TS転生した上に美少女の幼馴染までついてきたぜ! 勝ったな(勝っていない) 作:鐘楼
「なっ……!」
機を窺っていたかのようなタイミングで地中から現れたレフトオーバーに、リュッケたちが驚くのも無理はない。
「だってアイツは……!」
そう、今この時もレフバーちゃんは倒れたまま。決して警戒を怠っていたわけではなく、リュッケたちはちゃんとレフバーちゃんの身体に致命傷に見える傷があるし、死体? にも人員を配置して警戒していた。
「端末の損耗が大した痛手にならないのは君たちだけではないということだ」
言って、レフトオーバーはニコちゃんだったものを放り、ついでのように彼女の弟だった魔獣を踏み潰した。その姿はまさに根からの強者で、“彼女たち”の精神を逆撫でする。
「おまえぇ……っ!」
「君たちの戦力が有限になった今、ようやく本気を出す意味が生まれた」
ニコちゃんの周りを固めていた界喰みたちが、それぞれの手段でレフトオーバーに襲いかかるが、どこからともなく現れた魔法陣から無機質な数字の羅列が読み上げられ、引用された祝詞が彼女たちを迎撃する。無論それだけで倒れるほど容易くはないが、俺が来る前にやられていた奴とは思えない。やはりレフバーちゃんがナレ死したのは意図的だったのだろうか。
「……やはり。どこまでが掌の上ですか?」
戦況が膠着した状態で、ザラさんが少し不機嫌そうにレフトオーバーに尋ねた。
「ハナビ君が遅れてきたこと以外、全て。それも、貴重な界喰みの情報を得る機会として好都合だったがね」
さすがのレフトオーバーも、ホノカのことに関しては想定外だったようだが、逆にそれ以外……リュッケを取られることなんかは計算通りということか? あれ? 俺めちゃくちゃ乗せられてね? 最初からリュッケを生かす気ないやん。騙された……! 別に最初から信用できる要素なかったけど騙された……!
「不愉快ですね。ハナビの命はともかく、魂に手を出せば貴方の核は葬られると知りなさい」
「肝に銘じておこう」
ザラさんもレフトオーバーのことは快く思っていないよう(当然)だが、ここは一旦共闘するらしい。平然と簡易冥界と化した大地に立ったレフトオーバーとザラさんがリュッケたちと対峙する。なんかアレだな。不死性が標準装備みたいになってるな、この戦場。ついてけないぞ俺。急所潰して死んでくれない相手は専門外なんだけど……あ、でもニコちゃんが死んじゃった今だとリュッケたちはリスポーンできないのか。
「……はは、本気を出す意味? アンタそう言ったの? まるで本気とやらならアタシたちに通用するみたいに聞こえるけど」
「私の計算上では有効なはずだが」
「亡霊のくせに。アンタ、自分の世界でも良くて中の上程度の実力だったでしょ? あの世界でアタシたちが殺した奴らよりずっと格下のくせに、随分増長したものね」
「……!」
おぉう……なんと。明かされるレフトオーバーの哀しき過去に、俺とザラさんの小さな驚きがシンクロする。どうやらレフトオーバーの世界は既に滅ぼされていたらしい。
「故にこそ、時間をかけて力と手段を用意してきた。尤も、我が創造主さえ健在だったなら、私があの世界を捨ててまで使命に殉ずるようなことにはならなかっただろうがね」
レフトオーバーの創造主ってあれだよな。推定日本人と思しき人物。ザラさんが異世界転生は普通起きないって言ってたし、召喚とかなんだろうか。まぁそこはともかく、リュッケたちによってレフトオーバーの世界が攻められた時には既にその創造主は死んでいたらしい。つまり……レフバーちゃんは未亡人だったのか(天啓)。結局ロボだから悲壮感が無さそうなのが玉に瑕だけど。
「変わらないわよ。ソイツがどれだけ凄くても。あの世界にアタシたちが現れたってことは、アタシたちを助けることができなかったってこと。アタシたちを傷つける世界を変えられなかったってこと。アタシたちはそんな世界を認めない。アタシたちを助けてくれない英雄なんか必要ない」
「ふむ。君たちは人間の非論理性を煮詰めたような存在だね。酷く歪な認知をしている」
ニコちゃんが抱いていたこの世界への、ひいてはレフトオーバーへの恨み。そして、レフトオーバーの世界で虐げられた名も知らぬ誰かの恨みを引き継いでいるリュッケは、俺と話していたときの穏便さが嘘みたいな形相でレフトオーバーを睨む。だがやめるんだリュッケ。レスバでbotに勝つのは不可能なんだ……。
「もう黙れ」
「! これは……」
舌戦をやめたリュッケが腕を振るうと、レフトオーバーが祝詞の媒介としていた魔法陣が破壊される。
「アタシは親機。アタシたちの力の全てを使えるの。アタシさえ居ればアンタが無様に逃げ帰った本体と同じだけの力を使える。この意味分かる?」
おぉ……リーダーと呼ばれるだけあって、リュッケは特別らしい。無様に逃げ帰ったってのは、ザラさんを解放できたあの時にひっそりと負けていたときの話だろう。でも、その時と違ってここはレフトオーバーのホームだ。勝負はまだ……まだ……うーん。
「祝詞の連射は対策されたようですが、なにか他に策は?」
「今貴方と共有する必要がある手段は特にないね。まぁ、やるしかないだろう」
なんか……やっぱり負けイベなんじゃないかって空気が流れてきたぞ!