TS転生した上に美少女の幼馴染までついてきたぜ! 勝ったな(勝っていない) 作:鐘楼
「我が創造主の話も存外に当てにならない。思っていたよりキミの世界も物騒だね」
俺の昔話を盗み聞きしていたレフバーちゃんの感想はそれだった。真っ先に出てくるのが俺の心情の話じゃなくて地球もとい日本に対する認識との齟齬なあたり、非常にレフバーちゃんらしい。
「表向き平和なだけずっとマシでしょ」
レフバーちゃんの創造主がマジで普通の一般日本人で、レフバーちゃんの地元世界に転移だか転生してから力を得たタイプなら俺が生きてきたような世界を知らなくても無理はない。日本は普通に平和だったしな。ちなみに親父や俺が暴れているような環境でなんで平和を維持できていたのかと言えば、何も化け物が反社の方ばかりに集まってくるわけではないということだ。
「っ! お前……!」
なんて暢気なことを話していると、レフバーちゃんの存在に気づいたヒョウヤが掴みかかる勢いでレフバーちゃんに迫る。家族の真の仇だよって説明したから無理もないが、レフバーちゃんの方は全く動揺せずにモノを見る目でヒョウヤを見返すだけだ。
「……一応聞くけど、レフバーちゃんはなんでヒョウヤたちにそんなに冷たいの?」
「価値を感じないからかな。キミに代わりはいないが、彼のような存在は替えが利く。やろうと思えば境遇を再現してもう一人作ることだってできる」
「うわー」
レフバーちゃんにこの世界の人々を軽視している理由を聞くと、あまりに個々人の人格を軽視した答えが返ってきた。要するに、ヒョウヤを含めたこの世界の人間は決まった定数で構成された再現可能な存在で、俺みたいなのはレフバーちゃんの意図しない乱数が沢山含まれてるから貴重、みたいな考えなんだろう。
元量産型の俺としては怒るべきなのかもしれないが、あんまり自分の境遇を悲観したことのない俺は軽く引きはしたものの怒りを覚えることはなかった。だが、ヒョウヤにとってはそうはいかないだろう。
「ふざけるな……! 俺たちはお前に使われるための存在じゃねぇ! 再現だと? 俺はここにしかいねぇ! 俺の憎しみは俺だけのもんだ……! 同じものが二つとあってたまるか……!」
それはもうヒョウヤの地雷をたっぷり踏んだ結果、当然ヒョウヤは激昂してレフバーちゃんに掴みかかる。それでもレフバーちゃんの表情は一切動かず、それがさらにヒョウヤの心を逆撫でする。
「キミはもう少し客観視をするべきだね」
「……は?」
「キミが経験した悲劇も、それに起因する憎しみも、主観で見るから特別なもののように錯覚するだけだ。端からみれば、この世界においてそれはごくありふれた出来事であり、キミの感情も普遍的なものでしかない」
「……貴様ァ!」
レフバーちゃんがやっとヒョウヤの方を向いて話し始めたかと思えば、そんなことを宣うものだからもう場の空気は一触即発だ。俺はもう口出ししないぞ。さすがにレフバーちゃんは庇えないが、これでヒョウヤが返り討ちに遭って殺されてもそれは仕方がないことだ。忠告したし、自分の末路に納得して死んだと見なす。
「……もういい。どうなってもここで……!」
「やめた方がいい」
我慢できなくなったヒョウヤが攻撃を仕掛けようとした時、レフバーちゃんがまるで命乞いみたいな文言で止めに入った。それされると手加減できなくなっちゃうよ、みたいな意図なのかと聞いていたら、レフバーちゃんの口からは衝撃の一言が飛び出した。
「キミの存在力でそれをすれば、ここで終わりかねないぞ?」
「存在力? なにを……」
「げぇっ!? まじ!?」
さらっと明かされる重大な事実に、思わず割って入ってヒョウヤをレフバーちゃんから引き剥がす。
「おいヒョウヤ、お前あれからどれくらい祝詞を使った?」
「いきなりなんだ! そんなもん、必要な分を必要なだけ使ったに決まってるだろ」
「……レフバーちゃん。実際どれくらい残ってんの?」
「次に全力で戦えば命はないだろうね」
ほぼ死にかけじゃねーか! 自覚症状ないのこわ……肝臓かよ。
「おい、だから何の話だ!」
「……巫女は寿命が短いって話、したよな」
「あ、あぁ……」
元々ヒョウヤに教えられた話なので当たり前だが、巫女が早死にするってことはこいつも知っているだろう。が、そのメカニズムについて情報共有をしていなかった。
「正確には、祝詞は使う時に存在力ってのを消費してるらしいんだよ。で、それが無くなると死ぬ。レフバーちゃん曰くお前の存在力はもう全然残ってないらしい」
「な……」
参ったな。さっきヒョウヤは死んでもしょうがないとは言ったけど、思いもしなかった要因で志半ばで死ぬのはさすがに可哀想だ。俺の死生観がそう言ってる。これをなんとかできそうな奴が……目の前にいる。
「レフバーちゃんなんとかできない?」
「できるね」
できるらしい。
「良かったなヒョウヤ! レフえもんがなんとかしてくれるぞ!」
「ふざけんな! こんな奴の施しなんか……」
「けど、彼にそこまでする価値はないかな」
折角手段が見つかったというのに、当人たちはそれを渋る。面倒くさいぜ。
「だがまぁ……私にとって無価値でも、ハナビにとってはそうではないというのも分かる」
「ん?」
どう丸め込もうか考えていると、レフバーちゃんがらしくないことを口にし始めた。
「ヒョウヤ。キミが私の施しを受けたくないというのなら、取引という形にしよう」
「取引だと?」
「私がキミの延命を引き受ける代わりに、キミは明日ハナビのために戦う。そういう取引だ」
「っ!」
何を言い出すかと思えば、レフバーちゃんがとんでもないことを言い始めた。
「これならば、私もハナビへの貸しという形でメリットを得られる。どうかな?」
「ちょちょちょい。レフバーさんや。余計だろ、明日一緒に戦うの部分は」
「彼はキミ相手でも一方的な施しを望まないタイプだと言動から推察した。ちょうどいい条件だと考えるが」
「いや、雑魚増やしてもしょうがないだろ。足手まとい二人に増やしてどうすんだって言ってんの!」
「……やる! 取引成立だ」
俺が条件を変えさせようとレフバーちゃんに文句を言っていると、それを遮るように決意を秘めた声色で、ヒョウヤが取引成立を宣言する。そして、俺を睨んできた。
「俺は、足手まといにはならない」
あ、もしかして俺の雑魚呼ばわりが最後の一押しになってしまった感じ? ガキかよ。事実言っただけなのに……。
その後、ヒョウヤはホノカと同じようにレフバーちゃんから強化措置を受けて、明日の決戦メンバー入りが確定してしまった。