TS転生した上に美少女の幼馴染までついてきたぜ! 勝ったな(勝っていない) 作:鐘楼
目が覚めた。
いや、その表現は正しくないか。やたら不機嫌なヒョウヤも明日の戦いに参加することになった後。さっさと身体を休めようということになって、訓練の賜である入眠術で速攻眠りに落ちた、その後。
「なんだか久しい気がしますね、ハナビ」
気づけば、俺はザラさんに膝枕されていた。だからここは、夢の中。いつもリュッケやザラさんと話していたあの時間がまたやってきたのだ。
「俺はずっとザラさんを感じてたけどね」
実際のところ、ザラさんと顔を合わせるのは一日ぶりで、全く久しくはない。しかも、今日リュッケを失った俺をずっと支えてくれたのは他でもないザラさんだ。彼女の愛を、俺はずっと感じていた。
けれども、ザラさんが久しいと感じてしまうのも分かるくらいには、今日は長い一日だった。
「ところで、ここは?」
ザラさんに癒してもらえる至福の時間だが、いつものそれとは違う部分があった。「甘やかしてんじゃないわよ!」とか言ってくるガヤのリュッケがいないのは当然だが、周囲の景色も変わっている。あの図書室みたいな空間ではなく、暗闇。触れた者を凍えさせるような暗雲が立ちこめる、そんな世界が広がっていた。
「私の冥界。その景色を再現したものです。あの図書館は、リュッケに由来していた景色ですから」
リュッケとの繋がりが断たれた今、夢の中をあの景色にすることはできない。となると俺かザラさんの記憶の中から引っ張ってくるしかないわけで、ザラさんの中から故郷の景色を引っ張ってきたってわけか。
「ザラさんの故郷って考えたら、悪くない景色かもなー」
「……ハナビを招く時は、もう少し人間に向いた場所を紹介しますから。どうか安心してください」
あ、そうか。死んでザラさんに連れて行かれるってなったら、俺はここで過ごすことになるのか。正直言ってちょっと参るかもしれないが、それでも。
「ザラさんが俺を大切にしてくれるなら、どこだって幸せかな」
「ハナビ……」
俺の言葉が刺さったのか、ザラさんの瞳が熱を帯びる。そして、ザラさんは愛おしそうにそっと俺の左頬を撫でた。そこには、ヒョウヤが指摘した疵があった。
「とても似合っていますよ、ハナビ……」
あの後服を脱いで確認したが、ザラさんの腕と俺の身体の境目、左肩から上は頬、下はおへそ直前まで割れたガラスのようにひび割れのように変色……いや、変質が広がっていた。外見は冥腕解放(仮)した時のザラさんの腕に似ているが、あれと違って骨は見えていない。まぁ、それもこれからなのかもしれないが。
指摘されるまで気づかなかったほどだ。特に痛みや違和感はない。そこがガチで変質している感じがして面白いが、そんな疵を撫でてザラさんは似合っているという。ぶっちゃけ俺も結構かっこいいと思っているが、そういうことを言っているんじゃないだろう。
「これ、ザラさんの言ってた代償?」
あの時、あの力を使う際に警告された代償。ザラさんはそれを伝えていながらも強くは止めないと言っていたが、この疵のことを言っているのなら今彼女の機嫌が良い説明もついて納得できる。というかそうであって欲しい。後から戦闘に支障が出る代償が判明するのは御免だ。
「……はい。あの状態こそが我ら死神の神髄です。貴方が使えば、人の身が私に引っ張られることは分かっていた」
「そっか」
「……謝罪します」
恍惚の表情から一転、罪悪感によるものか痛みを感じているような表情を浮かべるザラさん。俺は、黙ってそんな顔も綺麗だなぁと思いながらザラさんを見上げたまま。
「あの状況で選択肢を示せば、ハナビが使うことを選ぶのは分かっていました。まるで誘導するようで、私は……」
「……俺がこんなになって、ザラさん嬉しい?」
不安の発露か、後悔を口にするザラさんの言葉を遮るように、問う。
「……はい。貴方がもっと私に近づいてくれれば……それによって離れがたくなってくれれば……たとえ貴方が生者でありつづけることになっても、私の証が刻まれてくれればと……そう、どこかで考えていたことは事実です」
「ザラさんが嬉しいなら、俺はそれが嬉しい」
「っ!」
右手を上げて、お返しとばかりにザラさんの頬を撫でる。ザラさんがハナビの意思は自分の意思だと言ってくれたことには敵わないけれども、ザラさんの喜びなら間違いなく俺の喜びだ。
頬を撫でる右手を挟み込むように、ザラさんが自分の右手で俺の手を包む。何千年だか孤独を強いられた人の独占欲としてはとても控えめで、本当にかわいいと思う。
「明日も力、貸してくれます?」
「ハナビの望む通りに。私も、リュッケには思うところがありますので」
「ありがと」
明日、リュッケと仲直りするために、力を貸してくれる。それが確認できたなら、後はもうイチャイチャ癒されタイムかなぁと思ったその時、ヒョウヤと柄でもない話をしたせいなのか、聞いてみたいことが思い浮かんだ。
「リュッケもだけど……ザラさんさ、俺の過去覗いて知ってたんだよな」
「はい」
「ザラさん、肩書きに誅戮とかついてるけど、俺は裁く対象じゃないの?」
《誅戮の冥閻》。ザラさんはそう呼ばれることがある。そして誅戮というのは要するに罪人を殺すことだ。そして、俺はヒョウヤに語ったとおり客観的に見てド罪人なわけで、ザラさんが見逃して良い存在なのか……という疑問。
問われたザラさんは、変わらず俺を優しく見つめながら口を開く。
「人は、いつも私に因果の帳尻を求めます」
「帳尻?」
一見俺の疑問には関係がなさそうだが、ザラさんが相手だ。そこは突っ込まず、気になった部分を聞き返す。
「報われなかった善き人。報いを受けなかった悪しき人。そういった人々が、死後に相応しい扱いを受けるようにと、人間は私に因果応報の帳尻あわせを期待するのです」
「あぁ~」
どうやったって、不幸で善良な人間や法で裁けない悪は絶えないだろう。人間は天国とか地獄とか、そういう想像で理不尽を呑み込むし、戒めとする。それはどこでも変わらないと言うことか。
「けれど、私はそれに応えることはできない。人間の法、善悪は時代や地域で驚くほど早く劇的に移り変わり、場合によってはひっくり返ります。そんなものを逐一鑑みることはできない。故に、私は善人にも悪人にも扱いを変えることはありません」
「だから、俺の罪も許されるって?」
ザラさんは肯定も否定もせず、話を続ける。
「死神の言う罪とは、ただ魂の循環を阻害する所業のことを指します。私の基準では、ハナビは罪人ではありません。ハナビ自身や人がハナビを許さなくとも、私は貴方を責めることはないと、言いたかったのはそれだけですよ」
「そっかぁ……」
他人の言葉が刺さるのは、いつぶりだろうか。
今の俺は、俺の疵を撫でるザラさんと同じくらい熱に浮かされているのかなとか、頭の冷静な部分で考えながら、俺は起き上がり、ザラさんに正面から向きあって、倒れ込むように唇に触れた。
まじでやらなきゃいけない原稿の締め切りがやばいし惑星ミラに行かなきゃならないしなのでちょっと休むかもしれん