呉一族の家出娘   作:なゆさん

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執筆が遅いのも、内容が薄いのも、忙しいせいだ…!!(言い訳)


3話

時は過ぎてトーナメント当日。

 

「今頃、あの山下さんと十鬼蛇君は予選が終わった頃ですかね」

「そうだな」

 

絶命トーナメントの会場に行く船、【拳願号】の中で倉重理香と乃木英樹は優雅に酒を堪能していた。

 

「後は理人君、ですか」

「あぁ。彼は頭が足りんが、そのおかげで扱いやすいからね。王馬君に敗北してから実力も上げているようだし、僅かでも可能性を上げられるなら誰を駒にしても構わんだろう」

「そういうところは、乃木会長らしいですね」

「そういう君も、意地が悪いな。その目隠しはいつまで着けているつもりだ?」

「そうですねぇ。外してくれる闘技者が現れるまで、ですかね」

「ハハハ。この絶命トーナメントにおいてそんなことを言えるのは君くらいなものだ。あの【牙】でもそのような態度で仕合には臨むまいよ」

 

乃木は倉重の傲慢な態度に軽口を叩きながらも、内心震撼していた。

 

(倉重君は最近こそはあまり積極的に拳願仕合を行っていなかったとはいえ拳願会員。それも数多の仕合を自らの見繕った闘技者で勝ってきた超敏腕だ。拳願仕合のレベルは正確に把握している筈。さらにこの規模の大会ともなれば、その中でも最高峰の闘技者が揃う。そんな大会だというのにこの余裕。ハッタリではない。極々自然に、己以外を〈下〉に見ている。同じ呉一族も参加しているというのに。――それだけ、()()ということか)

 

「ああ。十鬼蛇君たちがどうやらこちらに合流したようですね。私、少し見てきます」

 

(……どうやって気づいた? まだ室内にも居ないぞ)

 

乃木は訝しむ。しかしそのすぐ後、本当に予選一行が室内に現れた。

 

「山下さん、王馬君。予選突破おめでとうございます。串田さんも山下さんに?」

「はい。山下社長の秘書として同行しています」

「く、倉重社長! こ、これはどうも……」

 

乃木の命令で山下一夫の秘書になった【串田(くしだ) (りん)】と、山下一夫が倉重に頭を下げる。山下一夫の方が串田より深く頭を下げていたのを、倉重は笑いを堪えつつ確認する。王馬は、そんな彼女に対し、足を一歩踏み出して正面に立った。

 

「ああ、来たぜ――この前の借りはトーナメントで絶対返す。せいぜい勝ち上がってこいよ」

「……言いますね。傷が治った程度で私に勝てるとでも?」

 

両者の間に見えぬ火花が散る。相手の言動次第では、いつでも相手を倒すという、明確な意思が交わされた。

 

「お、王馬さんに倉重社長…!! 今はトーナメント前で、だから、その、そんな殺伐としないで、な、仲良くしましょ……?」

 

堪らず山下一夫が止めに入る。性根はただのサラリーマンのままである彼には、この空気に耐えられるほどの胆力はない。

 

「……そうですね。失礼しました。トーナメントが始まるまでは敵ではありませんし、そう挑発する意味もありませんね。少しお酒が回っていたようです」

「よ、よかった…! いやぁ、それにしても――」

 

両者、とりあえずは和解。そして、山下一夫が口を開こうとしたその時、

 

「皆の衆、待たせたの。これより今後のスケジュールを発表するぞい」

 

上階から声が響く。そのしわがれた声からは考えられない威圧感を放つその男、片原滅堂。拳願会の頂点に立つその男は、意気揚々とこの後の予定を話しだした。

 

曰く、これより27時間後にこの船は目的地へ到着する。その後の闘技者登録を終えて、ようやく各企業の代表闘技者を認定するという。それまで、闘技者同士の私闘は厳禁とも言い渡された。

 

「あの口ぶり、恐らく……」

 

倉重含め、聡い者はすぐに気づいた。これから何が始まるのか。

 

(――面白いことしてくれるじゃん、滅堂のおじいちゃん)

 

彼女の獰猛とも言える笑みを見た者は、ごく僅かだった。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

「それで? 貴方が私の相手ですか?」

 

船の屋外。倉重は一人佇んでいた。虚空に語りかける声は楽しげで、その顔には笑みが浮かんでいる。

 

「へへへ……」

 

その声に応えるように、物陰から男が現れた。筋骨隆々の大男。袖の破けた道着のような衣服を身に纏い、目からは血涙を流している。顔に浮かぶ狂気的な笑みは、血涙と相まって彼の異常性をとことんまで強調している。

 

「壊せる…壊せる…壊せる……」

 

彼―【目黒(めぐろ) 正樹(まさき)】はブツブツと何かを呟きながら、ゆっくりと倉重の下へ近づいていく。

 

「ハァ、話の通じないタイプですか。こんなものまで駒に使うとは、ホントに性格があいませんね、彼とは……まあいいでしょう。――来なさい。貴方の獲物はこの私です」

 

倉重がその言葉を告げた瞬間、目黒は獲物を前にした猛獣のように倉重に飛びかかった。

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

『ドンッ』

 

「わぁ!! な、なんだぁ!?」

 

突如聞こえた音に、山下一夫は驚きの声を上げた。山下一夫だけではない。近くにいた十鬼蛇王馬と、先程まで十鬼蛇王馬に求婚していた呉一族の少女【(くれ) 迦楼羅(かるら)】、そして王馬とカルラの騒動を眺めていた秋山楓、串田凛、そして理人こと【中田(なかた) 一郎(いちろう)】。その全員が、突如として聞こえたその轟音に動きを止めた。

 

「……何かあったのかもしれねぇ。行ってみるぞ」

 

そう言ったのは十鬼蛇王馬であった。内心、いきなり求婚されて困惑極まっていた彼は、とりあえず事態を別の方向に流したかったのである。

そんな彼の言葉に頷き、駆け足で音の鳴った方へ向かう一行。

 

 

―――その先には、

 

「え、ええぇえーー!!!」

 

その光景を見て、山下一夫が真っ先に声を上げた。

 

「ああ、皆さん。やはり先程の音は少し大きすぎましたか。すみません。――もうすぐ終わりますので、少し離れていただけますか?」

 

あくまでも軽く、そう語るのは見知った人物。倉重里香その人だ。

そして、その目の前には何かを叩きつけたように大きく陥没した地面と、頭から血を流して狂気的な笑みを浮かべる大男がいた。

 

「――刺客か?」

「ええ」

 

王馬の問に倉重は短く答える。

 

「あ、あぁ……ほ、ホントに刺客が…!」

「――それだけじゃねぇ。アイツ、倉重里香を殺す気だぜ」

「こ、殺す気!? 倉重社長を!?」

 

王馬の指摘の通り、目黒の脳内は今、倉重への殺意に満ち満ちていた。

殺さずに連れてこいという主人の命令は、先程頭を叩きつけられて何処かへ飛んだ。今彼の中にあるのは、ただ何もかもを壊したいという衝動のみ。

 

「お、お父さん、今、殺すからね……。こ、殺す、ころすころすコロスコロスコロスコロスコロス……」

「――はぁ。哀れね」

 

倉重はそっと呟く。

 

「あ、ああ嗚呼あアアアァぁ―――!!」

 

目黒がもはや人の声とはいえないような音を鳴らしながら倉重に掴みかかった。

倉重の服に手を掛け、思いっきり腕を振るう。それだけで殺せる。同門の先輩をやったように、父をやったように。

――だが、

 

『ドンッ』

 

ある筈の感触は手にないまま、再び轟音が鳴り響き目黒正樹の意識は失われた。

 

「ふぅ~……よし、終わりましたよ」

「あ、あああアンタ…! 終わりましたよって……」

「――死んだな」

 

目黒は、床に突き刺さったままピクリとも動かなくなっていた。顔は半分めり込み、床には大きな亀裂が走っている。その光景は、目黒がどれほどの威力を持って床に衝突したのかを物語っている。

 

「ええ。こういう手合いは、総じて死ぬまで狂気に憑かれたまま彷徨うものです。それならばせめて、ここで介錯をと思いまして」

「柔道ってやつか」

 

倉重が目黒を屠った技、それは柔道の投げであった。ただし、その威力は普通の柔道の範疇を大きく逸脱していたが。

 

「彼が柔道が好きだと言っていたので、付き合っただけですよ。少し試合を見たことがあったので。――今まで使ったことはありませんでしたが、投げるだけなら簡単なものですね」

「なっ!?」

 

山下一夫が驚きに声を漏らす。先程の投げ。一連の流れるような動作といい、受け身を許さぬ完璧なタイミングや形といい、間違いなく洗練された達人のソレであった。まかり間違っても、一度も柔道を経験していないような初心者ができていい動きではない。

 

――しかし、

 

(は、ハッタリじゃない! 倉重社長は、本当にさっき初めて柔道の技を使ったんだ! ――ん? というかそもそも……)

 

「み、見てたってアンタ、目が――」

 

「おお!! 竜華姉!! 久しぶり!!」

 

迦楼羅の発した一言に、その場は凍りついた。唐突に告げられたその言葉の意味を、皆処理しきれなかった。

 

「……迦楼羅、来てたんだね。それじゃあ、正体なんて隠せるわけもない、か。――皆さん。これから見ることは、私がいいと言うまでここだけの秘密にしておいてください」

 

倉重理香はよく通る声でそう呟くと、自らの目を隠している布を解いた。

 

「「「「なっ――!?」」」」

「改めて……迦楼羅の従姉妹の、呉竜華。よろしくね」

 

呉一族の象徴たる黒い瞳を覗かせて、竜華はニヤリと笑った。




少年Mがろくに戦闘描写すら描かれずに退場、か。……柔王にぶん投げられるかもしんねぇ。
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