TS転生した上に美少女の幼馴染までついてきたぜ! 勝ったな(勝っていない) 作:鐘楼
「それが冥王の真の力……興味深い。彼女がそうならないのは……力を馴染ませているからだろうか」
「さぁ……? っ!」
レフトオーバーと一緒になって異形に変じた腕を眺めていた俺だったが、不意に視覚に違和感を覚える。そう、左目が疼くってやつだ。まさか本当に眼が疼きだす体験をすることになるとは夢にも思わなかったが、実際になってみるとかっこつけている余裕はない。
思わず抑える左目の視界には、やがて今までよりもくっきりと霊……いや、魂が見えるようになっていた。
「……眼まで変わるのね」
対峙していたリュッケが、俺を見てそんなことを言った。この真の力をザラさんから聞いていたのか、彼女は俺の腕に関しては驚かなかったが、片眼の変化までは知らなかったらしい。……ん? ビジュアルも変わってるのか?
「まじ? 見た目も変わってる?」
「えぇ。その布も相まって完全に中学二年生よ」
「いやぁそんなぁ……」
「照れんな」
おそらく俺の記憶由来の、的確な煽りをしてくるリュッケだが、あいにくそんなものは効かない。実力が伴っている厨二はただただかっこいいだけなのだ。
変じた左腕を動かす。異形といっても、見た目が厳ついだけで形状に変化は無い。皮を灼いて表れた骨を包む半透明の紅はそれなりの強度がありそうで、雑に腕として使っても問題はなさそうだ。相変わらず感覚は無いので、繊細な動作は避けた方が良さげだけど。
そして、具体的に何ができるようになったのかは、不思議と理解できていた。
「それで? ザラに乗せられたその力でどうする気?」
「無論……突破口を開く!」
リュッケのちょうど真反対。そこを突破口にするべく、俺はリュッケに背を向けて駆けだした。界喰みの中では、ダントツでリュッケが手強い相手だ。背を向ける隙はレフトオーバーに任せ、最も距離を取れる選択肢を選ぶ。
「させるか……!」
が、当然そこにも立ち塞がる相手はいる。名前も知らない界喰みの少女相手に、俺は左手をかざした。
「なにを……っ!?」
すると、少女の腹部が突然破裂した。魂を動かし、少女と重なった瞬間に受肉させたのだ。いやしかし、精神的にキツい。たとえ少女の身体から吹き出す飛沫が血ではないにしても、やっぱりキツい。いや……あの子は死んだわけじゃないから! 本体に戻っただけってリュッケが言ってたから……!
しかし、悔やんでいる暇はない。辛かろうと、一度戦うと決めたのなら立ち止まる選択肢はない。横から飛んでくる攻撃を、先ほどと同じ要領……一時的に受肉させた魂を文字通りの肉壁にして凌ぐ。……痛みはないはずだから! お礼に成仏だから!
「《いかずちのさえずり》……!」
超加速の最強祝詞、《迅閃》。結局のところこれを発動させれば逃げられるのだが、それは向こうも分かっていること。当然、行使しようとすれば全力の妨害が飛んでくる。が、飛び道具は受肉で防ぎ、ザラさんの領域内ギリギリにいることで近接攻撃もできない。これで押し通せると少し思っていたが、そうはいかないようだ。
「クレイウォール!」
どこの世界の魔法か知らないが、俺の進行方向に現れる壁。地味だが、かなり効く一手だ。リュッケたちが知っているかは分からないが、ザラさんの権能は無機物に対する有効打があまりない。右手の銃でも対応できない以上、祝詞に頼る他ない。
「……《鳴禽の稲妻》《纏電》!」
やむを得ず、祝詞を電撃を纏う方向に特化したものに変更して壁を突進で破壊しながら突破する。
しかし、突破した先はザラさんの領域の外。待ち構えていたらしい界喰みたちが左右から襲い来る。《纏電》はあと二秒保つ。だが、気にせず突っ込んでくるということは、何か電撃を突破する手段を用意していても不思議じゃない。
より確実な手段を取ることにした俺は、ローリングするように左手で地面をつく。すると、権能によって起こされたアンデッドが地面から飛び出た。それで彼女たちを倒せるほど強力なアンデッドではないが、少しの時間を稼いで前進する。
「《いかづちのさえず……っ!」
「させない……!」
今度は上か……! 真上からの攻撃が迫る。音から判断してかなりの質量をぶつけてくる気らしい。壁として魂を受肉させても、それごと押しつぶされておしまいだ。
「《ギガンと僕》《守人》《巨腕の盾》!」
またしても、祝詞で防御する選択肢を選ばされる。鉄壁の盾と化した右腕でデカいハンマーの攻撃を受け止める。が、相手は足止めに成功したようなもの。すぐに四方から加勢の界喰みが迫ってくる。
ハンマーの少女と、横からの襲撃。両方に対応する策を考えていると、その必要がなくなった。
「な……っ!」
どこからか伸びてきた青黒い、呪いのうねうねした腕。あれはまさしくレフトオーバーの呪いで、アイツが手助けしてくれたらしい。が、レフトオーバーはリュッケの対処をしていたわけで、俺を助ける余裕はないはず……!
ちらりと俺たちが元いた場所を見れば、俺を助けるためにリュッケに背を向け、そのまま胸を刺し貫かれたレフトオーバーの姿があった。
「ハハッ! これでもうハナビさんだけだねぇ!」
この戦場の情報をリアルタイムで同期しているのか、背後でレフトオーバーが倒れたことを分かっているらしいハンマーの少女が、こっちを煽ってくる。けど、どうせ死んでないだろうし、今はこのチャンスを活かすことだけを考える他ない。
俺は右手を盾にするときに仕舞った銃を左手で抜き、膠着状態にあるハンマーの少女相手に銃口を向ける。こんな至近距離で撃ち込めば普通倒せるが、少女の表情は揺らぐどころか嗤うようなものだった。
「そんな鉄の塊意味ないよ?」
「どうかな!」
俺の銃撃に、少女は顔色一つ変えないどころか回避行動も取らなかった。それが間違いでもなんでもないことを証明するかのように、銃弾は彼女の身体にあっけなく弾かれる。が、その瞬間にハンマーを振り下ろす力が抜けた。
「なに、これ……!?」
「弾に霊を込めた! 避けるべきだったな!」
避けられる距離じゃなかったが。霊の込められた弾丸に当たったハンマーの界喰みは入れられた魂と身体の主導権を争うかのように奇怪な動きをしだし、片手で自分の首を絞めようともしている。そんな彼女に背を向け、今度こそ走る。
「《いかづちのさえずり》……!」
「ハナビぃぃ!」
レフトオーバーを処理したリュッケが、こちらに迫る。《迅閃》さえ発動できれば、こちらの勝ち。俺はリュッケを腕と銃で対応するべく、向かってくるリュッケを正面から見据える。ここさえ凌げば。
「──ッ!?」
そう、過信した俺は……リュッケに気を取られ、下からの攻撃に気づかなかった。ついさっきのニコちゃんみたく、不意に地面から攻撃された俺は、貫かれることはなかったが、見事に上空に吹き飛ばされた。
打ち上げられてしまえば、回避はできない。《迅閃》を発動しても、自由落下の速度は上がらない。飛べる祝詞を使おうにも、今から詠唱したのでは間に合わない。
せめてもの抗いとして、跳んだ勢いそのままに迫り来るリュッケに対応する。
「ハナビ……!」
「こいつをくらえ……!」
今までで一番の力を左腕に込める。すると、リュッケの真下にごく小さな領域……ザラさんがやったアレの超縮小版であるミニ冥界が発生。そこから溢れる死が、リュッケの身体を掠めた。いや、リュッケは身を捩ることでダメージを抑えたのだ。当然、そんな無理な回避をすれば俺を攻撃することはできない。
「ぐっ……!?」
身体を強く引っ張られる痛みと、強烈な風と加速度。想像していた痛みではなく、俺はまだ生きている。
「……ヒョウヤ!?」
「黙れ……! 舌噛むぞ!」
《迅閃》を発動したヒョウヤに、俺は抱えられていた。