TS転生した上に美少女の幼馴染までついてきたぜ! 勝ったな(勝っていない) 作:鐘楼
俺です。ハナビです。ザラさんに主導権を取られた哀れな俺です。どうやら交代をしても意識がなくなるわけではないようで、周囲の状況を把握することができる。とはいっても身体の感覚は感じないし、無理矢理動かされているような感じもしない。主観視点の映像を見ているような感覚が近いだろうか。普段のザラさんもこんな感じだったり?
「……本気? アンタ一人でアタシたちを?」
ザラさんに向かって、リュッケが挑発的な笑みを浮かべる。確かに、リュッケたちは世界まるごと滅ぼしてきた存在らしいし、ザラさん一人では勝てないようにも思える。うーん、でもまだザラさんの全力見たことないしなぁ。
「万全ではないのでしょう。それは私も同じことですが、今の貴方がたなら滅するのは容易く見える」
レフバーちゃんはこの世界に侵入した界喰みはほんの一部だって言ってたっけ。それでも負けてるけど。だから、今この場にいるリュッケたちはフルスペックじゃないんだろう。
「……舐めないで。それに、まるでアタシが倒されたがってるみたいな言い草だけど」
「事実でしょう? 世界を滅ぼすほどの狂気を保つため、貴方がたは新たな仲間から怒りと憎しみを補給していた。それが、貴方が持ち込んだハナビの記憶によって揺らぎつつある」
「黙って。もういいわ。力で思い知らせてあげるから」
リュッケが止めて欲しがってる、か……俺もヒョウヤに似たようなこと言ったけど、復讐は正気に戻ったら負けというか。ましてや世界を滅ぼすなんて過剰な復讐は、ひとたび巻き込まれた第三者のことなんか考えてしまった日には足が止まってしまうだろう。本当に世界の全てやそのものが敵だったなんてことはそうそうないだろうし。あ、ニコちゃんは別ね。そりゃレフバーちゃんは十割悪いよ。
……でもやだなー。二人が殺し合うのは。でも、あれだよな。これ勝負つくのかな。リュッケたちは生きてるわけじゃないとか言ってたし、ザラさんも戦いで死ねるのならお兄さんお姉さんが死ねないことに悩むこともなかっただろうし。
「では」
「っ!」
先に動いたのはザラさんだった。先に動いたといっても、鎌で軽く地面を叩いただけ。たったそれだけで、地面が異界と化した。半径十メートルほどに広がり、逃げ遅れた界喰みメンバーの子たちが、蒸発するように消滅した。
「ぐっ……! 創ったの!? この場所に冥界を……!?」
「えぇ。この領域に一歩踏み入れば、その仮初めの肉体は機能しないと思いなさい」
なにこれぇ……こわいぃ……。ザラさんの周囲が、地底の冥葬族の土地のような様相に変わった。だが、これと比べれば地底のは見た目だけだったんだなと分かるくらいに気配がガチだ。
「……やはり、ここは酷く澱んでいますね。今に限っては好都合ですが」
「それ、踏み入れなければ良い話よねッ!」
領域に入らなければ問題ないと、界喰みたちが遠距離攻撃を仕掛けようとする。が、攻撃を放とうとした界喰みたちの動きがなぜか止まった。
「っ! なに……!?」
いや、なぜか、じゃない。見れば、リュッケたちの身体に白いものが纏わり付いていた。似ているものを見たことがある。初めて会ったときにシャーリーが連れていた人魂だ。すっかり忘れていたが、冥葬族が幽霊を使役できるならザラさんにもできて当然だろう。
「通常、正規の世界では魂の流転がその世界で完結するよう整備されています」
「なんの、話よ……!」
「ですので、死の重みや死後の扱いも世界によって異なりますし、世界を跨いでの転生など普通はありえない」
この話が今の状況と繋がっているのかはよく分からないが、ザラさんの言っていることは分かる。お盆に死者が本当に帰ってきたり、ザオリクが普通に使えたりドラゴンボールがあったりしたら、死ぬことの意味合いも変わってくるだろう。で、異世界転生は普通ありえないらしいが……逆に同世界ならあるのか?
「ですが、ここは魂の扱いがあまりに粗雑です。その証拠に、無数の死者の魂が至る所に放置されている。意図的に、でしょうが」
……つまり、魂の管理を敢えて放棄しているから死者は漏れなく地縛霊になってるし、起源書で世界を繋いだついでに俺みたいなのが入ってくるってコト!? レフバーちゃんさぁ……。
「管轄外ではありますが、私であれば彼らに真の安らぎを与えることができます。その代価として、少し手伝って貰うくらいは良いでしょう」
「それが、こいつらって、わけ……ね」
霊障にガッツリ晒されてるリュッケたちは苦しそうだが、これで終わるとは思えない。この程度でやられて世界を滅ぼせたりはしないだろう。
「でも、無駄よ……セイズ!」
「ゴーストスマイト!」
リュッケにセイズと呼ばれた界喰みの一人が、叫ぶと、界喰みたちを縛っていた人魂が消滅……というか昇天した。よく見れば、セイズという子はボロボロのシスター風の衣装を纏っていた。“仲間”にした子の能力の多様さで、どんな局面でも打開できるのも界喰みの強みってことか。
「……」
「それに、アンタの不意打ちだって全部無意味よ」
俺も、おそらくザラさんも、リュッケの言葉の意味を最初は理解できなかったが、次の光景を見れば嫌でも理解してしまった。
あの、赤い水たまり。そこから、ザラさんの初撃を躱せず消滅したはずの子たちが現れたのだ。……生きてるわけじゃないって、そういうことか?
これは推測だが、彼女らの魂・人格・能力は界喰みの本体に収納されていて、クラウドからデータ下ろしてくるみたいな理屈であの水たまりからコピーとして出てくる、みたいな? え、無敵じゃん。
「起点となっている子がいる限り、アタシたちは何回でも甦る。でもアンタには時間制限がある。結果は最初から決まってるの」
「そうだよ。起点となっている私が生きている限り、"わたしたち"は止まらない。こんな世界を壊して、次はあなたの──ぇ?」
勝ちを確信したニコちゃんの顔が、歪む。界喰み複数人に守られ、安全であったはずの彼女は、地中からなんの前触れもなく放たれた攻撃によって穿たれていた。
「それは、良いことを聞いた」
地の底から、渋めのイケボが響き、人影が現れる。
ニコちゃんを貫いたのは、レフトオーバーさん(♂のすがた)だった。
界喰みのひみつ
レフトオーバーのセキュリティのない普通の世界では、たとえ界喰みの起点となっている人間を倒しても、世界を恨む少女がいる限りそれを起点にして無限に湧いてくる
不治の病