番外編も含めてですが、本作もついに合計二十話にまで到達しました。
ここまで続けてこられたのは皆様の応援のおかげだと思っております。
おかげさまでUAは六十万を超え、お気に入り登録も八千五百人も超えました。平均評価も8.75と非常に高く評価していただけて、本当にありがとうございます。
誤字訂正や感想も非常に助かっております。
これからも皆様に楽しんでいただけるように頑張って書いていきますので、引き続き応援のほどよろしくお願いします。
火ノ寺が襲撃されたという報告が木ノ葉隠れの里に知らされた。
襲撃者は二名。服装と顔の特徴から、暁の角都と飛段だと考えられた。
その知らせに憤りを感じていたのはアスマだった。
火ノ寺にはかつて所属していた守護忍十二士で同僚だった地陸がいた。
地陸は裏の世界で三〇〇〇万両の賞金首であり、角都と飛段が換金所で目撃情報があったことを考えれば、火ノ寺がなぜ襲われたのかは火を見るよりも明らかだった。
人の命を金としか見ていない角都と飛段の所業に、アスマはどうしようもなく憤りを感じずにはいられなかった。
角都と飛段が火の国に現れたという知らせを聞き、すぐに綱手は部隊を編成して各地の換金所へと警邏に送り出した。
すでに各部隊には角都と飛段に関する右近と左近が与えた情報を情報源を自来也だと誤魔化して渡してあった。
そして、なんの因果か、原作通りにアスマが率いる小隊が換金所の前の階段に座り込んでいる飛段を発見した。
アスマ小隊は隊長の猿飛アスマ、奈良シカマル、はがねコテツ、神月イズモの四名で構成されている。
アスマたちは飛段に見つからないように監視しながら潜伏し、近くの小隊に暁発見の報告を入れた後に、四名は小声で簡単に作戦会議を行う。
「どうする?今一人の間に仕掛けるのか?」
「ああ、ただし深く踏み込むな。相方は必ずすぐ近くにいるはずだ。奇襲で一人殺せたら完璧。そうでなければ足止めして他の部隊が到着するのを待つ」
シカマルがアスマに方針を聞くと、アスマはすらすらと答えた。
「まずは俺が相手の注意を引く、その隙を狙ってシカマルが影真似の術を、コテツとイズモも同時にしかけろ」
「「「了解」」」
「うし、じゃあ行くぞ」
角都が戻ってくる前に飛段にしかけるため、手早く作戦会議を済ませたアスマたちは一瞬で散開して飛段から隠れながらすぐに取り囲めるように配置に付いた。
一呼吸の間を空けて、アスマが飛段へとしかける。
飛段の後方十メートル以上離れたところでアスマがわざと足音を立てて注意を引く。
「角都、遅かったな……!」
足音を角都のものだとばかり考えていた飛段は後ろを振り返るが、そこにいたアスマを見て一瞬驚きから固まる。
飛段は全身をバラバラにされても死なないほどの不死性を持つがゆえに、人間として本来あるべき危機感が欠如していた。だから、アスマに背後を取られても気が付かなかった。
アスマは飛段の反応が鈍いと思い、さらに注意を引くために手裏剣を数枚取り出して飛段に勢いよく投げつけた。
「……!」
その手裏剣を見た飛段の反応は速かった。先ほど背後を取られた鈍感さはどこへ行ったのかと言いたくなるほどに素早い動きで立ち上がりながら背中の大鎌を抜き放ち、鎌の部分と柄から伸びた太いワイヤーの部分で手裏剣を弾いた。
飛段は危機感は欠如しているから鈍い。それは欠点だが、だからこそ恐怖に駆られることなくすぐに動ける利点にもなっていた。
「くっ……」
弾かれた手裏剣の何枚かはアスマに向かって跳ね返ったので、アスマは回避に専念する。
それを見た飛段は大鎌を投げ飛ばしてからワイヤーで操作し、大鎌をアスマの頭上から降らせた。
三つの刃が付いた大鎌がギロチンのようにアスマの脳天を狙って迫るが、アスマはそれを余裕を持って回避した。
大鎌が建物のコンクリートに対して突き刺さった瞬間、飛段の手から武器が無くなったと判断して隠れていた三人が一気に動き出した。
コテツとイズモが飛段を挟み込むように飛び出し、同時にシカマルが『影真似の術』を飛段にかけた。
飛段がコテツとイズモの持つ大ぶりな剣から逃れようと動こうとした時にはすでに『影真似の術』により飛段は身動きできない状態だった。
グサリッ──と飛段の肉体に二振りの刃が深々と突き刺さる。コテツとイズモの手に剣を通して肉と臓器を断った生々しい感触が伝わってきた。
「まずは一人」
暁の構成員に対して明らかな致命傷を与えたことで、アスマたちの皆の中に安心感が生まれる。
だが、気を抜くのは早い。
「痛てぇ……なんだテメーらは?」
「「「「!?!?」」」」
致命傷を受けたはずの飛段が平然と言葉を発したのを聞いてアスマたち全員が驚愕する。
「どういうことだ!?急所は貫いたはず……!?」
「グリグリすんな」
イズモが確認するように刃を動かしたのが痛かったのか、飛段が文句を言った。
明らかに異常な光景を前にして、アスマたちは動けない────わけがない。
「ッ……!」
飛段の不死性を確認したアスマはすぐに動いた。どういう仕組みで飛段が死なないのかは分からない。だが、シカマルの『影真似の術』で動きを封じている間に仕留めるしかないと判断した。
不死身という想像の埒外の存在が目の前にいるのだ。この飛段がこれ以上の術を持っていても不思議ではない。
アスマはポーチから取り出したナイフとメリケンサックが融合したような独特な形状をしたチャクラ刀を両手に装着し、風の性質のチャクラを流し込むと、薄く鋭い風の刃がチャクラ刀から伸びる。
「あっ、ちょっ……!?」
そして、飛段には抗う隙も、遺言を言い残す時間すら与えずにチャクラ刀を横一線に振り抜き──その首を跳ね飛ばした。
てんてんてん……と飛段の頭部が地面に転がる。飛段の肉体からは力が抜けて、コテツとイズモの剣を支えとして辛うじて立っている状態になる。
「アスマ……!?」
シカマルは恩師の行動に驚きを隠せない。声こそ出していないがコテツとイズモも同じ気持ちだった。
アスマのあまりにも殺意に満ち溢れた行動に戸惑う三人だったが、すぐにその行動が正しいものだったと思い知ることになる。
「痛ってぇなぁ!チクショウがっ!!何いきなり首切ってやがるんだ!ああ!?」
「首だけで喋ってやがる……」
首だけになった飛段が喚き続けるのを見て全員が驚きを通り越して呆れてしまう。首だけになっているのにもかかわらずに話せる原理も分からないが、それ以上にどうやれば殺し切れるのか想像もできなかった。
「俺もここまでとは思わなかったが、こいつら暁に常識は通用しないと思え。もう一人もいるんだ。仕留める絶好の機会を逃すな」
アスマは過去に右近左近と戦って苦い経験をしたことで、自身がぬるま湯に浸かっていたことを自覚した。
アスマは第三次忍界大戦を生き延びた猛者である。その時の活躍もあり、火の国の大名を守護する重要な役目を担っていた守護忍十二士にも選ばれた。
だが、最近は大きな戦も少なく、シカマルたちの担当上忍となってからはシカマルたちに合わせた難易度の任務が多くなっており、さらには夕日紅と良き仲になった。
日々成長するシカマルたちを見守り、私人としても良きパートナーを得て幸せになった。
それが悪いわけではない。だが、その結果、いくら強いとはいえ若年の右近と左近に足元を掬われ、危うく大切な部下たちを死なせるところだった。
ゆえに、アスマはこの二年半で肉体や術を鍛え直し、高難易度の任務を受けて心を研ぎ澄ませた。一度掴んだ幸せを壊されないために。
今のアスマに油断も隙もありはしない。
ゆえに、アスマは自身の後方に新たな気配が現れたのを察知した瞬間、いまだに地面で喚き続ける生首を無視して、背後を振り返りつつチャクラ刀を振り抜いた。
ギャリィンッ──と金属音が響き、振り切られたチャクラ刀はアスマの背中に迫っていた黒く染まった腕を弾いた。
「チッ……やるな貴様」
「距離を取れお前ら!」
アスマの背後から奇襲した角都は失敗したことに舌打ちして、続いて自らの奇襲を防いだアスマを褒めた。
角都は換金所から出てすぐに飛段がやられていることに気付き、飛段に夢中になっている木ノ葉隠れの里の忍を奇襲することに決めた。
小隊の中でも一番厄介そうなアスマを不意打ちで仕留めようとしたのだが、角都の予想以上にアスマの反応が良かったせいで、致命傷を与えるつもりが完全に失敗してしまった。
一方で、角都に褒められたアスマはすぐに仲間に指示を出して距離を取らせた。
本来なら四対一の状況で下がる必要はないように思えるが、情報通りなら角都は基本性質変化を全て使える万能な忍であり、その強さは未知数。
アスマはひとまずは様子を見て、手に負えないと判断したら撤退するつもりであった。
「判断もいい……俺の相方とは雲泥の差だな」
「おい角都!誰の判断が悪いって!」
「首を切られた状態で言われてもな……」
アスマの判断を角都は上から目線で褒めながら相方である飛段を貶した。
飛段は角都に抗議の声をあげるが、首と胴を分けられた人間の判断力が高いと言う人間は世界中探してもいないだろう。
「頼むからよぉ、さっさと助けてくれよ角都ちゃんよぉ!」
「うるさい奴だ……」
飛段が角都に助けてくれと頼み込むと、角都は面倒くさがりながらも飛段の頭を掴み、支えを失って倒れ伏していた飛段の胴体と首の断面をくっつけようとする。
だが──
「むっ……」
「なんだよ角都!頼むからさっさとしてくれよ!」
「ああ……」
困惑した様子の角都に飛段が再び頼み込むと、角都は飛段に言われるがままに体から黒い繊維状の物質を生み出し、飛段の首と胴体を繋ぎ合わせた。
角都の禁術『
だが、それも完璧ではない。
「おい角都!なんか首がグラつくんだけど!?ちゃんとくっつけろよな!」
「文句なら首を切ったやつに言え。切断面をそこまで荒らされると今ここで完璧に繋げるのは無理だな」
飛段の繋げ直してもらった首が叫ぶたびにぐらぐらと前後左右に揺れる。そのことに対して飛段と角都が言い合っているのを見て、アスマは保険が効いたことに一安心していた。
かつてアスマは右近の足を切り落としたが、右近は『双魔の攻』を応用してその場で接着した。
それはアスマの風遁のチャクラ刀が切れ味が良すぎたせいで切断面が非常に滑らかで綺麗であり、細胞の損傷が極めて少ないから起きた現象であった。
その時の経験を教訓にして、アスマは風遁のチャクラ刀に変化を加えた。
前までのチャクラ刀は風同士を擦り合わせて鋭い刃を形成するイメージだった。
今はそれに付け加えて、擦り合わせた風が刃の表裏で乱気流が渦巻くイメージになっている。
その結果、チャクラ刀の切れ味はそのままに、刃が通過した後に乱気流が傷口をズタズタに引き裂くようになっていた。
そうやってめちゃくちゃに広げられた傷口は縫合が極めて難しく、自然治癒もしにくくなっていた。
飛段の傷口もそうだった。角都は無理矢理に『地怨虞』を伸ばして繋いだが、肉が足りないせいで中途半端にしか接着できず、飛段が動くたびにぐらぐらと首が揺れる状態になっていた。
「さて、どうするかな……」
しかし、飛段に有効な手傷を与えてなおアスマの警戒は緩まらない。それほどまでにアスマは角都という存在を脅威だと認識していた。
そして、その認識は正しい。
「仕方ない……手早く片付けるとするか」
飛段の戦闘能力が落ちたことを理解した角都は本気で戦うことを選択した。
火の国という木ノ葉隠れの里のテリトリーの中で発見された以上、じきに援軍が来るのは確実だと角都は考えていた。援軍が来ても勝つ自信はあったが、無駄なことに時間を費やしたくもなかった。
角都は暁の外套を投げ捨て、背中にチャクラを集中させる。
「うおおぉぉっ!!」
角都が気合を入れて叫ぶと、ズルズルズルズル!!────と角都の背中から『地怨虞』が噴水のように噴き出し、四方に飛び散って墨汁をぶちまけたように地面を黒く染めあげた。
「何だ!?」
「あ〜あ、残念だったなお前ら。もうまともには死ねねえぜ」
アスマたちが困惑する中、飛段はこれから起きる惨劇を予想してアスマたちを憐れんだ。
飛段は相方の角都をちゃん付けで呼ぶなどふざけた態度を取ることもあるが、角都の強さを認めている。
その角都が本気で戦う気になっていた。その時点で、飛段から見た木ノ葉隠れの里の忍たちの命は風前の灯。自らが鬱憤を晴らすまでもなく無惨な死に様を見せるだろうと考えていた。
角都が生み出した『地怨虞』は地面に飛び散った後、寄り集まって人と獣が混ざったような姿をした四体の怪物となった。
『地怨虞』で形作られた怪物は全身が真っ黒な繊維で構成されているが、ただ一点、人であれば顔がある位置に白い仮面が付けられており、それが一層に得体の知れない怪物という印象を強めていた。
そして、暁の手勢が四体増えたということは、この場での人数差がひっくり返されたということ。
怪物一体ごとの強さはまだ分からないが、アスマたち木ノ葉隠れの里の忍たちは、自分たちが一気に窮地に立たされたことは分かっていた。
アスマたちが怪物の動きに注目している時、不意に角都の目線がアスマが腰に付けている火の文字が書かれた布にいった。
「飛段……今回はお前に金の縁があったようだな」
「んあ?……ああ、またクッセェ換金所に行かなきゃなんねえのかよ……」
角都の言葉を聞き、その目線を追った飛段がうんざりした様子で呟いた。
アスマは地陸と同じ元守護忍十二士の一人。その首には地陸よりも五百万両も高い三千五百万両の賞金がかけられていた。
換金所は里に所属しているような真っ当な忍たちからは見つかりにくい場所にあることが多い。先ほど飛段が角都に連れられていった場所はトイレの中の隠し部屋にあったため、もう二度と行きたくないと思っていた飛段だったが、アスマを殺せばまた行かなくてはいけないことにうんざりしていたのだ。
(換金所……地陸はすでに運ばれた後か……)
角都と飛段の会話を聞いたアスマの手に力が入る。だが、決して冷静さは失わない。
正面からの戦闘になった時点で、アスマたちの目的は倒すことではなく少しでも時間を稼いで他の部隊の到着を待つことになっている。すでに他の部隊に暁発見の報告はしてあるので、時間さえあれば次々に援軍が来るだろう。
逆に、角都の狙いは短期決戦だった。火の国の領内で木ノ葉隠れの里の忍に見つかった以上、援軍が来るのは角都にも当然分かっていた。
角都は援軍が来ても負けるとは思っていない。だが、その中でも苦戦を強いられる可能性はあるし、戦いの中で自身の情報も少なからず漏れるだろう。そうなると、本命の九尾の人柱力を確保する時に手間が増えるだろうと考えていた。
そのうえで、角都がアスマにかけられた賞金を得ようとするならば、アスマの死体は顔が分かる程度には損壊を控える必要があった。
角都が目指すのは手早く倒しながらアスマの死体だけは壊しすぎないようにすること。凄まじく難易度が高そうに思えるが、角都にはそれができるだけの実力が備わっていた。
「まずは……」
「……!お前ら俺の後ろに!」
角都がギロリッとアスマ以外の面々に視線を向けた瞬間、狙われているのが自分ではなくシカマルたちだと気付いたアスマが仲間へと声をかけた。
シカマルたちも自分たちが狙われていると察して、アスマの指示通りにアスマの背後に集結する。
「水遁・
アスマたちが一塊になった瞬間、角都が生み出した四体の『地怨虞』のうち二体のお面が口の部分をパカリと開き、同時に術を発動した。
口元が水色の面を付けた怪物が口から大量の水をスプリンクラーのように広範囲に拡散するように撒き散らし、口元が黄色の面を付けた怪物が口から青白く光る雷を吐き出した。
一つ一つの術でも脅威だが、二つの術は互いに影響を及ぼし、高圧電流を浴びた水飛沫となってアスマたちを襲う。
「チィッ……!」
強力な合わせ技を前にして、アスマはまず両手に握ったチャクラ刀を交差させるように振り抜いた。
すると、勢いよく振り抜かれたチャクラ刀の軌跡に合わせて風の刃が生み出され、そのまま感電水に向かって飛んで行く。
飛ぶ斬撃。チャクラ刀に纏わり付かせた風遁のチャクラを斬撃に合わせて飛ばす技だ。これは鉄の国にいる侍の技をアスマ流にアレンジした技だった。
しかし、飛翔する風の刃は感電水の勢いと電流を弱める効果はあったものの、切り裂くほどの威力は持たない。
感電水は依然として変わりない脅威のままアスマたちを襲おうとする。
それはアスマも分かっていた。
ゆえに、アスマは斬撃を飛ばした直後にチャクラ刀を手放して両手を空けて、次の術の準備を始めていた。
「火遁・火竜弾!」
素早く印を結びきったアスマの口から勢いよく炎の塊が吐き出された。
極めて高温な炎塊はアスマの目前まで迫っていた感電水に着弾し、ジャワッ──という音を立てて感電水を蒸発させていく。
だが、性質変化の相性の関係として火は水に弱い。『火竜弾』は感電水をある程度は蒸発させたものの相殺しきることはできず、アスマたちに降りかかった。
「ぐあっ……!」
「うぐっ!?」
感電水はアスマの二度の抵抗により威力を大きく弱めており、アスマたちが大怪我を負うことはない。だが、そこに流れていた電流により体に痛みが走り、体が痺れて動きが鈍くなる。
その隙を角都は見逃さない。
「よく防いだと褒めたいが、その程度ではな」
「ぐおっ……!?」
体が痺れて上手く動けないアスマの胴体に角都の前蹴りが炸裂した。
アスマは術を放った直後ということもあり、踏ん張ることもできずに後方にいたシカマルたちを巻き込んで吹き飛んでいく。
四人ともが体が痺れていたせいでろくに受け身も取れずにゴロゴロと地面を転がっていく。
「ゲホッゲホッ……!」
「ア、アスマ……」
腹部を思い切り蹴られたアスマが苦しそうに咳き込む。それに対して心配そうにシカマルが声をかけた。
すでに四人の体から痺れは抜けていたが、アスマは角都に蹴られた腹部のダメージが大きく、すぐには動けない。
「コテツ!」
「分かってる!」
動けないアスマを庇うようにイズモとコテツが前に立ち、そのすぐ後ろでシカマルが『影真似の術』の準備をしながら冷静に敵の分析をする。
(ヤツの体から出てきた怪物は全部で四体。口元が黄色と水色のやつがそれぞれ雷遁と水遁を使った……基本性質変化全部を使えるっていう情報と合わせて考えれば、残りの三属性を本体と怪物二体がそれぞれ使えると考えるべきか?いや、断定は良くない。少なくとも本体は複数使えると想定しておくべきだな)
シカマルの分析がする中、角都が動く。
イズモが両手に手裏剣を、コテツが口寄せした鳥の頭を模した大槌をそれぞれ構えるが、それを見えていないかのように躊躇なく角都が近づいていく。
「シッ!」
「ふん……」
イズモが両手に手裏剣を連続して投げ放ち、そのまま印を結び始める。
手裏剣は一つが角都の頭に、もう一つは足に飛んだが、角都は鼻を鳴らして真横にステップを踏み、簡単に躱してしまう。
イズモは手裏剣を簡単に避けられたことに悔しげな表情を浮かべながら印を結び続けるが、角都が避けたのは手裏剣を躱すためだけではなかった。
角都が元いた場所の後方には口元が緑色の面をした怪物が佇んでおり、すでに術を発動する準備まで整っていた。
「風遁、
角都が術の名を唱えると、緑色に塗られた口元が開き、そこから高密度に圧縮された暴風が解き放たれた。
暴風は向かってきていた手裏剣を弾き返しながらイズモたちを襲う。
地面を大きく捲り上げながらイズモたちを吹き飛ばそうと襲いくる暴風を前にして、コテツは大槌を地面に突き刺すようにして仲間たちを守る壁となった。
「ぐうぅぅ……ああッ!!」
少しでも風除けになるために前に立ったコテツだが、跳ね返された手裏剣が右肩と左足に刺さったことで踏ん張りきれずに上空に巻き上げられ、そのまま後方に吹き飛ばされていく。
だが、コテツが前で踏ん張ったおかげか、残りの三人は風に煽られただけで吹き飛ばされるほどではなかった。
「コテツ!このっ……水遁・水飴拿原!」
飛ばされたコテツをイズモは見送り、風圧が弱まった瞬間を見計らって角都の方向へと粘ついた水を思い切り吹き出した。
イズモが使用した『水遁・水飴拿原』は本来なら水飴のように粘つく水を地面へと吹き出すことで、その上を走ろうとする敵を捕まえる術だが、直接敵に吹きかけて動きを鈍くすることも可能だった。
角都は上空から降り注ごうとする水遁に眉を顰めるが、無視してそのままイズモヘ向けて走り、生み出した怪物の最後の一体──面の口元を赤く塗られた個体に術を使用させる。
「火遁・
術により口元が赤色の怪物の口から小さな火球が放たれる。放たれた火球は凄まじい勢いで拡散し、角都のすぐ頭上にまで迫っていた粘ついた水を一瞬にして蒸発させてしまった。
「何!?」
「隙だらけだ……!」
火遁は水遁に弱い。だが、術者同士の間に圧倒的な実力差があれば、その優劣はひっくり返る。
イズモは自身の水遁が相性の良いはずの火遁に簡単に蒸発させられたことに驚いて体を硬直させたが、その隙を見逃さずに角都がイズモの心臓に向けて貫手を放つ。
「しまった……!」
目前に迫った角都にイズモが自らの失敗を悟るが、もはや遅い。
イズモは次の瞬間に自分が死ぬことを確信し、すぐに訪れるだろう心臓を貫かれる痛みを想像して瞼をきつく閉じた。
だが、瞼を閉じて数秒経っても想像していた痛みは訪れず、戸惑いながら目を開くと──
「……え?」
「ぬうぅ……」
目の前の光景にイズモは戸惑いの声を漏らした。
イズモの目の前には心臓を貫く直前の姿で身動きしない角都が呻き声をあげているという摩訶不思議な光景が広がっていたからだ。
だが、イズモが驚いていたのは一瞬。次の瞬間には仲間の──シカマルのことを思い出し、その秘伝忍術である『影真似の術』のことも思い出した。
シカマルはイズモが襲われる直前に『影真似の術』で伸ばした影を角都の影と繋ぎ、間一髪のところで角都の動きを止めることに成功した。
だが、角都の動きを止め切ることはできない。
「おおぉぉ!!」
「……!?」
「何だと!?」
角都の喉から低い声が轟き、全身からは黒く細い繊維状の『地怨虞』がイズモへと無数に伸びていく。
術の維持で必死なシカマルは無言で、角都とほとんど密着するような位置にいたイズモは声を出して驚いた。
動きが止まった相手からの突然の攻撃。それも至近距離での出来事だったこともあり、イズモは抵抗できずに全身を黒い触手に絡め取られていく。
『地怨虞』の黒い触手は角都の意志に従って自在に動く。そして、シカマルの『影真似の術』は影を繋げた相手に自分と同じ動きを強制させる術だが、シカマルの体に無い触手の動きまで止める力は無い。
「死ね……!」
「ぐっ………!!」
「イズモ……!」
イズモを殺そうと角都の口から黒い触手が伸びる。
シカマルがその触手をなんとか止めようと新たに『影縫いの術』を発動させようとするが、角都という強大なチャクラを持った存在を『影真似の術』で止めながらでは難しい。
イズモの肉体に黒い触手が潜り込む。心臓に向けて黒い触手が肉を掻き分けてモゾモゾと進む不快な感触を与えられ、恐怖で発狂しそうになるイズモだったが、死を前にして救いの手が伸びた。
「ハアァッ!!」
角都にやられて倒れていたアスマが痛みを堪えて立ち上がり、角都からイズモへと伸びていた『地怨虞』をチャクラ刀で一つ残らず断ち切った。
「何っ!?」
「ナイスだアスマ!」
アスマがこれほど早く動けるようになるとは思っていなかった角都は驚愕し、恩師の完璧なタイミングでの救援にシカマルが喜んだ。
アスマはシカマルの声に反応を返さず、そのまま返す刀で角都の首へ向けて一直線にチャクラ刀を振おうとする。
だが、チャクラ刀を振るよりも早く、アスマの直感がここにいては危険だと囁いた。
アスマは自身の直感に従って近くにいたシカマルとイズモを両手に掴んでその場から離れる。
「アスマ!?」「っ……!?」
シカマルとイズモが困惑するのも束の間、今までアスマたちが立っていた場所を埋め尽くすように水と雷と風が降り注ぎ、まるで局地的な大嵐にあったのようにそこにあった全てを吹き飛ばしていく。
凄まじい攻撃に地面が砕かれ、吹き飛ばされて大量の砂埃が舞い、それが治った時には角都の立つ場所だけが無傷で残り、それ以外の地面は大きなクレーターへと変わっていた。
当然、それらの攻撃を行なったのは『地怨虞』の怪物たちだった。
角都は戦闘経験豊富な忍である。その経験は初代火影と戦ったこともあるほど古く、まさに歴戦の忍である。
そんな角都はイズモに『水遁・水飴拿原』を放たれる前から『地怨虞』たちにいつでも援護させられるように術を準備させていた。『水遁・水飴拿原』を相殺するために『火遁・頭刻苦』は使わされてしまったが、それ以外の三体にはいつでも術を発動できる状態で待機させていたのだ。
それでも、シカマルとイズモだけなら『地怨虞』の黒い触手だけで殺せると踏んでいた角都だったが、アスマが動けるようになってしまったので、急遽三つの術を発動させ、それにより窮地を脱したのだ。
「なんだよ角都よぉ……全然殺せてねぇじゃねえかよぉ……やっぱ、俺がいなきゃダメなのか?」
「うるさい。お前から殺すぞ」
「だから、それを俺に言うかよ角都……」
飛段が角都が本気で戦って一人も殺せていないことに少し驚きながら揶揄うと、角都はこめかみに青筋を立てて殺気立ちながら飛段に返答した。
だが、殺すと脅されても不死身の飛段にはなんの脅しにもなっておらず、飛段はいつも通りに呆れたように呟いた。
「だがまぁ……思ったよりもやるなぁアイツら」
「首を切られた奴が言うと説得力があるな……」
「なんだと!?」
飛段が角都と戦って一人も死んでいないアスマたちを褒めると、角都が先の会話の仕返しとばかりに嫌味を言い、それに対して今度は飛段が怒った。
そんなコメディのようなやり取りをしながらも、角都の思考は冷静にアスマたちの戦力を上方修正していた。
(死体の判別がつくように手加減していたとはいえ、今の段取りで殺せないとはな……それに、ゆっくりはしていられないか……)
角都はアスマの肉体を──特に人相を確認できるように頭部を破壊しないように手加減していた。アスマを殺せたとしても、本人だと証明できなければ三千五百万両は手に入らず、今回の戦闘が徒労に終わってしまうからだ。
俗な言い方をするならば「もったいない精神」だろうか。
だが、それも全てはこの場を切り抜けられたらの話。
(これ以上は援軍が来る……手早く片付けることを優先するか)
角都は認識を改めた。アスマの首にかかっている賞金をひとまず無いものだと考え、全員を殺した後に死体が残っていたら持ち帰ろうとしていた。
ゆえに、角都の手持ちの術の組み合わせの中で、最も殺傷力の高く、逃げ場を与えないほどに広範囲の術を使用することに決めた。
角都は脳内で『地怨虞』の怪物たちに指示を出すと、口元が赤、黄、緑の三体が一箇所に集まり、その肉体を形成している黒い繊維を絡ませて合体する。
まるで阿修羅のような三つの面を持った怪物の姿に、アスマたちが警戒を強める中、角都の指示により怪物はその力を解き放つ。
「火遁・頭刻苦、風遁・圧害、雷遁・偽暗」
綺麗に並んだ三つの面が同時に開き、それぞれが火炎と暴風と雷撃を吐き出した。
高圧縮されて業火があっという間に広範囲を燃やし尽くそうと拡散し、その勢いを強めるように風が後押しする。さらに放たれた雷は火に通電して全体に流れ出し、雷を纏う大火災となってアスマたちに襲いかかる。
火、風、雷の複合大忍術。角都が持つ最大最強の殲滅技だ。
「っ……!?」
アスマたちの視界全てが瞬く間に赤く染まり、まだ距離があるにも関わらず肌を焼くような熱量を感じる。まるで山火事が迫り来るような圧倒的な光景に焦り、息を呑むアスマたち。
まさしく災害級の大忍術を前にして、たった四人だけのアスマたちにはもはや打てる手立てなど無かった。
(せめてシカマルたちだけでも……!)
アスマが悪足掻きだとしてもせめて部下たちを救おうと行動しようとする。
『風遁・真空連波』を発動させ、真空の刃を連続して放つことで一時的に大火災の中に安全地帯を作り出そうと考えていた。
しかし、アスマは妙に冷静に失敗を悟っていた。目前に迫る死を前にして、その程度の浅知恵で助かりはしないだろうと。
(それでもやるしかねえ!)
アスマが行動しても全滅する確率は極めて高い。だからと言って何もしなければ確実に全滅する。
ならば分の悪い賭けだろうとやるしかない。
アスマはこれから使う術が生涯最後の術になるだろうという嫌な確信を持ち、全てのチャクラを使い切る勢いで術を発動させた。
「風遁・真空連波!!!」
アスマの口から吐き出された真空の刃が大火災を切り裂き、ほんの少しだけ空白地帯を作り出した。
だが──
(やっぱり足りないかっ……!)
真空の刃は大火災を削ったものの、風穴を空けるほどには至らなかった。アスマたちが火災に飲まれるまでの時間をほんの少し伸ばしたにすぎなかった。
それでも、アスマは最後にシカマルへと覆い被さり、少しでも愛弟子を守ろうとした。
だが、アスマが決死の覚悟で生んだその数瞬が、結果的にアスマたちの命を救うことになる。
「風遁・螺旋丸!」
「水遁・破奔流!」
「土遁・土流城壁!」
何処からか連続して声が聞こえてきた瞬間、アスマたちに襲いかかろうとしていた大火災の前に竜巻を思わせるような水流が出現し、間髪入れずに火災とアスマたちの間に巨大で分厚い土の城壁が生み出された。
大火災と水流が激突した影響で超高温の水蒸気が爆発的に生み出され、そこにバチバチと電流が駆け抜ける。
しかし、その全てを土の城壁は崩れ落ちそうになりながらも受け止めた。
「何だと……!?」
「あれを止めんのかよ!?」
爆発的に広がった水蒸気に触れないように遠く下がった角都と飛段が驚く。それも当然のことだろう。先ほどの攻撃はそれほどの術だったのだから。
角都と飛段が警戒する中、水蒸気が晴れていく。
それと同時に両陣営の視界を遮るように生まれていた『土流城壁』もガラガラと崩れていき、お互いの姿を確認できるようになった。
そこで角都と飛段は先ほどまではいなかった新手の存在を初めて確認できた。
「待たせたってばよ!!」
自信たっぷりに立ち、シカマルへと大声で話しかけるナルト。
「あれほどの術を使える相手とはね……」
角都の複合忍術に恐れを抱きながらも冷静なヤマト。
「ま、これだけの面子ならやれないことはないでしょ」
ヤマトの言葉に反応しながら最後の一人に目を向けるカカシ。
「うむ。ナルトの修行の成果を試すには十分すぎる相手だのぅ」
ナルトが父親であるミナトを超えれるかを楽しみにしているのか、余裕たっぷりな自来也。
以上、四名の援軍が、アスマたちの窮地を救うために駆けつけた。
『水遁・挫吼』はオリジナル忍術になってます。原作では角都は水遁の術を出すことなくカカシに殺されたので、せっかくなので出してみました。
術の名前は角都の他の術の命名規則に則り、初代ガンダムのジオン軍のモビルスーツのザクから取りました。
書いている途中は一直線に水流を飛ばす『挫吼・一』とか、それを二本にした『挫吼・二』とか、拡散型の『挫吼・散』とか、バリエーションが色々ある感じを考えてましたが、良い名前が思いつかなかったので『挫吼』だけにしました。