TS転生した上に美少女の幼馴染までついてきたぜ! 勝ったな(勝っていない) 作:鐘楼
「……ハナビ」
痛々しい沈黙の中、最初に口を開いたのはリュッケだった。だが、俺はそれを敢えて遮るように声を上げる。
「はい! サレンダーなどは可能でしょうか!?」
「……あんたねぇ……」
そう、こんなの投降一択である。まだリュッケに話が通じる可能性に賭けて命乞いをしてみると、リュッケは俺の知る彼女と同じように呆れた声で応えた。……思ったより豹変してない……か?
「それでいいの?」
「いやぁ、どう考えても無理ゲーなんで。それにリュッケと戦うくらいなら死んだ方がマシかなって」
「……そ」
そもそも雇い主のレフトオーバーがいないのだ。無理して戦うこともない。まぁこの世界は滅ぶだろうけど、俺がリュッケと戦ってまでそれを止めるのかっていうと、微妙なところだ。
「なのでぇ、ほら! 色々話聞きたいなって。このままだとモヤモヤしちゃうんで~、冥土の土産話的な!」
「……まだ何も言ってないでしょ」
ここで終わるのなら、さすがにリュッケの正体くらいは聞いておきたい。死んだ後ザラさんと話してる時にずっとモヤモヤしそうだし。
「えっとまず……みんなかわいいけどアレなの? 界喰みってアイドルユニット的なやつなの?」
「そんなわけないでしょうが!」
「じゃあなんなのー? なんでリュッケがセンターなの?」
「だからアイドルじゃ……」
「それはね。リーダーが“わたしたち”のはじまりだからだよ」
漫才ばかりで話が進まない俺とリュッケの代わりに、巫女の少女が結論を口にした。
「はじまり?」
「碌でもない世界を壊したリーダーはね。他の世界でも自分と同じように理不尽な世界で全てを憎む子を仲間にして、全部メチャクチャにする為の力をくれるの。そうして“わたしたち”はどんどん大きくなった。その一番はじめだったから、リーダー」
「ふむ……えー、ちょっとタンマ」
レフトオーバーは、適性のある現地民を乗っ取るという表現をしていたが、眼前の少女の様子からして実態は異なるように見える。薄々、界喰みがどんな存在なのか勘づいてきているが、確認のために疑問を口にする。
「君は……アレだよな? 創獣族の巫女だったんだよな? なんでリュッケについてそんな詳しいんだ?」
「確かに私は創獣族のニコだったけど。今はもう“わたしたち”になったから」
「……仲間になった時点で、アタシたちは“同じもの”だから。記憶や感情が連動するの」
「……道理で」
納得した。それは巫女の子が新入りの割に事情通なことや、リュッケの記憶が戻ったらしい理由もそうだが、なんとなく俺を取り囲む界喰みの皆さんの目線がリュッケを奪われる前と比べて軟化していることについてもだ。おそらく、記憶の連動は界喰みからリュッケへの方向だけでなく、リュッケからここの全員についても発生している。リュッケの俺に対するほんのちょっとの親愛が全員に伝播しているのだ。
「え、じゃあニコちゃんの自己紹介みたいなのはそのネットワークでやってて、聞いてないのは俺だけってこと? ずるくない?」
「なんでアンタに教える必要があんのよ」
「……良いよ。教えてあげる」
リュッケは渋ったが、巫女のニコちゃんは教えてくれるらしい。彼女はハイライトのない目で、ずっと傍らに控えている魔獣を撫でた。
「……この子はね、私の弟」
「……っ」
これは……言葉通りの意味だろう。魔獣の材料は人間。レフバーちゃんによれば、ニコちゃんが暴走する前から創獣族は……。
「弟はね、私と違って託士の才能がなかったので魔獣に変えられたの」
「焔精族が祝詞の才能を調べるのは俺くらいの歳だったけど、ここでもそうなのか?」
「そう。八つの誕生日を境に、弟は楽しみも笑顔も言葉も何もかも奪われたの」
そこまでは弟だった……いや、弟である魔獣を愛おしそうに撫でながら語っていたが、ニコは急に形相を変えて倒れ伏すレフバーちゃんを睨みつける。
「それなのに……! ただ祝詞が使えるだけの愚図が生き残って! この子を道具みたいに扱って……! だから、だから力を貰ったら真っ先に創獣族の愚図どもを魔獣にしてやったの! この子と同じ苦しみを与えてやるために……!」
「……」
レフトオーバーの話を聞いたときから、分かっていたことだ。そういうこともあるだろう、と。そのまま、ニコは真っ当で正当な怒りと怨嗟を吐き出し続ける。
「そして! “わたしたち”になって知った! アレが! 悲劇を生み続けるくだらない世界を創った全ての元凶なんだって!」
溢れる憎悪の籠もった目で、ニコがレフバーちゃんを睨みつける。
「ねぇ……それなのに、ハナビさんはアレの味方をするの? こんな世界が大切なの?」
「……」
……参った……なんも言い返せねぇ……あまりに正論すぎる……。
実際のところ、俺もここは終わってる世界だと思うし、リュッケが人質として機能していない今レフトオーバーの味方をする理由はない。かわいいポイントでならリュッケ+ニコ+αで界喰みの勝ちだし。
「……ねぇ、ハナビ」
俺が身の振り方を考えていると、リュッケが口を開く。
「アンタは……元の世界で唯一の家族を殺されてるでしょ? 世界が憎くないの?」
しゃがんで、正座している俺に目線を合わせて、そんなことを言ってきたのだった。