もしも柚鳥ナツが黒服の実験体だったらの話   作:GGenbuu

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【5】

-杏山カズサ視点-

 

「二人とも、こっち!急いで!」

「言われなくとも急いでるわよ!?本気になったあんたが早すぎるのよカズサ!!!」

「ひぃ…ふぅ…はぁ…はぁ…」

 

レイサから貰った住所をスマホで確認しながら、全速力で走る。後ろについてきているヨシミとアイリは既に息がもたないほどになっているが、それでも食らいついてきてくれた。

「もうすぐつく!二人とも頑張っ──」

 

 

その時。

 

 

辿り着くはずだった目的地が──轟音と共に、爆炎に包まれた。

 

「えっ…」

「な、何…!?」

 

鼓膜を劈く音波に、思わずその場所を振り返ると、廃れた廃墟と思わしき場所が、大きな穴を開けて炎上していた。その穴から出てきたのは──

「…先生!?」

「え、もう先生が先についてたの!?」

「じゃあ、さっきまでそこに──」

今し方、先生が出てきた、大きく開いた廃墟の穴に目を向けた瞬間──

 

その穴が爆ぜた。

 

「うわっ!?」

爆ぜた炎から飛び出したのは──二つの影。

一つは、盾とショットガンを片手に、臨戦体制を取る一人の少女。

そしてもう一つは──

 

 

「…燃えてる…鳥?」

 

 

身体中から火の粉を吐き散らし、辺りをその身を包む炎で焼き尽くそうとする、五、六人分あろうかという大きさの灰よりも黒い鳥。

一言で言えば──「火の鳥」だろう。

 

だが。

その鳥を必死に押さえつけようとしている、一人の少女が言い放った言葉が──私たちを更に追い詰める。

 

 

「止まれ!止まるんだ、『ナツ』ちゃんッ!」

 

 

─────え。

 

 

「い、今…『ナツ』ちゃんって…」

「と、止まれって言ってた…」

「じゃあ───そんな、あれが───」

 

 

「今のが──ナツ───?」

 

 

私たちの友達は、トリニティを脅かす怪鳥に変貌してしまったと、目の前の光景を告げてきた。

 

アイリとヨシミは、その事実に打ちのめされたように立ちすくんでいる。

当然、私もそうなりかけていた。

 

足がすくみ、膝がガクガクと震え出す。瞬きをすることもできず、目を見開く。

できることなら、今すぐ逃げ出してしまいたいと本能がささやく。

 

 

それでも──私の脳内に響いたのは。

 

 

(裏切られても、打ちのめされても──最後まで信じて、助ける為に駆けつける。それが、『友達』でしょう!?)

 

 

 

全く──宇沢。

あんたに鼓舞される日が来るなんてね。

 

 

両手で頰を思いっきり叩き──前を向き直る。

 

 

「二人ともッ!」

「「!?」」

 

そして──時が止まったかのように呆然としていた二人に、張った声で呼びかける。

 

「ここで止まったら、今度こそナツを失うかもしれない。あのまま脅威としてナツが消えるだなんて、そんなの私は御免。だったら──止まるわけにはいかない。そうでしょ!?」

「私たちの『友達』を、ナツを──今度こそ信じよう。だから──行くよ、二人とも!」

 

その声に──二人も答えてくれた。

「…あぁ〜〜情けないッ!怖がってた自分が恥ずかしいわ!分かってるわよ!行くに決まってんでしょ!?」

「…うん!ありがとう、カズサちゃん!行こう!」

 

「よし…それじゃ────

 

 

『放課後スイーツ部』、出撃するよ!」

「「了解!」」

 

 

 

 

 

 

-小鳥遊ホシノ視点-

 

「クッソ…予想以上に再生が早い…!!!先生、大丈夫!?生きてるよね!?」

「あぁ、大丈夫だホシノ!指揮をするから、合わせられるか!?」

「勿論…って言いたいんだけど──なんというか、おじさんも余裕が持てないんほど苛烈なんだよ、ねっ!!!」

 

手に持った盾で、火の鳥から放たれる、刃のように尖った業火の剣をガードする。ジリジリと焼ける感触を堪えつつ、構えたショットガンをぶっ放す。

だが──放たれた弾丸は確かに当たっていても──当たった弾のダメージが、ほぼ即座に再生してしまう。

仰け反りはするのだが、あくまで一時しのぎでしかない。反対に放たれたのは──

 

建物の一室を呑み込むと言わんばかりの、巨大な火球だった。

 

「!!!先生──」

あろうことか、その火球は先生の隠れている場所に目掛けて飛んでいく。

そこにフルスピードて飛び込むが──盾が間に合わず、身体にもろに火球が当たる。

 

「ホシノ・・・!」

「あぐっ・・・ぐっ、あの状態でイカれたダメージ・・・ナツちゃん、さては──こうなる前、相当な火力を隠してたかなぁ・・・?」

 

そうして、焦げ付いた服と火傷を引きずりながら、未だ消耗でくらくらする視界で彼女のなり果てた姿を睨む。

 

「やれやれ・・・超火力に超再生、おまけに人の姿まで・・・ナツちゃん、随分なものを貰っちゃったみたいだね。さて──本当ならみんなに助けを呼びたいけど、そんな暇は無さそうだし。ここは一つ堪えるしかないかなぁ・・・救援に来るにも時間がかかりすぎちゃうし」

 

とはいえ、さっきのものを連発されたら手に負えない。というか、一つ一つの破壊力が桁違いだ。少しでも気を抜いたら、身体が黒焦げになりかねない。

さて、どうしたものかねぇ──赤く焼けた鉄板の如く熱くなった盾を構えながら、血のにじむ頭を抱えた時だった。

 

 

別方面から乱射された弾丸が、火の鳥の体を蜂の巣にし、思わず視線を向ける。

 

ばら撒かれた弾丸の所にいたのは──三人の、トリニティと思わしき生徒だった。

そして、その三人には──見覚えがあった。

 

「すみません、確かその鳥のこと、ナツって言ってた人ですよね!」

「…君たちは、ナツちゃんと写真に映ってた──あぁ、放課後スイーツ部のみんなかな・・・?」

「はい──居場所を教えられたので、急いでやってきました。それで──」

そうして、黒髪で耳の大きい子が火の鳥の方を見る。やはり、受けたダメージは回復しており、体制を立て直そうとしていた。

 

「あれが…ナツ、なんですよね」

「…そうだよ。なんだか分からないけど、受けたダメージを片っ端から再生しちゃってねぇ。おじさんもだーいぶ困ってた所」

「お、おじさんって…凄い一人称ね…」

「そ、そうだね…」

「まぁ、そこは置いといて・・・私は小鳥遊ホシノ。君たちは?」

「…杏山カズサです」

「伊原木ヨシミ」

「栗村アイリ、です」

「オーケーオーケー。それじゃ、これは──共同戦線ってことでいいのかな?」

「寧ろ、私たちの部員が迷惑かけちゃってるようなもんなんで…こっちからしたら、ありがたい限りです」

「いやいや、おじさんもこの子には妙に親近感が湧いちゃってねぇ。ちょっと見過ごせないだけだよ」

「…分かりました。そしたら、お願いしても構いませんか?」

「いいよ〜。と言ったところで……

 

先生、指揮はお願いね」

 

すると、私の声に応えるように、今度は邪魔にならないようにと奥にいた先生が、顔を見せた。その拍子に、放課後スイーツ部のみんなが驚く。

「うわっ、先生!?さっきの爆発は大丈夫だったの!?」

「あはは、ホシノが守ってくれたから。ホシノ、さっきはごめん…まだ動けるかい?」

「うへへ、先生。おじさんを誰だと思ってんのさ」

「そうだったね──よし。実は、みんなのおかげで、ある糸口ができた」

「糸口…?」

「あ、あるんですか?ナツちゃんを戻せる方法?」

すると、先生は火の鳥の方をじっと見る。

 

「さっき、君たちが一度に乱射した弾が当たった後──彼女の動きが、辛うじてではあったけど鈍くなった」

 

「おそらくだけど──あの『再生』は、一度にかつ大量には行えない。治せるところから治している感じなんだ。一度に大きく傷を負った時、再生しきるまでの時間や量に限りがある」

「つまり──あの『再生』はまだ未完成ってことだね」

「そう。そして未完成ということが意味するのは──『再生』できる回数に限りがあるということ。だから、『再生』のリソースをより大きく割くように攻撃し続ければ──」

「──リソースが枯渇して、『再生』が使えなくなるってことですか?」

「多分ね。ただ──見極めるタイミングを間違えば、彼女はリソースを使い果たしかねない。その状態になるのはまずい。だから、そのタイミングが来た瞬間に──彼女にそれを使わせないように止める。これができるかどうかだ」

「だけど、あいつは燃えてるのよ!?止めるったってどうやって──」

 

 

「──私が、やっていいかな」

 

 

そこで声を上げたのは──アイリだった。

「アイリ…」

「一応、放課後スイーツ部を作ったのは私だからね。部を作った人として、ナツちゃんに何か言えるとしたら、私になると思う」

 

 

「それに──いつも、部の中で困った時、ヒントをくれたり引っ張ってくれたのはナツちゃんだったから。

せめてここは──私が行きたい」

 

 

「…そっか。分かったよ、アイリ。ナツのこと、お願い。止めることができるまでは、私たちがどうにかする」

「…ホント、こういう時のアイリってカッコいいのよね…」

「えぇ!?カ、カッコいいって…!?」

 

「いや〜、友情と絆の場面だねぇ。おじさんには眩しいや」

そうして、青春を謳歌する少女たちの輝かしい世界を背に──盾を地面に立て、前面に立った。

 

「それじゃ、若い子にいいところを見せるのも、年長者の務めだしね。あの子の注意は私が引きつけるから、君たちはありったけの火力をお願い」

「…はい、分かりました!」

「よし…痛いだろうけど、我慢しなさいよナツ!!!」

「待っててナツちゃん!すぐに終わらせるから!」

「じゃ──先生、合図を頼むね」

 

「よし、それじゃ──作戦開始!!!」

「「「「了解!」」」」

 

 

 

 

-全体視点-

 

そうして、小鳥遊ホシノをタンクとして、虚火の鳥──柚鳥ナツとの対峙が始まった。

 

廃墟から飛び出した彼女を食い止めるように、小鳥遊ホシノが殆どの攻撃を引き受ける。一つ一つの攻撃を捌き切るその姿は、まさしく暁のホルスの名に相応しい。

そのガードを超えてくる炎を避けながら、カズサ、ヨシミ、アイリが弾丸を叩き込む。元々、彼らの武器は全体的に連射武器なこともあり、三人分合わさった際の火力は、彼女の『再生』のリソースを食わせるには充分だった。

 

しかし、次第に──火の鳥が、彼らから逃げるように、空へと舞い上がろうと翼を広げ始めた。

「まずい、飛ぼうとしてる!」

「マジで言ってんの!?空へ行ったら、対処のしようがないわよ!?」

 

「──カズサ、ヨシミ、アイリ。そこの廃墟の屋上へ向かって!」

 

「!?先生、何を…」

「ホシノ、飛ぶまでの時間を、なるべく抑えられるかい!?既に充分リソースは割かせたはずだ!」

「──!!! なるほどね──」

 

すると、飛ぼうとした火の鳥に──ホシノが食らいつき、散弾銃を翼に打ち込む。即座にリロードし、更にもう片方の翼にも打ち込む。

「早く、今のうちに!おじさんにもやれることは限られるからね!」

 

「ありがとう、ホシノさん!二人とも急ぐよ!」

「オーケー!」

「うん!」

先生に言われた通り、私たちは猛ダッシュで階段を駆け上がる。

幸い、駄菓子屋のあった廃墟はかなり高さがあり、上へと繋がる階段があった。その屋上に駆け上がる途中で──下から、けたたましい嘶き声が聞こえた。

「お願い、間に合ってよね…!」

 

 

「やれやれ、そろそろ素直になってもいいんじゃない?ま、私も似たようなもんだけどさ!」

そうして盾で無理やり制止しようとするホシノ。しかし──ありあまるほど無数の炎の刃が、孔雀のように火の鳥の周りに展開される。

 

「ゲッ・・・ちょっと多すぎッ・・・」

 

その炎が襲い掛かろうとした時──

 

 

「とうッ!!!」

別のショットガンの音が、流れ星のように駆け抜けた。

 

「…?」

流星の残像が通り抜けた先で──火の鳥は更に翼に散弾を受け、その場に倒れ伏していた。

 

「あなたもショットガンですか──これは、気が合うかもですね」

「…えっと、君は?」

「呼ばれてないけど飛び出て登場!これがいわゆる、アイルビーバックってやつですね!!!」

 

「みんなのスーパースター──宇沢レイサ、ここに見参!!!」

 

「…電話で聞いていた以上に元気な子だねぇ・・・」

 

 

 

レイサが更に時間を稼げたこともあり、屋上に何とかたどり着いたカズサが、下に向けて大声を上げた。

「ホシノさん!!!」

「!!!」

「辿り着きましたか、杏山カズサ!」

「レイサ!?あんたも来てんの!?」

 

それとほぼ同タイミングで──ホシノとレイサから逃れるように、火の鳥が空へと駆け上がろうとした。

「小鳥遊ホシノ、もうこれ以上は限界ですっ・・・!」

「──みんな、そっちにナツちゃんが行く!あとはお願い!」

 

「…!よし、行くよ、二人とも───ハアッ!!!」

「ちょ、ちょっと心の準備が──いやああああ!?」

「うわぁぁぁぁぁっ!!!」

 

次の瞬間、カズサがそばにいる二人の手を引きながら──火の鳥目掛けて、飛び降りる。

そして──カズサが銃口をナツに向ける。

 

 

──ナツ、いつだってあんたはさ──私を散々振り回して、いじって──それでいて、良いところで妙に鋭くて。

そんでもって──私たちの中で、一番スイーツに詳しくて、楽しそうで。

そんなあんたが──

 

 

 

「──柄にもなく、迷ってちゃ困るんだっての!!!」

 

 

 

放たれるは──『キャスパリーグ』の弾丸の雨。

それは、駆け上がった火の鳥に降り注ぐ──が、止まらない。

まだ、止めるには火力が足らない。

 

そのまま、三人は未だ燃えている火の鳥の体に乗り掛かる。

 

「「「───あっつッッッ!!!!」」」

 

しかし、それでも止まらずに弾丸を浴びせ続ける。

三人がしがみついた大きな火の鳥は、悶え苦しみながらあちらこちらへと飛行をやめない。

「止まれ、止まってよ、ナツ!!!」

そこで更に、ヨシミがライフルを構え、鳥のコア──心臓があると思われる部分に突きつける。

「ごめん、ナツ!あんたの秘密を知ったのは、私の言い出したことが原因!それは後で怒っていいから!

 

だけど──それはそれとしてッ!」

 

 

 

「全部一人でやろうとしてんじゃないわよ、このトラブルメーカーがぁ!!!」

 

 

 

そしてヨシミが放ったライフル弾が──柚鳥ナツの神秘のリソースの、限界一歩手前に追いつめる。

割れたヒビから──篝火が溢れる。

 

それが──合図だった。

 

「今だ!」

先生の合図を聞き、カズサがヨシミの服を無理やり掴む。

「あとをお願い、アイリッ!」

「え、ちょ、カズサこれ私たち着地はぁぁぁぁ……」

 

そうして、アイリだけが乗った火の鳥から──なるべく低い位置に、カズサがヨシミを連れて飛び降りた。

そして──残された、今にも燃え尽きてしまいそうな火の鳥を。

 

 

アイリが──空中落下の中で、ゆっくりと抱き抱える。

 

 

「────ナツちゃん」

 

「ずっと怖かったんだよね。辛かったんだよね。誰にも話せずに、頑張ってきたんだよね」

 

「だけど──それでもいいんだ。そんな感情を持って、一人で戦ってきたとしても──私たちは、ナツちゃんといたい。

ナツちゃんがいないと──私たちは放課後スイーツ部になれないの」

 

 

 

「だから──一緒に帰ろう。私たちの、放課後スイーツ部へ」

 

 

 

優しく柔らかい、口溶けの良い言ノ葉が、アイリの口を通って紡がれる。

 

甘く豊かな味わいを持ち、火照った体を冷ますアイスのように。

煮え凝ったように熱い、灰のように苦いコーヒーに溶けるように。

 

その言葉が──火の鳥を、『柚鳥ナツ』へと引き戻す──

 

 

 

夜の空を渡る、彗星。

その正体は、たった二人の少女が抱き合って進む影。

その炎が燃え尽きる前に──地上で、彼らが待機していた。

 

地面に落ちてきた二人を、先に地上にいたみんなで受け止める。

凄まじい衝撃は──やがて、終わりを迎えた。

 

「いっつつ……あぁ、足折れたかも」

「いやぁ、おじさん腰がきついねぇ…」

「私こういうのは慣れなくて…体が小さいので!」

「あんたらさぁ……それよりも、アイリ、ナツ!二人とも無事──」

 

カズサが声をかけた目の前には──確かに、アイリとナツがいた。

 

しかし、地上に降り立った後でも──アイリはナツを離そうとはしなかった。

「アイ、リ……」

ナツは所々の皮膚が爛れたように黒く変色し、身につけていた執事服はボロボロになっていた。見るに耐えない無惨な姿を──それでもアイリは抱きしめる。

 

「──おかえり、ナツちゃん」

 

「アイリ──」

それに抱きしめ返そうとして──ナツの手が止まる。

 

「…駄目だよ、アイリ…だって、私・・・色んな事をしてきたんだ」

「・・・・・・」

 

「アイリだって覚えてるだろう…エデン条約があった時。

・・・私は裏で、あの襲撃に加担していた。それは確かに事実で──その罪は本物なんだ。

だから──ここまでしてもらったとしても──それでも、私は──君たちといる資格なんて──」

 

ナツの手は、彼女自身の願いと呪い、そして抱えた罪の狭間で、未だに迷い続けている。

その手に気づいていたアイリは──ナツにゆっくりと語りかける。

「ねぇ、ナツちゃん──」

 

 

 

「ナツちゃんは、今の自分が嫌い?」

 

 

 

「────」

そう、その言葉は──かつて、みんなでバンドをしようとしていた時。

ナツが、「みんなと一緒にいる資格などない」と泣いていたアイリに、語りかけた言葉の、その逆だった。

 

「──嫌い、だよ。だって──みんなを騙して、悪事に手を染めて、語ってたことは嘘だらけ。正直、ずっとずっと嫌いだった」

「…そっか。それじゃ、もう一つ聞くね」

 

 

 

「それでも、そうだとしても──今の自分を好きになりたい?」

 

 

 

「…え?」

「…私もね。そんな風に、考えていた時があったんだ。みんなの隣にいていいのかな、って。いる資格なんてない、もっと相応しい人がいるんじゃないかなって」

「でも──みんなは、私だから一緒にいたいって言ってくれたんだ。ナツちゃんは、『その時には環境を見ること。自分自身を含めた、環境を見ること』って教えてくれた。その言葉に、その行動に──嘘なんて無いって、私は信じてるよ」

「…アイリ」

 

「だから、あえて言うんだ。ナツちゃんにとっての環境。その環境は、本当にナツちゃんだけの世界?暗くて狭い、悪い人ばかりの世界?」

「ナツちゃんのいる環境に──私たちは、どこかにきっといたと思うよ」

 

 

「───いいの…?みんなを巻き込む先は──きっと、何も見えない暗闇の中だよ」

「それなら、暗闇の中を──転ばないように、みんなで手を繋ごうよ。灯りが遠くても、足元が覚束なくても。みんなで行った先が──私たちにとって、本当にいるべき世界だと思うから」

 

 

「だから──大丈夫。私たちを信じて。

信じて、身も心も預けたって構わないよ。

足を踏み外しそうになっても、今度こそ私たちが支えてみせる。

 

 

それでこそ──私たちは友達だから」

 

 

「───アイ、リ───」

 

その二人に覆い被さるように──ヨシミとカズサも、優しくナツの体に手を回す。

 

「私──いつも気づくのが遅くてさ。ナツがそんなに抱えてるなんて、考えもしてなかった。

でも、もう気づいちゃったもの。気づいたら──私は止められないわよ」

「…あんたも、私と同じだったなんてね。まぁ、スケールが違いすぎるけど…でも、気持ちは分かるつもり。

あんたの不安も、恐怖も、痛みも──抱えてきた、辛いこと。私たちに、教えて欲しい」

 

「うん。だからね、ナツちゃん──帰ろうよ、一緒に。寂しくないように、一緒に」

 

柚鳥ナツは──微かに震える手を、そのまま。

そこで彼女を待つ人たちへと──弱々しくも伸ばす。

 

 

 

「…好きに…なりたいよ…」

 

 

 

「私も…思い通りに生きたい…生きていいって言われたい…」

 

 

「私の思う『ロマン』のままに──私自身を好きなままに──生きたいよ──」

 

 

そのか細くも確かなSOSを──三人は決して見逃さない。

その救難信号を聞き入れたかのように──彼女達は、柚鳥ナツを一層強く抱きしめた。

 

 

そのあまりに小さな叫びを、肯定するために。

 

 

 

 

 

 

「…何だか少し、救われた気分だよ」

「ホシノ…大丈夫かい?」

「うん、大丈夫。ありがと、先生」

「それにしても、間に合って良かったです…というか、ナツさんがホントはあんなに強かったとは思わなかったですよ…!」

「いやぁ〜、あれはしょうがないと思うよ〜?私もヒヤヒヤしたしねぇ」

「というか、よくあのバカでかい火の玉の中で生きていられましたね!?普通即死ですよ、即死!!!」

「それ、君が言うのかい~?それに、おじさんの年季を舐めてもらっちゃ困るよ?」

「いやまだそんな歳じゃないでしょう、どう見ても!!!」

「うへへ〜……

 

それで、先生」

 

「うわぁ急に落ち着かないでください!?」

そこで急にホシノが、真面目な目つきで先生の方を見た。その顔の移り変わりの早さに、レイサはビビった。

 

「とはいえ事態は深刻だよ?一度締結された契約を、簡単には覆せない。どうやって、ナツちゃんを黒服から引き剥がすの?」

「そうだね…方法はあるけど、ナツにはもう少しだけ頑張ってもらわないといけない」

「へぇ…あるんだ、方法。それじゃあさ──聞かせてよ、先生。協力は惜しまないからさ」

「ありがとう、ホシノ。それじゃ──秘密裏に、あることをお願いしたいんだ」

「秘密裏に?」

「あぁ。黒服との知恵比べの為に──あの子たちを、早めに助けてあげないとね」

 

 

「黒服と、ナツと、私──三人で行わないといけない、三者面談の時間だ」

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