千手最強の忍とうちは最強の忍は、個性と英雄が蔓延る世へと生まれ落ちる 作:天叢雲剣を捧げるスサノヲ
第四十八話:夏の林間合宿
I・アイランドを襲った鋼鉄の悪意が打ち砕かれてから、数日後。
海上に浮かぶ科学の楽園で、緑谷出久たちは多くのものを見た。
人を救うために生み出された科学。
それを奪い、己の欲望のために利用しようとする悪意。
力を振るうことよりも、力を抑え、守るべきものを傷つけないことの難しさ。
そして、平和の象徴と、その後継者が同じ場所に立ち、同じ拳を振るう瞬間。
傷ついたI・アイランドは、今も復旧へ向けて動き続けている。
メリッサ・シールドは父と共に、研究の本来あるべき姿を取り戻すために歩み始めた。
デヴィット・シールドは、自らが犯した過ちから逃げず、その責任と向き合う道を選んだ。
そして雄英高校の生徒たちもまた、それぞれの胸に新たな決意を抱き、日本へ帰国していた。
だが。
彼らの夏は、まだ終わってはいない。
むしろ。
本当の意味での、過酷な夏は――。
これから始まる。
・雄英高校 正門前 朝・
夏の朝。
日差しが本格的な熱を持って始めてきた頃の雄英高校正門前には、二台の大型バスが並んでいた。
一台は、雄英高校ヒーロー科1年A組用。
もう一台は、1年B組用。
車体の側面には雄英高校の校章が大きく描かれ、屋根には生徒たちの荷物を収容するための大型収納部が備えられている。
その周囲では、夏季林間合宿へ向かう生徒たちが、雄英高校の制服姿で荷物を抱えながら集まっていた。
飯田「皆! 集合時間まで残り八分だ! 荷物の積み込みが完了した者から、各自の座席と点呼表を確認してくれ!」
飯田天哉は、いつも以上に忙しなく両腕を振りながら、A組の面々を整列させようとしていた。
その足元には、移動用の鞄。
手には点呼表。
首からは、誰が用意したのか分からない小型の笛まで提げられている。
瀬呂「飯田、今日いつにも増して気合い入ってね?」
上鳴「バス旅行の引率教師みてぇになってるぞ。」
飯田「これは旅行ではない! ヒーローとしてさらなる成長を遂げるための、極めて重要な夏季強化合宿だ!」
芦戸「でも、ちょっとくらい旅行気分も欲しくない? 山でバーベキューとか、肝試しとか!」
葉隠「花火もしたい!」
耳郎「雄英の合宿で、そんな平和に終わると思う?」
芦戸「耳郎、出発前から不吉なこと言わないでよ!」
耳郎「いや、これまでの経験から考えたら普通にそう思うでしょ。」
瀬呂「入学してから、平和だった行事の方が少ねぇもんな……。」
砂藤「菓子作りの材料は持ってきたぞ。もし厨房が使えるなら、夜食くらいは作れる。」
切島「おお! 頼もしいぜ砂藤!」
峰田「夜食より温泉だろ!! 山の施設なら露天風呂とかあるよな!? 女子と時間を間違えたりする奇跡が――」
蛙吹「峰田ちゃん。合宿が始まる前から除籍されたいのかしら。ケロ。」
峰田「冗談です!!」
相澤「お前の冗談は、時々本気にしか聞こえない。」
峰田「相澤先生!?」
いつの間にか、生徒たちの背後には相澤消太が立っていた。
首には捕縛布。
片手には出席用端末。
そして、早朝であるにもかかわらず、その目元には既に深い疲労が刻まれている。
相澤「出発前に問題を起こした奴は、合宿に参加させず学校へ戻す。冗談ではないからな。」
峰田「気をつけます!!」
相澤「飯田。点呼は俺がやる。お前は自分の荷物を積んでこい。」
飯田「しかし、委員長として――」
相澤「教師がいる時くらい教師に任せろ。体力を無駄遣いするな。」
飯田「……了解しました!」
爆豪「朝からゴチャゴチャうるせぇんだよ。」
眠たげというより、不機嫌そうな顔をした爆豪勝己が、肩に大きな鞄を担ぎながら歩いてくる。
制服は正しく着用している。
ただし、ネクタイは僅かに緩み、目つきはいつも以上に鋭い。
切島「おはよう爆豪! ちゃんと時間通りじゃねぇか!」
爆豪「俺を遅刻野郎みてぇに言うなクソ髪。」
切島「いや、褒めたんだけどな!?」
轟「爆豪。寝不足か?」
爆豪「あァ!?」
轟「目つきが普段より悪い。」
爆豪「普段から悪いみてぇに言ってんじゃねェ!!」
轟「違うのか?」
爆豪「半分野郎、出発前に燃やされてぇか!!」
轟「バスの近くで爆破はやめろ。荷物が燃える。」
爆豪「テメェが燃やす前提で話してんじゃねぇ!!」
緑谷「か、かっちゃん! 轟君! まだ出発前だから落ち着いて!」
爆豪「デクは黙ってろ!!」
緑谷「はいっ!」
麗日「デク君、反射で返事してもうてる……。」
その少し離れた場所。
一際大きな旅行鞄を肩に担いだ千手柱間が、快活な笑顔で正門を潜ってきた。
雄英高校の制服は、彼の鍛え上げられた体格に合わせて特注された大きなもの。
肩幅の広い灰色のジャケット。
濃紺のズボン。
きちんと締められた赤いネクタイ。
だが、その背には旅行鞄だけではなく、何故か巨大な風呂敷包みまで括りつけられていた。
柱間「うむ! 皆、朝から元気ぞ!!」
上鳴「柱間、その背中の何だよ!?」
柱間「食料ぞ!」
瀬呂「食料!?」
柱間「山では何が起こるか分からぬからの! 干し肉、兵糧丸、塩漬け魚、味噌、米、木の実、それから砂藤に教わった菓子も入れておる!」
砂藤「俺が教えたのはクッキーだけだぞ。」
八百万「合宿施設にも食料は準備されているはずですが……。」
柱間「余ったなら皆で食えばよい! 腹が減っては修行もできぬからの! ガハハハ!!」
耳郎「遠足前のお父さんみたい。」
芦戸「むしろ集落一つ移動させる荷物じゃない?」
その柱間の背後。
まるで彼の影に隠れるような位置から、うちはマダラが静かに現れた。
柱間と同じく、雄英高校の制服姿。
ただし、長い黒髪はそのまま背へ流され、前髪が右目の周辺を覆っている。
肩には必要最低限と思われる黒い鞄が一つ。
そして左肩には、極縮小化したナオリが静かに留まっていた。
全高10cm強。
翼幅20cm強。
猛禽としての威厳を保ちながらも、今の姿はどこか精巧な置物にも見える。
ナオリ『おはようございます、皆様。』
緑谷「おはよう、ナオリさん!」
波動「まだ来てないのに、緑谷君が先に挨拶してる! 不思議!」
緑谷「波動先輩!?」
声のした方を振り返る前に、マダラの額に柱間の背負っていた風呂敷包みの端がぶつかった。
ボフッ。
マダラ「…………。」
柱間「む?」
マダラ「柱間。」
柱間「何ぞ?」
マダラ「後ろに立たれっと小便が止まっちまう繊細なタイプなんだよ、俺は! そのデケェ荷物を振り回すなァ!!」
柱間「マダラが繊細!?」
マダラ「テメェで水切りしてやろうかァ! ゴラァ!!」
柱間「何故その結論になるのだァ!?」
扉間「朝から騒ぐな、兄者。マダラもだ。」
今度はB組側から、銀髪の少年が歩いてきた。
千手扉間。
制服は皺一つなく整えられ、ネクタイも寸分違わず締められている。
荷物は中型の鞄一つ。
だが、その鞄の外側には、何本もの巻物と、発目明による調整を受けた雷神の剣の専用収納ケースが固定されていた。
柱間「おお、扉間! こちらへ来たのか!」
扉間「点呼前に兄者が余計な荷物を持ち込んでいないか確認しに来ただけだ。」
柱間「余計ではないぞ!」
扉間「食料だけで成人一人分以上の重量がある。十分余計だ。」
マダラ「ほら見ろ柱間。テメェの弟もこう言ってるぞ。」
柱間「マダラまで扉間側につくのか!?」
マダラ「テメェ……良い奴なのか悪い奴なのかハッキリしねェなコラ。俺の分の団子を持ってきてるなら話は別だが。」
柱間「もちろん持ってきておるぞ!」
マダラ「なら許す。」
扉間「判断基準が甘味なのか。」
上鳴「マダラの旦那、すげぇ速さで買収されたな。」
マダラ「あ?」
上鳴「何でもないです、マダラの旦那!」
ナオリ『主様は甘味に対してのみ、交渉の余地が大きくなります。』
マダラ「ナオリ。余計な情報を共有するな。」
ナオリ『事実でございます。』
柱間「うむ! 団子以外に、あの皇家御用達の固焼き大プリンも――」
マダラ「柱間。」
柱間「何ぞ?」
マダラ「その荷物だけは、何があっても守れ。」
扉間「合宿の優先順位を間違えるな。」
常闇「朝から変わらないな、三人とも。」
A組の列から、常闇踏陰が歩み寄ってくる。
制服の裾を整えながら、扉間の雷神の剣のケースへ視線を向けた。
常闇「扉間。闇深き山中へ向かう前に、問いたいことがある。」
扉間「何だ、常闇。」
常闇「貴様が以前示した、暗所における感知訓練。今合宿中にも、可能ならば指導を頼みたい。」
扉間「構わん。ただし、貴様はA組、俺はB組だ。訓練時間と担当教員の許可が取れた場合に限る。」
常闇「承知した。闇の中でも規律は必要ということか。」
扉間「そういうことだ。」
上鳴「常闇、扉間と話す時だけ妙に真面目じゃね?」
常闇「我と扉間は、闇に対する知識を共有する同盟者だ。」
扉間「同盟を結んだ覚えはない。」
常闇「否定はしないのだな。」
扉間「訂正が面倒なだけだ。」
黒色「常闇! 闇の同盟者なら、俺も混ぜろ!」
B組側から黒色支配が顔を出す。
常闇「黒色。貴様もまた、黒の領域を歩む者か。」
黒色「当たり前だ! 黒の支配者は俺だ!」
物間「朝からA組と馴れ合わないでもらえるかな、黒色。」
拳藤「物間も朝から絡まない。」
ゴスッ!!
物間「ぐふっ!?」
拳藤一佳の巨大化していない拳が、物間寧人の後頭部へ正確に落ちた。
鉄哲「おっしゃあ! 合宿だァ!! 山だろうが川だろうが、何でも来いや!!」
骨抜「鉄哲、出発前に疲れるよ。」
小森「山ならキノコちゃんがいっぱい育つノコ〜。」
柳「遭難したら少しウラめしい。」
取蔭「遭難する前提やめない?」
塩崎「山々もまた、神の御手によって生み出された尊き場所。私たちはその恵みに感謝し、鍛錬へ臨むべきでしょう。」
鎌切「敵が出るなら斬る。」
拳藤「出ないから。合宿だから。」
鎌切「ヴィランが出ないとは限らねぇだろ。」
相澤「縁起でもないことを言うな。」
ブラドキング「まったくだ。今回は訓練に集中させてもらうぞ。」
B組担任、ブラドキングこと管赤慈郎も姿を現す。
肩には引率用の大きなバッグ。
その隣には、B組用の点呼端末を携えたミッドナイトの姿もあった。
ミッドナイト「山奥で熱い青春……! 若さが弾ける最高の季節ね!」
相澤「ミッドナイトさん、生徒の前で変な言い方をしないでください。」
ミッドナイト「あなたは相変わらず枯れてるわねぇ、相澤君。」
相澤「朝から疲れる……。」
その時。
校舎側から、底抜けに明るい声が響いた。
通形「おはよう、一年生の皆!!」
全員が振り返る。
そこにいたのは、雄英高校ヒーロー科3年生。
通形ミリオ。
天喰環。
波動ねじれ。
そして、うずまきミト。
雄英ビッグ4と呼ばれる四人だった。
四人とも雄英高校の制服姿で、それぞれ合宿用の荷物を持っている。通形は満面の笑顔。
波動は既に1年生たちの荷物やバスへ興味津々といった様子で目を輝かせている。
天喰は大人数の視線が一斉に自分へ集まった瞬間、明らかに顔色を悪くした。
ミトは変わらず穏やかで、丁寧な所作で一礼する。
通形「今回、俺たちも特別参加させてもらうことになった! 後輩の皆を支えながら、俺たち自身も鍛えるための合宿だよ!ま、ということで よろしく!」
波動「山なんだよね! 木がいっぱい? 動物もいる? 滝もある? 温泉は? 洞窟は? 不思議な植物とかいるかな!?」
天喰「波動さん……質問が多い……。まだ答える人も来てない……。」
波動「でも気になるよね、天喰君!」
天喰「俺は既に帰りたい……。一年生が多い……視線も多い……俺はバスの座席になりたい……。」
通形「環が座席になったら、皆が座れなくなるぞ!」
天喰「そういう問題じゃない……。」
ミト「環。今回はあなた自身の成長にも繋がる大切な合宿です。無理に明るく振る舞う必要はありませんが、最初から逃げようとはしないでください。」
天喰「うずまきさん……うん。分かった……。」
波動「ミトちゃんが言うと、天喰君ちゃんと返事する! 不思議!」
天喰「波動さん……俺だって返事くらいする……。」
通形「柱間君、マダラ君! I・アイランドではお疲れ様!」
柱間「うむ! ミリオも見事であったぞ!」
マダラ「朝から声がでかいぞ通形。」
通形「元気があるのは良いことだよ、マダラ君!」
マダラ「テメェは俺の話を聞いてんのか?」
波動「マダラ君、今日はナオリちゃんが肩にいる! 小さい! 軽い? 羽は何枚あるの? 極縮小化すると骨も小さくなるの? 重さも変わる? 不思議!」
ナオリ『ねじれ様。羽毛の総数につきましては、状態や換羽によって変化いたします。また、縮小化の際には質量も神通力によって圧縮され――』
波動「説明してくれる! ナオリちゃん優しい!」
マダラ「ナオリ。全部答えていたら日が暮れるぞ。」
ナオリ『ねじれ様の純粋な探究心へ応えることも、交流の一つかと。』
マダラ「貴様まで波動の扱いに慣れてきたな。」
ミト「柱間様、マダラ様。荷物はそちらで全てですか?」
柱間「うむ! 食料も寝具も木彫り道具も将棋盤も水切り用の平たい石も持ってきたぞ!」
扉間「兄者。最後の石は現地で拾え。」
マダラ「おい柱間ァ。テメェ、俺に黙って水切りの準備してやがったのか。」
柱間「うむ!現地に良い川があれば、勝負しようと思ってな!」
マダラ「ハッ、上等だ。今度こそテメェを川底まで沈めてやる。」
ミト「お二人とも、合宿の目的を忘れないでください。」
マダラ「そんなこと分かってる。水切りも鍛錬の一つだ。」
扉間「どこがだ。」
マダラ「さっさと理解しろやァ、扉間! 石の形状、回転、入射角、水面の張力、全てを一瞬で判断する高度な技術だろうが!」
扉間「説明だけはそれらしく聞こえるな。」
ミト「柱間様。マダラ様を煽らないでください。」
柱間「俺はまだ何も言っておらぬぞ!?」
ミト「柱間様は、存在しているだけで時折マダラ様を煽りますので。」
柱間「そんなァ……。」
マダラ「ハッ。言われてやがる。」
柱間「マダラまで笑うでない!」
そんな三人のやり取りを見て、天喰が通形の背後へ半分ほど隠れる。
天喰「ミリオ……あの三人、戦闘より日常会話の方が怖い時がある……。」
通形「うんうん!仲が良いってことだね!」
天喰「そう見えるのがミリオのすごいところだよ……。」
一方、B組用バスの後方では。
ガラガラガラガラガラガラガラッ!!
何か巨大な金属物が校舎側から猛烈な勢いで運ばれてきていた。
発目「お待たせしましたァ!! 私のベイビーたち、林間合宿特別出張仕様でーす!!」
発目明。
雄英高校サポート科1年。
その背後には、大量の機械部品、工具箱、予備装甲、推進装置、各種センサー、何に使うのか不明なアーム類を積んだ大型台車が三台。
そして、その台車を必死に制御しながら、パワーローダーが追いかけていた。
パワーローダー「発目ェ!! 速度を落とせ!! 正門前で事故を起こすな!!」
発目「大丈夫です!! 計算上、衝突まであと十二秒あります!!」
パワーローダー「十二秒後に衝突する予定なのか!?」
発目「冗談です!!」
ギギギギギギィィィッ!!
台車がB組用バスの直前で急停止した。
積載されていた工具箱の一つが宙へ飛ぶ。
小大「ん。」
小大唯が個性を発動し、工具箱を小型化。
柳レイ子がそれを宙で静止させる。
泡瀬洋雪が台車の固定部を接合し、荷崩れを止めた。
発目「素晴らしいです!! これこそサポート科とヒーロー科の実地連携ですね!!」
拳藤「いや、発目が最初から安全に運べばよかっただけだからね?」
発目「それでは実地対応能力を確認できません!」
パワーローダー「確認するな!!」
扉間「パワーローダー先生。随分な量ですね。」
パワーローダー「発目が“山中では何が壊れてもすぐ直せるようにするべきです!”と主張してな。許可したのは工具箱二つと調整機器一式だけだ。」
扉間「残りは。」
パワーローダー「今朝、格納庫から勝手に増えた。」
発目「ベイビーは成長するものですから!!」
パワーローダー「無機物が朝の間に自然増殖するか!!」
物間「何故A組側にはビッグ4、こちらには爆発寸前の機械とその製作者が乗るんだい?」
発目「失礼ですね!! 爆発するとは限りません!!」
拳藤「否定の仕方が不安すぎる。」
鉄哲「壊れたら直してくれるんだろ!? 頼りになるじゃねぇか!」
骨抜「鉄哲は細かいこと考えないからなぁ。」
発目「扉間さんの雷神の剣も、山岳環境用に再調整済みです!! 湿度、気圧、土壌、落雷、洪水、雪崩、遭難、野生動物、敵襲、宇宙飛来物まで対応可能です!!」
扉間「最後の項目は必要か?」
発目「備えあれば憂いなしです!!」
扉間「……I・アイランドで一度予想外を経験した以上、完全には否定できんな。」
パワーローダー「納得するな扉間! 発目が調子に乗る!」
発目「既に乗っています!!」
パワーローダー「知っている!!」
相澤「全員、揃ったな。」
その声で、騒がしかった正門前が徐々に静まる。
相澤はA組を。
ブラドキングはB組を。
それぞれ点呼していく。
相澤「青山。」
青山「今日も僕は、朝日に負けない輝きだよ☆」
相澤「いるな。芦戸。」
芦戸「はーい!」
相澤「蛙吹。」
蛙吹「いるわ。ケロ。」
相澤「飯田。」
飯田「はい!」
相澤「麗日。」
麗日「はい!」
相澤「尾白。」
尾白「います。」
相澤「上鳴。」
上鳴「ういーっす!」
相澤「返事は普通にしろ。切島。」
切島「はい!」
相澤「口田。」
口田「……います。」
相澤「砂藤。」
砂藤「はい。」
相澤「障子。」
障子「いる。」
相澤「耳郎。」
耳郎「はい。」
相澤「瀬呂。」
瀬呂「はいよ。」
相澤「常闇。」
常闇「此処に。」
相澤「轟。」
轟「はい。」
相澤「葉隠。」
葉隠「はーい! 見えないけどいるよ!」
相澤「爆豪。」
爆豪「いるわ!!」
相澤「緑谷。」
緑谷「はい!」
相澤「峰田。」
峰田「はい!」
相澤「八百万。」
八百万「はい。」
相澤「千手。」
柱間「うむ!」
相澤「うちは。」
マダラ「いる。」
相澤「ナオリ。」
ナオリ『はい。』
相澤「同行者、通形、天喰、波動、うずまき。」
通形「はい!」
天喰「……いる。」
波動「はーい! ねえ相澤先生、ナオリちゃんも一人として数えるの? 荷物の重量は? 座席は必要? 鳥用のシートベルトとか――」
相澤「いるな。」
ミト「はい。よろしくお願いいたします。」
A組側の点呼が終わる。
その横ではブラドキングがB組全員と、扉間、発目、パワーローダーを確認していた。
ブラドキング「よし。全員、荷物を積み込め! 出発予定時刻を越えるなよ!」
根津「有意義な合宿になることを期待しているよ。」
校舎の正面玄関付近。
根津校長が、小さな手を振りながら生徒たちを見送っていた。
隣にはオールマイトもいる。
現在は細身の八木俊典の姿。
しかし、柱間による定期的な治療を受けているため、その表情には以前より明らかな余裕が戻っていた。
オールマイト「諸君! 林間合宿では、これまで以上に自分自身の限界と向き合うことになる!」
一同「はい!!」
オールマイト「だが、限界を知ることは、決して弱さを知ることではない! それを越えるための第一歩を知るということだ!」
緑谷「オールマイト……!」
オールマイト「怪我には十分注意し、互いに支え合うこと! そして、帰ってきた時には、さらに一回り成長した顔を見せてくれ!」
柱間「うむ! オールマイト殿も、無理はするでないぞ!」
オールマイト「千手少年に言われると、返す言葉がないな……!」
相澤「それでは、出発する。全員乗れ。」
・雄英高校 一年A組専用大型バス 車内・
ブロロロロロロロ……。
大型バスが、雄英高校の敷地を離れていく。
窓の外を流れていく街並み。
夏の日差し。
広い車内には、普段の教室とは違う独特な解放感が漂っていた。
前方には相澤。
運転席の近くには、今回の合宿資料や緊急用の通信機器。
その後ろに通形、天喰、波動、ミト。
以降、A組の生徒たちが二人掛けの座席へそれぞれ座っている。
柱間とマダラは、車内後方寄りの席。
ナオリは窓際に設置された、小型の専用止まり木へ留まっていた。
上鳴「マダラの旦那、カードやろうぜ!」
マダラ「断る。」
上鳴「即答!?」
瀬呂「トランプくらいいいじゃん。大富豪やろうぜ大富豪。」
マダラ「大富豪なら既に八百万がいるだろ。」
八百万「わ、私ですか!?」
耳郎「否定しづらい。」
上鳴「そういう意味じゃねぇよ、マダラの旦那!」
マダラ「ならば分かるように言え。」
柱間「マダラは遊び方を知らぬのではないか?」
マダラ「あァ?」
柱間「昔から盤上遊戯以外は、すぐ勝負を力比べに変えておったからの!」
マダラ「テメェがくだらねぇルールを後から増やすからだろうが!」
柱間「俺は遊びを盛り上げようとしただけぞ!」
マダラ「負けそうになったら“今のは練習”とか言いやがったのはどこのどいつだァ!?」
柱間「そ、それは昔のことぞ!」
マダラ「昔から変わってねェだろうが!」
緑谷「マダラ君、柱間君と話す時、最近すごく口調が変わるよね……。」
麗日「なんていうか、前より年相応になった感じするなぁ。」
蛙吹「最初の頃より、素のマダラちゃんが出ているのかもしれないわ。ケロ。」
マダラ「誰がマダラちゃんだ。」
蛙吹「本人が聞いていたのね。ケロ。」
ナオリ『主様は柱間様、扉間様、ミト様と会話される際、過去の少年期に近い言語習慣が表出する傾向がございます。』
マダラ「ナオリ、分析を声に出すな。」
柱間「懐かしいのう! 昔のマダラは、もっと喧嘩っ早くて――」
マダラ「おい柱間ァ。さっさと黙っとけ。」
柱間「ほら今のような感じぞ!」
マダラ「自分で証明させようとしてんじゃねェ!!」
爆豪「うるせぇぞボサボサ長髪とデクノボウ!!」
柱間「誰がデクノボウぞ!?」
爆豪「デケェ方だよ!!」
緑谷「僕じゃなかった……。」
轟「緑谷はデクと呼ばれているから、区別が必要だな。」
緑谷「轟君、冷静に整理しなくていいよ!」
通形「皆、仲が良いね!」
天喰「ミリオ……この状況を見て、どうしてそう思えるんだ……。」
波動「ねえねえ柱間君! その風呂敷の中、何が一番重いの? プリンは冷えてる? 木遁で冷蔵庫を作れる? 山の木と柱間君の木は会話できる? 不思議!」
柱間「うむ! 一番重いのは米俵ぞ! プリンは封印札と氷で冷やしておる! 木遁で冷蔵庫を作ったことはないが、工夫すれば――」
ミト「柱間様。バスの中で木遁を試そうとしないでください。」
柱間「まだ何もしておらぬぞ!?」
マダラ「テメェの場合、考えた時点で半分やってんだよ。」
ミト「マダラ様も、柱間様を煽らないでください。」
マダラ「俺は止めてやった側だろうが。」
ミト「でしたら、もう少し穏やかな言い方をお願いします。」
マダラ「……チッ、分かったよ。」
上鳴「マダラの旦那、ミト先輩にも弱ぇな。」
マダラ「あ?」
上鳴「な、何でもないです!」
ねじれが座席から身を乗り出し、ナオリの止まり木を覗き込む。
波動「ナオリちゃん、山に近づいたら何か分かる? 動物の匂いとか、空気の変化とか!」
ナオリ『はい。都市部と比較し、空気中の人工的な臭気が減少しております。樹木、土壌、水脈、小動物、鳥類の気配も徐々に増えております。』
口田「……鳥、たくさんいる?」
ナオリ『はい。現在、上空約三百メートルに鳶が二羽。北西方向の林に小型の鳥類がおよそ二十七羽。さらに遠方には大型猛禽類と思われる気配が――』
ナオリの言葉が、そこで僅かに止まった。
マダラ「どうした。」
ナオリ『……いいえ。距離があり、正確には判別できません。ですが、どこか懐かしい気配を感じました。』
緑谷「懐かしい気配?」
ナオリ『風向きの変化による誤認かもしれません。現時点では断定できません。』
マダラ「そうか。何か分かったら言え。」
ナオリ『承知いたしました、主様。』
窓の外。
遠い山々のさらに向こう。
誰も気づかぬほど遥か高空で、雲が僅かに揺らいだ。
しかし、それを捉えた者は、この場ではナオリだけだった。
・雄英高校 一年B組専用大型バス 車内・
一方。
B組用の大型バスもまた、山岳地帯へ向けて高速道路を進んでいた。
車内前方にはブラドキングとミッドナイト。
その後ろにはパワーローダーと発目。
中央から後方にB組生徒たちが座っている。
扉間は窓際の席で、合宿施設周辺の地形図を確認していた。
物間「しかし妙だと思わないかい、扉間。」
扉間「何がだ。」
物間「A組のバスには、雄英ビッグ4が全員乗っている。一方こちらには、発目明と大量の機械だ。」
発目「大量のベイビーです!!」
物間「呼び方はどちらでもいいよ。」
発目「良くありません!!」
拳藤「物間。雄英ビッグ4は別にA組専属じゃないし、現地では合流するから。」
物間「そういう問題ではない。これは学校側が、またしてもA組を物語の中心へ据えようとしている証拠――」
扉間「被害妄想だ。」
物間「即座に切り捨てたね!?」
扉間「むしろ、発目とパワーローダー先生が同乗しているこちらの方が、装備調整や地形対応では有利だ。使える人材の価値を理解しろ。」
発目「聞きましたか物間さん!! 私は使える人材です!!」
物間「発目君自身より、君の機械が暴発しないか心配なんだけど。」
発目「まだ一度も暴発していません!!」
パワーローダー「今朝、試作推進器が二度爆発した。」
発目「あれは予定された急速分解です!!」
扉間「爆発と何が違う。」
発目「名前が違います!!」
パワーローダー「それだけか!!」
鉄哲「なあ扉間! 山着いたら、まず何すんだろうな!」
扉間「正確な内容は知らされていない。だが、通常の体力訓練だけではないだろう。」
骨抜「先生たち、やけに秘密にしてるもんね。」
取蔭「到着した瞬間に何か仕掛けられたりして。」
小森「山道に巨大キノコが生えてくるとか?」
柳「崖から落とされたら、かなりウラめしい。」
拳藤「縁起でもないこと言わないでよ。」
扉間は地形図から顔を上げ、窓の外を見る。
遠くに連なる山。
深い森。
道路の左右を覆う樹木。
視界を遮るほど濃い緑。
その時、常闇から短い通信が届いた。
端末には一文だけ表示されている。
『闇が濃くなってきた。良き修行場となりそうだ』
扉間「……。」
拳藤「誰から?」
扉間「常闇だ。」
物間「A組の生徒と個人的に連絡を取っているのかい?」
扉間「訓練上の確認だ。」
物間「僕たちB組には?」
扉間「今、同じバスに乗っているだろう。」
拳藤「正論だね。」
扉間は端末へ短く返信する。
『周囲の索敵を怠るな。山中では視界以外の情報を使え』
送信を終えた直後。
運転席の方向からブラドキングの声がした。
ブラドキング「間もなく分岐へ入る! A組とは別ルートになるが、現地で合流する予定だ!」
物間「別ルート?」
ミッドナイト「あなたたちB組には、少し違う歓迎役が待っているわ。楽しみにしていなさい。」
鉄哲「歓迎役!? 強ぇ奴か!?」
ミッドナイト「さあ?どうかしらね。」
発目「道が違うなら地形データも違いますね!! 新しい走行試験ができます!!」
パワーローダー「バスの中で何か起動するなよ。」
発目「まだ起動していません!」
パワーローダー「その“まだ”をやめろ!」
B組のバスは、やがて本線から離れ、森に囲まれた別の山道へと入っていった。
A組のバスからは見えない。
互いの進路は、深い木々によって完全に隔てられていく。
・長野県 山岳地帯 展望用停車地点・
数時間後。
A組の大型バスは、山岳地帯の中腹にある展望地点へ停車した。
プシュゥゥゥ……。
扉が開く。
新鮮な山の空気が、車内へ流れ込んだ。
相澤「全員、降りろ。荷物はそのままでいい。」
飯田「荷物はそのまま……?」
緑谷「合宿施設に着いたわけじゃないのかな。」
轟「周囲に建物は見えない。」
爆豪「休憩じゃねぇのか。」
峰田「トイレ!! トイレ休憩だろ!? そうだよな!?」
相澤「違う。」
峰田「違うの!?」
A組の生徒たちは、次々とバスを降りる。
そこは舗装された小さな駐車スペース。
正面には木製の柵。
その向こうには、見渡す限りの山と森が広がっている。
遥か下方には谷。
さらにその先には、深く生い茂る樹海のような森。
合宿施設らしき建物は、遠く離れた山の向こう側に小さく見えていた。
麗日「えっ……あれが目的地?」
八百万「かなり距離がありますわね。」
耳郎「車で行くんじゃないの?」
相澤「さあな。」
芦戸「先生、その言い方絶対何かある!」
峰田「それよりトイレェ!! もう限界なんだよ!! 途中からずっと我慢してんだぞ!!」
瀬呂「バスの中で行っとけよ。」
峰田「走ってるバスにトイレなんか付いてなかっただろうが!!」
蛙吹「森で済ませればいいんじゃないかしら。ケロ。」
峰田「野生に還れってこと!?」
口田「……動物、見てる。」
峰田「もっと無理!!」
柱間は木製の柵へ近づき、眼下の森を見渡した。
深く息を吸う。
湿った土。
樹木。
清らかな水。
小動物。
都市部とは違う、濃密な生命の気配。
柱間「うむ……! 良い森ぞ!」
マダラ「確かにな。人の手は多少入っているが、土も木も生きている。」
ナオリ『空気も澄んでおります。ですが、自然の地形とは異なる土の流れが複数確認できます。』
マダラ「仕掛けか。」
ナオリ『その可能性が高いかと。』
マダラ「面白い。」
柱間「何ぞマダラ。もう何か見つけたのか?」
マダラ「さっさと自分で気づけやァ。地面の下だ。」
柱間「地面?」
柱間は足元へ視線を落とす。
次の瞬間。
森の向こう側から、よく通る女性の声が響いた。
マンダレイ「よーーーうイレイザー!!」
一同「!?」
崖際に設けられた少し高い岩場。
そこへ、二人の女性ヒーローが姿を現した。
猫を思わせる装備。
しなやかな衣装。
鮮やかなポーズ。
一人はマンダレイ。
もう一人はピクシーボブ。
マンダレイ「煌めく眼でロックオン!!」
ピクシーボブ「キュートにキャットにスティンガー!!」
マンダレイ&ピクシーボブ《large》「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!!」《/large》
一同「…………。」
上鳴「ポーズまで完璧だ……。」
芦戸「かわいい!」
葉隠「衣装も猫耳だ!」
常闇「山中に現れし、野生の守護者たちか。」
相澤は、二人へ軽く頭を下げる。
相澤「お久しぶりです、マンダレイさん。ピクシーボブさん。今回の合宿、よろしくお願いします。」
マンダレイ「久しぶり、イレイザー! 相変わらず眠そうな顔してるわね!」
相澤「元々こういう顔です。」
ピクシーボブ「でも、前に会った時よりさらに疲れてない? 生徒増えてるし、神話みたいな子もいるし、苦労してそう!」
相澤「否定はしません。」
緑谷は二人を見た瞬間、目を輝かせる。
緑谷「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ! 山岳救助などを得意とするベテランチームだよ! キャリアは今年で12年にもなる――」
ピクシーボブ《large》「心は18!!!」《/large》
緑谷「むぐっ!?」
ピクシーボブ「……心は?」
緑谷「じゅ、18ッ!!」
ピクシーボブ「よろしい!!」
上鳴「緑谷が圧に負けた。」
耳郎「キャリアの話は禁句っぽいね。」
芦戸「でも12年なら――」
ピクシーボブ「聞こえてるわよ、ピンクの仔猫ちゃん。」
芦戸「心は18です!!」
葉隠「私たちより年上だけど同年代だね!」
耳郎「それはもう計算を放棄してない?」
マンダレイ「こちらのピクシーボブは、婚期を少し気にし始めているお年頃だから、そこには触れないであげてね。」
ピクシーボブ「マンダレイ!?」
相澤「自分たちで話を広げないでください。」
波動「猫のヒーロー! 耳は本物? 尻尾は動く? マンダレイの個性はテレパスなんだよね? どこまで届くの? ピクシーボブは土を動かすの? どれくらいの量? 山全部?」
天喰「波動さん……初対面でも全力だ……。」
通形「波動さんらしいね!」
ミト「ねじれ。質問は順番にしてください。お二人も困ってしまいます。」
波動「うん!分かった、ミトちゃん! じゃあ最初に耳は本物?」
ピクシーボブ「衣装よ! でも、キュートでしょ?」
波動「うん! 不思議!」
マンダレイは、通形たちへ視線を移す。
マンダレイ「雄英ビッグ4まで参加するなんて聞いていたけど、本当に全員来たのね。」
通形「はい! 後輩たちと一緒に、俺たちももっと強くなるために来ました!」
天喰「俺は……できれば人の少ない場所で訓練したいです……。」
マンダレイ「大丈夫。森なら隠れる場所はいくらでもあるわよ。」
天喰「そこから一生出たくなくなりそうです……。」
ピクシーボブは、柱間とマダラへ目を向ける。
そして、その肩に留まるナオリを見た瞬間、大きく目を見開いた。
ピクシーボブ「それが噂の神鳥ちゃん!?」
ナオリ『初めまして。ハルパゴルニスオウギワシのナオリと申します。』
ピクシーボブ「ちっちゃい! かわいい! でも本来は全高十メートルで翼幅二十メートルなのよね!? 私の土魔獣ちゃんより大きいじゃない!」
マンダレイ「ピクシーボブ。抱きつく前に許可を取りなさい。」
ピクシーボブ「抱きついていい!?」
ナオリ『主様の許可がございましたら。』
ピクシーボブ「マダラ君!」
マダラ「断る。」
ピクシーボブ「即答!?」
マダラ「初対面の人間にナオリを抱かせる理由がない。」
リューキュウがこの場にいれば、もう少し穏やかに諭したかもしれない。
しかし今、その役目を担える者は限られている。
ミト「マダラ様。ピクシーボブ様も、悪意があって仰ったわけではありません。」
マダラ「分かってるよ。だが駄目なもんは駄目だ。」
柱間「マダラは心配性ぞ!」
マダラ「柱間、テメェは黙ってろやァ!」
ナオリ『ピクシーボブ様。主様ともう少し親しくなられた後でしたら、改めてお願いいたします。』
ピクシーボブ「神鳥ちゃんの方が話が分かる!」
マダラ「ナオリ。」
ナオリ『交流もまた、合宿の目的かと。』
マンダレイ「なるほど。聞いていた通り、しっかりした相棒ね。」
相澤「それで、B組は予定通り別ルートですか?」
マンダレイ「ええ。今頃、ラグドールと虎が迎えているはずよ。」
飯田「そういえば、B組のバスが途中から見えなくなっていたが、別の入口へ向かっていたのか!」
相澤「クラスごとに開始地点が違う。それだけだ。」
常闇「扉間たちは、別の闇へ踏み込んだということか。」
上鳴「普通に別の道って言えよ。」
・同時刻 別山道 B組停車地点・
B組用の大型バスもまた、森に囲まれた別の地点で停車していた。
扉が開き、生徒たちが降りる。
正面には、二人のプロヒーロー。
ラグドール。
そして虎。
ラグドール「猫の手、手助けやって来る!!」
虎「どこからともなくやって来る……!」
ラグドール&虎《large》「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!!」《/large》
B組一同「おお……!」
鉄哲「気合い入ってんなァ!!」
物間「A組側にも同じような演出があるのだろうね。だが、こちらの方が先に見た以上、B組の勝ちということで――」
拳藤「勝負じゃない。」
虎「我は虎。此度、貴様らB組の鍛錬を担当する。」
ラグドール「あちきはラグドール! よろしくねー! それと発目ちゃん、機械は指定された場所に置いてね! 森の中で爆発したら困っちゃうから!」
発目「急速分解です!!」
パワーローダー「言い換えるな!」
扉間は、虎とラグドールへ一礼する。
扉間「千手扉間です。今回はよろしくお願いします。」
虎「礼儀正しいな。だが、森へ入れば肩書きも過去の栄光も関係ない。我々が見るのは、現在の貴様らの実力のみだ。」
扉間「望むところです。」
ラグドール「あちきの“サーチ”なら、皆がどこで何をしてるか、弱点までバッチリ分かるよ!」
物間「弱点まで?」
ラグドール「そう! 隠しても無駄だからね!」
物間「何というA組向けの個性……!」
拳藤「まだ言うの?」
扉間は、周囲の地形を一度見渡す。
木々。
谷。
土の状態。
不自然に整えられた斜面。
そして、地面の奥で微かに流動する何か。
扉間「……なるほど。」
骨抜「何か分かった?」
扉間「開始の合図を待て。」
ラグドール「勘の良い子は嫌いじゃないよ!」
虎「だが、分かっていても耐えられるとは限らん。」
その言葉と同時に。
B組の足元でもまた、土が僅かに軋み始めていた。
・A組停車地点 崖上・
マンダレイは、眼下に広がる森を指差した。
マンダレイ「あそこに見える施設が、今回あなたたちが泊まる合宿所よ。」
緑谷「やっぱり、あの建物が……。」
飯田「ここから車で移動すれば、到着までどれほど――」
マンダレイ「車?」
飯田「はい?」
ピクシーボブが、にっこりと笑った。
猫のように。
無邪気に。
しかし、その笑顔を見た相澤だけは、僅かに目を伏せる。
相澤「全員。荷物をバスに残した理由を考えろ。」
八百万「まさか……。」
轟「ここから歩くのか。」
爆豪「歩くだけなら、大したことねぇだろ。」
ピクシーボブ「歩くだけで済むと思った?」
峰田「それよりトイレ!! 本当にもう限界だって!! 合宿所まで何分!?」
マンダレイ「早ければぁ、12時前後には着くんじゃないかしらん?」
一同「正午!?」
現在時刻。
午前9時30分。
瀬呂「早ければって、遅かったらどうなるんすか!?」
ピクシーボブ「日没前には着けるといいわね。」
峰田「俺の膀胱は日没まで保たねぇよ!!」
蛙吹「だから森で済ませればいいじゃない。ケロ。」
峰田「野生動物と目が合ったら出るもんも出ねぇよ!!」
マダラ「後ろに立たれっと小便が止まっちまう繊細なタイプなら、俺も分からなくはねぇ。」
柱間「先ほど言っておったのは本当だったのか!?」
マダラ「例えだ、馬鹿柱間!!」
峰田「マダラ、お前なら分かってくれるのか!?」
マダラ「一緒にするな。テメェの場合は日頃の行いだ。」
峰田「裏切られた!!」
ピクシーボブが一歩前へ出る。
そのつま先が地面へ触れた瞬間。
ナオリの瞳が鋭く細められた。
ナオリ『主様。土中の流れが急激に変化しました。』
マダラ「分かっている。」
柱間「む?」
マダラ「遅ぇぞ柱間。」
柱間が足元を見る。
そこにあったはずの地面が。
波打った。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!
緑谷「地面が!?」
飯田「全員、離れ――」
ピクシーボブ「土流!!」
ドゴォォォォォォォォォン!!!!
A組全員の足元。
まるで巨大な獣が地面の下から起き上がったかのように、土砂が一斉に隆起した。
崖際の地面が傾く。
足場が消える。
土の奔流が、生徒たちを谷の方向へ押し流していく。
一同「うわああああああああああああああああああああっ!?」
緑谷「み、皆!!」
麗日「浮かせ――足場がない!?」
飯田「隊列を維持しろォォォ!!」
爆豪「ふざけんな猫ババア共ォォォ!!」
轟「氷を――!」
相澤「個性で上へ戻るな! これも訓練だ!」
轟「先生!?」
峰田「漏れる漏れる漏れる漏れる漏れるゥゥゥゥ!!」
瀬呂「今それどころじゃねぇだろ!!」
切島「地面ごと落ちてんぞォ!!」
八百万「皆さん、身体を守ってください!!」
蛙吹「舌で何人か掴むわ! ケロ!」
常闇「黒影!!」
黒影「任せろォ!!」
土砂と共に、A組の生徒たちが斜面を滑り落ちていく。
だが。
その中に。
二つの影だけが、存在しなかった。
ピクシーボブ「……え?」
崩れ落ちる直前。
柱間は、足元から伸びた一本の細い木の枝へ飛び乗っていた。
己の木遁ではない。
斜面に元から生えていた樹木の枝。
その上に、片足だけで悠然と立っている。
柱間「うむ! やはり仕掛けであったか!」
そしてマダラは。
土流が隆起するより僅かに早く跳躍し、崖の垂直面へ足裏のチャクラで張りついていた。
長い黒髪が風に揺れる。
制服姿のまま、腕を組み。
肩にはナオリ。
まるで重力そのものを嘲笑うかのように、垂直の崖へ立っている。
マダラ「初見殺しにしちゃあ、殺気が素直すぎる。」
ナオリ『主様。土流の発生より約0.8秒前に、ピクシーボブ様の筋肉と土壌に変化がございました。』
マダラ「実際の戦場じゃあ遅いくらいだ。」
ピクシーボブ「ちょ、ちょっと待って待って! どうして二人とも落ちてないの!?」
柱間「地面が動く前に飛べばよいだけぞ!」
ピクシーボブ「普通の高校1年生は、そんな簡単には言わないの!」
マダラ「落ちる必要があるなら、今から降りる。」
ピクシーボブ「自分から!?」
マンダレイは、額へ手を当てた。
マンダレイ「聞いていた以上ね……。」
相澤「だから言ったでしょう。この二人に普通の1年生用の初見殺しは通用しないと。」
ピクシーボブ「でも少しくらい驚いてくれてもいいじゃない!」
柱間「驚いたぞ! 面白い土の動かし方であった!」
マダラ「褒めるな柱間。調子に乗る。」
ピクシーボブ「もう乗ってるわよ!」
斜面下方。
土砂に揉まれながら、爆豪の怒鳴り声が響く。
爆豪「柱間ァ!! マダラァ!! テメェらだけ上に残ってんじゃねェェェ!!」
柱間「おお! 爆豪は元気そうぞ!」
マダラ「声だけなら問題ねぇな。」
緑谷「た、助けてとは言わないけど、せめて早く来てェェェ!!」
相澤「千手。うちは。お前たちも森へ入れ。これはクラス全体の訓練だ。」
柱間「うむ!」
マダラ「言われなくても行く。」
ピクシーボブは、二人を見ながら笑う。
先ほどまでの親しげな笑顔とは違う。
山岳救助の第一線で十二年間活動してきた、プロヒーローの目。
ピクシーボブ「先に言っておくけど、ただ走ればいいわけじゃないからね。」
彼女が片手を上げる。
眼下の森。
木々の間。
土の地面が、いくつも大きく盛り上がり始めた。
ズズズズズズズズズズズズズ……!!
土が牙となる。
爪となる。
腕となる。
巨大な獣の形へ変わっていく。
ピクシーボブ「私の土魔獣ちゃんたちが、合宿所までたっぷり遊んでくれるから!」
森の奥から。
幾つもの咆哮が響いた。
グオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!
柱間の瞳が輝く。
柱間「おお! 魔獣とな!」
マダラの口元が、僅かに吊り上がる。
マダラ「ほう?実に面白い。」
柱間「マダラ!」
マダラ「何だ。」
柱間「どちらが先に合宿所へ着くか、勝負ぞ!」
マダラ「……テメェ。」
一拍。
マダラ「俺に勝てると思ってんのか、柱間ァ!!」
柱間「ガハハハ!! やってみねば分からぬぞ!!」
マダラ「後で泣いても知らねぇからな!」
柱間「泣かぬわァ!!」
ナオリ『主様。私も同行いたします。』
マダラ「当然だ。だが飛ぶなよ。地上の勝負だ。」
ナオリ『承知いたしました。では強縮小化し、地上走行および低空滑空に限定いたします。』
柱間「ナオリまで参加するのか!?」
マダラ「俺の相棒だ。文句あんのか。」
柱間「ならば俺も木分身を――」
相澤「分身は禁止だ。」
柱間「何故ぞ!?」
相澤「競争ではなく訓練だからだ。」
マダラ「聞いたか柱間。テメェは自分の足で走れ。」
柱間「マダラも須佐能乎は禁止ぞ!」
マダラ「こんな森で出すかァ!!」
ピクシーボブ「ちょっと待って。あなたたち、私の魔獣の森を競走コース扱いしてない?」
柱間「安心せよ! 木々は極力傷つけぬ!」
マダラ「魔獣は知らん。」
ピクシーボブ「私の土魔獣ちゃんにも優しくして!?」
柱間とマダラは、同時に構える。
森の奥。
無数の土魔獣。
そのさらに先。
合宿所。
斜面を転がり落ちたA組の仲間たちは、既に最初の土魔獣と遭遇しようとしていた。
柱間「では――」
マダラ「行くぞ。」
ドンッ!!!!
二人が、同時に崖を蹴った。
木の枝が揺れる。
土煙が舞う。
その直後。
二人の姿は、既に遥か下方の森へ消えていた。
ピクシーボブ「…………速っ!?」
マンダレイ「始まる前から、予定が崩れているわね。」
相澤「いつものことです。」
通形「すごいな! 柱間君もマダラ君も楽しそうだね!」
天喰「俺には、森が可哀想に見える……。」
波動「二人とももう見えない! 不思議! 私も追いかけていい!?」
相澤「駄目だ。3年生は俺たちと先に施設へ向かう。」
波動「うーん…、残念!」
ミトは、二人が消えた森を見つめ、静かに溜息をつく。
ミト「柱間様もマダラ様も……合宿開始直後から、何をしているのでしょうか。」
相澤「うずまき。あの二人が競争に夢中になりすぎたら、止められるか。」
ミト「善処いたします。」
通形「俺も手伝うよ、うずまきさん!」
天喰「ミリオ……止める側が巻き込まれる未来しか見えない……。」
波動「大丈夫! 私もいるよ、天喰君!」
天喰「さらに不安になった……。」
その頃。
森の中では。
最初の巨大土魔獣が、木々を掻き分けて柱間とマダラの前へ姿を現していた。
グオオオオオオオオオオオッ!!!!
柱間「おお! 大きいぞマダラ!」
マダラ「だから何だ。」
ナオリ『主様。左前方より別個体二体。右後方より一体。さらに地中に三体潜伏しております。』
マダラ「全部、俺が先に潰す。」
柱間「ずるいぞマダラ! 半分は俺の獲物ぞ!」
マダラ「早い者勝ちだ、柱間ァ!!」
二人は笑っていた。
まるで。
戦乱の時代。
まだ里も。
火影も。
世界を背負う責任もなかった頃。
川辺で水切りを競い合っていた、二人の少年のように。
だが。
彼らが無邪気な競争を始めた森の遥か奥。
ナオリが先ほど感じ取った、懐かしい気配の主たちもまた。
長い長い旅の果てに。
ゆっくりと。
運命の再会へ向けて、翼を休めていた。
林間合宿、開幕。
そして魔獣の森は今――二柱の神話に蹂躙されようとしていた。
ということで、第四十八話でした。如何でしたでしょうか?文字数が17000文字ちょっとという途方もない文字数となってしまいましたが、それでもご愛読して頂けるなら大変執筆した甲斐があります!さて、次話の第四十九話についてですが、次話もこのまま林間合宿編の続きを執筆して行くので、楽しみにお待ちください!
また、お気に入り登録や質問、評価も是非お待ちしておりますが、特に感想を、無理にとは言いませんが、時間があれば頂けると、作者の小説制作のやる気向上などへと変わりますので、よろしければ是非よろしくお願いします!ですが、理不尽な誹謗中傷などの行為は流石にやる気やモチベーションが下がりますのでそれらは御法度です。何卒ご理解よろしくお願いします!では、第四十九話にて!