TS転生した上に美少女の幼馴染までついてきたぜ! 勝ったな(勝っていない) 作:鐘楼
蹂躙である。敵地にひしめき合っていためっちゃ強そうだったはずの魔獣たちが、レフバーちゃんの祝詞無制限連射によって塵と化していく。マジで俺のアサインはなんだったんだ……とは正直思うが、リスクヘッジの重要性は分かっているつもりだ。勝率99%が99.9%になったくらいの一手だとしても、やれるならやっておいた方が良い。
というわけで、手はず通りに潜入暗殺作戦を開始することとする。
「《パーフェクション》《ウォーゲーム》《光線回折》」
新しく覚えた祝詞を発動し、俺の姿がかき消える。発動したのは、銃を貰った祝詞と同じ起源書のものでいわゆる光学迷彩というやつだ。光が俺の身体を迂回して通ることによって……えー、とにかく透けるというわけだ。ぶっちゃけ原理は全く理解していないが、大事なのは結果だ。そもそも事象を引用しているらしい祝詞がその辺りをどこまで再現しているのか分からないしな。とにかく俺はステルスに透明化したというわけだ。
準備を終えたところで、ものの見事に手薄になった敵陣へと潜入を開始する。手薄といっても、パっと見ショボそうな魔獣がいくつか残ってはいるようだ。レフバーちゃんにぶつけてもむしろ足手まとい、ということなのだろうか。
今の俺は見えなくなっているとはいえ、逆に言えばそれだけだ。音で悟られないよう、慎重に奥地へと進む。幸い、音を消して歩くことに関してはそれで食っていけるくらいの自信がある。一切気づかれることなく身動きが取れることを確認した俺は、魔獣の背後を取った。
わざわざリスクを冒して魔獣に近寄ったのは、手札の確認をするためだ。あえて手を使わずに、念じてみればレフバーちゃんの説明通り布がたなびいてザラさんの腕が露わになる。そう、本当にこの腕で触れるだけで殺せるのか試そうというわけだ。
……近づいてよくよく見ると、大分キモいな魔獣……なんというかスライム! ゴブリン! オーク! みたいな王道な魔物タイプではなく、普通にSAN値削ってくる系の見た目をしている。ほぼ人間が素材のキメラって言ってたし、その方が自然ではあるんだけども。
まぁ仕事なのでその気持ちは飲み込んで、左腕を素早く動かし魔獣の首……と思われる部位を掴む。すると、特に暴れたり苦しんだりするようなこともなく魔獣から力が抜けたのが分かった。手を離すと、案の定魔獣は力なく倒れる。間違いなく死んでいるようだ。……そして間違っても催淫効果などなかった。冥葬族ェ……。
あくまで観察からの推測だが、“息の根を止めた”というより“黄泉へと誘った”というような表現の方が的確だったというか、本当に眠るように死んだと思わせる死に様だった。無駄に苦しませないのは好感触だが、効果が現れるまで触ってから一秒もかからなかったのはあまりに危険だ。まぢ取扱注意である反面、頼もしすぎる必殺技にもなり得る。『迅閃』で加速して左手振り回してるだけで勝てちゃうんだからな。
ひとまず、これで一安心だ。明確に通用する手札が一つあるということが分かったからな。せっかく手に馴染む銃を貰ったのは良いものの、それが魔獣に有効なのかは未知数だ。いざ頼りにして急所っぽい場所を撃たれても平気でした~! なんてのは冗談にならない。もちろんやってみなければ分からないが、腕と違って試したら音が鳴って周囲の魔獣にバレてしまう可能性が高いからな。
……いや、そういうのも祝詞で調べられるのでは?
「……リュッケ。魔獣の分析がしたい。そういう祝詞ないか?」
──ちょっと待って……あったわ。
というわけで、おあつらえの祝詞がないか超小声でリュッケの聞いたところ、しっかりあったらしい。
──復唱して。《ツリーテイルファンタジア》《神樹ノ大地》《アナライズ》。
「《ツリーテイルファンタジア》《神樹ノ大地》《アナライズ》」
祝詞を使用すると、死した魔獣の情報が頭に流れ込んでくる。おぉ……これが解析魔法的なアレか……肝心の結果だが、少なくともこの魔獣に関しては銃が効かないほど堅くもないし、ど真ん中にある心臓を撃てば死ぬっぽい。だが、脳の部分はぐちゃぐちゃで機能していないらしく、破壊しても関係なく動くようだ。これは魔獣共通の特徴かもしれないし、頭が急所じゃないってのは覚えておくべきだろうな。
……にしてもこの祝詞、あまりに便利だな。殺した魔獣の情報だけじゃなく、障害物を貫通して割と広い範囲の情報が……うん?
「人……?」
木やら草やら魔獣やら、そんなものの情報ばかりが流れ込んできた祝詞の終わり際、場違いな情報が引っかかった。
──ヒト……? ハナビ、どういうこと?
「解析範囲ギリギリ……十メートルぐらい先に、生きた人間がいる」
レフトオーバーによれば、創獣族は巫女以外全員魔獣に変えられたはずだ。それが正しければ、そこにいるのは創獣族ではないということ。これが例の巫女であるにしては、あまりにガードが手薄すぎるから。
じゃあ何者なのかという話なのだが、それは今から確認するしかない。
相手にも魔獣にも、今の俺の姿は見えない。ならば、気づかれずに近づくのも簡単だ。音だけ気をつけて感知した場所へと近づく。そこにはいかにも隠れやすそうな洞穴があった。これを見逃すとは意外と魔獣も雑な仕事をするもんだなと思いつつ、突入。
倒れている人間を確認し、透明化したまま記憶に染みついた動きで組み伏して銃を突きつける。
「っ!? なに……っ!」
「……静かに。魔獣に見つかる」
気を張り詰めていたことが窺える弱々しい声。組み伏した相手は少女だった。なので俺は銃を仕舞い、姿を現して対話を試みることにする。
……ってか、この子……白髪と、毛先に揺らめく焔。その特徴は見紛うことなく焔精族のもの。
「君、焔精族? なんでこんなとこに……」
「あ、あなた……」
「うん?」
確かに焔精族と創獣族の土地は隣り合っていたが、だからと言ってなんでこんなところにいるのか。そう問おうとしたところ、少女は俺の顔を見て青い顔をして震え始めた。なんだ、確かにいきなり組み伏して銃口突きつけたけど、そんなにビビられちゃうか……かなしい。
「あの時の……! キヌさんを誑かしたスパイ……!」
「え?」
俺を睨む少女の口からは予想外の名前が出てきたのだった。
初コミケに連行された後に某作の最終章一気読みしたら祭唄のこと考えすぎてしばらく鬱になったので遅れました。はい。