TS転生した上に美少女の幼馴染までついてきたぜ! 勝ったな(勝っていない) 作:鐘楼
「まぁ簡単に言うと、こいつはこの世界の神様だ」
と、レフバーちゃんを指して二人に説明する。逆にこれ以外にどう言えばいいのだ。
「神様……って、それは火の精さまのことではないのですか?」
すると、標準的な焔精族であるホノカがそんなことを言った。たしかに、焔精族にとっては聖書そのものである起源書『火の精の恩寵と試練』に描かれた火の精を神と崇めるのは自然なことだ。けれども、ここでの信仰は一般の宗教と大きく違う点がある。基本的に起源書の内容はこの世界に繋がっていないし、今の自分たちに結びついていないのだ。……巫女であっても起源書の内容を最後まで理解してる者はいないだろうから、最終的にはこの世界の誕生に行き当たると思っている可能性はあるが。
「たしかに、焔精族を創ったのは火の精かもしれないが、神様が火の精だけだったら他の種族が存在するのは変だろ? だから、レフバーちゃんは俺らが今立ってるこの場所を創った神様」
「そう、だったのですか……」
「なるほど、良い誤魔化しだ」
「ちょっと静かにしててくんない?」
実際のところ火の精はザラさんと同じくレフバーちゃんに勝手に力を掠められた被害者でしかないんだろうが、こういう説明の方がホノカは受け入れやすいだろう。
「神という言葉はあまりに多義で好きではないのだがね」
「? どういう意味?」
「そのままさ。崇められるもの。力を持つもの。神という種族。どれを指しているのか一言では分からないだろう? 創造主という意味では、たしかに彼らにとって私は神になるのかもしれないが……」
「つまり、ソイツの言う世界を停止させるってのは妄言じゃないんだな?」
弛緩しかけていた空気を引き締めるかのごとく、ヒョウヤが言い放つ。ヒョウヤは俺の説明に嘘が含まれていることを見抜いているようで、その瞳には事実を見極め現状を注視しようとする意思が垣間見えた。
「こいつが本当にこの世界を創っていて、だからこそ逆に終わらせる力も持っている、そういうことなんだな?」
「あぁ、そのはず……ってか、なんで急にやっぱり世界を凍結するって話になるんだよ」
俺もぶっちゃけまだ飲み込めていないので、ヒョウヤに曖昧な返事をしてレフバーちゃんに向き直る。俺だってまだレフバーちゃんの真意を聞いていない。急に世界を凍結する判断を下した理由は……想像はつくけど。
「やっぱり、俺たちが界喰みに負けたから……」
「いや、違う」
「……え?」
……いや、違うの? 今になってちゃぶ台返すような判断したってことはリュッケたちに勝てないって判断したからじゃないの?
「キミに……正確には冥王にだが、言ったはずだ。
「あー……たしかに言ってたような?」
レフトオーバーさんが地面から不意打ち登場した後、そんなことをザラさんに言っていたような気がする。
「キミを伝ってリュッケと呼ばれる親機が界喰みとのリンクを取り戻すことまでが予定通りであり、あの時点で既に私の目的は達成されていた」
「え……まじ?」
「最初に会ったとき、キミに仕掛けをしただろう」
「あー……リュッケに思考盗聴されるのを防ぐやつ?」
レフトオーバーとの初エンカウントの時、頭に触れられてなんか詠唱されたことがあった。あれ以来リュッケが俺の思考を読み取れなくなっていたから、てっきりそれが仕掛けの効果だと思っていたが。
「あの時私はキミの思考にプロテクトを施しただけではない。キミを通ってあの界喰みが本体に回帰した際に、そう……スパイウェアのようなものを持ち帰るように仕込んでおいたのさ」
「はぇ~」
スパイウェアのようなもの……俺がのみ込みやすい言葉で説明してくれてるんだろうけど、イメージとしてはリュッケたちの中にスパイを潜り込ませたとか、爆弾持ち帰らせたみたいに考えて良いんだろうか。
「つまり、リュッケたちはまんまとレフバーちゃんの術中に嵌まってるってこと?」
「そういうことになる。仕掛けを使ってすぐに派手なことをすれば勘づかれるだろうが、悟られずにアレらの内蔵している能力を抜き出すことくらいなら容易だし、いずれは内側から崩壊させられる可能性もある。戦果としてはこれ以上ないと言える」
「……この世界を放棄しても余りあるくらいに戦果を得たから、勝っている今のうちに土俵であるこの世界を滅ぼすってこと?」
「というより、これ以上戦う理由がないかな。万が一この世界の界喰みを掃討したとしてもアレを滅ぼせるわけではないのだから。それに、ここと同じような世界であればまたやり直せば良い。わざわざ界喰みに浸食されているこの世界を残しておく理由はないね」
「……」
レフバーちゃんの真意を聞いて、しばし考え込む。ヒョウヤは話をなんとかかみ砕こうと眉間にしわを寄せ、ホノカはわけも分からず一同の顔を見回していた。レフバーちゃんの言葉に拠るならば、それは……あ。
「そういや、あの時既に目的を達成してたんなら、なんで俺が逃げ切るまで結構真面目に戦ってくれてたの?」
「こちらの真意を悟られないため、というのもあるけどあの時は純粋にハナビを助けるために戦っていた」
「え……もしかして俺のこと好き?」
「おや? 愛していると言ったはずだけどね」
「えっ」
え……今デレた? もしかしてレフバーちゃんってクーデレなの? いや騙されるな……! レフバーちゃんはロボなんだ……! この子の愛してるにはチャットボットのそれレベルの価値しかないんだ……!
「おい、そんなことはどうでもいいだろ」
「ヒョウヤ」
「……」
俺の煩悩を吹き飛ばすように、ヒョウヤが冷たい声を発した。……その顔で、今口を開いているということは……気づいているんだろう。
「レフバーって言ったか。お前の話だと、もうこの世界の凍結? とやらは決まっているように聞こえる」
「……」
そうなのだ。以前の、レフバーちゃんに協力するか否かを選んだときとは違う。今回、俺はレフバーちゃんに従ってこの世界を脱出するか、残るかしかできない。この世界を存続させる選択肢は用意されていないのだ。
……言うほどこの世界守りたいかって言うと全然そんなことないんだけど。