TS転生した上に美少女の幼馴染までついてきたぜ! 勝ったな(勝っていない) 作:鐘楼
「ハナビちゃん……? なんで? なんでホノカなんかを庇うの……?」
俺がホノカを庇ったこと、俺を攻撃してしまったということ。それらにひどく動揺したキヌが、よろよろと近づいてくる。
「っ! 来るな!」
だが、それを許すわけにはいかない。ついさっき冥腕を解放してしまった俺に近づいては、キヌが命を落としかねない。
「ぃゃ……やだ……なんで……? なんで私はダメなの……? ハナビちゃん……」
俺に拒絶されたキヌは後ずさり、やがて泣き出してしまった。今すぐに、キヌを抱きしめなければいけない。もう一度必死で冥腕状態の解除を試みるが、それだけではまだ足りない。
「レフトオーバー! 封遮布! 予備のあるか!?」
「あるにはあるね」
「寄越せ! 早く!」
「まぁ、いいだろう」
謎空間から布を取り出したレフバーちゃんは、全く急いでいない足取りでこちらへ向かってくる。冥腕解放すると、皮膚が灼けるように無くなっていくわけだが、元に戻るときは灼けた皮膚が再生していく。普段は気にならないが、これがまたもどかしいスピードなのだ。
「私、ハナビちゃんに捨てられちゃったんだ……なんで……なんでこんなことになっちゃったのかな……私、ずっとハナビちゃんと一緒にいたかっただけなのに……」
そうこうしている間にも、キヌの絶望は加速していく。まだ、冥腕の解除は半分ほどしか済んでいない。
「おい! 落ち着け根暗! ハナビはお前のためを思って……!」
「ヒョウヤくん……? あはは、ヒョウヤくんまで
「聞け! あの状態のハナビに近づいたら、お前の命が!」
「うるさい!」
ヒョウヤが極めて真っ当な説得を試みるが、それがキヌの心に届くことはなかった。おそらくは、俺が同じことを言っても無駄だろう。ザラさんの腕が危ないことをなんとか分かってもらえたとしても、なぜホノカは無事なのかという疑問を解決できない。言い訳だと一蹴されて終わりだろう。やはり、行動で示さなければならない。
「もう、いい……もういいよ、こんな世界……」
「……今!」
赤い。界喰みたちの身体を構成していた、あの赤い液体。
それが、ついノーマークにしてしまっていたリュッケから、キヌに向かって放たれた。
「……まさか!?」
リュッケは……キヌを界喰みに取り込む気か!? たしかにキヌは、正直言って界喰みの適性が高いように思える。そしてついに今、キヌは世界に絶望した。その絶望は、怒りや恨みに容易に結びつくだろう。
リュッケたち界喰みが復活できないのは、この世界に生身の生きた仲間がいないからだ。今回も、界喰みになった創獣族のニコちゃんが生きている間のリュッケたちは、無限に復活が可能だった。つまり、今キヌに界喰みになられたら、リュッケ以外の界喰みも全員が復活する。もしそうなれば、もちろんこの世界は終わりだ。レフトオーバーは早々に見切りをつけて離脱、この世界を凍結させるだろう。
「これ、は……なに……」
界喰み液(仮)をかけられたキヌは、混乱しているようだった。リュッケたちの想いや記憶を流し込まれているのだろうか。
「う、あぁぁぁぁぁ……!」
「……アタシと来なさい、キヌ!」
怒りが流し込まれ、哀しみが反転する。憎しみが流し込まれ、怒りが復讐へと傾く。界喰みたちの記憶が流し込まれ、そして──
ぎょろり。
キヌの首が不気味に回り、定まらなかった視点がハッキリとリュッケを捉えた。
「