千手最強の忍とうちは最強の忍は、個性と英雄が蔓延る世へと生まれ落ちる 作:天叢雲剣を捧げるスサノヲ
・長野県山岳地帯 魔獣の森・
グオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!
木々の合間から姿を現した巨大な土魔獣が、森林全体を震わせるほどの咆哮を上げた。
高さは優に5mを超える。
猪とも。
熊とも。
獅子とも形容し難い、獰猛な四足獣。
全身は硬く締め固められた土砂によって形作られ、太い前脚の先には岩石の爪が生えている。
大きく開かれた口の中には、鋭い牙。
二つの眼窩には、黄褐色の光が灯っていた。
その背後。
左右の木々の陰。
地中。
あらゆる方向から、同様の土魔獣が次々と迫ってくる。
ナオリ『主様。正面一体。左前方二体。右後方一体。地中を移動中の個体が三体。さらに約200m先に五体おります。』
マダラ「全部で十二か。」
柱間「うむ! 俺とマダラで六体ずつぞ!」
マダラ「早い者勝ちだって言っただろうが。」
柱間「何を! 公平に分けるべきであろう!」
マダラ「敵が綺麗に半分へ並んでくれると思ってんのか、テメェは!」
柱間「ならば、より多く倒した方の勝ちぞ!」
マダラ「最初からそう言ってんだよ、馬鹿柱間ァ!!」
正面の土魔獣が、大地を蹴った。
ドドドドドドドドドドッ!!!!
巨体に似合わぬ速度。
木々の間を押し分け、地面を砕きながら、柱間とマダラへ突進してくる。
柱間は、満面の笑みを浮かべた。
柱間「では、一体目は俺がもらうぞ!」
マダラ「させるかよ。」
二人が同時に地面を蹴る。
ドンッ!!
柱間は、真正面から土魔獣へ向かった。
マダラは、その巨体の側面へ回る。
土魔獣が前脚を振り上げた。
岩石の爪が、柱間の頭上へ落ちる。
柱間「ほいっ!」
柱間は、その一撃を僅かに身体を傾けるだけで躱した。
爪が地面へ突き刺さる。
その腕を、柱間の両手が掴む。
柱間「ぬんッ!!」
ブォンッ!!!!
5mを超える土魔獣の巨体が、宙へ浮いた。
柱間は、そのまま腰を捻る。
巨獣を、背負い投げの要領で前方へ投げ飛ばした。
ズドォォォォォォォン!!!!
土魔獣の身体が、別の土魔獣へ衝突する。
二体が絡み合いながら地面を転がり、土砂へ還っていく。
柱間「二体ぞ!」
マダラ「数え方が汚ぇぞ!!」
その間にマダラは、三体目の土魔獣の背へ着地していた。
土魔獣が身体を激しく揺らす。
しかし、マダラは足裏へチャクラを集中させ、微動だにしない。
マダラ「遅ぇ。」
片膝を落とす。
指先で、土魔獣の首元を軽く叩く。
写輪眼を使うまでもない。
土の流れ。
内部の圧力。
ピクシーボブの個性によって構成された、土魔獣の中核。
その全てを、一瞬で見抜く。
マダラ「そこか。」
拳を振り下ろした。
ドゴンッ!!!!
土魔獣の首元に、蜘蛛の巣状の亀裂が走る。
次の瞬間。
巨体全体が崩れ、大量の土砂となって地面へ散った。
マダラ「一体。」
柱間「まだ一体ではないか!」
マダラ「焦んな。」
地中から、二体の土魔獣が同時に飛び出した。
一体はマダラの左側。
もう一体は背後。
挟み撃ち。
ナオリ『主様。』
マダラ「手を出すな。」
ナオリ『承知いたしました。』
マダラは、僅かに口元を吊り上げる。
前方からは鋭い牙。
背後からは岩石の爪。
双方がマダラの身体へ届く、その直前。
マダラ「邪魔だ。」
マダラの姿が沈んだ。
牙と爪が、互いの土魔獣へ衝突する。
ガゴォォォンッ!!!!
二体の頭部が激突した。
その間を擦り抜けたマダラが、両腕を伸ばす。
左右それぞれの土魔獣の顎を掴み、そのまま引き寄せた。
マダラ「まとめて潰れろ。」
ゴシャァァァァァン!!!!
二体の頭部が、もう一度正面から衝突する。
今度は、中核ごと砕けた。
土魔獣の巨体が同時に崩れ落ちる。
マダラ「三体。」
柱間「ぬおっ!? 一気に追いついたぞ!」
マダラ「さっさと走れやァ、柱間!!」
マダラは、そのまま森の奥へ駆け出した。
柱間「待たぬか、マダラァ!!」
柱間も後を追う。
その直後。
横合いから、別の土魔獣が柱間へ飛びかかった。
柱間「む?」
巨大な口が迫る。
柱間は走る速度を落とさないまま、右手を前へ伸ばした。
柱間「木遁・木錠壁……と言いたいところだが、森を傷めるほどでもないの。」
足元に落ちていた一本の太い枯れ枝を拾う。
その枝を、槍のように土魔獣の口へ差し込んだ。
ガギィィィン!!
土魔獣の牙が、枯れ枝を噛み砕く。
しかし。
僅かに生じた隙。
柱間は巨獣の下顎を片手で押さえ、頭部を真上へ跳ね上げた。
柱間「ほれっ!」
ゴンッ!!!!
土魔獣の頭部が、その後方に立っていた大木の幹へ打ちつけられる。
柱間は慌てて大木を片腕で支えた。
柱間「おっと! 木は傷つけぬと言ったばかりであった!」
大木の幹を撫でる。
僅かに剥がれた樹皮へ、柱間のチャクラが流れ込む。
損傷した部分が、瞬く間に再生した。
柱間「すまぬの!」
直後。
柱間は土魔獣の額を、指先で軽く弾く。
バチンッ!!
その程度にしか見えない動作。
だが、伝わった衝撃は土魔獣の中核まで貫いた。
巨体が一瞬で崩れ落ちる。
柱間「これで三体ぞ!」
遥か先から、マダラの声が飛ぶ。
マダラ「一々報告すんなァ!!」
柱間「聞いておるではないか!」
マダラ「テメェの声がデケェんだよ!!」
ナオリは、強縮小化状態へと姿を変えていた。
全高2m強。
翼幅4m強。
飛翔はせず、翼を僅かに広げた状態で、地面すれすれを疾走する。
脚力だけでも、通常の猛禽類とは比較にならない。
木の根を跳び越える。
倒木の下を滑る。
時折、翼による僅かな揚力だけで大きな岩を越える。
だが、決してマダラより前へは出ない。
主の競争を邪魔しないよう、僅かに後方を維持していた。
ナオリ『主様。前方の土魔獣五体が横一列に展開。柱間様の進路にも二体が移動しております。』
マダラ「全部俺のだ。」
柱間「聞こえたぞマダラ! 二体はこちらへ向かっておるではないか!」
マダラ「なら、俺より先に触ってみろ。」
柱間「望むところぞ!」
二人の速度が、さらに上がった。
ドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!!
それは既に、雄英高校一年生の駆けっこなどという可愛らしいものではなかった。
プロヒーローですら、その背を視認し続けることが困難な領域。
木々の隙間を、二つの影が稲妻のように駆け抜ける。
柱間は大木の幹を蹴り、枝から枝へ飛び移る。
マダラは地面を疾走し、木の根や岩を足場にして最短距離を走る。
互いの進路が交差する。
柱間「ぬおっ!」
マダラ「邪魔だ柱間!」
二人は空中で肩をぶつけ合った。
ゴンッ!!
それでも体勢を崩さない。
柱間は空中で一回転。
マダラは近くの幹へ片足をつき、再び跳躍する。
柱間「押したであろう!」
マダラ「テメェが勝手にぶつかってきたんだろうが!」
柱間「マダラの髪が視界を塞いだのだ!」
マダラ「ならテメェも髪を切れやァ!!」
柱間「俺の髪はマダラほど横へ広がっておらぬぞ!」
マダラ「テメェで水切りしてやろうかァ! ゴラァ!!」
ナオリ『主様。会話に集中しすぎますと、進行方向の――』
グオオオオオオオオオッ!!!!
五体の土魔獣が、一斉に現れた。
進路を完全に塞ぐ形。
巨大な腕。
牙。
角。
尾。
それぞれ異なる形状を持つ土魔獣たちが、柱間とマダラへ同時に襲いかかる。
柱間「これは大きいぞ!」
マダラ「だから何だってんだよ。」
二人は、全く同じ瞬間に速度を緩めた。
互いに一度だけ視線を交わす。
言葉は必要ない。
柱間は左へ。
マダラは右へ。
柱間「一、二、三――!」
マダラ「数えんな、鬱陶しい。」
柱間は、先頭の土魔獣が振り下ろした拳へ飛び乗った。
腕を駆け上がる。
肩。
首。
頭部。
そのまま大きく跳躍し、後方の土魔獣へ踵を叩き落とす。
柱間「痛くはせぬぞ!」
ドゴォォォンッ!!!!
頭部が陥没する。
中核を砕かれた土魔獣が崩れ、その土砂が前方の個体へ覆いかぶさった。
柱間は、その土砂の波へ掌を向ける。
土中に混ざる植物の根。
それらへ僅かに木遁のチャクラを流す。
地面から無数の細い根が伸び、もう一体の土魔獣の脚へ絡みついた。
柱間「森の木々を傷めぬよう、少しだけ力を借りるぞ!」
土魔獣が倒れる。
柱間はその胴体へ拳を落とし、二体目も崩壊させた。
一方。
マダラの前には三体。
一体目が腕を振り回す。
マダラは身体を反らして躱す。
二体目の尾が横薙ぎに迫る。
その尾へ片手を添え、力の方向を僅かに変える。
尾は、そのまま一体目の胴体へ叩きつけられた。
バゴォォンッ!!
二体が絡み合う。
その隙間を、マダラは一気に駆け抜けた。
三体目が正面から大口を開く。
マダラ「火遁を使うほどでもねぇ。」
土魔獣の口内へ飛び込む。
牙が閉じる直前、上顎と下顎を両足で蹴り開く。
ガギギギギギギギッ!!
マダラ「口を閉じたきゃ、もっと顎を鍛えろ。」
身体を捻る。
両脚の力だけで、土魔獣の顎を横方向へ粉砕した。
バキィィィィンッ!!!!
そのまま崩れ落ちる土魔獣の頭部から抜け出し、先ほど絡み合った二体の頭上へ着地する。
両拳を、それぞれの中核へ叩き込む。
マダラ「二体まとめて終わりだ。」
ドゴォォォォォォン!!!!
土柱が高く噴き上がった。
数秒後。
五体の土魔獣は、全て元の土砂へ戻っていた。
柱間「俺が二体、マダラが三体……これで俺が五体、マダラが六体ぞ!」
マダラ「あと一体残ってる。」
柱間「何処ぞ!?」
ナオリ『地中でございます。』
柱間の足元。
地面が膨らんだ。
柱間「ぬおっ!?」
土魔獣が、柱間を真下から突き上げる。
ドガァァァァァン!!!!
柱間の身体が空高く吹き飛ばされた。
マダラ「ハッ!」
柱間「笑うでないマダラァ!!」
空中で姿勢を立て直した柱間が、土魔獣の背へ落下する。
しかし。
それより先に。
マダラが土魔獣の中核へ踵を叩き込んでいた。
ズドンッ!!
巨体が崩れる。
マダラは、土煙の中から柱間を見上げた。
マダラ「七体。」
柱間「横取りぞ!!」
マダラ「早い者勝ちだっつったろうが!!」
柱間「卑怯ぞマダラ!」
マダラ「何処が卑怯なんだ、さっさと喋れやァ!」
柱間「俺が先に攻撃を受けておった!」
マダラ「なら避けろ!!」
柱間「不意打ちであったのだ!」
マダラ「戦場で不意打ちされたから待ってくれって言うつもりか!?」
柱間「これは戦場ではなく合宿ぞ!」
マダラ「なお悪いわ! 一年の訓練用に不意打ち食らってんじゃねェ!!」
柱間「ぬぐぐぐ……!」
ナオリ『主様。柱間様。合宿所への競争は継続中でございます。』
二人「!」
マダラ「行くぞナオリ!」
柱間「あっ! 待てマダラァ!!」
マダラが先に走り出す。
柱間も慌てて追う。
その姿は、瞬く間に森の奥へ消えた。
・魔獣の森 A組第一班・
柱間とマダラが、魔獣の森を競技場のように駆け抜けていた頃。
斜面を転がり落ちたA組の生徒たちは、当然ながらそれほど簡単には進めていなかった。
ズザザザザザザザザッ!!
緑谷「ぐっ……!」
緑谷出久は、何度も地面へ手をつきながら斜面を滑り落ちていた。
正面には大きな岩。
緑谷はフルカウルを発動する。
ワン・フォー・オール、フルカウル――五パーセント。
緑色の稲妻が身体を包む。
岩を踏み台にし、横方向へ跳躍。
すぐ近くを転がっていた麗日へ手を伸ばす。
緑谷「麗日さん!」
麗日「デク君!」
互いの手が触れる。
麗日は自分と緑谷へ無重力を発動。
落下速度が一気に軽減された。
麗日「皆も!」
瀬呂「任せろ!」
瀬呂範太が両肘からテープを放つ。
木の幹へ接着。
反対側のテープを飯田と八百万へ巻きつける。
飯田「助かった、瀬呂君!」
八百万「皆さん、下方に集合してください! 分散すれば危険ですわ!」
蛙吹「私が後ろの人たちを掴むわ。ケロ。」
蛙吹梅雨の舌が伸びる。
耳郎。
葉隠。
峰田。
三人の身体へ巻きつき、斜面の下方へ引き寄せた。
峰田「助かった梅雨ちゃん!! でも膀胱が揺れてヤバい!!」
蛙吹「もう森で済ませなさい。ケロ。」
峰田「こんな斜面で出したら自分に降りかかるだろ!!」
耳郎「最悪の想像させないで。」
そのすぐ上。
土砂の中を、赤い光が突き抜ける。
青山「僕のネビルレーザーで、進路を切り開くよ☆」
緑谷「青山君、木には当てないように!」
青山「分かっているさ! 美しい光は自然を傷つけないのさ☆」
レーザーが、斜面を転がり落ちてくる大岩の側面を削る。
軌道が僅かに変わり、A組の横を通過した。
切島「今度は下だ!!」
切島が身体を硬化。
斜面の最下部に先回りし、全身で生徒たちを受け止める。
切島「来いやァァァ!!」
ドドドドドドドドッ!!
尾白。
砂藤。
障子。
口田。
芦戸。
次々と切島の背へ衝突する。
切島「ぐおおおおっ!! 人数多すぎんだろォ!!」
砂藤「俺も支える!」
砂藤が地面へ両足を踏み込み、切島の背を押さえる。
障子が複製腕を地面へ突き刺す。
尾白は尻尾を太い木の幹へ巻きつけ、全体の流出を止めた。
飯田「全員、無事か!?」
爆豪「無事に決まってんだろうが!!」
少し離れた場所。
爆豪勝己は両掌の爆破を細かく調節しながら、空中で姿勢を制御していた。
ボンッ! ボンッ!
その隣では、轟焦凍が斜面へ薄い氷を張り、滑走しながら減速している。
ただし、森の植物を傷つけないよう氷の範囲は最小限だった。
轟「爆豪。下に着いたなら、先に周囲を確認しろ。」
爆豪「テメェに言われなくても見えてんだよ半分野郎!!」
常闇「黒影。闇はまだ薄い。出力を抑えろ。」
黒影「分かってるぜフミカゲ!」
黒影が翼のように広がり、常闇を斜面から持ち上げる。
常闇は地上へ着地すると、素早く周囲を見渡した。
常闇「東から、何か来る。」
緑谷「えっ?」
地面が揺れた。
木々の奥から、一本の角を生やした土魔獣が現れる。
グオオオオオオオオオッ!!!!
麗日「これがピクシーボブさんの土魔獣!?」
緑谷「土を操る個性、“土流”で形成された疑似生命体! 中核の位置が分かれば、必要最小限の攻撃で崩せるはずだ!」
爆豪「分析してる暇があったら潰せ、クソデク!!」
爆豪が飛び出した。
緑谷「かっちゃん、一人で行かないで!」
土魔獣が角を突き出す。
爆豪は直前で上空へ跳躍。
掌を下へ向ける。
爆豪「邪魔なんだよォ!!」
ドガァンッ!!!!
爆破が土魔獣の背へ直撃。
だが。
表面の土が大きく弾けたものの、中核までは届かない。
砕けた部分が、周囲の土を吸い寄せて再生する。
爆豪「チッ!」
轟「爆豪。表面だけ壊しても戻る。」
爆豪「見りゃ分かるわ!!」
耳郎「だったら中の音を探す!」
耳郎がイヤホンジャックを地面へ差し込む。
土魔獣の足音。
土砂の擦れる音。
個性によって土が組み替えられる振動。
その中に、一つだけ異なる規則的な振動があった。
耳郎「胸の中央! 少し左!」
八百万「ならば、貫通力を高める道具を!」
八百万の身体から、一本の金属棒が創造される。
先端は細く尖り、爆豪の爆破を集中させるための簡易杭となっていた。
八百万「爆豪さん、これを!」
爆豪「投げろ!」
八百万が杭を投擲。
爆豪が空中で掴む。
轟は土魔獣の両脚へ氷を這わせた。
轟「止める。」
土魔獣の動きが、一瞬だけ鈍る。
切島「俺が正面を受ける!」
切島が硬化し、土魔獣の突進を真正面から受け止めた。
ガギィィィィィン!!!!
切島「重っ……でも、柱間やマダラほどじゃねぇ!!」
爆豪「比較対象がおかしいんだよ!!」
爆豪が、八百万の作った杭を土魔獣の胸へ突き立てる。
爆豪「ぶち抜けェ!!」
ドガガガガガガガガッ!!!!
爆破を杭の一点へ集中。
衝撃が土魔獣の胸部を貫く。
内部の中核が砕けた。
バキィィィン!!
巨大な身体が土砂へ戻る。
芦戸「やった!」
飯田「油断するな! 周囲には、まだ複数の敵がいる可能性がある!」
緑谷「うん。それに、今の土魔獣一体だけでも、皆で連携しなければ時間がかかった……。」
爆豪「あのストレート長髪とボサボサ長髪は、もう森の半分くらい進んでんじゃねぇか。」
上鳴「マダラの旦那たち、絶対競走になってるよな……。」
常闇「二柱の神話が、森そのものを踏破している光景が目に浮かぶ。」
瀬呂「俺には、ピクシーボブさんの魔獣が可哀想になってる光景しか浮かばねぇ。」
緑谷「でも、僕たちは僕たちのやり方で進もう。全員で合宿所へ着くんだ!」
飯田「その通りだ! 無理に柱間君とマダラ君の速度へ合わせる必要はない! 班を分け、互いを補助しながら前進しよう!」
八百万「感知役、迎撃役、救助役を決めるべきですわ。」
障子「前方の索敵は俺が担当する。」
口田「……動物たちにも、道を聞いてみる。」
常闇「俺と黒影も先行警戒へ加わろう。」
耳郎「地中の土魔獣は、ウチが音で探す。」
緑谷「僕も周囲の動きと敵の構造を分析する!」
飯田「よし! では、前衛は切島君、砂藤君、尾白君、爆豪君、轟君! 中央に八百万君と耳郎君、青山君、口田君、峰田君! 左右を瀬呂君、芦戸君、麗日君、蛙吹君! 後方警戒は障子君と常闇君! 僕と緑谷君は全体の連絡を――」
爆豪「テメェで勝手に俺を配置すんな委員長!!」
飯田「しかし前衛が最適だと判断した!」
爆豪「最初から前に行くつもりだっつってんだよ!!」
飯田「では問題ないな!」
爆豪「腹立つまとめ方すんな!!」
その時。
峰田が両膝を震わせながら、小さく手を上げた。
峰田「その前に……ほんの一分だけ……一分だけ、木の陰へ行かせてくれ……。」
耳郎「まだ我慢してたの?」
峰田「俺だって好きで我慢してんじゃねぇよ!!」
蛙吹「行ってくればいいじゃない。ケロ。」
峰田「誰も見るなよ! 絶対見るなよ!」
瀬呂「見ねぇよ。」
上鳴「むしろ離れてくれ。」
峰田は、内股になりながら近くの木陰へ走っていった。
峰田「やっと……やっと解放される……!」
木の後ろへ回る。
大きく息を吐く。
その時。
峰田の目の前の地面が、ゆっくりと盛り上がった。
峰田「……え?」
土が形を変える。
巨大な頭部。
鋭い牙。
黄色く光る眼。
峰田と土魔獣が、真正面から目を合わせた。
土魔獣「グルルルルルルル……。」
峰田「…………。」
土魔獣「グオオオオオオオオオオッ!!!!」
峰田「ひぎゃああああああああああああああああっ!!!!」
木陰から、峰田が転がり出てきた。
そのズボンの前方には、薄く色の変わった部分が広がっている。
上鳴「峰田……お前……。」
瀬呂「間に合わなかったのか……。」
峰田「ち、違う!! これは違うんだ!!」
耳郎「何がどう違うの。」
峰田「土魔獣に驚いて、身体が勝手に!!」
蛙吹「自然に出せて良かったじゃない。ケロ。」
峰田「良くねぇよ!! 尊厳が死んだよ!!」
土魔獣が木々を薙ぎ払いながら迫る。
切島「峰田、後ろだ!!」
峰田「今は来るなァ!!」
峰田は反射的に頭部のモギモギを掴み、土魔獣の足元へ投げつけた。
ベタッ!!
粘着球が土魔獣の前脚へ張りつく。
次の一歩。
前脚が地面へ固定され、巨体が大きく前へ傾いた。
峰田「へ?」
緑谷「今だ!」
尾白が駆ける。
土魔獣の首へ尻尾を巻きつけ、身体を捻る。
尾白「はあっ!」
芦戸が、土魔獣の胸部表面へ酸を薄く流す。
芦戸「中核までの道、作るよ!」
表面の土だけが溶け、胸部内部が露出する。
青山「そこへ僕の輝きを届けよう☆」
ネビルレーザー!!
青白い光線が、露出した中核を撃ち抜いた。
バシュゥゥゥン!!
土魔獣が崩れ落ちる。
緑谷「峰田君の個性が動きを止めたから倒せた!」
峰田「オイラの尊厳は犠牲になったけどな!!」
麗日「でも、ほんまに助かったよ!」
峰田「麗日が褒めてくれた!? じゃあ漏らした価値は――」
耳郎「調子に乗るな。」
ビシッ!!
峰田「ぎゃん!!」
八百万は小さく咳払いすると、身体から布製の簡易目隠しと替えのズボンを創造した。
八百万「峰田さん。こちらをお使いください。着替える間、私たちは周囲を警戒しておりますので。」
峰田「八百万……お前が女神に見える……!」
八百万「感謝は結構ですから、急いでください。」
爆豪「五分以上かかったら置いてくぞ、漏らしブドウ頭。」
峰田「新しいあだ名つけるなァ!!」
・魔獣の森 B組側区域・
A組とは別の山道。
ラグドールと虎が担当する区域でも、B組の訓練は既に始まっていた。
虎「進めェ!! この程度の斜面、ヒーローを志す者ならば己の足で踏破せよ!!」
ドドドドドドドドドッ!!!!
B組の生徒たちは、虎の個性“軟体”によって大きく変形させられた地面を走っていた。
隆起する地面。
突然窪む足場。
左右へ大きく傾く斜面。
さらにラグドールの指示によって、土魔獣が次々と襲いかかる。
ラグドール『右から三体来るよー! ちなみに鎌切君は前しか見てないのが弱点! 取蔭ちゃんは分裂したパーツを広げすぎ! 鉄哲君は細かい方向転換が苦手!』
鎌切「弱点を実況すんなァ!!」
取蔭「全部見られてるの、普通にやりづらいんだけど!」
鉄哲「弱点なら鍛えて潰しゃいいだろうがァ!!」
扉間「その意気は良いが、直進するな鉄哲!」
鉄哲「おう!」
扉間「言った直後に直進するな!」
正面から土魔獣が突進。
鉄哲は全身を鋼鉄化し、真正面からぶつかった。
ガギィィィィィン!!!!
鉄哲「ぬおおおおおっ!!」
土魔獣「グオオオオオッ!!」
扉間「骨抜。」
骨抜「はいよ。」
骨抜柔造が、土魔獣の足元へ手を触れる。
地面が一瞬で柔らかくなった。
土魔獣の脚が深く沈み込む。
鉄哲「今だァ!!」
鉄哲の拳が、土魔獣の胸部へ叩き込まれる。
だが、中核を外した。
土魔獣の身体は崩れない。
ラグドール『鉄哲君、力はあるけど狙いが少し雑! 中核は胸の中心から右へ十二センチ!』
扉間「塩崎!」
塩崎「承知いたしました。」
塩崎茨の蔓が伸びる。
土魔獣の胴体を締め上げ、胸部の表面を剥がす。
鎌切「見えた!」
鎌切の刃が、中核を斬り裂いた。
ズバァンッ!!
土魔獣が崩壊する。
鉄哲「俺が止めて、骨抜が沈めて、塩崎が剥がして、鎌切が斬る! 完璧じゃねぇか!!」
骨抜「最初に君が突っ込まなければ、もっと楽だったけどね。」
鉄哲「細けぇことはいいんだよ!」
扉間「良くない。戦場では一つの無駄が味方の負傷へ繋がる。」
鉄哲「お、おう……。」
物間「やれやれ。これだから直線的な者は困るね。ここは僕の“コピー”によって、A組より華麗な攻略を――」
拳藤「何をコピーするの?」
物間「え?」
拳藤「今、近くに使いやすい個性の持ち主いる?」
物間「……拳藤。君の個性を借りよう。」
拳藤「最初からそう言いなよ。」
物間が拳藤へ触れる。
右拳が巨大化。
同時に、正面から別の土魔獣が現れた。
物間「見るがいい! A組では決して生まれない、B組の優雅な連携を!」
巨大化した拳を振り上げる。
だが。
土魔獣も同時に前脚を振り上げた。
拳藤「物間、角度!」
物間「分かって――」
ゴンッ!!
巨大な拳同士がぶつかる。
物間の身体が後方へ弾かれた。
物間「ぐあっ!?」
柳「浮かせる。」
柳レイ子のポルターガイストが、物間の身体を空中で止める。
小大「拳、小さくする。」
小大唯が物間の巨大な拳へ触れ、元の大きさへ戻した。
回原「俺が穴を開ける!」
回原旋が腕を回転させ、土魔獣の胸へ突撃。
螺旋状の穴を穿つ。
黒色「中へ入れるな。」
黒色支配が、その穴の奥に生まれた暗がりへ身体を潜り込ませる。
土魔獣の内部を進み、中核の位置へ到達。
黒色「ここだ!」
内部から中核を蹴り砕いた。
バキンッ!!
土魔獣が崩れる。
その土砂の中から、黒色が飛び出してくる。
黒色「黒に潜めば、土の巨獣とて俺の領域だ!」
扉間「悪くない。だが、内部で崩壊に巻き込まれぬよう脱出経路を先に確保しろ。」
黒色「了解した、扉間。」
物間「今の連携の発端は、僕の勇敢な迎撃だったことを忘れないでほしいな……。」
拳藤「吹き飛ばされただけでしょ。」
発目「素晴らしいデータです!!」
B組の後方。
発目明は、頭部に大型ゴーグルを装着し、複数の小型観測ドローンを飛ばしていた。
その横ではパワーローダーが、全ての機体を監視している。
発目「土魔獣との衝突時における各個性の負荷、関節角度、衝撃吸収率、疲労値、全てベイビーたちが記録しています!!」
パワーローダー「記録だけにしろ。生徒へ勝手に追加装備を射出するなよ。」
発目「その予定は――」
パワーローダー「あるのか。」
発目「あります!!」
パワーローダー「中止だ!!」
発目「まだ説明していません!」
パワーローダー「説明を聞いたら止められなくなる気がする!」
扉間は、一枚の飛雷神クナイを近くの岩へ投げた。
クナイが突き刺さる。
周囲の状況を確認し、B組へ振り返る。
扉間「全員、聞け。この森は自然地形に、虎さんとラグドールさんが仕掛けた変化が重なっている。土魔獣だけを見ていれば足場を失う。」
拳藤「地形全体を見るってこと?」
扉間「そうだ。敵を倒すことだけが目的ではない。全員が負傷せず目的地へ到達することが優先される。」
ラグドール『さすが扉間君! でもね、君の弱点も見えてるよ!』
扉間「俺の弱点ですか。」
ラグドール『全体を見すぎて、自分一人で処理できることまで味方へ割り振ろうとする! それに、仲間の安全を優先しすぎて、必要以上に自分を危険な位置へ置く傾向あり!』
一瞬。
B組の視線が扉間へ集まった。
拳藤「……それ、確かにあるかも。」
鉄哲「扉間、何でも自分で受けようとする時あるもんな!」
物間「自分を合理的だと思っている者ほど、自分自身の損耗を計算へ入れ忘れるものさ。」
扉間「貴様に言われるとはな。」
物間「僕だからこそ分かるのだよ。」
拳藤「物間は自分を危険に置くっていうより、自分から殴られる位置へ行くけどね。」
物間「拳藤!?」
虎「ラグドールの言葉を軽視するな。貴様らが己では気づけぬ弱点を知ることも、この合宿の目的だ!」
扉間「……承知しました。」
ラグドール『素直でよろしい!』
扉間は静かに息を吐く。
そして、後方へ一歩下がった。
扉間「拳藤。次の編成は貴様が指揮しろ。」
拳藤「私が?」
扉間「俺が指示を出し続ければ、俺へ依存する。それではB組全体の成長にはならん。」
拳藤は僅かに驚いた後、力強く頷いた。
拳藤「分かった。やってみる。」
扉間「必要な時だけ補助する。」
物間「では僕が副指揮を――」
拳藤「物間は前衛。」
物間「何故!?」
拳藤「喋る暇を減らすため。」
取蔭「合理的だね。」
扉間「良い判断だ。」
物間「扉間まで!?」
B組は再び前進する。
その上空。
観測ドローンが木々の間を飛ぶ。
だが。
そのさらに高い場所。
葉の陰。
発目のドローンにも。
ラグドールのサーチにも。
扉間の感知にも。
未だ捉えられていない、小さな黒い影が一瞬だけ蠢いた。
人とも。
動物とも。
自然物とも異なる。
異様なほど薄い存在感。
その影は、扉間が投げた飛雷神クナイを見下ろしていた。
刃。
術式。
マーキング。
チャクラの流れ。
全てを観察するように。
しかし。
次の瞬間には、何事もなかったかのように木陰へ溶けていた。
・魔獣の森 中央区域・
昼を少し過ぎた頃。
柱間とマダラの競争は、さらに加速していた。
柱間「七十八体!」
マダラ「八十だ!」
柱間「いつ二体増えたのだ!?」
マダラ「テメェが木を治してる間だよ!」
柱間「森を傷つけぬことも重要であろう!」
マダラ「なら勝負を持ちかけんな!」
二人の背後。
崩壊した土魔獣の残骸が、長い道のように続いている。
ただし、周囲の木々にはほとんど傷がない。
地面も、必要以上には抉られていない。
柱間は土魔獣を投げる方向まで計算し、森林を避けていた。
マダラも大技を使わず、全ての中核だけを正確に打ち砕いている。
ナオリは二人の後方を走りながら、倒された土魔獣の土砂が危険な方向へ崩れないよう、テレキネシスで僅かに位置を調整していた。
ナオリ『主様。柱間様。合宿所までの直線距離、残り約四キロメートルです。』
柱間「もう少しぞ!」
マダラ「ここからが勝負だ。」
ナオリ『ですが、前方に大規模な土砂構造を確認いたしました。』
森の向こう。
大地が盛り上がる。
これまでの土魔獣とは、明らかに規模が違う。
周囲の土。
岩。
倒木。
根。
全てを巻き込みながら、巨大な姿が形成されていく。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!
高さ、20m近く。
複数の腕。
三つの頭部。
下半身は四足獣。
上半身は人型。
まるで複数の土魔獣を組み合わせたような、巨大土魔獣。
ピクシーボブが、柱間とマダラの進行速度に合わせて新たに作り上げた個体だった。
柱間「おおおおっ!」
マダラ「やっと少しはマシなのが出たか。」
・合宿所 監視室・
ピクシーボブは、監視モニターへ両手を伸ばしていた。
画面には、柱間とマダラ。
そして、巨大土魔獣。
ピクシーボブ「私の土魔獣ちゃんを八十体近くも一方的に壊して! 今度こそ足止めしてあげるんだから!」
マンダレイ「ピクシーボブ、少し大人げなくなってない?」
ピクシーボブ「心は18歳だから負けず嫌いなの!」
相澤「高校1年生相手に本気にならないでください。」
ピクシーボブ「イレイザーが最初から“普通の方法じゃ止まらない”なんて言うからでしょう!?」
相澤「事実を言っただけです。」
通形「でも、すごいな。あの大きさなら、普通の生徒は進路を変えるしかない。」
天喰「普通のプロでも、正面からは嫌だと思う……。」
波動「柱間君、すっごく嬉しそう! マダラ君も笑ってる! 不思議! 巨大な敵を見ると楽しくなるのかな!?」
ミト「ねじれ。お二人の基準を一般化しないでください。」
波動「ミトちゃんは、あれと戦いたくない?」
ミト「訓練の目的に必要であれば戦いますが、自分から喜んで挑むことはありません。」
天喰「うずまきさんはまともだ……。」
ミト「環。その言い方では、柱間様とマダラ様がまともではないように聞こえます。」
天喰「……違うの?」
ミト「…………。」
通形「うずまきさんが黙った!」
ミト「お二人には、お二人の良いところがあります。」
相澤「苦しい擁護だな。」
画面の中。
巨大土魔獣が六本の腕を振り上げる。
ピクシーボブ「行けーっ! 超特大土魔獣ちゃん!!」
・魔獣の森 中央区域・
グオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!
六本の腕が、柱間とマダラへ振り下ろされる。
地面が大きく陥没。
土砂と岩石が噴き上がった。
ズドドドドドドドドドドドドドォォン!!!!
だが。
柱間とマダラは、既にその場にいない。
柱間は一本目の腕へ飛び乗り、肩へ向かって駆け上がる。
マダラは二本の腕の間を擦り抜け、土魔獣の胴体へ取りついた。
柱間「マダラ! 三つの頭の内、左と中央は俺がもらうぞ!」
マダラ「何勝手に多く取ってやがる!」
柱間「先に言った者勝ちぞ!」
マダラ「さっきの俺の言葉を都合良く使うなァ!!」
巨大土魔獣の肩から、小型の土魔獣が無数に生成される。
狼型。
猿型。
鳥型。
それらが柱間へ殺到した。
柱間「むおっ! 小さいものまで出るのか!」
柱間は、全ての攻撃を避けながら走る。
腕で受ければ簡単に砕ける。
だが、周囲の木々へ破片が飛ぶ。
それを避けるため、柱間は一体ずつ掴み、巨大土魔獣の背中へ優しく投げつけた。
柱間「ほいっ! ほいっ! ほいっ!」
ドンッ! ドンッ! ドンッ!
次々と中核が砕ける。
その間にマダラは、巨大土魔獣の胴体を垂直に駆け上がっていた。
四方から、土の槍が飛び出す。
ナオリ『主様。右斜め上より三本。左後方より二本。足元から一本。』
マダラ「分かってる。」
身体を傾ける。
槍一本を掴む。
迫ってきた別の槍へぶつけ、双方を砕く。
さらに一本を蹴り、進行方向を変える。
それが巨大土魔獣の肩の中核へ突き刺さった。
バキンッ!!
右腕二本が崩落する。
マダラ「腕二本。」
柱間「俺も小さい魔獣を二十ほど倒したぞ!」
マダラ「あんなもん一体として数えるな!」
柱間「何故ぞ!?」
マダラ「大きさが違いすぎるだろうが!」
柱間「敵は敵ぞ!」
マダラ「だったら土の粒まで数えてろ!!」
巨大土魔獣の中央頭部が口を開く。
土砂と圧縮空気が、砲弾のように放たれた。
ドドドドドドドドドドッ!!!!
ナオリ『主様。広範囲攻撃です。』
マダラ「俺が逸らす。」
マダラは大軍配を抜かなかった。
代わりに両手を伸ばし、飛来する岩石を次々と掴む。
僅かに軌道を変え、他の岩へ衝突させる。
ガンッ! ガギンッ! バキンッ!!
砕けた岩片は、ナオリのテレキネシスによって上空へ持ち上げられる。
そのまま安全な空地へ落とされた。
ナオリ『処理完了いたしました。』
マダラ「よし。」
柱間「ならば、俺が中央の頭を止めるぞ!」
柱間は巨大土魔獣の頭上へ跳ぶ。
両手を組む。
木遁を使えば、一瞬で終わる。
だが。
これは1年生の訓練として用意されたもの。
加えて、ピクシーボブの個性による生成物だ。
過剰な力は必要ない。
柱間は、頭上から中央の頭部へ掌を当てた。
柱間「少し眠っておれ!」
掌から伝わる、精密な衝撃。
土の結合だけを内側から崩す。
ボゴォォォォォォン!!!!
中央頭部が崩壊。
左右の頭部が、同時に柱間へ噛みつこうとする。
だが。
右の頭部へ、マダラが飛び込んだ。
拳が中核を砕く。
ドゴンッ!!
左の頭部には、ナオリが向かう。
強縮小化状態の翼を大きく広げ、低空から急上昇。
爪は使わない。
翼による風圧とテレキネシスを一点へ集中させる。
ナオリ『主様の競争へ直接介入する意図はございませんが、こちらは私へ攻撃を行いましたので。』
バシュゥゥゥゥン!!!!
左頭部が大きく捻じれ、中核が露出する。
そこへ柱間が踵を落とした。
ズドンッ!!
三つの頭部を失った巨大土魔獣が、激しく暴れ始める。
残る腕。
四本の脚。
胴体中央の主中核。
その位置を、マダラが見抜いた。
マダラ「柱間! 胸の中央だ!」
柱間「うむ!」
二人が、同時に胴体へ向かう。
柱間「せーので殴るぞ!」
マダラ「何でテメェに合わせなきゃならねぇ!」
柱間「同時に壊せば、どちらの得点にもならぬ!」
マダラ「それじゃ勝負がつかねぇだろうが!!」
柱間「ならば合宿所までの速さで決めるぞ!」
マダラ「最初からそういう勝負だァ!!」
二人の拳が。
ほぼ同時に。
巨大土魔獣の主中核へ届いた。
柱間・マダラ「はあっ!!」
ドッッゴォォォォォォォォォン!!!!
主中核が砕けた。
二十メートル近い巨体が、一斉に崩壊を始める。
大量の土砂が、周囲の森林へ向かって押し寄せる。
ナオリ『土砂崩落。周辺樹木へ到達するまで三秒。』
柱間「任せよ!」
柱間が両手を地面へつける。
柱間「木遁・樹界壁。」
地面から複数の太い根が伸びる。
巨大な壁ではない。
土砂の勢いを分散するためだけの、低く連なる木の柵。
押し寄せた土砂が、根の間を通りながら幾つもの方向へ分かれる。
ナオリの念動力が、大きな岩だけを空中へ持ち上げる。
マダラは飛来する細かな破片を蹴り砕き、安全な方向へ逸らしていく。
数秒後。
森は静けさを取り戻した。
柱間「うむ! これで森も無事ぞ!」
マダラ「止まってる暇はねぇ。」
柱間「む?」
マダラは既に走り出していた。
マダラ「合宿所はあと四キロだ!」
柱間「また先に行ったなマダラァ!!」
柱間も追いかける。
ナオリ『主様。お待ちください。』
三者は、再び森の奥へ消えた。
・合宿所前 午後一時十二分・
森を抜けた先。
山間の開けた土地に、ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツが管理する大規模な合宿施設が建っていた。
木造を基調とした宿泊棟。
訓練場。
食堂。
浴場。
広場。
そして、周囲には深い森と山々。
合宿施設前の広場では、相澤、マンダレイ、ピクシーボブ、ミリオ、環、ねじれ、ミトが待っていた。
彼らは車で先回りしている。
ピクシーボブ「まだ来ない……。」
マンダレイ「巨大土魔獣まで出したのに?」
ピクシーボブ「出したから少しくらい遅れると思ったの!」
相澤「普通なら、な。」
波動「来たよ!」
ねじれが、森の入口を指差す。
二つの影。
ほぼ同時。
木々の間から飛び出した。
ドンッ!!!!
柱間とマダラ。
その後方にナオリ。
三者は合宿所前の広場へ着地した。
柱間「俺の勝ちぞ!」
マダラ「俺だ!」
柱間「俺の右足が先であった!」
マダラ「俺の髪が先に入ってた!」
柱間「髪は身体として数えぬぞ!」
マダラ「俺の身体の一部だろうが!」
柱間「ならば俺も髪を前へ伸ばせばよかったではないか!」
マダラ「テメェの髪は真っ直ぐ伸びねぇだろうが!」
柱間「マダラの髪も大概ぞ!」
マダラ「何だとォ!?」
ナオリ『映像記録上、柱間様の右足と主様の左足が、0.02秒未満の差でほぼ同時に敷地境界へ到達しております。』
柱間「ほぼ同時?」
マダラ「勝敗は。」
ナオリ『現在の記録精度では、完全な判定は困難です。引き分けが妥当かと。』
二人「…………。」
柱間「では、次は水切りで決着ぞ!」
マダラ「望むところだァ!」
相澤「合宿の目的を変えるな。」
ピクシーボブは、口を半開きにしたまま二人を見ている。
ピクシーボブ「一時間もかかってない……。」
マンダレイ「出発したのが九時半頃だから、三時間半以上は走っているはずなのに。」
ピクシーボブ「私の土魔獣ちゃん、何体倒されたの?」
ナオリ『柱間様と主様が直接撃破された個体は、小型個体を除き合計百七十三体。大型融合個体が一体。小型個体は正確な集計が困難です。』
ピクシーボブ「百七十三!?」
柱間「俺が八十七ぞ!」
マダラ「俺が八十八だ。」
柱間「数が合わぬぞ! 合計百七十五ではないか!」
マダラ「ナオリが二体倒してる。」
ナオリ『厳密には自衛行動でございます。』
柱間「ならばマダラが八十七、俺が八十六ではないのか!?」
マダラ「融合個体を半分ずつにしてんだよ!」
柱間「それなら俺も八十七・五体ぞ!」
マダラ「細けぇんだよ!!」
ピクシーボブ「私が一体ずつ愛情を込めて作った土魔獣ちゃんたちが、得点扱いされてる……!」
相澤「だから言ったでしょう。」
ミトは二人へ歩み寄る。
ミト「柱間様。マダラ様。お疲れ様でした。」
柱間「うむ! 良い運動であったぞ!」
マダラ「あれで終わりか? もう少し歯応えがあってもよかったが。」
ピクシーボブ「今の聞いた!?」
ミト「ですが、クラスメイトの皆さんを置いて先へ来る必要はなかったのではありませんか?」
柱間「む……。」
マダラ「訓練なんだから、自分の力で来なきゃ意味ねぇだろ。」
ミト「それはそうですが、周囲と連携することもヒーローとして重要です。」
マダラ「……分かってるよ。」
柱間「次からは気をつけるぞ!」
ミト「柱間様は、返事だけで終わらせないでください。」
柱間「うむ……。」
通形「でも、二人とも森をほとんど傷つけずに進んできたんだろ? すごいよ、柱間君、マダラ君!」
天喰「大型土魔獣を百体以上倒して、木を傷つけない方が難しい……。」
波動「どうやったの? どっちが何回跳んだ? 最高速度は? マダラ君、髪で勝敗を決めようとしたの? 髪って身体の何%? 不思議!」
マダラ「一度に聞くな。」
柱間「ねじれよ、映像を見れば分かるぞ!」
ナオリ『記録映像は保存しております。』
波動「見たい!」
天喰「波動さん……今日は寝るまで質問が終わらないと思う……。」
マンダレイは、少し離れた場所にいた一人の少年へ手招きした。
小柄。
黒い帽子。
無表情に近い顔。
冷たい目。
少年は不機嫌そうに、柱間たちの前へ歩いてきた。
マンダレイ「紹介するわ。私の従甥の洸汰。今回、施設で一緒に過ごすことになるから。」
出水洸汰。
まだ幼い少年。
だが。
彼の目には、ヒーローへの憧れも。
雄英生への興味も。
ほとんど浮かんでいなかった。
柱間「俺は千手柱間ぞ! よろしくな、洸汰!」
柱間は笑顔で手を差し出す。
洸汰は、その手を見る。
そして、顔を背けた。
洸汰「……ヒーロー志望の連中なんか、興味ねぇ。」
柱間「む?」
マダラは腕を組んだまま、少年を見下ろす。
怒りはない。
ただ、その瞳の奥にあるものを観察している。
マダラ「そうか。」
洸汰「……何だよ。」
マダラ「興味がないなら、無理に話す必要はねぇ。」
洸汰「偉そうにすんな、長髪。」
柱間「マダラは元から偉そうぞ!」
マダラ「柱間ァ。」
洸汰は、マダラの肩にいるナオリへ一瞬だけ視線を向けた。
しかし、何も言わずに施設内へ戻っていった。
ナオリ『心拍数の上昇を確認。ヒーローという単語に対し、強い拒絶反応がございました。』
マンダレイ「……あの子は、少し事情があってね。」
柱間「そうか。」
マダラ「今聞くことじゃねぇな。」
マンダレイは、僅かに目を見開く。
マダラは洸汰が消えた入口を見ながら、静かに続けた。
マダラ「話したくない奴から無理に聞き出しても、余計に閉じるだけだ。」
ミト「マダラ様……。」
柱間は何も言わなかった。
ただ。
洸汰の小さな背中が消えた扉を、静かに見つめていた。
・魔獣の森 A組側 午後四時過ぎ・
A組は、まだ森の中にいた。
制服は泥だらけ。
汗。
土。
枝葉。
疲労。
それでも、一人も脱落してはいない。
障子「前方、土魔獣二体。右の個体は地中から来る。」
耳郎「振動確認! 右はあと五秒で出る!」
飯田「前衛、準備!」
爆豪「俺が行く!」
轟「右は俺が止める。」
地面から土魔獣が出現。
轟の氷が両脚を固定する。
爆豪の爆破が左側の個体の胸部を削る。
爆豪「耳郎! 中核!」
耳郎「左胸、30cm奥!」
緑谷「かっちゃん、角度を少し下へ!」
爆豪「命令すんなクソデク!!」
そう叫びながらも、爆豪は掌の角度を僅かに変えた。
ドガァンッ!!
爆破が中核を正確に撃ち抜く。
轟が固定した土魔獣には、切島と尾白が同時に接近する。
切島「正面は俺が受ける!」
尾白「中核を探す!」
土魔獣の前脚を切島が受け止める。
尾白は尻尾を使って身体を持ち上げ、胸部を蹴る。
表面が砕ける。
芦戸「穴を広げるよ!」
酸が流れ込む。
中核が露出。
砂藤「俺が壊す!」
砂糖を摂取した砂藤の拳が、中核を粉砕する。
ドゴンッ!!
二体の土魔獣が崩れる。
飯田「よし! 隊列を維持したまま前進!」
上鳴「最初より全然速くなってね!?」
瀬呂「連携できてきたからな!」
麗日「あとどれくらいなんやろ……。」
緑谷「方角と移動距離から考えて、残りは1kmを切ってるはず!」
峰田「もう……一歩も……歩けねぇ……。」
耳郎「替えのズボン履いてから元気なくなったね。」
峰田「精神的に疲れたんだよ!!」
蛙吹「自業自得ではないわ。事故だもの。ケロ。」
峰田「梅雨ちゃんだけが優しい……!」
蛙吹「でも皆に見られたことは、一生忘れられないでしょうね。ケロ。」
峰田「やっぱり優しくなかった!!」
常闇は、木々の隙間から差し込む夕日の角度を見る。
常闇「日が傾いてきた。闇が我らの領域へ近づいている。」
黒影「もっと暗くなれば、俺が全部吹き飛ばせるぞフミカゲ!」
常闇「暴走は避ける。力は抑制してこそ意味を持つ。」
緑谷「I・アイランドで学んだことだね。」
常闇「ああ。全てを砕く力ではなく、守るべきものを残すための力。俺も、黒影も、それを身につけねばならない。」
黒影「俺も頑張る!」
口田が、近くの木へ留まった小鳥へ静かに呼びかける。
口田「……合宿所、近い?」
小鳥が鳴く。
口田は何度か頷いた。
口田「……この先。開けたところ。」
飯田「本当か!」
芦戸「やったー!」
その声に応えるように。
木々の間から、夕日に照らされた合宿所が見えた。
一同「おおおおおおおおおっ!!」
爆豪「やっとかよ!!」
緑谷「全員で着いた……!」
八百万「まだ敷地へ入るまでは油断できませんわ!」
その言葉通り。
森の出口前。
最後の土魔獣が立ち塞がる。
これまでで最も大きいわけではない。
だが。
疲労したA組にとっては、十分な壁だった。
緑谷「最後の一体……!」
飯田「全員で突破するぞ!」
爆豪「俺一人で十分だ!!」
轟「一人で壊すより、全員で早く終わらせる。」
爆豪「テメェは一々腹立つ言い方しやがるな!!」
八百万「爆豪さん、轟さん! 正面をお願いします!」
耳郎「中核は腹部中央!」
瀬呂「脚を止める!」
瀬呂のテープが両脚へ絡む。
峰田が粘着球を地面へ撒く。
麗日が巨大な右腕へ触れ、無重力化する。
土魔獣の体勢が崩れる。
蛙吹「舌で引くわ。ケロ。」
蛙吹が無重力化した腕を引き上げる。
脇腹が露出。
芦戸「通り道、作る!」
酸が表面を溶かす。
青山「美しく照らそう☆」
ネビルレーザーが内部を照らす。
緑谷「見えた!」
爆豪と轟が左右から同時に踏み込む。
氷。
炎。
爆破。
急激な温度変化によって、土魔獣の中核周辺が脆くなる。
切島「行け、緑谷!」
緑谷「うん!」
ワン・フォー・オール、フルカウル。
5%。
緑谷が、仲間たちの作った道を走る。
緑谷「セントルイス――スマッシュ!!」
ドゴォォォォォォン!!!!
蹴りが中核を貫いた。
最後の土魔獣が崩れ落ちる。
一同《large》「やったああああああああああああっ!!!!」《/large》
そのまま全員が森を抜けた。
・合宿所前 午後5時20分・
広場で待っていた柱間が、真っ先に立ち上がった。
柱間「おお! 皆、来たぞ!」
マダラ「遅ぇ。」
爆豪「あァ!?」
森から現れたA組一同。
その姿は、出発時とは比べものにならない。
髪も。
制服も。
顔も。
全身が泥だらけ。
疲労で肩を落とし、足取りも重い。
対する柱間とマダラは、僅かに土が付着している程度。
ナオリに至っては、羽毛の乱れすらほとんどない。
上鳴「マダラの旦那……何時に着いたんだ……?」
マダラ「午後1時時過ぎだ。」
一同「午後1時!?」
瀬呂「俺たち、4時間以上遅れてる!?」
ピクシーボブ「この二人と比べなくていいわよ! 比較対象としておかしいから!」
爆豪「ストレート長髪!! ボサボサ長髪!! テメェらだけ勝手に競走してんじゃねェ!!」
柱間「だが、爆豪たちも全員で到着したではないか!」
爆豪「話を逸らすな!!」
マダラ「訓練なんだから、自力で来るのが当然だろうが。」
爆豪「言われなくても分かってんだよボサボサ長髪!!」
マダラ「なら吠えんな。」
爆豪「誰が吠えてるって!?」
切島「まあまあ爆豪! でもマジで全員無事に着いたんだ、良かったじゃねぇか!」
飯田「その通りだ! 多少の負傷や疲労はあるが、脱落者は一人もいない!」
相澤は、全員の姿を一度見回す。
相澤「予定より3時間遅い。だが、最初より後半の攻略速度は明らかに上がっていた。最低限、訓練の意図は理解したようだな。」
緑谷「はい……!」
相澤「褒めてはいない。これから毎日、今日以上の訓練をする。」
一同「えっ。」
相澤「今日は移動だけだと思ったか?」
一同「…………。」
相澤「明日からが本番だ。」
一同「えええええええええええええええっ!?」
天喰「1年生……可哀想だ……。」
通形「でも、皆なら越えられるよ!」
波動「もっとすごい訓練するの? 土魔獣より大きい? 飛ぶ? 爆発する? 不思議!」
ミト「ねじれ。楽しそうに聞かないでください。」
その時。
峰田が、合宿所の入口に設置された案内板を見た。
そこには。
浴場。
食堂。
宿泊棟。
そして。
便所。
峰田「トイレェェェェェェェェェェェェェェェッ!!!!」
全員を置き去りにして、猛然と走り出した。
上鳴「もう出すもんないだろ!」
峰田「精神的に確認したいんだよォ!!」
・合宿所前 午後5時40分・
少し遅れて。
別ルートからB組も姿を現した。
鉄哲「到着だァァァ!!」
拳藤「やっと着いた……。」
物間「ぼ、僕たちはA組よりも高度な試練を課されたに違いない……でなければ、この疲労の説明が……。」
取蔭「単純に物間が途中で三回吹き飛ばされたからじゃない?」
物間「あれは戦術的後退だよ!」
骨抜「毎回、柳さんに回収されてたけどね。」
柳「少し重くてウラめしかった。」
塩崎「皆が無事に到着できたことこそ、天より授けられた恵みです。」
鉄哲「扉間! A組もう着いてるぞ!」
B組の先頭付近。
扉間は制服に土埃を付着させながらも、姿勢を崩していなかった。
額には僅かな汗。
手には、途中で回収した飛雷神クナイ。
彼のすぐ後ろには、発目の機材を一部担いだパワーローダーがいる。
パワーローダー「何故、教師の俺が発目の荷物を運んでいるんだ……。」
発目「ベイビーは大切に扱わなければなりませんから!!」
パワーローダー「お前が運べ!!」
発目「私は観測に忙しいです!!」
扉間は広場へ到着すると、最初に柱間とマダラの姿を確認した。
扉間「兄者。マダラ。」
柱間「おお、扉間! 無事であったか!」
扉間「当然だ。兄者たちは、いつ到着した。」
マダラ「午後1時過ぎだ。」
扉間「……競争したな。」
柱間「何故分かったのだ!?」
扉間「兄者とマダラが同時に森へ入って、競争しない方がおかしい。」
マダラ「流石に分かってるじゃねぇか、扉間。」
扉間「褒めていない。」
柱間「引き分けであったぞ!」
マダラ「まだ決着はついてねぇ。」
扉間「合宿中に施設を壊すような勝負はするな。」
マダラ「水切りだ。壊れねぇよ。」
扉間「兄者が本気で石を投げれば、対岸が壊れる。」
柱間「加減はするぞ!一応はな!」
扉間「その言葉が一番信用できん。」
常闇がA組側から歩み寄る。
常闇「扉間。別なる闇の踏破、見事であった。」
扉間「貴様も無事に着いたようだな、常闇。」
常闇「ああ。仲間との連携により、闇へ呑まれることなく辿り着いた。」
扉間「後ほど、双方の経路と戦術を比較する。改善点があるはずだ。」
常闇「望むところだ。」
黒色「俺も参加するぞ、扉間!」
常闇「黒色。貴様もまた闇の研鑽を望むか。」
黒色「当然だ!」
上鳴「闇会議が始まりそう。」
耳郎「照明消してやった方がいいのかな。」
ラグドールと虎も、少し遅れて合宿所へ到着した。
ラグドール「あちきたちも到着ーっ!」
虎「貴様ら、初日としては悪くない働きであった! だが、明日からは本格的に鍛え上げる! 覚悟しておけ!」
B組「はい!!」
相澤は、虎へ向かって軽く一礼する。
相澤「虎さん、ラグドールさん。B組の引率、ありがとうございました。」
虎「礼には及ばん。鍛錬は始まったばかりだ。」
ラグドール「皆、面白い弱点いっぱいだったよ!」
B組「面白いって言わないでください!!」
・合宿所 食堂 夕刻・
初日の訓練を終えた生徒たちは、宿泊棟で最低限の汚れを落とした後、制服姿のまま食堂へ集められた。
大きな木製の食卓。
椅子。
厨房から漂う、食欲を刺激する香り。
本日の夕食は、ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツが準備していた。
大皿へ盛られた鶏の唐揚げ。
山菜と根菜の煮物。
焼き魚。
野菜炒め。
ポテトサラダ。
味噌汁。
漬物。
炊きたての白米。
カレーではない。
初日だけは、長旅と森の訓練を終えた生徒たちのため、プッシーキャッツが腕を振るって用意した料理だった。
一同《large》「いただきます!!」《/large》
料理へ箸が伸びる。
切島「唐揚げうめぇぇぇ!!」
鉄哲「森を走った後の肉は最高だなァ!!」
砂藤「外はカリッとして、中は柔らかい。下味もしっかりしてる。」
ピクシーボブ「当然でしょ! 私たちが作ったんだから!」
マンダレイ「ほとんど虎が揚げていたけどね。」
虎「大量の食事を短時間で用意するには、力と規律が必要なのだ!」
ラグドール「あちきは味見したよ!」
ピクシーボブ「ラグドールは味見しすぎ!」
上鳴「虎さん、料理も上手いんだ……。」
瀬呂「何か、めっちゃ家庭的だな。」
虎「何か問題があるか。」
二人「ありません!!」
柱間は、大きな茶碗へ山のように白米を盛っていた。
その隣には、空になった皿が既に六枚。
柱間「うむ! 美味いぞ! この唐揚げ、味が中まで染みておる!」
ピクシーボブ「良い食べっぷりじゃない! たくさん食べなさい!」
マンダレイ「食材、足りるかしら。」
ミト「柱間様。皆さんの分を考えてください。」
柱間「まだ料理はたくさんあるぞ!」
ミト「柱間様がお一人で、既に五人分ほど召し上がっています。」
柱間「鍛錬の後は腹が減るのだ!」
マダラ「昔から変わんねぇな、テメェは。」
柱間「マダラも唐揚げを七つ食べておるではないか!」
マダラ「七つ程度で一緒にするな。」
柱間「先ほどプリンも食べておったぞ!」
マダラ「なっ……!」
波動「マダラ君、夕食前にプリン食べたの? 何味? 固い? 柔らかい? 柱間君が持ってきたやつ? 不思議!」
マダラ「柱間ァ!! 余計なこと言ってんじゃねェ!!」
柱間「事実ぞ!」
マダラ「テメェで水切りしてやろうかァ!!」
ミト「食堂で騒がないでください。」
マダラ「……悪ぃ。」
上鳴「マダラの旦那、やっぱミト先輩には素直だよな。」
マダラ「あ?」
上鳴「唐揚げ美味いっすね!!」
ナオリは、合宿施設の要望によって用意された専用の大皿から食事を取っていた。
現在は超縮小化状態。
全高1m強。
翼幅2m強。
皿には加熱した鶏肉、魚、果物、そして栄養配分を考えた特別食が並んでいる。
波動「ナオリちゃん、唐揚げも食べるの? 鳥だけど鶏肉食べるの? 共食いにはならないの? 種類が違うからいいの?」
ナオリ『ねじれ様。猛禽類は他の鳥類を捕食することもございます。私はハルパゴルニスオウギワシであり、鶏とは異なる種ですので、共食いには該当いたしません。』
波動「そうなんだ! 味はどう?」
ナオリ『大変美味でございます。衣の食感と、肉汁の保持状態が優れております。』
虎「分かっているではないか、神鳥よ。」
ナオリ『ありがとうございます、虎様。』
マダラ「ナオリ。食いながら喋るな。」
ナオリ『失礼いたしました、主様。』
天喰は、食堂の端に近い席で静かに食事をしていた。
ミリオがその隣。
ねじれとミトが向かい側。
通形「環、唐揚げ美味いぞ!」
天喰「うん……食べてる……。」
通形「明日からもっと大変になるみたいだから、今の内に食べておかないとな!」
天喰「ミリオは明日の訓練が楽しみなのか……。」
通形「もちろん!」
天喰「俺は今から地面の下へ埋まりたい……。」
波動「天喰君、土魔獣になるの?」
天喰「ならない……。」
ミト「環。食事を終えた後、明日の訓練内容について確認しましょう。あなたの複製再現は、山中の動植物を利用することで、普段とは違う可能性が広がるはずです。」
天喰「うずまきさん……確かに、森なら種類は多いけど……食べられるものか確認しないと……。」
通形「環の新しい力が見られるかもしれないな!」
天喰「期待されると胃が痛い……。」
波動「胃が痛い時は何を食べたら治る? 胃を複製したら強くなる? 不思議!」
天喰「波動さん……食事中だけでも質問を休んで……。」
B組側の席では、物間がA組の食べる速度を観察していた。
物間「A組は食事の際まで騒がしいね。これではヒーロー科としての品格が――」
拳藤「物間、口にご飯粒ついてる。」
物間「えっ。」
拳藤「左。」
物間は慌てて口元を拭う。
取蔭「品格があるね。」
物間「黙ってくれないか!?」
鉄哲「飯は騒いで食った方が美味ぇだろ!」
塩崎「食物は神より賜った恵み。感謝と節度を忘れてはなりません。」
小森「山菜にキノコちゃんも入れたかったノコ〜。」
ピクシーボブ「明日は皆に夕食を作ってもらうから、その時に相談してみたら?」
一同「明日は自分たちで!?」
マンダレイ「そうよ。明日の夕食は、あなたたち自身で作ってもらうわ。」
芦戸「何作るんですか?」
ピクシーボブ「明日は定番の――カレー!」
上鳴「キャンプのカレーきた!」
葉隠「皆で作るんだ!」
砂藤「調理担当を分けた方がいいな。」
八百万「食材管理と火の管理も必要ですわ。」
爆豪「カレー程度、誰でも作れんだろ。」
轟「爆豪、料理できるのか。」
爆豪「あァ!? できるに決まってんだろ!!」
切島「爆豪、包丁使うの上手いぞ!」
上鳴「マジで!?」
爆豪「何で驚いてんだ、殺すぞ!!」
轟「なら爆豪に任せればいい。」
爆豪「テメェも働け半分野郎!!」
柱間「カレーとは、あの香辛料を使った料理か!」
マダラ「柱間。テメェが鍋を持つと、全部木の実とキノコになるから触るな。」
柱間「何故ぞ! 栄養があるではないか!」
扉間「兄者は量を増やそうとして、食用か不明な植物まで入れかねん。」
柱間「見分けくらいつくぞ!」
マダラ「昔、妙なキノコを食って丸一日笑い続けたのは誰だァ?」
柱間「それは若い頃の過ちぞ!」
扉間「笑いながら森を一つ作ったせいで、処理に三日かかった。」
柱間「扉間まで言うでない!」
ミト「柱間様は、明日の調理では薪の準備をお願いします。」
柱間「料理をさせてもらえぬのか!?」
マダラ「当然だ。」
柱間「マダラは俺の作ったキノコ汁を美味いと言っておったではないか!」
マダラ「あれは普通のキノコだったからだ!」
上鳴「マダラの旦那、柱間と昔から一緒に飯食ってたんだな。」
マダラ「……まあな。」
柱間「うむ! 川魚を焼いたり、木の実を拾ったり、よく二人で――」
マダラ「さっさと飯食えやァ!!」
柱間「何故照れるのだ!?」
マダラ「照れてねぇ!!」
ナオリ『主様。耳介周辺の体温が僅かに上昇しております。』
マダラ「ナオリ、後で説教だ。」
ナオリ『事実でございます。』
食堂に、笑い声が広がった。
・合宿所裏手 展望地 日没後・
夕食を終えた後。
入浴と就寝準備までの短い自由時間。
マダラは、合宿所裏手の岩場に立っていた。
その隣には、弱縮小化状態のナオリ。
全高5m強。
翼幅10m強。
木々の上へ頭が届くほどの大きさだが、周辺へ威圧感を与えないよう翼を畳んでいる。
夕日は既に山の向こうへ沈み。
空は深い藍色へ変わりつつあった。
マダラ「昼間から気にしてるな。」
ナオリ『……お気づきでしたか。』
マダラ「何年一緒にいると思ってる。」
ナオリ『主様と出会ってからの日数でしたら、正確な算出が可能ですが。』
マダラ「そういう意味じゃねぇ。」
ナオリ『失礼いたしました。』
マダラは、森の向こうを見る。
マダラ「懐かしい気配ってのは、何だ。」
ナオリは、すぐには答えなかった。
風が吹く。
羽毛が揺れる。
遠くで鳥が鳴く。
虫の声。
沢の音。
木々の擦れる音。
その中に。
極めて微かな。
しかし、確かな何かが混ざっていた。
ナオリ『私の故郷に存在した、同胞たちの気配に似ております。』
マダラ「パナマの鳥とやらか。」
ナオリ『はい。ですが、あり得ないことです。私が日本へ渡ってから、長い年月が経過しております。彼らが私の所在を把握できる可能性も、極めて低いはずです。』
マダラ「気配を感じたんだろ。」
ナオリ『……はい。』
マダラ「なら、いるかもしれねぇ。」
ナオリ『主様。』
マダラ「会いたくないのか。」
ナオリは沈黙する。
青白い瞳が、遠い山々を見つめる。
ナオリ『会いたいと願っております。』
その声は、いつもの機械的なほど整った丁寧さを保ちながら。
ほんの僅かに。
震えていた。
ナオリ『ですが、同時に恐ろしくもございます。私が故郷を離れた後、彼らがどのような道を歩んだのか。私を恨んでいる者がいるのか。既に全てが失われているのか。』
マダラ「くだらねぇことで悩むな。」
ナオリ『くだらない、でしょうか。』
マダラ「会ってから考えろ。」
ナオリは、ゆっくりとマダラへ視線を下ろした。
マダラ「恨まれてるなら話を聞け。殴られそうなら避けろ。敵なら俺が潰す。」
ナオリ『主様。』
マダラ「だが、会いたがってる奴なら――」
一拍。
マダラ「逃げんな。」
ナオリは、静かに瞳を閉じた。
ナオリ『……承知いたしました。』
その時。
遥か遠方。
幾つもの山を越えた先。
夜の森の奥から。
ズズズズズズズズズズズ……。》
地面へ伝わるほどの、低い振動が響いた。
マダラ「何だ。」
ナオリの瞳が、大きく開く。
ナオリ『この音……。』
地獄耳が。
微かな羽音を捉える。
一つではない。
十でもない。
百でもない。
規律正しく。
巨大な翼が、同時に動く音。
《b》《vib:1》バサッ……バサッ……バサッ……バサッ……。》
その中心。
誰かの声が。
極めて遠いにもかかわらず、ナオリの聴覚へ届いた。
???『俺の地獄鼻が告げてやがる……! この山のどこかにいるぜ……!』
別の声。
???『フハハハハハハハハハハッ!! 当然だ!! このハーストハイム親衛財団の超高性能索敵網と、貴様の悪趣味なほど鋭い鼻が同時に示したのだ!!』
最初の声。
???『悪趣味とは何だァ!? この鼻はよォ~~~!! 善悪も、恩人の匂いも、絶対に嗅ぎ違えねぇんだぜェ~~~!!』
二つ目の声。
???『ならばさっさと位置を特定せんかァァァ!! パナマより遥々マッハ12で飛来しておきながら、何日この山中を捜索していると思っているゥゥゥ!!』
最初の声。
???『テメェの親衛財団が派手すぎて、ナオリさんに気づかれねぇよう迂回してんだろうがァァァ!!』
二つ目の声。
???『我が精鋭たちの華麗なる隊列に問題があると言うのかァァァ!!』
最初の声。
???『翼幅10m級の猛禽が何百羽も軍隊みてぇに並んで飛んでたら、誰だって見るだろうがァァァ!!』
あまりにも遠い。
普通の人間には、決して届かない距離。
しかし。
ナオリには聞こえていた。
そして。
その二つの声を。
ナオリは知っていた。
ナオリ『……イーグルワゴン。』
マダラ「知り合いか。」
ナオリ『はい。』
もう一つの声。
懐かしく。
騒がしく。
誇り高く。
昔から、何一つ変わっていない声。
ナオリ『ハーストハイム……。』
空の彼方。
山脈を覆う雲の向こう。
月光を遮るように。
無数の巨大な翼が、ゆっくりと広がっていた。
その最前列。
洒落たつば付きハットを被った、一羽の巨大なハルパゴルニスオウギワシ。
そして。
軍帽を被り、全身から鋼鉄の装甲と無数の兵器を生やした、さらに巨大なハルパゴルニスオウギワシ。
その後方には。
規律正しく編成された、数百にも及ぶ猛禽類の大軍団。
《b》ハーストハイム親衛財団。
彼らは。
遥か遠いパナマより、ただ一羽の天空の女王を探すため。
海を越え。
大陸を越え。
空を裂き。
ついに。
日本へ辿り着いていた。
マダラ「随分と騒がしい知り合いらしいな。」
ナオリ『……はい。』
ほんの僅かに。
ナオリの嘴の端が、柔らかく緩んだ。
ナオリ『大変騒がしく。』
遠い空。
二つの声が、再び山々を震わせる。
イーグルワゴン『待ってろよォォォォ!! ナオリさァァァァァァァァん!!!!』
ハーストハイム『今こそ永遠の好敵手との再会の時ィィィィィィィ!! 全親衛財団員!! 飛翔陣形を再構築せよォォォォォォォ!!!!』
親衛財団員たち『『『キィィィィィィィィィィィィィン!!!!』』』
《vib:1》バサァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!
巨大な羽音が、夜の山脈を揺らした。
林間合宿初日。
魔獣の森を踏破した生徒たちは、まだ知らない。
彼らの合宿地へ。
かつて天空の女王と共に生きた、二羽の古き猛禽。
そして。
科学と軍事と義理人情を翼へ宿した、史上最もやかましい大財団が迫っていることを。
神話たちの夏へ、新たな翼が舞い降りる。
その再会は――感動よりも先に、山全体を揺らす大騒動を引き起こそうとしていた。
ということで、第四十九話でした。如何でしたでしょうか?文字数が24000文字ちょっとという途方もない文字数となってしまいましたが、それでもご愛読して頂けるなら大変執筆した甲斐があります!さて、次話の第五十話についてですが、次話もこのまま林間合宿編の続きを執筆して行くので、楽しみにお待ちください!
また、お気に入り登録や質問、評価も是非お待ちしておりますが、特に感想を、無理にとは言いませんが、時間があれば頂けると、作者の小説制作のやる気向上などへと変わりますので、よろしければ是非よろしくお願いします!ですが、理不尽な誹謗中傷などの行為は流石にやる気やモチベーションが下がりますのでそれらは御法度です。何卒ご理解よろしくお願いします!では、第五十話にて!