音の四人衆最強の男   作:北山 真

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綱手捜索編 その弐

 

 自来也と右近左近の戦い。

 先手を取ったのは自来也だった。素早く印を結び、息を大きく吸い込んでから術を発動させる。

 

「火遁・炎弾!!」

 

 ボボボッと、自来也が巨大な炎の塊を連続で口から吹き出した。

 都合二十発吐き出された火球の一つ一つが自来也のチャクラにより遠隔でコントロールされており、それぞれが角度を付けて右近と左近に向けて襲いかかる。

 

 無数の火球に多方向から狙われる右近と左近。

 全てを回避するのは不可能と判断した右近は、確実に防御することを選んだ。

 

「仙法・水遁・水陣壁!!」

 

 仙術チャクラを練り込んで作られた『水陣壁』は、戦場が水の無い草原であるにも関わらず、二人を守る強固な水の防壁を築き上げた。

 

 五大性質変化の相性上、水遁は火遁に強い。

 ゆえに、火球は水の壁に触れた途端に、ジュッと音を立ててすぐさま沈静化していく。『火遁・炎弾』はそれほど強い術ではない。いくら自来也といえども『炎弾』だけで右近の『水陣壁』は破れなかった。

 

 しかし、右近の方にも余裕があるわけではなかった。

 

(くそっ……数が多い)

 

 火球の一発一発はあまり脅威ではないが、数が多く、加えて様々な角度で時間差を付けて襲いかかってくるので、右近は術を解くタイミングが無かった。

 

 その状態こそが自来也の狙いだった。

 

 一対多数の戦闘での基本は幾つかある。

 その一つが敵を分断しての各個撃破なのだが、右近と左近は融合している状態にあり、これを分断する手段はほとんど無い。自来也ならば封印術などで分断することは可能かも知れないが、封印術を行うためには接近する必要がある。しかし、それだけ接近しているならば『螺旋丸』で戦闘不能にすることを狙った方が確実性が高い。

 

 では、自来也は右近左近との戦いでは常に数的不利を強いられるのかといえば、それは少しだけ違う。

 

 今の右近の状況のように、術を常に使い続けなければいけない状況に追い込めば、実質的に自来也と左近の一対一の状況になる。

 その状況に持ち込むことが自来也の狙いだった。

 

 自来也は、右近と左近に襲いかかる火球が残り半分を切ったタイミングで、火球を防ぎ続ける水の壁に向けて駆け出した。

 その動きを『水陣壁』の内側で、チャクラを練りながら自来也の動きを感知していた左近が気付いた。

 

(自来也が来るぞっ!)

(分かったがっ……!)

 

 左近が右近へ自来也の動きを伝えるものの、火球が襲いかかる中で術を解くわけにもいかず、対応が後手に回る。

 

 自来也が水の壁に向けて真っ直ぐに突き進みながら、その両手に『螺旋丸』を作り出した。

 

「螺旋丸っ!!」

「クッ!?」

 

 自来也の左手に作り出された『螺旋丸』が『水陣壁』に叩きつけられ、火球を防ぎ続けていた防壁が吹き飛ばされた。

 

「もう一発っ!」

 

 水の壁を打ち破った自来也が右手を突き出し、もう一つの『螺旋丸』を右近にぶつけようとした。

 だが、その動きを感知で把握していた左近は、『水陣壁』が破られる前に右近の左肩から両腕を生やして『螺旋丸』を作りだしており、自来也の『螺旋丸』に向けて構えていた。

 

「螺旋丸!」

 

 木の葉隠れの里での『螺旋丸』同士のぶつかり合いでは、右近左近が咄嗟に対応したのもあり、自来也の『螺旋丸』に打ち負けていた。

 しかし、今回は事前に準備したうえに、仙術チャクラを混ぜ込んだ『仙術螺旋丸』である。

 依然として『螺旋丸』の精度は自来也が上だが、仙術チャクラにはその差を覆すだけの力があった。

 

 このままぶつかり合えば仙術チャクラの分、左近が有利だが、それは自来也も十分理解していた。

 

「ぬぅんっ!!」

 

 自来也が右手の『螺旋丸』に更にチャクラを込めたこと。それにより、手の平サイズだった『螺旋丸』が二回りほど大きくなり、『大玉螺旋丸』となった。

 そして、そのまま自来也の『大玉螺旋丸』と左近の『仙術螺旋丸』がぶつかり合った。

 

「うおぉぉ!!」

「くっ……!」

(ぐうぅぅっ!)

 

 自来也の『大玉螺旋丸』のあまりの威力に、右近の体が押されて後ろに下がり、『仙術螺旋丸』を支える左近が心中で苦悶の声をあげた。

 

「左近っ!」

 

 このままでは完全に打ち負けると思った右近が、咄嗟に左近の両手の間に左手を突き出し、『仙術螺旋丸』へとチャクラを込めた。

 チャクラを追加で込められた『仙術螺旋丸』の威力が上がり、『大玉螺旋丸』と拮抗し始める。

 

 その瞬間–––

 

(ヤバイッ!?)

(何かがくるっ!?)

 

 右近と左近が仙人の力で新たな危険を察知した。だが、新たな危険を察知できたとはいえ、『螺旋丸』同士が拮抗状態に陥っている以上、逃げることもままならない。

 

「ここだぁ!」

 

 『螺旋丸』同士が拮抗している今がチャンスと見た自来也が、右近へ向けて、更に一歩踏み込んで、その左手を右近に伸ばした。

 そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(左手っ!?)

 

 右近は自来也の左手の『螺旋丸』が『水陣壁』を打ち破る時に消えたと思っていた。しかし、『螺旋丸』は小さく、弱くなったものの消えてはいなかった。

 消えていなかった『螺旋丸』は、自来也が再びチャクラを込めたことで、既に十分な大きさに戻っていた。

 

(このタイミングなら当たるっ!)

 

 右近は先ほどまで『水陣壁』を使っていたことで、印を結ぶ必要のある忍術を使う余裕はなく、二個目の『螺旋丸』を作る時間も無い。左近は今まさに『仙術螺旋丸』を使っている最中である。

 

 自来也が、その心中で『螺旋丸』が当たることを確信した。

 

「螺旋丸っ!!」

 

 自来也の左手の『螺旋丸』が右近に向けて突き出され、『螺旋丸』が右近に当たる寸前に、右近が忍術を発動させる。

 

「くっ……」

(潜影蛇手っ!)

 

 右近の右腕を包む外套が独りでにモゾモゾと動き、そこから数匹の細い蛇が這い出た。

 『潜影蛇手』は大蛇丸が好んで使う忍術である。あらかじめ肉体に特殊な口寄せ術式を仕込んでおくことで、その術式にチャクラを流した時に、術者の体に直接蛇を口寄せして意のままに操ることができる術だ。

 印を結ぶ必要がないので、今のような至近距離での戦いで、咄嗟に発動することも可能な術だった。

 

 右近の右腕から生えた蛇が自来也の左手を止めるために、そこに絡みつこうとするが–––

 

「うおぉぉっ!」

「ぐっ……ああぁぁっ!!」

 

 自来也が蛇を認識した瞬間に左手の軌道を微調整させ、蛇へとぶつけた。『螺旋丸』は蛇に当たった瞬間からその威力を解放しようとし、その衝撃が右近の体勢を崩した。

 

「もらったぁ!!」

 

 右近の体勢が崩れたのを見逃さなかった自来也が今度は『大玉螺旋丸』を押し込んだ。

 右近の崩れた体勢ではそれを受け止めることができず、『大玉螺旋丸』と『仙術螺旋丸』の拮抗状態が崩れて、自来也の『大玉螺旋丸』が右近と左近の『仙術螺旋丸』を打ち破った。

 

「ぐわあぁぁぁぁ!!!」

 

 左右の『螺旋丸』が右近に炸裂した。二重の螺旋が右近の体を飲み込み、高速で回転しながら十メートル以上も吹き飛ばした。

 

「やったってばよ!」

 

 その様子を見て、ナルトが歓声を上げた。ナルトだけでなく、見ている誰もが勝負は決したと思った。

 

 勝負している三人以外は。

 

「ハァハァ……危なかった……っ」

「やっぱりのう……当たった感触が変だった」

 

 吹き飛ばされ、地面に倒れていた右近がゆっくりと起き上がる。身を包んでいた外套は『螺旋丸』の回転に巻き込まれて散り散りに引き裂かれて無くなっていた。

 そして、外套が無くなって見えたその全身には、傷だらけで所々が石になっている蛇達が巻きついていた。

 

「グッ……!」

 

 右近は痛みを堪えながら『双魔の攻』を発動し、肉体に融合している蛇達を自身の体から切り離す。ブチブチッと肉が裂ける嫌な音と共に蛇は右近の体から切り離されて、地面に落ちる前に完全に石化し、地面に落ちた衝撃でバラバラに砕け散った。

 

「なるほどのう……」

「間一髪でしたよ……はぁ……っ」

 

 石化した蛇を見て全てを納得した自来也と、何とか生き残ったことに安堵の溜め息を吐いた右近。

 右近は『螺旋丸』が蛇に当たった直後、新たに『潜影蛇手』を発動していた。その新たに口寄せした蛇達で自分の体を覆い、『螺旋丸』が直撃することだけは避けていた。

 しかし、それだけでは自来也の『螺旋丸』から身を守りきれないと判断した右近と左近は、口寄せした蛇達に対して、完全には石化しないギリギリの量の自然チャクラを流し込んで防御力を限界まで高めていた。

 

 だが、それでも二つの『螺旋丸』の破壊力を抑えきることは出来なかった。

 

「ゴホッ……」

 

 右近が口から血を吐き出した。

 蛇のガードで外傷はできる限り抑えた右近だったが、それでも完全に防ぐことはできず、『螺旋丸』の衝撃は蛇のガード越しに右近の体へと伝わっていた。

 その全身には螺旋を描くように痣ができており、肉体内部にまで螺旋回転の衝撃が及んだことで、右近は吐血したのだ。

 

(チッ……内臓が歪んでやがるなぁ)

(自来也の『螺旋丸』を受けてこの程度で済んだなら安いものだろ?)

(まぁ……そりゃあそうだなぁ)

 

 口元の血を拭いながら、心中で会話する右近と左近。

 

 だが、真に問題なのは肉体へのダメージではなかった。

 

(自然チャクラが残り少ないな……)

(あぁ……自然エネルギーを取り込んで仙術チャクラを練りたいところだが……)

(その隙を自来也が見逃すはずがない……か)

 

 仙人の力は確かに強い。二対一とはいえ、三忍と称される忍界でもトップクラスの実力を持つ自来也を相手にして、ここまで戦えるのは間違いなく仙人の力のおかげだ。

 

 だが、その仙人の力にも弱点はある。

 それは自然エネルギーを取り込む間は身動き一つ取れないことである。この問題を右近左近は二人一組であることを活かして、一人が動き、一人が動かずに自然エネルギーを取り込むことで解決していた。そのおかげで、戦闘中にでも自然エネルギーを補給できて、半永久的に仙人状態を維持することが可能となっていた。

 しかし、絶対に切れないわけではない。自然エネルギーを取り込むことなく仙術チャクラを使い続ければいつかは無くなる。

 

 『水陣壁』『螺旋丸』『潜影蛇手』と立て続けに仙術チャクラを消費した右近と左近。彼らの溜め込んだ自然エネルギーが無くなろうとしていた。

 だが、右近左近は、そういう時の対処法を考えていた。

 

(しゃあねぇ……近接で行くしかねぇなぁ)

(だな。自来也相手に近接は骨が折れそうだが仕方ない)

 

 左近は背中側に両腕を生やして素早く印を結んだ。外套が無くなったせいで自来也に印を結ぶ動きがバレないように、背中側に腕を生やして体で隠しながら印を結ぶ必要があった。

 印が短かったことと、印を隠したことで、自来也が何か動く前にその術は完成した。

 

(仙法・土遁・軽重岩の術)

 

 左近が発動したのは『軽重岩の術』。物体の重さをしばらくの間だけ軽くする忍術だが、その効果により、右近の肉体と身につけている装備は、文字どおり羽のように軽くなった。

 

 体が軽くなったのを感じた右近は、腰に付けた忍具を入れたポーチからクナイを二本取り出して両手に握り、自身の足元にチャクラを集中させた。

 そして、そのまま『瞬身の術』による高速移動で一気に自来也の懐にまで踏み込んだ。

 

(速いっ!!)

 

 自来也が油断していたわけでは決してない。単純に右近が速すぎたのだ。

 今の『軽重岩の術』で限界まで軽くなった右近の速さは、忍界でも上位に入る。だが、当然ながら軽くなった状態で地面を強く蹴ったならば、さながら月に降り立った人のように、その体は勢いよく飛び跳ねる。

 それを避けるため、右近は足裏にチャクラを集中させて地面に吸着することで、飛び跳ねずに地面を高速で駆けることを可能にしていた。

 

「シッ!」

「クッ!?」

 

 右近は、両手のクナイで自来也の体を撫でるように二回切り付けて、それが終わると反撃を受けないように素早く後ろに下がって距離を取った。

 自来也の脇腹と太腿にそれぞれとても浅い切り傷ができて、服に薄らと血が滲んだ。

 

 距離を取った右近は、再び『瞬身の術』の高速移動で自来也へと近づき、今度は立ち止まることなくすれ違いながらクナイを振るって浅い傷を付けた。

 

 『軽重岩の術』で身軽になり高速移動し、敵とすれ違いながらクナイで切り付け、そのままの勢いで距離を取る。右近が行ったヒットアンドアウェイの基本を忠実に守ったこの動きは、戦闘中に自然チャクラを左近が取り込む時間を稼ぐための戦術の一つだった。

 

 ただ、この戦術にも弱点はある。

 一つ目は、攻撃がどうしても軽くなること。速さを上げるために『軽重岩の術』で肉体も装備も軽くした影響で、どうしても攻撃に重さが無く、致命傷を与えるほどの攻撃ができない。クナイには一応毒が塗られていたが、自来也ほどの人間が毒対策をしていないわけがなく、戦闘中に毒で死ぬのは期待できない。実際に、自来也は戦闘前に綱手特製の解毒剤を数種類ほど飲んでおり、毒の効果は出ていなかった。

 二つ目は、自分の動きが速すぎて細かい方向転換などが苦手であり、直線的な動きが多くなってしまうこと。右近の反射神経は悪くないが、うちは一族の写輪眼のように反則的な動体視力を持っているわけでもなく、四代目雷影のように雷遁のチャクラで反射神経を上げているわけではないので、動きが直線的になってしまっていた。

 

 その二つを攻撃を受けた自来也は瞬時に理解していた。

 ゆえに、それに対応もできる。

 

「……そこっ!」

 

 右近の幾度目かのすれ違いざまの攻撃に対して、自来也は右近が通る軌道上に置くように右足で蹴りを放った。

 

 自来也は素早い動きをする忍には慣れていた。

 なぜなら、自来也のかつての弟子には“黄色い閃光”の異名で呼ばれた波風ミナトがいた。ミナトの動きに比べれば、右近の動きは直線的すぎるし、何よりも遅すぎた。

 だが、動きを見切って攻撃をすることと、その攻撃が当たることは全く別のことだ。

 

 右近は自来也の蹴りが自身の胸に直撃する軌道に置かれていることを仙人状態特有の危険察知能力で感じ取り、咄嗟に上半身を後ろに逸らすことで蹴りを回避した。その姿はまるでアイススケートのイナバウアーのようであった。

 

(やはりこれではダメか)

 

 自来也は蹴りを避けられたことに関して、まるで気にしていなかった。仙人状態の回避能力は自来也も知るところであったので、回避されることは織り込み済みであった。

 むしろ、自来也の狙いは咄嗟に回避させることにあった。『軽重岩の術』と『瞬身の術』による合わせ技による高速移動中に咄嗟の回避をしたことで、右近の体勢は崩れていた。

 その瞬間、その僅かな時間は、自来也が印を結ぶに十分な時間であった。

 

「乱獅子髪の術!」

 

 『乱獅子髪の術』により、自来也の白い長髪にチャクラが込められたことで髪が勢い良く伸びて、まるで蜘蛛の巣のように四方八方に広がった。

 それに捕まらないように後ろに下がった右近は、心中で左近と作戦会議をする。

 

(これで接近戦は封じられたな)

(あぁ)

(仙術チャクラは?)

(十分とは言えねぇが……まぁ、贅沢言ってられる状況でもねぇだろ)

 

 接近戦を仕掛けては蜘蛛の巣状に張り巡らされた髪に捕えられるだけである。だからといって、何も考えずに中距離での術の撃ち合いをしてしまうと、先ほどのように殺されかけるか、仙術チャクラが切れてしまう。

 

(ここからは常に先手をとって術を使い続けるぞ。チャクラを練り続けろよ)

(了解だぁ)

 

 先ほど右近左近が負けかけたのは、後手に回ってしまったからだ。だからこそ、今度は先手を取るために動き出した。

 

 ここまでの心中でのやり取りをほんの一瞬で終わらせた右近と左近は、次の術を発動した。

 

「仙法・水遁・水手裏剣!」

 

 右近は水で手裏剣を大量に作り出して自来也へ向けて投げた。仙術チャクラで練られた『水手裏剣』は鋭く、高速回転しており、自来也のチャクラが練られた髪を切り裂きながら本人へと迫る。

 

「ぬぅ……」

 

 『乱獅子髪の術』により接近を封じ、術を発動する時間を作ろうとしていた自来也は、その目論見を潰されたことに小さく声を出してから回避行動に移った。素早く左右に動くことで『水手裏剣』を躱す自来也。

 最小限の動きで回避したことで、次の行動に移ろうとした自来也の目に映った右近は既に次の術を発動しようとしていた。

 

「仙法・水遁・水断波!」

 

 口の中で水を高圧縮し、高速で吐き出した右近。勢い良く吐き出された水は、まるでウォーターカッターのように、触れれば全てを切り裂く水流となって自来也へと迫る『水断波』。

 その術の威力を知っていた自来也は、右に駆け出した。

 

(逃すかっ!)

 

 その回避を見た右近が首を振ったことで、吐き出されていた水流が自来也を追う。

 

「くっ……」

 

 右近の首を動きを見て水流の動きを予測し、最小限の動きだけで回避し続ける自来也は、回避を続けながら印を結び術を発動した。

 

「火遁・火竜炎弾!!」

 

 自来也の口から、竜が火を吹いたような恐るべき火炎の奔流が吐き出された。『火竜炎弾』は『水断波』をものともせず蒸発させながら右近へと迫る。

 日が登っているにも関わらず草原が赤く照らされるほどの火炎に対して、右近は『水断波』の勢いをできるだけ強めて自分に到達するまでの時間を稼ぎ、その僅かな時間で左近が術の印を結び終わった。

 左近の準備が整うのと同時に、『火竜炎弾』が右近を飲み込んだ。

 

 自来也は右近がいた場所を火炎が飲み込んだ後も、念入りに数秒ほど火を吹き出し続けてから術を解いた。

 

 あまりにも火力の高い『火竜炎弾』が通った場所には灰一つ残っておらず、焼き焦げて黒くなった地面が見えているだけだった。

 

 その様子をじっと見ていた自来也は、唐突に履いていた下駄同士をぶつけ合わせて自らを中心とした透明な結界を作り上げた。『結界・天蓋法陣』というその結界は、結界に触れた存在を探知するものだ。

 

 自来也は『火竜炎弾』で右近左近が殺せていない可能性を考えていた。その場合、高確率で土遁を使って地面に潜って回避されたと考えていた。そのため、探知結界で地中を探っていたのだが感知できなかった。

 

(結界でも探知できんか……さっきので()れていたのか、結界の範囲外で隠れておるのか……)

 

 釈然としない気持ちになりながらも、敵が消えたのなら幸いと、自来也は大蛇丸の方へと足を向けたタイミングで、その進行方向の結界の範囲ギリギリの地中からボコッと音を立てて右近が這い出てきた。

 

「やっぱり油断してはくれませんね」

「当たり前だのう……儂に油断して欲しかったらもう少し年相応な所を見せるんじゃな」

 

 戦闘が始まる前のように睨み合う二人。

 

 二人が戦闘している間、他の者達にも動きがあった。

 

 

 


 

 

 

 綱手を連れて距離を取っていたシズネとナルトは、自来也と右近左近の戦闘に終始圧倒されていた。ナルトは単純に戦闘の激しさと凄さに、シズネは師である綱手の強さを知っているからこそ、その師と同格の自来也を相手にここまで戦える右近左近の強さに驚いていた。

 

「すげぇってばよ……」

 

 その凄さに、その激しさに、ナルトの口からそんな言葉が漏れた。

 戦闘が始まる直前に綱手から「火影を目指すならこの戦いをよく見ておけ」と、ナルトは言われていたが、それについて大して深く考えていなかった。

 だが、戦闘が始まった直後から大きな衝撃を受け続けた。

 

 自来也の「火遁・炎弾」はサスケの火遁よりも強く、多かったし、それを防いだ『水陣壁』はかつての強敵である再不斬(ざぶざ)を思い出させた。

 その『水陣壁』を打ち破ったナルトも修行中の『螺旋丸』は、自分の知るものよりも遥かに強力でありながら、自来也はそれを二つ同時に使っており、さらには相手も同じ『螺旋丸』を発動していた。その『螺旋丸』で倒せたと思った時は思わず声が出たし、相手が立ち上がってきた時は驚愕した。

 その後の相手の動きは自分では速すぎて、遠くから見ていたのに見失いかけたし、それに対応した自来也の『乱獅子髪の術』からは、自分が多重影分身で飛びかかっても一瞬で倒される予感がした。

 それに対して発動された『水手裏剣』『水断波』は自分では躱すことも難しいと思ったのに、自来也は完璧に回避して、なおかつ反撃で『火竜炎弾』まで放っていた。その『火竜炎弾』の熱は距離のあるナルトの位置にまで届いており、あまりの熱さに恐怖すら感じたし、それでも生きていた相手にまた驚愕した。

 

 カカシと再不斬の戦いを初めて見た時のようなゾクゾクとした感覚がナルトの背中にあった。それが恐怖からなのか高揚からなのかは、ナルトには判断できなかった。

 

 戦闘を見て、驚愕で思考が止まっていたナルトとシズネだったが、綱手は戦闘を見て冷静に戦況を分析していた。

 その分析結果は最悪の一歩手前だ。

 

「くっ……このままじゃマズイ」

「どういうことですか綱手様!?」

「そうだってばよ!エロ仙人に任せておけば、あんな奴すぐにやっつけてくれるってばよ!!」

 

 綱手の状況判断に対して、シズネは驚きからその真意を確かめようとし、ナルトは綱手の判断が間違っていると考えての発言だった。

 

「自来也ならすぐに決着がつくと考えていたが、相手がかなり強い。これじゃ自来也がアイツを倒す前に大蛇丸が回復してしまう」

 

 そう言う綱手の視線の先には大蛇丸を回復しようと医療忍術を使用しているカブトの姿があった。

 

 綱手の予想では、この勝負は自来也の勝ちで終わっているはずだった。それが予想以上に長引いていた。

 右近左近を倒すことが目的ならいくら時間をかけても問題はないが、今回の戦闘の目的は大蛇丸を討つことである。右近左近にばかり時間をかけてはいられないし、時間が経つにつれて気絶して動けていない大蛇丸が戦闘に参加する確率が上がる。

 そして、もしも大蛇丸が戦闘に参加したなら、戦況は一気に大蛇丸側が有利になる。

 

 だから綱手は「マズイ」と言ったのだ。

 

「ぐっ……私がこんな状態じゃなければ……」

 

 綱手は、自身の震える手を見て呟いた。血液恐怖症により、戦うべき状況でも戦えない自分の不甲斐なさに腹が立っていた。

 そんな時、ナルトが大声で綱手に詰め寄った。

 

「ばあちゃん!俺は何やれば良いんだってばよ!」

「ナルト……」

「何かやらなきゃいけないんだろ?俺がやるってばよ」

 

 ナルトの剣幕に綱手が言葉に詰まった。真剣な表情で語りかけるナルトには確かな覚悟が備わっていた。

 ナルトは先ほどまで呑気に戦いを見ていたのを恥じた。師である自来也が戦っていて、綱手の顔が曇ったままなのに自分はまだ何もできていない。自分も何かやらなければいけないという思いが強くなっていた。そのための力も、自来也と右近左近の戦いを見て手に入れた。

 

 だが、綱手はそれに許可を出さない。

 

「駄目だ……お前が殺されてしまう」

 

 綱手の脳裏に過去のトラウマが、愛した男と弟の顔が思い浮かぶ。ナルトとよく似た、良い人達だった。あんなところで死んでいい人達ではなかった。

 その愛した者達とよく似た男がこんなところで死んでいいはずがない。

 そんな思いで胸がいっぱいになり、俯いてしまう綱手。

 

 そんな彼女にナルトは–––

 

「大丈夫だってばよ綱手のばあちゃん。俺は火影になるまでぜってぇ死なねぇ」

「あっ……」

「だから、安心しろってばよ」

 

 親指を立てて笑顔で語りかけるナルトの後ろに、かつての愛した者達の影を見た綱手。人々を安心させる笑顔とはこういうものだったと思い出した綱手はもう一度だけ賭けてみることにした。

 

「分かった……ナルト、そしてシズネ。二人で大蛇丸を治療している奴を倒しに行け」

「綱手様は……?」

「私のことは放っておけ!今はやるべきことをやれ、シズネ」

「……分かりました」

 

 ナルトとシズネに指示を出した綱手。綱手を心配していたシズネも綱手の真剣な表情に覚悟を決めた。

 綱手とシズネの付き合いは長い。目を見ればある程度のことは分かる。綱手の目は「敵を倒した後で大蛇丸をお前が殺せ。ナルトにはやらせるな」と雄弁に語っていた。

 シズネ自身、ナルトのような純真な子供が人殺しに慣れる必要はないと考えているので、綱手のその指示を受け入れた。

 

「行きますよナルト君!」

「りょーかいだってばよ!」

 

 二人が勢いよく駆けていく。その後ろ姿を見送るしかない綱手は、二人が無事に帰ってくることを祈るしかなかった。

 

 

 


 

 

 

 ナルト達がカブトに向けて駆け出した時、カブトは医療忍術による応急処置を終えた段階だった。

 カブトは、額に浮かぶ汗を拭いながら独り言を呟く。

 

「応急処置は完了……これで死ぬことはない」

 

 医療忍術という分野において、カブトと綱手の技量に大きな差はない。大きな差があるのは経験や知識においてであり、単純に外傷を治す速度だけならば差はないと言い切っても過言ではなかった。

 

 その高い医療忍術でもって短時間で応急処置を完了したカブト。治療された大蛇丸の顎と胸部は痣こそ残っているものの出血はなく、その呼吸も治療前と比べればかなり穏やかなものになっていた。

 本来ならば痣も無くなるほど綺麗に治すのだが、状況がそれを許さない。

 

「くっ……二人、こっちに来るか……」

 

 治療の合間にできる限り周りの状況を確認していたカブトは、当然ながらナルトとシズネが自分達のほうに向かって来ているのを見ていた。

 ナルトとシズネは、いまだに激戦を繰り広げている自来也と右近左近を避けるように大回りでカブトのもとへと駆けて来ていた。

 

 カブトから見て二人の実力はそう大したものではない。

 中忍試験で見たナルトは特に秀でたところの見えない、どこにでもいるただの下忍であり、大きな言葉を吐くだけの子供だった。シズネに関しても、先の動きを見た限りは危険を感じるほどでは無かった。

 カブトは、右近左近や君麻呂といった非常に戦闘力の高い者が身近にいたことで、自分のことを戦闘に秀でているとは思っていないが、この二人を相手にするならば十分な勝算があった。

 

 だがそれは一対二の状況で、正面から戦った場合の話。

 動けない大蛇丸という大きな不利を背負ったままの今の状況では、足を掬われる可能性が高かった。

 大蛇丸を連れて撤退するという案を考えなかったわけではないが、自来也が健在の今、下手に撤退して追撃を受ければ全滅もありえた。

 

 だからこそ、カブトの取る手段は一つ。

 

「仕方ない。失礼します大蛇丸様」

 

 カブトは大蛇丸に断りをいれてから、大蛇丸を草原に寝かした所から少しだけ距離を取り、ナルトとシズネが来る方向に陣取り、迎え撃つために待ち構えた。

 カブトが立つ場所と大蛇丸の眠る場所は絶妙な位置関係だ。ナルトとシズネが大蛇丸を狙うには遠く、カブトを避けては通れない。そして、自来也が遠距離で大蛇丸を狙って術を発動しても、ギリギリ大蛇丸を連れて逃げられそうな、そんな絶妙な位置取りをしていた。

 

「カブト兄ちゃん……いくってばよっ!!」

 

 ナルトはカブトを中忍試験の時に知っていた。その時は気の良いお兄さんといった印象であったが、大蛇丸の部下だと知りショックを受けていた。そんな男が、自分の前に立ち塞がる姿を見て一瞬だけ迷ったナルトだったが、それを振り切り、覚悟を決めて戦いを挑む。

 

「多重影分身の術!!」

 

 ナルトがシズネの前を走りながら『多重影分身の術』を使った。一瞬だけ白い煙が出たと同時に、三十人以上の分身が生み出された。

 

 無数のナルトとシズネがカブトに向かって襲いかかる。

 

「「「やあぁぁっ!!」」」

「舐めるな!」

 

 複数人で殴りかかってくるナルトに対して、両手にクナイを持ったカブトは、次々とクナイでナルトを切り裂いていく。クナイが当たったナルトはボフンッと音を立てて煙になって消えていく。

 そのさなか、ナルトの分身達に紛れていたシズネが、カブトに僅かな隙ができたのを見て襲いかかる。

 

「そこっ!」

 

 カブトの死角から飛びかかったシズネの手には千本が握られており、千本をカブトの首に突き刺そうとしていた。

 だが、シズネが隙だと思ったものはカブトがわざと作り出したものだった。

 

「甘いっ!」

 

 背後から迫ってきたシズネに、カブトは鋭い声を出して素早く対処した。振り返りながら左手に持ったクナイで千本を弾き、右手に持ったクナイをシズネの心臓へと突き刺した。

 

「残念でしたね……後はナルト君だけ……」

 

 カブトは常にシズネを警戒していた。

 『多重影分身』の人数だけは脅威だが、ナルトの体術程度では宝の持ち腐れ。何十人いようともカブトには勝てない。だが、シズネは綱手の愛弟子であり、どんな術を持っているかも不明だった。だからナルトへの警戒は最低限にして、シズネにだけ警戒を向けていた。

 

 そして、自身の背後にシズネがいるタイミングでわざとらしく隙を作り出し、シズネを誘って見事なカウンターを入れたのだ。

 確実に致命傷を与えられたシズネ。カブトが残るナルトへと意識を向けた瞬間、ボフンッと音を立てて、シズネが消え去った。

 

「何っ!?」

「甘かったのは貴方のようですね」

「しまった!」

 

 シズネが消えた一瞬だけ困惑したカブトが晒した隙を見逃さず、ナルトに変化していたシズネが変化を解いて現れた。

 カブトはそれに反応しようとはしたがすでに遅く、シズネが手に持った千本をカブトの右のふくらはぎに差し込んだ。

 

「ぐっ……あ、足がっ!?」

 

 千本が刺さった鋭い痛みには耐えたカブトだが、神経を狙って傷付けた千本は、カブトの意思とは裏腹に、その足を動けなくした。

 足が動かなくなったことに気を取られたカブトは、次の攻撃への対応が遅れた。

 

 動けなくなったカブトを狙い、無数のナルトが襲いかかる。一人、二人とカブトの手足に組みつき、その動きを封じる。

 

「くっ……こんなもので」

 

 すぐさま手に持ったクナイで組みついて来たナルトの分身達を消していくカブトだったが、その動きはやはり一歩遅かった。

 

「チャクラを抑える手が足りないなら、手を増やせばよかったんだってばよ!!」

 

 叫びながらカブトに向けて新たに迫る二人のナルト。並んだ二人のナルト達の手の間には高圧縮された乱回転するチャクラの塊–––『螺旋丸』が存在していた。

 

 ナルトは昨日までの修行では『螺旋丸』を完成させられなかった。だが、右近左近が二人がかりで、腕を三本使って『螺旋丸』を使用していたのを見て、影分身の手を借りる方法を思いついていた。

 

「ま、まさか本当にあの術を……っ!」

「なん……だと……っ!?」

 

 それを見たシズネとカブトが驚きで身を固くした。

 そして、遠くから見ていた綱手も。

 

「本当に……ナルトっ……」

 

 一週間で『螺旋丸』を完成させるという偉業を成し遂げたナルトを見た綱手は感無量だった。

 

(もしかしたら……あいつは本当に……っ)

 

 愛した者達と同じ夢を口にするナルトが、その夢を叶えるかも知れないと、そんな期待をする綱手。

 

 そんなナルトの一歩が踏み出され、その手のひらに持つ『螺旋丸』をカブトの腹部へ叩きつけた。

 

「螺旋丸っ!!!!」

 

 『螺旋丸』が直撃した瞬間、圧縮され、乱回転していたチャクラが一気に解放された。

 

「ぐわあぁぁぁっ!!」

 

 チャクラの回転に巻き込まれたカブトが錐揉みしながら吹き飛ばされ、地面に数回ほど弾かれて勢いがなくなったのちに、力なく草原に倒れ伏した。

 

 カブトは『螺旋丸』に当たる直前から腹部にチャクラを集中させ、『螺旋丸』に当たった瞬間から回復しようとしていたが、大蛇丸の治療でかなりのチャクラを使っていたので回復しきれずに気絶していた。

 

「へへっ……上手くいったってばよ」

 

 多重影分身からの『螺旋丸』により、チャクラと体力、集中力を消耗したナルトは力なく笑いながら作戦が上手くいったことを喜んだ。

 

 ナルトとシズネの二人は大蛇丸の下へと走る間に、簡単な作戦会議をしていた。シズネは綱手の弟子であるが、それは医療忍者としてであり、戦闘の方はあまり得意ではなかった。

 そこでナルトは、影分身と変化でシズネとなって囮になり、シズネも変化でナルトの分身に紛れる作戦を考えた。その作戦はズバリ的中し、カブトに大きな隙を作り、最後は『螺旋丸』で決めた。

 

 自分よりも強いと思わされるカブトに新技で勝った喜びに浸るナルト。

 

 だが、そんな時間は長く続かなかった。

 

「ナルト君逃げてっ!!」

「へっ?」

 

 シズネの悲痛な叫びを聞いたナルトが間の抜けた返事をした。

 その後ろに人が立っていることにも気付かずに。

 

「あら……私がいない間に随分楽しそうなことになってるじゃない」

 

 背後から聞こえてきた聞き覚えのある声。男とも女ともとれる蛇のようなその声に、ナルトの体は戦慄して身動きが取れなくなった。背後に立つ男、大蛇丸の怒気と殺気の混じり合った気配はあまりにも濃く、ナルトに死のイメージを抱かせるには十二分すぎた。

 

「さて……」

「ぐっ……放せっ!」

 

 大蛇丸は『潜影蛇手』により右腕の袖口から三匹の蛇を生み出してナルトを拘束した。ナルトの首、両腕と胴体、足のそれぞれに巻きついた蛇達は、ナルトの身動きを完全に封じた。

 ナルトはそこから抜け出そうともがくが、ただの紐抜けすら上手くいかないナルトでは到底抜け出すことはできない。

 さらに、左腕からも蛇を数匹口寄せして、少し離れたところにいたシズネも同じように拘束した。

 

 その状態を維持したまま大蛇丸が綱手の方を向いて語り出す。

 

「綱手、分かるわよね……貴方が私の腕を治さないならこの子は……」

「くそっ……大蛇丸!そいつらに手を出してみろ!絶対に殺してやる!」

 

 ナルトとシズネを人質にして綱手を脅す大蛇丸に対して、綱手はナルトに駆け寄りながら強気な態度で叫んだ。

 

「それは貴方の態度次第かしらね……」

「うっ、ぐっ……」

 

 脅しに屈しようとしない綱手。それを理解した大蛇丸は蛇達を動かして、ナルトを更に締めつけた。

 三匹の蛇に締めつけられて、気道が狭まったナルトは苦しげな吐息を漏らすばかりだ。

 

「ぐっ……ナルト!」

 

 愛した者達と同じように、目の前でナルトが死ぬのを幻視した綱手は叫んだ。叫びながら、それでも、足は動いていた。今度こそ死なせないために。

 

 しかし、人質に取られた状態から助け出すのは容易ではない。

 

(このままじゃ……)

 

 最悪の未来を想像してしまう綱手だが、そこに希望の声が聞こえてきた。

 

「大蛇丸っ!!二人を放せ!さもなくばお主の部下が死ぬぞ!」

 

 希望の声の主、自来也の方を大蛇丸が見る。

 自来也はうつ伏せに寝かせた右近の背中を足で踏みつけ、その背中にクナイを突きつけていた。

 

 地面に寝かせられた右近には身体中に生傷があり、ぐったりとして意識がない。

 右近と左近の二人は必死に自来也に食らいついていたが、カブトが敗れた時に、一瞬だけ意識がそれた。その隙をつかれて自来也に敗北していた。

 

「さぁどうする……大蛇丸!!」

「そうね……九尾のガキに綱手の弟子一人と右近左近の交換じゃあ割に合わないわね」

 

 大蛇丸は冷静にそう判断した。

 右近左近を見殺しにして、ナルトとシズネを人質に腕の治療を迫ったところで、本当に治るかの保証すらないのが現状だ。

 それに加えてカブトも気絶している。残った戦力は腕の使えない大蛇丸一人だけで、敵には血を見ているのに動いている綱手と消耗しているがまだまだ戦えそうな自来也。

 大蛇丸自身も綱手と自来也から受けたダメージが抜けきっておらず、今戦うのは不利だと判断した。

 

「分かったわ……ここは引きましょうか」

 

 大蛇丸の言葉を聞き、油断はしないままで少しだけ安堵した綱手と自来也。

 

「また会いましょう……」

 

 ナルトとシズネを解放して右近左近を回収した大蛇丸は、不穏な言葉を言い残して姿を消した。

 

 次の戦いを予感させる言葉とともに、戦闘は終わった。

 戦いが終わり、大蛇丸は両腕を治療できず、何も得ずに帰ることになった。逆に綱手は血液恐怖症を克服し、ナルトが賭けに勝ち、『螺旋丸』を会得したことで木ノ葉隠れの里に戻り、五代目火影に就任することを決めた。

 

 

 


 

 

 

 対照的な結果で終わった両陣営。

 綱手達は大喜びで木ノ葉に帰ったが、負けて帰る結果になった大蛇丸一行の雰囲気はそれほど悪くはなかった。

 

 大蛇丸の所有するアジトの一つで、大蛇丸とカブト、右近左近は向かい合って会話していた。

 

「「「申し訳ありません」」」

「まぁ……あの二人が本気で組んでた状況じゃあ仕方ないわね」

 

 カブトと右近左近が大蛇丸に謝り、大蛇丸があっさりと受け入れた。

 大蛇丸自身が罠にかかったせいで状況を悪くしたことを理解していたし、それを部下に当たるほど愚かではない。

 そのうえ、多少とはいえ収穫があったのも大きかった。

 

 その収穫とは右近左近の戦闘力が三忍の自来也にある程度通用したことだ。

 戦闘の詳細を聞いた大蛇丸は、自身の育成能力と忍の才能を見抜く目が備わっていることを再確認していた。

 

 大蛇丸は自来也に対して一つだけコンプレックスがあった。それは弟子の存在である。

 木ノ葉隠れの里にまだ所属していた時、大蛇丸と自来也はともに何人かの弟子を育てていた。しかし、その弟子には大きな差があった。

 大蛇丸の弟子の中で最も出世したのは特別上忍になったみたらしアンコだが、自来也の弟子には四代目火影となった波風ミナトがいた。両者の間には立場以上に大きな実力差が存在していた。

 

 その事が、大蛇丸の高いプライドを傷付けていた。

 だが今回の戦いで、大蛇丸が育てた右近と左近が二人でだが自来也を相手に善戦したことで、その傷付いたプライドは癒されていた。

 そして、自来也はナルトを弟子にしていたが、大蛇丸から見てナルトにはまったく才能を感じない。自分が見出したカブト、右近左近、君麻呂、そしてうちはサスケといった才ある者に比べたら月とすっぽんであり、それが自分と自来也の忍の才能を見抜く力の差を表しているように感じて上機嫌になっていた。

 

「クックックッ……」

 

 大蛇丸の含み笑いが部屋に響く中、右近と左近はその心中で反省会をしていた。

 

(大蛇丸が何故か上機嫌で助かったな)

(あぁ……だが、自来也には負けちまったなぁ)

(相手は三忍の自来也。格上だからしょうがないが、二人がかりだからな……悔しいな)

(まぁなぁ……やっぱ悔しいなぁ)

(まだまだ強くならないとな……)

 

 『NARUTO』の世界は、自来也ですら仙人の力なくしては強さの序列が頂点からかなり下がる過酷な世界。その自来也に二人で挑み、仙人の力まで使って勝てなかった右近と左近は、その悔しさを胸に日々の修行に励んでいくことになる。

 

 次の任務、うちはサスケ勧誘まで、僅かな時間しか残されていない。

 

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