もしも柚鳥ナツが黒服の実験体だったらの話   作:GGenbuu

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【プロローグ】

身体が──熱い。

命を焦がす、地獄の炎に焼かれ続けていたような。

そんな時間を過ごしていた気がする。

 

あまりにも重たい瞼を、それでもゆっくりと開ける。どこかの台座の上で、寝そべっているような感じを覚える。

腕や足は、何かに括りつけられたように動かない。そもそも、現状の体力で動かせそうにもなかった。

ふと声を出そうとして気づく。喉が、枯れている。気管支の奥の方に、痰が絡む。

 

「────」

 

言葉にならない喘ぐような声が、喉の奥から響く。

その後、数回咳き込んで、自分が今どうなっているのかと周りを見る。

首にも何かがついてるような感覚を覚えたが、一先ず周囲を確認しなければと、隣を見る。

そして──戦慄する。

 

誰かが、自分と同じく寝かされており──血反吐を吐いて、そこに横たわっていた。

 

「ッ────」

目を逸らそうとして、反対方向に向き直って──再び、私は驚愕する。

要因は違えど、同じく死に体で横たわる者が、そちらにも二名いたからだ。

 

「ハァッ・・・ハァッ、ハァッ、ハァッ・・・」

呼吸が荒くなる。炎症を起こしたかのように痛む胸に、無理やりにでも身体が酸素を注ぎ込む。

一体、ここはどこなのか。彼らは誰なのか。何故、私はこんなところにいるのか。その一切が不明だった。

 

「──おはよう、目覚めましたか」

どこからか声がする。黒い天井に、ぼんやりとディスプレイが浮かぶ。黒い頭部に、ひびの入った異形の男がそこにいた。

 

「実験は成功です。あなたの”神秘”──名づけるのなら、『再生』とでもしましょうか。火の鳥のように、再び貴方は生を獲得しました。私としても、喜ばしいことです」

 

 

──実験?神秘?

何だ、何がどうなっている。

 

 

「貴方は──誰・・・?私は、誰なの・・・?」

「ほう?これは、想定外でしたね──実験の副作用とでも言いましょうか。どうやら、記憶を処理する部分に、少なからずダメージが入ったのでしょう。ですが──神秘は生きている。ならば、依然対応は変わりませんね」

「ね、ねぇ・・・?一体、何が起こったの──」

灼ける痛みを無理やり呑み下し、私は彼に質問をした。暫しの沈黙の後──彼は答えた。

 

「あなたは、過去に私と”契約”をした実験体──そして、私の実験を受け、唯一目を覚ました者です。今は、その過去も名前も、死に絶えていますが」

「新たに名前を授けましょう。そうですね──では、『柚鳥ナツ』」

「貴方は、あるものを得るために私と契約を交わしました。そのものを与える代わりに──私の手足となって動いて下さい」

「詳しい話は、また後ほど。では、よろしくお願いしますね──『柚鳥ナツ』」

 

 

 

──それが、私が目覚めてから最初に手に入れた、記憶の中身だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ロマン」という言葉を聞いた時、君は何を想像するだろう。

 

例えば、駆け落ちをする為に、全てを捨て切って先へ進む二人の恋人。

例えば、己が持つ矜持が故に、敗北濃厚の戦いに身を投じる戦士。

例えば、あてのない冒険の先に、とてつもない秘宝を見つける流浪者。

 

形はない。ルールもない。

ロマンは、とても遠くにあるようでいて、その実はどこにでも転がっている。

君の側にも。私の側にも。それは、飽くなき探究の先にある、数多の「理想」なのだ。

 

かくなる私も、そんなロマンを求めている。

求めてしまっている。

 

それが────いつかは潰え、二度と手に入れる資格を与えられない、刹那の幻だとしても。

 

 

おや、自己紹介が遅れていたね。

では、改めて──

 

私は「柚鳥ナツ」。

 

そういう名前を与えられ、望んだ『日常』を過ごす為に──「黒服」という名の大人に選ばれた実験体。

 

仮初で儚い、虚しい日常のロマンを、それでも求め続けてしまう、過去の憶え無き罪人だ。

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