TS転生した上に美少女の幼馴染までついてきたぜ! 勝ったな(勝っていない) 作:鐘楼
ヒョウヤに抱えられてると分かり、慌てて左腕を元に戻して封遮布で塞ぐよう念じる。あの変化の解除が可能なのかどうか若干不安だったが、難なくあの紅と骨は元の青白い肌に覆われ見えなくなり、ぱっと見元に戻った。
「お前、その顔……」
「顔?」
ヒョウヤが神妙な表情で人の顔について言及してくる。なんだ? たしかに背が伸びた時の副産物で顔もちょっと大人びててもおかしくないけども。そのことを指しているにしては、ヒョウヤの顔はあまりに深刻だった。
「……聞きたいことだらけだが、今は逃げるぞ!」
何から逃げているのかも分からないだろうに、頼んでもいないことを実行するヒョウヤ。こっちだって色々文句を言いたくなるが、今喧嘩を売ってヒョウヤまで危険にさらされたら最悪だ。仕方なく黙って運ばれる。
誰が使っても《迅閃》は最強で、瞬く間に創獣族の土地を抜ける。ニコちゃんが死んだからか、あれだけひしめいていた魔獣たちは動かなくなっていて、障害らしい障害もなく一直線で進めたのが大きい。
「いて」
「ハァ……抜けたか」
「おつかれ~」
抱えていた俺を乱雑に落とし、汗を拭って一息つくヒョウヤに声をかける。
「てめぇ……礼の一つでもできねーのか」
「いや頼んでないし」
「……助けなきゃ死んでたろ」
「君たちと違って~、俺は死んでもカノピとの甘々生活が始まるだけなんですぅ~」
「はぁ?」
まぁ、俺の方は良いのだ。今この場で非があるのは危険を冒して俺なんかを助けたヒョウヤの方にあるのだから。リュッケたちに目を付けられることのリスクとか分かってないだろ。
「そんなことより、なんで助けた? ってかなんであんな場所にいた? 全部忘れて村で暮らすって俺との約束はどうなったんですかー?」
「そんな約束はしてねぇ」
俺を助ける助けない以前に、ヒョウヤが焔精族の土地の外にいること自体が俺にとっては納得できない事実だ。ヒョウヤがホノカのように巫女候補隊の一員になるなんてことはまずありえないのだから、ヒョウヤは俺のアドバイスを蹴って焔精族から離反したということになる。土地の外にいるってことはそういうことなんだろう。
「言ったよな? 優しいヒョウヤくんは一生村で平和に暮らすのがお似合いだって」
「誰が……」
「俺を助けに死地に飛び込んできた奴がなんだって?」
どうあがいても優しいの部分を否定できないことを突きつけると、ヒョウヤの顔が心底鬱陶しそうに歪む。めっちゃ苛ついてて草。そんなヒョウヤは反射的に出そうになった罵詈雑言を引っ込めると、俺を睨みつけて指さした。
「……覚えとけ。俺はお前の思い通りにはならない。お前が押しつけてくる復讐を忘れる道なんか死んでも選ばないし、危険も冒す。ついでにお前を見殺しにはしない。全部お前が俺に望んでいないことだからな」
「めっちゃガキの理屈じゃん……」
「死ね」
いやだから、手出しされなきゃ死んでたんですが……なんだこいつ。俺への反発で人生決めてんのか? いや照れ隠しなのか……? だとしたらリュッケとツンデレマスター争えるだろ……。
「んなことはどうでもいい。お前、その身体はなんだ? あの時の……気味の悪い腕はなんだ? なんで少し見ない間に俺より背が高くなってる?」
「あー……」
「面倒そうな顔をすんじゃねぇ」
だって説明面倒だし。そうか……そこから話さなきゃならんか……これ説明しなきゃダメ?
「ってか、身長抜かれたことがそこに並ぶ論点なのかー」
「話逸らすんじゃねぇよ」
以前と違ってヒョウヤを見下ろせる身体で、右手で頭を撫でようとする。あっさりと手をはたき落とされた。
「まぁ重要なことだけ言うと……えー、まず祝詞の使いすぎで左腕がなくなって。そんで異世界で死を司ってる神様と契約して、代わりの腕をもらったんだよな。身長はその時のおまけ。んで、あの赤い腕は真の力を解放した状態で、魂を従えたり色々できる。あ、この布に覆われていない時の腕に触れたら人間は死ぬから注意な」
「……待て。整理させろ……っておい。ついでのように命に関わる補足をすんじゃねぇ」
大分上手く纏めたと思うんだが、それでも初見のヒョウヤには情報量が多すぎたようだ。仕方がないのでヒョウヤの質問に答え、理解ができるまで付き合う。その結果十分ほどの問答の末にそういうものとして受け取ってくれたらしい。
「……とりあえずお前の言葉を信じておく。で、その顔も冥王ってやつの影響なのか?」
「? さっきからなんなんだ、人の顔のことばっか。別に変わらず美少女だろ?」
「彼の疑問は当然のものだね」
ヒョウヤとの間でちょっとした認識のズレがでてきたところで、横からのカワボ。そこにいたのは案の定、レフバーちゃんだった。まぁ死んだわけないよねぇ。
「レフバーちゃんじゃん」
「やぁハナビ」
「てめぇは……」
「落ち着けよ。めっちゃ悪い奴だけどヒョウヤじゃ勝ち目ないから。殺気立っても無駄だから」
「は?」
警戒するヒョウヤを制止する。事実しか言ってないのだが、ヒョウヤの苛つきの方向が俺に向けられて結果的にレフバーちゃんへの警戒が緩む。
「さっきぶり。レフトオーバーさんの方はどうなったん?」
「あの身体は界喰みにくれてやった。凄惨なリンチを受けているが、そんなことで意識を逸らせるのなら好都合だ」
「あー……まぁそっちの方が似合ってるから良いと思う!」
リュッケたちはこの世界を恨むニコちゃんの憎しみをそのまま引き継いでいるので、それをレフトオーバーさん(♂のすがた)にぶつけているのだろう。当のレフトオーバーには全く効いていないっぽいが。
ちなみにヒョウヤは事情は分からないだろうに、言葉の節々に引いていた。
「で、ヒョウヤの疑問が当然ってどういうこと?」
「あぁ、ほら」
レフバーちゃんはどこからか手鏡を取り出すと、それを俺に向けた。
そこに映っていたのは、変わらぬハナビちゃんの美少女フェイス……ではあるのだが。
誰が見ても分かるほどに、異常が発生していた。
首から左の頬にかけて、ヒビ割れたかのようなような紅の疵。頬のものはまだ一筋といったところだが、首……いや左肩に近づくにつれて大きくなっている。そして、そこから滲む紅は血ではなく……そう、あの時の左腕にそっくりで。
上着を脱ぎ、自分の身体の現状を確認する。布に覆われたザラさんの腕は確かに元に戻っていた。
しかし、その先、左肩の付け根から首にかけてはあの時の紅が亀裂のように広がっていた。