうとする。

 その動きを見たナルトは顔に向かってきた右近のハイキックを防ぐために、急いで両腕を顔の前で構えた。

 

「フンッ!」

「グウゥッ──!」

 

 間一髪防御は間に合ったナルトだったが、地に足のついていない状態では踏ん張ることもできず、勢いよく吹き飛ばされていく。

 遠心力を利用したハイキックの威力は途轍もなく、ナルトは地面と並行に数十メートルも吹き飛んだ勢いのまま木にぶつかるが、ナルトがぶつかった木はその衝撃を受け止めきれずにへし折られ、そのままナルトは次々に木をへし折りながら森の奥に消えていった。

 

 自身のハイキックで吹き飛ばしたナルトの姿を見送った右近。だが、右近は自身の為した成果を誇るでもなく、一切の油断なくナルトが消えていった森を見つめながら心中で左近と磯撫に話しかけていた。

 

(やはり、と言うべきか……ただの打撃ではいくら打ち込んでも有効打にはならないようだ)

(そうだなぁ……今の一撃、仙術チャクラと磯撫のチャクラで強化はしていたが、大して効いてないだろうなぁ)

(ボクもそう思うよ)

 

 右近の予想に左近も磯撫も同意した。

 その予想は違わず、仙人状態の右近が持つ優れた感知能力が森の奥から爆発的なチャクラの高まりを感じ取った。もちろん、感じ取れたチャクラは九尾の禍々しいものであり、量と質、ともに先ほどまでとは比べ物にならないほど高まっていた。

 

 その強大な九尾のチャクラに対抗すべく、右近もまた人柱力としての力をさらに発揮しようと磯撫に語りかける。

 

「磯撫、もう少しお前の力を借りるぞ」

(うん。いいよ)

「ハァ──」

 

 磯撫の許可を得た右近が気合いを入れて磯撫のチャクラをさらに引き出す。右近が磯撫のチャクラを引き出していくにつれて、右近の血肉がペリペリと剥がれ落ち、その分、その身に纏っていた半透明の赤いチャクラの色が色濃くなっていく。

 数秒で中が全く見通せないほど色濃くなり、禍々しくなったチャクラは右近を覆い尽くして球状のチャクラの塊に変貌し、そして──

 

「ハアッ!」

 

 さらに気迫を込めた瞬間、ドス黒いチャクラの球体は内側から弾けるように吹き飛び、その中からその身を怪物へと変えた右近が現れた。

 右近の全身は一片の隙間もなくドス黒いチャクラに覆われており、唯一黒くないのは目と口だけだが、その目と口も白い塊が辛うじてそう見えるようになっているだけであった。さらには、その背中からは三本の尾が生えてゆらゆらと揺れていた。

 

 右近が変化した姿はキラービー曰く『バージョン2』。人柱力が宿す尾獣の力を人型を維持したまま限界まで引き出した姿である。

 だが、キラービーが使っていた『バージョン2』と右近の『バージョン2』では大きく異なる点があった。

 

 それは、尾獣のチャクラに途方もない量の仙術チャクラが混ぜ込まれていることだ。

 元を辿れば尾獣とは十尾から分たれた存在であり、その十尾は超自然的な存在や自然エネルギーの塊と言われるほどである。つまり、十尾から分たれた尾獣もまた自然エネルギーとの相性は抜群に良い存在なのだ。

 ゆえに、この状態の右近は普段よりも、『バージョン1』よりもさらに多くの仙術チャクラを生成し、その身に纏っていた。

 

 そうして万全な戦闘態勢を整えた右近が待ち構える場所に、森の奥からナルトがゆっくりと近づいてきた。ナルトもまた背中から四本の尾を伸ばした『バージョン2』になっているが、二人の姿、というよりも姿勢が大きく異なっていた。

 

 右近は姿こそ怪物のそれだが、二本足で立ち上がり両腕を前に構えている姿勢はしっかりと人と分かるものである。しかし、ナルトは両腕を地につけて四足歩行でのそのそと歩いており、その姿勢はまさしく獣であり、人柱力の情報を知らぬ者が見たら人ではなく怪物だと判断してしまうであろう姿であった。

 

 両者ともに尾獣の力を使う者でありながら、人と獣として相対する両者。

 

 自分と同じ力を使っているのを本能的に感じ取って警戒しているのか、ナルトは先ほどまでのように右近に向かって飛びかかることはせず、様子を見るように右近を中心に円を描くようにゆっくりと歩く。

 

「来ないならこっちから行くぞ」

 

 ナルトが向かって来ないのを把握した右近は呟き、逆に自分からナルトに対して仕掛ける。

 

(左近)

(おう……軽重岩の術!)

 

 心中で左近へ呼びかけた右近。それに応じて左近は素早く『軽重岩の術』を発動し、右近の肉体を羽のように軽くした。

 次の瞬間、恐ろしく軽くなった肉体を『瞬身の術』により瞬間的に加速させた右近は、一瞬にして四足歩行するナルトの側面へと移動して拳を振り上げていた。

 

「!!?」

 

 まるで瞬間移動したかのように、突如として自身の真横に右近が現れたのにナルトは驚く。しかし、理性が蒸発しているがゆえに本能的に動く今のナルトは、驚きながらもすぐさま反応する。

 

「ガアァッ!」

 

 四足歩行の状態で両腕と両脚を一瞬のうちに全て同時に動かし、爆発的に加速して右近へと噛みつこうとするナルト。

 

「フッ──」

 

 本当に獣になってしまったような動きに対して、右近は笑った。

 その笑いはナルトの動きが獣のごときものになってしまったことに対してではない。むしろ、ある意味ではその逆。今のナルトならば獣のように高速で反応するだろうという予想が的中し、ナルトの動きを誘導できたことによる笑みだった。

 

 九尾のチャクラによって作られた鋭い牙が右近に届く寸前、ナルトの視界から右近の体が掻き消える。

 

 そもそもの話になるが、右近と左近による連携ならば、『軽重岩の術』による高速移動から攻撃の瞬間に『加重岩の術』に切り替えることなど造作もないことだ。それこそ、その動きは二年半も前から可能な技である。

 にも関わらず、ナルトのすぐ側で一瞬止まったのは何故か、それはナルトの反撃を誘うためにわざと見せた隙でしかなかった。

 

 そうして、見事にナルトの動きを反撃へと誘導した右近は、解除していなかった『軽重岩の術』の軽さを活かして高速で移動してナルトの目の前から一瞬で消えて、再びナルトの側面をとった。

 無防備な姿を晒したナルトに対し、今度こそ右近と左近の連携攻撃が炸裂する。

 

(超加重岩の術!)

「珊瑚掌!」

「!?──グハァッ!?」

 

 目の前から標的が消えたことに戸惑うよりも早く、ナルトの背中に凄まじい衝撃と痛みが走り、地面へと叩きつけられた。『軽重岩の術』により加速し、打撃の瞬間に『超加重岩の術』によって超重量が足されたことにより、ただでさえ仙術チャクラと磯撫のチャクラにより高まっている攻撃力がさらに高まり、ナルトを叩きつけた地点を中心にして、地面に巨大なクレーターを作り上げた。

 さらに、右近が打撃の瞬間に発動していた『珊瑚掌』という術により、クレーターの中心にいるナルトの背中には大きな珊瑚が生み出されており、ナルトの動きを封じ込めていた。

 

「グ、グァァ……!?」

 

 痛みに喘ぎながらも身を起こそうとするナルトだが、肘や膝といった関節部、さらには尻尾の根本などに珊瑚が生えており、上手く動かずにすぐには立ち上がれない。

 無論、その程度の珊瑚など、九尾のチャクラにとっては大した障害にはならず、数秒もあれば拘束を外せるだろう。

 

 だが、右近たちを相手にしている時、その数秒は命取りになる。

 

「アレをやるぞ」

(了解!)

(うん!)

 

 次の攻撃を行うために、『超加重岩の術』を解除して身軽さを取り戻した右近は身動きが取れないナルトを前にして大きく距離をとった。そして、磯撫から更なるチャクラの供給を受けた。

 磯撫からのチャクラを追加されて『バージョン2』になっている右近の肉体にさらなる変化が生じる。

 

 その身に纏う赤黒いチャクラが大きく肥大化していき、肉体は二回り以上大きくなる。それだけでは変化は終わらず、磯撫の持つ莫大なチャクラをより高密度に圧縮して押し固めることにより、背中から三本の尻尾の先まで白い甲殻を模した骨格が形成された。

 

 巨大化し、赤黒いチャクラの肉体に白い甲殻を持つ状態へと変化した右近は、頭の天辺と尻尾の先をくっつけるように体を丸めて、外側は白色で内側は赤色の棘の生えた巨大なタイヤのような姿になった。

 その姿を木ノ葉隠れの忍が見たなら、きっとこう言うことだろう──「まるで秋道一族の秘伝の『倍化の術』とそこから繰り出される体術『肉弾針戦車』みたいだ」と。

 とは言え、右近たちは『肉弾針戦車』を参考にしてこんな状態になっているわけではなく、磯撫にはもともと『影撫で』という『肉弾針戦車』と酷似した体術があっただけである。

 

 紅白色のタイヤとなった右近は、その巨体からは想像もできないほど勢いよく回転し、クレーターの縁をぐるぐると周り始める。一周、二周、三周と、クレーターの縁を回るほどに右近の速度は増していく。

 

「グ、グググ……」

 

 もちろん、その動きを止めようとナルトはさらに九尾のチャクラを引き出して拘束具の役割を果たしている珊瑚を壊そうともがいていた。九尾のチャクラに耐えきれず、パキリ、パキリ、と徐々に珊瑚にヒビが入って壊れていく。

 ナルトがあとほんの少しで自由になれるというところで、右近たちは遂に攻撃を開始する。

 

 高速回転してクレーターの縁を周っていた軌道が変わり、ナルトに向けてクレーターの坂を転がり落ちていく。

 白い棘がガリガリと地面を削り、クレーターに深い轍を刻み込みながらナルトへと急速に接近し、そのままナルトを轢き潰して高速で駆け抜けていき、いきおいのまま再びクレーターの外周を周り始めた。

 

「グゲェッ……」

 

 巨体に轢き潰され、クレーターの中心で地面に埋まって苦悶の声を漏らすナルト。それはまさしく車に轢かれたカエルのような無様な姿ではあるのだが、まだナルトの戦意は衰えていない。

 

「グゥ……!」

 

 ナルトは地面に埋まった体を起こし、ブルブルと震えて体についた土砂を振り払う。そのまま立ちあがろうともするが、それよりも早く再び右近が襲いかかる。

 

 立ちあがろうとしていたナルトを再び地に伏せさせるように、右近がナルトを轢き潰して駆け抜ける。

 さらにさらに、二度、三度、四度──右近は縦横無尽にクレーターを転がりながら駆け抜け、何度も、何度も、執拗にナルトを轢き潰していく。

 

 何度ナルトを轢いただろうか。もはやクレーターの中には右近が駆け抜けた轍が刻まれていない地面がないほどにクレーター中を往復し続けた。

 ナルトは何度も轢き潰されたことにより肉体の全部が地に埋まるほどだった。

 

「グ…………」

 

 だが、何度も潰されたのにも関わらず、ナルトにはまだ息があった。

 いや、息があるなどという状態では無い。

 

「ヴアアァァァッ!!」

 

 ナルトが吠える。幾度も踏み潰され、手足は関節が増えたように複雑に折れ曲がり、内臓も傷ついていたのか口から血反吐を吐きながら、それでも戦闘を続けようと必死に立ちあがろうとする。

 その身に纏う九尾のチャクラで外側から圧力をかけて無理矢理に骨の位置を修正し、うずまき一族特有の生命力の高さと九尾のチャクラにより傷ついた骨や内臓を癒そうとする。

 

「グルル……!」

 

 喉を鳴らしながら怒りに身を震え上がらせるナルト。その怒りに呼応して九尾のチャクラはさらに増大し、尾の数を五本に増やしながら右近を睨みつける。

 

「あれでも致命的なダメージにならないか……流石にタフすぎるな」

 

 右近は回転移動をやめ、クレーターの縁に立ってナルトを見下ろしながら呆れた様子で呟いた。

 

「グルラアアァァッ────!!!」

 

 右近の余裕そうな態度が癪に触ったのか、ナルトが天を仰いで吠えた。その声量は凄まじく、ある程度距離の離れているはずのヤマトたちですら咄嗟に耳を押さえてしまうほどの轟音だった。

 

 そして、ナルトは本能のままに、右近を殺すための攻撃を放つ準備を始める。

 ナルトは咆哮して天を仰いだ姿のまま、九尾のチャクラを急激に溜め込み、圧縮し、自身の肉体よりも二回りも大きな球体を作り出していく。

 準備している術はもちろん、尾獣たちが誇る最強の攻撃方法『尾獣玉』である。

 

「そうくるか、なら……左近、磯撫、俺たちもやるぞ!」

(了解!)

(うん!いくよ!)

 

 ナルトの『尾獣玉』に対抗するべく右近たちは協力して『尾獣玉』の準備を進めていく。

 ただし、ただの『尾獣玉』ではない。ただの『尾獣玉』ならば磯撫のチャクラを借りれば右近、左近のどちらか一人でも『尾獣玉』を放てる。

 だが、半分にされているとはいえ相手は九尾。ただの『尾獣玉』では相殺しきれない可能性があった。

 ゆえに、右近、左近、磯撫は協力し合い、より強力な『尾獣玉』を放とうとしていた。

 

 右近、そして右近の肉体から左近が両腕を突き出し、計四本の腕が突き出される。

 その腕を通して、磯撫が自身の尾獣のチャクラを放出し、『尾獣玉』の中核をなすチャクラの球体を作り上げる。

 そこに右近が仙術チャクラを加えながらチャクラを乱回転させ、『尾獣玉』の破壊力を高めながらも形を安定させていく。

 さらに左近が性質を水へと変化させたチャクラを足していくことにより、本来漆黒のはずの『尾獣玉』が僅かに青く染まる。

 

 これこそが右近、左近、磯撫の全力。完全な協力関係を築いた二人と尾獣が織りなす三位一体の奥義。

 

「仙法・水遁・尾獣玉螺旋丸!!」

「ガアァッ!!」

 

 右近たちとナルト、両者が作り上げた『尾獣玉』が放たれ、激突した。

 両者のちょうど中間地点で激突した二つの『尾獣玉』。その衝突音はもはや音としして認識できず、空気の壁として森を蹂躙していく。

 さらに、激突の衝撃により、ただでさえ抉れてクレーターとなっていた地面はより深く、より広範囲に弾け飛んだ。

 

 森と大地に深い傷を負わせながらも、二つの『尾獣玉』たちはただ衝突しただけであり、いまだどちらの『尾獣玉』も本来の破壊力を出し切ってはいない。

 

 互いを破壊しようと押し合う二つの『尾獣玉』。

 その大きさはほぼ互角。だが、力は互角ではなかった。

 

 徐々に、だが明らかに押されていく一方の『尾獣玉』。当然、ナルトが撃ち放った『尾獣玉』である。

 仙術チャクラに加えて形態変化、性質変化まで追加した右近たちの『尾獣玉』の力は強力無比。いくらナルトが最強の尾獣である九尾の人柱力といえど、九尾は封印時に半分にされ、表に出ているチャクラも尾の数が五本分と、全力の出しきれていない状態であれば、この結果は当然の帰結だった。

 

 ナルトが作り上げた『尾獣玉』がその威力を失い、霧散するように吹き飛んだ。

 その結末に狼狽する暇もなく、ナルトに向けて『仙法・水遁・尾獣玉螺旋丸』が直撃した。

 

 直撃した『仙法・水遁・尾獣玉螺旋丸』はナルトの『尾獣玉』との激突により威力が落ちているものの、いまだに十分な威力を溜め込んでいた。そして、水の性質変化を加えられていたことにより、爆発という形で熱を周囲に撒き散らさない代わりに大量の水が一点から放出され、激流となって世界を蹂躙していく。

 

 まず、『尾獣玉』同士の衝突音とは比べ物にならないほどの轟音が世界を蹂躙した。音は再び空気の壁となり、森の木々を根こそぎ刈り取る勢いでへし折り、吹き飛ばしていく。

 その後を追うように莫大な量の水流が暴れ狂う。その勢いは凄まじく、地面を広範囲に削り飛ばし、先ほどまであったクレーターを完全に飲み込み、それでもまだ拡大していく。水流が流れるのは地面だけではない。水は遥か上空にまで噴水のように噴き上がり、やがて空に虹を掛けながらゲリラ豪雨も可愛く見えるほどの雨となって降り注いだ。

 

 数十秒が経過し、水の勢いがある程度落ち着いたころには、かつて森だったとは到底思えない光景が広がっていた。

 

 地面が削られて作り上げられた半径百メートルはあるだろう巨大な半球状のクレーターとなり、そこには大量の水が注ぎ込まれたことにより、湖と呼べるほどの巨大な貯水池となっていた。さらに、その周辺では森の木々は広範囲にわたってへし折られた木々が重なり合って倒木の山が築かれていた。

 

 たった一回の攻撃により原形すら残さぬほど自然が破壊され尽くされた湖。水しかない、植物も動物も、そして人影すらもない。

 そんな湖の中心でぶくぶくと泡が弾ける。泡はじわじわと数を増やし、より大きくなっていく。やがて泡の発生頻度がピークに達した瞬間──ザバアッと水飛沫を派手に飛び散らせながら何かが湖の中より飛び出してきた。

 

 飛び出してきたものの正体、それは『バージョン2』を解除した右近だった。

 

「はぁ……自分でやっといてなんだが、ちょっとやりすぎたな」

 

 チャクラを足から放出して水面に立ち、水に濡れた髪を片手でかき上げながらぼそっと呟く右近。その肩には『尾獣玉』の直撃をくらって気絶し、『バージョン2』も解除されたナルトの姿があった。

 右近は仙人能力の感知能力でナルトが気絶して湖の底に沈んでいたのを感じ取ったので、潜水して回収していたのだ。

 

 そうやって回収されたナルトの体は無事なところがないほどにボロボロであり、見るも無惨な姿を晒していた。

 今のナルトを放置すれば、いくらナルトが尋常ではない回復力を持つとしても、数分で死に至るだろう致命的な傷を負っていた。

 

 だが、この時点でナルトを死なせるつもりは右近にも左近にもなかった。

 

「左近、ナルトの傷の具合はどうだ?」

「応急処置は終わったぜぇ……後はこいつの回復力次第だが……まぁ、うずまき一族だからな、しばらくすれば動けるようになるだろう」

 

 右近の言葉に反応した左近がナルトの肉体から這い出ながら報告した。

 右近と左近は湖の底に沈んでいたナルトの傷が深いことを認識した後、すぐさま左近が『双魔の攻』によりナルトと融合することで、内側から治療を施していたのだ。

 ナルトと融合した左近は、折れたりズレたり傷ついたり捻じれたりしていた内臓や骨、血管や筋肉などの位置を矯正した後に、細胞同士を融合させることで傷口を塞いでいた。

 重傷と思われるものから重点的に治していたので、細かい傷は治せていないものの、うずまき一族であり九尾の人柱力でもあるナルトの呆れるほどの生命力ならば、自然治癒だけで回復可能な範囲にまで治療ができていた。

 

「そうか、ならいい……帰るぞ」

「おうよ」

 

 左近が再び右近と融合し、帰還のために動き出す。

 

 三尾の人柱力と九尾の人柱力。今回の人柱力同士の戦いは三尾の人柱力である右近とその相棒である左近の勝利で幕を閉じた。

 

 

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