「そろそろ古くなってきたし、新しい靴を買おうかなぁ。」
“吸血鬼下半身透明”こと俺は玄関先に置いているスニーカーを手に取って検分していた。
能力によって下半身が透明で見えないって言っても俺の身体はきちんと五体満足で存在している。
バカ兄貴と違ってズボンもしっかり穿くし靴もしっかりと履いている。当然使い古せば草臥れていくものである。
「こういうの、かっこいいけどなぁ…」
数日前に買っていたファッション雑誌を見ていると、あっちゃんも興味深そうに覗いてきた。
「あっちゃん、これ男向けだけど一緒に見る?」
「う ん、みる 。」
残念ながら手元にはメンズ雑誌しかなかったが、別に構わないらしく暫く一緒に眺めていた。
「お にい ちゃ、おな か すい た」
「あっちゃん、おなかすいちゃった?それじゃファミレスでも行こうか。」
お腹が空いたらしいあっちゃんを連れてファミレスに行く為、自宅を出発して駅へ向かって歩き出す。
その途中、ピコンとラインがきた。
『from野球拳バカ 今晩泊めて♡』
「『今から駅前のサイゼ行くから現地集合。ついでにビキ兄にも声掛けてね』と。あっちゃん、兄貴達も来るってさ。」
「わあ い。」
勝手気ままな長兄に存外寂しがり屋な次兄も呼ぶようラインを返しつつあっちゃんに報告すると諸手を挙げて喜んだ。
暫くして合流したファミレスで食べながら談笑していると靴の買い換えを検討しているという話になった。
「たまには下駄とかどうだ?お化け屋敷にはしっくり来ねえか?」
「黙れ愚兄!そんな不安定な履物だと歩きにくかろう!私みたいな革靴はどうだ?この佇まいを見ろ、優雅で美しいだろう?」
なぜか自分が履いてる靴を勧めてきた兄たちに思わずため息をつく。
「あのねぇ、まずは下駄についてはミカ兄の言うとおり歩きにくそうだし。あと革靴についてだけどメッチャ高そうだし。そもそも俺、普段は能力使いっぱなしだから優雅で……とか言われても見えないし。ってことでこのあと靴屋付き合ってよ。」
せっかくのオススメだかは却下させてもらって4人で靴屋に行ってみることにした。
「いらっしゃいませー」
ヴリンスべべのビルにある店舗を訪れた俺らは各々見て廻ることに。
店頭ではなくその裏手に並んである商品を見るとお目当てのモノを発見した。
「あったあった。やっぱり気軽に履けるスニーカーがいいよなぁ。リーズナブルだし洗いやすいし。」
さっき革靴を勧められた時に高いからと突っぱねたが、やはり堅苦しく感じてしまうから嫌なのだ。
「えーと、あっちゃんは?」
あっちゃんは店内を興味津々でキョロキョロしていた。そういえばあっちゃんが来てから靴屋に来たのは初めてだったろうか。物持ちがいいほうだからな俺。
「それにしても今まで気にしたことはなかったけど、あっちゃんはずっと裸足なんだよなあ。」
病院内の床はスベスベのタイルで怪我の心配は無い。それにホラー要素としてペタペタという足音が効果音としてキマってるからいい。
ただ地縛霊といいながらもこうやって俺たちと外出する事も多いのだ。
「ねぇあっちゃん、こうやってお買い物しにきたりお散歩したりした時にさ、足の裏が痛かったりとかしない?大丈夫?」
急に心配になった俺が問いかけるが、あっちゃんはウーンとちょっと首を傾げて考え横に降った。
「だい じょ ぶ。くさ の とこ チク チ クして おも しろ い!」
そういって本人としては問題ないらしい。
「あっちゃんは実体化してるとはいえ幽霊だからなぁ、やっぱ俺らとは感覚が違うのかねえ…」
そう拳兄は言い、あっちゃんの頭を撫でている。
「とりあえずお風呂上がりに保護クリーム等を塗ってやると良いのではないか?肌荒れ防止にもなろう。
それよりあっちゃんは可愛い物が好きな女の子だからな、せっかくだから女児向けの靴も見てこようか。」
ミカ兄に誘われるまま子供靴コーナーへ行ってみた。
あっちゃんは女児向けのスニーカーやサンダル、発表会で使うようなシューズがある陳列棚で目をキラキラさせ立ち止まった。
「か わ いい!!」
様々な色系統のカラフルな下地にリボンが付いていたり、花柄やキャラクターが描かれていたり…
かわいいものが大好きなあっちゃんにはたまらない光景だった。しかし大きな大きな問題がひとつ。
「分かってはいたけど、やはり通常サイズのあっちゃんには小さいよね。レディース用だと流石にここまで可愛いのはないだろうし…」
集合体の為だろうか体躯だけで言えば三兄弟よりも大きい。
たまに分裂し幼児サイズになるとはいえ、それだと1つ2つ買うだけでは足りない。そもそも分裂する数もサイズも本人たちがどれくらい分かって変化させているのだろうか…。
ふむぅと考え込んでいるうちにペタペタ足音と共にピンクを基調とした上面にリボンが付いた可愛いサンダルを持ったあっちゃんがやってきた。
「あっちゃん、それが欲しいの?」
「うん!これ ほし い」
ニコニコ顔でのおねだりに先程までうだうだ考えてた事など吹き飛び快諾した。
「待て待て、透、ちょっとだけそれ貸してみ?」
拳兄はそういうと売り場へ向かうと少しして戻ってきた。
「はいよ、同じサンダルの1番デカいサイズ。デカくねえとあっちゃんが分裂しても入らない可能性もあるからな。」
「ふん、愚兄のわりに気が利くじゃないか。どれ透、お前の分もまとめて買ってやろう。」
「お、マジで?ワーイ、やった!」
「うれ しい」
嬉しそうに買ってもらったサンダルを胸に抱いたあっちゃんが、ウキウキとホラーホスピタルへ帰り早速分裂したのは言うまでもない。
暗い夜道で、真っ暗な病院内で、今もまたペタペタ足音が聞こえてくる。
最近はキュッキュッと子供靴の音がひとつ、たまに増えるようである。