音の四人衆最強の男   作:北山 真

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サスケ勧誘編 その弐

 

 木ノ葉隠れの里でサスケ奪還に向けて準備をしている頃、右近左近とサスケは残りの音の四人衆と合流を果たしていた。

 

「待ってたぜよ」

 

 木ノ葉隠れの里から合流した三人を鬼童丸が代表して出迎えた。

 次郎坊、鬼童丸、多由也のそれぞれ無事な様子を確認した右近は、サスケの呪印を状態1から状態2に進化させる準備を始めることにした。

 

 まず、右近は潜入のために使っていた男の体から抜け出した。

 

「な、なんだ……?」

「驚かせて申し訳ない。この体は潜入のために使わせてもらっていてね……本来はこの姿なんです」

「一応俺もいるんでなぁ……よろしく頼むぜぇ」

 

 いきなり人間の体から新たに人間が出てきたことに驚いていたサスケだったが、挨拶のために左近も顔を出したことで余計に混乱した。

 困惑しているサスケを放置して使っていた男の体を元の巻物に回収した右近は、サスケへと向かい合って話を始めた。

 

「さて、本来の姿に戻ったところで……サスケ様には少しお話があります」

「話だと……?ここまで連れてきてか?」

「ええ、里の中でも少し話をしましたが、あなたの呪印が未完成なことについてです」

 

 右近は里でも話したサスケの今の呪印の状況に関しての説明を再度しながら、懐から醒心丸という丸薬を取り出した。

 その丸薬が何か怪しんだサスケが質問した。

 

「何だそれは?」

「これは醒心丸という物です。これを飲むことで呪印は完成します。副作用はありますがご安心を……我々が封印術でサスケ様の肉体を保護することで確実に、安全に呪印を体に馴染ませて完成させることができます」

「……その保証は?」

「私達自身だ」

 

 右近の説明を受けて安全性に疑問を抱いたサスケだったが、それに対しては多由也が答えた。そして、多由也が答えたと同時に右近左近を除く三人が呪印の力を解放して状態1の姿になった。

 その姿を見て、サスケは自分よりも遥かに呪印の力が制御できていると感じたが、ふと右近を見ると呪印の力を使っていないのを疑問に思って質問した。

 

「……アンタは?」

「そいつは特別ぜよ」

「呪印の力よりも上の仙人の力を持っているのさ」

 

 サスケの疑問に対して、また右近ではなく鬼童丸と多由也が答えたが、仙人の力という聞き覚えの無い単語を聞いたサスケが再び疑問をぶつけた。

 

「仙人の力?……それはオレも身につけられるのか?」

 

 ちょうどその時に、会話をしながら仙術チャクラを練っていた右近が仙人状態になり、目の周りに隈取りが浮き上がった。右近が隈取りを指差しながら仙人の力について軽く説明をしていく。

 

「身につけること自体は可能かも知れませんが色々と制限のある力ですので、サスケ様が使いこなせるようになるまではかなり長い時間が必要になると思います。その時間を他に使ったほうが効率が良いかと……詳しく説明すると長くなりますので、知りたければ大蛇丸様のアジトについた時にでも話しましょう」

「分かった……それで、それを飲めば俺は力が得られるんだな?」

 

 右近から醒心丸を受け取ったサスケが念を押すように再度確認して、それに右近が頷いたのを見てから醒心丸を飲み込んだ。

 

「うっ……」

 

 醒心丸を飲んだサスケが副作用で意識を失い、その体は急速に死に近づいていく。

 

「さっさとやるぞ、準備しろ」

 

 右近が口寄せの巻物から原作でも使用していた巨大な丸い桶を召喚し、他の音の四人衆に指示を出した。

 指示を聞いた次郎坊、鬼童丸、多由也の三名は素早く散開して『四黒霧陣』を発動するための配置についた。

 

 配置についたのを確認しながら右近が桶の中にサスケを入れて、右近自身も配置につくことで準備は完了した。

 

 サスケの入った桶を中心に十字を描くように四人が立ち、それぞれが印を結んでチャクラを練り上げた後に両手を上空へと向けた。チャクラが込められた両手からは黒い霧が生み出され、四人の中心点であるサスケの上空で集まり暗雲となった。

 十分な量の黒い霧が溜まったと判断した四人が一斉に術の名を叫んだ。

 

「「「「四黒霧陣」」」」

 

 暗雲は桶の中にいるサスケ目掛けて渦を巻きながら吸収されていった。桶は暗雲を全て吸収した後に黒い落とし蓋で封をされた。

 だが、落とし蓋だけでは封印が甘いので、右近は素早く五枚の札を取り出して、落とし蓋が開かないようにさらに封印術を重ねがけをする。

 

「封黒法印」

 

 術が発動したことで、札が蓋と桶を接着させるように張り付いて封印した。

 一連の流れがうまくいったことを確認した右近が、溜め息を吐いてひとまず安堵した。

 

「ふぅ……これで後は帰るだけだな」

「お疲れ様」

 

 一人で潜入任務をこなしていた右近に、次郎坊がねぎらいの言葉をかけた。

 

「ああ、ありがとう。お前らも待機お疲れ様」

「暇すぎて死にそうだったぜよ」

「全くだ。遅すぎだぞクソヤロー」

「ふっ……悪かったな。じゃあとっとと帰るぞ」

 

 右近の言葉に鬼童丸と多由也が冗談混じりに返した。右近も冗談だと考えて適当に受け流し、アジトへと帰ろうと動き出したその瞬間、右近がアジトとは違う方向を向いた。

 その動作は仙人状態の右近がよくやる動作であり、それは右近の感知範囲に侵入者があった時の動作であった。

 

「追手か?」

「いや、追手にしても早すぎるぜよ……おそらくは任務帰りで近くにいたとかぜよ」

「チッ……面倒だな。どうするんだ右近」

 

 次郎坊と鬼童丸が状況を語り合い、多由也は判断を右近に任せようとしたが、右近が判断する前に鬼童丸が反応した。

 

「今回の任務で何もしてないせいで、少し遊びたい気分ぜよ右近」

「そうだな……」

 

 鬼童丸の言葉を聞き入れたわけではないが、右近が次の動きを考えだす。

 今、右近の感知に引っかかっているのは四人であり、近づいて来ているのはその内の二人だった。

 サスケを大蛇丸のもとへ運ぶ任務を最優先にするならば、適当な罠を仕掛けながら逃げて、追手を振り切ってからアジトへと帰るというのがセオリーだった。

 ただ、右近には近づいてくる二人の感じるチャクラからしてそこまで強そうだとは思えなかった。人数差もあるので、一度戦って手傷を負わせて追われないようにするのも一つの手であると考えていた。

 

 この二つの考えには、どちらにもメリット、デメリットが存在していた。

 

 罠を仕掛けて逃亡する考えのメリットは、自分達の足が止まらず、時間もあまり取られないので、木ノ葉隠れの里からの正式な追手が来る前にアジトまで逃げ切れる可能性が高いことだ。

 逆にデメリットは、振り切れなかった場合に今近づいて来ている二人組と正式な追手が合流する可能性が高くなり、そこから戦闘になった時に厳しい戦闘になることだ。もし戦闘にならなくても、振り切れなければアジトにまでついて来られる危険性もあった。

 

 一度戦闘する考えのメリットは、相手が二人なら排除できる可能性は高く、正式な追手と合流される前に各個撃破できることだ。さらに、一度追手をリセットすれば正式な追手からは逃げやすくなり、もし正式な追手に追いつかれたとしても、合流されてから戦うよりは楽に戦えるだろう。

 逆にデメリットとしては、戦闘に時間をかけすぎた場合には、痕跡を消しきれずに正式な追手に追いつかれる可能性が高いことだ。木ノ葉隠れの里には犬塚一族の嗅覚、日向一族の白眼、油女一族の虫達、山中一族の感知能力と、追跡能力の高い忍が多数存在しており、その全てに対応して痕跡を消し切るには相当な時間が必要であった。

 

 どちらも正解になり得る選択肢を前にして、右近が選んだのは後者であった。

 

「今から来る奴らをここで迎え撃つぞ」

「流石は右近!話が分かるぜよ!」

 

 迎撃指示が出たことで気分が上がる鬼童丸。しかし、時間も体力も削られるわけにはいかない状況であるので、右近は鬼童丸に一つだけ条件をつけることにした。

 

「鬼童丸には悪いが状況的に遊んでる時間は無いからな、速攻で片をつけるぞ」

「流石にそれは分かってるぜよ……ようはタイムアタックだろ?二分もあれば十分ぜよ」

 

 右近が付けた注文に、六本の腕を回しながら意気揚々と応える鬼童丸。そのやり取りを見ていた次郎坊はやれやれと言わんばかりに首を振っており、多由也は我関せずといった態度で迎撃のために準備を始めていた。

 

「この距離なら接敵まで三分だ。折角だ、陣形は東でいくぞ」

「おっしゃ!やったるぜよ!」

 

 今の音の四人衆には、四つの陣形があった。

 それぞれの陣形の名は、南門の次郎坊、東門の鬼童丸、西門の右近左近、北門の多由也という異名から取って東西南北で表していた。

 ただし、格好つけて陣形とは言っているが、それほど複雑な陣形や連携があるわけでは無く、誰を主軸にして動くのかを分かりやすくしただけであった。

 

 今回の東の場合であれば、鬼童丸を主軸にして動き、他のメンバーは彼が動きやすいようにサポートに回る手筈になっていた。

 

「接敵まで一分」

 

 右近が感知した情報を報告してから、ちょうど一分後に木ノ葉隠れの里の特別上忍二人、顔に火傷の跡がある並足ライドウと楊枝を咥えている不知火ゲンマが現れた。

 

「お前ら大蛇丸と一緒にいた奴らだな?」

「ここで何をしていた?」

 

 ライドウ達は木ノ葉崩しの時に顔を見ていたので、右近達が音忍であることがすぐに分かった。音忍だということで、警戒しながら音忍達を問いただすライドウ達。

 だが、右近達は二人が来ることを分かっていて臨戦態勢で待ち構えていたのである。質問に答える気などさらさらなく、右近左近以外が状態1まで呪印の力を解放して、すぐさま戦闘を開始した。

 

 真っ先に動いたのは次郎坊だった。次郎坊が印を結んで術を発動させた後、次郎坊が拳を握り込むと肌が黒く染まり、その状態を維持したままゲンマに突撃していった。

 

 次郎坊が発動したのは『土遁・土矛』という肉体を硬質化する術だ。原作では角都が使用していた術だったが、術の知識を持っていた大蛇丸が次郎坊へと教えていた。

 この術のお陰で、次郎坊の短所である動きの鈍さを防御力を高めることで補えていた。さらに、攻撃の時に拳を硬くすることで、長所である怪力を活かした攻撃力も高められた。

 

「フッ!」

 

 ゲンマは自身に突撃してくる次郎坊に向けて口に咥えていた楊枝を吹き出した。吹き出された楊枝は木に突き刺さるほどの貫通力を持っていたが、次郎坊は黒く染まった腕で楊枝をなんなく弾いた。

 

「何っ!?」

「オラァ!」

 

 楊枝を簡単に弾かれたことに気を取られた一瞬で、次郎坊はゲンマとの距離を一気に詰めて、黒く染まった右拳を振り下ろした。

 

「くっ……!?」

 

 受けるのは危険だと判断したゲンマは咄嗟に横に跳ぶことで回避した。

 ゲンマに回避された次郎坊の右拳は振り下ろした勢いのまま地面へと突き刺さった。その瞬間、ドォンッ!と凄まじい音を立てて、拳が当たった地面が爆発したように土砂をぶちまけた。

 

「ぐおぉぅ!」

 

 まるで起爆札を至近距離で爆発させたような衝撃に晒されたゲンマが土砂とともに吹き飛ばされた。

 

「ゲンマっ!!」

 

 ゲンマが吹き飛ばされたのを見たライドウが心配して叫んだが、その行動は右近から見れば致命的な間違いであった。

 

「隙だらけだぞ」

「しまった!」

 

 一瞬の隙を見逃さなかった右近は『瞬身の術』でライドウの背後に回り込んでいた。ライドウの木ノ葉隠れ特有の緑色のベストを片手で掴み、仙術チャクラで強化された身体能力でゲンマへと投げ飛ばした。

 

「うおぉぉ!?」

 

 右近に投げ飛ばされて驚きの声をあげながら宙を舞うライドウ。

 次郎坊の攻撃で吹き飛ばされて地面を転がっていたゲンマに、右近に投げ飛ばされたライドウが勢いよくぶつかった。

 

「ぐおっ!?」

「ぐっ……すまん!」

 

 ゲンマはライドウが飛んできているとは分からず、受け身も取れずにぶつかってしまい、苦悶の声をあげた。それに対してライドウは謝罪して素早く起き上がり体勢を立て直そうとしたが、それよりも早く次の攻撃が来ていた。

 

(忍法・蜘蛛縛り・連弾!)

 

 鬼童丸が口から蜘蛛の巣状の糸を連続で吐き出した。

 まるで雨のように飛んでくる蜘蛛の巣に対して、体勢が悪いので回避しきれないと判断したゲンマとライドウは咄嗟にクナイを手に取り、飛んでくる蜘蛛の巣を切り払おうとした。

 

「くっ……!?」

「なんだこれはっ!?」

 

 飛んでくる蜘蛛の巣をクナイで切り裂こうとした二人だったが、糸は伸びるばかりで切れなかった。

 鬼童丸の生み出す糸は象が引っ張りあっても切れない強度を持つ。武器で切り裂こうとするならば、忍刀七人衆が持つ忍刀ぐらいでなければ切れないだろう。

 

 鬼童丸の糸に絡め取られて身動きできない状態になったゲンマ。しかし、それでも彼は諦めていなかった。

 

(クナイで切れないなら……!)

 

 手も足も出ない状態のゲンマだが、チャクラを火の性質に変えることで糸を燃やそうとした。そんな事をすれば自身も火傷を負うことになるだろうが、それでも殺されるよりはマシと判断したのだ。

 

 だが–––

 

「これで終わりです」

 

 右近の手によってゲンマの顔にペタッと一枚の札が貼られた瞬間に、ゲンマの意識は途絶えた。練り上げようとしていたチャクラは霧散して、効果を発揮できずに終わった。

 

「ゲン–––」

「あなたもですよ」

 

 ゲンマの名を叫ぼうとしていたライドウもまた、右近の手で顔に札を貼られて意識を失った。

 

 右近が使った札には、意識を封じる呪印があらかじめ描かれていた。頭に貼るだけで相手を無効化できる便利な札のように思えるが、実際のところそれほど便利でも無かった。

 今は意識を封じれているが、外部から強い衝撃を受けると意識を取り戻してしまうし、札を剥がすだけでも意識は戻るので、味方がいればすぐに無効化されてしまう程度の拘束力しか無いのだ。

 

 今回はゲンマとライドウの手足の動きを鬼童丸が止めたうえで、それ以上の抵抗をさせないために使ったが、この状況ならばそんな事をしなくてもクナイでとどめを刺すことも可能であった。

 だが、あえて右近はとどめを刺さないために、この呪印札を使っていた。

 

 身動きも頭を働かせることも封じられたゲンマとライドウの首筋に、右近は特製の毒を塗ったクナイで傷を付けた。

 

「うっ……うぅ……」

「ぐぅっ……」

 

 毒を体に注入された二人の顔色がみるみるうちに悪くなっていく。

 

「これでよし、行くぞ」

 

 目的を達成したことを確認した右近は、仲間達に向き直って指示を出した。

 他の音の四人衆はその指示を不思議に思いながらも、早くアジトへ戻ることが先決と考えて、その指示に素直に従った。

 

 右近があえてゲンマとライドウの二人を殺さなかったのは、二人を足手纏いにして追手を少しでも足止めするためである。

 もし殺してしまえば、追手は死体となった二人をその場に放置して右近達の追跡を優先するだろう。それも、仲間を殺された怒りに燃えて、がむしゃらに追跡して攻撃を加えようとするに違いない。

 

 しかし、今のように殺さずに放置していくことにより、追手はゲンマとライドウのことを必ず気にする。もし、そのまま追跡する者と二人の治療をする者の二手に別けることができたら、右近にとっては最上であった。

 さらに、右近がゲンマとライドウに注入した毒は大蛇丸の特製である。三日三晩発熱が続いて死に至る猛毒であり、それを解毒できる者は限られていた。木ノ葉隠れの里の医療忍者の中で、確実に解毒しようと思うなら綱手が担当する必要性があり、右近は万が一の可能性もないだろうが綱手が追手に加わるという事態を牽制していた。

 ついでに、ゲンマとライドウが毒で苦しんでいる間は、音の四人衆達が使った忍術の情報も木ノ葉隠れの里側に伝わらない。

 

 そういった様々な要因を考えたうえで、右近は二人に毒を盛って放置していた。

 

 右近は一時的に地面に置いていたサスケが入っている巨大な桶を担ぎ、アジトへ向けて移動を開始した。他のメンバーもそれに続いて移動を始めた。

 

 音忍達が立ち去った五分後、二人の班員であったシズネとたたみイワシがゲンマとライドウを探しに来て、ようやく二人は発見されたのだった。

 

 

 


 

 

 

 音の四人衆と木ノ葉隠れの特別上忍二人の戦いが終わった頃、木ノ葉隠れの里の正門にはサスケ奪還部隊が集まっていた。

 

 人数は八名。その内訳は上忍が二名に中忍が一名に下忍が五名であった。

 上忍は木ノ葉隠れの里の中でも超精鋭達であるマイト・ガイ、猿飛アスマの二名。唯一の中忍が奈良シカマル、下忍から選ばれたのは、うずまきナルト、秋道チョウジ、犬塚キバ、日向ネジ、ロック・リーの五名だった。

 

 当初、綱手はガイとアスマの二名にはたけカカシを加えた上忍三名と、カカシがサスケ奪還に必要と判断したうずまきナルトの計四名で任務に行かせようとしていた。

 カカシがナルトを任務に必要と判断したのは、サスケの説得役に必要という理由だけではない。サスケを連れ去った音忍達が痕跡を可能な限り消していた場合、追跡に人数が必要になる可能性があった。その時、ナルトの『多重影分身の術』は極めて有効な追跡手段になり得ると考えての人選であった。

 

 しかし、その人選に対して、木ノ葉隠れの里の上層部にいる者達、特に相談役のうたたねコハルと水戸門ホムラの二人は難色を示していた。

 度々話題に上がっていることだが、今の木ノ葉隠れの里には上忍がかなり少なく、里の防備は完璧では無かった。特に、岩隠れの里と雲隠れの里とは第三次忍界大戦でも幾度となく争ったこともあり、大蛇丸による木ノ葉崩しの傷も完全に癒えていない今の木ノ葉隠れの里の状態で、むしろ宣戦布告されていないことが不思議なほどであった。

 それなのにも関わらず、木ノ葉隠れの里の上忍達の中でも五本の指に入るであろう三名を一度に里の外へと出すことは、木ノ葉隠れの里の防備を考えると非常にリスクの高い行動であった。

 

 そんな状態で、貴重な戦力である上忍の、それも特に戦闘力の高い三名を里の外に出すことに、木ノ葉隠れの上層部は反対していたのだ。ついでに、ナルトが九尾の人柱力であるのに、この状況で里の外に出すことを反対する者もいた。

 また、サスケの手紙の内容どおりに、表向きは抜け忍として、裏では極秘の潜入任務として扱えばいいという案も出ていた。

 

 余談だが、今回の件について相談役たちが綱手に口を挟めたのには理由があった。それは志村ダンゾウが二人に報告を入れたからだ。

 ダンゾウは綱手が五代目火影に就任してからというもの、子飼いの部下である“根”の者達を使い、常に木ノ葉隠れの里の動きを監視していた。それは、綱手に大きな失態があった時にいち早く察知して追求し、火影に相応しくないと批判することで、火影の座を奪おうという浅ましい考えからの行動であった。

 その行動のお陰で、綱手が上忍達を呼び出し任務を与えようとしているのを把握して、すぐに相談役に報告をしていた。

 また、ダンゾウはイタチとの関係からサスケを木ノ葉隠れの里に置いておきたくなかった。ダンゾウはサスケを守らなければ、木ノ葉隠れの里の情報を周辺国にバラすとイタチに脅されていたが、そのサスケが自主的に里を抜けるならば話は別である。さらに、サスケが大蛇丸のもとで死ぬのならそれが最上であると考えていた。

 

 そういった姑息な行動が裏にあったせいで、綱手は相談役からの反対を受けたのだ。

 

 相談役の反対意見を聞き、その意見に綱手は一定の理解を示した。心中では急に口を挟まれたことにイライラしていた綱手だったが、今の里の内情に加えて、五代目火影に就任したばかりの地盤が固まっていない状態で、火影と相談役が険悪な仲になる危険性も十分に理解していた。

 

 だが、それでも綱手はサスケを放置するつもりは無かった。

 ゆえに、任務に行かせる予定だった上忍から一番対応力の高いカカシを里に残すことにして、その代わりに下忍を多く動員することに決めた。

 

 その結果が総勢八名からなるサスケ奪還部隊であった。

 隊員達を前にして、部隊の隊長を務める猿飛アスマがいつもどおりタバコを吸いながら隊員達に向けて話し始めた。

 

「既に全員知っているとは思うが、今から俺達は里を抜けたうちはサスケを取り戻しに向かう。だが、そこでは音忍による妨害が予想されていて、その中にはあの自来也様に匹敵する実力者がいる可能性もある……はっきり言って、俺でも一対一(サシ)でやれば負ける相手だろう」

「……アスマで勝てねぇ相手がいるかも知れねぇのに、俺達連れて行って良いのかよ……足手纏いにしかならねぇだろ」

 

 アスマの言葉に否定的な反応をしたのはシカマルだった。シカマルはアスマの教え子であり、その実力をある程度は知っていた。そんなシカマルの客観的な判断による言葉に応じたのはアスマではなくガイであった。

 

「いや、もしもその敵がいたとしたら俺とアスマで相手をするつもりだ。安心しろ、俺達は強い!」

「まぁそんなわけで、俺達ができる限り敵戦力の相手をする予定だが、そうなると俺達にはサスケを助ける余裕が無い可能性が高いからな……そこでお前らの力が必要になるってわけだ」

 

 ガイの言葉を引き継いだアスマは、そこで一度言葉を区切ったあとに、真剣な眼差しで子供達を見つめた。

 

「俺達木ノ葉は仲間を見捨てない……サスケは必ず取り戻す」

「分かってるってばよ……」

 

 アスマの宣言に、ナルトは先ほど会話したサクラとの約束を思い出して神妙な顔で頷いた。必ずサスケを木ノ葉へ連れて帰る、それがサクラと交わした約束であった。

 思い詰めているナルトの様子を見て少しだけ不安を抱いたアスマであったが、ナルトに関してはカカシからお墨付きを得ていたので、それを信用することにした。

 

「うし、じゃあ行くぞ!」

 

 隊長のアスマの宣言により、サスケ奪還部隊の任務が始まった。

 

 

 


 

 

 

 サスケを連れた音の四人衆達は、木から木へと跳び、かなりの速度で音隠れのアジトへと向けて移動していた。

 先頭はサスケを入れた桶を背負っている右近、その後ろに次郎坊と多由也が並んで続き、少し遅れて最後尾にいるのは鬼童丸で、鬼童丸は時折足止めのための罠を張りながら進んでいた。

 

 原作と違い、ゲンマとライドウの二人に苦戦しなかったことから休息を必要としていなかったので、足を止めることなく移動を続けていた甲斐もあって、既に終末の谷の近くにまで来ていた。

 

 あと数時間でアジトまで辿り着けるというその時、右近の仙人状態による感知範囲に新たな人間が現れた。

 数は八人。感じるチャクラは強いのが二人、それよりは弱いのが六人分であった。弱いチャクラが誰のものであるかの判別は不可能であったが、強いチャクラが誰かは右近にはすぐに分かった。木ノ葉隠れの里で感知したことのあるチャクラであったからだ。

 

(間違いない。ガイとアスマだな……木ノ葉も本気ってわけだ)

(感心してる場合じゃねぇぞ。上忍二人をオレらで引き付けたとしても人数差は圧倒的だ……)

(俺達と上忍二人を抜いて三対六じゃ流石に厳しい……とはいえ、俺達を入れて五対八での戦いに持ち込んでも、まともに戦えば勝ち目が薄い)

(ならどうする?)

(俺達で撹乱して、多由也の幻術で一網打尽にするしかないな)

 

 もしも右近と左近、ガイとアスマの二対二で戦えたとしても、残る人数は三対六となり、音隠れが圧倒的に不利な状況に陥ってしまう。かと言って総力戦、つまりは五対八の戦いを挑み、上忍に下忍を庇わせるように戦ったとしても勝機が見えないと、右近は考えていた。

 ゆえに、細い勝ち筋の一つである多由也の幻術で、ガイ達を纏めて行動不能にさせる方針に決めた。

 

「お前ら移動しながら聞け……俺らの後方二キロぐらいの位置に木ノ葉の連中が来てる。数は八、上忍の上澄みレベルが二人に、下忍レベルが六人だ」

「ほう……かなりの数ぜよ」

 

 右近の説明に、鬼童丸だけが言葉で反応を示した。残る二人は無言で戦闘へ備えており、次郎坊は兵糧丸を食べていて、多由也は笛を取り出していた。

 だが、上忍二人を含む八人を相手にしなければいけない状況に、右近は他のメンバーが普段よりも緊張しているのを感じ取っていた。

 

「今から三十秒後に止まって、俺の霧隠れの術で敵味方の視界を潰す。俺と左近は霧の中でも動けるから敵を撹乱する。多由也は敵味方纏めてでいいから幻術を、鬼童丸は糸でトラップを仕掛けたあとに可能なら遠距離から狙撃しろ。次郎坊はサスケ様の入った桶と二人の防御だ」

「お前達の負担が大きくないか?」

 

 右近は手早く指示を出して背負っていた桶を次郎坊に投げ渡した。そんな右近に対して、次郎坊は桶をキャッチしながら右近と左近を心配する発言をした。

 

「俺達は時間を稼ぐだけだから問題は無い。まぁ……多由也の幻術がしっかり効けばだがな」

「誰に言ってんだ下衆チンヤロー……ウチの幻術に失敗は無い」

「多由也、女がそういう言葉遣いは–––「うっせぇぞ、黙れデブ」……」

「やれやれぜよ……」

 

 右近の軽口に多由也が普段どおりの辛辣な言葉遣いで返して、それを注意した次郎坊を多由也がいつもどおり罵倒しており、鬼童丸は肩をすくめていた。

 他のメンバーがいつもの調子を取り戻したのを確認した右近は、早速作戦を始めることにした。

 

「フッ……じゃあやるぞ!仙法・霧隠れの術」

 

 木の上から地面へと降り立ち、後ろを振り向いて立ち止まった右近の周りから霧が生み出されていき、瞬く間に周囲一帯、半径一キロほどの範囲を濃霧で覆い尽くして、視界を真っ白に染め上げた。

 その濃霧の中で音の四人衆は右近に続くように地面へと降りて、各々の行動を開始する。

 

 鬼童丸は周囲にまるで本物の蜘蛛の巣のように糸を張り巡らした。白色の糸は霧に紛れて近くで見ない限り視認不可能である。

 多由也は複雑な曲を笛で吹き出した。奏でている曲は『魔笛・夢幻音鎖』であり、聞いた者に強力な幻術をかける術だった。

 次郎坊は鬼童丸と多由也の二人をいつでも庇える立ち位置をとっており、『土遁・土矛』をいつでも発動できるように準備していた。

 

 右近は濃霧で視覚の効かない状態で、巨木が生い茂る森の中をまるで見えているかのように木ノ葉隠れの忍へ向けて進んでいく。当然だが、仙人状態の感知能力は自然エネルギーも感知できるので、濃霧の中だろうと右近にとっては一切問題は無かった。

 

 来た道を少し戻り、多由也達がいる位置から二百メートルほど離れた位置でガイ達を待ち構える右近。

 

 一方で、突然の濃霧に視界が潰された木ノ葉隠れの里の忍達は、警戒を余儀なくされていた。視界が潰されたままでは戦いにくいとアスマが霧を晴らすために術を発動する。

 

「風遁・大突破!」

 

 アスマの口から強烈な風が吐き出された。サスケに被害を与えないように、あまり風圧を強くしないようにコントロールしながら、霧を吹き飛ばすように広範囲に強風が広がるように調整された『大突破』は、その目論見どおりに霧を吐き散らすことに成功した。

 

「おお!すっげえってばよ!!」

 

 再不斬との戦いで散々に苦しめられた『霧隠れの術』を一回で晴らしてみせたアスマの実力に、ナルトが大興奮して褒め称える。

 

 だが–––

 

(なら、もう一度だ……仙法・霧隠れの術)

 

 巨木の裏に隠れて『大突破』をやり過ごした右近が二度目の『霧隠れの術』を発動して、森の中は再び白一色に包まれていった。

 

「ああぁっ!?せっかく晴れたのに!?」

「チィッ!これじゃあイタチごっこになるだけだな……しゃあない、霧の中を進むしか無さそうだ」

 

 再発動された『霧隠れの術』を見たナルトが悲鳴をあげ、アスマは自身の行動が無駄に終わったことを確認した。

 『霧隠れの術』と『風遁・大突破』の二つの術を比べた時、後者の方がチャクラ消費量は大きい。それを考慮したアスマは霧を晴らすだけの行動でチャクラを無駄遣いすることを避けて、霧の中を進むことに決めた。

 

 油断なく、警戒した状態で霧の中を進む木ノ葉隠れの里所属の一向。

 右近は徐々に近づいて来るチャクラを感じ取り、彼らが多由也の笛の音が聞こえるギリギリの距離に入った瞬間に、右近と左近は二つの術を同時に発動した。

 

(仙法・水遁・多重水手裏剣)

(土遁・軽重岩の術)

 

 右近が発動した『多重水手裏剣』により、無数の水手裏剣が木々の合間を縫うような通常の手裏剣ではありえない軌道で四方八方からガイ達に襲いかかる。

 そして、左近の発動した『軽重岩の術』により軽くなった右近が、感知能力で敵の位置を把握して、その周りを高速で回りだした。

 

「水の手裏剣が四方から襲いかかってくる!それと近くに敵が一人!すごい速さで動いているぞ!」

「全員固まれ!死角を消して手裏剣を迎撃しろ!」

 

 右近のその行動を、唯一濃霧の中を見通せるがゆえにいち早く把握したネジが味方に伝えて、その情報からアスマが状況を把握し、瞬時に迎撃の判断をくだした。

 霧の中に入った段階で奇襲を警戒していた木ノ葉隠れの忍達は、アスマの言葉を受けて素早く円陣を組むように固まって各々がクナイなどを構えて、四方八方から飛んで来ていた水手裏剣を弾き飛ばした。

 

(流石にこの程度の攻撃では傷も与えられないか……)

 

 一塊になった木ノ葉隠れの忍達の周囲を走り回りながら様子を伺う右近。激しく動き回る右近だが、『軽重岩の術』により体重が軽くなっているので、その足音は限りなく小さく、多由也の笛の音にかき消されていた。

 ゆえに、右近の動きを木ノ葉隠れの忍達で把握できているのは白眼を持つネジ一人だけだった。

 

(速すぎるっ!コイツッ……この霧の中でこれほどの動きを!?)

 

 霧の中で途轍もない動きを続ける右近を見たネジが心中で驚愕していた。普段からガイの体術を見慣れているネジですらも右近の動きを目で追えるだけであり、右近の位置を味方に伝えられるほどの余裕は無かった。

 

「全員このまま固まりながら笛の音の聞こえるほうへ急ぐぞ!」

 

 戦闘中に聞こえてくる笛の音は確実に敵の術であると考えたアスマが、その笛の音を止めるための指示を出した。

 だが、その指示は右近と左近にも聞こえている。右近は冷静に時間を稼ぐための新たな術を発動した。

 

(仙法・水遁・爆水衝波)

 

 右近が術を発動した瞬間に足元から水が溢れ出し、森の中を水が満たしていった。『爆水衝波』で生み出された水は地面に染み込まず、拡散していくこともせず、まるで湖のように留まり続ける。

 

 流れてきた水に足を取られたことで、少しだけ足を止めた木ノ葉隠れの忍達。この状況の危険性をいち早く理解したのはやはりアスマであった。

 

「足元の水の動きにも注意しながら走れ!」

 

 アスマの指示を聞いた者達が足元の水に注意を割きながらも、笛の音を頼りに水上を駆けていく。

 

 木ノ葉隠れ側からすれば、足元には大量の水があり、濃霧に包まれて視界は無く、敵の術であろう笛の音が森の中に響くこの状況は、極めて悪いと言わざるをえない。

 まず、足元にある大量の水は敵の水遁使いが用意した物であり、いつでも攻撃に利用可能であると考えれば、現状は地雷原を走っているのと大差が無い。

 かと言って、水を避けて木の上に登ると円陣が組みにくい。濃霧のせいで敵の居場所をまともに把握できていない現状で円陣を組めずにバラバラになることは、各個撃破されにいくようなものである。

 そして、笛の音による術がいつ完成してしまうか分からないので、時間をかけて場を整えることすら難しい。

 

(チイッ……!戦闘力は高いと聞いていたが、こんな嫌らしい搦め手を使うなんて聞いちゃいないぞっ!!)

 

 アスマは一連の術を使っている者を自来也と戦った強者であると勝手に結論付けて、その名前の知らない強者のことを心中で罵倒した。木ノ葉隠れの里にとって、右近は若いながらも仙人の力を使う正面戦闘が得意な強者であったが、これほど巧みな戦術を使うとは分かっていなかった。

 

 ちなみにだが、右近が『霧隠れの術』を自来也に使わなかったのは、原作知識から自来也が探知結界を使えることを知っており、『霧隠れの術』を使っても無駄になると理解していたからだった。

 

 『爆水衝波』自体ではあまり足止めできなかったが、それを気にすることもなく、右近は新たな術を発動する。

 

(仙法・水遁・水蛇連弾(みずへびれんだん)!)

 

 右近の発動した『水蛇連弾』により、体長一メートルほど水の蛇が無数に生み出されていく。蛇達は水上も水中も縦横無尽にうねりながら泳ぎ、木ノ葉隠れの里の忍達へ向けて殺到していく。

 

「ナルトッ!」

「オッケー!多重影分身の術!!」

 

 襲い来る無数の蛇に対して、シカマルが咄嗟にナルトの名を叫んだ。名前を呼ばれたナルトは、シカマルの言いたいことを完璧に理解して『多重影分身』を発動した。

 『多重影分身』により一瞬で数十人に増えたナルトの分身達が、無数の蛇に向けて突撃していく。ナルトの分身達はクナイを素早く振って蛇を切り裂き、笛の音に向かう道を文字どおり切り開いていく。

 だが、あまりにも蛇の数は多く、分身達も次々に倒され、煙となって消えていく。

 

 さらに、蛇達は正面から来るものが全てでは無い。左右から、後方から、さらには水中からも次々と襲いかかり、木ノ葉隠れの忍達に喰らいつく。蛇達が囲い込むように襲いかかる中で、下忍達がそれに負けじと反撃する。

 

「木ノ葉旋風!」「八卦掌回天!」「部分倍化の術!」「牙通牙!」

 

 リー、ネジ、チョウジ、キバと赤丸の攻撃により、蛇達はその数を大きく減らす結果となった。だが、彼らは反撃のために一時とはいえ足を止めてしまった。

 

(くっ……敵はなんでこんなに連続で術を発動できる!?いや、それよりも……もう全員で動いてたら笛の術の発動が止められない!なら–––)

「ガイ!」

 

 右近が連続で術を発動できるのは、常に左近がチャクラを練り、供給し続けていたからだが、そんなカラクリが分かるわけもなく、アスマは疑問を抱きながらも現状を把握しようと必死に頭を回転させていた。

 現状は敵に完全に翻弄されており、笛の音の術が発動するまで、最早一刻の猶予も無いと考えるべきだった。

 ゆえにアスマはガイの名を叫んだのだ。笛の音を止めるためにガイ一人で突撃させるべきだと考えて。

 

「分かってる!ここは頼んだ!」

 

 現状をガイも理解していたからこそ、アスマの叫びに契機として、ガイが笛の音を止めるために一人円陣から飛び出した。

 ガイが抜けた穴を埋めるように、アスマが両手に握ったメリケンサック型のチャクラ刀で水蛇達を一瞬で十数体も切り捨てて、獅子奮迅の活躍を見せた。

 

「第五杜門……開!!」

 

 ガイが『八門遁甲』と呼ばれる八個あるチャクラの門を五個開き、身体能力を大幅に上昇させた。

 

(仙法・水遁・水陣壁!)

 

 驚異的な脚力でガイが動き出す直前に、右近が『水陣壁』を発動したことにより、ガイの通り道を塞ぐように巨大な水の壁が立ちはだかった。

 だが、杜門まで解放したガイの前に、この程度の壁は障害にはならない。

 

「木ノ葉剛力旋風!!」

 

 ガイが繰り出した強烈な後ろ回し蹴りにより、『水陣壁』は呆気なく吹き飛ばされた。破られた『水陣壁』に右近の気が取られた瞬間には、ガイは水面を蹴って加速していた。

 高速で笛の音を奏でる多由也に迫るガイ。もう妨害が間に合わないと判断した右近は、叫ぶことしかできなかった。

 

「お前ら!一人行ったぞ気をつけろ!!」

 

 右近の叫びを置き去りにして、ガイは瞬く間に多由也に近づいていく。

 

「見つけたぞ!」

 

 そして遂に、ガイは霧の中に隠れていた次郎坊、鬼童丸、多由也の三人が固まっていた場所にまでたどり着いた。ガイがすぐにでも笛の演奏を止めさせるべく、駆けてきた勢いのまま多由也に向けて突撃する。

 だが、右近の声を聞いて備えて呪印状態2になっていた次郎坊がガイの前に立ち塞がる。

 

「ここは通さん!!」

「ええい邪魔だ!」

 

 威勢よく吠えた次郎坊に対して、ガイの選んだ選択は正面からの突撃であった。

 実はこの時、ガイからは見えていなかったが、次郎坊が立ち塞がった場所以外には鬼童丸の糸が張り巡らされていた。もしもガイが次郎坊を避けて違う方向から多由也を襲う選択をしていたら、蜘蛛の糸に絡め取られるように、ガイの動きは封じられていただろう。

 

「ダイナミック・エントリー!!」

 

 ガイが次郎坊ごと多由也を吹き飛ばさそうと突撃の勢いのまま、全身全霊の力を使って飛び蹴りを放った。

 次郎坊は腕を胴の前で十字に構えた体勢のまま首から下を『土遁・土矛』で硬化して、ガイの渾身の飛び蹴りを正面から受けた。

 

 ガイの渾身の飛び蹴りにより、硬化しているにも関わらず次郎坊の腕の骨にヒビが入った。

 しかし–––

 

「ぐっ……ぬぅああぁァァァァ!!!」

「なんだとっ!?」

 

 痛みを堪えながら次郎坊はガイの飛び蹴りを受け止めた。これには、止められるとは思っていなかったガイも驚愕した。

 普通ならば勢いに押されて吹き飛ばされているところだったが、次郎坊は事前に足を地面に突き刺し、土遁で強く固めることで自身を固定していた。だから、ガイの攻撃を受け止めることができたのだ。

 

「ぐぬっ……」

 

 そして、飛び蹴りを受け止められた反動で、ガイの右ふくらはぎの骨にもヒビが入った。

 その痛みにガイが一瞬だけ顔を顰めたのを鬼童丸は見逃さなかった。

 

「蜘蛛巣開!!」

 

 次郎坊と同じく既に状態2になっていた鬼童丸は、あらかじめ準備していた糸の塊を次郎坊ごとガイを捕まえるつもりで解き放った。鬼童丸の手から離れた糸の塊は投網のように瞬時に広がり、二人を捕えようとする。

 

「しまった!味方ごと!?」

「逃がさんっ!」

 

 味方を巻き込む攻撃に戸惑いながらも咄嗟に避けようとしたガイだが、その前に次郎坊が『土遁・土矛』の硬化を解き、ガイの特徴的な緑のタイツに触れたことで、ほんの一瞬だけ回避が間に合わなかった。

 まるで投網に巻き込まれた魚の群れのように、ガイと次郎坊の二人がもつれあうように糸に捕えられた。

 

「くっ……こんな物!」

 

 ガイが脱出しよう糸の中でもがくが、いくら杜門まで開けているガイといえども、この糸から力ずくで脱出するのは時間がかかる。

 

「無駄ぜよ。俺の糸は象が引っ張りあっても千切れない。それに–––」

「俺を無視して貰っては困るな」

 

 次郎坊は糸に捕えられながらもガイに接触した状態を維持していた。それはつまり、次郎坊のチャクラを吸収する術が発動できる状態だということだ。

 

「ぬぅ……チャクラが!?」

 

 みるみるうちにガイのチャクラが吸われて、次郎坊へと還元されていく。次郎坊のチャクラを吸収する速度は遅くない。もっとも、鮫肌ほど大食いでも早食いでもないが、それでもかなりの速度でチャクラを吸収していた。

 チャクラを吸われたことで、ガイの『八門遁甲』で爆発的に増えていたチャクラが少し減り、それにともなってガイの身体能力が少しだけ落ちる。

 

(こうなったら……)

 

 次なる『八門遁甲』の門である第六景門を開くことで、この状況を打破しようとガイが覚悟を決めた。

 ガイとしても、右近という強敵が控えている状態でこれ以上の負担は避けたいところであったが、捕えられた状態のままでいるよりも遥かにマシだという判断であった。

 

 しかし、ガイが第六景門を開くことは無かった。

 

 なぜなら、それよりも前に多由也の『魔笛・夢幻音鎖』の演奏が完了したからだ。音の聞こえる範囲にいた敵味方全ての者達の動きが止まった。幻術をかけられた者達は、鎖で封じられた手足が溶け落ちていく幻覚を見せられていた。

 

「ふう……なんとか多由也の幻術が間に合ったか。ヒヤヒヤしたよ本当に」

 

 静まり返った森の中で、真っ先に動き出したのは多由也ではなく右近だった。右近が幻術にかかった瞬間に、右近の中で演奏を聞いていなかった左近がすぐさま幻術を解いていた。

 右近はゲンマとライドウへした同じ対処をしようと懐から呪印札を取り出して、木ノ葉隠れの里の忍達に近づいていく。

 

「オラ!さっさと起きろよカスヤロー共!」

 

 右近に続いて、多由也が次郎坊と鬼童丸の幻術を解いて、ガイを完全に拘束しようと動き出していた。

 

「チッ、やっぱり骨が折れてやがる……この傷の分はコイツからチャクラを吸うことで返してもらうとするか」

 

 次郎坊は鬼童丸の糸に捕らわれている状態から、糸のチャクラを吸収して無力化することで脱出に成功した。無事に体が動くようになった次郎坊は、近くにいたガイから骨を折られた仕返しとしてチャクラを吸収していく。

 

「マジで怖い相手だったぜよ。万が一にも動けないように、キッチリ拘束させてもらうぜよ」

 

 鬼童丸はガイの実力に恐れをなしており、万が一短時間で幻術を解けたとしても動けないように手足を糸で縛っていく。

 

 木ノ葉隠れの里の忍達が次々と身動きを封じられ、無力化されていく。

 このままでは全滅するというその直前に一陣の風が吹いた。その風の違和感にいち早く気がついたのは、やはり右近であった。

 

(今のは自然に吹いた風じゃない……まさかここでか……!?)

 

 風が強く激しくなり、『霧隠れの術』で生み出された濃霧が散らされていく。数秒が経ち、強風が止むと霧は全て吹き飛ばされていた。

 霧が晴れたとはいえ、まだお互いに姿は見えていない。だが、右近は新たな敵の存在をはっきりと感知していた。

 

 砂隠れの里所属である我愛羅、カンクロウ、テマリの三人がこの戦場に姿を現した。

 

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