TS転生した上に美少女の幼馴染までついてきたぜ! 勝ったな(勝っていない) 作:鐘楼
アイツの作戦通り、《纏電》で界喰みの一人を刺し殺した俺は、同じく作戦通りに別の界喰み一人と一対一に持ち込んでいた。長身の女に姿を変えたアイツは、恐ろしい死の気配を漂わせながら親玉と戦っている。
普通なら、この場にいるだけで巻き添えを食らって死んでもおかしくないらしいが、俺と脳天気女はレフトオーバーのおかげで影響を受けずに済んでいる。あんな奴の力を借りなければこの場に立つこともできないというのは非常に腹立たしいが、それはもう呑み込んだ。
そのレフトオーバーは、脳天気女と組んで界喰み数人を相手に圧倒している。あれで本気を出してはいないというのだから、なにかの冗談だと思いたいものだ。
アイツは、俺ではレフトオーバーに敵わないからバカなことはやめておけと散々言ってきたが、今ならその意味が分かる。俺があれを倒そうと思っても、無様に殺されるだけなんだろう。
それに、脳天気女。面の良さと性別だけでアイツに気に入られ、そのことに気づいてもいない能無し。アイツさえいなければさっさと殺してやりたいくらいだが、今の脳天気女はそれも難しいと思えてしまうほどには頼もしく、焔精族の祝詞の圧倒的な火力で界喰みたちを殲滅している。あれもレフトオーバーによる細工の結果らしいが、当の脳天気女はそのことを忘れたのか自分の力であるように振る舞っている。醜悪だ。
……だが、そういう俺も一時の感情でレフトオーバーの細工を受け入れてしまった。俺は脳天気女とは違う。そう思いたいがために、与えられた力を過信するような真似はしない。
それはそれとして、事実として細工を受けてからの俺の戦闘力は凄まじいものがある。今まで使えもしなかった高度な祝詞が嘘のように使えるのだ。冷静を心がけ続けている頭で判断しても、眼前の界喰み一人相手ならば負けることはないと感じていた。
だからだろうか。余裕が生じていた俺は、自然と口を開いていた。
「……聞きたいことがある」
その言葉を聞いて、俺と対峙していた界喰みは怪訝な顔をする。当然だ、殺し合いの最中にすることではない。だが、予想に反して界喰みは皮肉な笑みを浮かべて口を開いた。
「なんだい、坊や?」
その界喰みの出で立ちは、俺より、背が伸びたアイツよりも長身で、逞しい体躯を持つ褐色肌の女だった。
「界喰みは……復讐に生きていると聞いた。アンタもそうなのか」
「なんだ、そんなことかい?」
界喰みは、まるでガキを見るような視線で俺を見下ろす。それがアイツと重なり癪に障るが、今はいい。
「もちろんその通りさ。なんなら、あたいの話でもしてやろうか?」
「……素直に話してくれるのか」
「リーダーはともかく、あたいらに勝ち目はなさそうだからねぇ」
そう言って、界喰みはアイツが戦っている方を見る。アイツが一対一に拘っていた界喰みの親玉以外に、もはや勝ち目はない。そのことは、俺たちの共通見解らしい。
もっとも、彼女たちはここで倒したとしても、死ぬわけではないらしい。レフトオーバーの策によって抑えられているが、本来は無限に復活できるのがこいつらの厄介な部分だそうだ。眼前の界喰みの落ち着きようも、それを見越してのことだろう。
「あたいも、界喰みになる前は人間だったさ。リオサって言ってね、これでもある国の騎士をやっていた」
「キシ……?」
「ありゃ、伝わらないかい? ま、この世界は随分特殊みたいだからねぇ」
そうして、界喰みは騎士というものについて気持ち悪いくらい丁寧に教えてくれた。国という、村よりも数段大きな共同体に属して、武力として外敵と戦う役割を担う者のことを指すらしい。他の世界での、巫女や託士に相当する存在……という認識だろうか。
「界喰みはみんなで一つ。一人の憎しみは全員の憎しみ。だけど、界喰みになる前はそれぞれに個として世界を恨んだ過去がある。あたいだってそうだった」
人として世界を憎んだ者が、界喰みに取り込まれる。俺は、もし焔精族を恨む自分に手を差し伸べられていたのならどうしたのかと、意味のない想像をした。
「あたいはね、界喰みの中じゃかなりマシな人生を送ってきたさ。大切な騎士団の仲間もいたしね……ま、全部奪われたからここにいるんだけど」
「……」
そういうものだろう。大切だったものを奪われるから復讐なのだ。俺だって、家族を奪われたから焔精族を憎んだのだから。
「ある時、隣国と戦争になった。あたいらも当然それに加わってね。国……というよりは、民のために戦ったもんさ。なのに、国は何の相談もせずに和平を結んで挙げ句の果てにあたいらを売りやがった」
かつて騎士リオサだった界喰みの顔が、徐々に歪んでいく。
「敵地で仲間の半分が処刑されて、なんとか国に逃げ帰ったあたいらを待っていたのは、裏切り者の反逆者の汚名だった。守ってきたはずの民に捕らえられて、憂さ晴らしの対象として玩具みたいに遊ばれて……最後に残ったのはあたいだけだった」
「っ……」
「もう、すべてが憎かった。攻めてきた隣国も、あたいらを売った国の奴らも、誰の犠牲で生きていられるのか忘れている民も、全部だ。そこまで来てやっと、声が聞こえたのさ。あたいの憎しみに共感して、力をくれる救いの声さ。その声を受け入れて、あたいは界喰みになった」
壮絶だった。語られる女の人生は、俺の想像を絶する悲劇でしかなかった。俺はたしかに失ったが、裏切られてはいなかったから、その気持ちは想像することしかできないし、彼女が生半可な同情を良しとしないこともよく分かった。足下がふらつく。ますます、俺がこの場に立っている正当性が失われていくような気がした。
「それからは、夢のような復讐の時間だ。まず、恩知らずの国民を同じ目に遭わせてやった。界喰みの仲間を喚んでね、街を一つずつ回った。先に子供から手を出すのがコツでね、生き残るために親を罵倒するよう仕込むんだ。全部大人のせいでこうなってるんだってね。ま、それは事実だしね」
「な……!」
「次は貴族を引っ張り出した。どいつもこいつも自分だけ逃げようとするから、足を切り落として治療するんだ。そうやって晒しあげると、不思議と民の恨みがこいつらに向くんだ。頼んでもいないのにリンチして、あたいに報告してくるんだ。媚びを売ってるつもりだったのかしらないけど、最初から全員殺すのは決まってるのにね」
俺は絶句した。俺は、焔精族に彼女のようなことをするだろうか。子供だろうと、構わず殺すかもしれない。だがそれは、ただ殺すだけだ。彼女のように、悪辣な手段に利用することなど考えもしなかった。
いや……なぜだ? なんでただ殺すだけなんだ? 俺は復讐の対象に情けをかけているのか? 相手を徹底的に貶めるのなら、彼女のやり方の方が正しいのではないか。復讐者として正しいのは、あちらなのではないか。
理屈で考えると、わけが分からなくなりそうだった。ただ、俺の感情が彼女の行いを忌避している。それだけは確かだ。
「それからはね、人間がいなくなるまで世界を回った。自分の国と隣国は徹底的にやったけど、他はまぁ適度に楽しんで滅ぼした。最後は自分の肉体を捨てて、あたいも界喰みを構成する大勢の内の一人になった。めでたしめでたし、ってね」
「……滅ぼした? あんたの復讐対象は、自分の国と隣国だけじゃなかったのか……?」
世界を滅ぼしたと、なんでもないことのように彼女は言った。それはおかしいと思った。彼女の話から考えると、隣国と、自国の民と、仲間を売った国の上層部。それらを消せば、復讐は終わりのはずだ。
「いや、よく考えてみなよ坊や。無関係みたいな顔をしている奴らも、あたいを助けなかったんだから同罪だろ? っていうか、そいつらだってあたいを苦しめる世界を構成してたんだ。殺しておかなきゃダメだろ」
「は……?」
めちゃくちゃだった。異論を唱えようと思ったが、女の眼を見て、理解してしまった。
きっと、かつての騎士リオサであれば、俺と同じように今の彼女の話をおかしいと思ったはずだ。けれど、無理なのだ。界喰みとはそういう存在で、善悪の箍が外れ、正当性なんて気にせず永遠に治まらない怒りのために行動するしかないのだから。
グラついていた足場が、定まる。正面から、女を見据える。覚悟が決まった。
「アンタたちは……止まるべきだった」
「あん?」
「もう自分の復讐は終わっているんだ。その時に止まれなかったから、こうして終わりどころを見失っている」
言いながら、構える。それを察知したのか、女も得物を構えた。
「それなら……終わらせてやる、俺たちがッ! 《いかづちのさえずり》《雲雀の神鳴》《
今の俺の最強の技を以て、終わりなき復讐を止める。きっとハナビも、そう思っているはずだから。
※尚