千手最強の忍とうちは最強の忍は、個性と英雄が蔓延る世へと生まれ落ちる 作:天叢雲剣を捧げるスサノヲ
・雄英高校 1年A組 教室・
期末試験。
雄英高校ヒーロー科1年A組にとって、それは入学以来最大級の関門であった。
三日間に渡る筆記試験。
そして、教師陣を相手取る実技試験。
そのどちらもが、生徒たちの精神と肉体を容赦なく削り取っていった。
緑谷出久と爆豪勝己は、復調した平和の象徴――オールマイトを相手に、己の未熟と因縁を叩きつけられた。
轟焦凍と八百万百は、イレイザーヘッドを相手に、判断力と信頼の意味を問われた。
上鳴電気や芦戸三奈たちは、筆記試験という名の巨大な壁に何度も心を折られかけた。
そして。
千手柱間とうちはマダラは、雄英ビッグ4――通形ミリオ、天喰環、波動ねじれ、うずまきミトに加え、No.1ヒーロー・オールマイトを相手取るという、もはや期末試験とは名ばかりの神話大戦を繰り広げた。
完成体須佐能乎。
仙法・木遁・真数千手。
国之常立。
九喇嘛チャクラ。
明神門。
結果として、グラウンド・オメガは、演習場というよりも、後世の歴史教科書に「神々の決戦跡地」として載せた方がしっくりくる有様へと変貌した。
そして今。
その結果が発表されようとしていた。
1年A組の教室には、妙な静けさが漂っている
普段なら朝から騒がしい上鳴や芦戸でさえ、今日は椅子に座り、魂の抜けたような顔で机を見つめていた。
上鳴「……終わった。俺の青春、終わった。」
芦戸「やだやだやだぁ……! 林間合宿行けないとか絶対やだぁ……!」
峰田「補習なんて嫌だァァ!! オイラの夏が!! オイラの林間が!! オイラの女子観察計画がァァ!!」
耳郎「最後のだけ潰れていいよ。」
蛙吹「峰田ちゃん、反省しなさい。ケロ。」
麗日「うう……緊張するなぁ……。筆記、ほんまに自信ないところあったんよ……。」
八百万「大丈夫ですわ、麗日さん。最後まで諦めずに取り組んだのですから。」
飯田「そうだ! 結果がどうであれ、我々は誠実に受け止めねばならない!」
切島「でもやっぱ怖ぇよな……!」
瀬呂「実技より筆記の方が精神削られたわ。」
砂藤「俺も菓子作りの計量なら得意なんだけどな……。」
障子「結果を待つしかない。」
そんな中、教室の最後方では、ひときわ大きな絶望の塊が机に沈んでいた。
柱間「ずうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん…………」
千手柱間。
忍の神。
前世において木の葉隠れの里を創設し、忍界の歴史に巨大な足跡を残した男。
しかし今の彼は、机に額を押しつけ、背中から本物のキノコでも生えそうなほどの落ち込みを見せていた。
柱間「終わった……。俺は終わったぞ……。林間合宿には行けぬ……。現代社会の問題で『コンプライアンスとは何か』と問われ、俺は……俺は……!」
緑谷「柱間君……?」
柱間「『皆で美味い飯を食うために守るべき約束ぞ! 破った者は木遁で縛って火影岩から吊るす!』と書いた気がする……!」
「「「「それは違う!!」」」」
一斉にツッコミが飛んだ。
マダラ「ハァ…、阿呆か貴様は。」
隣の席で腕を組んでいたうちはマダラが、心底呆れたように吐き捨てる。
マダラ「その程度の設問も理解できんとはな。やはり貴様は頭に木でも詰まっているのか。」
柱間「酷いぞマダラァァ!! お主だって最初は採点者を催眠眼でどうこうするとか言っておったではないか!!」
上鳴「そうだった! 旦那、普通に犯罪計画してたっすよね!」
耳郎「教師を物理的に黙らせるとかも言ってた。」
マダラ「チッ。過去の話を掘り返すな。」
八百万「最終的に自力で受けてくださったのは、本当に良かったですわ……。」
マダラ「当然だ。リューキュウの女共と波動に、あれだけ叩き込まれたのだ。満点以外あり得ん。」
麗日「マダラ君、なんかリューキュウ事務所の話になると素直やね。」
蛙吹「リューキュウさんたちのこと、大事に思っているのね。ケロ。」
マダラ「違う。黙れ砂利共。」
そう言いつつ、マダラの耳が僅かに赤くなった瞬間。
ガラッ……。
教室の扉が開いた。
相澤消太が、いつもの気怠げな目で教室へ入ってくる。
手には、一枚の結果表。
その瞬間、教室中の空気が凍りついた。
相澤「……席につけ。期末試験の結果を発表する。」
ゴクリ……。
上鳴「来た……!」
芦戸「やだ……聞きたくない……!」
峰田「神様仏様Mt.レディ様ァァ……!」
爆豪「うるせぇ黙れ。」
相澤は教壇に立ち、淡々と資料に目を落とした。
相澤「まず筆記。赤点を取った者はいる。」
「「「「ヒィッ!?」」」」
相澤「実技でも、合格基準に届かなかった者はいる。」
「「「「うわあああああああああああああああ!!?」」」」
柱間「ぬおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
柱間は椅子から崩れ落ちた。
柱間「ミトォォォォ!! すまぬ!! 俺は補習地獄ぞォォォ!! 林間合宿には行けぬ哀れな木遁男ぞォォォ!!」
マダラ「五月蝿い。あと床で泣くな。鬱陶しい。」
相澤「……だが。」
その一言で、全員の動きが止まった。
相澤は、わずかに口角を上げる。
相澤「林間合宿は……全員行きます!!」
一瞬。
本当に一瞬、教室から音が消えた。
そして。
「「「「どんでん返しだァァァァァ!!!!!」」」」
教室が爆発した。
上鳴「っしゃあああああああああ!! 生きてたァァァァ!!」
芦戸「やったぁぁぁ!! アタシの夏、守られたぁぁぁ!!」
麗日「よ、良かったぁぁ……!」
切島「うおおお!! 林間だ!! 合宿だ!! 青春だァァ!!」
峰田「女子の夏服がオイラを待っているゥゥ!!」
蛙吹「峰田ちゃん、今すぐ補習に戻されたいのかしら?ケロ。」
柱間「……俺も? 俺も行けるのか?」
相澤「ああ。お前は筆記が危険域だったが、実技の評価が異常だった。総合では合格だ。」
柱間「…………。」
柱間「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
ドゴォン!!
柱間が立ち上がった勢いで、机が揺れた。
柱間「マダラァァ!! 俺は行けるぞ!! 林間合宿ぞ!! 山ぞ!! 川ぞ!! 飯ぞ!!」
マダラ「チッ、落ちていれば面白かったのによォ。」
柱間「何故そういうことを言うのだマダラァァ!!」
相澤「喜ぶのは勝手だが、不合格者は合宿先で補習だ。行けるだけで、遊びに行くわけじゃない。忘れるな。」
上鳴「結局地獄じゃん!!」
芦戸「でも行けるなら勝ち!!」
相澤「それと、合宿に必要な物は各自で準備しておけ。着替え、日用品、野外訓練に必要なもの、虫除け、その他。忘れ物をしても知らん。」
その言葉に、葉隠透がぴょんと手を挙げた。
葉隠「はいはいはい!! じゃあさ、休みの日にA組みんなで買い物に行こうよ!!」
麗日「ええやん! みんなで行ったら楽しそう!」
芦戸「アタシ賛成ー! 服も見たいし、かわいい小物も見たい!」
蛙吹「木椰区のショッピングモールなら、合宿用品も揃いそうね。ケロ。」
八百万「アウトドア用品、救急用品、日用品をまとめて確認できますわね。」
耳郎「まあ、一人で買うよりは楽かも。」
上鳴「女子と買い物!? 行きます!! 俺、命懸けで行きます!!」
峰田「オイラも行くゥゥ!! 女子の試着コーナーに夢とロマンが――」
耳郎「はい黙る。」
ビシッ!!
峰田「ぎゃん!!」
爆豪「行かねェ。」
即答だった。
葉隠「えー!? 爆豪くんも行こうよ!」
爆豪「面倒くせェ。群れて買い物とかくだらねぇ。」
切島「まあまあ爆豪! 合宿準備なんだしよ!」
爆豪「一人で済ませりゃいいだろうが!!」
轟「……悪りぃ。俺も、その日は行けない。母さんの見舞いに行く予定がある。」
緑谷「轟君のお母さん……。」
空気が、少しだけ静かになった。
轟焦凍の母、轟冷。
その存在は、轟にとって非常に繊細なものだった。
彼が少しずつ前へ進むために、何度も向き合わなければならない、大切な過去。
だが、その静けさを、良くも悪くも全力の善意で突き破る男がいた。
柱間「おお! 轟の母上か!」
轟「……?」
柱間は目を輝かせ、まるで当然のように言った。
柱間「ならば俺も後日行こうぞ!! 轟の母上には、轟の友である俺からも、親しい意味合いを込めてしっかりと挨拶をしておきたいんぞ!!」
「「「「ええっ!?」」」」
麗日「柱間君、距離の詰め方がすごい!」
芦戸「土足で心の玄関に入っていくタイプだ!」
耳郎「でも悪意ゼロだから止めづらいんだよね……。」
八百万「ですが、柱間さんらしい温かさですわ。」
轟は一瞬だけ目を丸くした。
それから、ほんの僅かに口元を緩める。
轟「……母さん、驚くと思う。でも、嫌がりはしないと思う。」
柱間「そうか! ならば決まりぞ! 当日は和服で参る! 俺なりの礼儀ぞ!」
マダラ「やめておけ。病院中が騒ぎになる。」
柱間「む? ならばマダラも来るか? 親友であるお主も、轟の母上へ――」
マダラ「断る。」
柱間「即答!?」
マダラは腕を組み、目を逸らした。
マダラ「俺はその日、別の予定がある。リューキュウ事務所へ行く。」
麗日「えっ?」
蛙吹「リューキュウ事務所へ?」
マダラ「波動とミトも一緒だ。泊まりも兼ねているらしい。朝と昼は買い物、食べ歩き、遊戯施設、合宿準備、その他諸々。俺は付き合わされるだけだ。」
その瞬間、女子組の空気が変わった。
麗日「へぇー? マダラ君、波動先輩とうずまき先輩とお出かけなん?」
蛙吹「仲良しなのね。ケロ。波動先輩とうずまき先輩と一緒なら、楽しい一日になりそうだわ。」
八百万「まあ……リューキュウ事務所へお泊まりですの?」
耳郎「へぇ。マダラ、休日に先輩女子二人とお出かけかぁ。」
芦戸「アタシ、そういう話めっちゃ好き! 波動先輩とうずまき先輩って、美人だし強いし、完全に両手に花じゃん!」
葉隠「私も見たい! マダラ君が照れてるところ絶対見たい!」
マダラ「違う!! 俺はただ予定に組み込まれただけだ!!」
麗日「でも顔赤いで?」
マダラ「…赤くない。」
蛙吹「赤いわケロ。」
耳郎「赤い。」
芦戸「真っ赤だね。」
葉隠「透明な私にも分かるくらい赤いよ!」
マダラ「黙れ砂利共がァ!!」
上鳴「旦那ァァ!! 俺も連れてってください!! リューキュウ事務所とか天国じゃないっすか!!」
峰田「オイラもォォ!! 波動先輩! うずまき先輩! リューキュウさん! リューキュウのサイドキックさん! 夢の女子率――」
瀬呂「はい峰田、終了。俺が監視役で行く。」
砂藤「俺もいいか? 林間合宿の買い出しもしたいし、瀬呂がいるなら助かる。」
障子「俺も同行しよう。荷物持ちと見張りなら役に立つ。」
マダラ「……フン。家来が増えるのか。」
瀬呂「やっぱその認識かよ。」
砂藤「まあ、今のところマダラの使用人みたいになってるしな。」
障子「修行と考えれば無駄ではない。」
爆豪「俺は行かねェって言ってんだろ。」
マダラ「ほう? 怖気づいたか、爆発小僧。」
爆豪「誰が怖気づくだとボサボサ長髪!!」
マダラ「なら来るか?」
爆豪「行かねェ!!」
マダラ「負け犬の遠吠えか。」
爆豪「殺す!!」
教室が再び騒がしくなる中、柱間は今度は廊下側へ身を乗り出した。
柱間「ならば扉間はどうだ! 轟の母上へ挨拶に――」
偶然、いや、ほぼ嫌な予感を察知したように。
廊下を通っていた千手扉間が足を止めた。
扉間「兄者。俺もその日は別件がある。」
柱間「扉間まで!?」
扉間「発目明から誘われている。雷神の剣の定期改良とメンテナンス、最新鋭サポートアイテムの展覧会の視察、素材調達、常闇やB組の面々との合宿準備を兼ねている。遊びではない。合理的な予定だ。」
緑谷「すごい……! 扉間君、発目さんと最新サポートアイテム展覧会……! 僕も行ってみたい……!」
扉間「緑。貴様はA組の買い物に行け。集団行動も重要な訓練だ。」
緑谷「う、うん!」
その時、B組側から妙に張りのある声が聞こえた。
物間「やあ扉間! 聞こえたよ! 最新鋭サポートアイテムの展覧会だって? まさかA組だけでなく、君まで技術を独占する気じゃないだろうね?」
拳藤「物間、言い方。でも私も興味あるな。扉間、私も一緒に行っていい?」
鉄哲「俺も行くぜ! スティールをもっと活かせる装備があるかもしれねぇしな!」
骨抜「俺も、柔化の補助具には興味ある。」
取蔭「アタシも行きたい。分離したパーツに使える通信機とかカメラとか欲しいし。」
さらに、廊下の角から小森奇乃子がひょこっと顔を出す。
小森「私も聞いちゃったノコ〜。湿度管理とか胞子拡散を調整できるベイビー、あるかもしれないノコ!」
柳レイ子も、すっと壁際から姿を現した。
柳「私も……ちょっとウラめしいくらい興味ある。拳藤と取蔭が行くなら、私も行きたい。」
扉間「……人数が増えすぎだ。」
物間「ふふん! 人気者はつらいね、扉間! これもB組の人望というものさ!」
拳藤「物間。」
ゴスッ!!
物間「ぐふっ!?」
鉄哲「相変わらず一撃が鋭ぇ!」
骨抜「でも、扉間の説明は本当に分かりやすいからな。」
取蔭「そうそう。アタシらもちゃんと学ぶって。」
小森「邪魔しないノコ!」
柳「ウラめしくない程度に静かにしてる。」
扉間「……好きにしろ。ただし、発目明の暴走には各自で注意しろ。」
緑谷「発目さんの暴走……。」
常闇「創造の爆炎を纏う女……。確かに油断ならぬ。」
柱間は、完全に置いて行かれていた。
柱間「ずうぅぅぅぅぅぅぅぅぅん……」
柱間「マダラも扉間も……俺を置いていく……。俺は一人で轟の母上へ挨拶に行き、都会の電車で迷い、病院の受付で『千手柱間です!』と名乗って警備員を呼ばれるのだ……。」
マダラ「ったく、面倒くせェ奴だ。」
扉間「ハァ…、兄者、いい加減にしろ。」
その時だった。
教室の入口付近。
偶然通りかかった普通科1年C組の少年が、気まずそうに立ち止まった。
心操人使である。
心操「あー……えーと……。」
緑谷「あ、心操君?」
心操は、床にしゃがみ込んでのの字を書いている柱間を見た。
少し迷うように視線を泳がせる。
それから、ぼそりと呟いた。
心操「あー、えーと……じゃあ柱間、俺がマダラと扉間の変わりに付き添ってやろうか……? 俺もその日の休日はどうせ家でゴロゴロしているだけだとは思うし……。」
柱間「…………。」
柱間の動きが止まった。
教室の全員が、何となく嫌な予感を覚えた。
次の瞬間。
柱間「心操ォォォォォォォ!!!!」
柱間が床から跳ね起きた。
心操「うわっ!? ちょ、待――」
柱間は心操へ突撃し、そのまま全力で抱きしめた。
柱間「お主は神か!? 仏か!? いや、心操人使という名の聖人ぞォォォ!!」
心操「ぐ、ぐえ……! 力……強……!」
柱間「体育祭の時から思っておったが、お主の洗脳という個性は素晴らしき力ぞ!! 人を操るためだけのものではない!! 人を導き、止め、救うための力ぞ!! その優しき心根、俺は深く深く感動した!!」
心操「……っ。」
心操の目が、ほんの少しだけ揺れた。
雄英体育祭。
自分の個性を「敵向き」だと恐れる者は多かった。
「ヒーローらしくない」と言う者もいた。
だが、柱間は違った。
何の迷いもなく、心操の個性を肯定した。
それは人を救える力だと。
そして今も、変わらず真正面から言ってくる。
暑苦しい。
距離が近い。
声が大きい。
けれど、悪意は一切ない。
心操「……大袈裟だっての。」
柱間「いいや大袈裟ではない!!」
柱間は涙を滝のように流しながら、マダラと扉間へ向き直った。
柱間「聞いたかマダラ!! 扉間!! いつも現実のことしか考えぬ心が大変冷たい冷たいお主ら二人とは全く持って大違いぞ!! この裏切り者め!! ブーブー!!」
マダラ「殺すぞ柱間。」
扉間「兄者、調子に乗るな。」
心操「……俺、思ったより面倒な立場になったか?」
緑谷「で、でも心操君、柱間君すごく嬉しそうだよ。」
心操「……まあ、悪い気はしないけどな。」
こうして。
林間合宿前の休日予定は、複数の方向へ枝分かれしていくこととなった。
A組買い物組は、木椰区ショッピングモールへ。
マダラたちは、波動ねじれとうずまきミト、そしてリューキュウ事務所組と合流する一日へ。
扉間たちは、発目明と常闇、B組の仲間たちと共に最新鋭サポートアイテム展覧会へ。
柱間は後日、轟と心操と共に轟冷の見舞いへ。
夏へ向けた準備が、静かに、しかし賑やかに動き出した。
・木椰区方面 駅前・
休日の朝。
木椰区へ向かう駅前には、明らかに周囲から浮いている一団がいた。
黒装束の和服を纏い、長い黒髪を風に揺らすうちはマダラ。
半袖の青天色ロングスカートを軽やかに着こなす波動ねじれ。
そして、普段の着物ではなく、真紅色のパンツスタイルに身を包んだうずまきミト。
ミトの装いは珍しく洋風でありながら、彼女が元々持つ大和撫子としての気品と、成熟した大人の女性のような落ち着きをいっそう際立たせていた。
その肩には、ミニサイズの九喇嘛が、相変わらず不機嫌そうに丸まっている。
九喇嘛『ケッ。朝っぱらから騒々しい。マダラ、貴様も連れ回されるとは災難だな。』
マダラ「貴様も同じく連れ回されている側だろうが、九尾。」
波動「ねえねえマダラ君! 今日の予定、確認するね! まずファッション巡り! 次にグルメとスイーツ! それからゲームセンター! それから林間合宿の買い出し! それから猛禽類専門のペットショップ! その後はリューキュウたちと合流!」
マダラ「予定が過密すぎる。」
ミト「ふふ。せっかくの休日ですもの。楽しみましょう、マダラ様。」
マダラ「俺は楽しむなど一言も言っていない。」
波動「でもマダラ君、昨日からちょっと楽しみにしてたでしょ? 不思議!」
マダラ「していない。」
九喇嘛『嘘つけ。鷹の店に行く話になった時、目が光ってたぞ。』
マダラ「黙れ。」
そこへ、上鳴、峰田、瀬呂、砂藤、障子がやってきた。
上鳴「旦那ァァ!! おはようございまーす!!」
峰田「リューキュウ事務所! 波動先輩! うずまき先輩! 夢の休日が今ここに!!」
瀬呂「はい峰田、初手からアウト。俺と砂藤と障子で監視するからな。」
砂藤「マダラ、今日はよろしくな。荷物持ちくらいなら任せてくれ。」
障子「俺も同じく。人手が必要なら使え。」
マダラ「フン。家来としては上出来だ。」
瀬呂「だから自然に家来扱いすんなって。」
砂藤「まあ、今さら感あるけどな。」
障子「修行と思えば問題ない。」
最後に、非常に不機嫌そうな爆豪勝己が現れた。
爆豪「……チッ。」
上鳴「爆豪!? お前、来ないって言ってなかった!?」
瀬呂「どうせお母さんに言われたんだろ。」
爆豪「黙れテープ野郎!!」
マダラ「ほう。母親に叱られて来たか、爆発小僧。」
爆豪「殺すぞボサボサ長髪!!」
その数時間前。
爆豪家では、既に一戦が起きていた。
光己「勝己!! せっかくアンタのお師匠様をやってくれてるマダラ君がわざわざ誘ってくれてるんだから、アンタもいつまでも不貞腐れていないで素直に行ってきな勝己!!」
爆豪「誰が行くかババア!!」
光己「ああん!!?誰がババアだコラァ!!誰に向かって口聞いてんだこのクソガキ!!」
ゴッ!!
爆豪「ぐあっ!!」
――そして現在。
爆豪は極めて不本意ながら、ここにいた。
波動「わあ! 爆豪君も来たんだね! 不思議!」
ミト「賑やかになりましたね。」
爆豪「俺は馴れ合いに来たわけじゃねェ。」
マダラ「なら何をしに来た?」
爆豪「テメェを超えるための偵察だ!!」
マダラ「言い訳が下手だな。」
爆豪「ぶっ殺す!!」
・木椰区 ファッションエリア・
最初に向かったのは、木椰区ショッピングモールに隣接する大型ファッションエリアだった。
ガラス張りの店舗が並び、夏物の服、帽子、サンダル、アクセサリーが色鮮やかに陳列されている。
波動「マダラ君、これ着てみて!」
マダラ「断る。」
ミト「こちらの黒いロングコートも似合いそうです。ですが夏場には少し暑いかもしれませんね。」
マダラ「断ると言っている。」
波動「じゃあ、この深紅のシャツ! マダラ君っぽい!」
マダラ「何だその雑な分類は。」
ミト「リューキュウ様に写真を送ってもよろしいですか?」
マダラ「…………一着だけだ。」
上鳴「旦那、リューキュウさんの名前出た瞬間に負けた!!」
瀬呂「弱点が分かりやすいな。」
爆豪「ダッセェ。」
マダラ「黙れ。」
結局、マダラは半強制的に試着室へ押し込まれた。
最初に出てきたのは、黒い細身のジャケットに深紅のインナーを合わせた現代風の姿。
波動「おおー! かっこいい!」
ミト「フフ、よくお似合いですよ。」
サイドキック2に送信する用の写真を撮る波動ねじれ。
マダラ「撮るな。」
波動「もう撮ったよ!」
マダラ「消せ。」
ミト「リューキュウ様へも送っておきました。」
マダラ「何故だ!?」
次は和柄の羽織を取り入れた和洋折衷スタイル。
上鳴「旦那、モデルみたいっす!」
峰田「顔が良い男は何着ても許されるのか……この世は不平等だ……!」
瀬呂「峰田、悟る方向がおかしい。」
砂藤「でも実際似合ってるな。」
障子「動きやすさも十分そうだ。」
爆豪「……まあ、その服はマシだな。」
マダラ「貴様に評価される筋合いはない。」
そして、最終的にマダラは元の黒装束の和服へ戻った。
ミト「やはり、マダラ様にはその姿が一番しっくりきますね。」
波動「うんうん! でも現代服もたまには着てほしいな!」
マダラ「二度と御免だ。」
その様子を、店内の若い女性客たちがこっそり見ていた。
「え、あの人すごくない?」
「和服男子……!」
「隣の女の人たちも綺麗すぎる……。」
「撮影? モデル?」
マダラ「……視線が鬱陶しい。」
波動「人気者だね!」
マダラ「嬉しくない。」
・同時刻 最新鋭サポートアイテム展覧会場・
一方その頃。
都内の大型展示施設では、最新鋭サポートアイテム展覧会が開催されていた。
プロヒーロー向けの捕縛装置。
災害救助用の強化外骨格。
個性補助用グローブ。
遠隔探索ドローン。
耐火・耐電・耐衝撃素材。
医療支援用ナノマシン投射機。
会場内には、最新技術の結晶が所狭しと並んでいた。
その中を歩く千手扉間は、通気性の良い黒いタートルネックニットに身を包んでいた。
無駄がなく、機能性を重視した私服である。
隣では、私服姿の発目明が目を輝かせていた。
発目「扉間さん!! 見てください!! 最新型の衝撃吸収ベイビーです!! これを雷神の剣の柄に組み込めば、斬撃時の反動を三割は削減できます!!」
扉間「素材の密度と反発係数を見る限り、有用だな。雷神剣の改良候補として記録しておく。」
常闇「雷を宿す剣、その反動すら制するか……。深淵に光る刃だ。」
物間「ふふん! A組ばかりが最先端を学んでいると思ったら大間違いだよ! 我々B組も、扉間という冷静沈着なる頭脳を通じて進化しているのさ!」
拳藤「物間、いちいちA組を引き合いに出さない。でも扉間の説明が分かりやすいのは本当だね。」
鉄哲「俺はこの耐久素材が気になるぜ! 俺のスティールと組み合わせたら、さらに硬くなれそうだ!」
骨抜「俺は地面を柔らかくした後に固定できる杭とか欲しいな。救助にも使えそうだし。」
取蔭「アタシは分離したパーツに小型カメラつけたい。偵察性能上げたいんだよね。」
小森「私は湿度管理系が気になるノコ〜。キノコちゃんたちが快適に育つ環境、作りたいノコ!」
柳「物間怖。でも、今のやり取りを見るとやっぱ扉間も緑谷もウラメシくない? 頭の中が全部戦術になってる。」
扉間「褒めているのか?」
柳「多分。」
発目「次は素材専門エリアです!! 私のベイビーたちの未来が待っています!!」
扉間「発目。予算の上限は確認しているのだろうな。」
発目「発明に予算という枷は不要です!!」
扉間「必要だ。極めて必要だ。」
常闇「創造の火は、時に財布を焼く。」
拳藤「常闇、それ結構現実的だね。」
素材専門エリアでは、発目が次々と部品を手に取った。
高伝導合金。
耐雷コーティング材。
軽量高耐久フレーム。
捕縛用極細ワイヤー。
振動吸収ゲル。
暗視レンズ。
熱遮断布。
扉間は、それらを見ながら即座に用途を分析していく。
扉間「この合金は雷神剣のチャクラ伝導と相性がいい。だが過負荷時の発熱が問題だ。こちらの熱遮断布と組み合わせれば、柄部分の安全性は上がる。」
発目「素晴らしいです!! やっぱり扉間さんの術式思考は最高の設計補助です!!」
物間「扉間、君、本当にB組の誇りだよ。A組に取られなくてよかった。」
拳藤「物間、変な対抗意識出さない。」
取蔭「でも分かる。扉間って便利すぎるもん。」
骨抜「便利って言うと怒られそうだけどな。」
扉間「怒りはしない。だが雑用扱いはするな。」
小森「頼れるノコ〜。」
柳「ウラめしいくらい頼れる。」
その後、一行は常闇の林間合宿用装備、扉間の携帯忍具収納具、発目の新発明素材を買い揃えた。
夕方。
扉間たちは、用事を兼ねてホークス事務所へ立ち寄ることになった。
ホークス「やあ扉間君。今日はずいぶん大所帯だね。」
扉間「発目に連れ回された。ついでに貴殿へ渡す資料もある。」
ホークス「お疲れ様。せっかくだし、今日俺の事務所へ泊まって行きなよ?」
扉間「何故そうなる。」
ホークス「もう遅いしさ。発目ちゃんも常闇君もいるし、部屋は余ってる。夜にサポートアイテム談義でもすればいいじゃん。」
発目「泊まり込み開発ですか!? 素晴らしいです!!」
常闇「翼持つ者の巣にて夜を越す……悪くない。」
扉間「……はあ。仕方あるまい。」
物間「待ちたまえ! 僕たちは!?」
拳藤「私たちは帰るよ。迷惑になるし。」
鉄哲「次は俺らも呼んでくれよな!」
骨抜「土産話、期待してる。」
取蔭「扉間、今度はアタシらも泊まりでね。」
小森「ホークス事務所、気になるノコ〜。」
柳「今日は帰る。ウラめしいけど。」
扉間「まあ、検討はしておく。」
ホークス「いやー、人気者だねぇ。」
扉間「黙れ。」
・木椰区 ショッピングモール・
A組買い物組とマダラたちは、昼過ぎに木椰区ショッピングモールへ合流していた。
巨大な吹き抜け。
複数階に渡る店舗。
アウトドア用品、日用品、衣料品、飲食店、ゲームセンター。
休日のショッピングモールは、家族連れや学生たちで賑わっていた。
葉隠「すごーい! 何でも揃いそう!」
麗日「まずは虫除けと着替えやね!」
蛙吹「雨具も買っておいた方がいいわ。ケロ。」
八百万「救急用品も予備として必要ですわ。」
耳郎「上鳴用に携帯充電器も買っとく?」
上鳴「俺はスマホじゃねぇよ!」
芦戸「でも放電した後にアホになるじゃん。」
上鳴「ぐうの音も出ねぇ!」
一方、マダラたちはアウトドア用品を眺めていた。
マダラ「この携帯寝具は使えるな。野営には悪くない。」
砂藤「意外とちゃんと選ぶんだな。」
障子「忍としての野営経験があるからだろう。」
瀬呂「旦那、荷物の選び方がガチすぎる。」
峰田「オイラは女子の寝巻きが気にな――」
瀬呂「はい拘束。」
シュルッ!!
峰田「んむぅぅ!!」
爆豪「馬鹿が。」
その時だった。
緑谷出久は、売り場案内のマップを見ながら、少しだけ集団から離れていた。
次に買うべきものを確認していた、その背後。
スッ……。
冷たい気配が近づく。
死柄木「……久しぶりだな、お茶でもしようぜ?緑谷出久。」
緑谷「――ッ!?」
声を上げることができなかった。
死柄木弔。
USJを襲撃した敵連合のリーダーが、まるで一般客のようにそこに立っていた。
死柄木の手が、緑谷の首元に添えられている。
死柄木「騒ぐなよ。五本指で触れば、お前の喉は崩れる。」
緑谷「し……死柄木……。」
死柄木「少し話がしたいだけだ。ステインのこと、オールマイトのこと、ヒーローってやつのこと……ムカついて仕方ないんだよ、俺。」
周囲には一般人がいる。
子ども連れの家族もいる。
ここで緑谷が暴れれば、被害が出る。
死柄木「なあ、緑谷。ステインと俺、何が違う? あいつも気に入らないヒーローを殺した。俺も気に入らない世界を壊したい。なのに、何であいつだけ持ち上げられる?誰も俺という存在を見ようとすらもしない。」
緑谷「……違う。」
死柄木「あ?」
緑谷は震えながらも、言葉を絞り出した。
緑谷「ステインは歪んでた。でも、彼には信念があった。君は……ただ、全部が気に入らないから壊したいだけだ。」
死柄木の指に力が入る。
死柄木「……やっぱりムカつくな、お前。」
その瞬間。
マダラ「――その手を離せ。」
空気が、裂けた。
通路の向こうに立っていたのは、うちはマダラだった。
黒装束の和服姿。
長い黒髪。
その眼には、三巴写輪眼。
背後には波動ねじれ、うずまきミト、上鳴、峰田、瀬呂、砂藤、障子、爆豪がいる。
ミト「出久……!」
波動「大丈夫!?」
爆豪「デク、てめェ何捕まってやがる……!」
死柄木「……お前……。」
マダラは、死柄木を見下すように目を細めた。
マダラ「ああ、確かにお前の名は覚えているぞ。」
死柄木の口元が僅かに歪む。
だが、次の瞬間。
マダラは、冷酷に笑った。
マダラ「あのUSJとやらの場所を愚かにも計画性の欠片もなくわざわざ襲撃してきた時に、この俺が完膚なきまでに真の悪党としての恐怖と美学を一から叩き込んでやった、未だに身体も精神もまるで好きな玩具を親に買って貰えず、ただただ癇癪をあげ続けていつまでも情けなく駄々を捏ねるガキの醜態を晒し続ける、“ガキの皮を被った情けない大人”という名だったな。」
死柄木「……ッ。」
マダラ「さらに付け加えれば、幼児的本能感や幼児的万能感がいつまで経っても抜けきらない、救いようのない癇癪持ち、と言ったところか? ま、お前の本当の名前など、もう一ミリも覚えておらんがなァ。」
上鳴「旦那、口撃が強すぎる……!」
瀬呂「でも正直、ちょっとスカッとした。」
砂藤「挑発としては危険だけどな。」
障子「緑谷を離させるための圧力としては機能している。」
爆豪「ハッ。陰気面がさらに陰気になってんぞ。」
死柄木の顔が歪む。
怒り。
屈辱。
憎悪。
死柄木「……殺す……お前……!」
マダラ「やってみろ。だが、ここには一般人がいる。貴様が少しでも妙な真似をすれば――」
マダラの瞳が、永遠の万華鏡写輪眼へと変わりかける。
マダラ「その腕ではなく、心を折る。」
死柄木は歯を食いしばった。
だが、状況は最悪だった。
緑谷を人質に取っているとはいえ、目の前にはマダラ。
さらにミト、波動、爆豪。
周囲には人目もある。
ここで暴れれば、敵連合にとっても不利だ。
死柄木「……覚えてろよ。」
マダラ「覚えていてほしいなら、もう少しまともな悪党になってから出直せ。」
死柄木は、忌々しげに舌打ちし、人混みの中へ消えていった。
緑谷はその場に膝をつきそうになる。
緑谷「マ、マダラ君……ありがとう……。」
マダラ「礼など要らん。貴様が間抜け面で捕まっていたから、通りがかっただけだ。」
ミト「あらあら、相変わらず素直ではありませんね。」
波動「でも助けるの早かったよ! マダラ君、かっこよかった!」
マダラ「チッ、五月蝿い。」
爆豪「デク。後で全部話せ。」
緑谷「う、うん……。」
ミト「相澤先生と塚内警部へ連絡しましょう。皆さん、周囲の安全確認を。」
死柄木との遭遇。
それは短い出来事だった。
だが、緑谷の心には、彼の問いが残った。
そしてマダラの心には、敵連合の背後にある腐臭への苛立ちが、静かに燃え残った。
・午後 猛禽類専門ペットショップ「天空の城」・
重くなった空気を切り替えるように、一行は予定通り、猛禽類専門のペットショップへ向かった。
そこは普通のペットショップではない。
特別許可を持つ、猛禽類専門施設。
フクロウ、タカ、ハヤブサ、ワシ。
屋内には大型猛禽類用の飛行訓練スペースがあり、施設の奥には、選ばれた者しか入れない特別区画まで存在していた。
店に入った瞬間、マダラの目がわずかに変わった。
波動「あっ! マダラ君、目がキラってした!」
ミト「マダラ様、本当に楽しみにしていらしたのですね。」
マダラ「……別に。」
九喇嘛『嘘つけ。尻尾があったら振ってる顔だぞ。』
マダラ「おい黙れ、九尾。」
上鳴「旦那、鷹狩りが趣味ってマジだったんすね……。」
砂藤「渋い趣味だな。」
障子「猛禽類との連携は、偵察、制圧、空中移動において極めて有用だ。」
瀬呂「障子、分析が本気だな。」
爆豪「……空飛ぶ相棒か。悪くねぇ。」
店員が緊張した面持ちで現れた。
店員「本日はご予約ありがとうございます。うちは様がご覧になりたいと仰っていた個体は、奥の特別区画におります。」
マダラ「案内しろ。」
奥へ進む。
分厚いガラスと強化金属の柵に囲まれた広大な空間。
その中央に、"それ"はいた。
バサァ……。
空気が揺れた。
純白。
漆黒。
鼠色。
三色が、まるで西洋彫刻のガーゴイルのように荘厳な均衡で混ざり合った羽毛。
鋭い眼光。
気高い首筋。
静かな知性を感じさせる佇まい。
全高3m強。
翼幅5m強。
店員「ハルパゴルニスオウギワシ。別名、ジャイアントハルピュイアイーグル。通常のオウギワシとは明確に異なる、極めて希少な変異個体です。」
上鳴「でっ……でけぇぇぇぇ!!」
峰田「鳥ってサイズじゃねぇぇぇ!!」
瀬呂「人が乗れるだろ、これ!」
砂藤「いや、実際乗れるんじゃないか?」
障子「骨格と筋肉量を見る限り、人間一人を乗せて飛行することは可能だろう。」
爆豪「ハッ。面白ェ。」
その翼には、異質な羽根があった。
天魔の剣羽根。
骨格部のみが金剛石以上の硬度を持つとされ、折り畳めばまるで荘厳な西洋の両刃大剣のような形状へ変貌する特殊な翼――天魔の剣鎧翼。
さらに、その鉤爪は長大で、鋭利で、まるで十字架の刃。
天魔殺しの十字架鉤爪。
その姿は、ギリシャ神話のハルピュイア。
あるいは、夜の尖塔に鎮座するガーゴイル。
空の女王と呼ぶに相応しい威厳だった。
波動「すごい……! 綺麗! かっこいい! それに、ちょっと可愛い! 不思議!」
ミト「ええ。本当に、空を統べる淑女のようですわ。」
リューキュウのサイドキック1「リューキュウに雰囲気が似ていますね。」
リューキュウのサイドキック2「あ、分かる! リューキュウさんのようにクールビューティーで気品があって、でも仕草が可愛い!」
リューキュウ「……まあ。そんなに似ているかしら?」
マダラは柵の前に立った。
巨大なオウギワシも、マダラを見た。
互いに一歩も視線を逸らさない。
店員「この子は、これまで多くの希望者を拒んできました。あまりにも気位が高く、飼育許可が下りても相性が合わないことが多く……正式名もまだ――」
マダラ「ナオリ。」
店員「え?」
マダラ「名は、ナオリだ。」
ミト「……うちはナオリ様からですか?」
マダラ「前世、うちは一族の内乱をイザナミで収めた女の名だ。誇り高く、強く、己の意志で争いを止めた女。こいつには相応しい。」
巨大なオウギワシは、静かに瞬きをした。
そして。
クルル……。
まるで、その名を受け入れたかのように鳴いた。
波動「返事した!!」
上鳴「旦那、認められてる!!」
峰田「鳥にまでモテるのかよォォ!!」
瀬呂「いや、これはモテるっていうか主従契約だろ。」
砂藤「マダラ、本気で買うつもりだったんだな。」
障子「入学直後から貯金していたという話も納得だ。計画性がある。」
爆豪「鳥にそこまで金使うとか、馬鹿じゃねぇの。……でも、嫌いじゃねぇ。」
マダラ「当然だ。鷹狩り用、護衛用、移動用、忍具用。俺の相棒として、これほど相応しい個体はいない。」
九喇嘛『忍具扱いされて怒らねぇあたり、器がデカいな。』
ナオリ「クルル。」
ミト「ふふ。ナオリも満更ではなさそうです。」
リューキュウ「マダラ君、本当に嬉しそう。」
マダラ「嬉しそうではない。」
波動「嬉しそうだよ!」
リューキュウのサイドキック2「写真撮っていい? この出会い、絶対記念日だよ!」
マダラ「撮るな。」
リューキュウのサイドキック1「もう撮りました。」
マダラ「貴様ら……!」
正式な手続き、特別許可、飼育設備の確認。
全てを済ませ、うちはマダラは、ハルパゴルニスオウギワシ――ナオリを迎えることとなった。
・夕刻 木椰区 連絡通路・
夕方。
買い物を終えた一行が移動している時、宝飾店の方から悲鳴が上がった。
「強盗よ!!」
「誰か!!」
三人組のヴィランが、破壊されたショーケースから宝石を掴み取り、逃走していた。
ヴィランA「どけどけぇ!!」
ヴィランB「ヒーローが来る前に逃げるぞ!!」
ヴィランC「邪魔する奴はぶっ飛ばす!!」
その進路に、黒装束の少年が立っていた。
マダラ「……今日は雑魚がよく湧く日だな。」
ヴィランA「邪魔だガキ!!」
次の瞬間。
バサァァァァァッ!!!!
巨大な影が、天井近くから舞い降りた。
ナオリである。
マダラは、ほとんど無動作でナオリの背へ飛び乗った。
上鳴「乗ったァァァァァ!!?」
瀬呂「本当に人乗せて飛べるのかよ!!」
障子「飛行姿勢が安定している。翼幅、筋力、重心制御、全てが規格外だ。」
爆豪「ハッ! いいじゃねェか!!」
ナオリが翼を広げる。
突風が通路を駆け抜け、ヴィランたちの足を止めた。
マダラ「行くぞ、ナオリ。」
ゴォッ!!
ナオリは一気に上昇した。
次の瞬間、流星のように急降下する。
マダラはその背から飛び降り、体術の体勢を取った。
マダラ「うちは流体術。」
ドゴォッ!!
一人目のヴィランが飛び蹴りで吹き飛ぶ。
バキィッ!!
二人目の足元をマダラの足払いで払う。
三人目が逃げようとした瞬間、ナオリの巨大な鉤爪が地面すれすれを掠めた。
ヴィランC「ひぃぃぃ!? 鳥!? 鳥デカすぎんだろ!!」
ナオリは、まるで淑女のように首を傾げた。
波動「ナオリちゃん、すごーい!!」
ミト「まるで空を舞う女王ですわね。」
リューキュウ「綺麗……それに、とても強い。」
リューキュウのサイドキック1「リューキュウに似ていますね。」
リューキュウのサイドキック2「うんうん! 優雅で強い!」
上鳴「旦那とナオリちゃん、絵になりすぎっす!」
峰田「オイラも猛禽類飼えばモテるのか……?」
瀬呂「ハァ…、お前はまず日頃の言動を直せ。」
砂藤「今の連携、普通にかっこよかったな。」
障子「空中機動と制圧の連携として完成度が高い。」
爆豪「……チッ。ちょっと乗ってみてェ。」
ヴィランたちは瞬く間に拘束された。
しかし、問題はその後だった。
周囲にいた若い女性たちが、マダラとナオリを取り囲んだのである。
「きゃー! すごかった!」
「ナオリちゃんっていうの!? かわいい!」
「写真いいですか!?」
「マダラ様、こっち向いてください!」
マダラ「……チッ。騒々しい。」
ナオリ「クルル。」
意外にも、ナオリは乗り気だった。
翼を優雅に広げ、首を傾げ、上品にポーズを取る。
波動「ナオリちゃん、ファンサ上手!」
ミト「マダラ様より愛想がありますね。」
マダラ「余計なことを言うな。」
リューキュウ「ふふ。マダラ君も少しだけ付き合ってあげなさい。」
マダラ「……リューキュウまで。」
結局、マダラは不本意ながらも写真や握手に応じた。
ナオリは若い女性たちにたくさん可愛がられ、実に上品に鳴きながらそれを受け入れていた。
・夜 高級焼肉専門店「龍叙苑(りゅうじょえん)」・
その日の夜。
リューキュウの奢りで、一行は完全予約制の高級焼肉専門店へやって来ていた。
リューキュウは、漆黒色のロングカーディガン、黒色のキャミソール、白銀色のスマートなジーンズ、焦茶色の腰ベルト、金色のリングのような腕輪を身に着けていた。
ヒーローコスチュームとは違う、クールビューティーな大人の女性の私服姿。
上鳴と峰田は、見た瞬間に硬直した。
上鳴「う、美し……。」
峰田「女神……。」
瀬呂「お前ら、頼むから口を閉じろ。」
リューキュウのサイドキック1は、濃藍色のジーンズに若草色のスカーフを合わせた、クール系かつイケメン系の私服姿。
リューキュウのサイドキック2は、桔梗色と碧玉色を基調としたオフショルダー式、さらにへそ出しの意匠を取り入れたキレイ系の私服姿だった。
リューキュウのサイドキック2「やっほー! みんな、今日は食べるよー!」
リューキュウのサイドキック1「ナオリ様の特注ペットルームも手配済みです。」
ナオリは店の裏に用意された広大な特注ペットルームに案内された。
そこには大量の高級生肉が用意されており、ナオリはリューキュウを思わせる美しい淑女のように、実に上品に食事を始めた。
九喇嘛『あの鳥、マダラより礼儀正しいんじゃねぇか?』
マダラ「聞こえているぞ、九尾。」
リューキュウ「今日は私の奢りよ。夏の賞与(ボーナス)も入ったし、林間合宿前にしっかり食べていきなさい。」
爆豪「……高ェ店じゃねぇのか。」
リューキュウ「たまにはいいのよ。皆、今日はよく頑張ったもの。」
肉が焼ける音。
脂が弾ける香り。
上鳴と峰田が感涙し、瀬呂が世話を焼き、砂藤が肉の焼き加減を真剣に見極め、障子が静かに大皿を支える。
爆豪は無言で肉を食べつつも、明らかに味には満足していた。
マダラは最初こそ不機嫌そうにしていたが、やがて黙々と箸を動かし始める。
リューキュウ「マダラ君、美味しい?」
マダラ「……悪くない。」
リューキュウ「ふふ。それは良かった。」
波動「マダラ君の悪くないは、美味しいって意味だよ!」
ミト「ええ、ねじれ。マダラ様の言葉遣いはもう分かってきましたね。」
マダラ「勝手に翻訳するな。」
・数日後 特別合同会議室・
楽しい休日の裏側で。
日本の中枢では、重い会議が開かれていた。
全国警察。
日本政府。
雄英高校。
ヒーロー公安委員会。
トップヒーローたち。
そして、当事者である千手柱間、うちはマダラ、千手扉間、うずまきミト。
雄英からは、根津校長、リカバリーガール、イレイザーヘッド、プレゼント・マイク、ミッドナイト、ブラドキング。
ヒーロー側からは、オールマイト、エンデヴァー、ホークス、ベストジーニスト、エッジショット、ミルコ、リューキュウ、ギャングオルカ、シンリンカムイ、Mt.レディ。
そして、ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ。
マンダレイ、ピクシーボブ、ラグドール、虎。
会議室の一角には、巨大な専用止まり木に留まるナオリの姿もあった。
ミルコ「おいおい、何だその鳥。デカすぎだろ。ちょっと戦ってみてェな。」
マダラ「ナオリに手を出すな、兎女。」
ミルコ「ハッ! 言うじゃねぇか!」
リューキュウ「ミルコ、会議中よ。」
ミルコ「へいへい、分かってるって。」
巨大モニターに、映像が映し出された。
雄英高校期末試験。
千手柱間とうちはマダラの特別実技試験、その一部始終である。
25体の須佐能乎第四形態。
樹界降誕。
花樹界降臨。
五重羅生門。
明神門。
木人。
完成体須佐能乎。
真数千手。
国之常立。
映像が進むたび、会議室の空気が重くなっていく。
エンデヴァー「……改めて見ても、ふざけた規模だ。」
ホークス「これを期末試験って呼ぶの、雄英さん攻めすぎでしょ。」
相澤「俺もそう思います。」
根津「彼らの実力を測るには、通常の枠では足りなかったのサ。」
リカバリーガール「だからってグラウンドを一つ潰すんじゃないよ。」
プレゼント・マイク「修理費、マジでロックじゃねぇぜ……。」
次に、塚内直正警部が一枚の写真を提示した。
塚内「これは、柱間君とマダラ君がこの世界へ転生して間もない頃、検査を担当した医師から譲り受けた、柱間細胞の拡大写真です。」
映し出された写真には、異様な細胞構造があった。
そして、その奥に、柱間の人面のような模様が浮かび上がっている。
会議室がざわめいた。
塚内「通称、柱間細胞。致命傷でも短時間で回復する自然治癒力、未知のエネルギーであるチャクラの使用、身体能力向上。そして一定以上を移植すれば、個性とは別原理の樹木操作能力――木遁を発現する可能性があります。」
ベストジーニスト「適合率は?」
塚内「推定1%。失敗すれば、移植者は細胞に肉体を侵食され、死亡します。例として、60人が柱間細胞の移植実験を行えば、60人中59人が死亡し、60人中1人が生存するという確率です。」
ギャングオルカ「危険すぎる。」
エッジショット「禁忌の細胞と呼ぶに相応しい。」
マダラ「忍界でも、柱間細胞は争いの火種だった。さらに言えば、全身が柱間細胞由来で構成された白ゼツという存在もいた。白ゼツや適合者は、飲まず食わずでも生存できる身体を得る場合がある。」
シンリンカムイ「木を操る力が、そこまで危険なものだったとは……。」
Mt.レディ「迂闊に研究対象にしたら、本当に取り返しつかないわね。」
次に、マダラの術が議題に上がる。
火遁・豪火滅却。
火遁・豪火滅失。
火遁・龍炎放歌。
火遁・龍焔業歌。
写輪眼。
永遠の万華鏡写輪眼。
国之常立。
天之常立。
イザナギ。
イザナミ。
須佐能乎の第一形態、第二形態、第三形態、第四形態、完成体。
さらに、ナオリの基本構造と戦闘能力。
研究員「ナオリという名前のオウギワシの個体…、それもハルパゴルニスオウギワシは、既存の猛禽類分類を大きく逸脱しています。翼の骨格部は極めて高硬度。推定飛行速度は最大時速400キロ。鉤爪の衝撃エネルギーは推定9000ジュール。握力は650キロ以上、成長と訓練次第では700キロを超える可能性があります。」
ミルコ「ハッ、ますます戦ってみてェ。」
リューキュウ「駄目よミルコ。」
次に、扉間の術。
飛雷神の術。
影分身との瞬時連携。
飛雷神斬りと雷神の剣の相乗効果。
水遁・水断波。
天泣。
扉間「水断波は、超高圧水流を一点に収束させた切断術だ。天泣は印を結ばず、極細の水針を放つ。毒や麻痺毒を仕込めば、初見での回避は極めて困難だ。」
ミッドナイト「暗殺術ね。」
プレゼント・マイク「ヒーロー社会の倫理とは相性最悪だぜ……。」
扉間「だからこそ、運用には制限が必要だ。俺とて無差別に使うつもりはない。」
そして。
最も空気を重くした議題が映し出される。
穢土転生。
扉間「穢土転生は、死者の魂を現世に縛り、器へ宿す禁術だ。生者の器を必要とし、死者本人の魂を呼ぶ。倫理的観点から、現時点では使用を封印している。」
ホークス「でも、術式は頭にあるんだよね?」
扉間「ああ。完全に刻まれている。」
モニターに、高精度シミュレーションが映し出される。
二代目水影。
三代目風影。
二代目土影。
三代目雷影。
忍刀七人衆。
桃地再不斬。
白。
ガリ。
パクラ。
霧の中、断刀・首斬り包丁を担いだ再不斬が笑う。
再不斬『死んでもまた戦場か。相変わらず、ろくでもねぇ術だな。』
白『再不斬さんが行くなら、僕も行きます。』
パクラ『灼遁を再び使う日が来るとはねぇ。死者を呼び戻す術とは、相変わらず趣味が悪いな。』
ガリ『爆遁なら任せろ。戦場を吹き飛ばせばいいんだろ?』
西瓜山河豚鬼『鮫肌が血を欲しがっているな。』
栗霰串丸『縫い針で縫い止めてやろうか。』
通草野餌人『兜割の切れ味、鈍っちゃいねぇだろうな。』
無梨甚八『爆刀・飛沫、また派手にいくか。』
林檎雨由利『雷刀・牙、久しぶりに暴れさせてやるわ。』
鬼灯満月『忍刀七人衆、再集結か。面白いじゃないか。』
会議室は沈黙した。
マンダレイ「……これ、本当に本人なの?」
扉間「魂を呼ぶ以上、本人だ。」
ピクシーボブ「にゃにゃ……怖すぎるのね。」
ラグドール「あちきのサーチでも見たくない情報だよぉ……!」
虎「我も同感だ。」
さらに、互乗起爆札との組み合わせが説明される。
穢土転生で蘇らせた敵から、縛りによって情報を吐かせる。
敵本拠地へ意図的に逃がす。
仲間との再会。
そして。
無限に続く連鎖大爆発。
プレゼント・マイク「スーパー卑劣コンボじゃねぇか!!」
扉間「戦争とは、そういうものだ。」
柱間「扉間……。」
扉間「分かっている、兄者。この世界で使うつもりはない。使わずに済むならな。」
次に、魂魄繋留の陣。
死へ向かう魂を、現世に繋ぎ止める禁術。
リカバリーガール「……これは、救える命があるかもしれないね。」
オールマイト「しかし、死を扱う術である以上、慎重でなければならない。」
扉間「これは死者を弄ぶ術ではない。死にかけた者を、治療が間に合うまで現世に留めるための最後の楔だ。」
そして、会議は神話へ移る。
六道仙人、大筒木ハゴロモの手紙。
大筒木カグヤ。
神樹と十尾。
外道魔像。
大筒木アシュラ。
大筒木インドラ。
忍宗。
忍界の戦国時代。
木の葉隠れ創設。
終末の谷。
特殊解析機によって、ハゴロモの手紙は古文書のような図解資料へと変換された。
美術館に飾られてもおかしくないほど荘厳な宗教画。
右には、水色のチャクラオーラを纏い、目を半開きにさせた柔和な顔つきの(木龍と木人が乗っていない)仙法・木遁・真数千手を従える、凡才だが勇敢な大筒木アシュラ。
左には、凛々しく厳つい顔の(マダラとサスケのものを足して2で割ったような見た目をした)紫色の完成体須佐能乎を纏う、天才だが冷徹な大筒木インドラ。
さらに、紙芝居のように、忍界の歴史が映し出される。
神樹の実を喰らう大筒木カグヤ。
紅い輪廻写輪眼。
無限月読。
大筒木ハゴロモと大筒木ハムラによる戦い。
十尾。
九つの尾獣。
戦死者の目玉と血肉を鴉が啄む、忍界の戦国時代。
幼い柱間とマダラの出会い。
木の葉隠れの里の創設。
そして、決裂。
終末の谷。
手紙の文が読み上げられる。
千手柱間、うちはマダラよ。お主たちの忍界での人生は余りにも不潤かつ、非情で、壮絶なものであった……。
その場にいた何人かが、目元を押さえた。
オールマイトは拳を握りしめた。
リューキュウは静かに目を伏せた。
マンダレイは涙を堪えきれず、ピクシーボブも珍しく口を閉ざした。
ラグドールは鼻をすすり、虎は腕を組んだまま唇を噛んだ。
エンデヴァー「……あれだけの力を持つ理由が、少し分かった気がする。」
ホークス「背負ってるものが重すぎるよ。」
ベストジーニスト「彼らを、ただの戦力として扱うことは許されない。」
塚内「ええ。だからこそ、今日の会議が必要なのです。」
リューキュウは、静かにマダラを見た。
マダラは何も言わず、腕を組み、画面を睨んでいた。
その横顔は冷たい。
だが、どこか痛々しい。
リューキュウの胸に、強い決意が宿った。
この少年を、兵器にはしない。
道具にも、国家の鎖にも、公安の駒にもさせない。
・その夜 リューキュウ事務所 応接ラウンジ・
合同会議の後。
リューキュウ事務所の応接ラウンジには、柔らかな灯りが灯っていた。
波動ねじれ。
うずまきミト。
(ミニサイズの)九喇嘛。
上鳴、峰田、瀬呂、砂藤、障子、爆豪。
そして、うちはマダラ。
リューキュウ、リューキュウのサイドキックたちもそこにいた。
ナオリは専用の広い部屋で、静かに休んでいる。
リューキュウは、マダラの前に立った。
リューキュウ「マダラ君。」
マダラ「……何だ。」
リューキュウ「今日の会議で、改めて思ったわ。私は、あなたを道具にはしない。公安が何を言おうと、政府がどんな理屈を並べようと、あなたは一人の少年よ。私の事務所へ来てくれた、大切な子よ。」
リューキュウのサイドキック1「私たちも同じです。うちはマダラ様を、都合の良い戦力として利用されるだけの存在にはさせません。」
リューキュウのサイドキック2「そうそう! マダラ君は、うちの大事なお客様で、仲間で、弟みたいなもんなんだから!」
マダラ「…………。」
マダラの胸がざわついた。
理解できない。
何故、そこまで言う。
何故、そこまで庇う。
マダラ「何故だ……? 何故、お前は何処までも醜い暴力でいつも解決しようとする救いようのなかった過去を持つこの俺に対して余計なお世話をやろうとする……!?」
リューキュウ「マダラ君……。」
マダラ「逆に考えてもみろ!! 俺がお前らに対して非情な裏切りを見せる可能性だってなくはねェんだぞ!? だから……! もう、暴力で全てを解決しようとするこんな救いようのねェ醜い俺をわざわざ庇うためにリューキュウ、貴様が自ら傷つかなくても俺は全然構わねェ。」
その声は怒りのようだった。
だが、怒りだけではない。
恐れ。
戸惑い。
そして、失いたくないという不器用な感情。
マダラ「それに、俺のことは俺自身で勝手に返り討ちにいつでもできる。少なくとも、俺の唯一無二の幼馴染でもある柱間の馬鹿野郎や、柱間の弟でありながらかつての大切にしていた俺の弟、イズナを殺した扉間の卑劣野郎だって俺と同じようなことを絶対考えてるからよォ。」
マダラの瞳が、僅かに揺れる。
マダラ「何、安心しろ。一切何も悪くない上に、至極善良で真っ当なヒーローをやってるリューキュウにすら陰湿で狡猾な挑発を掛けてきやがったこの国の腐った政府とやらやゲロ以下の腐った公安とやらに対してはこの俺、うちはマダラが自ら今すぐにでも二度と管理や排斥などの考えが思い浮かばない程度の度合いで徹底的に暴威という名の恐怖による害虫駆除と暴力という名の畏怖による英才教育を必ずしておいてやるからなァ……!」
リューキュウは怒らなかった。
怯えもしなかった。
ただ、そっと近づき、マダラの頭に手を置いた。
マダラ「ッ……!?」
リューキュウ「そういうところよ、マダラ君。」
マダラ「何……?」
リューキュウ「あなたは、自分を守るためじゃなくて、私たちを傷つけさせないために怒っている。だから私は、あなたを見捨てない。」
マダラ「……ッ。」
波動「マダラ君、優しいもんね。」
ミト「ええ。マダラ様はとても不器用ですけれど。」
九喇嘛『ケッ。面倒くせぇガキだな。』
爆豪「……チッ。」
上鳴「旦那……。」
瀬呂「政府を潰すのは止めるけどな。」
砂藤「でも、マダラがリューキュウさんたちを大事に思ってるのは分かった。」
障子「守るための怒りだ。悪いものではない。」
マダラは顔を背けた。
マダラ「……勝手に解釈するな。」
リューキュウ「ふふ。はいはい。」
重くなった空気を切り替えるように、リューキュウのサイドキック2が手を叩いた。
リューキュウのサイドキック2「よーし! こういう時は甘いもの!!」
リューキュウのサイドキック1「準備は整っています。」
リューキュウ「今日は皆にサプライズよ。」
テーブルに並べられたのは、色とりどりのデザートだった。
ケーキ。
プリン。
アイスクリーム。
マカロン。
シュークリーム。
カヌレ。
大福。
団子。
八ツ橋。
饅頭。
カステラ。
羊羹。
そして、マダラの前には。
老舗高級プリン・王室御用達ジャンボプリン。昔ながらの固め製法。特大サイズ。
マダラ「…………。」
波動「マダラ君用だよ!」
ミト「ふふ。実家のような安心感ですね。」
リューキュウ「たくさん食べてね。」
マダラ「……チッ。」
マダラはスプーンを手に取り、プリンを一口食べた。
その瞬間、ほんの僅かに表情が緩む。
マダラ「……悪くない。」
リューキュウ「ふふ。それは良かった。」
上鳴「うめぇぇぇ!! これ高級って味がする!!」
峰田「甘味の楽園だァァ!!」
瀬呂「峰田、食い方汚いぞ。」
砂藤「このカステラ、すごいな。今度作ってみたい。」
障子「羊羹も良い。疲労回復に向いている。」
爆豪「……甘すぎねぇのは悪くねぇ。」
波動「ミトちゃん、このマカロンおいしい!」
ミト「あら、本当。九喇嘛もいかがです?」
九喇嘛『儂を子供扱いするな。……一つ寄越せ。』
笑い声が広がる。
甘い香りが部屋に満ちる。
ホテルのようで。
家のようで。
そして、どこか実家のような安心感のあるリューキュウ事務所。
マダラはプリンを食べながら、ふと窓の外を見た。
かつての忍界には、こんな夜はなかった。
戦の前夜。
血の匂い。
裏切り。
復讐。
憎しみ。
孤独。
だが今は違う。
騒がしい砂利共がいる。
小言を言う女たちがいる。
毒舌の狐がいる。
空の女王たる新しい相棒がいる。
そして、自分を道具にしないと言い切るヒーローがいる。
マダラ「…………。」
リューキュウ「マダラ君?」
マダラ「……何でもない。」
マダラは、もう一口プリンを食べた。
甘かった。
それは、戦場では決して味わえなかった味だった。
・同時刻 雄英高校から少し離れた近辺・
その頃。
柱間は、心操と並んで歩いていた。
柱間「心操よ! 後日の轟の母上への見舞い、頼りにしておるぞ!」
心操「俺は付き添うだけだって。あんまり大袈裟にするなよ。」
柱間「うむ!! だが、お主がいてくれるだけで俺は心強い!!」
心操「……そうかよ。」
心操は、少しだけ笑った。
洗脳という個性。
それは、ずっと悪く言われてきた。
敵向きだ。
ヒーローらしくない。
人を操るなんて怖い。
そんな言葉ばかりだった。
だが、柱間は違った。
この男は、迷わず肯定した。
それは人を救える力だと。
だから、少しだけ。
本当に少しだけ。
心操は、この暑苦しい男の隣を歩くことを、悪くないと思った。
柱間「夏が来るな、心操!」
心操「そうだな。」
柱間「林間合宿ぞ!! きっと楽しいぞ!!」
心操「……楽しいだけじゃ済まない気もするけどな。」
柱間「ガハハハ!! 何が来ようと、俺たちが皆を守る!!」
夜風が吹く。
夏が近づいていた。
買い物。
甘味。
新たな相棒。
新たな絆。
そして、神話の力を測ろうとする世界。
平和な準備の裏で、敵連合の影は静かに牙を研いでいる。
林間合宿。
それは、少年少女たちにとって成長の場であり――。
同時に、次なる死闘の幕開けでもあった。
ということで、第四十三話でした。如何だったでしょうか?マダラの趣味が鷹狩りということもあり、"オウギワシ"という鷲をモデルとした「ハルパゴルニスオウギワシ」というオリジナルの鷲を、マダラの新たなる相棒として加えてみました。これは今後のストーリーに結構絡んでくる可能性がありますので、今後が楽しみですね!
さて、次話の第四十四話についてですが、次話はいよいよ劇場版ヒロアカの第1弾である「2人の英雄」の話へと突入して行きますので、楽しみにお待ちください!また、林間合宿編は初の劇場版ヒロアカのストーリーである2人の英雄編が終わってから突入致しますので、ご理解の程よろしくお願いします!
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