今回は短めです。
サスケがイタチに一族を皆殺しにされてから幾年も、サスケがイタチを探し出してはや一ヶ月、そしてサスケがイタチの真相の一端を知ってはや一週間が経過した。
右近から『木遁分身』の一人がイタチと鬼鮫の居場所を捉えたという報告を聞いた時、サスケは複雑な心境だった。
サスケはイタチを幾年も憎悪をもって殺そうと生きてきた。イタチを殺すことだけを目標に生きてきた。この一ヶ月で焦燥に身を焼かれるほどに待ち遠しかった。
だが、一週間前に右近からイタチが任務で一族を殺した可能性を聞かされて、さらには一族がクーデターを企てた疑惑を聞かされて、その上で事件の夜のイタチの涙を思い出して、訳がわからなくなった。
心をかき乱されたこの一週間でサスケは悩み抜いた。朝も昼も夜も関係なく、ただひたすらに考えて考えて──シンプルな答えを出した。
ただイタチに会って──そして、見極める。それしかできないという単純な答えを。
ゆえに、今のサスケに迷いはなく。胸の内に殺意と憎悪を秘めてはいるが、それを表に出すことなく、ただ真っ直ぐにイタチを見極めようとしていた。
そんなサスケ率いる一行は今、うちは一族がかつて使っていたアジトの一つへと赴いていた。そこでうちはイタチがサスケを待ち構えているからだ。
アジトを囲むように存在する鬱蒼とした森に踏み入ろうとしたサスケたちは、待ち構えていた人物に声をかけられた。
「ここからはサスケ君一人で行ってもらいましょう」
声をかけた人物は霧隠れの里の怪人、干柿鬼鮫であった。
そのことに右近は少しだけ予想外そうに眉を顰めた。
(どういうことだ……暁の連中は三週間は封印のために動けないはず。サスケが近づいてくることを察知して封印術から外れたとしても、連日封印術に関わっていたなら少なからず消耗がありそうなものだがそれも感じれない……)
(あぁ、明らかについさっきまで封印術をしてましたって感じじゃあねぇ……何かあるぞこの感じは……)
右近と左近の感じ取った鬼鮫の状態は正しい。確かに鬼鮫は万全の状態でこの場に立っていた。
鬼鮫が封印術に従事していたのは
暁はわざと三週間という情報を木ノ葉隠れの里に与えていた。木ノ葉隠れの里の内情に詳しいオビトは記憶を読み取る術があることを知っており、それにより飛段から情報が抜かれることが分かっていたので、あえて三週間という偽りの時間を与えていたのだ。
実際に普通の術者ならば三週間かかっただろう。
だが、原作の第四次忍界大戦においてマダラが一尾から九尾までを一気に封印したことがあるように、尋常ならざる術者ならば封印術に時間など掛からない。
もちろん、その時のマダラは柱間細胞を手に入れて全盛期以上の肉体であり、さらには輪廻眼まで開眼していたりと、それまでの忍と比べものにならないほどの強者である。いくら実力者揃いの暁と言えど、マダラと比べるのは酷というものだ。
しかし、マダラよりは弱いにしても、暁の中でも頭一つ抜けた強さを持つ人物がいた。うちはオビトである。
オビトは白ゼツという柱間細胞に適合した忍であり、なおかつ万華鏡写輪眼を開眼した強者だ。オビトの強さを考えた時に彼固有の瞳術である『神威』に注目が集まりがちだが、それ以前に単純に強いのだ。
流石に原作のマダラのように一瞬で尾獣を封印とまではいかなかったが、オビトは三週間はかかるだろう封印術を一週間にまで縮めてみせたのだ。
(まずいな……)
(あぁ……)
右近と左近は心中にて会話を済まし、木ノ葉隠れの里にいる分身へと情報を送った。誤情報を掴まされていた今の状況は木ノ葉隠れの里にとって非常に危うい状況であるからだ。
考えられる最悪の状況は暁による木ノ葉隠れの里への奇襲だが、暁が動ける状態にあるという最低限の情報さえあれば備えることができる。
右近と左近が分身と情報共有している間にも状況は変化していた。
「他の方々はここで待っていてもらいましょうか」
「──いいだろう。元々、小隊で動いていたのはイタチとの戦いに邪魔が入らないようにするためだ。ちょうどいい」
鬼鮫がサスケ以外はこの場に留まるように念押しすると、サスケはチラリと右近とアイコンタクトをとった後に頷いた。
その時、何かに気がついたように水月は香燐に言葉をかけた。
「意外だね、香燐が止めないのは。一人で行かせたら危ないって止めるかと思ったんだけど」
「別に……サスケがそれを望むなら、ウチはそれでいい……ただ──」
一度言葉を区切った香燐は憂いを帯びた表情でサスケの顔を真っ直ぐに見つめて語りかける。
「必ず生きて帰ってこいよ、サスケ」
「……ああ。当然だ」
サスケは香燐の言葉にハッキリと宣言した後、鬼鮫の言葉通りに一人だけで森の奥にあるアジトへと向かった。
香燐はサスケのことが心配だった。特に右近からイタチの情報を聞いた後のサスケは情緒が不安定であり、見ている香燐が居た堪れなくなるほどだった。
だが、そっと隣に寄り添って世話を焼くうちにサスケは吹っ切れたようで、それまでの不安定な表情ではなく覚悟を決めた顔をするようになった。
ゆえに、不安だろうがサスケを見送ったのだ。それがサスケの意思を尊重する彼女なりのエールであった。
そうやってサスケの後ろ姿を哀愁を漂わせながら見送った香燐に対して、水月はわざと軽い調子で声をかけた。
「──なんか、夫婦みたいなやり取りだったね」
「だ、誰が夫婦だバカヤロー!!」
水月が茶化したことで香燐は顔を真っ赤にして否定した。まるでいつも通りなやり取りに右近はやれやれとでも言いたげな仕草を取ると──
「何か文句でもあるか!?」
「いや、ないです」
香燐の怒りの矛先は右近にまで向き、右近は降参とばかりに両手を挙げた。
和やかなやり取りを鬼鮫は毒気を抜かれたように眺めていた。
ゆえに、鬼鮫は最後まで気がつかなかった。
ここにいる右近と左近が初めから『木遁分身』であったことなど。
右近たちと別れ、一人アジトの奥へと足を運んだサスケはついにイタチの前にたどり着いた。
九の文字から尻尾が生えているような壁画の前にあるボロボロの玉座に肘をついて座るイタチ。その姿はサスケの記憶よりもやや気怠げに見えた。
「来たか、サスケ……」
「ああ……」
互いに言葉数の少ない再会。それゆえにイタチは違和感を抱いた。
イタチはこれまでサスケに憎悪を植え付けるように動いてきた。実際に、約三年前にイタチとサスケが会った時にはサスケはひたすらに憎悪を込めてイタチを殺そうとした。
だが、今のサスケは違う。
椅子に座したままのイタチを睨むサスケの眼光は鋭いが、そこにある憎悪は薄い。
そんなサスケの様子にイタチは怪しみ、疑問を投げかける。
「どうした?俺を殺したいのではなかったのか?」
「その前にアンタに聞きたいことがある」
「ほう……」
努めて冷静を心がけているサスケの様子にイタチは意外そうに声を漏らし、サスケが何を聞きたいのか、耳を澄ませて待った。
「あの夜……アンタは三人目の写輪眼の使い手について言及していた。もう一人の写輪眼とは……誰だ?」
イタチはかつてサスケにこう語った──『南賀ノ神社本堂……その右奥から七枚目の畳の下に一族秘密の集会場がある。そこにうちは一族の瞳術が本来、何の為に存在するのか……その本当の秘密が隠されている。お前が開眼すればオレを含め万華鏡写輪眼を扱う者は三人になる。そうなれば……お前を生かしておく意味もある』──と。
三人の写輪眼を扱う者とイタチは語ったが、イタチとサスケだけなら二人しかいない。ならば三人目とはいったい誰なのか。これがサスケにとっては疑問だったのだ。
「何故そんなことを気にする?」
「アンタの次にそいつを殺すためにだ」
「殺す?」
「一族を皆殺しにしたあのタイミングでアンタはもう一人の存在を口にした……アンタが殺さなかったうちは……それはつまり協力者だったってことだ」
イタチはうちは一族をサスケを除いて一人残らず皆殺しにしようとした。真相がどうあれ、それは間違いがない事実である。
にも関わらず、サスケ以外にも生き残りがいたとすれば、それは十中八九イタチと同じ側──つまり、イタチの協力者としてうちは一族の抹殺に手を貸した人物に他ならない。
その仮説を補強する材料がサスケにはあった。
「いくらあんたでも警務部隊を一人で殺れるハズがない」
「……ちゃんと気づいていたか」
イタチは薄っすらと笑みを浮かべてサスケの言葉を肯定した。
イタチにとってそれは秘密でもなんでもない。いや、むしろこれからのサスケのために是が非でも知っておいて欲しい事柄だった。
「誰だ?」
「……うちはマダラだ」
イタチが出した名にサスケはただでさえ鋭い眼光をさらに厳しくして訝しんだ。
「木ノ葉隠れ創設者の一人……万華鏡写輪眼を最初に開眼した男だ」
「創設者……?そのマダラならとっくに死んでるハズだ」
木ノ葉隠れの里が作られたのはサスケが生まれる遥か前のことである。それに携わった人物ならば死んでなければおかしいと、サスケはイタチの言葉を否定した。
「マダラは生きている。信じる信じないはお前次第だ」
「………」
イタチの言葉にサスケは無言で返した。
その無言を否定の表れだと感じたイタチはさらに言葉を続ける。
「人は誰もが己の知識や認識に頼り縛られ生きている。それを現実という名で呼んでな。しかし知識や認識とは曖昧なモノだ。その現実は幻かもしれない……人は皆思い込みの中で生きている、そうは考えられないか?」
「一体、何が言いたい?」
「マダラが死んでいるというのはお前の勝手な思い込みだ……かつてお前がオレを優しい兄だと思い込んでいたようにな」
その言葉にサスケの脳裏にはかつての記憶が想起された。
優しい兄が忙しいはずなのに手裏剣や忍術の修行を見てくれたこと、それが無理な時に額にコツンと指を当てられた時のこと、そしてそれら全てが幻だったかのように全てが崩壊した日のこと。
それと同時にサスケの中では思い出とともに怒りが込み上げていた。何もかも焼き尽くしたくなるような激しい怒りが。
しかし、サスケはその憤怒の炎を必死に心の中で押し留めた。
まだ聞かなくてはならないことがある。まだイタチを見定められていない。
そういう思いがサスケの中で憤怒の炎を必死に消火していた。
「それにしてもサスケ……お前はまだオレと同じ目にはなれていないようだな」
イタチはサスケの様子が予想外なことを疑問に思いつつもさらにサスケの憎悪を煽ろうとした。
イタチが持ち、サスケが持ち得ない特別な眼──それが“万華鏡写輪眼”である。
イタチはいまだ万華鏡写輪眼を持っていないサスケに対して自身が優位な立場であることを暗に示したのだ。
「ならさっさとそのご大層な眼でオレを殺そうとしてみたらどうだ?出来ないだろうがな」
「大した自信だ……」
先ほどよりも言葉遣いが攻撃的になっているサスケ。
そんなサスケにいかに万華鏡写輪眼が特別なのかをイタチは淡々と説明していく。
「万華鏡写輪眼……この眼は特別……開眼したその時からその眼は闇へと向かい、使えば使うほど封印されていく」
万華鏡写輪眼は通常の写輪眼よりも遥かに強力な瞳力を備えるうえに所有者によって固有の瞳術を持つ。それらの瞳術は一つだけでも切り札たり得る強力な能力を持つが、それゆえに特大のデメリットが存在していた。
「万華鏡はいずれ光を失う」
「失明……それが九尾をコントロールする力を得る為の代償か」
万華鏡写輪眼は瞳術を使う毎に視力が落ちていき、やがて完全に視力を失ってしまう。
暁として活動してきたイタチは視力の低下がかなり進んでおり、もはや十メートル少々の距離しか離れていないサスケの顔すら満足に見えていない。
このリスクは南賀ノ神社の秘密の集会場にある石板に書かれていた内容であり、イタチに教えられたサスケもまた知っている内容だった。
「フッ……オレの言った通り集会場の石板を読んだようだな」
「マダラ……一体何者だ?」
サスケは石板の内容から思い出したかのように話題を変えた。
「その眼で九尾を手懐けた最初の男。オレの相棒であり、師であり、不滅の男。そしてこの万華鏡写輪眼のもう一つの秘密を暴いた唯一の男。それがうちはマダラだ」
「うちはマダラ……万華鏡写輪眼のもう一つの秘密だと?九尾を手懐ける瞳力以外にも何かあるってのか?」
「そうだ……そのもう一つの秘密。それが最も重要な秘密だ」
「重要な秘密……?何だ?」
イタチが掠れる眼でサスケを見据えながら万華鏡写輪眼が持つ秘密を明かしていく。
「少し昔話をしてやろう。うちはの歴史にまつわる話だ……かつてマダラにも兄弟がいた……弟だ」
イタチは話しながらサスケに幻術をかけた。
幻術の中のサスケは先ほどまでいた暗いアジトの内部ではなく、どこか古めかしい木造の家屋の中にいた。
サスケはいつでも幻術を解けるように準備をしながらもイタチの話に集中していく。
「幼き頃より二人は互いの力を高め合い競い合った。そして二人は写輪眼を開眼し、兄弟の名はいつしか一族の中でも特別なものになっていった」
イタチの幻術の中で少年時代のマダラとその弟が仲睦まじく修行していき、どんどんと成長して歳をとっていく。
「二人はさらなる瞳力の成長を求め競い合い……兄弟は……ついに万華鏡写輪眼を開眼したのだ。それはうちは一族始まって以来のことだった。そして兄弟はその瞳力をもってうちはを束ね、兄のマダラはリーダーとなった」
青年と呼べるまでに成長した兄弟は両眼に万華鏡写輪眼を携えて戦乱期を戦い抜いていく。マダラをリーダーとしたうちは一族は強く、敵対した忍たちを次々と打ち倒していた。
「しかし……順調だったマダラの身にある異変が生じはじめる。さっき話したな……この眼は特別だと。使えば使うほど封印され、行き着く先は全くの闇。これが万華鏡写輪眼の末路だ。大きな瞳力を……力を得る代わりにその力を自ら閉じ光を失う」
視力が低下しすぎたマダラは両眼に包帯を巻いていた。
「マダラは光を取り戻すためあらゆる手を尽くすが何一つ効果を得られるものは無かった。絶望した。そして万華鏡に取り憑かれたマダラは光を求め……」
イタチの語りに合わせて幻術のマダラが『許せ……』と弟に赦しをこうた直後、幻術の中は真っ赤に染まり、マダラの弟の悲鳴だけが響いた。
「自ら弟の両眼を奪い取ったのだ」
マダラは新たな眼を手に入れたことで狂気的な笑みを浮かべていた。
「マダラは新たな光を手に入れた。そして……もう二度とその眼の光は閉じることが無かった。永遠の万華鏡写輪眼!弟の眼は新しい宿主を得ることで永遠の光を手に入れたという……そしてそればかりか変化を起こした。特有の新しい瞳術がその眼に生まれたのだ」
幻術の中でマダラが新たな光を手にしたことで血塗られた歴史がさらに加速していく。
「ただし眼のやりとりは一族間でしか行えない。それにこの方法で誰もが新しい力を手に出来るわけではない。これはその後の多くの犠牲の歴史の上に築かれた事実……それがこの眼のもう一つの秘密だ」
幻術の中では夥しい数のうちは一族の死体が積み重なっていた。新たな力を得るために殺し合い、写輪眼を奪い合った結果なのだとサスケは理解した。
「マダラはその力を使いあらゆる忍一族を次々に束ねていった。そして忍最強と謳われていた森の千手一族と手を組み、新たな組織を設立したのだ」
幻術の場面は移り変わり、サスケも火影岩として見たことがある人物──すなわち初代火影である千手柱間がマダラと並んで立っていた。
「その組織が後に木ノ葉隠れとなる」
マダラと柱間が握手をして協力関係を築いていたのだが、幻術の中のその光景はあっさりと引き裂かれてしまう。
「その後マダラは千手一族のリーダーであった後の初代・火影と里の方針を巡って対立。その主導権争いに敗れはしたがマダラは今もその瞳力と共に在り続けている」
マダラの姿が闇に溶けるように消えていき、真っ暗な影の中で万華鏡写輪眼だけが光っている。
「新たに“暁”を組織し、その陰に姿を隠してな。十六年前────九尾が木ノ葉を襲った事件はもちろんマダラが起こしたものだ。それも四代目によって阻止されてしまった。つまり……」
唐突にイタチの幻術が終わり、サスケの視界は暗いアジトの内部へと戻ってきた。
「今のマダラは負け犬だ……うちはの本当の高みを手にするのは奴じゃない」
ゆらりとイタチは幽鬼のように玉座から立ち上がった。
「……あの男を超え、本当の高みへと近付くのはこのオレだ」
ふらふらと狂気すら感じさせる足取りでサスケの方へと近付いていくイタチ。
「そして今!オレはマダラを超える力をようやく手に出来る!」
だが、その陰のある雰囲気とは異なり、イタチの声には覇気がある。その声からは自らの欲望を叶えんとする強い意志の力を感じさせた。
「サスケェ!!お前はオレにとっての新たな光だ!」
もはや今のイタチには過去の優しい兄としての面影はどこにもない。
「お前はオレのスペアだ!!」
弟を人とも思わないような言葉で表現するイタチはまるで別人のようである。
「元来、うちは一族は万華鏡写輪眼の為に友と殺し合い……永遠の瞳力を得るために親兄弟で殺し合い……そうして力を誇示し続けてきた汚れた一族なのだ!!そしてその一族の中に生まれ落ちた時からお前もこの血塗られた運命に巻き込まれている!!」
サスケは身動き一つ取らずに黙ってイタチを見つめていた。
「さあ来い!弟よ!!オレはお前を殺して一族の宿命から解放され本当の変化を手にし、制約を抜け己の器から己を解き放つ!」
『お前とオレは唯一無二の兄弟だ。お前の超えるべき壁としてオレはお前と共に在り続けるさ』
サスケの中で今の恐ろしいイタチと過去の優しいイタチが交錯する。
「オレたちは互いのスペアだ!!」
『お前はこのオレを超えることを望み続けていた。だからこそ生かしてやる……オレの為に』
一族が皆殺しにされた時のイタチに言われた台詞が思い出される。
血塗られて狂気に落ちたようにしか見えないイタチの言動が優しかった兄としてのイタチを否定していく。
「それこそがうちはの兄弟の絆なのだ!!」
「嘘だな──それはアンタの本心じゃない」
そんな今のイタチをサスケはあっさりと否定した。
「今のオレの眼はいかなる幻術をも見抜く──アンタの語る嘘すらもな……」
「何だと……?」
サスケの顔は安堵したようであり、同時に虚しさも抱えてもおり、先ほどまでの狂おしいほどの怒りも燻っており──とにかく色々な感情が混ざり合いぐちゃぐちゃに複雑な表情を浮かべながらも、それでもどこか晴れやかに見えた。
「ここに来てからずっとアンタを見ていた……何が真実なのかを見抜くためにな……」
写輪眼は幻術をかけたりチャクラの流れを見抜いたりする能力があるだけではなく、観察力や洞察力にも長けている。
サスケは右近から一族抹殺の裏事情を聞かされていたこともあり、イタチを視界に入れた時からその一挙手一投足、心拍の回数や呼吸の深さ、瞳孔の動き方すらも見逃さないように注意深く反応を窺っていた。
サスケが長々とイタチの語りに付き合っていたのも、わざわざいくつも質問を繰り出したのも、その全てがイタチの反応を見定めるためであった。
そんな迂遠なやり方をしたのはイタチに真実を問いただしたとしても答えを誤魔化されるだろうと考えたからである。
だがその甲斐あってか、サスケはイタチが語る言葉の中に紛れ込んだ真意を見抜いた。
一方で、イタチは表情には出さないものの困惑していた。サスケがイタチの嘘を見抜いたように、イタチもまたサスケの言葉に嘘を見抜ける。だが、イタチから見て今のサスケは嘘を言っているようには見えなかった。
それでもイタチは動揺を隠しながらサスケへと問いかける。
「……オレの言葉のどこに嘘があったと?」
「万華鏡写輪眼やマダラに関することでは嘘は言ってなかった……嘘なのはオレに対する考え方だ」
「……!」
イタチは図星を突かれたことを隠すように必死に表情に出さないようにポーカーフェイスを維持した。
「アンタはオレをスペアだなんて思っちゃいない……それどころかアンタがオレを“新しい光”だと言った時、オレには違う意味合いがあるように見て取れた……そうだろう?」
「……………………」
長い沈黙。それこそが答えである。
イタチには否定できない。出来ようはずもない。
サスケに暴言は吐けたとしても、自らを憎悪させるように煽ることは出来ても────たった一人の大切な弟への愛だけは否定できない。
“新しい光”──それはサスケの眼が自身の新しい眼になるという意味ではない。サスケが自身の光であると、サスケこそが自身の希望であり生きる目的なのだという意味であった。
(だが、それでも……!!)
イタチは何のために一族を殺したのか、何のためにサスケに憎悪を植え付けようとしていたのかを思い出し、壮絶な覚悟を決めてサスケに向き直った。
「オレは言ったはずだぞ……人は思い込みで生きていると……」
「ああ……オレもまだ半信半疑のままだ……だからこそ────」
イタチが血反吐を吐くような気持ちで絞り出した否定の言葉に応じたサスケは腰に差した鍔のない刀へと手を伸ばし──一気に引き抜いた。
「まずはアンタから真実を引き出してやる……力尽くでもな!」
「やってみろサスケ……できるものならな……!」
互いが啖呵を切り合い、今──兄弟喧嘩が始まる。