TS転生した上に美少女の幼馴染までついてきたぜ! 勝ったな(勝っていない) 作:鐘楼
「ここか?」
そうレフバーちゃんに尋ねると、淡々とした答えが返ってきた。
「あぁ。そこを通れば、私が彼女を封じた場所へと至れるだろう」
この先に、リュッケがいる。しかも、その場所にいるリュッケは力を扱うことができないという。なんだよ戦う必要なかったんじゃんと言いたくなる(キヌやこの世界の知り合いのためには結局戦わなければならなかったのだが)都合の良さだ。
「…………」
「で、なんでまだいんの?」
「……俺の、勝手だろ」
なぜか未だについてきている妙にやつれたヒョウヤが気になって話しかけてみると、元気のない声色で精一杯の反発が返ってきた。
……あの後、レフバーちゃんと協力してキヌの問題を解決した俺たちは、当然解散ということになった。
ひとまず、キヌに殺されかけて放心したまま壊れちゃったホノカを焔精族の里まで送り届け、一旦問題を清算した俺は、改めてレフバーちゃんに相談した。もっかいリュッケと話すチャンスはないか、と。やっぱ厳しいかなーとか思っていると、なんとレフバーちゃんはあっさりあると返してきた。
なんで言わなかったのか問うと、聞かれなかったからだそうだ。こいつ。
詳細を尋ねると、レフバーちゃんはまずは以前聞いた話の復習から話してくれた。起源書によって異世界の存在の力を掠め取ることに成功したレフトオーバーは、試しに宿敵である界喰みの力を直接掠め取ろうとした。ところがこれが失敗で、レフトオーバーは界喰みの力と性質をコントロールすることができなかった。レフトオーバーはすぐに界喰みの利用という路線を捨てたが、半端に掠め取った界喰みの力に自我が芽生えて残ってしまった。迂闊に解放することもできなかったレフトオーバーは、記憶と名前を奪ってそれを封印した。
要するに、その封印された自我が俺を助けてくれていたリュッケなのだが、実のところリュッケの封印は解かれたわけではない。界喰みと接触して俺から離脱して実体化したように見えたリュッケだったが、あれは交信する対象を俺から界喰みに切り替えただけで、実体化していたのも遠隔操作みたいなものらしいのだ。
つまり、リュッケは……夢の中で俺と話していた、あの本棚と望遠鏡のある部屋に未だ封じられたまま。そこに行けば、俺は安全にリュッケと話せる。そういう話だ。
「じゃ、行ってくるわ」
「まぁ、期待しないで待っているよ」
「……」
いつも通りのレフバーちゃんと、魂の抜けたような瞳で俺を見るヒョウヤに見送られながら、俺はいかにも異次元に繋がってますみたいなゲートに足を踏み入れた。
―――――――――――――
「……何しに来たの」
足を踏み入れたその先は、よく見慣れたあの景色そのままだった。本棚、地球儀らしきもの、望遠鏡。リュッケと夢で話す時の俺は、ここに招かれていたのか、ただのリュッケのイメージだったのか。
「……ここは、望界書苑。アイツが、他の世界を観測するために使っていた場所よ」
田舎者みたくキョロキョロしていた俺を見かねたのか、リュッケがそう説明してくれた。やさしい。
「アイツって、レフトオーバーか?」
「えぇ。アイツはここに保管した起源書を元に、そこの望遠鏡から他の世界を覗いていたみたい」
「はぇ~」
地球儀らしきものがなぜ地球儀ではなくらしきものに見えていたのかといえば、その地理が明らかに見慣れた地球のものではなかったからだ。となると、あれはどこかしらの異世界か。
「で、何の用?」
「またまた~、分かってるくせに」
冷たい瞳で応対しようと努めていたリュッケが、俺の返しで明らかにイラッとしていた。戦う手段がないからなのか、ここにいるリュッケは戦ったときの攻撃的な側面を全く感じない、俺のよく知るリュッケだった。
「……その話なら、断ったでしょ。アタシは、アンタと一緒には行けないの」
俺が手を差し伸べると、リュッケは俺の手を視界から外すように目を背け、拒絶の意を示した。けれども、俺はそんな弱々しい拒絶で引き下がる気はない。
「行けないとかそういうんじゃなくて、行きたいかどうか聞いてるんだけど」
「……」
リュッケと戦う前、俺と一緒に来て欲しいと言ったとき。リュッケはそれも良いかもねみたいなことを言っていた。つまり、事情に縛られているだけで、割と脈はあるのだ。
「とりあえず、それだけはっきり聞かせて欲しい。な、リュッケ」
俺はゆっくりとリュッケに近づいて、彼女の肩に手を添える。優しく、けれども強い目線でリュッケの顔を覗き込むと、リュッケの表情が苦しげに歪んだ。
「本当は……行きたいわよ。ずっと恨んで怒っているのは……疲れるの。でも、怒りを忘れることはできない。正気に戻ってしまったら、積み上げてきた罪に気づいてしまうから。そうならない為に、アタシたちはお互いを縛ってきた。でもアタシはアンタといたせいで……正気でいる時間が長すぎたみたい」
記憶を奪われ、界喰みと切り離されたリュッケは、怒りというものを忘れていた。その時間が、リュッケに罪の意識というものを芽生えさせてしまった。たしかに、キレている時は誰しもやりすぎてしまうものだ。落ち着いたあとでその時の自分を客観視すると目も当てられない……というのも、あるあるだ。怒りに狂っていた時間が長いほど、そのギャップは大きいものになるだろう。
「だったら、俺と来れば良いんじゃないのか」
「そんなの……みんなが許さないわよ。……ほら」
リュッケが視線を動かす。その方向を追ってみると、いつの間にやら周囲が暗くなり、闇から無数の手がリュッケを掴もうとしていた。
『裏切るの?』『あなたが始めたのに』『自分だけ楽になるのか』『楽しさなんていらない』『私たちは悪くなんてない』『許さない』『今更そんなの通用しない』『幸せを見せないで』
この空間の特性なのか、界喰みの特性なのか。あれは、十中八九界喰みたちだろう。界喰みは繋がっている。今は怒りが優位だが、どんな感情も流れ込んで、共鳴して増幅する。リュッケが怒り以外の感情を持ち込めば、彼女たちに何が起こるか分からない。だから、リュッケを止めようとしているのだろう。
「……分かった? だから、アタシは……」
「ほいっと」
俯くリュッケを無視して、俺は伸ばされた手のうちなんとなく綺麗だなーと思った手を握った。
「……え、はぁ!?」
「キミ、おてて綺麗だねぇ。ね、出てきて俺とお茶してよ」
俺がそう誘ってみると、握った手は固まり、やがて汗を流して引っ込んでしまった。
「じゃあそっちのキミで!」
めげずに別の娘の手を取ると、やっぱり引っ込んでしまう。なら今度は……! と俺が界喰みたちの手を見据えると、全員が手を引っ込めてしまった。
「……なぁ、みんな照れ屋なのか?」
「引いてんのよ!」
みんなお茶してくれないのでリュッケにクレームを入れると、逆に叱られてしまった。
「どういうつもり!? 手当たり次第みんなに声かけて!」
「いや、なんかリュッケ一人楽しい思いするのはちょっと、みたいな話だったじゃん? じゃあ界喰みみんなが俺のこと好きになれば問題なくねって思って」
「バカ!? いやバカなのは知ってるけど! 違う! そうじゃなくて! まず、アタシはアンタのこと好きではないからね!?」
「はは、またまたー」
「照れ隠しじゃない!」
いや、リュッケは絶対俺のこと大好きでしょ。さすがにそこ否定すんのは無理あるって。照れんなって。
「んで、どうよ? 反対意見の子たちは引っ込んじゃったけど」
「あ……」
経緯はなんであれ、リュッケを止めようとする子たちは静まりかえっている。今なら、リュッケも首を縦に振れるかもしれない。
「た、たしかに……ちょっとみんなの反対の声が弱まってる……! 嘘!? イロハ、アンタ手を握られただけよね!? いや、『受け入れてくれた』って、そうかもしれないけど! ハナビはロクデナシよ!? 『それでもいい』!? よくないわよ! なんでそんなにチョロいの!? あ、やめなさい! 好意をこっちに流すな!」
こちらから見ると独り言だが、あの手が出てきていなくてもリュッケたちは会話ができるらしい。目の前でとても愉快な言い争いが繰り広げられている気がする。
「要するに、さ。リュッケだけ引き抜こうとしているから変な話になるんだよな? 訂正するよ。界喰み全員俺と来い」
「っ……!」
リュッケの瞳が揺れる。逡巡、羞恥、葛藤。それらが数瞬のうちによぎり、やがて観念したかのように、リュッケは俺に向かって手を伸ばす。
「待って」
だが。
「忘れたの!? その人は……アイツと……レフトオーバーと手を組んだんだよ!?」
闇の中から現れた少女が、リュッケの動きを止めた。
「ニコ……」
この世界の界喰み、創獣族のニコちゃん。
唯一、間接的に俺と因縁がある界喰みが、俺を睨みつけていた。
※一人恨み出したら止まらないのと同じように一人ちょろいと全員巻き添えをくらう