TS転生した上に美少女の幼馴染までついてきたぜ! 勝ったな(勝っていない) 作:鐘楼
「さて、作戦を聞こうか」
「……」
翌朝、俺やヒョウヤ、ホノカが朝食を取っている中、ただ一人何も口にしていないレフバーちゃんが口を開く。この時間を使って作戦会議をしてしまおうということなのだろう。
「その前にさ。流れでホノカとヒョウヤも戦ってくれることになったけど、この二人がいる場所でザラさんに交代して大丈夫なのか? さすがに余波で死なれるなら連れて行けないぞ」
問われた俺は、レフバーちゃんに耳打ちでこっそり一番の懸念点を口にした。これまでザラさんが顕現した時、一度目はザラさん本人を起源に持っているからか、耐性を持っていた冥葬族が周囲にいて、二度目に至っては概ね不死みたいな連中しか周りにいなかった。そんなんで麻痺しそうだが、本来ザラさんはいるだけで周りに死を振りまく存在なのだ。普通ならヒョウヤやホノカが耐えられるとは考えにくい。
「冥王本人に攻撃の意思がないただの余波程度なら、私の方で二人を守ることができるだろうね」
「あ、そう。じゃあ頼むわ」
レフバーちゃんに対策があるらしいことに安堵する。しかし、俺がせっかく配慮して小声で話していたのに、このノンデリ黒幕ロボは普通の声量で返答しやがったため、ホノカたちに聞かれてしまった。
「ハナビさん! わたくしは昨日とは段違いに強くなりました! もう守られるだけの存在じゃありませんわ!」
「あーうん、そうだね。そうだけど、そういう話じゃなくてね……」
ホノカがレフバーちゃんの改造でどれくらい上方修正されたのか知らないが、これはそういう問題ではないのだ。一応、前にホノカには腕に触ると死ぬぞって言ってたし、その延長の話って言えば納得してくれるか? あれ、実際にこれで殺してるところは見てないだろうし、信じてくれるかな。いやホノカだし俺の言うことは多分信じるだろ。そう考えて説明をしようとした瞬間、意外な声が割って入った。
「おい、脳天気女。ハナビが見てもいない実力を計算にいれていないのは当たり前だろ。認めてほしかったら実戦で証明しろ」
「なっ……誰が脳天気ですか……! ハナビさんが庇っていなければ、あなたのような混じり者など……!」
「どうするんだ? お前一人で俺を殺せると? 実力の差も分からないくせに、よく今日まで生き残れたもんだな」
「なんですって……!」
あっという間に口論になるヒョウヤとホノカ。こいつらめっちゃ相性悪そう。
そりゃ、ホノカはヒョウヤにとってもろに復讐対象だし、ホノカは差別意識が滲み出てるし、仲良くなれる要素はないのだが、ヒョウヤだってキヌとは良い感じの距離感でやれていたのだ。少なくとも同じ場所にいても喧嘩は起こらないくらいには。そう考えると、やっぱりホノカの方に問題がある気がする。ぶっちゃけ脳天気は事実だし。
「はいはいそこまで。喧嘩は俺の指揮を離れてからにしてください。戦い始めるようなら俺は苦渋の決断でヒョウヤを刺さないといけないからね」
「……またそいつの味方か」
「ご、ごめんなさい、ハナビさん……」
実際に今、どちらの方が強いのか分からないが、もしガチの殺し合いになったら俺はホノカに味方してヒョウヤを追い出さなければならない。こんな時にそんなことはしていられないので、喧嘩は困る。諸々終わった後に俺の知らないところで殺し合う分には……まぁいいかな。
「……で、作戦だけど……この調子じゃ連携とかも無理そうだな。……レフバーちゃん」
「なにかな?」
「この二人、ぶっちゃけどこまで使えるようになってる?」
ヒョウヤとホノカは、レフバーちゃんの怪しげな処置によって祝詞使いとしての能力が上がっている。ホノカの態度から考えて、かなりのレベルアップを果たしているようだが、それがリュッケたちに通用するレベルのものなのかは疑問だ。
「リーダー以外の界喰みと一騎打ちなら、そうそう遅れを取らないスペックにはなっている。それは保証しよう。もっとも、そのスペックを活かせるかは本人次第だがね」
「それは……どうなんだ? というか、界喰みは今何人残ってるんだ?」
「二十二名だね」
「……なんか無理臭くね?」
ヒョウヤとホノカに一人ずつ受け持ってもらうとしても、残りは二十人。俺はリュッケ一人に集中したいし、そうなるとレフバーちゃんに十九人担当してもらうことになる。レフバーちゃんならやれないことなさそう……とも思うが、今日のレフバーちゃんは持っているであろう隠し球を使ってくれない省エネモードだ。あまり頼りにはできない。
「……レフバーちゃんにもリュッケ……リーダー以外の界喰みを担当してもらいたいんだが、ぶっちゃけ何人までなら担当できる?」
「守りに徹して十五名。十名以下なら、時間をかけて殲滅することもできるだろう」
「なるほど……」
うん、このままだと負けそうだな。
実のところ、俺はリュッケを説得する気でいる。というか話し合いが目的なのだ。だから、できればリュッケと一対一の状況に持ち込みたい。だが、話を聞く限り三人に界喰み二十一人を押しつけることは不可能に聞こえる。界喰みをもっと減らせればあるいは……うーむ。
「……ザラさんに頼るか」
切り札としての運用を考えていた、ザラさんへの交代。逆に、この強力なカードを一番最初に切って、界喰みの戦力を減らしにかかる。
「ザラさんに奇襲してもらって、不意打ちの冥界顕現で界喰みの数を削る。ザラさんに意識が向いたところで、レフバーちゃんが二段階目の奇襲。ザラさんの時間が切れたタイミングで、ヒョウヤとホノカも参加して、俺とリュッケが一対一の状況を作ってもらう。どうだ?」
「良いんじゃないかな。私が冥王に隠密の祝詞を使って奇襲の質を上げることもできる。上手くいけば、界喰みを半分以上削れるだろう……が、素のハナビ一人であの親機と立ち向かうのは無謀に思えるな」
「そこはもう信じてもらうしかないかなー」
実際、俺の話し合いがリュッケに通じるかなんて分からない。でも、俺は話がしたい。それが一番大事だ。
「じゃ、次はその二人。連携は無理そうだし、ヒョウヤは単騎で界喰み一人を受け持ってくれれば良い。ホノカはレフバーちゃんと組んで、上手くやってくれ」
「それは……わたくしより、この男を信頼しているということですか……?」
「そういうわけじゃない。青雷族の祝詞は生存能力が高いから、多分一人でも大丈夫だって考えだよ」
「……フン」
ヒョウヤが誇らしげに鼻を鳴らす。実際、俺も『いかづちのさえずり』の祝詞には死ぬほどお世話になっているので、その有用性は身にしみて分かっている。だが、決して『火の精の恩寵と試練』が弱いというわけではない。
「逆に、焔精族の祝詞は威力が高いから、レフバーちゃんに守られてた方が長所を活かせそうだと思ってな」
「なるほど……」
「って話だけど、レフバーちゃんあってる?」
「あぁ。良いんじゃないかな」
というわけで、作戦は決まった。朝食を終えた俺たちは決行を一時間後に決め、コンディションを整える時間を過ごす。
「……ところで、ちゃんと聞いてなかったんだけど、レフバーちゃんが女の身体を作ったりしてるの、どうやってんの?」
「まずボディを生成し、そこに複製したメモリーを刻んでいる。この私と今も拷問を受けている以前の私は、大元である『レフトオーバー』の術式を介して記憶を共有しているが、その接続が途切れれば別人として活動することになるね」
「えぇ……」
えっと……なんだ? 界喰みと似た感じで、大元に術式とやらがあって、このレフバーちゃんとあのレフトオーバーはその端末ってことだろうか。そしてその記憶は術式にバックアップもしているけれど、肉体にも刻まれていて、術式がダメになっても個体として活動することは可能……みたいな?
「ってか、メモリーを複製て……」
「その技術は人間にも使えるよ。キミも増えてみるかい?」
「いや、結構です……」
同じ顔の奴がいるなんて生前で十分なんだわ。