音の四人衆最強の男   作:北山 真

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デイダラとトビ

 

 サスケたちは右近左近が『木遁・木分身の術』による人海戦術によってイタチの情報を探している間も、サスケたち自身も各国を練り歩きイタチの捜索を続けていた。

 だが、イタチの居場所は一向に知れず、徐々にサスケは苛立ちを隠せなくなっていた。

 

 なぜイタチを見つけられないのか。これはイタチが非常に目立つ相方である鬼鮫を隠すように五大国の隠れ里や裏社会に居場所を知られないように隠れ潜みながら動いていたせいである。

 鬼鮫は非常に目立つ容姿をしており、その愛刀である『鮫肌』もまた、その巨大な刀身を包帯でぐるぐる巻きにしているせいで非常に目立つ。

 ただでさえ暁の装束を着ているせいで目立ちやすいのに、そんな目立つ大男を連れていては、おちおち町も歩いていられない。

 というわけで、イタチと鬼鮫は人目を避けながら各地の人柱力を狩るために移動しており、必然的に目撃情報も限りなく少なくなり、サスケたちはイタチに遭遇することができなくなっていた。

 

 そのうえで、そもそも右近と左近はそれほど真剣にイタチを探していなかった。

 右近の現在の目的はサスケにイタチの真実を教えたうえでサスケがどう行動するのかを見届けることだ。

 サスケが原作のようにイタチの思惑通りにイタチを殺すのか、それともイタチに真実を確かめようとして行動を変えるのか。

 右近はどちらでもよいと考えていたが、イタチの真実をサスケに教えるためにはイタチの真実を木ノ葉隠れの里が調べたという事実が欲しかった。そうでなければイタチの真実を右近と左近が知っているのは不自然になり、サスケに対する説得力が薄れるからだ。

 もっとも、そうやって真実味を増したとしてもイタチへの復讐だけを考えて生きてきたサスケが易々と信じることはできないだろうが、それすらもサスケの自由であると右近は考えていた。

 

 ゆえに、目立ちたくないイタチと時間稼ぎがしたい右近左近の思惑が重なったことで両陣営は遭遇することなく、ただ無為に時間を費やすだけの期間となっていた。

 

 そんなある日のことだった。

 

「チッ……尾行()けられてやがるな」

 

 サスケ小隊──サスケが付けたコードネーム『蛇』の紅一点である香燐が尾行に気づいて舌打ちをした。

 香燐は非常に強力な感知タイプのクノイチである。ゆえに、尾行者の存在に気づくのは理解できた。

 

 逆に、理解できないのは右近と左近の行動だ。

 右近と左近が持つ仙人状態の感知能力は香燐と同等かそれ以上だ。香燐が気づいた尾行者の存在に右近と左近が気が付かないわけがない。にも関わらず、右近も左近も尾行者についてサスケたちに一言も告げなかった。

 

 右近と左近が三週間かけてもイタチを探し出せていないことと、このタイミングでの尾行者の存在に言及しなかったこと。

 その二つの事実が、サスケたちに緊張感を与えることになる。

 

「おい、右近、左近……」

 

 サスケが後ろ腰に挿した鍔の無い刀に手をかけながら右近と左近に声をかけた。

 サスケの目は鋭く、声は普段よりも低い。右近と左近の返答次第では躊躇なく刀を抜くつもりであることは明白であり、それは声をかけられた右近左近にも、サスケの両隣に立つ香燐と水月にも理解できた。

 

 しかしながら右近左近と尾行者の間にサスケが邪推したような関係は全くない。

 それを証明するように右近は両手を挙げてサスケに敵意がないのを示しながら釈明する。

 

「そう邪推するなサスケ。尾行者は空に二人。地上にいるならともかく、手を出しにくい空から見られてる程度でいちいち報告するまでもないと思っただけだ」

「香燐」

「あ、ああ、私の感知結果と同じだ」

 

 ほら、と右近は挙げたままの右手の人差し指で尾行者の正体を指差しながら説明した。

 その報告を聞いたサスケが即座に香燐に確認を促すと、香燐は急にサスケに名前を呼ばれたことで内心ドキドキしながらも右近左近の言葉に嘘がないことを証言した。

 

 香燐により右近左近の容疑が晴れたところで、感知タイプではないサスケと水月は右近と左近へと向けていた警戒を尾行者の方へと向けた。

 二人が右近の人差し指が示した方向を目で追うと、上空数百メートルを真っ白い鳥が羽ばたいていた。地上からかなりの距離が離れていることを考えると、その鳥は少なくとも全長五メートルはあるだろう。

 

「何あれ?かなりデカくない?」

「野生ではないことは確かだろう。警戒しろ」

 

 巨鳥に気がついた水月は呑気に鳥の大きさを気にしており、サスケは心中ではその正体を『口寄せの術』で呼び出された契約動物か何かかと当たりをつけながら、鳥の上に二人の尾行者がいるという情報から残りの小隊員たちに警戒を呼びかけた。

 

 その様子を鷹のような白い巨鳥の上で眺めていた二人の尾行者は、サスケたちの動きを見て尾行に気づかれたことに気がついた。

 

「へぇ……案外早く気づかれたな……うん」

「うわ〜優秀だな〜」

 

 長く伸ばした金の前髪でひだりめを隠して後髪は後頭部で結っている若い男であるデイダラと、ぐるぐると渦を巻くような仮面を被った黒い短髪のトビが、サスケたちの動きを褒めた。

 デイダラたちが乗る白く巨大な鷹──デイダラの起爆粘土により形作られた粘土の大鷹によりサスケたちの尾行を始めたのは数分前のことだった。

 デイダラが見つけたサスケたちは常に四人一組で移動し続けていたのでトビの提案で一先ずは尾行を続けて手を出さず、別行動を取るのをデイダラたちは待っていたのだが、それよりも早く尾行に気づかれたのでサスケたちの優秀さを褒めたのだ。

 

 そもそもなぜデイダラとトビはサスケたちを尾行していたのか。それはサスケが大蛇丸を殺したという情報が暁に入ったからだ。

 デイダラは大蛇丸が暁にいた時から気に入らなかった。だから、大蛇丸が暁を抜けた時にはようやく殺せると喜んだほどだったが、大蛇丸は暁から隠れ潜むのが上手く、デイダラは大蛇丸を探し出すことができなかった。

 そうこうしているうちに、デイダラが殺したいと思っていた大蛇丸はうちはサスケに殺されてしまった。

 

 さらに、殺したのがサスケというのもデイダラは気に食わなかった。

 もしも大蛇丸を殺したのがデイダラが知らない人物であれば、デイダラは見つけ出してちょっかいをかけようなどと思わなかっただろう。

 だが、サスケはデイダラが暁の中で気に食わないもう一人の人物であるイタチの弟であった。

 そこでデイダラは大蛇丸への意趣返しと、イタチへの嫌がらせのためにサスケを狙うことを決めたのだ。

 

 しかし、デイダラたちは三尾を狩るという任務を終わった後にサスケたちを捜索しだしたのだが、大蛇丸の部下らしく逃げ隠れするのが上手いのか、デイダラたちはサスケたちを今日まで見つけ出すことができなかった。

 

「デイダラせんぱーい!ホントにちょっかいかけるんですかー?やめときましょうよー四人もいるんですからー」

「うっせえぞトビ!たかだか四人程度にビビってんじゃねえ!おら行くぞ!」

「あっちょっ、デイダラせんぱーい!」

 

 トビの忠告を無視してデイダラは粘土大鷹を動かして高度を下げさせた。空中を優雅に羽ばたいていた粘土大鷹が身を翻し、勢いよく高度を下げていく。

 最終的にデイダラは地上から五メートル、サスケたちからは十メートルほど離れた位置で大鷹の降下をやめさせ、その場で羽ばたいて滞空させた。

 

 サスケたちは粘土大鷹が降りてきたことで、ようやくその姿がただの鳥ではなくなんらかの術で作られたものであることを把握し、さらには尾行者である二人の姿を目視で捉えられた。

 サスケはデイダラたちが着ている暁の装束を見た瞬間には写輪眼を発動させ、すでに臨戦体勢に入っている。

 

 その写輪眼を見たデイダラはイタチを思い出して苦々しい顔をしながら口を開いた。

 

「写輪眼か……やっぱりイタチの弟だぜ。大蛇丸を()れたのも、その血のおかげってわけだ」

「御託はいい……イタチの居場所を吐け。吐けば見逃してやる」

 

 デイダラの煽りに対して、サスケは冷静さを維持したまま強気な姿勢を崩さない。

 

「オレに勝てたら教えてやるぜ……うん」

 

 デイダラもまたサスケの強い言葉に一歩も引かない。

 一触即発の雰囲気が辺りに漂い、全員が警戒を強める中、デイダラと戦うためにサスケが一歩前へ出る。

 だが──

 

「待てサスケ……ここは俺がやろう」

「右近……」

「いつイタチとやり合うことになるか分からない今、なるべく消耗したくはないだろう。それに俺はお前の護衛だからな」

 

 前に出ようとしたサスケを手と言葉で制した右近はサスケの代わりに前へ出た。

 右近の語ったように今のサスケの目的はあくまでイタチの殺害。イタチへ繋がる手がかりを得るためにデイダラたちを捕らえようと前に出たが、サスケからすればデイダラたちはどうでも良い存在であり、イタチとの戦いに備えて常に万全の状態でいられる方が都合が良い。

 さらに、右近たちがサスケについてきた名目はサスケの中に取り込まれた大蛇丸が復活するまでの監視兼護衛であり、サスケが目的を果たす以外で危険に巻き込まれることを避けたいという考えもあった。

 

「……ふん。確かにオレの獲物はイタチであってコイツらじゃない。いいだろう右近……ここはお前に任せる」

 

 右近の語ることに一理あると考えたサスケはデイダラたちへの対処を右近と左近に任せることに決めた。

 

「さて……そんなわけで、あなた方の相手は俺がさしてもらいましょう」

「お前になんて用はねえよ……」

 

 デイダラは怒りを滲ませながら右近を睨みつけて左側の腰に取り付けられたポーチの中に手を入れる。デイダラがほんの数秒でポーチから手を抜き出すと、その手のひらの上には白い粘土で作られた小さな燕が三羽いた。

 

 その粘土燕たちはデイダラが宙へと放り投げると途端に大きくなり、まるで本物の燕のように空を飛んで一直線に右近へと向かっていく。

 

「オイラの芸術を喰らって吹き飛びな!喝ッ!!」

 

 右近の目の前にまで粘土燕たちが近づいた時、デイダラの“喝”の合図により粘土燕たちは一切に爆発した。

 

「へっ……まともにくらいやがったぜ!カッコつけるからだ……うん」

 

 もうもうと立ち込める爆煙を見たデイダラは笑みを浮かべて勝ち誇っていた。

 だが、爆煙が晴れた時に見えたのは爆死した右近の死体ではなく、分厚い水の壁の向こう側にいる右近の姿だった。

 

 デイダラの粘土燕の爆発を『仙法・水遁・水陣壁』で完全に防いだ右近は、術を解除しながらデイダラを挑発する。

 

「悪いですが、この程度の術では何千回爆発されても俺は防げます。俺の防御を突破したいならもっと大きな爆発を起こすのを勧めます」

「小さいのを防いだ程度でいい気になってんじゃねえぞ!!」

 

 デイダラは右近の挑発に激怒して左右のポーチに両手を突き入れた。数秒後にポーチから両手を抜き出した時、それぞれの手の上には二つの粘土細工が存在していた。

 

「今度のはデカいぜ!うん!」

 

 デイダラは上空へと避難するように粘土の大鷹を空高くへと羽ばたかせ、さらには上空から二つの粘土細工を投げ落とした。

 空からの落下中にデイダラの術で巨大化する粘土細工たち。

 一つは全長が三十メートルはありそうな巨大な白竜となって空中に滞空し、もう一つも同じく全長が三十メートルを越えそうな巨大な白虎となって地に降り立った。

 

「ほう……竜虎か……」

(竜の方は原作でも見たことがあったが、虎は見たことがないやつだな)

(あぁ……竜はともかく虎は何してくるか分からねえなぁ……)

 

 右近は天と地に並び立つ竜虎を見て感嘆の声をあげ、左近は知識のある竜よりも虎の方へと警戒を強めた。

 

「コイツらはオイラの傑作だ!さっきまでのとは比べ物にならないぜ!行け!」

 

 デイダラが白竜よりもさらに上空を飛びながら竜虎へと合図を出した。

 

 デイダラの合図を聞き届けた竜虎のうち、まずは大虎の方が右近へ向けて駆け出した。ドスンドスンと地面を揺らして真っ正面から右近へ接近した大虎は、人など簡単に潰せそうな右前脚を振り上げてから真っ直ぐに叩きつける。

 

 虎への警戒を強めていた右近は見上げるほどの大虎の叩きつけを素早く後方へと跳ぶことで回避した。

 右近がその場を離れた直後に大虎が地面を強かに叩いた瞬間──巨大な爆発を引き起こした。

 

「……!そういうタイプか!」

 

 右近は大虎の能力を一目見て、そして仙人状態の感知能力で見抜いた。

 

 右近の視界からは爆煙に隠れて見えていないが大虎が叩きつけた片脚の先が失われており、さらにはその失われた脚が急速に生え直していくのを右近は感知していた。

 

(この虎は手足が爆弾なんだな……そして体内にある起爆粘土を使って自動で再生すると……)

 

 右近の推察は当たっていた。

 デイダラの『C2ドラゴン』は原作では蜘蛛のような地雷型の粘土細工と、豚に翼が生えたような粘土細工を生み出していた。

 それと同様に大虎もまた体内に多数の爆弾を抱えていた。ただし、格納している『起爆粘土』は地雷型や誘導弾型のようなすでに造形済みのものではなく、造形されていない『起爆粘土』の塊である。

 大虎はその巨体を活かした直接攻撃を行った瞬間に脚先を切り離して爆破させ、体内に保管してある大量の『起爆粘土』で失った脚を再生させるのである。

 

 他の『起爆粘土』たちとは違い、巨大な体躯を活かした肉弾戦こそが大虎の本領だったのだ。

 

「よく避けたが、それだけじゃないぜ……うん」

 

 デイダラが大虎の叩きつけを避けた右近を見下ろしながらボソリと呟くと、空を飛んでいた竜が右近の方へと向けて大口を開き、口内から丸々と太った有翼の豚のような粘土生物を吐き出した。

 

 右近の頭上から高速で飛来した豚を右近は仙人状態の感知能力で把握し、上を一切見ずに横っ飛びすることで回避した。

 

「なるほどな……そういうコンビネーションか……」

 

 右近が納得した声を出すとほぼ同時に豚が引き起こした爆煙を突っ切るようにして大虎が飛びついて来る。

 その飛びつき攻撃を再び後方へと跳ぶことで回避した右近だったが、大虎が爆発を引き起こした直後、その隙を埋めるように再度上空から有翼豚の粘土細工が飛来する。

 

「チッ……面倒だな」

 

 舌打ちを一つした右近は『瞬身の術』で素早くその場から移動した。

 標的に逃げられた有翼豚は虚しく一人で爆発を起こすが、その間にも大虎は失った肉体を再生させて万全の状態へと戻っていた。

 

「逃げてばっかかよ!さっきまでの大口はどうした!」

 

 逃げ惑うばかりで反撃する様子を見せない右近を今度はデイダラが盛大に煽る。

 

(さて……どうするか……)

 

 デイダラの煽り文句を聞き流しながら右近は今の状況をどうやって打破するか考えていく。問題なのはどこまで術を見せるのかである。

 はっきり言えば木遁を使えばこの状況を打破するのは簡単である。

 だが、トビと名乗るオビトを相手に現状で木遁を見せるのは早すぎるのではないかという思いが右近の中にはあった。

 

(天地橋での戦いを見られていた可能性は十分にあるが……やはり木遁を見せるのは早すぎるか……)

(ならどうする?いつも通り水遁と土遁メインでいくのか?)

(ああ、ただまあ隠し札の一つぐらいは出さなきゃならないだろうがな……)

 

 右近と左近が声に出さずに作戦を立てていく最中にも大虎と竜は右近へと攻撃を仕掛けていたが、その全てを右近は見切り回避していた。

 

「避けるのは得意なようだな……なら、これも躱せるか!?」

 

 デイダラは思っていた以上に右近が手強い相手であると認識を改めた。そのうえで、竜虎にさらに苛烈に攻撃をしかけさせるべく印を結んだ。

 デイダラの指令を聞き届けた竜の尻尾が大きく膨らみ、その直後に尻尾の先端部分から大量の球体状の『起爆粘土』が一斉に放出される。本来は地雷として使われる丸まった蜘蛛のような粘土細工をデイダラはあえて雨のように降らせることで、まるで絨毯爆撃のような広範囲攻撃に転用したのだ。

 

(爆撃でダメージを与えられたらよし、与えられなくても足は止まるだろう……その隙をC2タイガーが突く!さあ、こいつをどう凌ぐ!)

 

 天より降り注ぐ爆弾に対して、右近は素早く土遁の印を結び術を発動させた。

 

(仙法・土遁結界・土牢堂無)

 

 左近が『土牢堂無』を発動し、瞬時に周囲の土が盛り上がってドーム状の土石の結界が形成された。次郎坊が得意としていたこの術は本来ならば敵を閉じ込めるために使う術だが、今回は空爆を耐え凌ぐためのシェルターとして使われた。

 

 そんな土のドームに降り注ぐ爆弾の雨。ドームへと当たった爆弾がドカンドカンと連続して爆発するが、ドームの表面が焦げついたりへこんだりすることはあれど穴が開くほどには至らない。

 

「へぇ、土のドーム……これも防ぐか……だが、これで足は止まったな!うん!」

 

 デイダラは空爆を的確に防御した右近の力を認めつつ、その防御を打ち崩すべく大虎に仕掛けさせる。

 デイダラの指示の下、『土牢堂無』の中に引き篭もった右近へ目掛けて今度は大虎が迫っていき、土のドームを押し潰そうと右前足を天高く掲げた。

 

(今!)

 

 その大虎の動きを待っていた右近。右近は仙人状態の感知能力でもって大虎の動きを完全に把握し、大虎が『土牢堂無』を踏み潰す直前、大虎が右前足を叩きつけようとしていた部分のドームをわざと崩した。

 その結果、大虎は勢い余って『土牢堂無』の中へと入り込み、入れ替わるように外へと出た左近はすぐさま崩れた土のドームを修復し、大虎を『土牢堂無』の中へと閉じ込めた。

 

「なんだと……!?」

 

 竜虎のコンビネーションを術一つで完全に対処しきってみせた右近に驚愕するデイダラ。

 だが、右近と左近の動きはまだ終わっていなかった。

 

「仙法・水遁・水龍弾の術」

 

 術の発動と同時に右近の足元から勢いよく水が吹き出して巨大な水の龍と化し、デイダラを喰らおうと唸りながら天へと昇っていく。

 

「危ねえっ!?」

「うわぁぁぁ!!」

 

 巨大な龍の顎に噛み砕かれそうになったデイダラとトビだったが、デイダラが咄嗟の判断で粘土の大鷹を素早く動かしたことで、間一髪のところで回避に成功した。

 

「……こんな場所でこんだけの水遁を出すとはな……鬼鮫の旦那に匹敵するぜ……」

「ですねえ〜おお、こっわ……」

 

 デイダラが冷や汗を流しながら右近の水遁を褒め称え、トビもそれに同意した。

 水遁はチャクラで水を作り出すよりもチャクラで水を操る方がはるかに簡単であり、同じ術者ならば規模も威力もチャクラで水を操った方が上である。

 だが、右近の『水龍弾』はチャクラで水を作り出したにも関わらずかなりの規模と威力があった。あれだけの術の規模と威力はそう出せるものではない。それこそ、デイダラの知る限りでは暁一の水遁使いである鬼鮫ぐらいのものであった。

 

 しかしながら、そうやって右近を褒めていたデイダラは肝心なことを見落としていた。

 そう、右近の攻撃はまだ終わってないということを。

 

「先輩!後ろっ!」

「なっ……!?」

 

 それに気がついたのはトビの方が先だった。

 普段おちゃらけた態度のトビの鋭い声につられてデイダラが振り向くと、天へと駆け抜けていく水龍の背中に張り付いている右近と目があった。

 

 右近がやったことは単純である。チャクラコントロールの基礎であるチャクラを足に集中させて水面に立つ技術を応用し、手足にチャクラを集中させることで水龍の背中に引っ付いて来ただけである。

 無論、言うほど簡単な所業ではない。高速でうねりながら移動する水龍に張り付き続けるのも難しいうえに、その水龍のチャクラもコントロールしなければいけないからだ。

 まるで右を見ながら左を見ろと言われているようなものであるが、そもそも右近と左近は二人で一つ。一人ならば右と左を同時に見れなくとも二人ならば同時に見れる。

 つまり、右近が『水龍弾』の発動とコントロールを担当し、左近が水龍に張り付くためのチャクラコントロールを担当すれば比較的容易に実現できる技なのであった。

 

 そして、右近と左近で空中に躍り出たことにより、デイダラとの間にあった距離という壁は限りなく小さくなった。

 

「チッ、むちゃくちゃしやがるぜ……!」

 

 デイダラが悪態を吐きながら大鷹を操作して距離を取ろうとし、さらには右腕を腰のポーチに手を伸ばして迎撃用の『起爆粘土』を作り出そうとする。

 しかし、デイダラがどれだけ早く術を用意しようとしても、『起爆粘土』は粘土にチャクラを込めて造形する必要があり、術の発動までに時間がかかる。

 そんな大きな隙を見逃す右近と左近ではない。

 

「遅い!」

「ぐっ、がはぁっ……!」

「アイタッ─……!?」

 

 水龍の背を蹴って『瞬身の術』により大鷹の上に飛び乗った右近は接近した勢いそのままにデイダラとトビの腹部に強烈な掌底を叩き込んだ。

 腹部に大きな衝撃を受けたことによりデイダラが苦しげな声とともに肺に溜まっていた空気を吐き出し、トビはすっとんきょうな声を出した。

 

 しかし、デイダラはともかく、トビへ打撃を打ちこんだ時、右近の手にはなんの感触も無かった。

 

(打ちこむ寸前に右目にチャクラが集中するのを感じた……打撃が当たる前に逃げたな)

(あぁ……間違いなく神威だなぁ)

 

 トビ──本名うちはオビトの持つ万華鏡写輪眼の瞳術『神威』は自身と自身に接触しているものを異空間へと飛ばす強力な時空間忍術だ。

 オビトは右近からの掌底を受ける寸前に『神威』で自身の腹部を異空間へと逃して回避に成功していたのだが、当たったふりをするためにわざと間抜けな声を出していたのだ。

 

(とは言え、だ。やはり今の段階で自分から動くつもりはないようだな……本来なら今の打撃を見切ってから神威で俺を異空間へと飛ばすぐらいは狙うはずだからな)

 

 右近の推測通り、オビトの本来の実力ならば先ほどの掌底を躱すか防御したうえで接触した瞬間に『神威』で異空間へと飛ばすことを狙えたはずだった。

 それをしないのは今のオビトが表舞台に立たずに裏で暗躍していたいと考えていたからに他ならない。

 オビトが表舞台に立つのはまだ先。最低でもうちはイタチが死ぬまでは表立って動くつもりはなかった。

 

 イタチが優秀な忍であることはオビトも認める事実だ。

 そして、イタチが里と弟であるサスケへの愛着を持っており、スパイとして暁に入っていることをオビトはしっかりと認識していた。

 いくらオビトが無敵にも思える『神威』を持つとはいえ、イタチの洞察力ならば『神威』の秘密を暴く可能性も高いとオビトは考えていたし、イタチにも切り札や隠し札の一つや二つはあると考えれば、そう軽々とオビトは動けない。

 つまり、イタチが睨みを利かせている間はオビトは派手に動けない。それほどまでにオビトの中でのイタチの評価は高かった。

 

 ゆえに、オビトが動くのはイタチの死後。そしてそれはそう遠い話ではない。

 サスケがイタチとの決戦を望んでいるように、イタチもまたサスケとの決着を望んでいる。そして、サスケを愛するイタチがサスケを殺して生き残ることは絶対にないとオビトは確信していた。

 

 だからこそ、オビトはイタチ亡き後にサスケにイタチの真実を話して協力者に仕立て上げようと画策し、サスケの様子を見るためにデイダラとともにサスケを探していたのだが──

 

(まさか、こいつがこれほどの実力者になっているとはな……)

 

 オビトは()()のことを知っていた。二年半前のサスケ争奪戦の時、右近が猛威を振るっていたのをゼツが観察しており、その情報はオビトへと届いていたが、最近の情報は入手できていなかった。

 暁を抜けてから闇に隠れていた大蛇丸が木ノ葉崩しという大事件を引き起こした直後だったこともあり、大蛇丸が再び木ノ葉隠れの里で何かを起こすかもしれないとオビトはゼツを使って木ノ葉隠れの里周辺を監視させていたのだ。この当時は暁の尾獣狩りも始まっていなかったので、ゼツを動かす余裕もあった。

 しかし、この二年半で大蛇丸は『屍鬼封尽』の影響で表立って活動しておらず、必然的に右近が表舞台に立つ機会もなかったうえに、暁も本格的に動き出したこともあり、ゼツを使って大蛇丸周辺を見張ることができていなかった。

 だから、天地橋での右近と左近のナルトとの激突はゼツが観測しておらず、最近の情報は入手できていなかった。

 

(こいつは戦力になるな。どうやって暁に勧誘するかだが……)

 

 渦巻き模様の木面の下でオビトが冷静に思考を重ねている中、さらに戦況は動く。

 

「ヤローッ……!」

 

 デイダラが怒りに震えながらポーチから手を出そうとする。

 デイダラほどの忍となれば、腹部を殴られた程度の衝撃では術の準備を止めることはない。痛みを堪えて準備した『起爆粘土』を取り出して右近を追い払おうとしていた。

 

「だから遅いって言ったでしょう……」

「んなっ……!?」

 

 だがしかし、大鷹の上という数メートルもない距離での近接格闘戦において、右近の戦闘力はデイダラのそれを遥かに上回る。

 右近の左手がデイダラのポーチから抜こうとしていた右腕を捕まえた。これにより、デイダラの右手は準備した『起爆粘土』ごとポーチの中に入ったまま封じ込められた。

 

「テメー……!」

「こうすれば自爆覚悟じゃなきゃ術は使えないですよね?」

 

 額がぶつかりそうな距離で見つめ合うデイダラと右近。

 

「放せっ!」

「いやですね……」

 

 デイダラは右腕を引き抜こうともがくが右近の左手はピクリとも動かず、残った左腕で右近の顔面を狙うがそれも右近の右手に呆気なく受け止められてしまう。

 

「なにやってんだトビ!チャンスだ!やれ!」

「はいっす!先輩!どりゃああ!」

 

 デイダラは右近の両手が塞がってることを好機だと捉えてトビへと指示を出した。

 デイダラの声に従いオビトはトビらしく間抜けな掛け声とともに右近へと殴りかかる。

 

 背後から後頭部へ向けて放たれたトビの打撃に対し、右近は視線を向けることもなく右足を背後に突き出すことで応えた。

 

「ぐふっ──」

「なにやってんだトビ!」

 

 デイダラから見て右近が突き出した足はトビの腹部へと刺さったように見えたしトビも苦しげな声を出しながらたたらを踏んだが、実際には『神威』にて上手く回避に成功していた。

 しかし、デイダラからは背後を取って殴りかかったのに簡単に返り討ちにされたようにしか見えないので、デイダラはトビに罵倒を浴びせた。

 

(こうなったら……!)

「あんまりオレを舐めんじゃねえ!」

 

 デイダラが吼えると同時に右近に掴まれたままのデイダラの右手が入っているポーチを食い破るように白いムカデが這い出てきた。

 ポーチの中に残っていた粘土がボトボトと大鷹の背中に落ちていくのも無視して白いムカデは右近の左腕に巻きつき、背中を通って右腕にまで巻きつき、ギチギチと右近の両腕を締め上げていく。

 

 粘土ムカデに両腕を締め上げられる右近だが、そんなものは意味がないとばかりに両手の力を緩めずにより強く握りしめていき、掴まれているデイダラの両腕からミシリッと嫌な音がした。

 

「グァッ──こんのっ馬鹿力がっ!」

 

 デイダラは両腕の痛みに呻きつつ右近を追い払おうと右足を突き出して腹部を蹴り飛ばそうとするが、それすらも右近の左足に悠々と受け止められた。

 

「こんなものですか?」

「なんだと!?」

 

 右近の発言にデイダラが激怒するが右近はなにも感じていないかのように言葉を続ける。

 

「あなたの術は確かに強い……が、近づいてしまえばこっちのもの。このまま両腕を握りつぶせばまともに術は使えなくなる」 

「その前にオレがそのムカデを起爆したらテメーの上半身は吹っ飛ぶぜ」

 

 右近がデイダラの両腕を握り潰すのが早いか、デイダラが粘土ムカデを起爆するのが早いか──西部劇のガンマン同士の早撃ち勝負のように、どちらが一瞬早く動けるかで勝負が決まる。

 

 超至近距離で睨み合う右近とデイダラ。緊張の一瞬。

 

「……!」

「グッ──喝ッ!」

 

 先に動いたのは右近だったが、右近が握力を強めてデイダラの両腕をへし折ろうとデイダラの両腕の骨にヒビを入れたところでデイダラが粘土ムカデを起爆し、右近とデイダラの姿が爆炎に消える。

 

「うわぁ──!」

 

 トビもまた至近距離で起きた爆発の衝撃で体勢を崩すが、足にチャクラを込めて大鷹に張り付くことで空へ投げ出されることは防いだ。

 

「デイダラ先輩のバカー!やっぱり最後は爆死じゃないですか!」

「──ギャアギャアうるせえぞ!トビ!」

「先輩!生きてた……」

 

 トビの罵倒を掻き消すようにデイダラが爆煙の中から姿を現した。

 その姿は満身創痍という他ない状態だ。デイダラの両腕には右近が掴んでいた跡が青あざとしてクッキリと残っており、さらに右近の両腕を中心に爆発が起きたことで至近距離にいたデイダラの両腕も火傷を負ってしまっていた。

 

「痛ぅっ──へっ、ざまぁみやがれ!」

 

 ボロボロな両腕の痛みに苦しみながらもデイダラは勝ち誇った。

 

 だが──

 

「……何がですか?」

「なっ、何──!?」

 

 爆煙の中から声がデイダラへと問いかける聞こえた後、爆煙の中から無傷の右近が現れた。

 確実に殺したはずの右近が生きていたことにデイダラが酷く驚いた。何よりも、その姿に狼狽する。

 

「なんでテメー無傷なんだよっ!?」

「さぁ、なんででしょうね……」

 

 デイダラの当然の疑問に右近は答えをはぐらかした。

 

 爆発の熱と衝撃を防ぐために動いたのは左近だ。

 左近は爆発の直前に『土遁・土矛』を発動させて右近の全身を硬化させて爆炎から右近の身を守った。ただし、『土矛』のせいで右近の両手の関節もかたくなって動かせなくなり、結果的に爆発の衝撃でデイダラの両腕を解放してしまったのだ。

 

 爆炎により上半身の服を焼き尽くされた右近が、その鍛え上げられた上半身を惜しみなく晒しながらデイダラへと一歩近づいた。

 

(この距離はマズイ!)

「トビ!飛べ!」

「えっ、え〜〜!!」

 

 大鷹の背中という非常に狭い場所での戦闘では不利だと悟ったデイダラはトビに指示を出しながら空中へとその身を投げ出した。

 その光景を見たトビは驚愕しながらもその意図を理解し、デイダラに続いて飛び降りた。その次の瞬間──

 

「喝ッ!」

 

 空中でデイダラが合図を出して大鷹を起爆させて大爆発を引き起こした。

 

「うわぁぁぁ!デイダラ先輩のバカ〜!」

 

 空中にいたことでなす術なく爆発の衝撃に巻き込まれたトビが悲鳴を上げながら吹き飛んでいく。

 

「──おぶっ!」

「情けない声ばっか出すんじゃねえよトビ」

 

 空中を吹き飛んでいたトビを『C2ドラゴン』を操り背中で受け止めさせたデイダラは文句ばかり言うトビに呆れ果てた様子で呟いた。

 

 デイダラはトビへ言葉こそかけたものの、その視線と意識は大鷹の爆発により見失った右近の姿を探してキョロキョロしていた。

 

「おかしい……」

「なにがっすか?」

 

 右近を探しながらボソリと呟いたデイダラ。その独り言を拾ったトビが問いかけたが、デイダラはトビの問いかけが聞こえないほど集中しており、そのまま続いて独り言を漏らす。

 

「アイツが落ちてこねえ……どこへいった?」

「へっ……?あれ、確かに……」

 

 普通なら大鷹という足場を失った右近はすぐに地面へと落下していくはずなのに、デイダラが周りを見渡しても右近の姿を発見できずにいた。

 デイダラの言葉で遅れながらもその事実に気づいたトビも右近を探すが見当たらない。

 

「見つからないっすね〜さっきの爆発で跡形も無く吹っ飛ばしたんじゃないんすか?」

(本当にそうか……?)

 

 トビが楽観的な言葉を口にしたが、デイダラはその楽観論に懐疑的だった。

 何度も爆発を防いで見せた右近がたった一回の爆発だけで死ぬとはデイダラには到底思えなかった。

 

 だが、現実に右近の姿は見当たらない。十秒ほど右近を探そうとも見当たらないので、流石のデイダラも右近が死んだと認識し始めて少しだけ気を緩めた。

 デイダラ本人の意識では気を緩めたつもりはなかった。だが、右近の姿が見えない事実と自身の術への自信がデイダラの注意力をほんの少しだけ散漫にさせたのだ。

 

 その瞬間を右近は待っていた。

 

 この時、右近は大鷹が爆発する寸前に『水牢の術』で自らを包むことで大鷹の爆発を防ぎ、そのまま術を空中に維持し続けることで爆煙の中に身を潜ませていた。我愛羅が宙に浮かべた砂の上に乗ることで空を飛ぶように、右近は水を宙に浮かせることで滞空したのだ。

 そして、たとえ爆煙の中だろうが水の中だろうが、仙人状態の感知能力に一切の翳りはない。

 

 だからこそ、デイダラの意識が逸れた瞬間を見逃さない。

 

 右近は『水牢の術』を空中に維持したまま水の中からスルリと抜け出し、左近が『軽重岩の術』を発動して右近の肉体を身軽にさせた瞬間、右近はそのまま水を足場にしてデイダラへ向かって跳躍した。

 

「なっ……!?」

「えっ……!?」

 

 死んだと思いかけていた右近が爆煙を切り裂くように急接近して来たのを見たデイダラとトビの動きが驚きからほんの一瞬固まる。

 その一瞬だけで右近は『C2ドラゴン』に接近し、そのまま攻撃に移る。

 

「仙法・超大玉螺旋丸!」

 

 竜の頭上をとった右近は右手に直径五メートルを超える極大サイズの『螺旋丸』を生み出して竜の背へと叩きつけた。

 仙術チャクラを盛り込まれた極大サイズの『螺旋丸』の破壊力は凄まじく、上空百メートル近い高さを飛んでいた竜を地上へと吹き飛ばす。

 『螺旋丸』の影響でクルクルと回転する竜は体勢を立て直すことすらできずに落下していき、地上にあった『土牢堂無』に激突した。

 

 上空百メートルからの落下の勢いと竜自体の重みが合わさり『土牢堂無』はグシャリと押し潰され、大量の土煙がもうもうと立ち込める。

 

 そんな状況の中、竜の上に乗っていたデイダラとトビはというと──

 

「痛てて……大丈夫っすか!デイダラ先輩!」

「ゲホゲホッ──なんとかな……って、オレがクッション出してやったから無事なんだろうが!」

 

 二人には大した傷もなく、仲良く軽口を叩き合うほどには元気があった。

 二人は落下した竜の上に立っていたが、二人と竜の間には腹部が丸々と太った大きな蜘蛛のような粘土の造形物が新たに存在していた。

 デイダラはたった数秒間の落下中に腹部が風船のように膨らんだ粘土蜘蛛を作り出し、それをクッションにしていたことでデイダラとトビは重傷を負わずに済んだのだ。

 

 だが、無事に落下から生き残ったのも束の間、デイダラとトビに対して右近はすぐに追撃を仕掛ける。

 いまだ遥か上空に滞空している右近の肉体に対して左近が『超加重岩の術』を発動させた。

 『超加重岩』により非常に強力な重力をかけられた右近の肉体は急速に落下していく。超高速で移動して大気を切り裂き、右近の落下軌道にあった空気が圧縮されたことで断熱圧縮により右近の体は猛烈な熱と炎に包まれた。今の右近はまさしく隕石そのもの。その破壊力もまた隕石の衝突に匹敵する。

 

「マズ───ッ」

 

 右近が術を発動し急加速した瞬間に危険を察知したデイダラが回避しようと試みるが、避ける暇も防御する時間すらも与えず右近が落ちて来た。

 

 ズガンッ──という音が周辺一帯に轟き、落下地点を中心に衝撃波が台風のように吹き荒れ、地が波打ち揺れ動く。そして、落下の破壊力を示すように先ほど竜が落下した時以上の土煙がまるで噴火したかのように天高く舞い上がった。

 

 まるで天変地異の如き衝撃波と揺れは、右近の戦いに巻き込まれないように数百メートルは離れていたサスケたちにも襲いかかっていた。

 

「ッ!」

「うわっ!?」

「きゃあっ──!!」

 

 サスケ、水月、香燐が三者三様の反応を示しながら地面の揺れと衝撃波の風圧から身を守った。

 

 暫くして揺れと風が収まった時、三人が目にしたのはまさしく隕石が落下したかのような光景だった。

 

 右近が落下した箇所を中心にすり鉢状に陥没しており、衝撃波により地面は大きく捲り上がり、地震により所々がひび割れて隆起しており、空気摩擦で起きた熱と炎が草原を燃え上がらせていた。

 

 地獄という言葉が相応しいその場所に戦っていた右近とデイダラとトビの姿はあったが、その姿は立ち位置と合わせて三者三様の有り様だった。

 

 クレーターの中心に佇む右近は熱と炎で服こそ全焼していたが、その素肌は『土矛』により守られて全くの無傷だった。

 衝撃波に吹き飛ばされたデイダラはクレーターの中心から大きく離れた位置におり、服装は土砂と煤に塗れて汚れてボロボロになっているが辛うじて無事なのに対し、その肉体は衝撃波により散々に打ちのめされて満身創痍も良いところだった。

 トビは落下の瞬間に『神威』により異空間に逃げ込んでいたことで衝撃波から逃れており服装にも肉体にも傷はなく、元の空間に戻って来た時にはクレーターの中心にかなり近い位置におり、その服だけは土煙と煤により薄汚れていた。

 

 トビはともかく、デイダラがこの程度で済んでいるのは右近が落下場所をわざと外したからだった。

 

 そもそもの話、右近にはサスケを狙って来たデイダラと戦う理由こそあれど、殺す理由はない。

 だからこそ、散々に痛めつけたことで満身創痍にしたデイダラを前にして次のような提案ができる。

 

「まだやりますか?」

「なんだと……!?」

「何度爆発させても私には通用せず、体は満身創痍の状態──特に両腕はまともに術も使えない状態だ……この辺で退()きませんか?」

「……は?」

 

 右近の提案の意味が分からずにほんの少し呆然とするデイダラだったが、右近の提案はつまり「勝ち目がないから降参したらどう?」と言っているに等しい。それを理解した瞬間、デイダラの顔が真っ赤に染まった。

 

「……もうオレに勝ったつもりか!?」

「え〜でも先輩、もうボロボロじゃないっすか……ここで退くのもありなんじゃないっすか?」

「トビ!テメーはすっこんでろ!──そこまで勝ち誇るんなら、オレの次の術を受けてみろ!」

 

 右近の提案とトビの言葉に煽られたデイダラがキレた。

 

「オイラのとっておきで殺してやる……!」

 

 デイダラが辛うじて残った左腰のポーチへと手を伸ばし残った全ての『起爆粘土』を貪り喰らう。

 

「わわわ!やばいやばい!C4カルラだー!!」

「──サスケ!水月!香燐!もっと離れろ!!」

 

 デイダラの行動を見たトビが慌てて逃げ出し、右近がサスケたちに避難を促した。

 サスケたちはトビの動きを見て、右近の言葉を聞いて素直に距離を取るために駆け出した。

 

(テメーは逃げないつもりか!?どこまでも舐めやがって!!)

 

 右近はサスケたちを逃したもののその場で立ち尽くし、デイダラの術の準備を悠々と待つ。

 その余裕綽々な姿にさらに怒りを募らせたデイダラは極限までチャクラと殺意を込めた『C4カルラ』を解き放つ。

 

 デイダラの口から吐き出された『C4カルラ』はデイダラと同じ姿をしていたが、その大きさは右近が見上げるほどの巨体だった。

 だが、その巨体は見かけだけのもの。右近を一刻も早く始末するため、その真の力を発揮させようと、デイダラは巨大な『C4カルラ』を原作のように風船のように膨らませることもせず、即座に破裂させて中に詰まっていたナノサイズの超小型『起爆粘土』をぶちまけさせた。

 

 本来の『C4カルラ』は限界まで膨らませてから破裂させた風圧で超小型『起爆粘土』を広範囲に拡散させるのだが、標的である右近がすぐ近くにおり、まだ遠く離れていないトビを巻き込まないためにも、拡散範囲を最小限にとどめる意図も含めて今回は膨らませずに破裂させていた。

 

 拡散したナノサイズの『C4カルラ』を感知能力で捉えていた右近だったが、そのまま呼吸とともに体の中に吸い込んだ。

 デイダラもまた至近距離にいたことで『C4カルラ』を吸い込んでいたが、枯渇しかけのチャクラを振り絞って自身に微弱な雷遁チャクラを巡らせることで体内に入り込んだ『C4カルラ』を無力化する。

 

 歴戦の忍であるイタチを殺すために会得した『C4カルラ』だが、ナノサイズのために普通の『起爆粘土』のようにデイダラの意思で任意に起爆することが困難になっていた。

 そのため、デイダラは万が一の場合──つまりは今回のようなデイダラ本人も『C4カルラ』を吸い込んだ時の対応のためにチャクラを雷属性に性質変化させる修行を積んでいたのだ。

 

(デイダラがまさか雷遁を使えるとはな……)

(あぁ、原作ではそもそもC4カルラで自滅しないような立ち回りをしていたが、こんな対応策まで用意していたとはなぁ……)

 

 右近と左近が内心でデイダラの行動に驚いている間に、デイダラは『C4カルラ』を起爆させるべく印を結び終わっていた。

 

「オイラの芸術の勝ちだ!……喝ッ!──昇華!」

 

 デイダラの合図により右近の肉体に侵入した『C4カルラ』だけを起爆させ、右近の肉体を分子レベルでボロボロにしていく────はずだった。

 

「何ッ!?」

 

 デイダラが目を見開いて驚く。それもそのはず、確かに起爆したはずの『C4カルラ』は右近の肉体を破壊せず、右近は堂々とその場で立っているのだから。

 

「そんな……そんなはずはねえ!オイラの芸術は……C4カルラは確かに起爆した!いったいどんな手を使いやがった!?」

 

 デイダラが狼狽しつつ右近へ疑問をぶつけた。

 右近はデイダラの疑問に対しゆっくりと、かつ、堂々と自らの『C4カルラ』対策を語り出す。まるで冥土の土産のように。

 

「あなたの術が粘土にチャクラを込めて爆発物に作り変える術なのは感知して理解してました。だから粘土に込められたチャクラさえ抜ければ無力化できるはずだと考えてました」

「チャクラを抜く……だと……!?」

「ええ、幸いにも私のかつての仲間にチャクラを吸収する術が得意なやつがいましてね……私の体内に入り込んだ極小サイズの爆弾からチャクラを吸収させてもらいました」

 

 二年半前に死亡した次郎坊の細胞を右近は取り込み、その力を完璧に己のものへと昇華していた。

 その力を使い体内に入り込んだ全ての『C4カルラ』からチャクラを吸収することで不発に終わらせたのだ。

 

「だが、実際にオイラの芸術がその方法で不発にできるかまでは分かってなかったはずだ!そんな博打に命を賭けたのか!?」

「いいえ、博打ではなかったですよ。あなたの大虎を捕えた土遁の術にもチャクラを吸収する効果がありましてね。それで不発にできるのは分かってました」

「なっ……!?」

 

 『土遁・土牢堂無』は敵を捕えてチャクラを奪い尽くす拘束と無力化を同時にこなす術だ。その力を使い右近は『C2タイガー』からチャクラを吸収したらどうなるかの観測をしていた。その結果、『土牢堂無』に捕えられた『C2タイガー』はチャクラを吸収されたことで最終的にピクリとも動かない置き物と化したのを右近は確認していた。

 また、右近はあえて語らなかったが、粘土ムカデや大鷹に至近距離で爆発された時にもチャクラを吸収することで爆発の威力を抑える対策を行なっていた。

 

「テメー……そんな時から……」

「まあ敵の術を分析して対策するのは当然のこと……これぐらいはあなたも普通にやってるでしょう?」

 

 デイダラが右近の分析力と対応力に舌を巻くが、戦闘で敵の術への対策を考えるのは当然のことであり、ましてや原作知識のある右近からすれば原作で使われた術の対応策は考えるのがなおさら当然であった。

 

「さて、と……」

「ぐっ……!」

 

 右近は説明は終わりとばかりにデイダラへ向けて一歩踏み出し、それを受けてデイダラは一歩退く。

 

「はっきり言って、あなたを殺す意味はないんですけどね……」

「あぁ……?」

 

 右近の言葉の意味が分からず怪訝な顔をするデイダラ。

 だが、右近の顔を見て何を考えているのか読めた。

 

「テメー……イタチの情報を知りたかったんじゃなかったのかよ……!」

「ええ、まあ……でも、あなたは話さないでしょう?」

「チッ……!」

 

 右近の言うとおりデイダラは初めからイタチの情報を教える気なんてさらさらなかった。イタチがいくら憎い相手と言えど、デイダラはたとえ拷問されようとも現在の仲間を売るような真似をするつもりはなかった。

 

 右近もそれを理解していた。

 そして、右近にはデイダラを殺す理由がないが、同時に生かしておく理由もない。ましてや今回敵対してデイダラの不興を買ったことで今後も敵対する可能性が高くなってしまったならばなおさらだ。

 

 右近はチャクラを込めた右手を貫手の形に構えながらゆっくりとデイダラに近づく。

 そして──

 

「では、さようなら」

「ぐはっ……ちくしょう……が……」

 

 右近の貫手がデイダラの心臓を貫き、完全に破壊した。

 ジュボリと生々しい音を立てて右近は右腕を引き抜くと、右腕はひじあたりまでデイダラの血で真っ赤に染っていた。

 

 力尽きてドシャリと地面に横たわった生気のないデイダラをじっと見下ろしていた右近だったが、土遁の術でデイダラをその場に埋葬して小さな墓石を作り出した後、サスケたちと合流するために歩き出した。

 

 右近が作った墓石にはこう刻まれていた。

 

 ──偉大なる芸術家、ここに眠る──と。

 

 


 

 

 

「────っていう感じで決着したよ」

「なるほどな……」

 

 軽い口調でデイダラと()()との戦いの一部始終を語り終えた白ゼツに対して、ペインが鷹揚に頷くことで応えた。

 そのままペインは少しだけ右近について考え込んだものの、他に優先するべきこと──かき集めた尾獣たちを封印しようと言葉を口にする。

 

「報告は終わりだな……ではこのまま尾獣どもの封印に移る」

 

 今残っている暁のメンバーはペイン、小南、ゼツ、トビ、イタチ、鬼鮫の計六人である。尾獣を外道魔像に封印する術は本来なら十人で行うそれを半数近い人数でやろうとすれば、それだけ効率は落ちる。

 

「一匹あたり一週間以上──三週間は動けないと見ておけ」

「やれやれ……人数が減ると封印もままなりませんねえ……」

 

 ペインの指示に鬼鮫がぼやきながらも封印術の準備に入る。

 

 次に暁が動くまで後三週間──。

 

 

 

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