千手最強の忍とうちは最強の忍は、個性と英雄が蔓延る世へと生まれ落ちる   作:天叢雲剣を捧げるスサノヲ

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お待たせ致しました、第五十一話となります。此処から、林間合宿編も佳境へと入って行きますので、よろしくお願いします!では、どうぞ!


第五十一話:肝試しと開闢行動隊

 

 

 

 

 

・長野県 山岳地帯 林間合宿施設周辺 早朝・

 

 

山の稜線から、朝日が姿を現す。

夜の冷気を残した森へ、柔らかな光が差し込み。

 

木々の葉に付着した朝露が、宝石のように煌めいていた。

合宿施設の周囲は、静寂に包まれている。

 

昨日。

 

限界を越える個性強化訓練。

 

全員で協力して作り上げたカレー。

 

ナオリと、育て子であるイーグルワゴンとの再会。

 

そして。

 

ハーストハイム率いる、数百羽ものハーストハイム親衛財団の来訪。

 

あまりにも密度の濃い一日を終えた雄英高校の生徒たちは、深い眠りへ落ちていた。

 

だが。

 

山間に広がっていた平穏は。

一羽の巨大猛禽によって、唐突に終わりを迎えた。

 

 

ハーストハイム『総員起床ォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!』

 

 

ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!

 

 

朝の山々が揺れた。

臨時野営地へ設置された巨大な金属製の鐘が、ハーストハイムの機械式アームによって打ち鳴らされる。

 

衝撃波が森を駆け抜け。

木々の枝から、眠っていた小鳥たちが一斉に飛び立った。

 

 

親衛財団員『『『キィィィィィィィィィン!!!!』』』

 

 

ハーストハイム『朝日は昇った!! 戦士たちよ、眼を開けよ!! 一日の勝敗は、起床した瞬間に決まるのだァァァァァァ!!』

 

 

林間合宿施設。

男子部屋。

 

 

上鳴「うわああああああっ!?」

 

 

布団から飛び起きた上鳴電気が、そのまま後方へ転がる。

 

 

瀬呂「何だ!? 敵襲!?」

 

 

切島「山が爆発したのか!?」

 

 

峰田「オイラ、まだ死にたくねぇ!!」

 

 

爆豪「朝っぱらから何の音だァァァァッ!!」

 

 

轟「昨日来た大きい鳥の声だと思う。」

 

 

爆豪「分かってんだよ半分野郎!!」

 

 

緑谷「推定音圧は、プレゼント・マイク先生の通常発声を大幅に上回って――」

 

 

飯田「緑谷君! 分析の前に着替えだ!」

 

 

その頃。

女子部屋。

 

 

芦戸「うわっ!? 地震!?」

 

 

葉隠「三奈ちゃん! 布団が絡まってる!」

 

 

耳郎「違う……昨日の軍帽鳥……。声だけで床が振動してる……。」

 

 

麗日「耳郎ちゃん、聞こえすぎて大丈夫?」

 

 

耳郎「塞いでも骨から響いてくる……。」

 

 

蛙吹「目覚ましとしては、少し過剰ね。ケロ。」

 

 

八百万「少しどころではございませんわ!」

 

 

施設の外。

イーグルワゴンが、野営地中央へ着地した。

 

現在は、全高1m強の超縮小化状態。

洒落たつば付きハットを嘴で整えながら、ハーストハイムを睨み上げる。

 

 

イーグルワゴン『静かにしろ、ハーストハイム!! 生徒たちは昨日一日、限界まで訓練してたんだぞォ!!』

 

 

ハーストハイム『何を言うか、イーグルワゴン!! 鍛錬に疲れた身体を、規則正しい起床によって覚醒させる!! これぞ、我が親衛財団に伝わる究極軍式起床法――』

 

 

イーグルワゴン『声がデカいっつってんだろうがァ!!』

 

 

ハーストハイム『貴様の声も同じだけ大きいわァ!!』

 

 

イーグルワゴン『俺はあんたを注意してんだ!!』

 

 

ハーストハイム『このハーストハイムも、正しい起床法を説明している!!』

 

 

相澤「二羽とも、今すぐ黙れ。」

 

 

二羽『『はい。』』

 

 

背後。

寝袋を肩へ担いだ相澤消太が、深い隈の刻まれた眼で二羽を見ていた。

その首元では、捕縛布が僅かに揺れている。

 

 

ハーストハイム『相澤!! これは我が財団における伝統的な――』

 

 

相澤「声量を1割に。」

 

 

ハーストハイム『了解した!!』

 

 

相澤「今ので1割か。」

 

 

イーグルワゴン『生まれつきこういう奴でして、相澤さん。』

 

 

相澤「あなたもです。」

 

 

イーグルワゴン『へい……。』

 

 

近くの木へ留まっていたナオリが、申し訳なさそうに翼を畳む。

 

 

ナオリ『相澤様。早朝からご迷惑をお掛けし、申し訳ございません。』

 

 

相澤「ナオリさんの責任ではありません。ですが、次からは鐘へ触れさせないでください。」

 

 

ナオリ『承知いたしました。』

 

 

ハーストハイム『何故、俺だけが鐘へ触れることを禁止されるのだ!?』

 

 

イーグルワゴン『何故か分からねぇのか!?』

 

 

相澤「聞こえなかったのか。」

 

 

ハーストハイム『聞こえている!!』

 

 

相澤「なら、黙れ。」

 

 

ハーストハイム『了解した!!』

 

 

相澤「……3割には下がったか。」

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

・林間合宿施設 中央広場・

 

 

早朝。

 

雄英高校ヒーロー科1年A組。

 

1年B組。

 

そして3年生の雄英ビッグ4。

 

全員が体操服へ着替え、中央広場へ整列していた。

 

昨日までの疲労が残り。

 

目元へ隈を作っている者。

 

欠伸を噛み殺している者。

 

立ったまま眠りかけている者までいる。

 

その正面。

 

相澤。

 

ブラドキング。

 

ミッドナイト。

 

パワーローダー。

 

ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ。

 

そして今日は、ナオリ、イーグルワゴン、ハーストハイムも並んでいた。

 

親衛財団員たちは、森の外周と臨時野営地で待機している。

 

 

相澤「今日で訓練は三日目だ。」

 

 

一同「…………。」

 

 

相澤「返事。」

 

 

一同「はい……。」

 

 

相澤「小さい。」

 

 

一同「はい!!」

 

 

ブラドキング「昨日の訓練によって、貴様らの限界値と適応速度は概ね把握した!」

 

 

虎「故に今日は、昨日よりも負荷を上げる!」

 

 

一同「えっ。」

 

 

ピクシーボブ「当たり前でしょ! 昨日と同じことをしていたら、昨日と同じ自分にしかなれないわよ!」

 

 

上鳴「昨日の時点で、もう十分別人になれそうだったんすけど……。」

 

 

耳郎「アンタは一時的に別人になってたね。ウェーイしか言わなくなってたし。」

 

 

上鳴「思い出させんなよ!」

 

 

峰田「オイラ、頭皮がまだ寒いんだけど……。」

 

 

爆豪「朝から情けねぇ声出してんじゃねぇ!!」

 

 

轟「爆豪も、掌へ湿布を貼っている。」

 

 

爆豪「これは調整だ!!」

 

 

轟「痛いのか。」

 

 

爆豪「痛くねぇ!!」

 

 

轟「なら、剥がしてもいいのか。」

 

 

爆豪「触んな半分野郎!!」

 

 

ピクシーボブが、柱間とマダラへ視線を向けた。

 

 

ピクシーボブ「ねこねこねこ!土魔獣ちゃんを大量に壊した二匹の仔猫ちゃんも、今日は昨日より難しくするからね!」

 

 

柱間「望むところぞ!」

 

 

マダラ「仔猫呼ばわりすんじゃねぇ。」

 

 

爆豪「ボサボサ長髪、朝から猫相手にムキになってんじゃねぇぞ。」

 

 

マダラ「誰がボサボサ長髪だ、爆豪。」

 

 

柱間「マダラ。髪が乱れておるのは事実ぞ。」

 

 

マダラ「ストレート長髪のテメェにだけは言われたくねぇ。」

 

 

爆豪「そのあだ名は俺のだ!!」

 

 

柱間「何故、爆豪が所有権を主張するのだ!?」

 

 

扉間「兄者、マダラ、爆豪。朝から話を脱線させるな。」

 

 

相澤は三人を一瞥した後、説明を続ける。

 

 

相澤「今日も各自の限界を伸ばす。ただし昨日以上に、複数の作業を同時に行ってもらう。」

 

 

緑谷「複数の作業……。」

 

 

相澤「実戦では、個性だけへ集中できる状況などほとんどない。市民の位置。敵の動き。味方の状態。地形。時間。全てを把握しながら個性を使用する必要がある。」

 

 

ハーストハイム『説明しよう!! これは戦場における多元的同時情報処理能力を――』

 

 

相澤「3秒で。」

 

 

ハーストハイム『複数のことを同時にやる!!』

 

 

相澤「最初からそう言え、全く。」

 

 

上鳴「相澤先生、もう扱いに慣れてる……。」

 

 

イーグルワゴン『俺なら一秒で説明できるぜ、相澤さん!!』

 

 

相澤「求めていない。」

 

 

イーグルワゴン『へい……。』

 

 

ナオリ『私は、森林上空から訓練区域全体の警戒を担当致します。』

 

 

ハーストハイム『我が親衛財団は、外周警戒、野生動物保護、緊急時救助、物資運搬を担当する!!』

 

 

イーグルワゴン『俺も、ナオリさんと一緒に周辺の匂いを探るぜ!! 昨日の夜から、少し妙な匂いが混ざってやがるからな。』

 

 

相澤の眼が、僅かに鋭くなる。

 

 

相澤「妙な匂い?」

 

 

イーグルワゴン『薄すぎて、まだ何とも言えねぇ。人間とも獣とも機械ともつかねぇ、妙に空っぽな匂いだ。』

 

 

ナオリ『私も、一度だけ極めて小さな気配の揺らぎを感知いたしました。しかし、直後に完全に途絶えております。』

 

 

ハーストハイム『我が地獄感にも、複数地点で微弱な空気圧の変動が記録されている!!』

 

 

扉間「偶然ではなさそうだな。」

 

 

マダラ「昨日から、この森には何かいやがる。」

 

 

相澤は、マンダレイたちへ向き直る。

 

 

相澤「マンダレイさん。申し訳ありませんが、予定よりも外周警戒を強化していただけますか。」

 

 

マンダレイ「分かったわ。ラグドールにも、もう一度全体をサーチさせる。」

 

 

相澤「お願いします。」

 

 

ラグドール「任せて! あちきの眼からは、簡単に逃げられないよ!」

 

 

相澤「生徒たちは予定通り訓練へ入れ。異常を感じた場合、自分で確かめようとせず、直ちに教師へ報告しろ。」

 

 

一同「はい!」

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

・特別訓練区域・

 

 

開始から、1時間。

 

柱間の周囲。

千本の苗木が、等間隔で地面から生えていた。

高さ15cm。

 

幹の太さ。

 

根の長さ。

 

葉の枚数。

 

その全てが、ほぼ完全に統一されている。

柱間は印を組んだまま、森を模した障害物の間を走っていた。

 

木遁の維持。

 

救助人形の回収。

 

地中の根による地盤補強。

 

そして。

今日は、その全てへ新たな課題が加えられていた。

 

 

相澤「問1。災害現場へ到着した時、既に警察による規制線が張られている。現場責任者へ確認せず、独断で進入した場合に発生する問題を答えろ。」

 

 

柱間「むぅ……!」

 

 

相澤「15秒。」

 

 

柱間「救助が遅れる!」

 

 

相澤「逆だ。独断進入で二次災害が起これば、救助活動全体が遅れる。」

 

 

柱間「ぬおお……!」

 

 

一瞬。

柱間の意識が問題へ向いた。

七百三十二番の苗木が、僅かに伸びる。

 

 

発目「732番、高さ15.3cmです!!」

 

 

相澤「最初から。」

 

 

柱間「また732番ぞ!?」

 

 

マダラ「テメェ、昨日からそいつだけ気にしすぎなんだよ。」

 

 

柱間「気にせぬようにすると伸びるのだ!」

 

 

マダラ「気にしねぇことを意識してる時点で、気にしてんだろうが。」

 

 

柱間「では、どうすればよい!?」

 

 

マダラ「一本へ囚われるな。全体を見ながら、一つ一つの違いだけを拾え。」

 

 

柱間「昨日とは反対のことを言っておらぬか!?」

 

 

マダラ「昨日は全部を同じに見てた。今日は一本だけ見すぎてんだよ。極端なんだ、テメェは。」

 

 

相澤「正しい指摘だ。」

 

 

柱間「相澤先生殿まで!?」

 

 

爆豪「ストレート長髪! 木と会話してねぇで、さっさと終わらせろ!!」

 

 

柱間「爆豪! これは非常に難しい修行なのだぞ!」

 

 

爆豪「筆記問題で詰まってんじゃねぇか!!」

 

 

相澤は、手元の資料へ視線を落とす。

 

 

相澤「千手。」

 

 

柱間「うむ?」

 

 

相澤「お前は、期末試験の筆記を合格している。」

 

 

柱間「うむ!」

 

 

相澤「だが、合格点を僅かに上回っただけだ。」

 

 

柱間「…………。」

 

 

相澤「実技で余裕があったからといって、勉強を怠るな。ヒーローは法律、救命、災害対応、個性使用規則を知らなければならない。」

 

 

柱間「承知したぞ……。」

 

 

相澤「返事に元気がない。」

 

 

柱間「承知したぞ!!」

 

 

相澤「声を出せばいいわけじゃない。」

 

 

少し離れた場所。

マダラの周囲では、五百個近い金属球が飛び交っていた。

昨日より倍近く増えている。

 

赤い球。

 

青い球。

 

黄色い球。

 

それぞれに、異なる対処が指定されていた。

 

赤は火遁。

 

青は極小須佐能乎。

 

黄色は破壊してはならず、救助人形から安全な位置へ運ぶ。

 

さらに。

今日は救助人形そのものが、発目製の移動装置によって不規則に走り回っている。

 

 

発目「3番人形、進行方向変更!!」

 

 

ガシャンッ!!

 

 

マダラ「チッ。」

 

 

写輪眼の三つの勾玉が回転する。

細い青色のチャクラが空間を走り。

直径3cmほどの骨の指。

 

掌。

 

肋骨。

 

盾。

 

無数の極小須佐能乎が、動く救助人形を守っていく。

赤い球へは、針のような鳳仙火。

黄色の球へは、須佐能乎の指先が触れ。

 

一つずつ、指定された箱へ収められていく。

 

カンッ!! キィンッ!! ボッ!!

 

 

相澤「右後方。」

 

 

マダラ「見えてる。」

 

 

救助人形の死角。

二つの球が、地面すれすれから接近する。

マダラは振り向かない。

極小須佐能乎の踵だけが形成され。

一つを蹴り上げ。

浮いたもう一つを、細い青色の尾のようなチャクラが絡め取る。

 

 

発目「同時制御数263! 誤射ゼロ! 人形への接触ゼロです!!」

 

 

相澤「まだ余裕があるな。次から、千手の木遁と救助人形の進路を共有する。」

 

 

マダラ「あ?」

 

 

相澤「千手が生やした木を、お前が勝手に壊すな。うちはの球が苗木へ接触しないよう、千手も木遁を制御しろ。」

 

 

柱間「共同修行とな!」

 

 

マダラ「一人でやった方が早ぇ。」

 

 

相澤「I・アイランドでも同じことを言っていたな。」

 

 

マダラ「チッ……、やりゃあいいんだろ。やりゃあ。」

 

 

柱間「マダラ! 俺たちならば容易いぞ!」

 

 

マダラ「まず732番を何とかしろ。」

 

 

柱間「ぬぅ……!」

 

 

ナオリは訓練区域上空から、二人を静かに見守っていた。

その隣。

 

イーグルワゴンが、小型記録端末を帽子の内側から取り出す。

 

 

イーグルワゴン『説明するぜェ!! 柱間の旦那の木遁は、膨大な生命力によって広範囲へ同時に命を吹き込む!! だが今やってんのは、海みてぇな力を針の先へ通す作業だ!!』

 

 

ハーストハイム『そしてマダラの須佐能乎は、通常なら巨大城塞級の防御兵装!! それを数センチ単位へ圧縮し、数百箇所で同時展開している!!』

 

 

発目「最高のデータです!!」

 

 

パワーローダー「発目! 訓練装置の安全管理も忘れるな!」

 

 

ハーストハイム『二人の制御能力は、我が親衛財団における千機同時戦闘管制機構にも匹敵――』

 

 

相澤「解説は頼んでいない。」

 

 

ハーストハイム『しかし、読者……ではなく、周囲の者へ分かりやすく説明することも重要だ!!』

 

 

相澤「今、妙な言い直しをしたな。」

 

 

イーグルワゴン『き、気のせいですぜ、相澤さん!!』

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

・B組専用訓練区域・

 

 

森全体へ配置された、百本以上の飛雷神クナイ。

昨日までの扉間ならば。

 

全ての地点を自ら巡り。

 

全ての異常へ自ら対処していた。

 

だが。

今日は飛雷神の使用回数を、二十回までに制限されている。

 

しかも。

扉間の右腕には、現在の使用回数を表示する発目製の腕輪が巻かれていた。

 

シュンッ!!

 

扉間が、森の南側へ出現する。

腕輪の表示。

 

十八。

 

 

扉間「残り2回か。」

 

 

ラグドール『北側で負傷者役3名! 西側で敵性機械が4体! 東側では倒木が進路を塞いでるよ!』

 

 

扉間「拳藤! 北側の救助指揮を取れ!」

 

 

拳藤「了解!」

 

 

扉間「骨抜は東側の地面を軟化し、倒木を沈めろ! 柳は負傷者役を浮遊させろ!」

 

 

骨抜「任せて。」

 

 

柳「了解。倒木が重くて、少しウラめしい。」

 

 

扉間「鉄哲! 西側の敵性機械を引きつけろ! 泡瀬は接合で脚部を地面へ固定!」

 

 

鉄哲「よっしゃァ!!」

 

 

泡瀬「やってやる!」

 

 

扉間「物間! 俺の影分身をコピーし、拳藤の援護へ回れ!」

 

 

物間「また僕を都合の良い複製要員として扱うのか!?」

 

 

扉間「貴様の個性を最も効率的に使用しているだけだ。」

 

 

物間「そう言われると、悪い気はしないね!」

 

 

拳藤「乗せられるの早い!」

 

 

物間は扉間の腕へ触れる。

 

 

物間「影分身の術!」

 

 

ボンッ!!

 

 

今度は二体。

三人となった物間が、同時に髪を掻き上げる。

 

 

物間たち『さあ、B組の華麗なる救助能力を見せてあげよう!』

 

 

拳藤「三人分うるさい!」

 

 

扉間「喋るために分身したのではない。走れ。」

 

 

物間たち『命令が雑だな、扉間君!?』

 

 

ミッドナイトは、訓練区域を見渡しながら笑みを浮かべる。

 

 

ミッドナイト「昨日より自然に役割を任せられているじゃない、扉間君。」

 

 

扉間「俺が飛雷神を使えない以上、合理的に配置しているだけです。」

 

 

ミッドナイト「そういう理由にしておいてあげる。」

 

 

扉間「昨日から、その言い方をやめてください。」

 

 

ブラドキング「扉間! 会話中にも状況は動いているぞ!」

 

 

扉間「承知しています、ブラドキング先生。」

 

 

北側。

拳藤が巨大化した拳で倒木を持ち上げ。

柳のポルターガイストが負傷者役を運ぶ。

 

西側。

鉄哲が敵性機械の攻撃を全身で受け止め。

泡瀬が脚部を地面へ溶接し、接合。

小森のキノコが関節内部へ繁殖し、動きを止める。

 

東側。

骨抜が地面を軟化。

塩崎の蔓が倒木を安全な方向へ引き倒した。

扉間は、その全てを一度に見渡す。

 

自ら飛ぶ必要はない。

 

仲間が。

それぞれの場所で。

 

自分の判断によって動いている。

 

 

扉間「……悪くない。」

 

 

ミッドナイト「何か言った?」

 

 

扉間「何も。」

 

 

その時。

森の奥。

 

誰にも見つからない木の陰。

小さな黒い影が、地面へ突き刺さった飛雷神クナイを見つめていた。

 

刃の材質。

術式の形。

 

チャクラの流入。

空間座標の固定方法。

 

さらに。

物間の身体から生成された影分身へ視線を移す。

 

本人と同じ人格。

 

記憶の共有。

 

消滅時の情報還元。

 

黒い影の眼が。

 

一瞬だけ。

 

赤く灯る。

 

飛雷神観測継続。

 

影分身構造、再解析。

 

対象、術者本人以外による再現を確認。

 

そして。

何事もなかったかのように。

 

完全に気配を消した。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

・第三訓練区域・

 

 

緑谷出久は、フルカウル5%を全身へ維持したまま。

虎と通形ミリオ。

 

二人から同時に攻撃を受けていた。

 

 

虎「正面だけを見るな!」

 

 

虎の腕が軟体化し。

 

左側から鞭のように迫る。

 

緑谷は屈み。

 

回避。

 

だが。

 

地面の下から。

 

透過したミリオが勢いよく飛び出した。

 

 

通形「足元が空いているぞ、緑谷君!」

 

 

緑谷「っ!」

 

 

緑谷は、蹴りを放つ。

しかしミリオの身体を通過。

 

体勢が崩れた瞬間。

 

虎の腕が緑谷の胴体へ巻きつく。

 

 

ドンッ!!

 

 

緑谷「ぐっ……!」

 

 

地面へ叩きつけられる。

だが。

 

フルカウルは解除されていない。

 

緑色の稲妻が、全身を均等に走り続けている。

 

 

通形「今のは良かったよ! 転んでも力が途切れなかった!」

 

 

緑谷「はい、通形先輩!」

 

 

通形「でも、俺のことを見失ったね! 透過した相手を眼だけで追おうとしちゃ駄目だ!」

 

 

緑谷「音と地面の振動……それから、相手が出てくる位置を先に予測する……!」

 

 

虎「分析は動きながら行え!」

 

 

緑谷「はい!」

 

 

遠く。

麗日お茶子も、複数の巨岩を無重力化しながら。

 

回転台の上で平衡感覚を鍛えている。

 

 

麗日「うう……昨日よりは……まだ……!」

 

 

マンダレイ「あと20秒!」

 

 

麗日「デク君も頑張っとる……。ウチも、まだいける!」

 

 

蛙吹梅雨は、舌で二つの救助人形を保持しながら。

濡れた壁面を登っている。

 

 

蛙吹「二人分は重いわ。けれど、昨日より舌が安定している。ケロ。」

 

 

ピクシーボブ「そのまま頂上まで!」

 

 

耳郎響香は、爆破音。

 

流水音。

 

機械音。

 

鳥の鳴き声。

 

複数の騒音の中から。

森へ隠された小さな救難信号だけを探していた。

 

 

耳郎「右奥……30m。いや、地面の下……!」

 

 

八百万百は、耳郎が示した情報を基に。

 

救助用ジャッキ。

 

小型掘削機。

 

防音用の保護部品を次々と創造する。

 

 

八百万「耳郎さん! こちらをお使いください!」

 

 

耳郎「ありがとう、ヤオモモ!」

 

 

芦戸三奈は、岩を溶かす酸の濃度を微調整しながら。

 

八百万の掘削機が通るための穴を開けていく。

 

 

芦戸「ヤオモモ! 穴の幅、これくらい!?」

 

 

八百万「あと5cm広くお願いいたします!」

 

 

芦戸「了解!」

 

 

発目「酸の濃度、昨日より1.8%安定しています!!」

 

 

芦戸「1.8%って、成長してる感じするのか微妙!」

 

 

耳郎「昨日より良いなら、良いんじゃない?」

 

 

常闇踏陰は。

A組に所属する生徒として、障子目蔵や口田甲司と共に別区域で訓練を行っていた。

 

ただし、途中から黒色支配との合同訓練となり。

 

暗所訓練洞窟では、扉間が設計した不規則照明装置が引き続き使用されている。

 

 

常闇「黒影。左前方。力は半分に抑えろ。」

 

 

黒影「アイヨ!」

 

 

暗闇の中。

黒影の腕が伸びる。

 

だが。

 

標的の直前で照明が点灯。

黒影の身体が縮み始める。

 

 

常闇「退くな。小さくなった力を、そのまま一点へ集めろ。」

 

 

黒影「任せろ、フミカゲ!」

 

 

ドゴンッ!!

 

 

小さくなった拳が。

標的の中心だけを撃ち抜く。

 

 

黒色「見事だな、常闇。闇が減じても、闇の魂は消えないか。」

 

 

常闇「当然だ。夜が明けても、闇そのものが消滅するわけではない。」

 

 

障子「二人とも、話が詩的過ぎる。」

 

 

口田「……鳥たちが、少し怖がってる。」

 

 

常闇「すまない。」

 

 

黒影「ゴメンナ!」

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

・3年生特別訓練区域・

 

 

通形ミリオ。

 

天喰環。

 

波動ねじれ。

 

うずまきミト。

 

四人もまた、後輩を指導する合間に、自らの力を磨いていた。

 

ミリオは。

透過状態の時間を細かく切り替えながら。

落下する複数の救助人形だけを受け止める。

身体全体を透過するのではない。

 

右腕。

 

左脚。

 

胴体。

 

必要な箇所だけを、必要な一瞬だけ透過させる。

 

 

通形「POWER!!」

 

 

最後の一体を抱え。

地面へ着地する。

 

 

天喰「ミリオ……また速くなってる……。」

 

 

通形「環も昨日より、複数の特徴を分けて使えているぞ!」

 

 

天喰の右腕には、蛸の触手。

 

左腕には甲殻。

 

背には鳥の翼。

 

脚には馬の筋力。

 

それぞれの能力を、同時に最大出力へするのではなく。

 

用途に合わせて強弱を変えている。

 

 

ミト「環。左側の甲殻を、もう少し薄くしてください。防御へ偏りすぎております。」

 

 

天喰「うん……うずまきさん。」

 

 

ミト「触手は捕縛に必要です。甲殻へ力を回しすぎると、先端の制御が鈍くなります。」

 

 

天喰「役割を分ける……昨日より、少し分かってきた。」

 

 

波動ねじれは、空中で身体を回転させながら。

 

複数の小さな輪へ極細の波動を通していた。

 

 

波動「1個、2個、3個……通形君! 今、何個通った?」

 

 

通形「7個だ、波動さん!」

 

 

波動「昨日より2個増えた! 不思議!」

 

 

天喰「波動さん……喜ぶと出力が上がる……。」

 

 

波動「あっ、本当だ! 輪が1個飛んじゃった!」

 

 

ミト「ねじれ。細さを維持してください。」

 

 

波動「はーい!ミトちゃん!」

 

 

ミトの周囲。

 

百枚近い封印札が、空中へ浮かんでいる。

 

黄金の金剛封鎖。

 

橙色の九喇嘛のチャクラ。

 

そして八卦封印の術式。

 

3つを同時に維持しながら。

 

鎖の一本一本を、札の間へ通していく。

 

ミニサイズの九喇嘛は、ミトの肩で腕を組んでいた。

 

 

九喇嘛『左後ろ。二本目の鎖が札へ近すぎる。』

 

 

ミト「承知しております。」

 

 

九喇嘛『承知しているなら直せ。』

 

 

ミト「今、直しているところです。」

 

 

九喇嘛『返事だけは一丁前だな。』

 

 

波動「九喇嘛ちゃん、今日も先生みたい!」

 

 

九喇嘛『だから"ちゃん"を付けるなと言ってるだろうが!!』

 

 

波動「怒ると毛が立つ! 触ったらもっと立つ? 不思議!」

 

 

九喇嘛『触るな!!』

 

 

通形「うずまきさんと九喇嘛は、本当に息が合ってるな!」

 

 

九喇嘛『合ってねぇ。』

 

 

ミト「合っております。」

 

 

九喇嘛『おい、ミト。』

 

 

天喰「意見が合ってないところまで、息が合ってる……。」

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

・林間合宿施設 中央広場 午後・

 

 

昼を過ぎても。

 

訓練は終わらない。

 

生徒たちは。

 

昨日より強い負荷を掛けられ。

 

昨日より多くの課題を与えられ。

 

昨日より長い時間。

 

個性を使い続けた。

 

腕が上がらなくなれば、脚を動かす。

 

脚が止まれば、座ったまま判断訓練。

 

個性の反動が現れれば、筆記問題。

 

筆記中に眠れば、水を掛けられる。

 

柱間に至っては。

 

木遁を維持しながら。

 

救助人形を運び。

 

相澤から出される現代法規の問題へ答え。

 

さらにマダラの極小須佐能乎と連携し続けていた。

 

そして。

 

太陽が西へ傾き始めた頃。

 

ようやく。

 

訓練終了を告げる笛が鳴った。

 

 

ピィィィィィィィッ!!

 

 

一同「終わった……。」

 

 

緑谷は、膝へ手を置いて息を切らし。

 

飯田のエンジンからは、白い湯気。

 

麗日は地面へ座り込み。

 

上鳴は、またも瞳から知性を失っている。

 

 

上鳴「ウェーイ……三日目……ウェーイ……。」

 

 

耳郎「昨日より悪化してる。」

 

 

瀬呂「腕が上がんねぇ……。」

 

 

切島「硬化が……解除できねぇ……。」

 

 

砂藤「糖分が足りない……。」

 

 

峰田「オイラの頭皮……もう何も感じねぇ……。」

 

 

爆豪「揃いも揃って、腑抜けた面してんじゃねぇ!!」

 

 

轟「爆豪も、両手を氷水へ入れている。」

 

 

爆豪「冷却してんだよ!!」

 

 

轟「痛いのか。」

 

 

爆豪「二回目だぞ、その会話!!」

 

 

ピクシーボブが。

疲労困憊となった生徒たちの前へ進み出る。

 

両手を背中へ回し。

満面の笑みを浮かべていた。

 

 

ピクシーボブ「皆、お疲れ様!」

 

 

一同「…………。」

 

 

ピクシーボブ「反応が薄い!」

 

 

マンダレイ「仕方ないわ。昨日より負荷を上げたもの。」

 

 

ピクシーボブ「でも、そんな皆へ、良いお知らせがあります!」

 

 

上鳴の瞳に。

僅かに光が戻る。

 

 

上鳴「良い……知らせ……?」

 

 

芦戸「まさか、明日は訓練休み!?」

 

 

相澤「違う。」

 

 

芦戸「即答された!」

 

 

ピクシーボブは、両腕を大きく広げる。

 

 

ピクシーボブ《large》「今日の夕食後、肝試しを開催しまーす!!」《/large》

 

 

一同「…………。」

 

 

次の瞬間。

 

 

一同「うおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」

 

 

疲労が吹き飛んだかのように。

歓声が広場へ響き渡った。

 

 

芦戸「肝試し! やったァ!!」

 

 

葉隠「夏の合宿って感じ!」

 

 

峰田「女子と暗い森を二人で歩く可能性があるだとォ!?」

 

 

耳郎「その期待だけで元気になるの、引くんだけど。」

 

 

麗日「肝試しかぁ。ちょっと怖そうやな。」

 

 

蛙吹「お茶子ちゃんは、怖いものが苦手なの? ケロ。」

 

 

麗日「急に出てこられると、びっくりして浮かせてしまうかも……。」

 

 

八百万「驚かせる側の方々が、空へ飛ばされないよう注意が必要ですわね。」

 

 

通形「楽しそうだな、環!」

 

 

天喰「暗い森を歩いて、誰かに驚かされる行事の何処が楽しいんだ……。」

 

 

波動「天喰君、怖いの? 幽霊? お化け? 急に出る人? 不思議!」

 

 

天喰「全部怖い……。」

 

 

ミト「ねじれ。あまり環を追い詰めないでください。」

 

 

波動「追い詰めてないよ、ミトちゃん! 聞いてるだけ!」

 

 

天喰「聞かれるだけで追い詰められる……。」

 

 

柱間「おお!肝試しとな! マダラ、共に行くか!」

 

 

マダラ「何でテメェと行かなきゃならねぇ。」

 

 

柱間「前世では、夜の森で何度も勝負をしたではないか!」

 

 

マダラ「ありゃあ肝試しじゃねぇ。殺し合いだ。」

 

 

柱間「似たようなものぞ!」

 

 

扉間「全く違う。」

 

 

爆豪「ストレート長髪とボサボサ長髪を組ませたら、脅かす前に森が消し飛ぶだろうが。」

 

 

マダラ「誰が森を消し飛ばすか。」

 

 

柱間「俺は森を増やす側ぞ!」

 

 

相澤が、手元の名簿を広げた。

 

 

相澤「ただし。」

 

 

歓声が止まる。

 

 

相澤「期末試験で補習対象となった者は、肝試しへ参加できない。」

 

 

数人の顔から。

 

一瞬で血の気が引いた。

 

 

相澤「1年A組。芦戸。上鳴。切島。砂藤。瀬呂。」

 

 

芦戸「えっ。」

 

 

上鳴「待って。」

 

 

切島「嘘だろ!?」

 

 

砂藤「肝試しの時間まで補習なのか……。」

 

 

瀬呂「夜に勉強!? 合宿なのに!?」

 

 

相澤「合宿だからこそだ。」

 

 

上鳴は。

ゆっくりとマダラへ顔を向けた。

 

 

上鳴「マダラの旦那ァ……。」

 

 

マダラ「上鳴、諦めろ。」

 

 

上鳴「まだ何も頼んでねぇ!!」

 

 

マダラ「顔を見りゃ分かる。」

 

 

切島「柱間! 友情の力で、どうにかならねぇか!?」

 

 

柱間「勉学は、自らの努力によって乗り越えるものぞ!」

 

 

切島「正論が痛ぇ!!」

 

 

相澤「千手。」

 

 

柱間「む?」

 

 

相澤「もう一度言うが、お前は補習対象ではない。」

 

 

柱間「うむ!」

 

 

相澤「だが、筆記試験の点数は合格点ぎりぎりだった。」

 

 

柱間「…………。」

 

 

相澤「人のことを励ましている場合ではない。今後、一切慢心せず勉強を続けろ。」

 

 

柱間「承知したぞ……。」

 

 

マダラ「プッ!ギャハハハハ! 偉そうに言った直後に注意されてやがる!」

 

 

柱間「マダラ! 笑うでない!」

 

 

相澤「うちは。お前も現代法規の記述問題で、余計な持論を書いて減点されている。」

 

 

マダラ「……チッ、ケチな奴め。」

 

 

柱間「何と!マダラも人のことを笑えぬではないか!」

 

 

マダラ「テメェより点は上だ。」

 

 

扉間「五十歩百歩だ。」

 

 

マダラ「扉間、テメェは黙ってろ。」

 

 

ブラドキングも名簿を開く。

 

 

ブラドキング「1年B組で補習へ参加する者は、物間寧人!」

 

 

物間「何故僕だけなんだァ!?」

 

 

拳藤「試験で落ちたからだろ。」

 

 

物間「これは陰謀だ! A組が僕の答案へ何らかの細工を――」

 

 

拳藤「試験会場が違う!」

 

 

ゴスッ!!

 

 

物間「ぐぅっ!?」

 

 

ミッドナイト「補習組は夕食後、相澤先生と私がたっぷり教えてあげるわ。」

 

 

上鳴「ミッドナイト先生と夜の特別授業……?」

 

 

耳郎「一瞬で元気になるな。」

 

 

相澤「上鳴だけ、俺が担当する。」

 

 

上鳴「何で!?」

 

 

ミッドナイト「残念ね。」

 

 

上鳴「そんなァ!!」

 

 

相澤「騒ぐ体力があるなら、訓練を10分延長できるな。」

 

 

補習組「静かにします!!」

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

・林間合宿施設 食堂 夜・

 

 

夕食は。

プッシーキャッツが特別に用意した、栄養価の高い肉料理と野菜スープだった。

 

明かりの灯る食堂。

 

食器の音。

 

生徒たちの笑い声。

 

外から聞こえる、親衛財団員たちの羽音。

 

三日間の訓練によって疲労した身体へ。

 

温かな食事が染み渡っていく。

 

 

柱間「美味い! おかわりぞ!」

 

 

マダラ「まだ三杯目だろ。」

 

 

柱間「五杯目ぞ!」

 

 

マダラ「増えてんじゃねぇか。」

 

 

ミト「柱間様。肝試しの最中に、走れなくなるほど召し上がらないでください。」

 

 

柱間「腹が減っては戦はできぬぞ!」

 

 

扉間「肝試しは戦ではない。」

 

 

九喇嘛『こいつらにとっては、何でも戦になるんだろ。』

 

 

波動「九喇嘛ちゃんも肝試しに参加する? 暗い森だと目が光る? 尾も光る? 狐火を出す? 不思議!」

 

 

九喇嘛『誰が参加するか。ガキの遊びに付き合えるか。』

 

 

ミト「では、私の中でお休みになりますか?」

 

 

九喇嘛『……外で見てる。』

 

 

波動「参加するんだ!」

 

 

九喇嘛『見てるだけだ!!』

 

 

通形「波動さん。九喇嘛を驚かせる役は、やめた方がいいぞ!」

 

 

波動「どうして、通形君?」

 

 

通形「驚いた拍子に大きくなったら、森が狭くなるからな!」

 

 

天喰「それ以前に……俺たちが怖い目に遭うと思う……。」

 

 

少し離れた席。

マンダレイが、食堂内を見回す。

 

 

マンダレイ「洸汰は?」

 

 

虎「先ほど外へ出ていった。」

 

 

ピクシーボブ「また秘密基地へ行ったんじゃない?」

 

 

緑谷は。

箸を止め。

窓の外へ目を向けた。

 

森。

 

暗闇。

 

前日にカレーを置いてきた洞窟。

 

洸汰は結局。

緑谷が合宿所へ戻った後。

 

カレーを食べたらしい。

盆と皿は、綺麗に空になっていた。

 

しかし。

今朝会った時も。

 

洸汰は緑谷へ何も言わなかった。

 

ただ。

以前のように睨みつけることなく。

 

一瞬だけ視線を合わせ。

 

すぐに顔を逸らしていた。

 

 

麗日「デク君。洸汰君のこと、気になるん?」

 

 

緑谷「うん。昨日より少しだけ、話を聞いてくれた気がするんだけど……。」

 

 

麗日「焦らん方がええよ。デク君が置いていったカレー、ちゃんと食べてくれたんやろ?」

 

 

緑谷「うん。」

 

 

麗日「なら、少しは届いとると思う。」

 

 

緑谷「そうかな。」

 

 

麗日「そうだと思う。」

 

 

蛙吹「お茶子ちゃんの言う通りよ。急に近づけば、洸汰ちゃんも逃げてしまうわ。ケロ。」

 

 

緑谷「……うん。ありがとう、麗日さん。蛙吹さん。」

 

 

麗日「どういたしまして、デク君。」

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

・林間合宿施設 中央広場・

 

 

夕食後。

中央広場には。

 

複数の提灯。

 

簡素な受付台。

 

二人一組の組み合わせが書かれた札。

 

そして。

 

肝試し用に用意された、白い布や仮面。

 

偽物の骨。

 

音響装置。

 

無数の小道具が並べられていた。

 

1年B組は、脅かす側。

 

1年A組は、二人一組となって森を進み。

 

指定された札を持ち帰る。

 

補習組は。

少し離れた建物の前で。

 

相澤とミッドナイトに捕獲されていた。

 

 

芦戸「皆ァ! アタシたちの分まで楽しんでねェ!!」

 

 

上鳴「マダラの旦那! 後で怖かった話を全部聞かせてくれェ!!」

 

 

マダラ「誰が話すか。」

 

 

切島「爆豪! 絶対に叫べよ!」

 

 

爆豪「殺すぞ!!」

 

 

砂藤「肝試しより、補習の方が怖い……。」

 

 

瀬呂「問題用紙の枚数が多すぎるだろ……。」

 

 

物間「A組が楽しんでいる間、僕一人だけがB組の名誉を背負い、敵地で戦うことになるとは……!」

 

 

拳藤「敵地じゃないからな。」

 

 

相澤「全員、席へ着け。」

 

 

補習組「はい……。」

 

 

ハーストハイムは。

肝試し用の小道具を眺めながら。

不満そうに翼を組んでいた。

 

 

ハーストハイム『何故、このハーストハイムが脅かす側へ参加してはならんのだ!?』

 

 

相澤「規模が違いすぎるからです。」

 

 

ハーストハイム『我が究極光学迷彩、立体音響、特殊煙幕、全方位立体映像投射装置を使えば、人生で二度と忘れられぬ恐怖を――』

 

 

相澤「生徒へ一生残る傷を作るつもりですか。」

 

 

ハーストハイム『恐怖を乗り越えることで精神は強くなる!!』

 

 

相澤「却下です。」

 

 

イーグルワゴン『なら、俺がやるぜ!! 帽子を深く被って、木の陰から静かに――』

 

 

ナオリ『イーグルワゴン。あなたは、驚かされた際の声が大きすぎます。』

 

 

イーグルワゴン『俺が驚かされる側なのか、ナオリさん!?』

 

 

ナオリ『生徒たちの方が、あなたより早く気配を消す可能性もございます。』

 

 

イーグルワゴン『そんなァ!?』

 

 

相澤「三羽には、施設外周の警戒をお願いします。先ほどの異常な匂いと気配もあります。」

 

 

ナオリ『承知いたしました。』

 

 

ハーストハイム『任せろ!! 我が親衛財団の感知網から逃れられる者など――』

 

 

相澤「そういう油断が一番危険です。」

 

 

ハーストハイム『む。』

 

 

イーグルワゴン『相澤さんの言う通りだ。妙な匂いの正体が分からねぇ以上、気を抜かねぇ方がいい。』

 

 

ナオリ『私とイーグルワゴンは北側。ハーストハイムは南西。親衛財団を四方へ配置いたします。』

 

 

相澤「お願いします。」

 

 

ミトは、九喇嘛を肩へ乗せたまま。

 

ミリオ、環、ねじれと共に。

 

肝試しの安全管理補助へ回ることになっていた。

 

 

通形「俺たちは、森の途中へ設置された緊急地点で待機だな!」

 

 

天喰「暗い森で一人ずつ待機するのか……。」

 

 

波動「天喰君、怖くなったら呼んでね! 何で怖いか聞きに行くから!」

 

 

天喰「来られる方が怖いかもしれない……。」

 

 

ミト「環。私たちはそれほど離れておりません。何かあれば、すぐに合流できます。」

 

 

天喰「うん……うずまきさん。」

 

 

通形「心配するな、環! 俺も近くにいる!」

 

 

天喰「ミリオ……ありがとう。」

 

 

波動「私もいるよ、天喰君!」

 

 

天喰「波動さんは……質問を少し減らしてくれたら……。」

 

 

波動「どれくらい? 半分? 3分の1? 1個ずつ? 不思議!」

 

 

天喰「もう始まってる……。」

 

 

マンダレイが。

1年A組の生徒たちへ説明する。

 

 

マンダレイ「森の中に、折り返し地点を用意してあるわ。二人一組で進んで、札を一枚持って帰ってくること。」

 

 

ピクシーボブ「B組の皆は先に森へ入って、自由に脅かしていいわよ!」

 

 

ブラドキング「ただし、個性によって相手を負傷させるな! 訓練ではあるが、これは余暇活動だ!」

 

 

物間「僕がいないB組の脅かしに、芸術性が足りるか心配だよ……。」

 

 

拳藤「早く補習へ戻れ。」

 

 

組み合わせが発表される。

 

 

緑谷出久と障子目蔵。

 

爆豪勝己と轟焦凍。

 

麗日お茶子と蛙吹梅雨。

 

八百万百と耳郎響香。

 

常闇踏陰と口田甲司。

 

飯田天哉と尾白猿夫。

 

青山優雅と葉隠透。

 

 

そして。

 

ピクシーボブ「千手柱間君と、峰田実君!」

 

 

峰田「よっしゃァ!! 柱間が一緒なら、何が出ても全部倒せる!」

 

 

柱間「肝試しなのだから、倒してはならぬぞ!」

 

 

峰田「じゃあ、オイラが怖がったら守ってくれ!」

 

 

柱間「無論だ!」

 

 

マダラ「何故、俺は一人なんだ。」

 

 

相澤「お前と組ませると、脅かす側が近づく前に全員見つける。」

 

 

マダラ「一人でも同じだろ。」

 

 

相澤「万華鏡写輪眼は禁止。通常の写輪眼も、必要がなければ使うな。」

 

 

マダラ「肝試しで眼まで制限されんのかよ。」

 

 

轟「うちはなら、眼を使わなくても気配で分かるんじゃないか。」

 

 

マダラ「分かる。」

 

 

爆豪「なら一人で歩いてろ、ボサボサ長髪。」

 

 

マダラ「テメェらの後ろから行って、先に全部見つけてやろうか。」

 

 

爆豪「やってみろ。燃やすぞ。」

 

 

轟「火は俺が使える。」

 

 

爆豪「テメェは入ってくんな半分野郎!!」

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

・林間合宿地 北側 外周・

 

 

月明かり。

 

夜露。

 

森を流れる冷たい風。

 

ナオリとイーグルワゴンは。

 

弱縮小化状態で、木々の上空を飛行していた。

 

遥か上空。

 

親衛財団員の一部が、等間隔で円を描く。

 

地上付近。

 

別の隊が、野生動物の動きや異常な足跡を調査している。

 

 

イーグルワゴン『ナオリさん。やっぱり、妙だ。』

 

 

ナオリ『はい。』

 

 

イーグルワゴン『さっきから、同じ匂いが別々の場所へ現れては消えてやがる。』

 

 

ナオリ『通常の生物が、同時に複数箇所へ存在することはできません。』

 

 

イーグルワゴン『分身か。それとも、匂いそのものを作ってやがるのか。』

 

 

ナオリの青白い瞳が。

暗い森を見下ろす。

 

 

ナオリ『先ほど、南東から微弱なマダラ様の瞳力に類似した反応を感知致しました。』

 

 

イーグルワゴン『マダラの旦那は、まだ合宿所だ。』

 

 

ナオリ『はい。偽物です。』

 

 

その直後。

森の東。

 

幼い猛禽の悲鳴が響いた。

 

キィィィィッ!!

 

イーグルワゴンの顔色が変わる。

 

 

イーグルワゴン『雛の声だ!!』

 

 

ナオリ『お待ちください。』

 

キィィィィッ!!

 

今度は西。

 

さらに北。

 

全く同じ音程。

 

全く同じ長さ。

 

全く同じ悲鳴。

 

 

イーグルワゴン『……録音か。』

 

 

ナオリ『私たちを、分散させようとしております。』

 

 

上空。

 

親衛財団の伝令役が急降下する。

 

 

親衛財団員『ナオリ様!! 南西地点にて、負傷した大型猛禽と思われる熱源反応を多数確認!!』

 

 

イーグルワゴン『本物か!?』

 

 

親衛財団員『判別不能!! ただし、救難信号も同時に発せられております!!』

 

 

ナオリ『偽装の可能性は高いでしょう。しかし、本当に負傷者が存在する可能性も捨てられません。』

 

 

イーグルワゴン『放ってはおけねぇ。』

 

 

ナオリ『親衛財団を半数に分けてください。残る半数は、合宿施設周辺から離さないように。』

 

 

イーグルワゴン『了解だ、ナオリさん!!』

 

 

ナオリは。

 

合宿施設の方向へ視線を向けた。

 

今まで感じていた。

 

薄く。

 

空虚な気配。

 

それが。

 

一瞬だけ。

 

笑ったように揺れた。

 

 

ナオリ『……既に、侵入されている。』

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

・林間合宿地 南西 外周・

 

 

ハーストハイムは。

 

強縮小化状態の全高5m。

 

翼幅10mとなって。

 

空中へ停止していた。

 

その周囲。

 

親衛財団の戦闘司令総合隊。

 

戦闘支援財団隊。

 

数十羽が、地面と上空を同時に警戒している。

 

 

ハーストハイム『複数地点に、未知の生体反応!! さらに、空気中へ微量の異物が混入し始めている!!』

 

 

親衛財団員『総帥!! 北東方面より、微量の有毒物質を検出!!』

 

 

ハーストハイム『成分を解析せよ!!』

 

 

親衛財団員『既知の自然毒ではありません!! 人工生成された毒性ガスと思われます!!』

 

 

ハーストハイム『全軍、防毒装備を展開!! 森林内の小動物を安全圏へ移送せよ!!』

 

 

ガシャガシャガシャガシャッ!!

 

 

親衛財団員たちの嘴。

 

眼。

 

気道。

 

それぞれを覆う透明な防護膜が展開される。

 

 

ハーストハイム『説明しよう!! 我が親衛財団の防毒機構は、特殊濾過膜と生体浄化器官の二重構造によって――』

 

 

親衛財団員『総帥!! 説明している場合ではありません!!』

 

 

ハーストハイム『む!! その通りだ!!』

 

 

ハーストハイムの瞳が。

 

山の奥へ向く。

 

薄紫色。

 

月明かりを受けた。

 

不自然な霧のようなものが。

 

木々の間から。

 

ゆっくりと広がり始めていた。

 

 

ハーストハイム『これは肝試しの煙ではない!!』

 

 

翼を大きく広げる。

 

 

ハーストハイム『敵襲警報ォォォォォォォォォォォォォォ!!!!』

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

・肝試し会場 魔獣の森・

 

 

森の中。

 

1年A組の先頭。

 

緑谷と障子が、提灯の明かりを頼りに歩いていた。

 

木々の間。

 

不自然に揺れる白い布。

 

地面から響く音。

 

B組の生徒たちが。

 

各々の個性を使い。

 

物陰から二人を脅かそうとしている。

 

 

緑谷「障子君。右の木の中に、黒色君がいる可能性が高い。」

 

 

障子「気づいていても言わない方がいいんじゃないか。」

 

 

緑谷「あっ。そ、そうだね。」

 

 

黒色「既に気づかれている……。」

 

 

木の影から。

 

黒色が静かに沈んでいく。

 

障子は、複製した耳を広げた。

 

 

障子「前方に三人。左に一人。後方にも動く音がある。」

 

 

緑谷「障子君の索敵能力だと、肝試しにならないね。」

 

 

障子「緑谷も分析している。」

 

 

緑谷「僕たち、組み合わせを間違えられたのかな……。」

 

 

後方。

 

爆豪と轟も。

 

二人並んで森を歩いていた。

 

 

爆豪「くだらねぇ。さっさと札取って帰んぞ。」

 

 

轟「爆豪。左の木から、人の気配がする。」

 

 

爆豪「分かってんだよ。」

 

 

鎌切が。

 

両腕から刃を出し。

 

木の陰から飛び出す。

 

 

鎌切「うらァ!!」

 

 

爆豪「邪魔だァ!!」

 

 

爆破。

 

 

ドンッ!!

 

 

鎌切「うおっ!?」

 

 

轟が、即座に氷の壁を作り。

 

爆風から鎌切を守る。

 

 

轟「肝試しで攻撃するな。」

 

 

爆豪「勝手に出てきた方が悪ぃ!!」

 

 

鎌切「轟がいなかったら、普通に吹き飛ばされてたぞ!?」

 

 

爆豪「脅かす覚悟が足りねぇ!!」

 

 

さらに後方。

 

柱間と峰田。

 

 

峰田「柱間……何かいる……。絶対、何かいる……。」

 

 

柱間「B組の誰かであろう。」

 

 

峰田「分かってても怖いんだよ!」

 

 

柱間「ならば、歌でも歌うか?」

 

 

峰田「余計に何か寄ってきそうだからやめろ!」

 

 

木の上。

 

小森希乃子が。

 

巨大な発光キノコを一斉に生やす。

 

ボボボボボボボボンッ!!

 

 

峰田「ぎゃああああああああっ!!」

 

 

柱間「おお! 見事な茸ぞ!」

 

 

小森「驚かないノコ!?」

 

 

柱間「以前、これに似た茸を食べたことがあるぞ!」

 

 

峰田「食うな!! 昨日聞いた笑い続ける茸だったらどうすんだ!!」

 

 

森の入口付近。

 

マダラは。

 

腕を組み。

 

一人で歩いていた。

 

 

マダラ「……くだらねぇ。」

 

 

周囲。

 

B組の生徒たちが。

 

気配を消して待ち構えている。

 

だが。

 

マダラは写輪眼を使っていない。

 

それでも。

 

視線。

 

呼吸。

 

衣服が擦れる音。

 

足元の土の沈み。

 

全てを既に把握していた。

 

 

マダラ「右に二人。左に一人。木の上に一人。」

 

 

取蔭「全部バレてる!」

 

 

回原「個性なしでも駄目なのか!?」

 

 

マダラ「殺気を隠せ。脅かす側が先に緊張してどうすんだ。」

 

 

取蔭「肝試しで殺気まで求めるのは違うでしょ!」

 

 

その時。

マダラが足を止めた。

 

風。

 

匂い。

 

森のざわめき。

 

何かが。

 

変わった。

 

 

マダラ「……これは。」

 

 

遠く。

 

空が。

 

青白く光る。

 

ボオオオオオオオオオオオオオッ!!!!

 

巨大な炎が。

 

夜の森を焼き上げた。

 

 

マダラ「敵か。」

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

・肝試し会場 中央付近・

 

 

マンダレイ。

 

ピクシーボブ。

 

虎。

 

ラグドール。

 

四人は。

 

肝試しの進行を確認するため。

 

森の中央付近に集まっていた。

 

 

ピクシーボブ「そろそろ二組目が折り返し地点へ着く頃ね!」

 

 

ラグドール「皆、位置は問題な――」

 

 

突然。

ラグドールの表情が変わる。

 

 

ラグドール「あれ?」

 

 

マンダレイ「どうしたの?」

 

 

 

ラグドール「知らない反応が……増えてる。」

 

 

虎「何?」

 

 

ラグドール「一人、二人じゃない。森の中に、急に複数の――」

 

 

その瞬間。

 

背後。

木々を押し退け。

巨大な人影が飛び出した。

 

マグネ。

 

 

マグネ「見つけたわァ!!」

 

 

巨大な磁石が。

 

 

ピクシーボブの側頭部へ振り下ろされる。

 

 

虎「ピクシーボブ!!」

 

 

ゴシャァァァァァッ!!!!

 

 

ピクシーボブの身体が。

 

激しく吹き飛んだ。

 

地面。

 

岩。

 

木の幹。

 

何度も衝突し。

 

そのまま動かなくなる。

 

 

マンダレイ「ピクシーボブ!!」

 

 

「貴様ァァァァァァッ!!」

 

 

虎が。

 

マグネへ襲いかかる。

 

ドゴォォォン!!

 

その上空。

 

青い炎が。

 

木々へ次々と燃え移る。

 

荼毘。

 

焼け爛れた皮膚。

 

冷たい眼。

 

彼は。

 

炎に照らされながら。

 

静かに笑っていた。

 

 

荼毘「始めるぞ。」

 

 

森の別方向。

 

薄紫色の毒ガスが。

 

地面を這う。

 

マスタードは。

 

防毒マスクの奥で。

 

小さく笑う。

 

 

マスタード「雄英のエリートって言っても、吸えば同じだろ。」

 

 

さらに。

 

木々の影。

 

刃を舐める少女。

 

トガヒミコ。

 

 

トガヒミコ「出久君は、何処にいるんでしょう。」

 

 

月光の下。

 

巨大な歯が。

 

不気味に輝く。

 

ムーンフィッシュ。

 

 

ムーンフィッシュ「肉……若い肉……。」

 

 

スピナー。

 

Mr.コンプレス。

 

トゥワイス。

 

マスキュラー。

 

敵連合開闢行動隊が。

 

同時に。

 

森の各所へ侵入していた。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

・林間合宿施設 補習教室・

 

 

相澤は。

 

補習組の答案へ目を通していた。

 

上鳴。

 

芦戸。

 

切島。

 

砂藤。

 

瀬呂。

 

物間。

 

全員が。

 

机へ向かっている。

 

 

上鳴「せめて窓から肝試しの様子だけでも――」

 

 

相澤「問題へ集中しろ。」

 

 

上鳴「はい……。」

 

 

ミッドナイト「問3まで解けた人は、私が確認してあげるわ。」

 

 

物間「A組より早く解けば、僕の優位性が――」

 

 

芦戸「同じ補習受けてる時点で、優位性なくない?」

 

 

物間「何だと!?」

 

 

切島「静かにしろよ、先生に怒られるぞ!」

 

 

相澤が。

 

突然。

 

窓の外へ顔を向けた。

 

青い光。

 

森の上空へ昇る炎。

 

続いて。

 

遠くから響く。

 

ハーストハイムの警報。

 

 

ハーストハイム『敵襲警報ォォォォォォォォォォォォォォ!!!!』

 

 

相澤の瞳が。

 

一瞬で戦闘者のものへ変わる。

 

 

相澤「全員、机の下へ。」

 

 

補習組「え?」

 

 

相澤「今すぐだ!」

 

 

生徒たちが。

 

机の下へ潜る。

 

相澤は窓を開け。

 

外へ飛び出す。

 

捕縛布を広げ。

 

林間施設の屋根へ着地。

 

そこへ。

 

マンダレイのテレパスが届いた。

 

 

マンダレイ『イレイザー! 敵連合と思われる集団が、森へ侵入! ピクシーボブが頭部へ重傷! 毒ガスと森林火災も発生している!』

 

 

相澤「マンダレイさん。ピクシーボブさんを安全な場所へ。虎さんとラグドールさんにも、生徒の保護を優先するよう伝えてください。」

 

 

マンダレイ『分かった!』

 

 

相澤「それから――」

 

 

一瞬。

 

相澤は。

 

森の中に散らばった生徒たちの位置を思い浮かべる。

 

敵。

 

夜。

 

炎。

 

毒ガス。

 

既に。

 

教師だけでは全員を守り切れない。

 

 

相澤「生徒たちへ、戦闘許可を伝えてください。」

 

 

マンダレイ『……!』

 

 

相澤「敵へ遭遇した場合、個性を使用して身を守る。単独で敵を追わず、施設か教師のいる地点へ撤退。そう伝えてください。」

 

 

マンダレイ『了解!』

 

 

相澤は。

 

補習教室へ振り返る。

 

 

相澤「ミッドナイト先生。生徒たちをお願いします。」

 

 

ミッドナイト「任せて。相澤君も無茶をしないで。」

 

 

相澤「善処します。」

 

 

上鳴「先生! 俺たちも――」

 

 

相澤「出るな。」

 

 

上鳴「でも!」

 

 

相澤「今のお前たちは、訓練直後で消耗している。外には毒ガスもある。自分の状態を無視して飛び出すことを、勇気とは呼ばない。」

 

 

切島「……っ。」

 

 

相澤「此処で待機しろ。襲撃者が来た場合、ミッドナイト先生の指示に従え。」

 

 

補習組「……はい!」

 

 

相澤は。

 

捕縛布を揺らし。

 

暗い森へ向かって走り出した。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

・魔獣の森 全域・

 

 

マンダレイの声が。

 

森全体。

 

生徒たち。

 

教師たち。

 

3年生。

 

ナオリたち。

 

全員の脳内へ響き渡る。

 

 

マンダレイ『全員、聞いて!! 敵連合と思われる集団が、森へ侵入したわ!!』

 

 

緑谷「敵連合!?」

 

 

障子「肝試しではないのか。」

 

 

マンダレイ『これは訓練じゃない! 敵へ遭遇した場合、個性を使って自分と仲間の身を守って! 単独で追わず、施設か教師のいる地点へ撤退して!!』

 

 

爆豪「やっと本物か。」

 

 

轟「爆豪。勝手に向かうな。」

 

 

爆豪「指図すんな。だが、まず合流だ。」

 

 

轟「ああ。」

 

 

常闇「森を焼く蒼炎……夜の静寂を汚す悪意か。」

 

 

黒影「フミカゲ! 闇が濃くなってる!」

 

 

口田「動物たちが……逃げてる。」

 

 

常闇「口田。動物を安全な方向へ誘導できるか。」

 

 

口田「やる。僕が、皆を逃がす。」

 

 

柱間「峰田! 俺から離れるでないぞ!」

 

 

峰田「離れねぇ! 絶対に離れねぇぞ!!」

 

 

地面。

 

柱間の両足から。

 

細い木の根が伸び。

 

周囲の地中へ広がっていく。

 

炎。

 

人間。

 

戦闘。

 

毒。

 

無数の振動が。

 

根を通じ。

 

柱間へ伝わる。

 

 

柱間「敵は、1箇所ではない。」

 

 

峰田「ど、どうすんだよ!?」

 

 

柱間「まず、近くの者たちと合流する。森が燃えておる。逃げ遅れた者を探すぞ!」

 

 

峰田「敵を倒しに行くんじゃねぇのか?」

 

 

柱間「敵を倒すことより、仲間を守る方が先ぞ!」

 

 

別方向。

 

マダラの写輪眼が開く。

 

通常の三つ勾玉。

 

森の奥。

 

炎。

 

薄紫色のガス。

 

逃げる生徒たち。

 

そして。

 

木々の間を。

 

異常な速度で移動する複数の影。

 

 

マダラ「……狙いは何だ。」

 

 

上空から。

 

ナオリの声。

 

 

ナオリ『主様!!』

 

 

マダラ「ナオリ。」

 

 

ナオリ『偽装された気配と救難信号によって、親衛財団の一部が外周へ誘導されました。敵は、私たちの感知能力を把握しております。』

 

 

マダラ「最初から、俺たちを分散させるつもりだったってことか。」

 

 

イーグルワゴンが。

 

木々の間から飛び出す。

 

 

イーグルワゴン『マダラの旦那!! 薄紫色の毒ガスが北東から広がってる!! ハーストハイムが動物と生徒の救助へ向かった!!』

 

 

マダラ「柱間と扉間の位置は。」

 

 

ナオリ『柱間様は中央南側。扉間様はB組訓練区域から移動中です。』

 

 

マダラ「合流するぞ。」

 

 

イーグルワゴン『了解だ、マダラの旦那!!』

 

 

その時。

 

マダラの写輪眼が。

 

遥か遠方。

 

木の上へ留まる。

 

小さな黒い影を。

 

一瞬だけ捉えた。

 

 

マダラ「……何だ、あれは。」

 

 

次の瞬間。

 

黒い影は。

 

完全に消えた。

 

 

マダラ「チッ。」

 

 

ナオリ『主様?』

 

 

マダラ「今、妙なものがいた。気配が消えやがった。」

 

 

イーグルワゴン『匂いは!?』

 

 

マダラ「何も残してねぇ。」

 

 

ナオリ『潜伏に特化した存在でしょうか。』

 

 

マダラ「敵本隊より、あいつの方が厄介かもしれねぇ。」

 

 

だが。

 

今は。

 

追うことができない。

 

森の各所で。

 

生徒たちの悲鳴が上がっている。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

・魔獣の森 北東 区域・

 

 

緑谷と障子は。

 

施設へ向かって走っていた。

 

障子が。

 

複数の耳を広げ。

 

周囲の音を探る。

 

 

障子「右前方で戦闘音。左には複数の足音。後方からは、毒ガスが近づいている。」

 

 

緑谷「最短で施設へ戻るなら、南西。でも――」

 

 

緑谷の足が止まる。

 

 

障子「どうした、緑谷。」

 

 

緑谷「洸汰君。」

 

 

障子「何?」

 

 

緑谷「洸汰君がいない。秘密基地だ。」

 

 

昨日。

カレーを持って訪れた洞窟。

 

合宿施設から離れた。

 

小さな岩場。

 

敵が森全体へ散らばっているなら。

 

洸汰が。

 

安全である保証はない。

 

 

障子「場所は分かるのか。」

 

 

緑谷「分かる。」

 

 

障子「俺も行く。」

 

 

緑谷「でも、障子君は近くの皆へ敵襲を知らせて。君の索敵なら、毒ガスを避けて誘導できる。」

 

 

障子「一人で行くつもりか。」

 

 

緑谷「秘密基地までは、此処から僕の方が近い。それに、フルカウルならすぐに着ける。」

 

 

障子「危険だ。」

 

 

緑谷「分かってる。」

 

 

障子は。

 

緑谷の表情を見た。

 

止めても。

 

行く。

 

そう理解した。

 

 

障子「3分だ。」

 

 

緑谷「え?」

 

 

障子「3分で洸汰を連れて戻れ。3分を過ぎたら、俺も追う。」

 

 

緑谷「……うん!」

 

 

障子「無茶はするな。」

 

 

緑谷「障子君も!」

 

 

緑色の稲妻が。

 

緑谷の全身を走る。

 

バチバチバチバチッ!!

 

フルカウル。

 

5%。

 

 

緑谷「洸汰君……!」

 

 

地面を蹴り。

 

闇の中へ走る。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

・洸汰の秘密基地付近・

 

 

洸汰は。

 

洞窟の外へ出ていた。

 

遠く。

 

森の一部が。

 

青い炎によって照らされている。

 

耳を澄ませば。

 

爆発音。

 

木々が倒れる音。

 

誰かの叫び。

 

そして。

 

脳内へ届いた。

 

マンダレイの警告。

 

 

洸汰「敵……?」

 

 

小さな身体が。

 

僅かに震える。

 

ヒーロー。

 

ヴィラン。

 

個性。

 

戦い。

 

嫌いだった。

 

全部。

 

自分から両親を奪ったものだから。

 

だが。

 

今。

 

森の中には。

 

昨日。

 

カレーを持ってきた緑髪の少年もいる。

 

無理に笑わなかった少年。

 

ヒーローを好きになれと言わなかった少年。

 

柱間。

 

マダラ。

 

他の雄英生たち。

 

皆がいる。

 

 

洸汰「……関係ねぇ。」

 

 

自分へ言い聞かせる。

 

その時。

 

背後から。

 

岩が砕ける音がした。

 

バキィッ!!

 

洸汰が。

 

ゆっくりと振り返る。

 

木々の間。

 

一人の大男が。

 

歩いてくる。

 

片側の眼。

 

古い傷。

 

筋肉。

 

身体の至る所から。

 

異常な量の筋繊維が。

 

蠢くように膨れ上がっていた。

 

 

マスキュラー「よぉ。」

 

 

洸汰「……誰だ。」

 

 

マスキュラーは。

 

洸汰の顔を見つめ。

 

やがて。

 

眼を細める。

 

 

マスキュラー「その帽子。」

 

 

洸汰「……。」

 

 

マスキュラー「何処かで見たと思ったら……そうか。」

 

 

口元が。

 

大きく歪む。

 

 

マスキュラー「ウォーターホースのガキか。」

 

 

洸汰の呼吸が。

 

止まった。

 

 

洸汰「何で……その名前を……。」

 

 

マスキュラー「何でって。」

 

 

大男は。

 

心底楽しそうに。

 

笑う。

 

 

マスキュラー「俺が殺したからだよ、オメーのパパとママをよ。」

 

 

時間が。

 

止まった。

 

父。

 

母。

 

人を助けるために戦った。

 

英雄と呼ばれた。

 

帰ってこなかった。

 

二人。

 

その命を奪った男が。

 

今。

 

自分の目の前にいる。

 

 

洸汰「……お前が……。」

 

 

マスキュラー「ま、兎に角覚えてねぇな。弱かった奴の顔なんざ。」

 

 

洸汰の両腕から。

 

僅かな水が溢れる。

 

 

洸汰「お前がァァァァァッ!!」

 

 

水の弾丸。

マスキュラーの顔面へ直撃する。

 

バシャッ!!

 

だが。

 

大男は。

 

一歩も動かなかった。

 

 

マスキュラー「良いじゃねぇか。」

 

 

顔から水滴を拭う。

 

 

マスキュラー「親と同じ個性か。」

 

 

筋繊維が。

 

右腕へ集まっていく。

 

岩より太く。

 

樹木より硬く。

 

人間の腕とは思えない形へ膨張する。

 

 

マスキュラー「じゃあ、親子揃って――」

 

 

拳を振り上げる。

 

 

マスキュラー「同じところへ送ってやるよォォ!!」

 

 

洸汰は。

 

動けなかった。

 

恐怖。

 

怒り。

 

絶望。

 

全てが。

 

小さな身体を縛りつける。

 

巨大な拳が。

 

振り下ろされる。

 

その瞬間。

 

ドゴォォォォォォォン!!!!

 

緑色の閃光が。

 

洸汰の前へ飛び込んだ。

 

両腕で。

 

巨大な拳を受け止める。

 

地面が割れ。

 

岩場全体へ。

 

亀裂が走った。

 

 

洸汰「……お前……。」

 

 

緑谷は。

 

震える脚を踏み締め。

 

マスキュラーを睨みつける。

 

 

緑谷「洸汰君から……離れろ!!」

 

 

マスキュラーは。

 

目の前へ現れた少年を見て。

 

歓喜に満ちた笑みを浮かべた。

 

 

マスキュラー「良い眼だ。」

 

 

筋繊維が。

 

さらに。

 

さらに。

 

膨張していく。

 

 

マスキュラー「テメェは、少しでも楽しませてくれるんだろうなァ?」

 

 

緑谷の全身を。

 

緑色の稲妻が走る。

 

その背後。

 

洸汰は。

 

ただ。

 

呆然と。

 

自分を守るために立つ少年の背中を見つめていた。

 

訓練用の土魔獣ではない。

 

個性を鍛えるために作られた標的でもない。

 

目の前にいるのは。

 

人を殺すことを。

 

心から楽しむ。

 

本物の魔獣。

 

その魔獣へ。

 

緑谷出久は。

 

一歩も退かず。

 

立ちはだかった。

 

 

林間合宿三日目。深い夜。悪夢は、遂にその牙を剥いた。

 

 

そして――両親を奪った怪物と、その怪物から少年を救おうとする若き英雄の戦いが、今始まる。

 

 

 

 

 




ということで、第五十一話でした。如何でしたでしょうか?文字数が21000文字ちょっとという途方もない文字数となってしまいましたが、それでもご愛読して頂けるなら大変執筆した甲斐があります!
さて、次話の第五十一話についてですが、次話もこのまま林間合宿編の続きを執筆して行くので、楽しみにお待ちください!次話からが敵連合開闢行動隊との交戦の続きとなりますが。
また、お気に入り登録や質問、評価も是非お待ちしておりますが、特に感想を、無理にとは言いませんが、時間があれば頂けると、作者の小説制作のやる気向上などへと変わりますので、よろしければ是非よろしくお願いします!ですが、理不尽な誹謗中傷などの行為は流石にやる気やモチベーションが下がりますのでそれらは御法度です。何卒ご理解よろしくお願いします!では、第五十二話にて!
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