呉一族の家出娘   作:なゆさん

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最近ネトフリでハマって漫画を見てたら書きたくなった。



1話

乃木グループ。

日本で生活していれば一度は耳にするであろう企業グループであるそれは、古くから存在する乃木商事を中心とした大手企業グループである。

そんな乃木グループの会長を務める【乃木(のぎ) 英樹(ひでき)】は、彼の部屋にある人物を呼び寄せていた。

 

『コンコン』

 

ノックの音。一拍おいて、乃木は入室の許可を出す。

 

「入りたまえ」

 

ドアが開き、入ってきたのは長身の女性だった。

スラリと長い足、引き締まった身体、それでいて胸は決して控えめとは言い難いものの大きすぎないサイズ。髪はサラサラの金髪ロングヘアー。第一印象はモデルのような美しい女性であろう。

だが、それよりも目を引くのはその顔。

鼻、口、骨格。どれも完璧と言って差し支えないが、故にソレが目立つ。彼女は、白い布で目を覆っていた。圧倒的異物感。他の部位の美しさ故に、その違和感はより強調され、不気味な雰囲気を醸し出す。

 

「よく来てくれた、倉重君。座りたまえ」

 

女性は軽い足取りで会長が座っている向かいのソファに腰を下ろす。

 

「……ふぅ。貴方の頼みなら断りませんけど、もう少し事前に予定を組むことはできませんでしたか? 乃木会長」

 

この部屋に入室後初めての発言。あの乃木英樹に対してそんな態度を取れる者などそう多くはないが、

 

「ふむ、すまなかったな。何か予定があったか?」

「予定はないですけど仕事はあるんですよ。私は社長ですよ? 私が抜けるだけでどれだけ我が社に影響が出るか……」

「だから言っただろう。倉重君は働きすぎていると。一人の仕事量が多すぎるとその人物が抜けた際の穴埋めが難しくなってしまう。できるだけ仕事を分配するのが仕事の基本だぞ? 私を見習ったらどうだ?」

「ですが、私の仕事で我が倉重証券は今の利益を保っているのです。今も私が投資している乃木グループの年間予算の5分の1、消えても知りませんよ?」

「ハハハ、それを言われると痛いな。まあ、今のはアドバイスの一つとして、胸に留めておいてくれ」

「一応覚えておきます」

 

そう、彼女こそは乃木商事を超える売上成績を誇り、乃木グループから独立し、乃木という名を変えて今もなお成績を伸ばし続ける大企業、倉重証券。その社長、【倉重(くらえ) 理香(りか)】その人である。

 

「それで、本題だが――」

「伺いましょう」

「私は近々、拳願絶命トーナメントの開催を発起するつもりだ。既に片原会長には進言済みだ」

「……正気ですか?」

 

【拳願仕合】

それは、江戸時代を起源とする、商人たちの闘いの場。各々が互いの持つ利益をかけ、代理の闘技者を争わせる仕合である。負ければ大損、勝てば利益総取り。小さな商いから大きな利益の出る利権をかけた勝負まで様々だ。

そして、それを取り仕切るのが【拳願会】。乃木英樹や倉重理香も所属する日本の商いを牛耳る大連合である。

そんな拳願会の会長の任命権をかけて行われる拳願仕合最大規模の大会が【拳願絶命トーナメント】。まさに一攫千金の大勝負である。

 

「負ければ発起人である貴方の会社、乃木グループは解体されるのですよ?」

「――そうだ」

「分からない。貴方はそんな大博打を打たれる方ではなかったはずです」

「私にも、野望というものがあるのだよ。――覚悟はできている」

「……そうですか」

 

乃木の意志のこもった瞳に、彼が本気であると悟る倉重。

 

「そんな訳で、このトーナメントに倉重証券も出場してもらいたい」

「はぁ、分かりましたよ。乃木グループがなくなっては、こちらも少し困りますしね。では、こちらも闘技者を見繕っておきま――」

「その必要はない」

 

倉重はいきなり自分の言葉を切った乃木の不可解な言動に困惑しつつ、問いを返す。

 

「必要がない、とは?」

「実はぜひ君の代表闘技者に推したい人物がいてね。その人物を参加させてほしいんだよ」

「はあ、では、その闘技者というのは?」

 

乃木英樹という男のこのような自由な言動は今に始まったことじゃない。自分の意見を飲み込み、聞きに徹する倉重。

 

「その前に、一つ話をしよう」

 

乃木が目を倉重から離さぬまま、語り始める。

 

「私は今まで、幾度も拳願仕合を行ってきた。勝つためには、プロの格闘家だろうがアマチュアだろうが裏社会の住人だろうがどんな人物も闘技者として雇い入れてきた。そして、闘技者達の情報を集める中で、興味を持った一族がいる。分かるか?」

「…………分かりません」

 

答えるまでに、少しの間があった。目を隠す布のせいで見えづらいが、倉重の表情に変化があった。

 

「フフフ……呉一族だよ。何代にも渡って人間の品種改良を行い続けてその力を高めんとする、暗殺集団さ」

「……………………。」

 

倉重の表情が明らかに強張る。

 

「呉一族の力は強大だ。その名は裏社会にも轟いている。そこで私は、少々呉一族について調べみたんだよ。まぁ、彼らに目をつけられぬ範囲で、だがね。――そこで見つけたのさ」

 

乃木は真っ直ぐに、倉重の方だけを向いて、その名を口にした。

 

「――【(くれ) 竜華(りんか)】。呉一族の家出娘と呼ばれる女性のことをね」

「…………………。」

 

乃木は彼女に告げた。

 

「呉竜華。私は、君に闘技者として出てもらおうと思っている。そして、私を拳願会会長に指名してもらいたい」

「………………ハハッ」

 

乃木の言葉を聞き、倉重理香――呉竜華は目に巻いていた布を解く。

 

「バレてるならしょうがないね。いつから気づいてたの?」

 

布を解いた彼女の瞳は、黒かった。いや、黒目と白目が反転していたのだ。呉一族の特徴。それこそが、彼女が禁忌の末裔である証だ。

 

「流石に乃木グループに迎え入れたときは気づいていなかったさ。目元を布で覆っているのに不便そうな様子が見受けられなかったり、目が見えていないのに闘技者の目利きが上手かったりで、そこそこボロは出ていたがね」

「あちゃー、全盲に慣れ過ぎちゃったのが逆にいけなかったのか」

 

先程とは打って変わっておちゃらけた態度。これが呉竜華としての彼女本来の姿であるようだ。

 

「――それで? トーナメント、出てもらえるかね?」

「アナタには雇ってもらった恩があるしね。イイよ、やってあげる。時期はいつ頃あるの? 仕事の予定を組み直さないと」

「早ければ一月後ぐらいかな。決まり次第、連絡を入れよう」

 

乃木英樹も経営者だ。1日程度の無茶振りなら(相手に大事な用事がない限り)通すこともあるが、このあたりはしっかりしている。

 

「あ、そうだ。私を倉重証券で出すってことは、いくつか手駒を増やすつもりでしょ? 少なくとも乃木グループとしてもう一人闘技者を出すんじゃない?」

「無論だ」

「じゃあ、アナタの駒に当たったときはどうすんの? わざと負けてあげた方がいい?」

「フフフ。実力で負けることをまるで考慮していない言い方、流石禁忌の末裔といったところか。安心しろ。手心を加える必要はない。我が駒だろうと誰だろうと、蹴散らしてくれて構わない。まぁ、私が選ぶ闘技者がそうそう負けるとも思えんがね」

 

傲岸不遜な態度の竜華に、笑みを返す乃木英樹。彼もまた、歴戦の猛者たちを間近で見てきた拳願会の古参者。闘技者を見る目は人一倍肥えている。

 

「ふ~ん。今のところ、出そうな奴で強いのいる? 私、おじいちゃんとか片原会長に会いたくなかったから、最近大きめの拳願仕合はあまりチェックしてなかったんだよね」

「そうだな。――やはり、片原会長の最強の駒、【滅堂の牙】だろう。150試合以上をこなしながらも未だ無敗。前人未到の記録だ。今代の牙は歴代最強との噂もある」

「……へぇ~、少しは楽しめるかな」

 

拳願絶命トーナメントをまるで重く考えていないその態度、そして倉重理香としては決して見せたことのない好戦的な笑みは、乃木英樹を持ってしても底がしれない、ナニカを感じるものだった。




ちなみに倉重証券はまだ会社が小さかった頃、拳願仕合で海一証券を蹴落としてその地位を確固たるものにしました。つまり、目黒君が枠を奪わなければいけないのは……
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