TS転生した上に美少女の幼馴染までついてきたぜ! 勝ったな(勝っていない)   作:鐘楼

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億劫だぜ! 自己開示

 「俺のこと? 何者ってハナビちゃんですけど」

 「そうじゃねぇ。お前、変だろ」

 

 ……? ん? もしかして俺は今ヒョウヤに煽られたのか? とも思ったが、今のヒョウヤには俺を罵倒するときの蔑むような視線がなかった。どうやら喧嘩を売っているわけではないらしい。

 

 「最初に会った時はロクに言葉も分かっていなかったくせに、お前は俺より頭が良い。バカだけどな」

 

 俺たちが育ったあの孤児寺に、ヒョウヤは後からやってきた。その頃俺はこの世界の言語の習得に手を焼いていて、話せない上に焔精族の特徴を持っていないことも相まって周囲からめちゃくちゃ下に見られていたと思う。そんな様だったからセイランお姉さんの授業はついて行けていなかったし、ヒョウヤも俺を落ちこぼれだと思っていたんだろう。なのに、いざしっかり話せるようになったら巫山戯てはいるが発達が遅れている風でもないしどこから仕入れているのか分からない知識を持っている……とか、ヒョウヤが言いたいのはそんなことだろう。

 

 「それに、あの時は流したが、起源書の言葉が読める理由もちゃんと聞いていない」

 「……いや、前世で使ってた言葉だって言ったよな」

 「なんなんだ、ゼンセって」

 「あー、そっか」

 

 今まで俺の記憶経由で日本語を理解しているリュッケやザラさんだったり、レフトオーバーのように何故か知ってる奴だったりと会話してたせいで忘れていたが、輪廻転生という思想のないこの世界に前世を表す言葉はない。なので俺は前世という単語をそのまま日本語で使っていたわけで、ヒョウヤがそれを理解できるわけもない。

 

 「別に勿体ぶることじゃないけどな。俺は別の世界で死んで、その記憶を持ったままこの世界にハナビとして生まれた。前世っていうのはその前の世界での自分、って意味だ。なまじその時の知識があるせいでこの世界の言葉に慣れるのに時間がかかったんだよ」

 「なる、ほど……」

 「疑問は解消しましたかー?」

 

 焔精族の村にいた時なら転生云々は迫害の一因になったかもしれないが、今では隠すようなことじゃない。俺が正直に教えてやると、ヒョウヤは難しい顔をして俺の言葉を呑み込もうとしていた。今日のヒョウヤはずっとこんな顔だ。

 

 「……謎は解けたが、聞くことは増えた」

 「は?」

 「俺が知りたいのは、お前の謎だけじゃねぇ。それも含めた、お前のことをちゃんと知りたい」

 「……?」

 

 俺の脳内背景が宇宙になった。脳内で宇宙猫が表示されるくらいには困惑したわけだが、ヒョウヤはお構いなしに話を続ける。

 

 「俺はお前をバカで脳天気なガキだと思ってた。一緒に起源書を盗み出した時も、何か特別なものを持っているってだけでその評価は変わらなかった。けど……」

 「……」

 

 また煽られた気がするが、ヒョウヤの醸し出す真剣な空気を尊重して続きを促す。

 

 「あの日。お前が根暗を助けて追われた日に、言い負かされて初めて気づいた。お前はバカでいるのが好きなだけで、俺よりずっと大人だった」

 「……ま、バカみたいに振る舞った方が基本的に人生楽しいからな」

 「あの日から、お前のことが急に分からなくなった。だからお前がどういう人間なのか、ずっと考えていた」

 「え、きも」

 

 俺の率直な所感にも動じず俺の眼を見つめるヒョウヤ。これはアレか。転生したってことに加えて前世についても詳しく話せってことか。リュッケやザラさんは勝手に覗いてきただけで、自分からそれを話したことないんですけど、その相手がヒョウヤってマジ?

 

 「つまり、前世の俺のことも知りたいと?」

 「そうだ。お前の芯はそこにあるんだろ」

 「そうだけども……はぁ、分かった分かった」

 

 俺の生い立ちは不幸自慢みたいになるんだが、普通に俺より悲しい過去を持ってるヒョウヤに話すと俺が自分の不幸に酔ってるみたいな感じになって嫌なんだけど。あ、リュッケたちの悪口じゃないぞ!

 

 「前世なー……。まず、生まれた頃の俺はモノだった」

 「……は? モノ?」

 「そう。悪い奴らに製造された人間兵器。その試作品だった俺は人間としてカウントされてなかったわけ」

 

 そう、俺は日本語話者であって日本人じゃなかったのである。国籍もとい戸籍がなかったんでな!

 

 あの組織もよく日本でバレずにそんなことができたなと思うが、それくらい規模のデカい組織だったらしい。俺が自己を確立した時には壊滅してたから詳しくは知らないけど。

 

 「そこではまぁ……結構酷い扱いを受けてたと思う。この世界で言う他種族の捕虜みたいな感じでな」

 「……!」

 「けど、それはまぁどうでもいい」

 

 俺の人格は施設を出た後にできたものなので、あの頃の扱いはそれほど苦い思い出ではないし、実際どうでもいい。楽を知らなかったから、苦を苦しいと感じなかったみたいな。

 

 「ある日、俺が飼われてた施設が一人の男に襲撃された。悪い奴らはその男一人に手も足も出ずに殺されて、俺や仲間はいきなり自由になった」

 

 仲間っていうのは、俺と同じ人間兵器のことだ。少なくとも俺が見たことのある同期は全員顔が同じだった。

 

 「けど、俺たちは俺たちを管理する組織の人間がいなくなった場合は機密保持のために自害するよう教えられていた。仲間はそれに従ってどんどん死んでいって、素直じゃなかった俺も……特に世界の面白いこととか知らなかったから、後から遅れて死のうとした。そしたら、施設を襲撃した男に止められた」

 

 何も知らずに死ぬのは勿体ないとか言って、男は俺の自殺を止めた。別にすごく死にたかったわけじゃないから素直に従ったが、それは正解だった。

 

 「色々あって、俺はその男の……親父の息子になった」

 

 今考えると、キモオタの親父は布教の絶好の相手として俺を側に置いたんじゃないかと思う。実際、娯楽そのものが初めてだった俺はアニメを見せられて海外の反応もビックリの素晴らしいリアクションをしていたと思う。

 

 「……男だったのか」

 「え? あぁうん」

 

 あ、そっか。それ言ってなかったか。

 

 「だから女が好きなのか」

 「……」

 「……なんだよ」

 

 そこをイコールにすると色んな人を敵に回すと思うが、脱線するのでスルーしておこう。

 

 「……ともかく、俺を拾った親父は、化け物だった」

 「化け物? 人間じゃなかったのか?」

 「あぁいやそうじゃなくて……化け物じみた人間というか」

 

 多分おそらく人間、という奴だ、親父は。銃弾は見てから撃ち落とすし、なんなら銃弾に当たってから逸らすし、たとえ当たっても一日休めば銃創が治る。親父はリコリスリコイルとか緋弾のアリアとかで普通にやっていけるタイプの超人だった。

 

 「そんな化け物じみた能力を使って、親父は殺しの仕事をしていた。組織の襲撃も仕事の一つってわけだ」

 「……たった一人で敵地を完全制圧するんなら、そりゃ人間離れしているな」

 「俺も兵器だったわけで、向いているから親父の仕事を手伝った」

 

 それでも普通の人間のはずの親父に全く敵わなかったけど。親父は走りながら銃弾を撃ち落とすが、俺はせいぜい走りながら敵の銃口に当てるくらいしかできない。

 

 「殺しを……生業にしていたのか」

 「あぁ。自分の生活のためにな」

 

 親父についていくことにした時、深くは考えていなかった。あの時点ではしかるべき所に保護される道もあっただろうが、俺は向いているし忌避感もないからくらいの理由で殺し屋になった。

 

 「その親父は娯楽好きでな。充実したプライベートを送っていた。人を殺したその日に娯楽を楽しめるような、そんな人だった。お前が知りたがってる俺の人となりは、そんな人間の影響を受けて形成された」

 「……!」

 「だから自分の都合で人を殺すのには慣れているし、今更それで悩んだりはしない。でもそんな人間は碌な目に遭わない。そういう立場からお前に説教した。ま、こんなところだな」

 

 もっとも、あの時の説教は大分的外れだったが。この世界は万年紛争状態。殺人は全然忌避されてないし、巫女や託士なら日常茶飯事だ。ちょっと反省している。

 

 「……ロクな目に遭わない、ってのは」

 「あぁ、俺も親父も殺されたからな。上には上がいるんだよなぁ。あの親父も、それ以上の使い手に殺された」

 「お前も親を……」

 

 ヒョウヤの俺を見る目が、若干仲間を見るような目に変わる。

 

 「いや……そうだけどさ。お前とは違うよ。親父も俺も罪だらけのクズだったし、それで誰かを恨んだりはしなかった」

 「……理屈の上ではそうかもしれないが、感情は違うだろ。家族が殺されて何も思わなかったのか?」

 「ま、寂しかったな。けどそれだけだ」

 

 寂しいとか、親父の前では絶対言わないけど、これが俺の正直な感情だ。

 

 「こんなもんだ。俺の話は。お前が何を知りたかったのか分かんないけど、失望したか?」

 「……いや。話してくれて……ありがとう」

 

 ヒョウヤのその言葉を境に、俺たちの会話は途切れた。

 

 ……一人で考えたいこともあるだろうし、もう放っておくか。結局、この会話はヒョウヤがこれからどうするのか決めるための話だったはずなのだが、本当に後半の話必要だったか? ま、どうするのかは明日聞くとしよう。

 

 そう決めて、踵を返してヒョウヤに背を向けると。

 

 「得難い話だったよ、ハナビ」

 「うわでた」

 

 微笑みをたたえたレフバーちゃんが目の前に現れたのだった。

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