「おい、そっちに何匹か行ったぞ!」
「じゃあそっちは任せた!ホラ行くぞ、ナギリ。」
廃墟ビル群にて下等吸血鬼が大量発生したとの連絡を受け、現場へ駆けつけた退治人見習いナギリ含むハンターギルドと吸血鬼対策課の面々は退治に勤しんでいた。
最初は地上にいたものの倒していくうちにビルの中にも潜んでいる事が判明したため、手分けして当たることとなった。
「うわっこんなにいるのかよっ!居すぎだろっって!」
移動した個体を追いかけ廃墟ビル3階の1室へ踏み込むと、思いがけず他にも何体かいてショットは悪態を付いた。
「ハァッ、ったく、ここで終わらせるぞ!」
同じく悪態を付きながらも武器である血刃を使い、相手の攻撃を躱しながら切り裂いて退治していく。
そうこうしているうちにいつの間にか壁が崩れてしまっている窓際で格闘をしていた。
「ナギリ、気をつけろよ!」
そう声を掛けたショットの言葉が聞こえたか否かの瞬間、開口した窓を背にしていたナギリに向かい比較的小さい個体が飛びかかる。
ナギリは一歩下がり武器である血刃でスパッと斬り裂いた。真っ二つになり塵となる光景に嘆息しかけたまさにその時だった。
「ナギリ!まだだ!!」
先程よりひと回り大きいサイズの個体が突然目の前に現れ、ナギリに襲いかかってきた。
「うぉわっ!!」
飛びかかられ圧される形になったナギリは後ろへバランスを崩し…
「ナギリー!!」
こちらに駆け寄ろうとしたショットを目の端に捉えつつ大きく開いていた窓から背中から空中へ倒れ込むように落ちていく。
共に窓から飛び出した下等吸血鬼は落下に構わず本能のまま、眼前にいるナギリ餌目掛けて吸血の構えを見せる。
「こ、の…虫ケラがぁ!!」
思いきり叫びながら右手の刃を振り抜き、文字通り一刀両断にされた吸血鬼は灰塵となり消失した。
それと同時に身体を捻り壁に向かって脚をのばし、靴底からも大きな刃を出現させるとドスッ!とビルの外壁に突き立てる。一瞬脚を外壁に縫い留めることは出来たものの身体は壁にぶつかる。
「ぐへぇっ…」
衝撃で脱力しかけたものの、ガリガリと踵に生やした刃を使いコンクリート製壁の表面を削るようにしてずり落ちていく。
「ナギリさん!」
それでもスピードが無くなっていた事が幸いし、気付いた下の階にいたサテツに助けられた。
その後無事に退治を終えた面々は軽く打ち上げをするとの事でナギリも退治人ギルドへ来ていた。
緊急の仕事が入る可能性もあるため酒類は出ないものの、各々好きな飲料で乾杯をする。
ナギリが頼んだのはミルクセーキだ。もともとはあまり酒が得意では無い為、歓迎会パーティーの際困ってしまい、マスターに相談したところ作ってくれたのが最初だ。
「いやー、それにしても最後のアレにはビビったぜ。ナギリ本当に大丈夫だったか?」
いつものごとくクリームソーダを片手にショットが話しかけてきた。
「あぁ、なんとかな。ただ流石にヒヤッとはしたな。」
そう答えながら一口飲むとどこか懐かしいような優しい味が口の中に広がっていく。ようやく先程までの緊張状態が解れていき大きく息をついた。
「私達は咄嗟の動きに対応出来るよう訓練するものだけど、アレはホント凄かったわ〜ハラハラしちゃった!そういえば足裏から刃が出てたようだけど靴とか平気なの?」
そっと靴を確認すれば案の定大きな裂け目が出来ていた。
「あー……マスター、強力接着剤と長めの紐あるか?」
以前吸血鬼対策課の爆音警官と仕方なく共闘した時にも同じようなことがあった事を思い出した。あの頃は買うことも出来なかった為、靴にぐるぐる裂いた布地を巻き付けて対処した。今履いている物は退治人見習いになる時にとりあえず適当に見繕い買ったヤツだ。
「もしかして接着剤で修繕するつもりか?」
「あぁ、また靴買いに行くのは面倒だ。くっつけりゃまだ使えるだろ。」
金が無いわけではないが、未だに人見知りのきらいがあるナギリは店員とのやり取りが苦手なのだ。
「ちょっとしたトコならともかくそんな大きく裂けてたら、いくらなんでも素人が修繕するのは無理じゃねぇか?…!そうだ、メドキ!」
「は〜い?なに〜?」
ナギリの靴裏を眺めていたショットが声をかけると隅っこのほうで飲んでいたメドキが片手をあげて応えた。
「お前んとこでさ何かギミックを仕込んだ靴とかナギリ用グローブとか何か作れねえ?」
「? 俺の?」
そうだとひとつ頷いたショットはピッとナギリの足の爪先あたりを指差す。
「お前の武器は身体から直に出す刃だ。ただ何か越しに出しちまうとその靴みたいに裂けちまうだろう?足からはあまり出さないにしても、いつも手から出してるから冬場は手袋とか着けられないじゃんか。だからこう…穴が開いてもすぐ戻る素材とか刃を出す時にボタン押せばその部分が何センチか開く仕掛けとかさ。」
「…そんなどこぞのメカみたいなヤツ作れんだろう。」
少し呆れの目で見るナギリを横目に思いつくままショットがプレゼンし、メドキはふんふんと頷きながらメモを取る。
「…なるほど、よしこんなものかな。それじゃとりあえず挑戦して作ってみようかな!意外と靴の方はあっさり出来るかもしれん。」
「!! そんなものが本当に作れるのか?」
メドキは大きく首肯しメモをパタンっと閉じると得意げにナギリへサムズアップしてみせた。
「任せて!メカニック技術は日々進歩・発展してるものだからね。きっといいのができるさ!」
「おー、頼んだぜメドキ。よし、とりあえずその靴は修理屋に持ち込むか。俺の顔なじみがやってる店あるから一緒に行ってやるよ。」
「あぁ…じゃあ…よろしく頼む…」
ショットに肩をバシバシ叩かれながらそうつぶやきナギリはグラスに残っていたミルクセーキを飲み干した。
その後暫く試作を重ねた末に完成した『刃感知型ファスナー』という特殊ギミックを搭載した専用靴を手に入れたナギリは、話を聞いた爆音警官と漫画家からキラキラした眼で実演と説明を迫られたのだが、それはまた別なお話。
こういうギミックの場合、本人より周りがテンション上がってしまうかと思われます。小さな友達も「カッコイイ〜」と言ってくれるのでは。