音の四人衆最強の男   作:北山 真

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イタチの真実

 

 ナルトたちが角都を倒して飛段の首と胴体を木ノ葉隠れの里へと持ち帰った三日後。

 火影室には多くの忍が集められていた。

 メンバーは部屋の主人である綱手を筆頭に、カカシ、ヤマト、ガイ、ネジ、アスマ、シカク、右近と左近の合計九名である。

 

「さて、皆が集まったところで始めようか」

 

 錚々たる面々を集めた綱手が口を開き会議を始める。

 集まった面々を見て分かる通り、今回の議題は前回の密談の時に右近左近が語ったダンゾウの黒い疑惑とイタチの真実についてだ。

 

 だがその前に──

 

「まずは右近と左近からだ。何か話があると聞いたが……」

「ええ、私の本体の方で動きがありましたからそれの報告をと思いまして」

 

 綱手が本格的に会議を始める前に右近左近に話を振ると、右近左近は最近あった本体の出来事を語り出す。

 

「一週間ほど前に私の本体が暁と遭遇して戦いになりました」

「何?相手は誰だ?」

「風影を襲ったデイダラと新顔のトビと名乗ったお面を被った男の二人組でした」

「デイダラ……あの男、生きていたのか……」

 

 右近の報告にカカシが後悔を滲ませるように呟いた。

 カカシはナルトとともにデイダラと戦ったことがあったが、追い詰められたデイダラが自爆しようとしたので、それを止めるためにカカシは『神威』により爆発ごとデイダラの全身を異空間に消し飛ばしたと思っていた。

 だが、右近の報告が本当ならば自爆したデイダラは偽物だったことになり、カカシはまんまと騙されていたことになる。

 

 デイダラは砂隠れの里を強襲して風影である我愛羅と激闘を繰り広げて拐かしたほどの男だ。それが生きていたと知れば危険視もする。だが、それはカカシの杞憂だった。

 

「ええ、しかし──確実に殺しました。問題ありません」

「そうか……」

 

 カカシは右近の報告を聞きデイダラの脅威がなくなったことに安堵した。だが、それ以上にデイダラを倒した右近と左近がそれ以上の脅威であることを再認識した。

 

 木ノ葉隠れの里に所属する忍から見れば右近左近という存在は危険すぎる。

 しかし、今木ノ葉隠れの里にいる右近と左近は所詮は『木分身』であり倒しても何も得られないどころか木ノ葉隠れの里で戦闘を起こせば里に住む多くの人を危険に晒すことになる。

 また、右近左近は木ノ葉隠れの里に対して一貫して協力的な態度を取り続けており、さらには里抜けしたサスケの情報源でもあるので、木ノ葉隠れの里側も積極的に敵対行動をとろうとはしていない。

 

 だが、右近左近は元々“あの”大蛇丸の部下である。情報源として信用できたとしても、仲間として信頼はできない。

 

 そして今回、右近左近がデイダラを倒したことでまた一つ右近左近の戦闘力の片鱗を見せられた。そもそも右近左近は二年半前の時点で自来也と戦えるほどの人物であり、先日の九尾の力を暴走させたナルトを制圧した事実からもその実力は疑う余地もないほど高い物だとは分かっていたが──

 

(今はまだ協力的だから良いが……もしもの時は……)

 

 カカシが冷静に覚悟を決めた。万が一敵対したその時には差し違えてでも殺す必要があると。

 

「死んだデイダラは置いておいて──残る新入りのトビという人物についてはほとんどなんの情報もありません。術を使う様子もありませんでしたし……ただ……」

 

 カカシが覚悟を決めている間にも右近は報告を続けていたが、少しだけ言葉を詰まらせ、カカシの方をチラリと横目で盗み見てからさらに報告を続ける。

 カカシは右近の視線が自分に向けられたことには気がついたが、まさかその視線に込められた意味が死んだはずのオビトの話をどこまでするべきか悩んだなどとはつゆにも思わなかった。

 

「奴はどうやら妙な術を使うようで……何度か物理攻撃を当ててみたのですが手応えが全くありませんでした」

「物理攻撃が効かない……?」

「それだけではよく分からんな……どんな状況だったんだ?」

 

 右近の報告にネジが疑問を思い浮かべ、ガイが詳細な報告を求めた。

 

「一度目は掌底を腹部に、二度目も同じく腹部に蹴りを入れましたが、確かに当たる距離のはずだったのに当たった感触すらありませんでした。当たる寸前にチャクラが集中するのを感じたので、なんらかの術の効果なのは確かだと思いますが、それ以上は不明です」

「ぬう……そうか……」

 

 ガイは右近の説明を聞いても術の詳細が分からないことに唸ったが、それ以上の説明は出てこないと思いそれ以上説明を求めることはしなかった。

 

「さて、私の方からはそれぐらいですね……木ノ葉の方ではどうですか?」

「ああ──まずはガイとネジから頼む」

「ええ、分かりました」

 

 右近からの報告が終わり今度は木ノ葉隠れの里側からの報告に移る。

 綱手に促されたガイは了承の言葉を返してネジの方へと目線を送った。

 ガイと視線で会話したネジは一つ頷き、自らの目──白眼で見たものをありのまま語りだす。

 

「綱手様のご命令通りダンゾウの腕をこの目で見ました……情報通り──ダンゾウの右腕には夥しい数の写輪眼が埋め込まれており、さらには彼の右目も写輪眼になっていました」

「……」

 

 ネジの報告にその場の空気が重くなり、静寂に包まれた。

 右近と左近からの情報提供により、大蛇丸からダンゾウへと大量の写輪眼が埋め込まれた腕を送られていたのは分かっていたことだった。

 しかし、今回のようにはっきりと現実を突きつけられると言葉が出なくなった。

 ダンゾウとて木ノ葉隠れの里の忍であり、里のことを思って行動しているはずという考えが、ダンゾウが大蛇丸と裏で繋がっていたという事実に否定された。

 

 そんな中でも気持ちを切り替えて口火を開いたのはやはり綱手だった。

 

「そうかご苦労だったなネジ……ダンゾウへの対処はまた後で検討することにするとして、先にシカクとアスマから報告をしてもらおうか」

「はい。では私から」

 

 綱手に促されたシカクとアスマのうち、まずはシカクから報告を始める。

 

「私はうちは一族の抹殺事件が起きる二年前からのうちは一族に与えられた任務記録とうちは一族に関する議事録を全て洗い直しました結果、興味深いことが分かりました」

 

 シカクの語る議事録とは、木ノ葉隠れの里における重要な会議の記録のことである。当然のことだが、里の運営を火影一人の決定で行っているわけではない。火影には大きな裁量権があるが、普通は相談役などと会議をして最終決定を行っている。それらの会議の記録が議事録である。

 もちろん、議事録には書かれていない会議も存在している。表社会に出すべきではない裏の任務──うちはイタチの真実など、記録に残してはいけないものは当然ある。それはシカクも重々理解していた。

 

「当然のことですが、イタチに一族抹殺の任務を与えた記録などは残されていませんでした──ですが、議事録の方には少なくないうちは一族に関する議題がありました」

「どんな内容だった?」

 

 シカクの報告に綱手が的確に質問を投げかけた。

 

「基本的にはうちは一族の監視を外す、あるいは緩くして欲しいという嘆願ですね」

「監視?どういうことだ?」

「事の発端は十六年前に起きた九尾が里を襲った事件です。その時、うちは一族の多くが任務で里の外に出ていたことから被害が少なかったうえに、外部から侵入された痕跡も無かったので里の上層部は内部犯を疑った。そして、かつてマダラが写輪眼で九尾を操った事実から十六年前の事件もうちは一族の誰かがやったと疑われました。その結果が暗部による二十四時間体制での監視だったようです」

「ありえない──とは言えない……か」

 

 シカクの説明に綱手が渋々といった様子を隠さず苦い顔で納得を示した。

 うちはマダラが写輪眼を用いて九尾を操れたのは綱手も知る事実である。なんせ祖父である千手柱間から直接聞いたこともあるのだから。それゆえに、うちは一族の誰かが十六年前の九尾事件を引き起こしたと言われれば否定できない。

 そして、その疑いはある意味では正しく、ある意味では間違いであった。九尾事件の真犯人はうちはオビトなのだから、うちは一族の誰かが九尾を操ったという疑いは正しいが、オビトはすでに里を抜けた存在なので里の人間を疑ったのは間違いだった。

 もっとも、死んだはずの人間を疑えというのは酷な話であるし、死んだ人間も疑うのならば真っ先に名前が出るのは前科があるうちはマダラであろう。それこそ、四代目火影がオビトと対峙した時にマダラの名前を思い浮かべるぐらいには。それほどにオビトという真犯人は予測不可能であった。

 また、里を守る結界が破られた痕跡がなかったのも内部犯を疑う理由になった。結界は里の人間以外が侵入した時にすぐに分かるようにするものだが、元とはいえオビトは里の人間であり結界は反応しなかったし、そもそもオビトは時空間忍術で侵入したので結界は意味をなしていなかった。

 

「その監視体制に異議を訴えたのが当時の族長であったフガク殿のようでした。いくら暗部の優秀な忍といえど、うちは一族の眼から隠れ続けながら監視するのは至難の技……監視されていることが目に見えてはっきり分かるのは窮屈であると、うちは一族を代表してフガク殿が三代目火影様に何度も訴えていたようでしたが……」

「……監視体制を緩めることはなかった、か」

「……はい」

 

 シカクが濁した言葉を綱手が推測して続けると、シカクは観念したかのように頷いた結果、室内に沈黙が降りた。

 

 数秒の沈黙の後、それを破ったのはアスマだった。

 

「あー……その件については親父も悩んでいたようでした。親父の日記にも仲間を疑う苦悩が記されていましたし、なにより当時を知るヤツからも悩んでいる様子だったとは聞けました。うちは一族が滅んだ時も『何かできることがあったのでは……』と後悔していたと」

「そうか……」

 

 アスマの報告で五代目火影として綱手は三代目火影の気持ちが少し理解できた。仲間を疑いたくない気持ちとうちは一族を疑わねばいけない状況での板挟み。その苦悩は察するに余りある。

 アスマからの補足が終わったところで、再びシカクが口を開いた。

 

「──報告の続きになりますが、うちは一族が滅ぶ前、うちは一族の忍たちは定期的に集会を開いていたようでした。それと、里の忍に対して強い敵愾心が見てとれたともありました」

「何──?」

「ここからは憶測になりますが、うちは一族は監視される生活が改善されない状況にストレスを溜め込み、それを爆発させようとしていたのではないかと」

「爆発──つまり……」

 

 何かを察したような綱手の言葉に一つ頷いたシカクが言葉を紡ぐ。

 

「ええ、うちは一族はクーデターを起こそうとしていた可能性があります──」

 

 部屋にいた面々はシカクのあまりにも予想外すぎる言葉に絶句してしまう。その中には真実を知っている右近と左近も含まれていた。

 

(憶測とはいえ真実にまで辿り着くとはな……さすがはシカクと言うべきかな)

(まぁなぁ……だが、話が早くて助かるぜぇ)

 

 右近と左近はこの報告会にてイタチの真実──うちは一族がクーデターを起こしかけ、それを阻止するためにうちはイタチが同胞を抹殺した──という荒唐無稽な話に誘導していくつもりでいたが、労せずして頭脳明晰なシカクがその手間を省いてくれた形となった。

 

「待て待て待て!うちは一族がクーデター!?そんな話は聞いたことがないぞ!」

「ええ、自分で言っておいてなんですが、こんな荒唐無稽な話は到底信じられないでしょう。しかし、この憶測ならば様々なことへの説明がつくのも確かなのです」

 

 シカクの話を信じれないと混乱した様子でガイが口を開いたし、その気持ちはシカクも十分に理解できた。だが、シカクの中では確かに筋の通った話なのだ。

 

「話を詳しく聞こうか」

 

 綱手もまたシカクの話に混乱していたが、努めて冷静な態度を崩さないようにしながらシカクに話の続きを促した。

 

「はい。まず、今回の憶測は最終的な結論──つまりはうちは一族がサスケを除いて殺されたのは里の命令があった、という結論から逆算して導き出したものです。この結論に異論があるかもしれませんが、そこにいる右近と左近が語ったように、たった一日でうちは一族全員が死亡したというのは不自然すぎる……誰かの作為があったと想定するのが自然であると言えます」

 

 かつて右近と左近が語った内容とは、『うちは一族が皆殺しにされた日に都合よく全員が里に集まっていたのは木ノ葉の上層部が任務に行かせずに里に留まらせたからだ』というものであった。

 そして、その内容を補強するための情報がシカクにはあった。

 

「暗部が里を監視していたというのも大きな情報です。監視するためにうちは一族が任務などで里の外へ出る機会を制限していたとしたら……事件の日に全員が里内にいたことにも頷けます」

 

 監視は対象が一箇所に纏まっているほどやりやすい。特に九尾の暴走を引き起こしたという容疑がかけられていたうちは一族なのだから、監視の目が届かない里の外へと出さないという考えにもなるだろう。

 

「ですが、それを窮屈だと捉えるうちは一族の考えにも理解できます。簡単に里の外へと出れないほど監視されていたとしたら、それは里そのものが監獄のようだったでしょうからね」

「むむむ……」

 

 シカクの説明にガイが唸る。ガイの感情はうちは一族のクーデターを否定しようとしていたが、ここまでのシカクの説明には説得力があったからだ。

 

「監獄に捕えられた囚人が取れる選択は二つ。一つは大人しく刑期が終わるのを待つこと。もう一つは脱獄、あるいは反乱を起こすことですが、この事件の結果──つまりイタチがうちは一族を皆殺しにしたことが里からの任務だったとするならば、それはうちは一族がなんらかの動きを見せていたに他ならないと考えました」

「それが反乱──クーデターだと?」

「ええ……うちは一族が大人しく模範囚のようにしていれば、里側は殺す必要はないはず。特に三代目が絶対にそうはさせない」

 

 シカクの三代目火影を擁護するような言葉に三代目火影の弟子である綱手は無言で頷いた。三代目火影の優しい性格を考えれば、大人しく監視されているうちは一族に無体なことはさせないだろうというのは、この場にいる全員の共通認識であった。

 

「逆に言えば、事が起こったということは三代目ですら庇い切れないほどの何かがあったという予測ができます」

 

 シカクの言葉に右近と左近を除いた全員がハッとさせられた。

 いくら里側がうちは一族を九尾事件の犯人だと疑いを持っていたとて、やることは精々が監視程度だ。疑わしきは罰せず、という言葉通り、うちは一族を罰するどころか皆殺しになどしない。里長としては甘いとまで言われる三代目火影が長の時代だったのだからなおさらだ。

 にも関わらず、うちは一族はイタチに皆殺しにされた。これが里の任務だと仮定するならば、その残酷な指示に値するだけの決定的な根拠がなければならない。

 それが、うちは一族のクーデターだとシカクは推測したわけである。

 

「もちろん、これはイタチが任務で殺した場合の話です。イタチが私情で殺していたなら別ですが……」

「その可能性は低い気がするね……少なくともオレが知るイタチは家族思いで、仲間思いで、それでいて里思いのやつだった」

「……」

 

 シカクは自らの仮説の前提を再度念押しして皆に伝え、イタチ自身の意思で同族を殺した可能性を示唆したが、それを否定するようにカカシが悲痛そうな声で話し、シカクもまたカカシと同様の思いだったのか黙したまま下を向いた。

 

「……結論は出たな……イタチはクーデターを企てた一族を里の命令で殺した。いまだ信じられないような話だが──私はこれを前提にして当時の状況を相談役から聞き出そうと思っている」

 

 シカクの推測を聞き、そのうえで綱手が出した結論は当時を知る相談役──水戸門ホムラとうたたねコハルに話を聞くというものだった。

 

 相談役に話が聞けるなら初めからそうするべきだったのではないかと、そう思われるかもしれないが、それは違う。

 大前提として綱手たちが知ろうとしているうちは一族の真実とは、里にとっては闇に葬るべき存在なのだ。表に出してしまえば大スキャンダル間違いなしであり、うちは一族がクーデターを目論んでいたことを加味しても、里の人間からすれば『木ノ葉隠れの里は不安要素を一族抹殺という過激な形で粛清する』と、里そのものに対する不信感を抱くきっかけになるだろう。

 それを考えれば、イタチの真実は闇に葬りさるべきなのだ。

 

 当然、綱手たちもその事は承知している。それでもなお真実を知ろうとしているのは、これが右近と左近との取り引きの一部であるからと、ナルトが追い求めるサスケと関われる最大の好機であるからだ。

 この機会を逃せばサスケと接触する機会は皆無になる。それが分かっているからこそ、綱手はあえて闇を暴こうとしているのだ。

 

「幸いにも、あの暁の飛段という男から情報を得れた。その結果、奴らは襲った人柱力から尾獣を引き抜くために三週間ほど時間がかかるらしい」

 

 木ノ葉隠れの里には対象の記憶を読み取る術を持つ忍が何人か在籍している。それらの術者が飛段の生首から情報を引き出していた。

 飛段の生首は三日経っても腐らずにそのまま喋り倒していた。情報を読み取るついでに、綱手が不死身の肉体の秘密を暴くために定期的に栄養剤を投与して腐らせずに保存しているからだ。

 しかし、結果として得られた情報はあまり多くはなかった。飛段は組織内でも割と新参者だったり、ジャシン教以外のことはあまり興味がないせいで、ろくな情報を得られなかったのだ。

 得られた情報は集めた尾獣の数と、それを封印するために三週間ほど時間がかかることと、いくつかのアジトがある場所のみ。

 

「奴らはすでに八尾と九尾以外の尾獣を集めていたようだ」

「すでにそんなに……」

 

 綱手の齎した情報に一同が愕然とする。

 尾獣とは一体でも戦争のあり方を変えてしまうほど強大な存在である。それが七体も集められているということは、暁はすでに大国以上の戦力を得たも同然のことだった。

 

「先にこの情報を知らせた自来也はナルトとともに修行を開始させている。次に狙われる可能性が高いからな。お前たちも暁との戦いに備えて、この三週間でより強くなってもらう!いいな!」

 

 綱手の檄が飛び、集められた全員の顔が引き締まった。

 そうして木ノ葉隠れの里は迫る暁との戦いに備えて力を蓄える期間に入る。

 特に九尾の人柱力として狙われているナルトは自来也とともに仙術の修行へと挑んでいく。

 

 その一方で、サスケの動向はというと──

 

 

 


 

 

 

「サスケ、少し話がある」

「なんの話だ?イタチのことか?」

 

 とある平原を移動中に右近はサスケに声をかけると、サスケは苛立ちを滲ませた声で右近へと問いかけた。

 普段は冷静なサスケだが、イタチが一向に見つからないことで苛立ちを溜め込んで殺伐とした雰囲気を醸し出していた。

 

 水月はそんなサスケの様子には辟易としており、下手に茶化すと殺されかねないと思って少し距離をとっており、香燐もまた殺気だって刺々しいサスケの様子を心配しつつも様子を窺っていた。

 

「ああ、そのイタチについて──大事な話がある。少し座ろう」

 

 右近が木遁を使って椅子を四つ作り出し、そこにそれぞれが座る。

 

「それで?大事な話ってのはなんだ?イタチの居場所が見つかったのか?」

「いや、残念だけどそれじゃあない」

「チッ……じゃあなんだ?」

 

 サスケはイタチが見つからないことに憎々しげに舌打ちをした。

 サスケはこれまでの人生の大半をイタチを殺すためだけに生きてきた。今のサスケはイタチを殺せるだけの力を手に入れたと自負している。

 だが、それゆえにサスケは焦れている。見つけ出せれば殺せるのに、見つけることができないというのはサスケにとって大きなストレスになっていた。

 

 右近と左近はそんなサスケの様子に罪悪感を感じていた。

 右近と左近はサスケにイタチの真実を知らせる前に接触させないように動いており、本気で捜索していたなら今ごろイタチの居場所を発見していてもおかしくはなかったからだ。

 

 そして同時に、今から伝えるイタチの真実を知ることがサスケにとって果たして本当に良いことなのかという葛藤も存在していた。

 右近と左近がサスケを気にかけているのは、自らと境遇が少しだけ被っているからだ。

 右近と左近は望んでもないのに悪魔によりこの世界に転生させられ、さらには幼い頃に大蛇丸に遭遇したせいで強くならなければ生き残れなかった。

 対して、サスケはイタチに仕組まれて実兄を憎悪から殺さなければならなかったうえに、実際にはその兄に愛され守られていたことを知ってしまい里へと憎悪を向けてしまう。

 どちらも上位者に運命を翻弄されているという点が共通している。

 しかし、決定的に違う点がある。

 

 それは、右近と左近がすでに終わった出来事なのに対して、サスケはイタチに家族を殺されたものの、イタチを殺すのはまだこれからということ。

 そしてもう一つ、右近と左近には選択肢がなかったのに対して、サスケは選べること。イタチの真実を知ってもなおイタチを殺すのか、それともイタチに一族殺しをさせた里への復讐を優先するのか、はたまた新たな選択をするのか。

 

 イタチの真実を知ることでサスケは原作にはない悩みを抱えることだろう。知らずにイタチを殺したかったと思うかもしれない。それが良いことなのか悪いことなのか、右近と左近にも結論は出せなかった。

 しかし、たとえ右近と左近のエゴだとしても、右近と左近はサスケに伝えるべきだと考えていた。サスケに自らが歩んでいく道を選ばせるために。

 

「サスケ──お前はイタチが一族を皆殺しにしたことについて何か違和感を持ったことはないか?」

「何──?」

「俺はある。いくらイタチが優秀な忍だったにしろ、一人で一族を皆殺しにできたことに違和感があった。それに、計られたかのように一族の全員が里にいたことにも違和感があった。本当なら誰か一人ぐらい任務で里の外に出ていてもおかしくない。お前にもそういう違和感があったんじゃないか?」

「────イタチの他に協力者がいたんじゃないかと考えたことはある」

 

 右近が呈した疑問に対し、サスケは少し間を取ってから答えた。そして、ゆっくりとかつて見た惨劇を思い出しながら話していく。

 

「あの時の状況は目に焼き付いている──酷い状況だった。だが、争った形跡は少なかった」

 

 サスケが見たのは血塗られた住居だが、家などはその場に無事にあった。

 それはつまり、うちは一族はろくな抵抗もできずに皆殺しにされたことに他ならない。

 

「イタチ一人じゃ無理だ。一族全員に毒でも盛らない限りはな。誰か協力者がいるはず──そう思っていた。何か知っているのか?」

「それと関係あるかは分からない。だが、イタチについて重要な情報を仕入れてきた」

 

 サスケはかねてより疑問に思っていたことを口に出した。実際、原作ではサスケはイタチと対峙した時に同じ内容を聞いていた。そして、その疑問は当たっており、イタチには協力者がいた。

 当時、イタチの協力者はうちはマダラと名乗っていたうちはオビトである。だが、そのことを右近と左近は当然知っている。しかし、当事者以外は知れるはずのない情報なので語れない。

 

 その代わりとばかりに、右近と左近は木ノ葉隠れの里に調べさせた推測を話し始める。

 

「ゆっくりと順番に話していこう。まず、イタチの事件に疑問があった俺は、当時の状況を知るために分身を使って木ノ葉と接触した」

「何──?」

 

 右近のまさかの発言にサスケの顔色が変わる。

 右近と左近は大蛇丸の部下として何度も木ノ葉隠れの里と敵対した。そんな人間が接触したと聞けば訝しげな顔をしておかしくない。

 それはサスケだけでなく水月と香燐もそうだった。

 

「キミ、大蛇丸様の部下として何度も木ノ葉と戦ってたはずだろ?何がどうなったらそんな里と接触しようなんて考えるんだい?」

「しかし、それ以外に当時のイタチのことを知る方法はないだろう?まあ、俺も無策で接触したわけじゃない。この旅が始まる少し前に木ノ葉と戦闘になった話はしただろう?あいつらを人質にとって無理矢理話をせざるを得ない状況を作ったのさ。もちろん、人質には傷一つつけちゃいないから安心してくれサスケ」

「フンッ──誰があんな奴らを心配しているなんて言った」

(照れてツンツンしてるサスケも良い……)

 

 水月の質問に滑らかに答えた右近がサスケにかつての仲間は無事だと伝えると、サスケは鼻を鳴らして突っぱねた。しかし、他の者にはそれは照れ隠しのように見え、香燐はそんな様子のサスケに少しだけ興奮していた。

 

「それよりも早くイタチの重要な情報とやらを話せ」

「まあ落ち着け。一から順番に話していく────」

 

 右近は自身と木ノ葉隠れの里との間に起きた交渉の結果を順番に話していく。

 右近がイタチの事件に違和感を覚えて五代目火影と接触したことに始まり、サスケの行動を保証する代わりに暁についての情報を売ったことも話し、そして最後につい先ほど分身から情報が送られてきたイタチの真実──うちは一族は九尾事件を機に里内から監視され、それを受けた一族がクーデターを企てた結果、イタチが里からの任務で皆殺しにしたという推測をサスケに話した。

 

「そんなはずはない!うちは一族がクーデターを企てていただと!?そんな馬鹿な話があるか!?」

 

 その全てを聞いたサスケは激しく取り乱して椅子から立ち上がり右近に掴みかかっていた。

 

「サスケ………」

「へぇ、木ノ葉はもっと甘くて温い里だと思ってたけど、意外と霧隠れみたいにドロドロしたところもあるんだね──」

 

 香燐は取り乱すサスケの様子を心配そうに見つめ、水月は自身がかつて所属していた“血霧の里”とまで言われた残酷な里のことを思い出して関心を持っていた。

 

 右近はサスケが掴みかかってきたのを解くこともせず語りかける。

 

「これはあくまでも推測にすぎない。決定的な証拠はない。だが、イタチが一族を皆殺しにしたことに対して、やはり何かが隠されていると思う」

「何かとはなんだ!?イタチが一族を殺した!全員をだ!それが全てだ!」

「ならなぜ────お前は生きている?」

 

 決定的な一言を聞いたサスケの動きが止まる。

 

「それは──」

「お前が生きているのはイタチが生かしたからだ。そうだろう?」

「それは奴がオレに憎悪を持って殺しに来いと──」

「お前が知るイタチという男は──本当にそんな男だったのか?」

 

 右近の言葉を聞いたサスケの脳裏にかつての記憶が蘇る。

 『許せ──サスケ』と優しげな笑みを浮かべて額をコツンと突いてくる兄の姿を思い出し、そんな兄が一族を皆殺しにして血塗れになった姿を思い出した。

 

「イタチは──兄さんは、あの時──」

 

 あの日以来忘れたことのない兄の姿。血塗れのまま電柱の上に立ち此方を写輪眼の赤い目で見下ろしていたあの顔には──

 

「泣いていた──いや、そんなはずは………」

 

 ふらふらと右近から手を離して呆然とするサスケ。

 今まで憎しみとトラウマでぼんやりとしていた事件当時のイタチの顔が急にはっきりと鮮明に思い出せた。

 だが、今まで一族の仇だと思い込んでいた人が急にそうではない可能性を示唆されて、サスケは自分の足場がグラグラと音を立てて崩れ去っていくような気がしていた。

 

「サスケ!大丈夫か?」

「あ、ああ──」

 

 顔色の悪いサスケの体を香燐は咄嗟に支えた。その時にサスケの体に抱きつくような形になった香燐だが、その心の中には下心は一切なく、ただひたすらにサスケのことを心配する気持ちでいっぱいであった。

 

「けどさ、それって結局推測でしょ?」

 

 いつもなら香燐のことを茶化す水月も真剣な表情で右近へと問いかけた。

 それに対し、右近もまた真剣な表情で返す。

 

「ああ全ては推測だ。だから本人に確かめるしかない」

「結局、話は振り出しに戻るわけだね。やれやれ、イタチ探しは続行か」

 

 水月はなるべく雰囲気が重くなりすぎないようにわざといつも通りの軽い態度を取ってみせた。

 

 この四人の旅路ももう少しだけ続いていく。

 

 サスケがイタチの下にたどり着くまで、あと────

 

 

 

 

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