TS転生した上に美少女の幼馴染までついてきたぜ! 勝ったな(勝っていない) 作:鐘楼
ホノカを連れて退避するというのは決定事項だが。それにあたって少しだけ面倒なことがある。それは、潜入に使っていた透明化の祝詞《光線回折》は他者に付与できないということだ。
「ってことで、割と強行突破になると思う。とは言っても、今は触られても魔獣にされるってことはおそらくないし、そもそも俺の仲間が強い魔獣を引きつけてるから大した敵は居ないはずだ。そこまで心配する必要はないぞ」
《アナライズ》の結果からして、ホノカが目の当たりにしたような壊れ能力を雑魚魔獣が持っている可能性はかなり低いと思われる。もちろん、敵の巫女の意思一つで能力が付与される可能性があるので触らないに越したことはないが……でも、今はホノカの安心が最優先だしな。というか別に触られないで殺せそうだし。
「……それを聞いて安心しました。あれさえなければ魔獣などに遅れは取りません……!」
「いや出来れば下がってて欲しいんだが……あ、それと注意。俺のこの左腕な? 布が解かれてる時は絶対に触るなよ。死ぬから」
「死……え?」
「死ぬから」
「は……はい。分かりました」
同行する上で最も言っておかなければならないこと、俺の肩にくっついてるザラさんの愛の証もとい危険物については説明が面倒なので凄みでごまかす。俺の真剣な声にビビったのか、ホノカはとりあえず納得したようだ。
「さて……《ツリーテイルファンタジア》《神樹ノ大地》《アナライズ》」
再度解析の祝詞を発動し、索敵として活用する。これ、感知の範囲は以前使った《サーモレーダー》と大して変わらないしマジで便利だ。
「それは……一体どこの種族の祝詞ですか?」
「え? あー、俺も知らない。まだ生き残ってるのかも分からん」
「それはどういう……」
とにかく、索敵の結果は半径十メートルに魔獣が五体。二十メートルで二十二体。いずれも雑魚同然で、特別厄介そうなのは見当たらない。うん、ゴリ押しで行けそうだな。
「じゃ、ほれ」
「ほれ……? はい?」
「乗れって。走り抜けるから」
なんか共闘するみたいな雰囲気が出ていたが、そんな必要はない。俺がホノカを背負って祝詞で加速。ガン逃げで土地の外まで走り抜ける。これでミッションは達成なのである。しかし、ホノカは一向に背に乗ろうとする気配がない。
「おーい、ホノカちゃーん?」
「……舐めないでください」
「え?」
「わたくしは戦えます! あなたにそこまでされるほどお荷物ではありません!」
「えー」
お荷物とかじゃなくて最適解がこれだと思うんだが……どうやら俺の物言いが要らぬプライドを刺激してしまったらしい。ま、それってつまり俺に良いとこ見せたいってことだろうからかわいくはあるけど。
「……じゃ、見せて貰おうかな。危なくなったら抱えて逃げるけど、一先ずは魔獣と戦ってみようか」
「望むところです……!」
少し考えた末、俺はホノカの好きにさせることにした。《アナライズ》の結果を全面的に正しいと仮定すれば、万が一危なくなってもホノカを守り通せる自信があったし、戻ってくるのが遅れるのも……まぁレフバーちゃんが一人で勝てば問題ないからね!
「決まりだな。今から三十秒で洞穴を出る。そしたら入り口から三時と十一時……えー、左右に魔獣が居るから、右を頼む」
「了解ですわ」
超簡易な作戦を指示して、俺は仕舞っていた銃に手をかけて祝詞の準備をする。ホノカも考えは同じだったようで、聞き馴染みのある祝詞を口にしていた。
「《鉄と正義と》《装鋼》……」
「《火の精の恩寵と試練》《寵愛》……」
……三十秒。タイミング通りに、俺とホノカは洞穴を飛び出す。
「《ペネトレイト・レイ》」
「《焦火旋》!」
既に標的の位置を完璧に把握していた俺は左前方の敵をノールックの光線で貫く。もしホノカが失敗しても、もう片方の手に握られた銃でカバーができるように右に注意していたのだが、それは杞憂だったようだ。
ホノカの放った祝詞《焦火旋》は魔獣に見事的中し、丸焼けにすることに成功していた。ホノカの指先から火花が走り、やがて魔獣の身体に触れたそれは体表を迸るように旋回して身体を焼き尽くす……なかなか使い勝手が良さそうに見えるが……《寵愛》ってことは第三章、第三階梯か。
「おー、やるじゃん。それ第三階梯だよな?」
「当然です! わたくしは巫女候補隊の中でも特に優秀ですから、第四階梯までマスターしているのです!」
「おー」
第四……か。シャーリーよりマシだが、ヒョウヤでも第五までいけたよな? うーむ、やっぱりあまり頼りにはできなさそうだ。別に階梯が祝詞の強さと完全イコールであるわけでは断じてないが、『火の精の恩寵と試練』の祝詞は素直な性能のものが多い。高位の《黒焔爆葬》なんかは本当に強いんだが、下位のものは上位の下位互換になりがちなのだ。
「その……あなたの祝詞は……先ほどのものとは全く別種の……」
「はい油断しなーい」
「きゃっ」
会話に夢中になりすぎたのか、背後から突進してくる魔獣に気づかないホノカを抱き寄せ、魔獣の力を受け流すように回し蹴り。見事勢いそのままに壁に激突した魔獣に向かって三発銃撃。狙い通りに心臓を破壊された魔獣は機能を停止した。
「あ……その……申し訳ございません……」
「良いって。ビギナーに戦場で会話振った俺も悪かったし。で、俺はどんな種族の祝詞でも使えるんだ。生まれも育ちも焔精族だし、スパイじゃないぞ?」
「そう、だったんですか……」
まぁ、今となってはスパイ云々より前の指導者っぽいおっさんとか諸々をぶっ殺した罪の方が大きいだろうし意味のない話だけど。……ホノカってこのことどう思ってんだろ。忘れてんのかな。
「って、待ってください! どんな種族の祝詞でも使えるって……! そんなムチャクチャが……っ!?」
「《ツリーテイルファンタジア》《神樹ノ大地》《アナライズ》」
《アナライズ》をかけ直し、状況の確認。周囲の魔獣がどんどんこちらに集まってきているのが分かる。音たてまくってるから不思議じゃないが……この量だとネットワーク的な何かで情報共有が行われてる可能性も考慮だな。
敵の数は多いが、位置が分かっていて銃が通用すると分かった今なら問題にならない。前方の茂みに三体。左が二。右は五。洞穴上の台地から二体。
「《いかづちのさえずり》」
まずは前。的さえ分かっていれば俺は外さない。三体に三発でそれぞれ心臓をぶち抜き処理。次いで右。こちらも三体を処理するが、その時点で接敵間近。俺はホノカを抱えたまま安全な前方へ移動する。
「きゃっ……!」
「《痺鷲の光明》」
結果、勢い余った左右それぞれ二体の魔獣は俺たちが居た場所に集まり、激突したりもしていた。そしてちょうどそのタイミングで後方……台地を通って上から襲来した魔獣もその場に参戦。魔獣たちが一カ所に集まるタイミングが生まれた、ちょうどその時に。
「《招雷》」
体感、全くの同時に襲い来る轟音と閃光に一カ所に集まった魔獣がのみ込まれ、消し炭と化した。《いかづちのさえずり》の第六章、《招雷》が完璧に決まった形だ。
「す、すごい……」
「うーん……やっぱだめだな」
「え?」
「キリがない」
第一波を上手く処理したのは良いが、《アナライズ》は次の魔獣が既に向かってきていることをはっきりと伝えていた。
「というわけで……」
「ちょ、ちょっと……!」
逃げ、一択! 戦えなくもないが、さっさとホノカを逃がしてからの方が絶対に良い。ので、俺は有無を言わさずホノカを持ち上げる。背には乗ってくれなかったので仕方なく、お姫様抱っこで。
「《いかづちのさえずり》《飛燕の電光》……ちゃんと掴まっててくださいねー」
「なっ、なにを……」
「《迅閃》」
「っ~~~!」
青い光を纏い、超加速。いつも誠にお世話になっている《迅閃》を使い、数多の魔獣を置き去りにして俺たちは逃走に成功した。
遅因:わたモテ一気読み